今回でアルバイト編は終わりですが、正直執筆にこれほど時間がかかるとは当初は思ってもいませんでした……。
それはさておき、最新話をどうぞ。
翌日、チップレース最終日。ルイズの態度が一変した。
にこっと自然な笑みを浮かべて、恥ずかしそうにもじもじとしながら「お客様、とっても素敵です……」と、相手をほめる。
だがそんなもの客のほうも慣れっこだ。
そこでルイズは制服の
効果は抜群だった。
上品な振る舞いに客は彼女の素性が気になり問いただすが、ルイズは黙ってにっこりと優雅にお辞儀するだけ。
すると客は、ルイズが没落した上流階級の生まれだとか、どこかのお屋敷で礼儀作法……さらには人に言えないようなあれやこれまで仕込まれそうになって逃げ出してきたとか、いろいろ妄想しだした。
それでもルイズはなにも語らず微笑んだり、物憂げな表情をするだけ。
結果、己の勝手な妄想が一人歩きした客は同情心などから財布のひもを緩めて、彼女に金貨や銀貨を渡すのだ。
もらった瞬間にルイズはすぐさま厨房へと駆け込み、しゃがみこんだ。
「ぷはぁ!!」
堪えていたものを吐きだすかのように荒く息をつく。チップをもらえたのは嬉しいが、正直あんな自分はどうあっても受け入れられない。なにかを殴って発散させたいところだが、残念ながらそんな都合のいいものはない。
(でもがんばるのよ、わたし……重要なのはこれからなんだから!)
気合いを入れ直してからまたテーブルへと急ぐ。本来の仕事である情報収集だ。
酔っぱらった客のとなりに腰掛け、酌をしながら
「最近、貴族が平民によからぬことをしてるって噂ですけど、本当なんでしょうかね」
「さぁどうかなぁ。だが恨まれてる貴族は結構いるらしいな。土くれのフーケに襲われた貴族に対して、影でざまみろって言ってるのを聞くしなぁ」
「土くれのフーケ?」
「ああ、なんでもメイジの盗賊で、貴族のお宝を盗みまくってるって噂さ。狙われた貴族を恨んでた連中は胸がスカッとする想いだったらしい」
「そうですか……」
こうしてルイズは少しずつ話を聞いていった。それだけでなく、料理を運びながらも周りの噂話に耳を傾ける。
一番多く流れていたのは土くれのフーケに関する噂だった。
貴族専用の盗賊であり、宝が守られてる強固な部屋の壁を土くれに変えて侵入したり、巨大なゴーレムで屋敷を強襲したりと、あらゆる手段で宝物を盗んでいく、正体不明の土系統メイジの大怪盗。最近ではあのモット伯爵も盗みに入られたらしい。
他にはアルビオンの内戦の話。ハルケギニア統一を
そんなふうにチップと情報を集めているところに、店の扉が開いて新たな客が現れた。
先頭をゆくのは、マントを身につけた貴族とおもわしき中年の男性。でっぷりと太った腹に、額には薄くなった髪がのっぺりと乗っている。お供に下級の貴族らをつれており、彼らは軍人なのか腰にレイピアのような杖を下げていた。
その一群が入ってきた途端、賑やかだった店内が急に静まり返った。
スカロンが揉み手をしながら貴族の客に駆けよった。
「これはこれはチェレンヌ様。ようこそおいでくださいました」
「おっほん! 店はだいぶ繁盛しているようだな、店長」
チェレンヌと呼ばれた肥満男が後ろにのけぞりながら尊大な態度で言った。
「いえいえ、今日はたまたまでして。日頃はそれはもう
「言い訳はいい。今日は客として参ったんだ」
「お言葉ですが、あいにく今は満席となっておりまして……」
スカロンが困りぎみの愛想笑いで言った。
「わたしにはそうは見えないが?」
チェレンヌが指を鳴らすと、手下の貴族たちが杖を引き抜いた。
それを見た客は全員が焦るように立ち上がり、我先にと店を出ていく。店内は一瞬にしてがらんどうとなった。
「閑古鳥とはほんとのようだな。ふぉふぉふぉ」
だらしない腹をゆらしてチェレンヌは店の真ん中の席にドカッと腰を下ろした。
「さて、ますはワインでももらおうか!」
階段近くにいたルイズは、新たな客が来たことで向かうとする。だが仕事に集中するあまり、店の空気が変わったことに気づいていない。
ワインを取りにいこうとしたところ、いきなりジェシカに肩を掴まれて壁際に押し込まれた。
「ちょっとなにすん―――」
「静かにして」
文句を言おうとしたらいきなり口を押さえられた。
「あんた、少しは空気読みなさいよ」
小声で言われて、ジェシカの肩越しに店内を見渡す。そこでようやく様子がおかしいことに気づいた。
ルイズが状況を理解しはじめたのを悟って、ジェシカは彼女の口を離した。
「あんた、まさかとは思うけど、あいつが誰か知ってていくつもりだったの?」
「知らないわよ。これどういうこと?」
ジェシカ同様に小声で答えると、彼女はため息をついた。
「あいつはこの辺の
なんてこと。ルイズは歯ぎしりした。そんなやつに酌をしにいこうとしていたとは……。
だがこれは思わぬ収穫でもあった。アンリエッタが探していた横暴な貴族とはまさにああいう輩のことだ。
(あいつのことはきっちり姫様に報告しないと)
フロアでは、誰も酌をしにこないことにイラついてきたのか、チェレンヌが駄々をこねるようにテーブルを叩き出した。
「さっさと酒をもってこい! 女王陛下の徴税官に酌をする者はおらんのか!」
わめきちらすが、女の子らは遠巻きにチェレンヌの様子をうかがうだけだった。ルイズとジェシカも並んで盗み見るように目を向ける。
「それにしてもあんたを捕まえられたのは運がよかったわ」
ジェシカがぽつりと呟いた。
「どういう意味よ?」
「空気読めないあんたがあいつに酌をしにいったら面倒なことになりそうだって意味よ」
「なんですって……」
ルイズはジェシカを睨みつけるが、当人は無視した。
だが彼女らは失念していた。
この店には今、もうひとり空気の読めない娘がいることを。
「ねぇ、誰か向かってない?」
「え?」
ルイズに言われてジェシカは目を凝らす。
バイオレットカラーの制服に身を包み、銀色のサイドテールをゆらしながら、ワインを乗せたトレイを持って近づいていく小さな影。
その正体は、立華かなでである。
いつもの無表情であるが、おそらく店の雰囲気が今どういうものなのか、まったく気づいていないだろう。
ルイズは呆れて呟いた。
「あ、あのバカ……空気読みなさいよ」
「あんたが言うな」
頭を抱えたジェシカが小さく言った。
はたして大丈夫だろうかと、二人は心配そうに見つめる。
そんなことなど知るよしもなく、かなでは普段通りに接客する。
「お客様、ご注文の品です」
ワインを注ぐかなでに、チェレンヌは一瞬好色そうな笑みを浮かべたが、彼女の胸に視線を移すとうさんくさげに顔をゆがめた。
「なんだ? この店は子供を使っているのか?」
次に全身を上から下へとじっくり眺める。
「いや、よく見たらただの胸の小さい娘か。あまりにひらべったいから男かと思った。ははははは!!」
心の底から馬鹿にするように大声で笑う。かなではあまり気にしていないのか、微動だにせず立ち尽くしている。
「どーれ、どのくらいの大きさか、このわたしが確かめてやろうじゃないか」
チェレンヌがかなでの薄い胸にわきわきといやらしく手を伸ばす。
かなでは以前店長に言われたことを思い出す。こういうときは逃げればいいのだ。
一歩下がってかわす。
チェレンヌの不満を買う行為に、従業員らに緊張が走った。
案の定、チェレンヌは不満げに鼻を鳴らした。
「なんだそれは? せっかくわたしが直々に確認してやろうというのだぞ」
「申し訳ありません」
「……ふん、まぁよい」
かなでの容姿が好みでなかったこともあってか、チェレンヌは手を引っ込めた。同時に店中が密かに胸をなでおろす。
「ときに店主よ、この店のメニューも変わりばえなくて少々飽きた。なにか新しいものはないのか?」
「急にそのようなことを申されましても……」
愛想笑いのまま困るスカロン。
そこへかなでが口をはさんだ。
「お店にないメニューでしたら、まかないのものがちょうどあります」
その言葉にスカロンは内心首をひねった。そんなものあっただろうか?
「そうか。ならそれを持ってこい」
命令するチェレンヌに、かなではどうするか、スカロンを見上げて請う。
スカロンは仕方ないと判断し、「カナデちゃん、それ持ってきて」と言った。
かなでが厨房の中に消え、少ししてから、まかないが盛られた皿をトレイに乗せて出てきた。
ルイズやジェシカらはその様子を見つめている。
「なんだろう? なにか持っていってるけど」
ジェシカは眉を寄せる。ここからだと中身がわからない。
それはルイズも同じだったが、
(なにかしら……すごく嫌な予感が……)
「お待たせしました」
かなでがテーブルに皿を置いた。中にはとろみのある真っ赤なスープに、小さく角切りにされた大量の豆腐が入っている。
まかないの正体。
それはかなで特製、激辛麻婆豆腐である。前にジェシカが食べてみたいと言っていたため、作っておいたのだ。
「ほう、確かにこれは見たことのないものだな」
珍しそうに麻婆豆腐を眺めるチェレンヌに、かなでは無表情で薄い胸を張った。
「心を込めて作った自信作です」
「ほぉ、それは楽しみだ」
チェレンヌはにんまり笑い、スプーンですくって口に運んだ。
瞬間、
「ぶぅふはぁーーーッ!!」
あまりの辛さに拒絶反応を起こして吹き出した。
「な、なんだこれは!? 毒か!? こんなもの食えるかッ!!」
激辛により唇を真っ赤に腫らしたチェレンヌは、怒りで唇だけでなく顔面すべて赤く染めあげるとテーブルを勢いよくひっくり返した。
麻婆豆腐の皿が床に落下し、中身がぶちまけられる。
「あ……」
無残な姿となった麻婆豆腐にかなではショックを受けた。
がくりと膝をつき、まるで幽霊であるかのように力なく麻婆豆腐へと手を伸ばす。
その目の前で……
ぐちゃり!
チェレンヌが麻婆豆腐を思いっきり踏み潰した。
「この無礼者!! 女王陛下の徴税官たるわたしにこんなものを食べさせるとは! なんたる不届きかッ!」
屈辱を晴らすかのようになんども踏みつけ、ぐりぐりとすり潰す。
粗末にされる自信作の麻婆豆腐に、かなでの心は深い悲しみに染まった。
だが同時に、無意識下において激しい怒りが瞬時に湧きあがり、それがトリガーとなった。
ハーモニクス、
かなでの体が一瞬光り、
「ぅあああああああああ!!!!」
凄まじい叫び声をあげながら赤い瞳の分身が彼女の体から飛び出し、目にも止まらぬ早さでチェレンヌの顔面に強力な拳を叩き込んだ。
チェレンヌは悲鳴を上げるまもなく勢いよく吹っ飛び、後ろにいた手下数人を巻き込み後方の壁に激突。気絶した。
一瞬の出来事だった。
無事だった残りの貴族たちは慌てて主のもとへと向かう。
騒然となる店内。
チェレンヌ一行は気づくことはなかったが、店の従業員全員がかなでのハーモニクス発動をバッチリ目撃した。
「なにしてんのよあんた!!」
分身へと駆けつけたルイズが怒鳴ると、向こうは涙目ながらすごい剣幕で言い返してきた。
「うるさい! 麻婆豆腐を粗末にするやつは絶対に許さない!」
「だからってね! なに面倒なことしてくれてんのよ、この
「赤目ってなによ!」
「カナデと違って目が赤くなるから赤目よ!」
「そのまますぎてカッコ悪い! 呼ぶなら”
「訳わかんないこと言ってんじゃない!」
互いに頭に血がのぼり、論点がずれた口喧嘩をくりひろげるルイズとハーモニクス分身改め赤目。
だが十秒経ったため、赤目は赤い無数の0と1の光となって本体の中へと戻っていく。
「あ、こら!」
捕まえようととっさに手を伸ばしたが、虚しく宙をきるだけだった。
光を追ってかなで本人に目を向けると、彼女は両手両膝を床について麻婆豆腐の残骸を光の消えた目で見下ろしながら「麻婆豆腐が麻婆豆腐が麻婆豆腐が……」と呪詛のように呟いていた。
(カナデのこんな姿を見るのは初めてね……)
なんてことを思っていると、
「貴様! 平民の分際で貴族の顔を殴り飛ばすとは!」
目覚めたチェレンヌが杖を抜いた手下ともどもドシドシと歩いてきた。激昂するその顔は鼻血がたれ、前歯も欠けたりと、ひどいありさまだった。
面倒なことになった。ルイズはかなでの両肩を掴んで上体を起こす。
「ちょっと!
力一杯前後に揺さぶると、かなでは我に返ったのか、キョトンと見つめてきた。
「どうしたの?」
「どうしたの? じゃないわよ!」
わめくルイズだが、そこへチェレンヌが命じた。
「じゃまだ娘! そこをどけ!」
「今取り込み中よ! 少し待ってなさい!」
ルイズの命令口調に、チェレンヌは顔をさらに赤くする。
「なんだその生意気な口は! 貴様も同罪だ! 二人そろって縛り首にしてやる!!」
取り巻きの貴族が一斉に杖を振りかぶった。
「全員、この洗濯板娘どもを捕えよ!!」
チェレンヌが叫んだ次の瞬間、
「誰が、洗濯板だぁッ!!」
ルイズの叫びがとどろき、彼らの目の前がいきなり閃光とともに爆発した。
突然のことに腰を抜かす。すると、
「……どいつもこいつも」
地の底から這い出るようなドス黒い声が聞こえた。
見ると、いつのまにテーブルの上に登ったのか、ルイズが仁王立ちして憤怒の表情でチェレンヌを見下ろしていた。その手には杖が握られている。もしものときのために太もものバンドにくくりつけておいたのだ。
「人を洗濯板だの絶壁だの平原だの地平線だの好き勝手言って……なんでそこまで言われなきゃいけないわけ?」
誰もそこまで言ってない。否、それはルイズが今まで客から言われてきたこと全てだった。
それはさておき。チェレンヌたちは意外なものを見るような目をルイズに向ける。
「お、お前、貴族か?」
「あんたみたいな木っ端役人に名乗る名なんてないわ」
「ふ、ふん! 身をやつした没落貴族か? このわたしを誰だと思っている!!」
チェレンヌは攻勢な態度を崩さず杖を向けて叫ぶが、ルイズがポケットからアンリエッタの許可証を取り出して突きつけると、打って変わって青ざめた。
「お、王室の許可証ォ!?」
「誰が没落貴族ですって?」
「ししし、失礼しましたぁ!」
チェレンヌ一同はすぐさまその場に平伏した。
「ど、どうかこれで目をおつむりくださいませ! お願いでございます!」
慌てて財布をほうってよこすとチェレンヌは部下にも同じように財布を差し出させた。
だがルイズはそんなものには目もくれない。
「いいこと? ここで見たこと聞いたことは全て忘れなさい」
「は、はいぃ! 陛下と始祖の御前におきまして、一切口外致しません!」
チェレンヌらは泣き叫ぶように店から全速力で逃げ出し、一瞬にして夜の街へと消えていった。
途端にあふれんばかりの拍手がルイズを襲った。
「すごいわルイズちゃん!」
「胸がすっとしたわ!」
「あのチェレンヌを追い返すなんて最高!」
スカロンやジェシカ、女の子たちが次々に
ルイズはハッとなる。とっさに魔法を使ってしまった。そこへかなでもやってくる。
「ルイズ、魔法使っちゃたらだめなんじゃない?」
「あんたこそハーモニクス使ってんじゃないの!」
「? いつ?」
かなではなんのことかわからないというように首を傾げた。本当に自覚がなかったのかと、ルイズは呆れた。
いろいろと露見してしまったが、そこへスカロンが二人の肩をポンっと叩いた。
「いいのよ、ルイズちゃんが貴族だなんて、みんな前からわかってたから」
「ええ!?」
ルイズは呆然とした。いったいなぜ? まさかジェシカが口を滑らせたのか?
「ど、どうして?」
「だって、ねぇ……」
スカロンの言葉を、女の子らが引き継ぐ。
「態度や仕草を見ればバレバレじゃない!」
「うぅ……」
ジェシカにしかバレていないと思っていたのに……。
「こちとら何年酒場やってると思ってるの? 人を見る目だけは一流よ。でも安心して、二人とも。この店は従業員の事情なんて一切関知しないわ。だからなんにも見ていないし、聞いていない。ね、みんな!」
「はーい! もちろんでーす!」
女の子たちが口をそろえて元気よく返事した。
ぼけーとするルイズだったが、安心したように息をもらした。
スカロンが楽しそうにぱちんと両手を叩いた。
「さて、お客さんも全員帰っちゃったので、チップレースの結果を発表しまーす!」
女の子たちの歓声が沸く。
「ま、数えるまでもないわよね!」
スカロンが床に落ちてる財布を指差した。どれもこれも金貨がぎっしりとつまっている。
「あんたが一位ね」
ジェシカが笑いながらルイズに言った。
「え? でもそれはあいつらが勝手に置いていったもので……」
「勝手に置いていったんだから、チップでしょ。ね、パパ」
「そのとおり!」
ウィンクするスカロン。だがルイズは困ったように首を横に振った。
「でも受け取れないわ」
「あらどうして?」
「だって……
スカロンが優しく彼女の肩に手を置いた。
「ルイズちゃん。賄賂じゃないわ。お店に置いていったお金は全部チップよ」
「え、で、でも……」
「賄賂なんてなかった。ルイズちゃんはそんなもの受け取ってないし、触ってもいない。ただチップが落ちていった。そうよね、妖精さんたち!」
「そうでーす! お店に入ったお金はみーんなチップでーす!」
女の子たちが声高らかに同意する。
それでも素朴な疑問が浮かぶルイズ。
「あ、あれ? チップだとしても、あのお金受け取ってないなら、わたしのものになってないんじゃ……」
「さて、いつまでもそれを床に置いておくと邪魔になるわね。ジェシカ、片付けておいて」
「はいはーい」
スカロンの指示でせっせと財布を運んでいくジェシカ。
店側の雰囲気に押し切られ、有無を言わさず事が進んでいく。ルイズは置いてけぼりで、かなでにいたっては状況をよくわかっていないので
そんな二人を気にせず、スカロンはルイズの手を取って掲げた。
「そういうわけで、優勝はルイズちゃんでーす!」
店内に凄まじい拍手が鳴り響いた。
その後、ルイズは優勝は受け入れたものの、チェレンヌたちの金はやはり気持ち的に受け取れないので店側に扱いを任せ、スカロンはそれらをルイズが今まで店にもたらした
次の日、優勝扱いとなったルイズは魅惑のビスチェを
その効果は絶大だった。
ルイズは今までどおり微笑みと気品あふれる仕草を披露したが、客はこれまで以上にチップをよこし、彼女の獲得チップはあっという間にとんでもない額となった。
(すごいわ、いままでのちっぽけな稼ぎがウソみたい!)
ルイズは歓喜した。誰もかれもがこぞって彼女にメロメロとなる。
ビスチェの効果はすさまじく、さらには上品で優雅な振る舞いの相乗効果もあって、その魅了の力は抜群だった。……抜群すぎた。
「君ぃ、小さくてかわいいネェ~」
いきなり客の一人がルイズのお尻を撫でた。
「きゃああッ!? な、なにすんのよ!」
ルイズは怒鳴るが、客は気にするそぶりすらない。
「ちょっとくらい、いいじゃないか~」
「たくさんチップあげるからさぁ~」
「どんなパンツをはいているのかな~?」
ルイズに夢中になりすぎた客たちは、まるで甘いお菓子に集まるアリみたいにどんどん群がってきた。よってたかってチップを渡しては体にさわってきて、ルイズは顔を真っ赤にする。
(こんな屈辱、耐えられないッ! で、でも我慢しなきゃ……)
そう自分にいいきかせ、されるがままのルイズ。
だがあまりにもエスカレートしていく客のありさまに、その決意はゆらいでいく。
(……我慢? どうしてわたしが? こんなやつらに? こんな、発情したような犬相手に――)
「こんな我慢しなきゃならないのよぉーーッ!」
とうとう耐えられなくなったルイズが店中にとどろく大声で
「ちょっとルイズ、大丈夫!?」
先程から「これやばいんじゃない?」と感じはじめていたジェシカやスカロンが、わなわなと震えるルイズに近づく。
ルイズはガバっと立ち上がると二階への階段を一気にかけ上がる。
すぐさま戻ってきた彼女の手にはムチが握られていた。学院を出立する際に荷物に紛れさせたやつである。
ビシィッ! とムチを男どもに突きつけて鋭く睨みつける。
「ゲスな犬どもめッ! 尻尾を振ってひざまずきなさいッ!!」
ルイズが高圧的貴族オーラを放つ。そこにビスチェの魔力がプラスされる。男どもは
「犬のくせにデレデレエロエロしてんじゃないわよ!」
バチンッ!
「わぉん」」
「バカ犬にはおしおきよ!」
「うわぁん❤」
「一列に並んでわんと鳴け!」
「ワンッ!」
「声が小さいィ!!」
なんどもムチを振るって打ちつける。
普通なら暴力沙汰の大問題である。
しかし魅惑の魔法にかかった客たちにとって、ルイズの暴力はご
この光景にジェシカは困ったように呟いた。
「あ~あ……魅惑の妖精亭がいかがわしいお店に……」
「トレビアーン」
「……あの人たちは乱暴されてるのに、どうして嬉しそうにしているのかしら?」
この手の知識が皆無のかなではただただ不思議そうに首を傾げるばかり。
なにはともあれ、その日はルイズの独占場となり、そうとうな金額を稼ぐこととなった。
ルイズはその後、前にカジノでかなでから奪ってしまった分を彼女に返した。当のかなでは別にかまわなかったのだが、ルイズとしてはけじめとしてきっちりと返済しておきたかった。
そして当初の予定では新たに得た資金をもってよその宿にいくはずだったが、今更出て行く気にもなれず、最後まで魅惑の妖精亭で任務に
余談だが、ビスチェの使用期限が過ぎたあと、学院で暇を持て余していたキュルケ、タバサ、ギーシュ、モンモランシーがやってきて、秘密のアルバイトがバレたために口止め料としておごることになった。
そのとき店にやってきた貴族たちがキュルケにちょっかいを出してタバサが追い返したり、キュルケとタバサが親友になった経緯をみんなで聞いたり、その後で眠くなったキュルケとタバサをかなでが客室に案内して離席した直後、先ほどの貴族が仲間を引き連れお礼参りに来てルイズ、ギーシユ、モンモランシーがとばっちりをくらったりと、いろいろあった。
キュルケにアルバイトがバレたことが、近々新たな騒動のちょっとしたきっかけとなるのだが、それはまた別の話。
最後あたりは駆け足気味&説明文的な感じでごめんなさい。
ハーモニクス分身は今回から赤目と改名になります。ずっと「分身」という呼び方のままじゃなんだか不憫ですし、それにもうすぐ他に分身を使う人が出てくるので。
チェレンヌの賄賂について書きましたが、原作小説と違い、アニメだと悪徳貴族の調査という名目なので、あれをそのまま受け取ったら任務の妨げになるんじゃないかと思って、ルイズが悩む様をちょっと書いてみました。
ルイズが最後にセクハラされて客にムチ打ちするオチはマンガ版の番外編を元にしました。今作ではビスチェで魅了したい男がいませんしね。
今回ルイズはフーケの情報を得たこともあり、次回からようやくフーケ編です。おそらくかなり変化球な内容になると思います。