第6話 こうして比企谷八幡と桐ヶ谷和人は再会する。 sideキリト
学校から帰り、家のポストを見る。すると、そこには俺宛に一通の手紙が来ていた。開いて読んでみると、その手紙にはこう書かれていた。
『桐ヶ谷 和人様へ
この度は、ソードアート・オンライン βテストへのご応募ありがとうございます。
厳正なる抽選の結果、貴方はソードアート・オンライン βテストに当選致しました。
付きましては、運営からソードアート・オンライン βテストへのご案内をさせていただきます。
下記に記載されているログインコードを入力して、ゲームログインをして頂きますようお願い致します。
ログインコード ××××××
ソードアート・オンライン 企画運営係より』
ソードアート・オンライン。今全世界で話題になってる大人気ゲームだ。俺はそれに応募し、今日当選通知を貰ったということになる。昔からゲームが好きだったから、このソードアート・オンラインにも興味があったから応募したんだけど、まさか合格するなんてな。
そう言えば、ハチはどうしてるかな…。ソードアート・オンラインのβテスト応募してるのかな。
ハチというのは俺が昔千葉に住んでいた頃、近所にあった公園で知り合ったやつなんだけど、昔よくゲームをして遊んでたんだよな。そしてある日、親の都合で俺が急に転校するハメになっちゃって、別れも言えずに引っ越してきた。それ以来ハチにはもちろん会っていない。連絡先も知らないしな。なんせ、ハチは俺より年上だったし。今頃何してるのかな…。
…気にしたって仕方ない。会えないものは会えないんだから。
ハチの事を考えるのをやめて、母さんに一言声を掛ける。
「母さん、ただいま」
「おかえり、夕飯7時には出来るからそれまでには降りてきてね」
「ああ、分かった。それまで部屋にいるよ」
「はいはい」
学校の鞄を机の横に置き、ベッドに横になった俺はナーヴギアを被り、一言口にした。
「…リンクスタート!」
ログインコードを入力して、アバターを作成済ませてログインする。
第1層ー始まりの街ーに降り立って、俺は目を奪われた。だって、ここまで綺麗だとは思わなかったから。街を少し見て回った後、始まりの草原に出て次の街に向かいながら道中出てくるモンスターに剣を振ってレベル上げをしながら進む。しばらくしてモンスターを倒しながら進んでいくとレベルも3に上がっていた。次の街についた頃には、辺りもすっかり暗くなっていて、夜の7時になっていた。
「今日はここまでかな。また明日やるか」
メニューを開き、ログアウトボタンを押してログアウトをした。明日は土曜日だから今日よりも沢山できる。本格的なレベル上げは明日でいいしな。
現実に戻ってきた俺は、階段を降りてリビングに行く。すると、夕飯の良い匂いが部屋中に漂っていて、唾を飲み込んだ。
「母さん、今日の夕飯何作ったの?」
「今日はシチューよ。沢山あるから食べてね」
「ああ、母さんのシチュー美味しいからな」
「あら、嬉しい事言ってくれるのね」
シチューが食卓に並び終わり、俺はスグを呼びに行った。スグというのは、俺の一つ下の妹のことだ。剣道の大会でも全国に名を残すくらい強い。もう俺なんか抜かれてるんじゃないかな。
「スグー、夕飯だぞー」
「あ、うん!今行く!」
リビングに戻り、席についた頃にスグはリビングに降りてきた。皆で夕飯を食べた後、風呂を済ませた俺は部屋に戻り、パソコンで少し調べ物を済ませた後、ベッドに横になり眠りについた。
次の日。俺は起きて朝ご飯を済ませるためにリビングに行った。
「おはよう、母さん」
「おはよう、和人。朝ご飯出来てるから食べてね」
「ああ、頂きます」
朝ご飯は、白い米に味噌汁、それに目玉焼きと焼いたベーコンだった。朝はこれくらいシンプルなのがいいよな。
朝ご飯を済ませて歯を磨いてから俺は部屋に戻った。
部屋に戻った後俺は早速ベッドに横になり、ナーヴギアを被って一言口にした。
「リンクスタート!」
ソードアート・オンラインにログインし、武器とアイテムを少し整えた後、俺はレベル上げの為に迷宮区に向かう。迷宮区というのは、何十階ものフロアがあり、その最奥にはその層のフロアボスの部屋があるダンジョンだ。そのフロアボスを倒すと次の階層に行ける、という仕組みだから、プレイヤー達は皆がこのダンジョンを潜って攻略をするわけだ。
「さてレベル上げするかな」
迷宮区にいるモンスターに向かって俺は剣を振り下ろす。モンスターのHPバーが減り、相手も攻撃をしてくる。俺はそれを避け、ソードスキルを放った。
「よっと…」
見事にソードスキルが当たり、モンスターのHPバーが0になり、ポリゴンとなって消滅した。この調子で頑張るかな。
こんなレベル上げを続けること2時間経った頃。とある一人のプレイヤーがモンスターを相手に剣を振っていた。だが、俺はあの姿を小学生の頃に見た事があった。
あの少し丸まった背中に、ピンと頭の上から伸びるアホ毛、そして少し腐った魚のような目をした男。あれは間違いなくハチだった。だけど、こんな世界に来てまでわざわざ現実の姿のままにすることないのにな…。
心の中で少し笑った後、声を掛けようと近寄る。
「ハ…」
名前を呼びかけたところでふと立ち止まる。そう言えば、ハチは昔から人のことをよく疑い、距離を置こうとするやつだ。それが自分の知らないやつとなると特に警戒心が高く疑ってくる。なんというか、本当に世の中の汚い部分を見すぎてしまったが故の癖なのだろう。
どうにかして声を掛けたいけど、普通に声を掛けただけじゃ話すら聞いてくれないだろう。
そうだ、ハチの狙ったモンスターを横取りして先に倒してしまおう。少し強引なやり方だけど、これで謝りながら声を掛けられる。そうと決まればすぐに実行だ。
俺は剣を構えて、ソードスキルがいつでも出せるように準備する。
ハチがモンスターを倒して次のやつに目を付けた。今だ、やるならここしかない!俺はソードスキルを発動し、ハチの狙っていたモンスターをソードスキルで先に倒した。
えっ…という目をされた気がするけど、悪いな、ハチ。お前に声を掛けるためなんだ。
そして、俺は謝りながら自分の名前を名乗る。
「ああ、悪い。もしかして今のモンスター、アンタが倒そうとしてた?それなら悪いことしたよ。俺の名前はキリト。アンタは?」
「ハチマンだ。よろしく」
「よろしくな、ハチマン」
ハチはやはり俺の顔を覚えていないみたいで、他人行儀に挨拶をしてきた。というか、俺が現実の姿とは違う姿をしてるし、分からなくても無理ないか。
こうして、俺とハチはこの仮想世界の中で再開した。