仕事がバタバタと忙しくて、期間がこんなに空いてしまいました。
第1層の攻略事件から数ヶ月が経った。今現在、攻略は第14層まで進んでいる。
あの事件があってから、攻略組は火が付いたかのように一致団結し、ボス攻略をしている。その甲斐あって、あれ以来ボス攻略戦で死人は出ていない。
そして、あの事件で悪役になった俺は第1層のボス攻略を最後に攻略組、そしてアスナやキリト達の前から姿を消した。アスナだけはフレンドを消したが、あの時になって一緒にキリトのも消しておけば良かったと思う日々が何回かあった。あれから何回かキリトからメッセージが届いたが、俺はそれをことごとく全部無視し、ウザったいのでフレンドから消した。それ以来あいつらに見つかったことは無い。
そして、俺の通り名らしき名前があの第1層の事件以降でついたらしい。なんだったかな。ああ、あれだ、あれ。闇の暗殺者だったかな。なんでも、この腐ったような目、そして全身黒い服に身を包んでいて如何にもゲームによく出てきそうな感じの悪役にそっくりだからだそうだ。なに?俺そんなカッコよく見えたの?…ごめんなさい、調子乗りました。
あれから俺はキリトやアスナ達に見つからないようにと隠蔽と索敵スキルを中心に、片手剣と料理スキルを上げていた。普段は隠蔽を使って見つからないようにしている。ただ、鼠には通じない。あいつ索敵高すぎるんだよ。だからアルゴとだけは連絡をしたり、情報のやり取りをしている。その時、あいつに無理矢理フレンド登録をさせられた。なんなの?俺の周りには無理矢理そういうことをさせる女しかいないの?
ちなみに俺の居場所に関しては口止めをさせてあるから見つかる必要は無い。
ん?料理スキルは何故上げてるのかって?そりゃあ、あれだよ。マッ缶風コーヒーを作るためだよ。あれなきゃ俺生きていけない。
そして、俺は朝から最前線である第14層の森の中で猿型のモンスターを相手に俺はレベル上げをしていた。ボス戦に出ていないとはいえ、レベルを上げておかないと、いつボス戦に復帰ってなった時に戦えないなんてなったら一溜りも無いからな。
そして、レベリングすること3時間余りが経過した頃。丁度小腹が空いてきたので時間を確認すると、時間は12時になろうとしていた。
「もうこんな時間か。今はこれで切り上げて街に戻るか」
転移結晶で街に戻り、雰囲気良さげな喫茶店に入って俺はコーヒーを飲みながらサンドイッチを食べていた。最近はこの至福のひとときがお気に入りの時間だ。これでコーヒーがマッ缶だったら最高だったんだが、無いものは仕方ないからこれで我慢している。
コーヒーを飲みながら集めた情報を整理していた時だった。後ろからトントンと肩を叩かれた。誰だよ、俺の至福のひとときを邪魔するやつは。一言言ってやろうと思い振り返る。
「おい、俺の至福のひとときを邪魔するのは誰だ…よ…」
「やあ、ハチ。元気そうじゃないか。俺をフレンドから消すとはどういう事なんだ?」
するとそこには、お怒りのご様子の黒の剣士様こと、キリトが立っていた。隠蔽スキルを使ってるのでバレないはずなのだが、これはどういう事なんだ?
「お前か…。第1層ぶりだな。元気そうで何よりだ」
「そっちこそ、元気そうにしてて良かったよ。で、なんで俺をフレンドから消したんだ?」
「いや、それはですね、アレがアレをしまして…」
「なんでかな?」
「は、ひゃい!何度もメッセージ来るのがめんどくさいから消しましたごめんなさい」
キリトの威圧感に負けた俺は素直に謝った。だってアレだぜ?怒ってる時のオーラ半端ないんだよ?後ろに鬼が立ってるかって錯覚するレベル。やだ、何それかっこいい。…ふざけてる場合じゃありませんでしたね。
「はあ…。で、なんでお前は俺がここにいるって知ってんだよ」
「アルゴに聞いたら、この時間はここにいるって聞いたからさ」
「口止めをしてたはずなんだが」
「金渡したらアッサリ教えてくれたよ」
あの鼠め…。今度あったらタダじゃおかねえ。
「なあハチ。攻略組に戻ってきてくれよ」
「断る。俺には目的がある。それに、今俺が戻ったところで殆どの攻略組プレイヤーは俺のことを良くは思わないだろう。そんな所に戻ったら攻略組の士気が下がるだけだ」
「そっか…」
第1層のボス攻略事件。あの時俺は、他のプレイヤーを利用させてもらったと言い、攻略組プレイヤーを敵に回した。しかも第2層以降ののボス戦にも参加していない。そんな状態でいきなりふと現れて、良く思うヤツなどいないだろう。だから俺は戻れない。それに、今はまだ時期じゃない。出るとしても、ボス攻略戦で次の死人が出た時だ。俺の読みが正しければ、25層のボスは恐ろしいヤツになるはずだ。この浮遊城アインクラッドは全100層のダンジョンだ。それを4つ事に分けて25層事にボスを恐ろしく強い設定にさせたとするならば、次の死人が出るのは恐らく25層だ。だから、今はまだその時じゃないんだ。
「まあ、そーいうわけだ。だから、攻略はお前らで勝手にやってくれ」
「なあ、ハチ。アスナには会っていかないのか?」
「今はまだダメだ。あいつが今俺に会ったら、俺に頼ってくるだけだ。あいつのためにもならないし、俺がアスナを守ってやれるほどの力はまだ無い。だから、会わない」
「第1層のボス戦が終わってからアスナ、凄くお前のこと探してるんだぞ。ハチに会いたいって、あの時の事が終わってからずっと探してるんだ。少しだけでも会ってやれって」
「それは無理なお願いだ。無理なものは無理だからな。俺は適当にやってるから、これからも頑張ってくれよ、黒の剣士さん」
「おい、ハチ!」
そう言って俺は走って街を駆け抜ける。駆け抜けていく時、その途中で白を基調とした装備に包まれた、栗色の髪の女性をすれ違いざまに見かけた。恐らくあれはアスナだ。隠蔽スキルを使ってたこともあり、気づかれずに済んだ。良かった、元気そうで。安心しつつ俺はまた森の中に潜っていった。