久々の投稿のため文章の書き方が違ってたりするかもしれませんが、どうかご了承ください。
それではどうぞ。
「ああ〜どうしょう……」
とある昼下がり。
ルイズは自室のベッドに腰掛けて頭を抱えていた。
その正面では、自前のブレザー服姿のかなでが首を傾げている。
「どうしたの?」
「明日は品評会なのよ。なんの準備もしてないわ……」
「品評会?」
「そういう毎年恒例のもよおしがあるのよ。二年生は全員参加で、生徒たちが召喚した使い魔を学院中にお
たとえば使い魔がモット伯の屋敷に乗り込んだりとか、激辛マーボードウフとか……。
とくにモット伯の件はなにかお叱りがあると思っていたのに実際はなんの知らせもなかったため、かなり気になってしまった。
「それに、今年は姫様が観覧しにいらっしゃるのよ」
「お姫様?」
「アンリエッタ姫殿下。彼女は陛下が亡くなって以来、国民の象徴的な存在で、とても人気があるの。生徒たちはみんな、いいところを見せようと必死になってるわ」
王女来訪の知らせは今朝がたオスマンより学院全体にもたらされた。
品評会のために普段から練習してきた生徒たちはさらにやる気をたぎらせていた。
……ルイズを除いて。
「とにかく、恥をかくのだけは避けたいわ……」
ルイズは顔を上げてかなでをじっと見つめる。
「あんた、ハンドソニックで剣技を
「できないわ」
ふるふると首を横に振る。ただ力任せに叩き切っているだけなので、そんな芸当は不可能である。
「そう……」
落胆したルイズはなにかないかと、今日まで共に過ごした日々を振りかえる。
さらにはかなでの過去と思われる夢についても思い返す。彼女を召喚した日から見るようになった夢は時々だが今でも見続けている。
ふとある光景が脳裏をよぎった。
夢の中で、かなでがオトナシ・ユヅルとかいう男と牢屋に閉じこめられた時のことだ。
そこは堅牢な鉄の扉で塞がれており、かなでがハンドソニックで切りつけてもびくともしなかった。
だがオトナシの機転により、扉の隙間にハンドソニックを突き刺し、そのまま複数の形態に変化させることで無理やりこじ開けて脱出したのだ。
「ねぇ、ハンドソニックっていくつか種類があるの?」
たずねるとかなではコクっと頷いた。
「ちょっと見せてみなさい」
もしかしたらなにかいいアイデアが思いつくかもしれない。
かなでは胸の前に右手を持ってくると「ガードスキル・ハンドソニック、バージョン2」と呟いた。
右手が光って、いつものハンドソニックよりも刃の薄い長剣が出現した。
「続けて」
ルイズに促され、彼女は次々と剣の形状を変えていった。
刀身がトライデント状のバージョン3
ここまでは夢で見たことのあるものだったが、
「ハンドソニック、バージョン5」
次に出されたのは、紫の手甲に二本の鉤爪という、まだ知らない形態だった。
「なんか今までと違って、あからさまに禍々しいわね」
「そういうふうに作ったから」
なぜ作ったのかほんの少し気になったが、どうでもいい話題なので今はおいておく。
「バージョン22」
武器の形状から一転、可愛らしいネコの手袋が現れた。これは以前モット伯爵の館に乗りこんだ際に兵士たちとの戦いで使用したものだ。
一応ルイズも目にしているはずなのだが、あの時はかなでとモット伯の戦いを止めるのに必死で目に入らなかったため、実質これが初見となる。
「これて全部よ」
かなではネコの手袋の裏表を見せつけるように手首をクルクルと回した。
「ちょっと待って。なんでいきなり22に飛んでんのよ。6から21は?」
「ないわ」
「は? ないって?」
「22は番外みたいな気分で作ったから」
「だったらなんで22なんて番号つけたのよ?」
「"22"と"にゃんにゃん"で語呂合わせてみたの。ネコの日みたいに」
「なによネコの日って?」
いぶかしげに眉を寄せるルイズだったが、これについても詳しく追求しているひまはない。
「とりあえず今あるハンドソニックはわかったわ。けど……」
結局なにも良い案は浮かばなかった。
「本当にどうしようかしら……」
重々しくため息をつくルイズ。
するとそこへ、ベッド脇の壁に立てかけてあるデルフリンガーが話に入ってきた。
「なあ嬢ちゃん。そのネコの手は左右両方とも出せるのか?」
「できるわ。バージョン22」
左手が光って手袋が現れると、かなでは両の手のひらを剣に向けた。
「ならこんなのはどうだ」
デルフリンガーは面白いことを思いついたとでもいうように
「まずは胸に巻くバンドと、パンツ、カチューシャ、あとは白い毛皮を用意する。切った毛皮をネコの耳のかたちに整えてカチューシャにくっつける。同じようにバンドとパンツにも毛皮を貼りつける。それと
「死ねぇエロ剣ッ!」
ルイズは勢いよく立ちあがると剣の柄をつかんで床に全力で叩きつけた。
「いってぇ!? なにすんだ娘っ子!!」
「うるさい! そんなハレンチなマネが許されるわけないじゃない! なに考えてんのよバカ! アホ!」
倒れた剣をげしげしと踏みつける。
聞いてる最中で、かなでが身体の要所を毛皮で隠しただけのネコ姿で、さまざまなセクシーポーズをとりながら淡々と「にゃーん……」と言っているのを想像してしまった。そんないやらしい姿を学院中に見せられるわけがない。
ふいに横ろから服をクイクイっと引っ張られた。
顔を向けると、ハンドソニックを解除したかなでが袖をつまんでいた。
「なによ?」
「デルフの言ってた材料はどこで手に入るのかしら?」
「まさかやるつもり!?」
「その必要性があるのなら」
「ないわよ! これっぽっちも!!」
腹から大声を出して全力否定した。
その後、気がすむまでデルフリンガーを足蹴にして怒りを発散したルイズは一度深呼吸して心を落ち着かせると、改めて困った目をかなでに向けた。
「ねえ、あんた、本当になにかないの? できればハデなやつ」
「ないわ」
「だったらこの際、特技でもいいから」
そう言われて、かなではしばし考えた。
「……歌はどうかしら?」
「歌? あんた歌えるの?」
コクっと頷くかなで。
もし本当ならいけるかもしれない。
「ちょっと歌ってみなさい」
ルイズが少しばかり期待して命じると、かなではコホンと小さく咳ばらいして歌いだした。
「お空の死んだ世界から♪ お送りしますお気楽ナンバー♪ 死ぬまでにーくーっとけー♪ 麻婆豆腐♪ ああ麻婆豆腐♪ まーぼー♪」
「…………待ちなさい」
無表情でわりとノリノリで天使の歌声を披露していたところ、呆け顔のルイズからストップがかかった。
「……なんなの、今の?」
「あたしの作った麻婆豆腐をたたえる歌。渾身の力作」
ルイズは目元を鋭くした。確かに歌声は悪くなかったと思う。だが曲に問題があった。こんなわけのわからない歌で挑んだ日にはいい笑いものである。
「却下」
「がーん」
容赦ない宣告に、かなでがそう言った。表情が変わらないので本当にショックを受けているかは疑問だが。
「…………他は?」
片手でこめかみを抑えながら重々しく呟かれたルイズの言葉に、かなでは天を仰いで再び考え込んだ。
数秒してから、
「ピアノが弾けるのは?」
という、またまた以外な返答がでてきた。
しかし先ほどの妙な歌のせいでルイズは疑うような眼ざしを向ける。
「……それちゃんと弾けるんでしょうね」
「試してみる?」
「………まぁ……それが一番ね」
どのみち他に妙案もなかった。
そうしてやってきたのはアルヴィーズ食堂の上の階にあるホール。そこに設置してあるピアノの前。
「ほら、弾いてみなさい」
ルイズに促されてかなではイスに座る。得意な曲を弾こうと、
次の瞬間、ホールに聴くものを魅力する素晴らしい旋律が流れた。
その腕前にルイズは目を見開いた。思わず聞き惚れてしまう。
演奏が終わると彼女は感激した。
「思ったよりやるじゃないの! これならなんとかなるわね。あとは当日ステージにピアノを運んで……あ」
「どうしたの」
「ダメだわ……魔法が使えないから運べない……」
発表で使う道具などは生徒が自分で持ち込む。普通はレビテーションなどで軽く持ち運べるが、ルイズには無理な話である。教師に運んでもらうよう相談するべきだろうか?
そうして悩んでいると、
「大丈夫よ」
「え?」
疑問符を浮かべるルイズをよそに、かなでは鍵盤の裏に両手を入れると、つかんだピアノを軽々とゆっくり持ち上げた。
「オーバードライブがかかってるから」
「……あんたって本当に馬鹿力よね」
呆れ顔のルイズだったが、とりあえず解決策が見つかったので一安心した。
◯
ルイズのうれいが晴れたあと、かなではシエスタと並んで廊下を歩いていた。
「へぇ〜。カナデさんはピアノが弾けるんですか。わたしも聴いてみたかったです」
「当日になれば聴けるわ。でもルイズはハデな出し物がいいらしいの。ピアノの演奏だけじゃ地味かしら」
「そんなことないですよ。わたし明日は楽しみにしてますから!」
シエスタはニコニコと笑った。
二人が渡り廊下に出たところで、ふと中庭で練習にはげんでいる生徒たちの様子が目に飛びこんだ。
つい見入ったかなでが立ちどまり、シエスタもつられて足を止める。
中庭にはギーシュやキュルケといった見知った顔がいた。それぞれ試行錯誤しているようだが、そのなかでキュルケの使い魔であるサラマンダーのフレイムが炎の息で曲芸を披露していた。
他の生徒たちが思わずそちらに気をとられてしまう。
「……演出がハデだわ」
かなでが気後れするようにポツリと呟く。
「まだ気にしてるんですか? きっと大丈夫ですよ」
シエスタは元気づけようとするが、かなでは練習の風景から目を離さなかった。
困ったシエスタは他になにかいい言葉はないかと悩んだが、ふと面白いことを思いついたというように両手を叩いた。
「あ! こういうのはどうでしょう。控え小屋の裏からピアノを持ち上げたまま大ジャンプしてハデにステージに降り立つとか! きっと誰も考えつかないでしょうし! ………なんて、冗談ですよ。冗談」
シエスタとしてはかなでの気を紛らわせようとこんなバカげた事を口にしたつもりだった。実際にそんなことをやってもインパクトはあっても引かれる可能性のほうが高い。
「それじゃわたしは仕事があるので。品評会、がんばってくださいね!」
笑いながらその場を去っていくシエスタ。
その背中を、いつのまにかかなでがじっと見つめていた。
◯
次の日。
周りを護衛の馬たちに囲まれ、四頭のユニコーンに引かれる白と薄紫で
馬車にはユニコーンと水晶の杖が組み合わされたレリーフがかたどられており、それが王女の馬車であることを示していた。
「トリステイン王女、アンリエッタ様のおなーーーりーーーッ!」
正門を王女御一行がくぐると、本塔へとまっすぐ続く道の両脇にずらりと整列した生徒たちが一斉に杖を掲げて出迎えた。
本塔の前ではオスマンを中心に教師たちが並んでいた。
王女の一行が彼らの前で停車すると、召使いの女性が王女の馬車へ駆けよって扉を開ける。
中から年老いた年配の侍女に手を引かれて、年頃の娘が降りてきた。紫色の髪に白いロングドレスを纏った彼女こそがトリステインの王女、アンリエッタ・ド・トリステインである。
その姿を目にして生徒たちはみな浮き足立った。
ただしキュルケとタバサは例外だったが……。
そのなかで一人、かなではアンリエッタを見て、
(ゆりみたいな髪の色をしてるわね)
と、死んだ世界戦線のリーダーである少女を思い出していた。
それからなんとなく馬車の一団を先から後ろまで眺めていく。
王女の馬車のすぐ近くには、上品なマントを羽織り、グリフォンと思わしき幻獣に跨がった一団が控えていた。
さらに最後列には平民らしき鎧姿の部隊が続いていたが、ふとかなではその中に見覚えのある顔を見つけた。以前に王都の武器屋で出会ったアニエスだ。
(彼女もお姫様の護衛なのかしら)
そんなことを考えてる間に、教師たちによる王女の出迎えが終わり、そうそうに全員が品評会の会場へと移動した。
○
会場には木製のステージがあり、その横には出番待ちの生徒が控える小屋がある。
ステージ正面には数メートル間をとって、観客席である長イスが並んでおり、前側が生徒用で、その後ろが使用人用に分けられている。その左側には上品な屋根つきの
「ただいまより、本年度の使い魔お披露目をとりおこないます」
ステージ脇に立つ司会進行役であるコルベールが宣言し、品評会の幕が上がった。
生徒たちは次々と使い魔に芸を繰り広げさせていった。
キュルケの情熱的なダンスと呼吸を合わせるようにフレイムが空へと放つ二重螺旋の炎の舞いで魅せる。
モンモランシーの奏でるバイオリンに合わせて使い魔のカエルがぴょんぴょんと楽しげに踊る。
ギーシュが大量のバラを錬金の魔法であたり一面に散らばせ、自身と巨大モグラを飾っていく。
タバサの風竜が彼女を背に乗せて、主人が魔法で作りだした無数の氷の結晶を纏いながら見事な空中飛行をやってのける。
一つの発表が終わるたびに会場は賑わい、
どの生徒もとても見事なできであった。
その様子を、ルイズは控え小屋の出入り口から見つめていた。
あまりのすごさについ気後れしてしまう。
「続きまして、ミス・ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール」
とうとう出番がやってきて、ルイズはステージへと上がった。だがその顔はどこか浮かないものをしている。
今朝のことだ。
かなでがこんなことを言ってきた。
”ハデなパフォーマンスを思いついたの。だから全部任せてほしいわ”
突然の申し出にルイズは困惑した。だが時間が迫っていたし、なにより演奏だけでは物足りないと感じていたのも事実で、つい許可してしまったのだ。
だが今になって本当に任せてよかったのか心配になってきた。
かなでには”呼ばれたら登場するから合図してほしい”とだけ言われてるため、ステージにはルイズ一人である。
(本当に大丈夫なんでしょうね、カナデ…………)
不安がっていると、観客席から「がんばれーゼロのルイズー!」と、ヤジが飛び、周りからドッと笑いがあがった。
キッと観客を睨みつけたが、すぐに意を決したように深呼吸して気持ちを落ち着けた。こうなったらもう己の使い魔を信じるしかない。
「わたしの使い魔は東方から呼び出した少女、タチバナ・カナデです。特技であるピアノを弾かせます」
ルイズは控え小屋の方を向いた。観客たちもつられてそちらに注目する。
「さぁカナデ! 出てきなさい!」
腹の底からおもいっきり叫んだ。
合図により、小屋の裏からかなでが大ジャンプで天高く飛びだしてきた。
会場の視線が驚きとともに上空の彼女へと集中する。
すると同時に妙なことに気づいた。
かなでが巨大ななにかを手にしている。
それがなにかと考えるひまもなく、彼女は空中で回転などのパフォーマンスを繰り出し、太陽光を背にして落ちてくる。
ズドォーンッ!!
大きな音と砂ぼこりをあげて、かなではステージ前に着地した。
砂ぼこりがおさまると、ルイズと観客らは、彼女が頭上に掲げているものを見て、全員が口をあんぐりと開けた。
それはピアノだった。右手でピアノの足をつかみ、左手にはイスを持っている。
この状況に対して、ルイズたちはなにが起こったのかすぐには理解できなかった。
まさかピアノを持ってジャンプしてくるという非常識を誰が予想できようか?
かなでは観客席すべてを見渡す。生徒や使用人らはもちろん、王女までもが放心したような顔をしている。
その様子に満足したように頷くと、次はルイズのほうを向き、『どう? うまくいったでしょ』とでも言いたげに、無表情で親指をぐっと立てた。
(…………アホかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?)
再起動したルイズは内心叫んだ。
(ピアノ持ってジャンプしてくるとかなに考えてんのよ、壊しでもしたらどうすんの! しかも片手持ちとか危ないじゃない! 両手使いなさいよ両手ぇ!!)
本当は大声で怒鳴り散らしたかったが、王女の手前、必死の思いでどうにか飲み込んだ。
しかし表情はうまく隠せず、平静を保とうとするものの眉がピクピクと震えていた。
いっぽう観客席にいるシエスタは顔を青くして全身から冷や汗をダラダラと流していた。
今しがたかなでがやったことは昨日自分が冗談で口にしたことそのものだった。まさかあれをうのみにして実行するなんて夢にも思わなかった。
(…………わ、わたし、とんでもないこと言っちゃったのかも……)
おかげで生徒はおろか王女に対してかなでが
会場が静まりかえる事態とはなったが、ルイズはそれでも、どうにか使い魔の紹介を続ける。
「みみ、見てのとおり、彼女は小柄な少女ですが、見かけと違って、ふふふ、普通の人間をはるかに超える力を持っております。そそそそ、それでは、今より、えええ、演奏します」
いびつな笑顔を浮かべ震える声でなんとかやりきった。
かなでは観客に向かって一礼し、イスへと座る。
そして鍵盤に手を添えると、昨日ルイズが感激した曲を弾き始めた。
曲名は『My Soul,Your Beats!』
メタな話をしてしまうと、『エンジェルビーツ!』のオープニング曲である。
それはさておき。
演奏が始まった瞬間、会場の空気が一変した。
誰もが素晴らしいピアノの音色に聞き惚れて耳を傾けていた。
曲を弾き終えて席を立ったかなでが一礼すると、アンリエッタを始め、会場全体から拍手が巻き起こった。
それを見て、我を忘れそうになっていたルイズや、生きた心地がしていなかったシエスタはホっと息をついた。
(どうなることかと思ったけど、とりあえずなんとかなったわね。それにこの反応……もしかして優勝とか狙えるかも!)
ルイズは期待に胸をおどらせた。
そして全ての発表が終わり、審査が開始された。
結果は、
「それでは発表いたします。本年度の優勝者は、雪風のタバサです!」
タバサの優勝だった。
歓声があがるなかをタバサがステージへと登っていく。
「ああ! 僕のヴェルダンデが選ばれないなんて……」
観客席でショックを受けたギーシュが頭を抱えこんだ。
「やっぱタバサのシルフィードかぁ~。まぁ妥当な線よね」
キュルケがしょうがないとでも言うように呟いた。
その隣でルイズは呆然と、ステージの上で、膝まづくタバサの頭にアンリエッタが小さな優勝冠を被せている光景を見つめていた。
「な、なんで? カナデの演奏だっていい感じだったはずなのに……」
その疑問にキュルケが答えた。
「いくら素敵な演奏でも、人間と竜じゃ、竜のほうがポイント高いじゃない。パフォーマンスも
そう言われてしまえば、そのとおりではある。
「まあ、恥かかなかっただけでもよしとしなさいな」
たしかにそうだ。最初に望んでたとおりの結果だ。それで十分のはずだった。
しかしキュルケにさとされるなど屈辱。ルイズは
◯
その夜。
ルイズは自室の机の前でため息をついた。
「優勝、残念だったわね」
「もういいわよ……」
背後から聞こえてきたかなでの声にぼんやりと返事した。とりあえずウケは悪くなかったはずだ。
そんなふうに考えていると、ドアをノックする音がした。
かなでは誰だろうと思いながらドアを開けた。
「久しいな」
そこにいたのは兵士の格好をした若い女性だった。そして二人には見覚えのある人物だった。
「あんた……アニエスじゃない!?」
ルイズが驚いたように声をあげた。
以前王都で彼女がスリにあった際に武器屋で出会い、事件の事情聴衆や銃の説明をしてもらった女兵士だった。
急な訪問に驚いた二人だったが、ルイズはとりあえずアニエスを自室に招き入れた。
「なんであんたがこんなところにいるのよ」
「それはだな、いろいろあって今回アンリエッタ姫殿下の周辺警護につくことになった。女手があったほうが都合がいいこともあるだろうということでな」
「平民の兵士が王女の警護だなんて、
そこでアニエスはひとつの書簡を取り出して渡した。
ルイズは封を開け、中の紙に目を通して驚いた。
「姫様からの手紙!?」
「そうだ。殿下から貴殿にたっての頼みがあるらしく、それを渡して欲しいと頼まれた」
「頼みって、いったいなにを? どうしてわたしに?」
「申し訳ないがそこまでは聞かされていない。だが殿下はそなたとは親しい間柄だとおっしゃっていた。本当は直接おもむくつもりだったらしいが、忙しいようでな」
ルイズはあらためて手紙を読みはじめた。
アンリエッタからの依頼とは、しばらく町で暮らして、貴族らの動向を探ってほしいというものだった。
どうやら先のかなでがモット伯爵に楯突いた件で宮廷内で少し騒ぎがあったらしい。だがアンリエッタによってルイズたちへのお咎めはなしとなった。
同時に近頃一部の貴族による平民への横暴な行いについての噂を耳にしていた彼女は、モット伯爵のことも含めて周囲の者にたずねたのだが、『貴族は平民の規範であり、そのようなことあるはずがない』と、聞く耳持たない状況らしい。
(お叱りがこなかったのは、姫様のおかげだったのね……)
手紙を読み終えたルイズは、胸の前でぐっと手を握った。姫様が助けてくれたなら、今度は自分が彼女を助けなくては。
「アニエス、姫様にこの任務、謹んで拝命しますと伝えてちょうだい」
「それでは、引き受けていただけるのだな」
「ええ、この任務、一命に変えても果たしてみせるわ!」
ルイズは胸をドンと叩いて自信満々に笑った。
内容がツッコミのありそうな強引な展開でごめんなさい。
そしてフーケの出番を期待した人、もしくはアルビオン編を期待した人、重ねてごめんなさい。順序でたらめで次はアルバイト編です。その次がフーケで、そのあとにアルビオンに行く予定ですので、しばしお待ちを。
ここからは読まなくてもいい苦労話です。
今回は話の流れをまとめるのがすごく難しかったです。
ピアノ担いでジャンプという内容は決まってても、どこからどういうふうにジャンプしてくるか等で、細かい違いも含めて大体4パターンぐらい書きました。
でもなかなか話の流れをスムーズにできず、いっそジャンプのくだりはカットしようかとも思いましたが、それで書いてみてもなんかインパクトがなかったりと、いろいろ悩んで何度も書き直しました。
あとハンドソニック・バージョン22の由来について考えるのも大変でした。元ネタの4コマではなぜ22なのか出ておらず、自分で長いこと考えても答えが思いつきませんでした。
ある日ネットを見てたら、ひょんなことからネコの日というのを知って、おそらく語呂合わせだろうという考えに至りました。
他にはハーモニクスの出番も考えたけれでも、うまく話のテンポに組み込めなかったので却下したりとか。
そんなこんなんで、書いてもまとまらず、うまく書けずに放置したりと、それらを繰り返していたらいつの間にか一年……。いろいろと力不足を実感しました。
次回の内容は今回ほど苦労はしないと思うので、可能な限り早く投稿したいと思います。