天使ちゃんな使い魔   作:七色ガラス

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はじめまして。あらすじにあるとおり、本作はゼロ魔とAB!のクロスものです。
この組み合わせにした理由ですが、ゼロ魔のクロスものが多数あるなか、たぶん誰もやらなさそうなのにしようと思った結果、こういう組み合わせになりました。
自分でもかなり異色だと思いますが、楽しんでもらえたら光栄だと思います。


第1話 卒業したら召喚された

 死後の世界の学園というものがある。

 未練を残して死んだ青少年達の魂がいき着く場所であり、そこに来た者は心残りを晴らすことで来世へと生まれ変わることができる。

 そして今、一人の少女が旅立った。

 名前は立華(たちばな)かなで。

 彼女は生前、ある者のおかげで、短くも満足な人生をおくることができた。そんな彼女の心残りは、自分に人生をくれた者へ「ありがとう」の言葉を伝えられなかったことであった。

 長く死後の世界に留まっていたある日、恩人たる男がこの地へとたどり着いた。

 紆余曲折の末にかなではその男に感謝を伝えることができた。想いを遂げ、彼女の魂はようやくこの世界から解放され、昇天していった。

 そして輪廻の輪に乗る………という直前で、その魂は突如現れた銀色に光り輝く鏡の中へと吸い込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暖かな春風そよぐ緑豊かな草原。抜けるような青空の下、いくつかの石造りの塔がそびえ立つ城のような建物の中庭にて、一人の少女が真剣な面持(おもも)ちで立ちつくしていた。

 年齢は16歳ほど。背は小柄で、肌は透き通るように白く、桃色がかかったブロンドのウェーブヘアーは腰に届くほどに長い。鳶色(とびいろ)の瞳はくりくりとかわいらしく、顔立ちも整った美少女である。

 服装は黒いマントの下に、白いブラウス、グレーのプリーツスカートを着ている。

 彼女は手に持つタクトのような小さな杖を掲げると、呪文らしき言葉を唱えてそれを振り下ろした。

 次の瞬間、爆発が起きた。衝撃で土煙が舞い上がる。

「また爆発だよ」

「だから無理だって言ったんだよ。ルイズに召喚できるわけないって」

 ルイズと言われた少女から少し離れた所で、彼女と同様に黒マントを着た少年少女達がうんざりしたように愚痴をこぼす。それを聞いたルイズはうつむいた。

 ここはトリステイン王国トリステイン魔法学院。貴族の子息子女がかよう魔法学院であり、ルイズ達はその生徒である。

 この世界ハルケギニアでは魔法が使える者はほぼ貴族であり、その証としてマントを羽織っているのだ。

 そんな彼らは現在、進級に伴い、使い魔召喚の儀式をおこなっている。

 生徒達は皆、召喚を終えて鳥だの猫だの巨大ヘビだの、はてはドラゴンだのと、各々の使い魔を呼び出した。

 そんな中、ルイズだけが未だに使い魔を召喚できていなかった。

 名門貴族の出の彼女だが、生まれてこのかた魔法が成功した試しがないのだ。

 魔法を使うと爆発が起こり、そのたびにルイズは周りから嘲笑(あざわら)われたり(さげす)まれたりされ、何度も悔しい思いをしてきたのだ。

「ミス・ヴァリエール」

 呼ばれて顔を上げると、メガネをかけたハゲ頭の中年男性の姿が目に映った。真っ黒なローブに身を包み、手には大きな木の杖を握っている。

 こたびの儀式の監督教師、ジャン・コルベールだ。

「もうだいぶ時間が押している。今日はここまでにした方が……」

「も、もう一回! もう一回だけお願いします!」

 ルイズは必死に頼みこむ。コルベールはまた後日と言うが、今成功できなければこの先もずっとダメなままのような気がした。

「では、あと一度だけですよ」

「はい!」

 許しを得ると、ルイズは深呼吸し、心の中で祈った。

(お願い……!)

 これが最後のチャンス。ルイズは自分の想いを強く叫んだ。

「宇宙の果てのどこかにいるわたしの(しもべ)よ! 神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ! わたしは心より求め訴えるわ! 我が導きに応えなさい! 」

 杖を振り上げ、ありったけの集中力もって、

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命(さだめ)に従いし、使い魔を召喚せよ!!」

 力いっぱい杖を振り下ろした。

 そして結果は………爆発だった。

 ルイズは舞い上がる砂煙を呆然と見つめ、地面に両手両膝を着いた。

 彼女の心に絶望が広がり始めた。

 その時だ。

「おい! 何かいるぞ!?」

 誰かの叫び声に、ハッと顔を上げた。目を凝らしてよく見ると、確かに砂煙の中に何かがいるのが見えた。

(やった! 成功したんだわ!!)

 胸に希望が湧き上がるのと同時にルイズは立ち上がった。未だ影しか見えない使い魔を、期待に輝く瞳で見つめ、砂煙が晴れるのをまだかまだかと()がれる。

 そこに一陣の風が吹いて、砂煙を吹き飛ばした。

 そしてルイズは使い魔の姿を捉え、

「……え?」

 我が目を疑った。

 そこにいたのは、一人の少女だった。

 背丈はルイズと同じくらい。歳も同じだろうか。腰まで届くサラサラの銀髪を、頭の後ろでその一部をバレッタで(まと)めている。肌はルイズほどではないが白い。綺麗な金色の瞳。服装は薄い黄色のブレザーに、こげ茶色のプリーツスカートを着ている。

 一見して少女の服装はどこかの制服にも見える。この世界で学校に通えるのは貴族くらいである。

 しかし少女はマントを羽織っていなかった。つまり、

「あの格好、平民よね?」

「ああ、平民だね、間違いなく」

「平民の女の子ね……」

 誰もが、ルイズが平民の少女を召喚したと認識し始めた。

「でもあの娘、かわいいよなぁ」

「確かに、マリコルヌの言うとおりだな……」

 金髪のポッチャリ系の男子生徒が何気無く呟くと、伝染したかのように男子達が同意した。

 ルイズも改めて少女を見る。

 確かにかわいい。美少女と言っても過言ではない。先ほど自分が口にした、”美しい”の部分は叶えているかもしれない。

 だが平民だ。なんの取り柄もない、平民だ。

 その現実を受け入れることができず、ルイズは思わず尋ねた。

「あんた、誰?」

 目の前の少女は首を傾げて、答えた。

「あたし? かなで。立華かなで」

 立華かなで。

 そう、彼女は死後の世界から旅立ったはずの少女だった。

 かなでは辺りを見渡し、困惑した。

(どういうことかしら? あたしは確かに消えたはずなのに……)

 そこに女性の声がした。

「ルイズ、サモン・サーヴァントで平民を呼び出してどうするの?」

 声の主は、赤い髪を持つ、褐色肌の女子生徒だった。腹を抱えて忍び笑いをしている。

 途端ルイズは真っ赤になって怒鳴った。

「黙りなさいキュルケ! ちょっと間違えただけよ!」

 すると今度は、先程のマリコルヌという生徒が反論した。

「さすがゼロのルイズ! 期待を裏切らない結果だな!」

 どっと生徒達が爆笑し、ルイズの顔は怒りで更に赤くなった。彼女はコルベールに迫った。

「ミスタ・コルベール!」

「なんだね?」

「あの、もう一度召喚させてください!」

 必死に訴えるが、コルベールは首を横に振った。

「それはできない」

「なぜですか!?」

「この使い魔召喚の儀式は神聖なもの。やりなおすなど儀式そのものに対する冒涜だ。君が好むと好まざるとにかかわらず、彼女は君の使い魔と決まったのです」

「そんな……」

「それに君はあと一回と言っただろ。さぁ、コントラクト・サーヴァントを」

 コルベールに(さと)され、ルイズはしぶしぶといった感じでかなでを見た。当の彼女はキョロキョロと周囲を不思議そうに見渡している。それがすごく能天気そうに見えた。

(人の気も知らないで!)

 ルイズはかなでの前まで歩いてくると、苛立ちを隠さずに叫んだ。

「ちょっと!」

「?」

 かなではルイズの方を向いた。

「いい、平民が貴族にこんなことされるなんて滅多にないんだからね!」

 そう言ってルイズは目をつむり、手に持った杖をかなでの目前(もくぜん)で振った。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と()せ」

 呪文を唱え、すっと杖をかなでの額に置いた。そしてゆっくりと己の唇を彼女の唇に近づけ、重ねた。

「!?」

 いきなりキスをされ、かなでは驚いて目を見開いた。突如として見知らぬ場所にいたうえ、突然のキス。彼女はさらに混乱した。

 少ししてルイズは唇を離した。

「終わりました」

 コルベールに報告するルイズの顔は真っ赤になっていた。ファーストキスだったのだ。

 かなでは無表情ながら呆然としている。

「サモン・サーヴァントは何度も失敗したが、コントラクト・サーヴァントはきちんとできたね」

 コルベールが嬉しそうに言う。爆発が起こらなかったので成功と判定したのだ。

「相手が平民の女の子だったから契約できたんだよ」

「そうねー」

 何人かの生徒が笑いながら言うと、ルイズはそちらを睨みつけた。

「バカにしないで! わたしだってたまにはうまくいくわよ!」

 その様子をかなでは黙って眺めていたが、突如として体が熱くなるのを感じた。場所は胸だ。両手で胸を抑え、うつむく。

「………熱いわ」

「我慢なさい。使い魔のルーンを刻んでるだけだから。というかあなた、”熱い”って言ってるわりにはそんな表情してないんだけど………」

 ルイズの言葉通り、かなではあまり顔色を変えていなかった。

(この()、表情変化が(とぼ)しいんじゃないの?)

 そんなことを考えていると、熱さが引いたのか、かなでが顔を上げた。

「今のは何?」

「言ったでしょ、使い魔のルーンを刻んだのよ。胸を抑えてたからそこに刻まれているわ」

 ルイズに言われてかなでは自分の胸元を見た。

「なにもないわ」

「素肌に刻んだんだから、服の上からじゃ分かるわけないでしょ」

 そこでルイズははたと気づいた。確かにこれではルーンを確認できない。

 もしや刻まれていないのではと一気に不安になり、その心情が顔に出た。

 そんな彼女の様子を察してか、コルベールが安心させるように話しかけた。

「ミス・ヴァリエール、わたしの見立てでは契約は成功している。後で自室で確認するといいだろう。心配ならルーンを書き写して明日にでも渡してくれたまえ。わたしの方で調べてみよう」

「分かりました」

 ルイズが了承すると、コルベールは(きびす)を返して生徒達に向き直った。

「それでは儀式は終了だ。各自寮に戻るように。解散」

 次の瞬間、コルベールは宙に浮いた。

 かなではその光景に驚いて、目をわずかに見開いた。

 他の生徒達もコルベールに続くように、彼と同様に宙に浮いた。

 ルイズ一人を除いて。

「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」

「その使い魔、あなたにお似合いよ!」

 浮かんだ彼らは、そう言ってルイズを笑いながら塔の方へと飛んでいった。

 残ったのはルイズとかなでのみ。

 かなでは生徒達が飛んでいった方をずっと見ていた。

 人が飛ぶなんて普通ならありえない。そんな超常現象が起こるのは、自分が知る限り死後の世界ぐらいである。

(……何がどうなっているのかしら?)

 疑問が頭の中で渦巻く。

 その横でルイズがため息をついた。それからかなでに向かって大声で怒鳴った。

「あんた、なんなのよ!」

 現実に引き戻されたかなで。なんなのかと聞かれても、答えられるのは一つしか思いつかなかった。

「立華かなで」

「名前聞いてるんじゃないわよ!!」

 場の空気を読まないズレた発言に、ルイズはおもわず全力でツッコんだ。

 かなではそんなことは気にせず、生徒達の方に視線を戻した。

「あの人達、空を飛んでるわ」

「何言ってるのよ。メイジが飛べるのは当たり前でしょ」

 呆れるルイズ。そこへかなでが彼女の神経を逆なでする言葉をかけた。

「あなたは飛ばないの?」

「うっさいわね! ほら、行くわよ!」

 コンプレックスを刺激されたルイズは生徒達が飛んでいった塔へとずかずか歩き出した。

 一刻も早くルーンを確かめたい。魔法が成功したかどうかはルイズにとってこの上なく重要なことである。

 早歩きで歩いていく。

 しかし、かなでがついてくる気配がしない。

 ふと後ろを振り返ると、使い魔の少女は召喚された場所から一歩も動いておらず、あさっての方の空を見上げていた。

「ちょっと!」

 ルイズは駆け戻った。

「ちゃんとついてきなさいよ!」

「? どうして」

「あんたがわたしの使い魔だからよ!」

「あたしは使い魔なんかじゃないわ」

「いいから来る!」

 ルイズはかなでの手を取ると再び歩き出した。

 




そういうわけで今回はここまでです。次回は数日後に投稿する予定です。

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