天使ちゃんな使い魔   作:七色ガラス

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前回のあとがきで、「できれば一週間ごとに投稿できたらな」と書いたけど、できませんでした。がっくし………。

それはさておき、前回の続きです。楽しんでいただけたら嬉しいです。

あと前話にて一部修正しました。。詳しくは前話のまえがき参照。


第10話 トリステインの城下町・中編

 武器屋で買いものを終えたアニエスは、カウンターにて店主から拳銃を収めたホルスターを受け取ると、その場で腰周りに装着した。

 そして店を出ようと、店主に背を向けて歩き出した、その時だ。

 目の前で天井が派手な音とともに崩れ落ちた。

「なっ!?」

 驚くアニエスと店主は、崩落(ほうらく)の衝撃により瞬く間にブワッと舞い上がった粉塵(ふんじん)を受けてしまい、激しく咳きこんで顔を背けた。

 天井に空いた穴から太陽光がさしこむ。どうやら屋根から室内にかけて貫通しているようだ。その真下、家屋(かおく)残骸(ざんがい)の中心には二人の人間がいた。

 一人はローブを纏った痩せぎみの男で、もう一人は長い銀髪と赤い瞳が特徴の小柄な美少女。

 言うまでもないが、男はメイジのスリで、銀髪の少女は立華かなでがハーモニクスで生み出した分身である。

 戦いの末、分身は男を武器屋の屋根に叩きつけたが、衝撃が強すぎたため屋根をぶち破って室内へと落ちてきたのだ。

 スリは受けたダメージが大きかったのか、仰向けの状態で気を失っている。

 分身は男が握っている財布を奪い返すと、バッと大ジャンプして天井の穴から出ていった。

 それから数秒して粉塵は治まった。

「ゴホッゴホッ……なんなんだ、いったい?」

 口を押さえながら、もう片方の手をヒラヒラと動かして粉塵をはらうアニエスは、状況を確認しようとする。店の中心には瓦礫が積み重なり、その上に男が倒れているのが見えた。

(あの男がこれの原因か?)

 なんにせよ介抱が必要だ。アニエスは足下に気をつけながら男に近づき、しゃがむと相手の頬をぺちぺちと叩きだした。店主も気になったのか男に近寄り、覗き込む。

「おい、しっかりしろ。大丈夫か?」

「うぅ…………」

 男がうっすらとだが目を開けはじめた。まどろむ意識の中、彼の目に飛び込んできたのは自分を囲む親父と女。そして女の格好には見覚えがあった。鎖かたびらの上に纏う鎧は、たしか衛士の装備のものだったはず。

 それを理解した途端、男の意識は一気に覚醒した。

「うわぁあああああああああああ!!!???」

 突然叫びだした男に、店主とアニエスはびっくりして身を引いた。

 男は勢いよく起き上がると、ひ弱そうな店主に飛びかかった。左腕で首を拘束し、右手の杖を店主に突きつけた。

「う、動くなぁ~! 動くとこいつの命はないぞ!!」

 突然の男の奇行にアニエスは呆気にとられた。

「な、なにをする!? わたしはただ………」

「黙れ黙れ黙れェ!! お、お前衛士だな!? 僕を捕まえる気なんだろ!」

 男は一人勝手に(わめ)く。アニエスはその言動から、相手が何かやましいことをしていると察した。

「ひ、ヒィィィ!? た、助けて……命だけは助けてくれぇぇ!!」

 店主は情けない悲鳴をあげて必死に命乞いした。杖を所持しているということはメイジだ。平民では絶対に(あらが)うことができない存在に絶望と恐怖で顔を歪ませた。

「貴様! 人質を離せ!」

 男を睨みつけ、アニエスは拳銃に手を伸ばそうとした。

「う、動くなって言ってるだろぉ~!」

 半狂乱状態の男は店主の頬にぐぃっと杖の先端を押しつけた。恐怖で店主が涙や鼻水を垂れ流す。身動きできないアニエスは悔しそうに歯噛みした。

「そ、そうだ、そのままじっとしてろよ!」

 男はアニエスをじっと睨みつけたまま、店の出口まで後ずさっていく。

「おい、僕は手が塞がってるんだ。ドアを開けろ!」

 怯える店主は、窮屈な姿勢のまま、どうにか後ろ手でドアノブを捻り、扉を開けた。

「女! お前は僕の姿が見えなくなってもじっとしてろよ。僕の前に現れたらこいつを殺すぞ!」

 念を押すように警告すると、後ろ向きで外に出ようと歩き出した。

 その時だ。

 店先にいた人物に男はいきなり後頭部を殴り飛ばされた。強烈だったのか、一撃のもと気絶し、前のめりに倒れた。

 店主も一緒に倒れたが、拘束がゆるむやいやな、すぐさま這い出るように逃げ出した。

 アニエスは突然のことに呆けたが、すぐさま我に返ると男を取り押さえ、杖を奪い取った。

「おい親父、縄持ってこい!」

 返事はない。見ると店主は床にへたりこんで放心したようにこちらを見ていた。

「なにしている! 早くしろ!」

「へ、へい!」

 店主はアニエスの一喝(いっかつ)で飛び上がると、奥の倉庫へと駆け込み、荷造りなんかに使う丈夫そうな縄を持ってきた。

 それを受け取るとアニエスは男の上半身を起こして縛り上げた。

 アニエスはほっと一息ついた。そこでふと、男を気絶させた者の正体が気になり、そちらを見上げた。

 店先にたたずんでいたのは、長い銀髪に金色の瞳の少女――――立華かなでの本体だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時はほんの少しさかのぼる。

 空中にてハーモニクスを発動したあと、かなでは近くの屋根へと降りたった。

 そこから分身がスリの男と数件先の家の屋根を突き破るのが見えた。

 分身はすぐさま中から出てきた。そして屋根を飛び渡ってかなでの元に戻ってくると、取り戻した財布を渡した。

「ありがとう」

 受け取った財布を(ふところ)にしまうと、分身は無数の0と1の赤い光となって、かなでの体へと(かえ)っていった。

 あとはルイズと合流するだけなのだが、かなでは先ほどの家が気になった。屋根にポッカリと穴が開いている。

(………あれ、あたしのせいよね)

 人が中にいたのなら大丈夫だろうか。スリはどうなったのだろうか。いろいろ気になった彼女は、分身が通ってきた道を逆にたどっていった。

 目的の家は衝突のせいで通行人達の注目の的だった。

 そこにかなでが空から家の前へと降りたつ。

(入るなら当然玄関からよね)

 中に入ろうと扉の前に立った、その時だ。

 目の前で扉が開き、あのスリが背を向けた状態で出てきた。しかも中年男性を拘束しながら「こいつを殺すぞ!」などと叫んでいる。

(………なんだか物騒(ぶっそう)なことになってるけど、これって、あたしのせいかしら?)

 たとえそうでなくても、目の前の状況を放っておくのはよくない。

 かなでは拳を振りあげ、スリの男をぶん殴った。

 以上が現在に(いた)る彼女の一連の行動である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かなでは武器屋に入る。入口のすぐ近くで鎧を纏った短い金髪の女性が気絶したスリを縄で縛っているのが目に入った。

(捕まったみたい。一件落着かしら)

 それからなにげなく店内を見渡す。

(あっちこっちに武器がいっぱいあるわ。武器屋かしら?)

 そんなふうに首を動かしていると、

「あぁ! カナデ!!」

 外から聞き覚えのある大声がした。

 振り返ると、そこには汗を流し、呼吸の荒いルイズがいた。

「ルイズ、どうしてここに?」

「それはこっちのセリフよ!」

 ルイズが怖い顔で叫びながら店内に入ってきた。あのあと彼女は必死に走り回っていたのだが、途中近くで大きな音がしたので気になり、来てみたところでかなでを見つけたのだ。

「あんた今までどこに行ってたのよ! こっちはずっと盗人(ぬすっと)探し回ってたっていうのに!」

「財布なら取り返したわ」

「え?」

 憤慨(ふんがい)するルイズが気の抜けた声を出す。かなでは財布を差し出した。

 すると彼女は我に返り、財布を受け取ってすぐさま中身を確認した。減っている様子はない。

 ようやく安心したルイズは、乱れた呼吸を整えようと何度も深呼吸した。

 少しして落ち着いたところで、かなでが頭を下げた。

「ごめんなさい。あたしの不注意で盗まれてしまって」

「………まぁ、無事に戻ってきたんだし、許してあげるわ」

 ルイズがしょうがないなぁというふうに腕を組んだ。

「そういえば、あの盗人はどうしたの?」

 ふと気づいて尋ねると、かなでが縛られてるスリの男を指さした。

「あぁ! こいつ! こんなところに!」

 男を見た途端、再び怒りがこみ上げてきたルイズはずかずかと歩いていく。

 その前にアニエスが立ちはだかった。

「なによ、あんた?」

「失礼。わたしは衛士のアニエスという者です」

 不機嫌そうなルイズを横目に、アニエスはかなでに視線を移した。

「まずは悪漢(あっかん)捕縛(ほばく)、感謝する。なにぶん人質を取られていて、手をこまねいていたのでな」

「悪漢? 人質?」

 なんのことだとルイズは怪訝(けげん)な表情で首を(かし)げた。

 そこに店主が愛想笑いで手揉みしながら近づいてきた。 

「そうなんですよ! いやぁお嬢さんのおかげで命拾いしやしたわ。まさかメイジに襲われるたぁ思ってもみなかったですわぁ~」

 礼の述べる店主。するとそこへ低い男の声がした。

「きっとおめぇの日頃の行いが悪いからだろうな」

「んだとデル公!」

 店主が笑顔転じて怒り顔になり、声のした方を睨む。 

 かなでとルイズも同じ方を向いた。

 しかしそこには人影はない。(たる)の中に乱雑にいくつもの剣が入れてあるだけである。

 かなでは小首を傾げた。

「気のせい?」

「違うわ。わたしも確かに聞こえたもの」

「おう、そのとおりだぜ、貴族の娘っ子」

 また同じ方から声がした。

「隠れてるのかしら?」

 かなでは声のした方へと近づいた。

「………誰もいないわ」

「嬢ちゃんの目はふしあなか?」

 かなでは声の正体に気づき、無表情ながら驚いた。声を発していたのは一本の()びたボロい長剣だった。

「この剣、喋ったわ」

 かなでがそう言うと、ルイズが当惑した声をあげた。

「それって、インテリジェンスソード?」

「なにそれ?」

「意思を持つ魔剣のことよ。わたしも初めて見たけど」

 ルイズの説明を聞いたかなでは、剣の柄を握り引き抜くと、物珍しそうにそれを見つめた。

「さすがファンタジーの世界。すごいのね」

「へっ、当然さ! 俺はなんたって伝説の………って、ん? んんん??」

 剣は何かを思案するかのように唸り声をあげた。

 どうしたのだろうとかなでが怪訝に思っていると、

「あっーーーーーーーー!!! お、おめぇは~~~~~!!!!」

 突然剣が耳を塞ぎたくなるような大きな叫びをあげた。

 ルイズ達はうるさそうに顔を歪め、店主が怒鳴った。

「うっせーぞデル公! 静かにしやがれ!」

「やかましい黙ってろ! それよりおめぇだ、おめぇ!!」

「あたしがどうかしたの?」

 かなでは小首を傾げる。

「ど、どうかしたって!? そりゃアレだ、アレ!! たしかえーとだな、なんていうか……そのぉ……」

 なんとも要領(ようりょう)を得ない言葉が返ってくる。

「なんだかなぁ……この感じ、前にどっかで……あーくそ! 思い出せそうで、出てこねぇ!!」

 剣は必死になにかを思い出そうとしていた。

「なぁおめぇ、昔どっかで俺と会ったことないか!?」

「ないわ」

「即答かよ! だが俺はおめぇを知っている………ようか気がする。たぶん。つーことで、おめぇ俺を買え! この伝説の魔剣をよ!」

「いらないわ」

 かなではそっと剣を戻した。

「そうか買うか! これからよろしくな………って、あんれぇぇぇぇ!?」

 買ってもらえると思っていたのか、動揺が激しかった。

「なんでぇ!? ここは買う流れだろぉがよ!」

「いやどう考えても違うでしょ」

 ルイズがまっとうなつっこみを入れる。

「娘っ子には聞いてねぇよ! 嬢ちゃん、なんで買わねぇんだ!?」

「あたしはお金をもってないわ」

 そのとおりだ。資産を握っているのは主人であるルイズであり、かなでには自由にできるお金はない。

「文無しかよ、なんてこった!? だったらタダだ! それならいいだろ!」

「ぅおいデル公! なに勝手なこと言ってんだ!」

「うっせー! てめぇさっきこの嬢ちゃんに命救われただろ! ならお礼を差し上げるのがスジっつーもんだろぉが!」

 剣のそれっぽい言葉に、店主は「うっ」と唸って黙りこんだ。

「そんな訳で俺をもらってくれ」

 かなではじっと剣を見つめた。

 そして、

「ごめんなさい」

 ぺこりと頭を下げた。

「タダなのになんでだぁー!?」

「だって必要ないし。それにちゃんと使ってあげられないと思うから」

 使い慣れたハンドソニックがある以上、この剣を使う機会はおそらくないだろう。

「だったら包丁でも(なた)代わりでもいい!」 

「鉈はともかく包丁は無理があるだろ」

 今度はアニエスがつっこんだ。

「どれもハンドソニックで間に合ってるわ」

 首を横に振るかなで。

 たしかに、とルイズは思った。

(カナデってたまにハンドソニックで薪割(まきわ)りしてるし………ちょっと待った。今"どれも"って言った? つまりハンドソニックを包丁代わりにするってこと?)

 そこまで考えて、ルイズはいやいやいやと首を振った。いくらなんでもそれはないだろう。

 そんな心境をよそに、かなでと剣のやりとりは続いていた。

「とにかくお願いだから! なんでもするからさぁ、頼むよぉぉ!!!」

 この剣マジで必死だ。ルイズと店主は露骨(ろこつ)に気持ち悪がる。アニエスもちょっと引いた。

 そして、かなでの気持ちが変わることはなかった。

「本当に、ごめんなさい」

 頭を下げると、彼女は剣に背を向けて歩き出した。

「ま、待ってくれ! 俺、実は記憶喪失なんだ!」

 それを聞いたかなでは足を止めると、振り返った。

「記憶喪失?」

「そ、そうだ!」

「剣が記憶喪失になるの?」

 かなでの言葉はごもっともだ。ルイズもうさんくさそうに剣を見つめる。

「ほ、本当だってば! 俺は作られて………たぶん六千年か? それくらい生きてるからな。昔の記憶がねぇんだ」

「それってただの物忘れじゃない」

「細けーことはいいんだよ娘っ子! でだ、俺は嬢ちゃんに対して猛烈な既視感を感じたんだ。おめぇと一緒にいりゃ自分のことを思い出せるかもしれないんだ! それに自分で手がかりを探そうにも俺は剣だ。自由に動けないから自分じゃどうしようもない。だから頼む!」

 剣の必死の主張。

 これを聞いたかなではどうするか悩んだ。小首か可愛らしく左右にかたむく。

「これだけ言ってもダメなのか! 薄情なやつだな! 自分の前に記憶喪失で困ってるやつがいたら知らんぷりすんのか、おめぇはよ!」

 その言葉に、かなでの脳裏に一人の男が浮かんだ。

 音無弦結(おとなしゆづる)。死後の世界で巡りあった、自分の恩人たる男だ。出会った当初、彼も記憶喪失に悩んでいた。今思えば、自分は彼の記憶を取り戻す手伝いをもっと積極的にするべきだったのかもしれない。

「分かったわ」

「ほ、本当か? おおー! 感謝するぜ嬢ちゃん!」

 剣は心から嬉しそうな声を上げた。

 するとルイズが不満そうに聞いてきた。

「ちょっとカナデ、 本気なの?」

「人助けはいいことよ」

「人じゃなくて剣でしょ………」

 ルイズは疲れたように溜め息をつき、店主に尋ねた。

「ちなみに、おいくら? 正直なところ、あれにお金出したくないんだけど?」

「あれなら百………と言いたいところですが、あいつの言うとおりタダで結構でさ」

「いいの?」

「デル公のあの調子じゃ、持ってってもらわんと、あとがうるさそうですからな。それにここいらで厄介払いしといたほうがよさそうでさ」

 うんざりしたように言う店主。彼も疲れたようだ。

「俺のことはデルフリンガーと呼んでくれ」

「あたしは立華かなで。よろしくお願いするわ」

 こうしてかなでは喋る剣ことデルフリンガーを手に入れた。店主から(さや)も貰い、それに入れて背中に背負う。かなでが小柄なため少々不格好になってしまうがしょうがない。

「すんだようだな」

 そう言うとアニエスはスリの男を肩に苦なく担ぎ上げた。男が痩せぎみで軽いのか、アニエスが意外と力持ちなのか、あるいは両方なのか………。

 アニエスはルイズとかなでに向き合った。

「今回のことで話が聞きたいので、詰め所にご同行を願いたいのですが」

 たしかに自分達は事件の当事者だ。相手が平民の衛士とはいえ、拒否するわけにもいかなかった。

「しょうがないわね」

 ルイズはやれやれというように呟く。二人はアニエスに同行することになった。




とうわけでデルフリンガー入手。デルフの扱いがなんかアレな感じでごめんなさい。

ちなみに、本作思いついたときはデルフを手に入れる予定はありませんでした。だって使わないし………。
だけど作品の全体像が固まってくるにつれ、出番ができたので入手することになりました。彼の活躍はけっこう後の方に用意してあります。

それにしても、いくら武器買う理由がないからって、あんな盗人キャラ使って武器屋ぶっ壊す流れにしてまで邂逅させるなんて、普通しないよね?


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