天使ちゃんな使い魔   作:七色ガラス

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どうも皆さん、こんにちは。
文章の書き方について調べていたら、漢字が多いと読みにくというのがあったので、今回はひらがな書きを多くしてみました。
それではどうぞ。

※2017/3/20 誤字を修正。



第14話 召喚されし本

 かなでとルイズは学院に着くとすぐさまキュルケの部屋へと直行した。

 ドアの前に立つルイズだが、なかなか開ける気配がない。キュルケが相手なのでためらっているようだ。さっきから手を伸ばしたりひっこめたりを繰り返している。

 だからかなでが代わりにノックした。

「ちょっ……!」

 心の準備ができていなかったのか、焦ったルイズは叱ろうする。

 だがその前にドアが開いた。

「カナデにルイズじゃない。どうしたのよ?」

 珍しい訪問者に驚くキュルケ。これから就寝のためか、紫のベビードールに紐パンという、なんとも(なま)めかしい姿だった。

「頼みがあるの」

「頼み? ……まぁここじゃなんだし、とりあえず入りなさいよ」

 キュルケは2人を招き入れた。

 それからかなでは事情を説明した。その隣ではルイズが固い表情でむすっとしている。

「ふーん、なるほどね。話はわかったわ」

 天蓋つきベッドに腰掛けて話を聞いていたキュルケは納得したようにうなずくと、枕元に置いてある杖を手に取って一振りした。

 部屋の隅に置かれた箱が開き、中のものが宙をふわりと飛んで、彼女の手元へと収まった。それは本のような形状の箱で、鍵がついている。

「これがその召喚されし書物よ。嫁入り道具として持たされたんだけどねー」

「シエスタを助けるために必要なの」

 かなでが淡々と言った。

「でもねー」

 キュルケはルイズに視線を向けた。

「………なによ?」

 ルイズは不機嫌な感じで尋ねる。

「本を持ってくるよう言われたのはカナデなんでしょ? なんであんたがモット伯と約束なんてするのよ」

「どうだっていいでしょ。カナデだけだと口約束ってことで反故(ほご)にされるかもしれないと思ったからよ」

「貴族同士ならそうはならない、と。まぁトリステインの貴族って無駄にプライド高いからね。あんたも例にもれず」

「うるさいわね。いいからその本さっさと渡しなさいよ」

「それが人に物を譲ってもらう態度かしら?」

 ルイズはむっとする。そのとおりであるが、この女に言われるとなんかムカついてくる。

「欲しかったら頭を下げてお願いしたらどう?」

 キュルケは挑発的な態度でからかうように笑った。

 それを受けて、ルイズは怒りを抑えながら冷静さを保つようにして返した。

「ふざけないで」

「ふざけてなんかないわ。あたりまえのことを言ってるだけよ」

 ルイズは拳を握りしめて睨みつけた。やはりこの女が簡単に渡してくれるわけなかった。

 彼女の全身がプルプルと震えた。

 すると、かなでがキュルケの前で床に両膝をついた。さらに両手も床につけ、額を地につけるように上体を伏せた。

 その見慣れない動作にキュルケとルイズは困惑した。

「なにそれ?」

 不思議そうにキュルケが尋ねると、かなではひれ伏したまま答えた。

土下座(どげざ)。心から謝ったり誠意を示すときにするわ」

 それはつまり、彼女の精一杯の頼みということか。

 メイドのためにどうしても本が欲しいのだろう。

「ふーん、なるほどね。カナデの心意気、見せてもらったわ」

 ほほ笑みながら出た言葉に、かなでは身を起こした。

 これで本を譲ってもらえるだろうか?

「でもダメよ」

 キュルケは厳しい目をルイズに向けた。

「使い魔がここまでしてるのに、ご主人様は高みの見物? それとも昼間みたいに、使い魔の誠意は主人の誠意、とでも言うのかしら」

 ルイズは目を吊り上げた。

「なによその顔。あんたも誠意を見せるのが筋ってもんじゃない?」

「くっ………」

 言い返すこともせず、言葉に詰まったルイズはうつむいた。

 その姿に、キュルケは肩をすくめると同時に目を伏せた。

 正直なところ、本を渡しても構わないのだ。家宝といっても自分には興味のないものだし。

 いつものように少しばかりルイズをからかってやりたかっただけなのだ。

(ルイズがあたしに頭を下げるなんてありえないしねー)

 さて、そろそろ、カナデに免じてという名目で譲ってやろうか。

 キュルケはそう思いながら(まぶた)を開け、そして予想外の光景を目にした。

 ルイズは直立のまま顔を伏せ、斜め80度の状態で上半身を倒そうとしている。しかしそれ以上先には進まず、プルプルと全身が震えている。

「お、おお、お願、ねねね…………」

 どうやらお願いしますと言おうとしているらしい。

 そう、あのルイズが、なんと頭を下げようとしてるのだ。

 キュルケにとって、これはまさに衝撃的だった。不倶戴天(ふぐたいてん)である自分に対してもそうだが、一介のメイドのためにそこまでしようとは――――

「ちょ、ちょっと!」

 びっくりして思わず止めようと腰を浮かせる。

 と、そこへ、突如ドアが開いた。

 キュルケとかなでがそちらを向き、集中しているルイズは気づいていない。

 そこにいたのはタバサだった。キュルケと違って制服を纏っている。

「タバサ?」

 キュルケは親友の登場に小首をかしげた。

 タバサは入ると、彼女の来室に気づかないルイズの肩を杖でトントンと叩いた。

「なによ……ってタバサ?」

 いつの間にという顔をするルイズ。続いてキュルケがタバサに尋ねる。

「どうしたのよタバサ?」

「偶然見かけたから」

 かなでとルイズを見渡しながら答えると、タバサはキュルケに向き直った。

「話は聞いた」

「まさか、ずっと盗み聞きしてたの?」

「ごめん」

 キュルケに一言謝る。

 それからタバサは彼女に向かっておじぎした。

「本を譲ってあげてほしい。わたしからもお願い」

 これには全員驚いた。

「ちょっと待ちなさいよ、なんであんたが?」

 ルイズの疑問はもっともだ。

 タバサは体を戻すと、

「あのメイドには用がある」

 と簡潔に答え、再び上体を前へと折り曲げた。

「ちょっ、ちょっと! タバサまでどうしたのよ」

 混乱するキュルケ。

 そこでさらにかなでが再び土下座した。

「お願い」

「…………はぁ、わかったわよ。渡すから、2人とも頭を上げなさいよ」

 キュルケが疲れたように肩をすくめると、かなでとタバサは体を起こした。

「まったくもう……。ほら」

 ため息まじりにキュルケはルイズに本を手渡した。

 受け取った本人は信じられないように、手元をじっと見つめた。

「どうしたのよ?」

 キュルケの言葉にハッと我にかえる。

 ルイズはお礼を言うべきかと思い、もごもごと口を動かす。

「ああ、お礼とかいらないから。言うなら2人にしなさいな」

 先手をうたれた。

 ルイズは気に入らないような、一安心したような、いろいろと複雑な表情をしたあと、かなでとタバサに「ありがとう」と口にした。

 それからルイズはキュルケに向き直った。

「一応中身を確認させてもらうわよ」

「別にかまわないわ」

 ルイズは手頃な机に箱を置き、鍵を開ける。そして中から、ちょっとした辞書並の厚さがある一冊の白い本を取りだすと、適当にページを開いた。

 屋敷を出る前。つまりルイズ達がモット伯から条件を出されたあと、彼は持ってくる本の特徴を語っていた。

『噂ではその本は異国の文字で書きつづられ、紙の質感は羊皮紙とは違うものであるらしい』、と。

 なるほど、たしかにそのとおりだった。

 見たことのない字がびっしりと記さており、めくるページの紙は羊皮紙よりも薄い。

「たしかに珍しい品かもね。…………なにが書いてあるかは全然わかんないけど」

 ルイズにとって本は読めて意味がある。

 そこへキュルケとタバサも気になったのか、周りから首をのばすようにして覗いてきた。

「へぇー、興味なかったから今まで開いたことなかったけど、こうなってたんだ………。タバサ、あなたこれ読める?」

 キュルケに問われ、彼女は首を横に振って否定した。

 かなでも横から覗き込み、そして無表情のまま、内心驚いた。

「貸して」

「あ、ちょっとカナデ……」

 割り込んできたかなでにルイズは非難の目を向けるが、彼女は気づかず、ページを次々とめくっては流れるように目をとおしていく。

(…………まちがいないわ)

 かなでにはそこに書いてあるものが読めた。いや、”すでに読んだことがある”というのが正しかった。

 彼女は本を閉じ、表紙のタイトルを確認した。

 

 ”Angelplayer”

 

 そこに書かれてある文字を見つめ、やっぱりと思った。

 そこへルイズが何気なく話しかける。

「なんて書いてあるかさっぱりだったでしょ」

「読めたわ」

「そう読めたの………って、えぇ!?」

 以外な言葉にルイズらはかなでに視線を集中した。

 彼女は表紙の文字を指さした。

「エンジェルプレイヤー。そう書かれてあるわ」

 それを聞いたルイズは、どこかで耳にしたことがあるような気がして首をかしげた。

 タバサがかなでにつめよった。

「それは、あなたがガードスキルを作るのに使った道具?」

「ああ!」

 ルイズは合点がいった。以前図書室でかなでに文字を教えてたとき、タバサとの会話に出てきたものだった。彼女は少し興奮気味に尋ねる。

「じゃあ、その本を使えば新しいガードスキルが作れたりするのね!」

「違うわ」

「え?」

 ルイズの考えを、かなではあっさりと否定した。

 そこへタバサが問いかける。

「この本はエンジェルプレイヤーではないの?」

「違うわ。これはただのマニュアルよ」

「マニュアル? 説明書ってこと?」

 今まで話についてこれず、ぽかんとしていたキュルケが口をはさんだ。

 かなではうなずくと、本が入ってた箱を調べる。

 すると中に、本より少し小さめで、白くて厚みのある紙製の四角いものがあったので、それを取りだした。

「なにそれ」

 ルイズが尋ねると、キュルケが答えた。

「ああ、それ。なんでも本にはさんであったらしいわ。たぶん変わった(しおり)かなにかだろうって」

 どうやら無価値なものという認識らしい。

 かなでは厚紙をよく見てみると、端のほうに点線のようなものが一直線に走っていた。

 それがなにを意味するか、彼女にはひと目でわかった。

 厚紙を左手に持ちかえる。

「ハンドソニック」

 かなでの右手に光とともに刃が出現した。

 突然のことに他の三人が驚くが、かなでは気にすることなく点線を切り裂いた。

 厚紙が封筒のように口を開けた。

 ハンドソニックを消し、開いた厚紙から中身を取りだす。

 それは手のひらより少し小さい、とても薄い円盤だった。中心に穴が空いており、かなではそこに人さし指を入れ、円盤の端を親指とではさむようにして持っている。表は白一色であるが、ひっくり返した裏面は銀色をしており、角度によっては室内を照らすロウソクの淡い光を受けて、虹色に反射している。

「なにそれ? 鏡?」

「綺麗だけど、映りがよくないわね」

 ルイズとキュルケが感想を述べる。

「これがエンジェルプレイヤーよ」

「これが?」

 ルイズ達は興味深く円盤を覗きこんだ。

「それじゃこれを使えばガードスキルを作れるのね」

「ダメよ」

「ってダメなの!? それがエンジェルプレイヤーじゃないの!?」

 ルイズはうんざりしたように叫んだ。先程から口にすること否定しかされていない。

「これだけじゃダメね。これを起動させるにはパソコンが必要なの」

 またまた知らない単語が出てきた。

「それがあればいいんじゃないの?」

 ルイズが尋ねるとかなでは首を横に振った。

「これはソフトだもの。パソコンに入れて使うのが当たり前なのよ」

「じゃあそのパソコンってのはどこにあるのよ」

 ルイズはキュルケに聞いた。

「さぁ? パソコンってのがどんなものかは知らないけど、召喚されたのは本だけだもの」

「そう」

 かなではエンジェルプレイヤーのディスクを元の状態に戻し、それをマニュアル本と一緒に、箱の中に戻そうとした。

 それをタバサが彼女の腕を掴んで止めた。

「円盤もモット伯に渡すつもり?」

「そうよ」

「もったいない」

 それを聞いた瞬間、ルイズはタバサにつっかかった。

「ちょっとタバサ、どういうつもりよ?」

「あの力を作れる道具を手放すのは惜しい」

 タバサの言いたいことはわかる。かなでも同じ気持ちだ。

 しかしだ。

「シエスタのためよ。それにディスクだけあっても使い道がないわ」

「それでも持ってて損はない」

「あんたまさか、ここにきてモット伯に本を渡すなとでも言うの!?」

「違う」

 ルイズの指摘にタバサは首を横に振ると、キュルケに視線を移した。

「この円盤については誰も知らない?」

「そうね。本のほうが珍しかったし、そもそも中身があるなんて思いもしなかったでしょうね」

「なら………」

 タバサは自分の考えをみんなに話した。

 

 

 ○

 

 

 月明かりの下、タバサの使い魔、風竜シルフィードが翼をはためかせて夜空を飛ぶ。

 その背にはタバサ、キュルケ、ルイズにかなで。そしてシエスタがいた。今の彼女はモット家のメイド服ではなく、私服の草色のシャツにブラウンのスカートを身に纏っていた。

 ちなみに寝巻き姿だったキュルケは当然制服に着替えている。

 召喚されし本を手に入れたルイズ達は、タバサのすすめもあってシルフィードでモット伯の館に急行した。

 約束通り本を持ってきたルイズ達に、モット伯は驚愕した。

 トリステインの貴族でヴァリエールとツェルプストーの因縁を知らぬ者はいない。モット伯もその例に漏れず、彼はルイズが本を入手することは不可能だと考えていた。かなでにしても平民に本を譲るような貴族はいないだろうと思っていたし、だからあのような条件を出したのだった。

 ルイズがシエスタの返還を求めるとモット伯は苦い顔をしたのだが、約束を果たした以上、しかたなく応じた。

 もっとも本を見たとたん、彼はその珍しさに驚愕し感嘆したのだが………。

 なにはともあれ、シエスタは何事もなく、無事に助けられたのだ。

「あの、ミス・ツェルプストー、本当にありがとうございました」

 シエスタがお辞儀すると、キュルケはひらひらと手を振った。

「気にしなくていいわよ。それに礼を言うならカナデとタバサ、なによりルイズね。3人とも、あなたを助けるためにあたしに頭を下げたんだから」

「ちょっ!? なに言ってんのよ!」

 ルイズが突っかかった。たしかに自分は頭を下げようとしたが、実際には下げてはいない。

 事実を捻じ曲げられて彼女は怒った。

 いっぽうシエスタはキュルケの言葉を聞いて目を見開いていた。

「そんな……ミス・ヴァリエールがそこまでしてくれたなんて……。ありがとうございます、ミス・ヴァリエール、カナデさん、ミス・タバサ」

 シエスタの感謝の言葉を受けて、ルイズは一転してうろたえた。

「べ、別にいいわよ。あんたにはカナデが世話になってるし……」

 そっぽを向くルイズ。その顔は少し赤くなっていた。

「でも、本当にあの本、渡しちゃってよかったのかしら」

「問題ない」

 キュルケの呟きに答えたタバサは、視線をかなでに向けた。

「ちゃんと持ってる?」

「ええ」

 かなでは懐から、ディスクが入ってるあの四角い紙ケースを取り出した。

 ディスクの存在が知れ渡っていないのであれば渡す必要なし、というのがタバサの考えだった。事実モット伯は本だけで満足した。

 キュルケは説明書がなくても大丈夫なのか聞いてきたが、かなでが中身を全部覚えているから問題ないというので、タバサの提案はなんなく受けいれられた。

「それにしてもなんでタバサが手助けしてくれたのよ? シエスタに用があったみたいだけど」

 ルイズが聞くと、タバサはシエスタの方に顔を向けた。

「マーボードウフを食べるため」

 知らない言葉にルイズとキュルケが首をかしげた。

 そこでシエスタが前の夜にしたかなでとの会話について話し、その際にでた料理の名前であることを説明した。

「まさかその料理が食べたいがために協力したっていうの?」

 タバサはコクンとうなずいた。

「現状、彼女以外の材料の入手経路を知らない」

 その言葉にルイズとキュルケは呆れた。

「麻婆豆腐はうまいわ」

 かなでがさらっと発言した。

 シエスタの話では、彼女は「至高の一品」だの「死ぬまでには食べておくべき」だの口にしていたらしいが……。

「ふーん、ならあたしもご馳走してもらおうかしらね」

 ここにきてキュルケも興味が沸いてきたらしい。

 そこへルイズも続くように言った。

「ちょっとキュルケ、なに抜けがけしてんのよ。わたしもマーボードウフとやらを食べるわ。いいわねカナデ」

「歓迎するわ」

 それを受けて、シエスタは満面の笑みを浮かべながら言った。

「それではここにいる全員分のトウフを作りますね。腕によりをかけますから、楽しみにしていてください」

 こうして一行はマーボードウフに期待しながら学院へと帰っていった。




そういうわけでアニメ版とは違う本が召喚されました。
本当はもう少し先までを予定してたのですが、まだ書けていないのと、区切りがよかったため、今回はここまでとなりました。
そういうわけで次回は後日談的な内容で、アレが登場します。

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