天使ちゃんな使い魔   作:七色ガラス

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お待たせしました。今回は今までより、ちょっと短い感じです。

※2016/2/14、以下を修正。
・ルイズの夢での距離単位を数百メイルに修正。
・末尾にて、ルイズがタクト類をしまう描写を追加。

※2016/7/23、誤字を修正。


第3話 不可思議な夢

 月明かり降り注ぐ夜。

 ルイズはいつの間にか見知らぬ場所に立っていた。

(あれ? ここはどこ? わたし、なんでこんな所にいるのよ?)

 無意識に周囲を見回す。

 自分の他には誰もいない。

 辺りは草の生えていない平坦な地面が広がり、後ろ側には視界を覆い尽くす広大な森林郡。そして正面の十何メイル先、段々とした丘の上には四角い建造物がいくつもあった。遠目から見てもその大きさは巨大であるのがうかがえた。

「お城かしら? それにしては見たことない様式だけど……」

 ふと月明かりが陰った。おそらく雲が被ったのだろう。

 ルイズが上を見上げると、思ったとおり月が雲に隠れていた。

 しかし彼女はその星空に、どこか違和感を感じた。

 具体的にどこがと聞かれたらうまく答えられず困るが、あえて言うなら、星の位置がなんだか見慣れたものと違うような気がした。あくまで"気がする"程度のレベルだが。

 そうして眉をひそめて夜空を眺めていると、雲が流れて月が顔を出した。

「え!?」

 ルイズは驚愕し、我が目を疑った。

 自分がよく知る夜空には赤と青の二つの月が浮かんでいる。

 しかし今見ている空には、白く輝く月が一つあるだけであった。

「な、なんで月がひとつしかないのよ!?」

 ルイズは激しく困惑した。心に言いようのない不安が押し寄せてくる。訳の分からぬ場所でたった一人。孤独からくる恐怖で思わず両手で体を抱きしめる。

(ど、どうしたらいいの!?)

 周りは森という中で、あの変わった建物がひときわ目立っていた。

(あそこに行けばなにか分かるかもしれないわ!)

 確信なんてないが、わずかな望みをかけて、ルイズは建物を目指して駆け出した。 

 走ること約数分、建物がある丘の近辺まで来た。

 そこでルイズは一つの人影を見つけた。

(人だわ!)

 自分以外の人間を見つけたことに喜び、進路をそっちへと変える。

 そして姿形を判別できるほど近くまで来たところで、その人物が見覚えのある顔をしているのに気づいた。

 それは使い魔として召喚した少女だった。名前は確か、タチバナカナデといったか。

 ルイズはかなでの下まで走り寄った。

「ちょっとあんた!」

 ルイズは安堵しながら話しかけた。

 しかしかなではまったくの無反応だった。

「なによその態度! ご主人様が話しかけてるのに無視ってどいういうつもりよ!」

 腹を立てたルイズは怒鳴るが、相手ははまるで意に返さない。ルイズが本気でキレそうになったところで、

「あの!」

 と声がした。

 かなでがそちらを向き、ルイズもつられて同じ方を見る。

 建物のある方から、1人の男が歩いてきた。

 背はルイズ達よりも頭1つくらい高い。年は17、8歳くらいか。髪はオレンジ色で、服装は上も下も黒一色という身なりである。

「あんた誰よ?」

 ルイズは男に問いかけた。しかし男はルイズを無視した。というより気づいていないようだった。

 男はかなでの近くまで来ると、親指で後ろの、建物の方を指さした。

「えーと、あんた銃で狙われてたぞ。あんたが天使だー、とかなんとか言って」

 男の言葉にかなでは首を傾げた。

「あたしは天使なんかじゃないわ」

「だよなー……じゃあ……」

 二人はルイズのことなど存在しないかのように会話し始めた。

「………なんなのよ、これ」

 ルイズは疲れたように呟いた。正直訳が分からない。

 そんな彼女をよそに話は進む。

「……くそ! 自分が誰かも分からないし……はぁ、病院にでも行くよ」

 男が頭を抱え、(きびす)を返して歩き出す。

 それをかなでの言葉が止めた。

「病院なんてないわよ」

「え?」

 男は立ち止まって振り返った。

「どうして?」

「誰も病まないから」

「病まないって?」

「みんな死んでるもの」

 その言葉に、男は言葉を失い、ルイズは怪訝(けげん)そうにかなでを見た。

(………みんな死んでるって……なに言ってんのよ?)

 ルイズが困惑していると、男が怒鳴り散らした。

「……ああ、分かった。お前もグルなんだな! 俺を(だま)そうとしてるんだろ。この記憶喪失もお前らの仕業か!」

「記憶喪失はよくあることよ。事故死とかだったら頭もやられるから」

「じゃあ証明してくれよ! 俺は死んでるから、もう死なないって!」

 男が声を荒らげてそう言い放つと、かなでが一歩前に出た。男は一瞬気後れする。

 続いてかなでの口が小さく動いた。

「ハンドソニック」

 次の瞬間、かなでの右手の袖口から、手の甲を覆うように、光とともに両刃の剣が出現した。

「「え?」」

 突然のことに、ルイズと男は虚を突かれたような声を出した。

 状況が理解できずに呆然と立ち尽くしている男に向かって、かなでは一気に間合いを詰め、手から伸びる刃で相手の胸を(つらぬ)いた。

「あ……」

 ルイズの口から乾いた声が漏れた。

 体を一突きにされた男は一瞬で絶命したのか、悲鳴も反応もなにもない。顔は呆けた表情のまま硬直していた。

 かなでが剣を引き抜くと、男はその場に崩れ落ちた。

 ルイズはただ呆然とその光景を見ているしかできなかった。突然の惨劇に頭が追いつかない。

 男の体から血液が大量に流れ出し、血だまりを作っていく。それが自分の足元を濡らしたので、ルイズは反射的に後ろに下がる。

 その時、偶然にも倒れている男と目が合った。

 光が消えた死人の目。

 この男は死んだ。いとも容易(たやす)く、無慈悲に殺されたのだ。

 脳がそれを理解した瞬間、ルイズの口から悲鳴が飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあああああああああああああああああああああ!!!!???」

 絶叫(ぜっきょう)をあげ、ルイズはベッドから壮大(そうだい)に飛び起きた。

 呼吸が激しい。

 心臓がドクドクと鳴ってうるさい。

 ルイズは荒い息のまま辺りを見渡した。

 そこは自分の部屋だった。

「………夢?」

 ルイズは大きく息を吸い、ゆっくり吐き出した。

「なんて夢よ……」

 憂鬱(ゆううつ)な気分でルイズはベッドから降りた。そして着替えを出そうと歩き出した際に、何かにつまづいた。

「きゃあ!」

 悲鳴とともに床に転倒し、顔面を激しく強打した。

「いった~~」

 体を起こしてアヒル座りの状態になり、涙目で鼻を押さえる。

「なんなのよ~、もー?」

 そのままルイズは首を回して、転んだ原因を見た。

 ベッド付近の藁束の上でかなでが寝ていた。

 彼女の姿を見たとたん、先ほどの夢の内容がフラッシュバックした。

 月が一つだけの不気味な夜空。男を刺し殺すかなで。

 広がる血だまりと虚ろな男の目。

「ひぃ!?」

 ルイズは飛び上がって後ずさりした。

(ななななぁ、なんでこいつがいるのよ!?)

 夢の内容と現実が混濁(こんだく)し、錯乱する。

 だが数秒後、すぐに頭が正常な判断をくだした。

(そ、そうだわ……昨日召喚したんだった………)

 ルイズは深呼吸して心を落ち着かせた。それからかなでを見下ろした後、ゆっくりと彼女に近づいた。

 しゃがんでその顔を覗き込む。

 あどけない寝顔だ。とても人を殺すような娘には見えない。

 ふと夢の中でかなでが剣を出していたのが気になった。光と共に現れたが、アレは腕に仕込んでいたのではないだろうか?

 ルイズはかなでの片腕を取って、袖を()くる。

 何もなかった。

 もう片方も同じようにしてみたが、やはり何もなかった。

(………そうよね。あんなの、ただの夢よ……自分の使い魔を怖がるなんて、なにやってんのよ、わたし……)

 自分の不甲斐(ふがい)なさに呆れてため息が出た。

 そこで昨夜かなでに下した命令を思い出す。彼女には朝自分を起こすように言ったはずだ。

(ご主人様を放っておいて、いつまで寝てんのよこの娘!)

 ルイズは目尻を釣り上げると、かなでの上半身を起こし、両肩を掴んでガクガクと激しく前後に揺さぶった。

「ちょっと! 起きなさいよ!!」

「………ん?」

 かなではだるそうに(まぶた)をこすると、ゆっくりと目を開けた。

「………あなたは誰?」

「ルイズよ! あんたのご主人様! 朝起こしなさいって言ったでしょ、なにぐっすり寝てんのよ!!」

 ルイズが大声で怒鳴ると、かなでは眠気眼(ねむけまなこ)で辺りを見渡した。そうすることで、ようやく現状を理解したのか、目がはっきりとしてきた。

「寝坊しちゃったのね。ごめんなさい」

「まったくよ!」

 ルイズはかなでを叱ると、立ち上がってベッドの近くに戻った。

(初日から失態だなんて使い魔としての自覚が足りてないんじゃないの! これは厳しく(しつ)ける必要があるわね……)

 ルイズはネグリジェを脱ぎながらどうするか考える。しかし今は着替えだ。

「服、それと下着」

 素っ裸になったルイズの言葉に、かなでは分からないというように首を傾げた。その様にルイズは、昨日のかなでの要領の悪さを思い出す。一から十まで言わなければならないのかと思うとため息が出た。

「着替えるから服を持ってきなさい」

「使い魔の仕事?」

「そうよ、早くしなさい」

 かなでは頷くと、椅子にかかった制服を手に取り、ルイズの下に持ってきた。

「そこに置いておきなさい」

 ベッドの上、ルイズの隣を指定され、言われたとおりそこに制服を置いた。

「下着。クローゼットの一番下の引き出しに入ってる」

 次の命令を聞いたかなではクローゼットの前に来ると、ルイズに言われた引き出しを開けた。いろいろあったが、とりあえず近くにあったの白のパンツを取り出し、ルイズの所に戻って手渡す。

 ルイズは下着を身につけると、威厳を込めて次の命令を口にする。

「服、着せて」

「自分で着替えられないの?」

「そうじゃなくて、貴族は従者がいる時は自分で服なんて着ないのよ」

「そう」

 かなではブラウスを手に取ると、慣れないながらもルイズに着せていった。

 その調子で、プリーツスカート、紺色のニーソックス等を身につけさせていき、最後にマントをはおらせる。身支度が整うと、ルイズは化粧机の上にある愛用のタクト型の杖と、ルーンのスケッチを手に取る。

「それじゃ朝食をとりにいくわ。ついてきなさい」

「分かったわ」

 ルイズはかなでを連れて部屋から出た。


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