天使ちゃんな使い魔   作:七色ガラス

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こんにちは、お久しぶりです。
前回の投稿からまたしても2ヶ月以上経ってしまいました。正直読者の方々に見限られたり忘れられたりしてるんじゃないかとオドオドしてます……。
この2ヶ月はなんだか体がだるかったりして横になってたり、ガチで風邪ひいて寝込んだりしてて、筆が進みませんでした。
読者の皆様、遅くなってすみませんでした。

今回でやっと王都の話は一区切りです。
あと先に言っておくと、今回は4コマのネタとか出てきます。
それではどうぞ。

※2016/9/24、誤字を修正。


第11話 トリステインの城下町・後編

​ 武器屋での一悶着(ひともんちゃく)のすえ、喋る剣(デルフリンガー)を手にいれたかなでとルイズは、気絶しているスリの男を担いで前を歩くアニエスに連れられ、衛士(えじ)の詰め所にやってきた。そこは木造の二階建てで、このあたりの家屋(かおく)と比べてふたまわりも大きい建物だった。

 中に入るとそこは広間であり、正面奥には用件を伝えるための窓口が三つあり、その左右には奥へと続く通路があった。

 窓口では受付の人達が訪れる人々の相手をしており、広間では待機中の衛士が何人かいた。その中には若い女性の姿もいくつかあり、彼女らは全員アニエスと同じような鎧姿で、腰には剣と銃を下げている。ルイズはそのことが少し気になった。

 アニエスは担いでいる男を木目の床にゴトっと下ろした。すると近場にいた、アニエスと同年齢と思われる青いショートヘアの女衛士が近づいてきた。

「おかえりなさいませ隊長。これは?」

「ああ、町で捕まえた悪漢(あっかん)だ。地下牢に入れておいてくれ、ミシェル」

「了解です」

 ミシェルと呼ばれた女衛士は他の衛士の力を借りて男を左側の通路へと運んでいった。

 それを見送ると、アニエスはルイズ達に少々待ってもらい、事情聴取(じじょうちょうしゅ)のための部屋が空いているか確認をとるため、窓口の一つに向かった。

 対応したのは十代後半と思われる女衛士だった。彼女はアニエスの話しを聞くと、ふとルイズとかなでに視線を向けた。すると女衛士はハッとした表情となり、アニエスになにやら伝えた。

 それを聞き終えたあと、アニエスが二人のもとに戻ってきた。

「ヴァリエール殿、つかぬことをお(たず)ねしますが、連れに黒髪のメイドはおりますか?」

 質問の内容にルイズは少し驚いた。

「いるけど、どうしてそんなこと聞くのよ?」

「実は少し前に、主人が財布(さいふ)をすられたというメイドが駆けこんできたらしいのです」

 それはつまりシエスタがここに来たということだろうか?

 そういえば、あのあと彼女がどうしたかなんて、スリを追いかけることに夢中になりすぎて考えもしなかった。

「それで、そのメイドはどうしたの」

「はい、メイドは事のなりゆきを話したあと、主人達を探しにいこうとしたらしいのですが、見当もつかず途方にくれていたらしいのです。そこで受付の衛士は、当人達が同じようにここに来る可能性を考慮して、メイドを客間に待たせたとのことです。今もそこにいると」

「ならそこへ案内してちょうだい」

「かしこまりました」

 アニエスはルイズ達を連れて受付右側の通路へと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 角を曲がって階段を登り、扉がいくつか並んでいる廊下を歩いていく。

 アニエスはそのうちの一つで止まると、扉を開けて先に室内へと入った。

「どうぞ。こちらです」

 アニエスに招かれ、二人は中に足を踏み入れた。

 部屋は四畳ほどと(せま)く、中央には低い木製の長机と、それをはさむかたちでソファが左側に数人用の長いのが、右側に一人用のがそれぞれ置いてある。部屋の右奥の隅には小さな引出しがある。

 そして目当ての人物は長いソファの中央に座っていた。ショートの黒髪のメイド。紛れもなくシエスタだった。彼女はルイズ達に気づくと、飛び跳ねるように腰を浮かせた。

「ミス・ヴァリエール! カナデさん!」

 名を呼びながら小走りでルイズらの前へとやってくる。

「大丈夫でしたか? お財布は? お怪我(ケガ)とかされていませんか? カナデさんはその剣どうしたんですか?」

「大丈夫よ。少し落ちつきなさいよ」

 あれこれ聞いてくるのでルイズは少し呆れた。

「身内で間違いないようですな」

「ええ」

 ルイズがアニエスに向かって(うなず)き、シエスタがつられるように視線をそちらに移した。

「あれ?」

「ん?」

 シエスタとアニエスが互いに相手の顔をじっと見つめ合い、怪訝な表情になる。

 どうしたのかとルイズとかなでが思っていると、

「ああっ! あなたは!?」

「ああ、君はたしかあの時の……」

 当人達は突然驚きの声をあげた。

「なによ、あんた達知り合いなの?」

 ルイズが不思議そうに尋ねると、シエスタがこちらを見た。

「知り合いというか、以前助けていただいたことがあるんです。あれは」

「待て。それは今するべき話しではないだろう」

 アニエスの言うとおりである。しかしルイズは気になってしまった。

「かまわないわ。話題をふったのはわたしだし、今話してちょうだい」

「ヴァリエール殿がそう申すなら。ではせめて席に着いてからのほうがよろしいでしょう」

「そうね」

 アニエスにすすめられ、左側のソファの真ん中にルイズ、その左右にかなで、シエスタが座った。かなではその際、デルフリンガーが邪魔になるので足元に横たえた。

 アニエスがテーブル向かいの席に着いたところで、シエスタのちょいとした昔語りが始まった。

 それは彼女が学院に務める少し前、まだ故郷のタルブ村に住んでいた頃の、ある日のことだった。

 ここ王都にはシエスタの親戚が営む店があるらしく、そこを手伝うため、タルブ村での特産品を仕入れにきた従姉妹(いとこ)とともに彼女は王都に向かう荷馬車へと乗車した。

 道中はおだやかで、何事もなく着くと思われたが、突如として盗賊団の襲撃にあってしまった。(さいわ)いというべきか、その中にメイジはいなかったのだが、武器を持つ屈強そうな男達相手に、シエスタを含めほとんどの乗客達は恐怖におののいた。

 だがその窮地(きゅうち)を救ったのが、当時放浪の旅を続けていたアニエスだった。たまたま同じ馬車に乗っていた彼女は盗賊団と戦い、見事これを撃退した。

 その後、戦いの際に馬車が壊れてしまったため御者(ぎょしゃ)が馬を駆って近くの街へと助けを求めた。そして兵隊がやってきて事件は解決し、アニエスはその腕を買われて衛士にスカウトされたのだ。

「すごかったんですよ。盗賊達を剣でバッサバッサと次々にやっつけていって」

 興奮気味のシエスタの話を聞き、アニエスも当時の出来事に思いをはせた。

「だが頭目(とうもく)の大男との戦いは苦戦したな」

「アニエスさんが剣を弾かれたときはダメかと思ってすごく怖かったです。でもアニエスさん、すぐに銃を取り出して相手のすぐ近くで撃ったんです。あんな強そうな人が一発でやられちゃって、びっくりしました。世の中あんなすごい武器があるんだなって」

 話を聞き終えたルイズは二人の間柄について納得した。

 ふとアニエスの腰にある拳銃に目がいき、広間でのことを思い出した。

「話を聞くとあんたはともかく、他にも銃を装備した衛士がいたわね。しかも全員女性だなんて」

「それは近々、平民の女性のみで構成された部隊が新設されるからです。銃を備えていることから名を銃士隊といいます」

「平民のみ? どうしてそんなの作るのよ?」

 トリステイン軍には魔法衛士隊があるのになぜ?

此度(こたび)の件については、さる高貴(こうき)(かた)の意向ですが、何を思っての新部隊かは分かりかねます」

 さる高貴な方、というくらいには貴族だろうか? しかも新しい部隊を作れるということはそれなりの地位だと思われるが……。しかし今ここで考えても仕方がないことだ。

「そうなの………ねぇ、ちょっと銃の使い方を教えてくれない?」

 アニエスは少し驚いたような顔をした。

「意外ですな。貴族達は銃など取るに足らない品だと嘲笑(あざわら)うというのに」

「まぁ、そうよね……」

 自分でもらしくないとは思っている。

(わたしも少し前まではそう思ってたけど……)

 原因はかなでと武装した少年達とが戦うあの夢だ。あの威力を目にしたからこそ、本能的に銃について知っておきたいという思考が働いたのかもしれない。

 アニエスは、まぁいいかと思いながら、銃を抜いて説明を始めた。

 彼女の拳銃はフロントロック式といって、撃つ前に撃鉄(げきてつ)をおこし、引き金を引いて撃鉄のハンマーを火打石に叩きつけ、起きた火花で火薬を爆発させて丸い弾を撃ちだす。撃つときは銃身の前後にある照準で狙いを定めるのだ。

 一通り説明を聞いたルイズだったが、性能は自分が知る既存のものだった。

 だから一番気になることを尋ねた。

「その銃って、連射できたり素早く弾を装填したりできるの?」

「まさか。そのような銃は存在しません」

 アニエスが可笑しそうに苦笑した。冗談だと思われたのだろう。

(たしかに、あの夢に出てくるような銃がそうそうあるわけないわよね。あっても困るけど……)

「そう、ありがとう。もういいわ」

 ルイズが礼を述べるとアニエスは銃をしまった。

「さて、ではそろそろ事情聴衆といきましょうか」

「そうね。それが本題だし。始めてちょうだい」

 それからアニエスは立ち上がると引出しへ向かい、羊皮紙(ようひし)とペンを用意し、再び向かいの席に着いた。

「ではこれから始めるわけですが、実はわたしはずっと気になっていることがあるのです」

「なによ?」

「その前に確認しますが、はじめにあなた方はあの男に財布を奪われ、お二人はそれを追跡した」

 アニエスはルイズとカナデを見つめる。

「しかしヴァリエール殿は途中ではぐれた。これは武器屋でのヴァリエール殿の発言からの推察になります」

「そうね。合ってるわ」

 自分はたしかに武器屋でスリを探していたことを口にしている。

「カナデ殿は一人スリに追いつき、おそらくは戦闘となった。そして財布を取り戻した」

 かなでは頷いて肯定する。財布については武器屋でルイズに渡すところをアニエスは見ている。

「さて、わたしはここで疑問を抱きました」

「疑問?」

「カナデ殿は見たところ平民のようですが、あの男はメイジでした。それを相手に平民の少女が財布を取り返せるでしょうか? それも無傷で」

 アニエスは目を鋭く細める。たしかにかなでには争ったような傷や汚れはない。不審に思うのも当然かもしれない。

 これはガードスキルについても話す必要がありそうだ。

「カナデは東方の出身で、特殊な力の持ち主なのよ」

 ルイズはガードスキルついても織り交ぜ、事件について話しだした。

 かなでが財布を取り戻したくだりについてはルイズは知らないので、途中でかなでにかわってもらった。そうしてアニエスは一連のいきさつについて理解することとなった。

「なるほど………事情は分かりました。ですが……」

 アニエスはかなでをじっと見据えた。

「話に出てきた君のガードスキルという能力。君はメイジでもなく亜人でもないが……本当に魔法のような………分身を生み出すような力があるのか?」

 そう尋ねる彼女の目には疑いの色が浮かんでいた。ルイズはまぁ無理もないと思った。

「証拠を見れば納得するかしら。カナデ、実際にやってみせなさい」

 ルイズに言われてかなでは頷いた。

「ガードスキル・ハーモニクス」

 彼女の体が一瞬光った。

 さて、突然だが少しばかり閑話(かんわ)をはさまさせてもらう。

 ハーモニクスとは本来、分身が上方向に出現する仕様(しよう)となっている。一応スリとの交戦時のように指向性をもたせることも可能だが、何も考えず発動すると基本上に向かってとびだす。今がそうだ。

 そしてここは天井があまり高くない室内である。

 さて、そんな場所でとびはねる感じで出現すると、どうなるかというと……。

 

 ドゴォンッ!

 

 分身はおもいっきり天井に頭をぶつけた。そしてドサッとソファの裏側へと落ちた。

「「「……………」」」

 なんともいえない沈黙が一瞬室内を満たす。だがそれも本当に一瞬のこと。かなで、ルイズ、シエスタは座った状態から後ろを向いて、ソファの裏側を覗きこんだ。

 そこには両手で頭をおさえてうずくまり、ぷるぷると痛みに(もだ)える分身がいた。そうとう痛かったらしい。

「大丈夫?」

 かなでがそっと尋ねる。

 すると分身はガバッと立ちあがると、キッと涙目でかなでを睨みつけ、彼女の頭をパコンっとはたいた。かなでは叩かれたところを右手でおさえた。

「痛いわ」

「それはこっちのセリフだわ! こんな狭い部屋で呼び出すなんてどういうつもり!? ちょっと考えれば分かるじゃない! だいいちあなたがボケっとしてたせいで()られた財布を取り戻したのは誰だと思ってるの? あたしでしょ! それなのにこの仕打(しう)ちはいったいなんなのかしら!? そもそもッ」

 分身は早口でまくしたてて、かなでを責めた。

 ルイズとシエスタは唖然(あぜん)とした様子で、怒り狂う分身を眺めている。分身の性格が本物のかなでとあまりにもかけはなれていたからだ。

 そして十秒が経ち、分身は怒鳴りちらしている最中で消え、無数の0と1の赤い光となってかなでの中に戻っていった。

 彼女は頭にやっていた手を下ろしてアニエスに向きなおる。

「今のがハーモニクスよ」

「………なるほど、たしかにメイジとは違うが、魔法のようなことができるのだな」

 アニエスは直前の騒動に呆けながらも納得する。それからなにかを思案するように腕を組んだ。

「ねぇカナデ、あの分身、あんたとずいぶん性格が違わない?」

 姿勢を戻したルイズが気になって聞いてきた。

「ハーモニクスはちょっと問題のあるスキルだから」

「問題って、たとえばどんな?」

「今までにあったことをあげると、戦闘中無意識で発動したせいか勝手に動きまわったり、敵対したり、対抗できないようにあたしを地下に閉じこめたり。あとは元に戻したら戻したで、あたしの身体を乗っ取ろうとしたり」

「ちょっとどころの問題じゃないじゃない!?」

 聞けば聞くほどなんておっかないスキルだ。かなで以外は愕然(がくぜん)とした。

「ま、まぁそのことについては置いといて、話を戻しましょう」

 アニエスが軌道修正する。

「今回の事件のなりゆきについてですが、お二人は盗人に追いつき交戦。空を飛んで逃げようとした男をヴァリエール殿の魔法で撃墜。その際に男は財布を落とし、男自身は武器屋に墜落した、ということで話を合わせていただきたいのです」

 ルイズは眉をひそめた。なぜそんなことをしなければならないのか?

「どういうこと? わたし達から聞いた内容をそのまま報告すればいいじゃない」

「それができれば苦はないのですが、正直ガードスキルについてそのまま報告しても上の貴族方が信じるかどうか……。最悪、まともな報告書一つ提出できないのかと(とが)められる可能性もあるのです」

「………たしかに」

 もしルイズが彼女の上司で、ハルケギニアの一般的な感性でそんな報告書を受け取っても、ふざけているのかと思うだろう。それを回避するには先ほどのようにガードスキル発動の瞬間を直接見せることになるのだが、わざわざそいつの元に出向くなんて面倒な話だ。

「それに我が銃士隊は所詮平民の隊。これからという時期にそんなことになれば他の魔法衛士から嘲弄(ちょうろう)を受けるでしょう。そうなれば隊の設立の後援者である、さる高貴方に面目がありません。どうかこのとおりです」

 アニエスは誠心誠意頭を下げた。どうやら彼女の願いを無下にすることは、その高貴な方の顔に泥を塗ることにもなるようだ。

「………まぁそれで事が簡単に済むんだったら、それでいいんじゃないかしら」

「感謝します。ヴァリエール殿」

 頭を上げたアニエスが心からの礼を口にする。こうして調書は事実から少しの改変を受けてまとめられた。

「さて、スリを捕まえたあなた方には報奨金(ほうしょうきん)が出ます。たいした額ではありませんがお受け取りください。準備いたしますのでしばしお待ちを」

「待って」

 アニエスが席を立とうとするのをかなでが(さえぎ)った。

 周りがどうしたのだろうと思っていると、かなではルイズの方を向いた。

「ルイズは報奨金欲しい?」

「別にいらないわよ。あんたに全部あげるけど?」

「そうじゃないわ」

 首を横に振ったかなでは、今度はアニエスを見据える。

「あたしも報奨金はいらいないわ」

 アニエスは意外そうな表情をした。

「なぜだ?」

「あたしのせいで武器屋が壊れてしまったわ。だから報奨金は武器屋の修理代の足しにしてほしいの。デルフリンガーだってタダでもらってしまったし」

 それを聞いてアニエスは殊勝(しゅしょう)なことだと思い、ほほえんだ。

「そういうことなら心配しなくていい。このような場合は国から保証金が出してもらえる」

「でも………」

「それに受け取ってもらわないと、こちらとしても面倒な報告書が増える。素直に受け取ってもらえると話が簡単で助かるのだが」

「………これ以上迷惑がかかるなら、もらうしかないわね」

「助かる」

 アニエスは笑いながら頷いた。

 こうしてかなでは少しばかりのおこづかいを得ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 詰め所を出たところでルイズはため息をついた。

「はぁ、余計な時間くっちゃったわね」

「それじゃ当初の目的を果たしにいきましょう」

 シエスタが気をとりなおすように言うと、かなでがキョトンと小首を(かし)げた。

「目的って、なんだったかしら?」

 ルイズとシエスタがずっこけそうになった。

「あんたの服でしょ!」

「ああ、そうだったわね」

「まったくもう……それじゃシエスタ、頼んだわよ」

「はい!」

 一行は服を求めて歩き出した。途中、買ったものを入れる(かばん)が必要なので、露店(ろてん)肩紐(かたひも)のついた薄茶色の大きめの鞄を購入した。

 その際、かなでは受け取った報奨金があるので自分で支払いをしようとしたが、

「使い魔に必要なものを整えるのは主の役目よ。だからわたしが払うわ」

 と言って代金はルイズが払った。

 かなではデルフリンガーを背負た状態で、鞄を右肩から袈裟懸(けさが)けにする。ちょっと大変そうに見えたシエスタが「どちらか持ちましょうか?」と提案したが、平気だったので断った。

 その後シエスタに連れられて一行はとある仕立屋に来た。なんでも彼女の親戚がひいきにしている店らしい。

 中に入ると、店内は所狭しと大量の衣類が置いてあり、客の姿もちらほら見えた。

「それではまず下着から見ていきましょう」

 シエスタに先導されて下着のあるエリアにやってくる。下着のためか、あるのはほとんどが白地のものだった。

 そこで替えのキャミソールを三着選ぶ。

 次は下のほうだが、周りにあるのはドロワーズがほとんどだった。かなでとしては今履いているのと同じようなのが欲しいので、困ってしまった。

 とそこへ、

「カナデさん、カナデさん。欲しいのってこういうのじゃないですか?」

 シエスタが別の下着を持ってきて両手で広げた。

 それは自分が探し求めていたもの。見慣れた三角型のパンツだった。

「どうしたの、それ?」

「これはこの店だけで扱っている品なんです。わたしの従姉妹や彼女の仕事仲間もこういう小さい下着を着けてるんです」

 なるほど、彼女がかなでをこの店に連れてきたわけが分かった。おかげで欲しかったものが見つかった。これで下着の問題は解決である。キャミソール同様にパンツも三着手にする。

「ありがとう。すごく嬉しいわ」

「喜んでもらえて良かったです」

 無表情ながらも嬉しそうなかなでにシエスタはほほえんだ。

 続いて彼女らが向かったのはさまざまな服がかけてあるエリアだ。

 そこでまずは寝巻きを探した。

 かなでは以前、死後の世界で着ていたような上下の別れたパジャマがないか眺めていたが、見つからなかった。

 代わりに、丸襟(まるえり)で、丈が手首や足首を(おおう)うほどである、ゆったりしたワンピースタイプの白い寝巻きで自分のサイズに合うものを選んだ。

 その次は普段着だ。シエスタが似合いそうなのを見繕(みつくろ)っていく。

「これなんてどうでしょう」

 彼女が見せたのは、丈の長さがかなでの膝と同じくらいある、ノースリーブの白いワンピースだ。かなでは一目で気に入った。

「いいわね」

「たしかに清楚(せいそ)っぽいのはカナデに似合いそうね」

 ルイズも納得して同意する。

「それとこの上着を組み合わせたらどうです? 絶対似合いますよ!」

 シエスタが提示したのは、丈がウェストラインくらいの、袖の短い前開きの空色のシャツだった。地球でいうジャケットに近い。

「ならそれもいただくわ」

「他に気に入ったのはある?」

 ルイズに言われ、かなでは他のエリアも歩きながら商品を吟味(ぎんみ)していく。

 するとあるものを手にした。

 それは古いセーラー服であった。

「カナデさん、それは水兵服です。男物ですよ」

 シエスタか指摘すると、かなでは首を横に振った。

「あたしの故郷では女子生徒の制服だったわ」

「制服? つまりそれ着て学校に通ってるってこと?」

 そこまで言ったところで、ルイズの脳裏にあの夢での光景がよぎった。

(そういえばそんな格好をした女がいたわね。兵士だと思ってたけど、本当は学生だったのかしら?)

 ふとかなでを見ると、彼女はジーっとセーラー服を見つめている。もしかしてああいう格好をしたいのだろうか?

 そう思ったルイズはそれを勧めることにした。

「欲しいんだったら買ってもいいわよ」

 かなでが驚いたようにこちらを向いた。

「いいの?」

「かまわないわよ。けど、スカートはどう合わせるのよ」

「自前のがあるわ」

「使い回す気? そんなことするくらいなら新しいの買ったほうがマシよ」

 呆れるルイズだが、シエスタは商品を見渡して困ったように眉をひそめた。

「でもお二人が履いているようなスカートはなさそうですよ」

 たしかに、置いてあるのはロングスカートばかりだ。

 ルイズはため息をつき、妥協(だきょう)することにした。

「しかたないわね。我がヴァリエール家愛顧(あいこ)の店があるから、そこで調達しましょ」

 シエスタが目を丸くした。

「なによその顔」

「い、いえ……ただカナデさんに貴族の格好はされられないのではなかったのですか?」

 そういえば昨夜そんなことを言った。だからシエスタを連れてきたのだ。

「たかがスカート一着くらい別にいいわよ。それに同じのをすでに履いてるから今更よ」

 ルイズはかなでのブレザーとプリーツスカートの制服姿を眺めながら呟いた。

 ちなみになぜ水兵服があったのか店主の中年女性に聞いたところ、昔の戦争での捕虜のぶんどり品が流されたものらしいとのことだった。よく今まで残っていたものだ。

 その後会計を済ませた一行は、ルイズの案内でボルバドゥールという仕立て屋に連れてこられたが、ここでの買い物はミニスカート一着なので時間はかからなかった。

「ようやく終わりましたね」

「ただ服を買いに来ただけなのに、なんだかすごく時間がかかった気がするわ……」

 店から出て、ひと仕事終えたかのような雰囲気のシエスタとルイズ。そんな二人にかなでは頭を下げた。

「ありがとう。あたしのために」

「気にしなくていいわ。使い魔が必要なものを揃えただけだから」

「そうですよ、わたしもカナデさんの服選びができた楽しかったですから」

 二人は笑いながらそう返した。

「ところでシエスタ。わたし達はこのまま帰るけど、あんたはどうするの? せっかくの王都だし、どこか寄りたい所があるならそっちに行っていいわよ」

「よろしいんですか?」

 シエスタは少し悩むそぶりをした。

「………でしたら、わたし親戚のお店に顔を出しに行ってもよろしいでしょうか?」

「王都にあるっていう例の店ね。いいわよ。それじゃここでお別れね」

「はい。それでは失礼します」

 シエスタはルイズに一礼すると、かなでに笑いかけた。

「それではカナデさん。また学院で会いましょうね」

「またね」

 こうしてシエスタと別れ、ルイズとかなでは魔法学院への帰路についた。




ようやく王都での話が一段落しました。前・中・後編となりましたが、まさかここまで長くなるとは思いませんでした。
それにほとんどオリジナル話になり、とっても苦労しました。すごく難しかったです。自分では納得のいくものを書いたつもりですが、たぶんツッコミ所とかあるんだろうなぁ~と思ってます。

シエスタとアニエスの過去話のくだりは本当はなかったのですが、以前感想にて「シエスタがなぜ銃について知っているのか」という質問を受けて、それが元で組みこんでみました。
あと今回の分身の性格は4コマ漫画版を元にしています。4コマではアニメで消えたキャラが残ってたりして、分身も消えずに残りました。かなでと違って感情豊かなキャラになってました。

次の話はまだ書いてる途中で、いつになるか未定です。できるだけ早く出したいと思ってます。

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