天使ちゃんな使い魔   作:七色ガラス

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どうも皆さん、こんにちは。
本当は前回から間を置かずにもう少し早く投稿したかったのですが、うまくいきませんでした。ごめんなさい。
今回は予告したとおり、アレが登場します。あと後日談的な感じなので、いつもより短いです。
うまく書けたかは分かりませんが、楽しんでいただけたら光栄です。
それではどうぞ。


第15話 麻婆豆腐はうまいわ

 シエスタを助け、しばらく経ったある日の虚無の曜日。

 間食にするのにちょうどいい時間、魔法学院の厨房にルイズ、キュルケ、タバサが集まっていた。

 今日はシエスタから豆腐ができあがったとの知らせがあり、ここに集まったのだ。

 ちなみにコック長のマルトーは最初、貴族の彼女らが厨房(ここ)に入るのに難色をしめしたが、シエスタから自分を助けるためにルイズ達がいろいろしてくれた話を聞くと、うってかわって喜々として賛成してくれた。

 彼女達は厨房わきにあるテーブルに、右からルイズ、キュルケ、タバサの順で並んで座っている。目の前には、前菜というわけではないが一切れの豆腐が出されていた。赤黒いタレがかかっており、シエスタによるとショウユというものらしい。

 一同はスプーンで豆腐をすくって口に入れた。

 くずれるような柔らかい歯ごたえ。ショウユのほどよいしょっぱさ。どれも初めてだった。

「おいしいわね」

「へぇー、なかなかいけるじゃない」

 ルイズとキュルケが頬をゆるませ、タバサも無言でうなずく。

「これを使ったマーボードウフはどんなものなのかしら?」

 ルイズは調理場へと目を向けた。そちらではかなでが他のコックの邪魔にならないところの調理場に立っていた。当然これから麻婆豆腐を作るためである。そばにはシエスタもおり、かなでにかまどの使い方を教えていた。

「やりかたはわかったわ」

 ひととおり説明を受けたかなでは、いよいよ調理に取りかかる。

 まな板の上に豆腐を置く。

 そして、

「ガードスキル・ハンドソニッ――――」

「ってカナデさん! なんでハンドソニックだそうとしてるんですか!?」

「豆腐を切ろうと思って…………」

「包丁があるじゃないですか!」

「…………そう、たしかにそうね」

 かなではシエスタの静止に納得すると、近くに置いてあった包丁を手にした。

 それを聞いていたルイズは、デルフリンガーを買ったときの事を思い出した。

(そういえばデルフを買うときに、ハンドソニックを包丁代わりにしてるって言ってたけど、あれってホントだったのね…………)

 さすがにないだろうと思っていたことが事実だったのを知り、ルイズは微妙な顔をした。

 そんなことはつゆ知らず。かなでは豆腐をさいの目状に切り、鍋を火にかけ、中にトウガラシや他の調味料ともども入れていく。

 オタマでかき混ぜ、ときどき味見しては調味料をたしたりしていく。

 ほどなくして麻婆豆腐が完成した。

「できたわ」

 全員分のお皿に盛りつける。

 かなでとシエスタはテーブルへ全て運び、水の入ったコップも全員分用意する。

 かなではルイズ達とは向かい側の真ん中の席に座り、シエスタはその隣、ルイズと対面する席についた。

「これがマーボードウフ? すごく赤々しいわね」

 キュルケはとろみのある、まっ赤なスープの中に、角切りにした豆腐が大量に入っている皿を興味深そうに見下ろしている。

「とてもいい匂いね……」

 ルイズが嬉しそうに呟く。美味しそうな匂いが鼻腔(びこう)をくすぐり、食欲がそそられる。

 タバサも同じなのか、すでにスプーンを手にしている。

 いっぽうシエスタはわずかに気難しそうな表情をしていた。

 トウガラシの辛さを知っている彼女。

 調理にも立ち合い、どれだけの量のトウガラシが投入されたかも見ている。

 だから目の前にある料理がどんなものなのか、なんとなく予想ができた。

(これはもしかして、かなり覚悟がいるんじゃ……)

 わずかに固唾(かたず)を飲む。

 かなでがスプーンを手にした。

「それじゃあみんな、ご賞味あれ」

「ではお言葉にあまえて」

 キュルケを皮切りに、全員が麻婆豆腐をスプーンですくい、未知の料理に期待を膨らませながら口に運ぶ。

 シエスタだけはぎゅっと目をつぶって、一気に口に含んだ。

 

 

 

 もぐもぐもぐ。

 

 

 …………ッ!? 

 

 

 

「「「かッ、からあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁいっ!!????」」」

 

 

 ルイズとシエスタとキュルケが一斉に叫んだ。

「かッ! からっ! からぁあ!?」

 ルイズはあまりの辛さに身悶え、拳で机をバンバンッとがむしゃらに叩いている。

「み、水ッ、みずぅ!!」

 キュルケは辛味を和らげようと、とっさにコップの水を一気に飲み干す。

「ひゃっ、ひゃっぱりぃ!!」

 シエスタは舌がうまく回らない調子で叫び、キュルケと同様にいそぎ水を口内に流し込む。

 ルイズもそれを目にし、彼女らに続いくように慌てて水を一気飲みした。

 そうすることでようやく一息ついた。

「な、なんなのよこれ!?」

 ルイズは大声で怒鳴る。食べた瞬間、顔中から汗が一気に噴きでてきた。

「辛い………辛すぎるわ………」

 キュルケはヒーヒー言いながら両手をあおいで顔に風を送る。口から火が出そうだ。いくら自分が”微熱”だからといって、それは御免被(ごめんこうむ)りたい。

 シエスタは口を抑えて涙目状態。すごく辛そうだとは予想したが、想像以上だった。

 3人ともあまりの激辛に圧倒されてしまった。

(なにが至高の味よ!)

 ルイズはキッとこれを作ったかなでを睨みつけ、キュルケとシエスタもつられるようにそちらを向く。

 そして彼女らは目を見開いて唖然とした。

 かなでが汗一つかかず、涼しい顔で激辛麻婆豆腐を食べ続けていたからだ。

 正直いってありえなかった。

 そこでルイズの脳裏に一つの可能性がよぎった。

 こんなのものを口にして平気でいられるはずがない。つまり、

「カナデ! あんた自分だけ辛くないのにするなんてどういうつもりよ!」

 常軌をいっする辛さなのになんともないなんて、それしか考えられない。

 鬼の形相で怒るルイズを見て、かなではスプーンを口にくわえたまま不思議そうに首をかしげた。

「とぼけてんじゃないわよ!」

 ルイズは身を乗りだし、テーブル向かいにあるかなでの麻婆豆腐にスプーンをつっこむと、奪い取るかのように自分の口に入れた。

 途端、

「カッハァーーー!!?」

 先程と同じ激辛におそわれ、大きく身体をそらして天をあおいだ。

(な、なによこれ!? まったく同じじゃない!?)

 つまりかなではこのとんでもなく辛い料理を食べて平然としているのだ。

 ルイズは涙目で口元をおさえて、信じられないようなものを見るかのような目をかなでに向けた。

 いったいどんな味覚をしているのだ。

 こんなものを食べられるのはおそらく彼女一人しかいない……

「ちょっとタバサ、あなた大丈夫なの!?」

 キュルケの大声を聞いて、ルイズとシエスタがタバサの方を見る。

(そういえばタバサも反応がなかったような……)

 彼女も平然としているのかと思ったが、そんなことはなかった。タバサも自分達と同じように顔中から汗が吹きでている。

 だが驚くことに彼女は麻婆豆腐を食べ続けていた。

 もっともかなでと違って、袖で汗をぬぐったり、水を飲んだりしているが。

「タバサ、あんた平気なの?」

 ルイズが驚きながら尋ねる。

 タバサは思った。

 たしかに辛い。こんな激辛は生まれて初めてだ。

 だがだからといってまずいわけではない。

 辛さのあとからくるこの絶妙な味わい深い風味。これは案外……

「当たりメニューかもしれない」

 そう感想を述べて食べ続けるタバサ。そんな彼女に、ルイズ達は非常に驚いて感心するしかなかった。

 かなではタバサに話しかけた。

「気に入ったら今夜もいかが?」

「それは遠慮しておく」

 バッサリ断る。正直これはたまに食べるのがちょうどいいくらいだ。

 続いてかなではルイズ達へ視線を移した。最初の一口から手が止まっている。

「食べないの?」

 不思議そうに尋ねると、

「無茶言わないでよ!」

「悪いけど、無理ね……」

「ごめんなさい、カナデさん……」

 ルイズ、キュルケ、シエスタから拒否されてしまった。

 そういうわけで、彼女らの麻婆豆腐を引き取ることになった。

 かなでは無表情で残った麻婆豆腐を見つめ、内心落ち込んだ。

(みんなと一緒に楽しく食べたかったのだけど…………気に入ってもらえなくて残念だわ)

 このまま残り全部食べてしまおうか。

 それはそれでいいのだが、どうも物寂しい気がする。どうしたものか?

 と、そこで、

(…………あ、そうだ)

 かなではあることを思いついた。彼女(・・)にも食べてもらおう。

「ガードスキル・ハーモニクス」

 かなでの体が一瞬光り、隣の空いてるイスに赤目の分身が現れた。

 突然のことに他の面々はぎょっとする。

 分身はけわしい顔で麻婆豆腐を見下ろし、スプーンを手にとった。

(まさか分身に食べさせる気?)

 ルイズ達は怪訝な顔になりながら、眉のつり上がったキツめの表情をしている分身を見つめる。

 かなでと違って感情的な分身だが、やはり本体と同じようになんでもないように食べるのだろうか? あのけわしい顔のまま…………

 分身は麻婆豆腐を一口食べた。

 次の瞬間、彼女の表情が一変。眉尻が下がってハの字眉となり、この上ない至福に包まれた満面の笑顔となった。

 ルイズ達は我が目を疑った。

 たとえば自分やクラスの女子、同僚の女性とかが極上のスィーツを食したらあんな顔をするだろう。あまりのおいしさに『ほっぺた落ちそう!』みたいな感じで(ほほ)に手をそえるだろう…………今の分身がやってるみたいに。

 だがそれは甘味の場合であって、間違ってもこんな激辛でするような表情ではない。

 そんなルイズらの想いもよそに、分身は笑顔のままパクパクと麻婆豆腐を口に運んでいく。

 食べ終えると、分身は満足そうにお腹をなでる。

 すると無数の0と1の細かな数字の光となって、かなでの中へとかえっていった。

 あとには空の器が2皿(・・)、残っされていた。

(…………ちょっと待って。ハーモニクスの制限時間は10秒のはずよね。ということは、時間内にアレを2皿も平らげたっていうの!?)

 驚愕しながらルイズはかなでに目を向けると、彼女のほうも2皿目に手をつけていた。

「ごちそうさま」

 ほどなくしてなんなく完食。スプーンを置くかなで。その顔にはやはりと言うべきか、汗ひとつかいていなかった。

(だからなんで平然としてられるのよ………)

 なんども驚くはめになったルイズ達は、驚きすぎて疲れてしまった。

 今回彼女達の心に、ある言葉が刻まれた。

 恐るべし、マーボードウフ。




分身の麻婆豆腐を食べた際の反応は4コマ版が元ネタです。
思っていた以上に時間がかかってしまいましたが、ようやくモット伯編が終わりました。正直内容はどうだったでしょうか?
次回の投稿にはまた時間がかかってしまいますが、どうにか頑張ろうと思います。

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