幸斗VS砕城の試合の決着と同時刻、第一訓練場では如月絶VS兎丸恋々の試合が行われていた。
『おぉっと兎丸選手!《マッハグリード》を使いリング全域を目に捉えきれない速度で駆け回ってリング中央にいる如月選手を翻弄しています!如月選手棒立ちのまま動けない!やはり音速を超えた速さの前には成す術がないのか?どう思いますか西京先生?』
実況解説の男子生徒がゲストで実況席に招かれて来ている寧音にそう質問をする、絶がバトルフィールド中央で極道の人間が所持しているような短刀・・・所謂【ドス】のような形状をした自身の霊装《緋月七夜(ひづきななや)》を左手に持って棒立ちのまま全く動かないのを見れば誰だってそう思うだろう、しかし寧音はこれを否定する。
『君の目は節穴かいメガネ君?』
『メガネ君!?』
『あれは諦めて立ち往生してるじゃあないさね、ほれ、ぜっつーの目を見てごらん?眼をキョロキョロしているだろう?』
寧音の言う通り絶の眼は何かを追うように超高速で縦横無尽に動いていた。
『キショイ!はっきり言ってキショイです!・・・しかしこれはどういう事か?適当にやっているわけではないようですが、もしかして如月選手は兎丸選手の動きを眼で捉えていると言うのでしょうか?』
『そう言うことさね』
————驚いたよ、まさかアタシの動きを眼で追える人がいたなんてさー・・・でも眼で追えたって身体がついてこれなくっちゃ意味ないね!
恋々は構わず絶の背後から音速越えの速度で迫る、その速度はマッハ2を超えていた。
「これで決める!《ブラックバード》・・・・・・っていない!?」
恋々が勝負を決める一撃を繰り出そうとした時、既に何故かそこには絶の姿はなかった・・・一体何所にと恋々が思ったその時————
「ごふっ!?」
恋々は背中に衝撃を感じ気付いた時には彼女は仰転していた。
「え”っ!?」
恋々は何が何だか分からなかった、何故なら今彼女の視界に映っているのは仰向けに倒れた自分を見下ろす絶の姿だったからだ。
「あ・・・ありのままに今起こった事を話すよ!アタシはキサラギ君の背後を取ったかと思ったら逆に背後から一撃をくらっていた、何を言っているのか分からないと思うけれどもアタシも何が起こったのかわからないんだ!頭がおかしくなりそうだった!催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じt「超スピードで合っているぞ」ええっ!!?」
ネタをかます恋々にツッコミを入れる絶、どうやら単純に恋々を超える速度で動いただけだったようだ、それもただ少しだけ魔力で強化した身体能力だけで。
「う・・・嘘だっっ!?」
「嘘じゃない、今のは《如月瞬煌流体術》秘技《瞬閃(しゅんせん)》だ。これは並の伐刀者が使おうとも別に音速を超える速度が出せるわけではないのだがオレはこの技と相性がいいみたいでな・・・マッハ20くらい軽く出せる」
「殺◯んせー!?」
「口だけは元気のようだが身体はもう動かせないだろう?」
「・・・・・あははははっ!そうみたいだね・・・」
「そうか・・・じゃあとどめを刺す前に言っておきたい事がある」
「ん、何?」
「・・・・・マッハ2なら【ブラックバード】じゃなくて【フォックスハウンド】だろうがっ!!」
「知ってるのニー◯レス!?」
「はあっ!」
「ぐほおっ!!」
あまりマンガとか読まなそうな絶が少しマイナーな作品を知っていた事に驚いた恋々はそのまま絶の鉄拳を左頬にくらって意識が暗転(ブラックアウト)した。
「兎丸恋々、戦闘不能!勝者、如月絶!!」
レフェリーが絶の勝利を告げて試合は決した。
『決まったぁぁああ!勝ったのはCランク騎士、如月絶選手だぁああああっ!!いやぁしかし如月選手凄い身体能力ですね西京先生・・・え?』
実況解説の男子生徒が興奮しながら隣にいる筈の寧音に話し掛けるが、そこには既に寧音はおらず代わりに寧音に似せた人形とその額に貼られた書置きがあった。
『そろそろ第二訓練場で面白そうな試合がやるからそっちに行くねー!バイバーイ!』
書置きにはこう書かれていた・・・。
『ええええええええええっ!!?』
メガネが割れる程の絶叫が第一訓練場内に響き渡った・・・。
「はっ!」
「無駄よ!」
場所は替わって第二訓練場、涼花は試合が開始されてすぐに左腕に無数に巻かれている手拭いのうちの一つを右手に取ってそれを鉄化(エンダーンアイゼン)を使って鉄のブーメランに変えてステラに投げるが、彼女が纏う摂氏三千度の炎に溶かされて一瞬にして蒸発してしまう。
————普通の鉄は約千五百度で溶けてしまうわ、そしてわたしの【鉄化】で変化させた鉄は使った魔力にもよるけれど基本的に耐熱温度は二千二百度・・・皇女サマの《妃竜の羽衣(エンプレスドレス)》を突破するには足らないみたいね・・・・なら!
「これならどうっ!」
涼花はもう一つ手拭いを右手に取って手拭いの先っぽを捩じって尖らせてから鉄化を使い、鉄の投擲槍に変化させてもう一度ステラに向かってそれを真っ直ぐ投げた。
「・・・アンタ馬鹿ぁ!?何度やったって—————っ!?」
ステラはそれに対して妃竜の羽衣を纏っているから問題ないと思い動こうとは思わなかったが、槍が眼前に迫った時にステラは槍の切っ先が朱く光っている事に気が付いて咄嗟に左に躱した、するとその槍の切っ先以外は先程と同じように溶けて蒸発したがその切っ先だけは溶けずにステラの右頬を掠り後方の壁に突き刺さった。
「・・・へぇー、やるじゃないリョウカ、槍の切っ先だけに魔力を収束させて練り込んで耐熱性を上げるなんて」
「御褒めいただき光栄ね」
「今度はアタシの番よ!アンタがEランクだからって手加減なんかしない!ガチの本気のマジモードで行かせてもらうわよっ!!」
「ステラさん快調みたいですね」
「うふふ、そうね、この前までの落ち込み様が嘘みたいね」
観客スタンド二階で一輝と共に観戦をしている珠雫と有栖院が元気そうに試合をするステラを見て感想を述べる、二人はこの前までこの世の終わりの様な表情をして灰になっていたステラが今日まともに試合ができるのかと心配をしていたのだがその心配もなさそうなので安心していた。
「ね、心配はいらなかったでしょ?ステラは強い、心身共にね」
「・・・まっ!そうでなければ張り合いがありません・・・ステラさんの事はちゃんと見極めなければなりませんからね(ボソ)・・・」
「?・・・何か言ったかい珠雫?」
「何でもございませんお兄様」
「クスクス♪」
「?・・・まあいいけど・・・ステラはどう攻める気なんだr—————えっ!?」
何気なくバトルフィールドから視線を外して珠雫達と会話をしていた一輝はバトルフィールド内に視線を戻すと突然第二訓練場内の気温が急激に上昇したので一瞬驚いたがその正体はすぐにわかった、ステラが摂氏三千度の炎を纏った妃竜の罪剣を真上に掲げそれを光の柱に変えていたからだ。
「【天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)】!いきなり全力全開だねステラッ!!」
「・・・実際に自分に向けられてみるととんでもない重圧だわ・・・」
目の前の超エネルギーの光の柱は動画や観客スタンドから見たのとでは大違いな威圧感を感じた涼花は若干額に冷や汗を掻いていた。
「はぁぁあああああぁぁああああぁっ!!!」
そしてステラは勢いをつけて大剣を振り下ろし、超エネルギーの光炎が涼花に向かって放たれ、そのまま涼花を飲み込んだ。
『佐野選手成す術もなく巨大な炎に飲み込まれたあああぁぁぁあああぁぁあっ!!これで勝負ありか!?佐野選手は消し炭になってしまったのかぁぁああっ!?』
しばらくすると涼花のいる辺りを焼き払った炎が消えていく・・・するとそこにはなんと地中深くまで空いた半径約3m程の円形の穴が石畳のバトルフィールドにポッカリと空いていた。
『こ・・・これはどういう事だあああっ!?ナパーム弾の直撃にも耐えうる特殊石材で作られている伐刀者専用のリングに穴が空いています!いったいこれは・・・』
『地下100mくらいまでを鉄に変えてそれを魔力強化した拳で砕いたみたいさね』
『うおっ!?西京先生いつの間に!?ちょっと困りますよ勝手に!』
『固い事言うもんじゃあないよ、見たところゲストはいないんだろう?ウチが解説引き受けてあげるよ』
『・・・はぁ・・・しょうがないですね・・・』
「・・・あの人自由過ぎるでしょ・・・」
ステラは無断で実況席に座って解説役をブン取った寧音の声を聴いて呆れながら空いた穴に歩いて近づいた。
「つまりリョウカはこの下にいるってことね・・・よしっ!」
ステラはそう確信すると大剣に蛇のように長い身体を持つ竜の形をした炎を纏わせて振り上げる。
「文字通り墓穴を掘ったわねリョウカ!これでアンタは逃げ道を失ったも同然!このままこの穴に妃竜の大顎(ドラゴンファング)をブチ込んであげるわ!・・・・・と見せかけて!」
ステラは竜炎を纏った大剣を真上に振り上げながら後ろに身体を反転させる、するとその30m先の床がこの穴と同じくらいの大きさの範囲が鉄になっていて、その部分にたった今亀裂が入り砕けてバトルフィールドにもう一つ穴が空いた。
「本命はこっちでしょ!?捉えたわよリョウカッ!!」
ステラはそれを見逃さなかった、その瞬間に大剣を振り下ろして放たれた炎竜がその穴の中に突入して地中深くまで潜り、大爆発と共にその穴の中から天井まで巨大な炎柱が立った。
「勝った!第九話k「言わせないからっ!?」ぐふっ!?」
ステラが勝利を確信して真上に右の人差し指を掲げてネタを挟んで勝利宣言をしようとした瞬間に最初に空いた穴の中から涼花が飛び出して来てツッコミと共に繰り出した跳び蹴りがステラの背中にクリーンヒットした、二つ目に空けた穴は囮だったのだ。
「絶影っ!」
「ぐっ!?」
「叩みかけるっ!!」
「くっ!がっ!このっ!?」
いつの間にか二本の玩具の剣を鉄化させて小太刀を生成していた涼花はそれを両手に一本ずつ持って目の前でよろめくステラに目で追えない程の速度で左右前後東西南北から縦横無尽に連続攻撃をして叩みかけていき、体勢が崩れているステラはまともに防御できずにどんどん身体中を切り刻まれていく。
「調子に乗るなあああっ!!」
「くっ!?」
激昂したステラは無理な体勢のまま無理矢理大剣を振り上げて涼花を上空に吹き飛ばした、涼花はなんとか二つの小太刀で防御に成功したもののステラの強力な膂力で振るわれた一撃は凄まじく鉄の小太刀は二本共砕け散ってしまった。
・・・しかし、涼花の追撃はこれでは終わらない———
「えっ!?」
ステラは追撃仕返してやろうと涼花のところまで跳躍しようとするがその時に彼女は自分の右脚が動かない事に気が付き右足を見てみた。
「ちょっ!?いつの間に!?」
ステラの右足にはなんと鉄の足枷が絡み付いているではないか、涼花は連続攻撃の最中に手拭いを一枚ステラの右足に絡み付かせて鉄化させていたのだ、しかしこの程度ならステラは摂氏三千度の炎で一瞬にして溶かすことができるからあまり意味がないように思えるが————
「一瞬止まれば十分よっ!これで決めるっ!!はぁぁああああっ!!」
涼花は空中から無数の鉄のブーメランを下にいるステラに向けて放った、これらには全て魔力強化によって耐熱性を上昇させてある、これで勝負は決まったか?————
「・・・・・はぁ・・・甘いわよリョウカ」
「・・・えっ?」
「ふんっ!」
無数のブーメランがステラに突き刺さろうとしたその瞬間、ステラは腹にチカラを込め身体全体から炎を爆発させるように放出して無数のブーメランと足枷を一瞬にして吹き飛ばした。
「嘘・・・」
涼花の表情が驚愕に染まる、最高のタイミングだった筈だ、それをステラは魔力を放出しただけで打ち破ってしまった。
「・・・信じられないって顔ね・・・なら覚えておくと良いわリョウカ」
万有引力の法則に従って成す術もなく無防備状態で落ちて来た涼花にタイミングを合わせて妃竜の罪剣を振り上げるステラ。
「チカラも、異能も、小細工も、全て正面からねじ伏せる、それが出来るからこそアタシはAランクなのよっ!」
そして大剣は涼花の左脇腹に叩き込まれて———
「ぐばあ”あ”あ”っ!!!」
涼花はそれによって身体が【く】の字に曲がって吹っ飛び、後方の壁に叩き付けられて粉塵が舞い煙が覆った。
西京先生フリーダム過ぎぃぃっ!!