いよいよフーケのゴーレムと正面切って戦います。
ちなみに今回のかなでの服装ですが言うまでもなく自前のブレザー制服です。今後も服については本文で一応書いていきますが、とくに記載がない場合はブレザーだと思ってください。
それではどうぞ。
「ここは……」
気づくとルイズはどこか大きな建物の裏にいた。自分はさっきまで馬車に乗っていたはずだ。
一瞬疑問に思うが、今までの経験からすぐに答えを出した。
これは夢の中だ。これまで何度か見てきた、かなでの過去の記憶の世界だ。
「とすると、近くにカナデがいるはず……」
どこにいるのだろうと辺りを探そうとしたところで、後ろから声がした。
「悪いな、かなで。手伝ってもらって」
「いいわ。あたしもあなたに相談したいことがあったから」
振り向くと、かなでとオレンジ髪の男――
すぐさま近くへと駆け寄る。
見ると、二人は台車に大きな箱を乗せてなにかを運んでいた。気になって中身を覗いてみると、そこには音無らが使う武器が大量に入っていた。何度も夢でかなでと戦線を名乗る者たちとの戦いを見続けてきたルイズにとって、もはや見慣れたものばかりであった。
弾丸のすばやい装填や連射が可能な銃。
肩に担ぎ、爆発する弾を撃ちだす
なんの意味があるのか、使うときにピンを抜いてから投げる、パイナップルを手のひらサイズに小さくしたような形の爆弾、などなど。
細かい違いは種類によってあれど、おおまかにはそのように分類されるものが箱いっぱいに詰めこまれていた。
「ゆりから、他のメンバー連れてなんかの作戦やるからって、いきなり武器の
音無がぼやくように呟くと、苦笑しながら続けた。
「まあ、他のやつらにかなでとこうしているところを見られる心配がないのはいいけどな」
「そうね。あたしは今、ハーモニクスに負けて、あなたたちと再び対立しているって設定だから」
それを聞いてルイズは、以前何回かに分けて見た夢を思い出した。
ずっと争い続けてきたかなでと戦線だったが、あるとき、ふとしたことから和解。魚釣りや炊き出しなどして楽しくやっていたが、その矢先、かつてかなでから聞いたハーモニクスの暴走がおきた。
かなでは襲いかかってきた分身こと赤目と相討ちとなった。
それからの経緯は不明だが、一瞬にして場面が切り替わり、洞窟のような場所でかなでは囚われていた。
音無が助けに現れ、なんらかの策で赤目たちを消そうとしたが、逆に赤目たちはかなで本体を乗っ取ろうとした。一時は危うい状態のようだったが、どうにか何事もなくすんだ。
その後は、医務室なのか清潔そうな部屋のベッドの上で身を起こしているかなでが、その横で椅子に座る音無と話していた。
彼は失っていた過去の記憶が戻ったこと。自分が本当は満足した人生を送っていたこと。仲間たちにも自分のように報われた気持ちになってほしいことを語った。
同じ目的を持った二人はみんなの心残りを解消するため情報を集めようと考え、そのあいだに戦線の目を引き付ける役目として、音無はかなでに
そこまでが最後に夢で見た内容だった。
「それで、かなでの相談したいことってなんだ?」
台車を押しながら音無が尋ねる。
「戦線の目を引きつけるため、あたしが冷酷な天使を演じることになったけど、具体的にどうすればいいのかわからなくて……」
「ずっとあいつらと戦ってきたように、無表情で淡々としてりゃいいんじゃないか? 心がないっていうか、無感情みたいな」
「あたしって無感情だったの?」
「いや、今さらそこを聞かれても……」
「そう? そうね、変な話だったわ」
ルイズは「まったくもってそうよ」と一人同意した。まさかかなで自身今まで自分のことを感情が表にでるタイプだとでも思っていたのだろうか?
「でもそうだな。目に見えて悪い天使だってわかりやすいのがいいかもな……」
音無は考え込むようにしばし黙った。
「そうだ! 新しいデザインのハンドソニックを作るのはどうだ?」
「例えば?」
「冷酷な天使なんだから、禍々しいのがいいな。色も黒とか紫とか毒々しくて、カギヅメとかそんな感じにしてさ」
ナイスアイデアとでもいうように嬉々として語る内容に、ルイズの頭に思い当たるものが浮かんだ。
ハンドソニック・バージョン5。
「あれ考えたのはあんたか!!」
ルイズは思わずツッコミを入れた。
だが相手は記憶の中の幻。音無とかなではルイズをスルーして去っていった。
「……イズ、…ルイズ、ルイズ」
「……ほえ?」
自分を呼ぶ声と体をゆすられる感覚に、ルイズの意識はゆるやかに目覚めた。
「ルイズ、目的地に着いたわ」
「……え? そう」
かなでに言われて周りを見渡すと、フーケが潜んでいるという森が見えてきた。
「ようやくお目覚め? しっかりしなさいルイズ」
正面を向くとキュルケが呆れたように笑っていた。かあっと体が熱くなる。
「な、なによキュルケ! あんただって寝てたじゃない!」
「わたしはけっこう前から起きていたわ。何度起こしてもなかなか起きなかった誰かさんと違ってね」
「それってわたしのこと!?」
「あら、自覚があるようでなによりだわ」
「もうすぐ敵地よ。気を引き締めて」
「ぐぬぬぅ……」
「キュルケもルイズを怒らせないで」
「はいはい」
ルイズは不満げに歯をくいしばり、キュルケは肩をすくめた。
○
キュルケは陰湿な気分を変えようと、フーケこと正体を隠しているロングビルに話しかけた。
「ミス・ロングビル。
「よいのです。わたくしは貴族の名をなくした者ですから」
その経緯を思い出すと今でも怒りが湧き出してくるが、顔に出すことは絶対にしない。
「あら、どんな経緯があるのか興味ありますわ」
キュルケが
言いたくないというように、にっこりと無言の笑顔で返すが、内心では『黙ってろ』と言ってやりたい気持ちだった。
しかしキュルケはそんなもので引き下がらない。
「いいじゃない。お聞かせ願いたいわ」
「やめないよツェルプストー。失礼よ」
ルイズが眉を吊り上げて注意する。
キュルケは不満気に口を尖らせる。
「なによ、ヒマだからちょっとお喋りしようと思っただけじゃない」
「聞かれたくないことを無理やり聞き出そうとするなって言ってるの。本当にゲルマニアの人間は礼儀ってものを知らないんだから」
「言ってくれるじゃない?」
「なによ」
顔をつきあわせて口喧嘩を始める二人。
そこへかなでが割って入り両者を力ずくで引き離す。
「喧嘩はやめて。どこに敵が潜んでいるのかわからないんだから静かにしたほうがいいわ」
かなでの指摘に二人は不満ながら口論をやめた。
「ところでルイズ。ちゃんと任務は理解してるわよね」
キュルケは出発時のことを思い出す。馬車に乗り込む前、オスマンは彼女らが生徒ということもあって、身の安全を優先すること。フーケは必ずしも捕まえる必要はなく、破壊の杖を奪還するだけでよいことを告げた。
「もちろんよ。フーケを捕まえて、破壊の杖を取り戻すんでしょ」
胸を張って答えたルイズだったが、キュルケは軽く呆れ混じりに返した。
「学院長の言葉を聞いてなかったの? 杖の奪還が優先よ。そもそも捕まえるって、あなたどうするつもりよ。相手はスクエアクラスなのよ?」
「そんなのわたしの魔法でなんとかしてみせるわ」
「魔法? 誰が? 笑わせないで。ゼロのあなたができるわけないでしょ」
「なんですって!」
声を荒げて再び喧嘩を始めようとする両者。
だが突然、それぞれの鼻先に剣の切っ先が向けられた。いきなりのことで二人とも「ヒッ!」と小さな悲鳴をあげてのけぞった。
「……いい加減にして。敵地だってこと、さっきも言ったじゃない」
かなでが両腕を交差させてハンドソニックをルイズとキュルケに突きつけて黙らせた。顔はいつもの無表情で声も淡々としていたが、おそらくは怒っているだろう。かなでだって三度目ともなれば腹を立てる。
「な、なにすんのよカナデッ!?」
おっかなびっくりなルイズ。
「ちょっとタバサ、助けてよ〜」
キュルケは親友に助けを求めるが、
「彼女が、正しい」
とバッサリ拒否。
ルイズとキュルケはしぶしぶといった具合に黙りこんだ。
ロングビルはそれを横目で眺めながら、自分もオスマンのセクハラにはあれくらいすればよかったかと思った。
○
途中、小道を進むため一行は馬車から降りた。
ロングビルの先導でしばらく歩いていくと、突如開けた場所に出た。森の中の空き地といった具合で、広さはざっと魔法学院の中庭程度。
「わたくしが聞いた情報だと、あの中に入っていったとのことです」
ロングビルは広場の真ん中にポツリと建てられた小屋を指差す。五人は近くの茂みに身を隠しながらその小屋を見つめていた。
「それで、どうするの?」
キュルケが神妙な顔で言うと、タバサが正座して地面に図を書きながら作戦を説明しだした。他の者たちも
「まずは偵察兼囮が中の様子を確認。もしフーケがいれば挑発し外におびきだす。そこを魔法で一気に攻撃。いなかった場合はすみやかに破壊の杖を捜索。見つけしだいすぐさま帰還する」
いい作戦だ。全員が同意し、さらに詳細を決めていく。
「それで、偵察兼囮って、誰がやるの?」
ルイズが尋ねる。
「すばしっこいの」
タバサは短く答えた。
「じゃあ行ってくるわ」
誰の回答を待つでもなく、かなではすっと立ち上がると、すばやく小屋へと駆けていった。
「わたくしは周囲の見回りに行ってきます」
という名目のもとロングビルは森の中へと消えていくと、ルイズらに気づかれないように小屋や彼女らを観察できる位置まで忍んでいった。
(さて、うまくやってもらおうか)
茂みの影から彼女は広場を覗きこんだ。
○
小屋にさっと近づいたかなでは窓から内部を覗き見た。
(誰も……いない?)
人影はなく、気配も感じられなかった。中は一部屋のみで、隠れられそうな所は見当たらなかった。
かなではルイズたちに向かって、頭の上で腕を交差させて誰もいないとのサインを送った。
隠れていた三人が恐る恐る小屋に近づく。
合流したところで、タバサが杖を振ってワナがないことを確認してドアを開けた。
キュルケとかなでが続き、ルイズは外の見張りに立った。
小屋の中は
破壊の杖を探そうとしたところ、タバサが部屋の隅に置かれたチェストに気づいた。
「破壊の杖、あった」
タバサがチェストを抱える。
「あっけないわね!」
キュルケが叫ぶ。
「目的は果たしたんだから、早く帰りましょ」
かなでが言った、そのときだ。
「きゃあああッ!!」
外からルイズの悲鳴が聞こえた。
同時に小屋の屋根が轟音と共に吹き飛んだ。
フーケの巨大ゴーレムがそこにいた。
「ご、ゴーレム!?」
突然の襲撃にキュルケが驚くなか、タバサがすぐさま魔法で巨大な竜巻を放つ。
だがゴーレムはビクともしない。
キュルケも胸の谷間にさした杖を引き抜いて炎の魔法をぶつけるが、まるで効果がなかった。
「無理よ、こんなの!」
「撤退」
タバサが呟くと全員小屋を飛び出した。
ある程度離れたところでタバサが指笛を吹くと、空から彼女の使い魔である風竜シルフィードが降りてきた。
タバサとキュルケがその背に乗るなか、はたとかなでは気づいた。
ルイズがいない?
彼女の姿を探していると、背後で爆発音が響いた。
振り返ると、なんとルイズがゴーレムに向かって杖を構えていた。ルーンを呟いて杖を振るうとゴーレムの胸が小さく爆発した。
「ルイズ!」
かなでは大声で叫んだ。
「ルイズ、逃げて!」
「いやよ!」
「破壊の杖は取り戻したわ! それで十分のはずよ!」
必死なかなでの言葉に、しかしルイズは聞く耳を持たない。
「あいつを倒して、フーケを捕まえれば、誰もわたしをゼロと呼ばないわ!」
「危ないわ!」
「わたしは貴族よ! 魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃない、敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ!」
ルイズは魔法を唱える。だが一部が爆発するだけでゴーレムにはまるで効いていない。ゴーレムはルイズを踏み潰そうと巨大な足を持ち上げた。
かなでは駆け出した。
ゴーレムの片足がルイズの眼前に迫った。思わず目をつむる。
だがルイズ は無事だった。
不思議に思って恐る恐る目を開けると、目の前の光景に驚く。間一髪ルイズの前に走りこんだかなでが両手を突きだしてゴーレムの足を受け止めていた。
「ぐっ……」
こちらを踏み潰そうとする巨大な足に、オーバードライブで強化された腕力で抵抗する。
両者の力は
バランスを崩したゴーレムが、ずしーんと大きな音を立てて
立ち尽くすルイズだが、すぐさまかなでをキッと睨みつけた。
「邪魔しないで!」
ぱぁーん――
瞬間、こちらを振り返ったかなでに
呆気に取られてかなでを見つめると、彼女は眉を吊り上げていた。
「死んじゃうところだったわ。命を粗末にしないで」
かなでが静かに、だが強い怒気が宿る声で言った。
ルイズはポロポロ泣きだした。
「だって、逃げたらまたバカにされるじゃない」
普段からゼロと言われて悔しい思いをしてきた。ここでどうしても周りを見返してやりたかったのだ。
急に泣き出したルイズに、かなでは困って思わず天をあおぐ。その空の向こうに、こちらに向かって飛んでくるシルフィードが見えた。
ふと周りに影がさした。
ハッと後ろを見る。
起き上がったゴーレムが巨大な手を拡げて迫っていた。
かなではとっさにルイズの両脇を掴んで持ち上げた。
「え?」
わけがわからないルイズを無視し、その場で素早く一回転して勢いをつけてルイズをシルフィードめがけて思いっきりぶん投げた。
「えええええええっ!?」
絶叫するルイズ。
あわや衝突というところで、タバサがレビテーションでルイズを受け止めてシルフィードに乗せた。
「ちょっとルイズ、大丈夫!?」
キュルケは、いきなりのことで心臓がバクバク鳴るルイズに話しかける。
「ななな、なにすんのよあいつぅ!?」
かなでの方を見たルイズはその途端、一気に青ざめた。かなでがゴーレムに握りしめられ持ち上げられていた。ルイズを放り投げた直後に捕まったのだ。
「く……」
強い締めつけにさすがに苦しげな声をもらすかなで。
さいわい掴まれたのは胴体なので両腕は自由に動く。握りこぶしでゴーレムの手をドン、ドンと叩く。
しかし表面が崩れるだけでダメージはない。だったら、
「ガードスキル・ハンドソニック、バージョン2」
右手が光って薄刃の長剣が出現する。ゴーレムの腕を切断しようと斬りつけるが、おしくもリーチが足らない。しかも切った部分がすぐに再生してしまった。
ゴーレムがかなでを握しめる手に力を入れた。
「ぅあ……!」
強まった握力に意識を失いかけ、力なく両腕がだらりと垂れる。
苦しくて抵抗する気力が削がれていく。いったいどうすれば――。
(ハンドソニックが効かないし、身動はとれないなんて、まるで
遠退く意識のなか、まるで走馬灯でも見るかのようにぼんやり回想する。
あのときはどうしたっけ? 確か、
(そうだわ……)
痛みに耐えて、かなでは気力を振り絞る。いったんバージョン2を解除すると、今度は両手にハンドソニック・バージョン1を出現させる。
両腕を振りかぶり、ハンドソニックをゴーレムの手首に根元まで深く突き刺した。
「ハンドソニック・バージョン2、バージョン3……」
ハンドソニックの形状を、薄刃の長剣、トライデントと変えていく。展開するスペースのないゴーレムの手首内にて、変化しようとする力とゴーレムを形成する力がぶつかり合い、刺した隙間から光があふれる。
「……バージョン、4!」
今までの形状とは大きく異なる、
自身を拘束していた手が消えたかなでは地面へと落ちていく。着地と同時にすぐさまゴーレムから離れた。
そのまま逃げればいい。
だがしかし、彼女の脳裏にルイズの涙が浮かんだ。
(……あたしがゴーレムをなんとかしたら、ルイズの評価も上がるかしら)
かなではゴーレムに向かって走りだした。
両手の鈍器で殴りつけ相手の体を砕いていく。
だがゴーレムはすぐに元に戻ってしまう。
(ならさっきみたいに内部から)
再びハンドソニックをバージョン1に戻すと、すばやくゴーレムの
「バージョン――ッ!?」
形状変化させようとしたところで、ゴーレムが虫でも払い除けるように手を伸ばしてきたのに気づいた。すぐさまハンドソニックを消して真下に落下。わずかな差でゴーレムの腕から逃れた。
戦術変更。今度は素早さを優先してバージョン2を展開。ゴーレムの体や足などを斬りつけていくが、やはり即再生してしまう。
(これじゃラチがあかないわ……)
「カナデ!」
シルフィードの上でルイズは悲痛な声をあげた。
どうにかしてかなでを助けなくては。
ふとルイズの目に破壊の杖が入ってる箱が映った。
「貸して!」
ルイズは箱を取って抱えるとシルフィードから飛び降りた。
驚くキュルケ。
とっさにタバサがレビテーションを唱え、ルイズをゆっくり地面に降ろす。
ルイズは箱を開けて中身を取り出すが、それを見て驚いた。
「え? これって!?」
それは何度も夢の中で見たもの。
死後の世界で戦線のやつらが使っていた大筒と同じものであった。
「これを使えば」
ルイズは夢の内容を思い出す。
「ええっと、たしか肩に担いで……どっちが前だっけ……あ、こっち穴が空いてるから銃口かしら。それと確か、夢だと手前でスイッチみたいなのを押してたから……あった!」
ルイズは破壊の杖を担ぐとゴーレムの巨体へと向け、スイッチに力を込めた。
だがなにも起こらない。というよりスイッチが押せなかった。
「え? あれ?」
不思議がるルイズの眼前で、かなでがゴーレムに蹴り飛ばされて宙を舞った。
「か、カナデ!!」
叫ぶルイズだったが、かなでは何事もなく地面に着地。蹴られる直前で両腕を交差してガードしたのでたいしたダメージはなく無事だった。
ほっと胸を撫で下ろすと、ルイズは破壊の杖を睨み付けた。
「ちょっと、なんでなにも起こらないのよ!」
破壊の杖をおろしてあっちこっち見てみる。なにか不手際があったのだろうか?
「まだなにかやることがあるっての!?」
正直どうしていいかわからない。それでもなにかヒントがないか記憶を探る。
そのとき、以前アニエスから銃のレクチャーを受けたときの記憶が脳裏をよぎった。
「そういえば、アニエスが銃を撃つときは
それが破壊の杖にも当てはまるかは不明だが、とにかく調べてみる。
スイッチに触れないようにいろいろ試してみると、片方の端にピンがあるのに気づいた。
「これって、爆弾を投げる前にいつも引き抜いていた……これを抜けばいいの?」
ピンを引き抜くと、破壊の杖の先端のカバーが外れた。さらに調べてみるとそこが引き出せることに気づいた。
「こ、これを引っ張ればいいのかしら?」
可能な限り引き出すと、銃口と思われる箇所に四角いスコープのようなものが立った。
「これは、銃の先端にある狙いを定めるやつかしら?」
他にいじれそうなところはない。
今度こそという想いでゴーレムの方を向くと、あまりの光景に目を見開いた。
ルイズがあたふたしている間に、仰向けに倒れたかなでがゴーレムに踏み潰されかけていた。先程と違い、横たわった状態で押さえ込まれてしまってはどうにもならない。押し潰されまいと、ぐぐぐと両手に力を込め必死に耐えている。
空ではシルフィードが助けに入ろうとするが、ゴーレムがやたら拳を振り回すので近づけないでいた。
もう後がない。
ルイズは汗ばんだ手で破壊の杖を構えると、前にアニエスから教えられたことを参考にスコープを覗いてゴーレムの体の中心に狙いを定める。
「お願い……今度こそ!」
祈りを込めてスイッチを押した。
筒からぱすっと音が出たと思ったら、先端からすごい勢いでなにかが飛び出た。
それは白煙を引きながら進んでいく。だがはじめて使う道具なためか狙いがわずかにずれてしまっていた。
しかしハズレというわけでもなかった。
それはゴーレムの肩に命中し爆発。粉々に吹き飛ばし、体との繋がりを失った腕が地面に崩れ落ちた。
「や、やったわ!」
狙い通りではなかったが、今のでそれなりに扱いがわかった。
「次こそは身体を吹っ飛ばしてやるわ!」
半壊のゴーレムに再度狙いをすまし、スイッチを押した。
だが、カチっと虚しく音が鳴るだけで、なにも飛び出さなかった。
「え? 今度はなによ!」
何度も押すが、なにも起こらない。
またなにか手順が必要なのか?
こういう時、夢ではどうなっていたか?
瞬時に記憶を探る。
たしか……一回使うごとに……放り捨てていたような……? ハッ!?
「も、もしかして、これって単発式なの!?」
そういうことなら再び弾を込めるなりしないといけないのか?
だがそんなもの箱には入っていなかった。
「ど、どうしよう!?」
このままだとゴーレムが再生して襲ってくる。
だが予想と違い、片腕をなくしたゴーレムはしばらくして、全身が滝のように崩れ落ちた。それは下にいたかなでの体へと降り注ぎ、彼女は大量の土に埋もれた。
ルイズは思わぬ事態に呆然となったが、すぐさまハッとなる。
「カナデ!」
破壊の杖を抱えたまま、下敷きとなったかなでを助けようと駆け出した。
土の小山の前にたどり着くとすぐさま堀だそうとした。
そのときだった。
土の一部がボコりと盛り上がり、
「ぷはっ!」
かなでが顔を出した。自力で土の
全身が土で汚れてしまい、地面へと降り立ったかなでは両手で髪と顔、ブレザーやスカートなどについた土を払った。
「カナデ、大丈夫!?」
ルイズが心配そうに尋ねる。
「土まみれ……お風呂に入りたいわ」
まるでなんともない感想に、ルイズは安堵の息をついた。
「すごい爆発が聞こえてゴーレムが崩れたみたいだけど、ルイズ の魔法?」
かなでが尋ねると、ルイズ は首を横に振った。
「魔法じゃなくてこれを使ったの」
ルイズが胸の前で破壊の杖を掲げた。
「それって確か……ロケットランチャーね。ハルケギニアの重火器って原始的なものだと思ってたけど、同じようなのもあったのね」
意外そうに言うかなで。
「あんたそれわざと言ってる?」
ルイズが呆れたとでもいうようにジト目を向けると、かなでは不思議そうに小首を傾げた。この天然は本気で言ってるのだろうか。
「あんたねぇ、これどう考えてもあんたや召喚されし本と同じじゃない」
「そうなの?」
「そう考えるのが普通でしょ!」
そこでかなではふと疑問に思った。
「……それなら、ルイズはどうしてロケットランチャーの使い方を知ってたの?」
「それは」
ルイズは言葉に詰まったが、すぐにためらいがちに口を開いた。
「……夢で見たのよ」
そんなやりとりをしているところにシルフィードが着陸してきて、その背からキュルケとタバサが降りてきた。
「すごいじゃないルイズ。あのゴーレムをやっつけるなんて!」
キュルケが感心したように言った。
「あんたに褒められるとなんか変な気分ね」
「あら失礼ね。でもよく破壊の杖の使い方を知ってたわね」
「ああ、まぁね」
ルイズは複雑そうな、困った顔で破壊の杖を見る。
タバサが土の小山を見ながら呟く。
「フーケはどこ?」
全員がハッとなって辺りを見渡す。
そこへロングビルがやってきた。
「みなさん、ご無事でなによりです」
「ミス・ロングビル! あなたもご無事で」
キュルケが嬉しそうに叫ぶ。
「はい。それはそうと見事破壊の杖を取り戻したのですね。さあこちらへ。お預かりします」
おだやかな笑顔で手を差し出しながら、内心ほくそ笑んでいた。
破壊の杖の使い方はバッチリ見ていた。
最後ミス・ヴァリエールがなにやら慌てていたようだが、気にすることはない。
破壊の杖を手にしたら、彼女らには悪いがここで死んでもらい、あとはトンズラしよう。
だかルイズは困ったように破壊の杖を見下ろしていた。
「どうしよう。これ使っちゃった。オスマン学院長になんて言おう……」
その言葉に全員が首を傾げる。どういう意味だ?
そのなかでかなでが言った。
「ロケットランチャーって、確か一回使ったらそれで終わりのはずだわ」
その言葉にロングビルは動揺した。
「お、終わりとはどういうことですか? そのマジックアイテムは使い切りだとでも言うのですか?」
かなでは首を横にフルフルと振った。
「それは魔法の杖なんかじゃないわ。なんて説明すればいいかしら……。簡潔に言うと、それは銃なの。爆弾を発射する」
「え、銃? 平民が作ったあの鉛玉を撃ち出す?」
キュルケが意外そうに言った。
かなではこくんと頷く。
ロングビルの顔が一気に青ざめた。
「で、では、銃ということは、新たに弾を込めれば使えるのですか?」
「たぶん無理だと思うわ。同じのを見たことあるけど、使い捨ててたみたいだし」
「それに箱には弾らしきものはなかったわ」
ルイズが呟く。
「じゃあそれ、今はただの筒じゃない」
キュルケが言った。
ロングビルはショックを受けた。
彼女の脳裏に秘書になってからの苦労が蘇る。
連日続くオスマンのセクハラ。
毎日のように尻を触られ、使い魔のネズミを通じてはスカートの中を覗かれ、注意すれば婚期を逃すなどの失礼な発言、などなど。
今まで耐えてきたのは、すべては学院のお宝を手に入れて高値で売り、大金を手に入れるため。
それがすべて水の泡に消えた。
彼女は、大金を得るというゴールのために積み上げてきた苦労という名の階段が、ガラガラガラァ! と崩れていく音を聞いた気がした。
その後タバサらがフーケを探そうとしたが、ロングビルが「フーケは破壊の杖に恐れをなしたのか、いずこかへと逃げていきました」と嘘の報告をした。
深い森の中を追跡するのは困難であるため、一行はそのまま学院に帰還することにした。
帰りの馬車、ロングビルはいきなり胃がキリキリと痛むのを感じた。
「痛っ……」
「どうしたんですかミス・ロングビル?」
キュルケが少し驚いたように聞いてくる。
「い、いえ! ちょっと胃がキリキリと……」
「大丈夫ですか? もしかして学院長への報告のことで悩みが?」
責任を感じてルイズが尋ねる。
「大丈夫ですので、お気になさらず……」
ぜんぜん大丈夫じゃない。
これからもお金のためにオスマンのセクハラに耐えねばならないのだ。
正直辞めたいのだが、秘書の給料はいい。当初の予定が
道中、脳裏をある
(そうだ……破壊の杖が武器だっていうんなら、戻ってあいつに見せれば万事解決だったんだ……ちくしょうッ!!)
ロングビルは心の中で泣き叫んだ。
ルイズがロケットランチャーぶっぱなす無茶ぶりなんてここくらいだよね……。
ご都合主義かもしれませんが、一応死後の世界の夢やアニエスの件で伏線ははってたつもりです。ガンダールヴ不在でゴーレムをどうにかするにはこの展開しか思いつきませんでした。
フーケはルイズらに正体がバレず捕まりもしませんでしたが、彼女には後ほどある役目があり、そのため今回のような流れになりました。それがよかったのかどうかはわかりませんが……。
次回もできるだけ時間をかけずに投稿できるようがんばりたいと思います。