運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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【蒼空の魔導書 カーニバル・クロノファンタズマ】でコラボしてくれた【レタスの店長】さん!【火神零次】さん!コラボしてくれてどうもありがとうございました!!機会があったらまたコラボしましょうね!!

そして今回の話は幸斗と重勝の二人が初めて知り合った過去の話から始まり、その後で選抜戦最後の対戦カードが遂に発表されます!【運命を覆す伐刀者】真田幸斗の前に立ちはだかる選抜戦最後の相手はいったい誰なのか!?・・・それではどうぞっ!!



幸斗と重勝の邂逅秘話・・・そして遂に決まった、選抜戦最後の対戦カード!

・・・破軍学園三年【裏切り者の序列一位(エース・オブ・ビトレイアー)】、【傭兵王】風間星流の息子にして元傭兵団西風戦術教官、過去に【漆黒の剣聖】の異名で呼ばれていた実力者———風間重勝。

 

普段から飄々としていて掴みどころが判らない印象だが、常に身内の事を見守っている兄貴分で、どんな事があろうとも【できる事を全てやり尽くすまでは諦めない】という信条を持ったこの少年も、幼い頃は【才能が無い奴は努力をしても無駄】という一般的な価値観を持っていた・・・。

 

その当時から風間重勝という少年は既に精神が達観していたらしく、子供の様に泣き喚くという事はしない落ち着いた・・・悪い言い方をすれば【無愛想】な子供であり、生まれもって伐刀者としての能力を含めて全ての才能が総じて高かった為か大抵の事はやれば熟すことができ、たった六歳という幼さにして生まれ持った才能で努力が報われるかどうかも決まってしまうこの世に退屈と不満を感じていたのだ。

 

そんな重勝が全ての才能から見捨てられた無才の少年真田幸斗と顔見知りになったのは彼の父親である星流が下級のテロリスト集団が焼き払ったとある町の生き残りである幸斗を保護してから丁度一ヶ月と一週間後であった。

 

「・・・アイツ、またあんな無駄な素振りをしているのか・・・」

 

千葉県南部にある港町で西風は数十日ぶりに宿に宿泊して休む事となり、重勝が気分的に海岸を散歩していた時の事だった。海沿いの水辺付近で木刀を持って素振りをしている幸斗を遠目で見掛けた重勝は下らなそうに言葉を洩らしていた。

 

西風の見習い団員になってからこれまで何をやらせてもまともにできないでいた幸斗は当時の西風団員の約四分の一を占めていた才能至上主義者達からの印象はもちろん最悪で、そうで無い他の団員達にも【これはさすがに無い】と批判するように呆れられていたのであった。

 

当然重勝も何の才能の無い幸斗の事を【どうしようもない無能】という評価を下していて、幸斗がどんなに努力をしようともどうせ無駄な努力に終わると考えていた。

 

所詮才能が無い奴は何をやっても無能、生まれもって天分の才に恵まれた人間には敵いやしない・・・重勝はそんな決まりきった運命で全てが決まるこの世の中が嫌いであり、つまらなかった・・・。

 

「あっ!コイツもしかしてこの前団長に拾われて団に入ったダメダメ君じゃん?」

 

重勝が遠くから哀れな目で幸斗が素振りをする姿を見ていると暫くして奥の方から別行動で散歩を楽しんでいた西風の少年伐刀者達数名が歩いて来て、素振りをする幸斗を見るなり難癖を付けてくる。

 

「うっわ、マジセンス無ぇスイングゥ~、チャンバラごっこ以下じゃね?魔力量どころか剣すらダメじゃん!」

 

「ホントだぁ。俺の隊の隊長がコイツの事【見込みの無い団のお荷物、こんな役立たずを入団させて団長は何を考えているのか?】と話していたけれど、実際に見てみるとそう思うのも無理ねーって!」

 

「これじゃあ幾らやったって無駄な努力だぜ~、うわぁ、あんなに刀身が擦り減って木刀勿体ねー」

 

どうやらこの少年達は団内の才能至上主義の派閥らしく彼等は幸斗の素振りがあまりにも酷すぎて馬鹿にする言葉をワザと幸斗に聞こえるように次々と口に出して言う。黙々と素振りをする幸斗はそれを聞いて心を傷付けられ涙目になるが、耳障りな雑音を振り払うようにスイングを激しくして少年達を無視しようと必死になり、少年達はその幸斗の態度が癇に障ってグループのリーダーっぽい少年が幸斗にズカズカと歩み寄り、幸斗の手に持つ木刀を無理矢理蹴り落としたのだった。

 

「テメェ、シカトしてんじゃねぇよ!無能の分際で俺達を舐めてんのか!!ああんっ!?」

 

無視された事で激怒した少年が幸斗の胸ぐらを掴み上げてそのしょぼくれた朱い目を睨みつける・・・幸斗は悔しさと恐怖で今にも泣きそうだったが、屈するものかと涙目で歯を食い縛って相手の少年を睨み返していた。

 

「・・・・・はなせよ・・・」

 

「あん?」

 

「はなせって———いっているんだ、こんちくしょうがぁぁああっ!!」

 

幸斗は左拳を振り上げて、渾身の一発で少年の顔面を殴った。

 

「ぶがっ!?・・・テメェッ!!」

 

「がはっ!!」

 

当時四歳相応の腕力しか無かった幸斗の拳ではDランクの少年伐刀者すらも殴り倒す事はできず、相手の怒りを憤怒に変えるだけであった。

 

「ふざけたマネしやがって!やっちまえ!!」

 

白い砂浜の上に背中から投げ捨てられて仰向けに倒れた幸斗を数名の少年達が殴る踏みつけるの暴行を続けざまに加えていく・・・重勝は幸斗を袋叩きにする少年達を見て苛立ちを感じ、居ても立っても居られなくなって脚を前に踏み出していた。

 

「・・・・おい・・・」

 

「あぁん?んだよ今は取り込み中だ、後にしr「ふんっ!」ぐがぶっ!!?」

 

「「「「・・・へっ?」」」」

 

少年達の背後に静かに歩み寄った重勝はリーダーっぽい少年の肩を軽く数回叩き、少年が振り向くと同時に顔面に痛恨の鉄拳をくらわせ、地を転がらせた。そんな突然の来訪者に少年達は幸斗への暴行の手を止めてしまい、全ての目線が砂浜に転がった少年に向き、茫然としてしまう。

 

数秒間時が止まった感覚に陥った後、直ぐに沈黙は素っ頓狂な叫びに変わった。

 

「「「「み・・・みっちゃぁぁあああああああんっ!!?」」」」

 

リーダーっぽい少年の呼び名は【みっちゃん】というらしい・・・少年達は怒りの目を重勝へと向ける。

 

「てっめぇぇええっ!よくもみっちゃんを!!」

 

「あっ!?コイツ重勝じゃねぇかよ!!」

 

「《西風の四大天才児》の一人が何でこんなところをうろついてやがる!?」

 

「まさか、Bランクの天才とあろう者がこの無能を庇うってんじゃねぇだろうな!?」

 

みっちゃんを理不尽に殴り飛ばした重勝を非難する少年達、だが——

 

「・・・黙れよ」

 

「「「「ひっ!!?」」」」

 

その凍り付くような目線で睨まれた瞬間、少年達は悪魔に爪先を突き付けられたように恐怖し畏縮してしまう・・・全員が硬直して静寂が訪れると重勝は少年達一人一人に歩み寄り——

 

「俺はな——」

 

「ぐげっ!」

 

「自分より弱い奴を甚振って優越感を得るような——」

 

「がはっ!」

 

「性根が腐った奴等を見ていると——」

 

「ごほっ!」

 

「虫唾が走るんだよっ!!」

 

「ひでぶっ!」

 

歯ぁ食い縛れと言わんばかりに全員の顔面を容赦なく殴り飛ばした。理想主義者である父親の星流を反面教師にはしているが、こういうところは父親似であった・・・。

 

「に・・・逃げろーーーっ!」

 

「みっちゃん!しっかりしてくれーーーっ!!」

 

「ダメだ、強い衝撃を受けた所為で脳震盪を起こして意識が無い!急いで応急手当ができるところまで運ぶぜ!」

 

「クソッ、憶えていろ!このままで済むと、思うなよーーーっ!!」

 

一通り殴り飛ばされて砂浜を転がった少年達は怖気づいて捨て台詞を残し、ノックアウトされてしまったみっちゃんを連れて一目散に退散して行ったのだった・・・。

 

「チッ!親父の眼の無いところでコソコソネチネチと・・・まっ、ああいう奴等はそのうち親父がブン殴ってでも言い聞かせるだろ、あの行動力だけはある親父の事だしn「あ・・・あのぅ・・・」・・・何だ、まだ居たのかよ?」

 

ボロ雑巾のようにズタボロになった身体の上半身を微妙に起こして声をかけてきた灼眼の少年に重勝は顔を向けずに視線だけを向けると幼い声の主に刺々しい言葉を吐き捨てる。

 

その氷のように冷たい目線に恐れを生して幸斗はビクッと怯みはしたものの、直ぐに素早く首を左右に振るって無理矢理恐怖を引き剥がし、起き上がる事が難しくなったボロボロな身体を四つん這いにしてその灼眼で冷たい目線を焼き切るように重勝の眼を真っ直ぐと見た。

 

「あ・・・ありがとうよ、たすけてくれて・・・アンタつよいんだな。うらやましいよ、さいのうのないオレはいくらとっくんしてもいっこうによわいままなのにさ・・・」

 

「・・・・・」

 

「でもさいのうのないオレだってたくさんとっくんすればいつかは「無理だな」ほえっ?」

 

助けて貰った事の礼を言って自分も何時かはと儚い希望を口にする幸斗に対して重勝はその儚い希望を無情にも否定した。幸斗が間の抜けた声を上げる中で重勝は足下に転がっている木刀を拾い上げ、憐れむ目線で呆ける幸斗を見下ろした。

 

「さっきから見ていたが、さっきの奴等の言う通りお前には戦いの才能が全く無い。生まれ持った才能が高ければ努力をしなくても強くなれる訳じゃねーけど、そういう奴等は飲み込みが早くて努力が実る確率が高けぇ・・・だけど反対に才能が全く無い奴は何をやろうが無駄な努力になることが目に見えているぜ。魔力が乏しいか無いんなら持っている奴を超える事なんて一生できねーし、理解能力が鈍いんなら他より得るモノが少ないのは当たり前・・・だからお前がやっている特訓とやらは全くの無駄なんだよ」

 

地べたを這う無才少年に投げつけた黒髪の少年の言葉はあまりにも辛辣であった・・・非情にも投げつけられた言葉に幸斗は「そんなことねぇっ!」と反論しようとするが、重勝は左手に持った木刀の切っ先を一瞬にして幸斗の眼前に突き付けて哀れな無才少年の口を黙らせる。

 

「ならさっきの素振りは何なんだ?・・・いや、あんなの棒っ切れをテキトーに振り回しているだけのガキみたいで素振りと呼べるものじゃねーよ。脚は逆だし重心はズレまくり、スイングも腰と脚を放置して腕だけでブンブン上げ下ろしさせているってだけ・・・正直手旗信号ゴッコかと思ったぜ?剣の基礎すらできてねーのに強くなれるわけがねーだろ・・・」

 

「・・・・・」

 

痛いところを指摘されて幸斗は俯いてしまった・・・重勝は「ふぅ・・・」と溜息を吐き、気怠そうに木刀を正眼に構えた。何をするのかと幸斗は顔を上げてまじまじと重勝の行動を凝視する、そして——

 

「はっ!」

 

「っ!!」

 

少し手本を見せてやると言わんばかりにその木刀を振るったのだった・・・頭上に刀身を振り上げ、真っ直ぐに振り下ろすそれは至ってシンプルな垂直斬りであったのだが、振り下ろされた一刀は六歳児がやったとは思えないくらいに洗練されていて、見ている灼眼の少年は一瞬時が止まったかの様な錯覚に陥ってしまう。

 

一瞬の静寂が止み、バターのように容易く切り裂かれた空気が風となって灼眼の少年の夕焼け色の髪を撫でて揺らした。

 

「ふぅ・・・まっ、こんなもんか・・・」

 

「す・・・すげぇ・・・」

 

「これが【素振り】ってヤツだ。実を言うと俺は剣を握ってから僅か三十分でこの動作を身に付けている、一応これでも団内で【天才】って呼ばれているからな。伐刀者どころか剣の才能すら無いお前だと一生の年月を使ってようやくこの練度の垂直斬りが出来るようになるってくらいだろーなぁ」

 

「・・・・・」

 

「・・・これで解っただろ?人間の命は有限だ、何事も修得する速度が遅すぎる才能無しヤローが幾ら努力したって一生の内に身に付けられるのはこの程度、況してや伐刀者の魔力はどんなに鍛えても増える事は無いらしいからな、こっちに至っては何兆何京年費やそうがまさに無駄どころか【無意味】ってわけさ」

 

実に下らなそうに重勝は木刀を左肩に乗せて語っている。口で言う事とは裏腹に彼は生まれ持った才能の有無で一生の運命が決められるこの魔導騎士世界の事を非情に詰まらなくて下らないと感じているからだ。結果が決まりきっているスポーツの試合が面白味も何も無いのと同じように、100%約束された人生など虚しいだけなのだから・・・。

 

「だから悪い事は言わねー、強くなる特訓なんて無駄だから止めちまいな。魔力量がカッスカスで異能が使える見込みが0な上に剣の才能も無いんじゃどんな努力をしたっt「ふざけんなっ!!!」」

 

無才の努力なんて何の意味も無いと言おうとした重勝に幸斗はキレた。その灼熱色の瞳から放たれる視線はマグマの様に熱く、現実主義者の黒髪痩躯の少年の目を真っ直ぐと射貫いている。

 

「さいのうがないからどりょくなんてむだだ?かってにきめつけてんじゃねぇっ!!たとえいまはダメダメだろうが、オレは【つきすすみつづけるいし】でぜったいにつよくなってやるんだ!!【どうりをたたきつぶしてうんめいをブッとばす】のがにしかぜなんだろ!?さいのうのなさなんて【きあい】と【こんじょう】でふみこえてやるってきめたんだ!!」

 

胸の前に上げた左手で拳を握りしめ、幸斗は重勝に啖呵を切った。それを聞いた重勝は啖呵の内容で誰の影響を受けたのかを悟り、右掌で額を押さえて重い溜息を吐いた。

 

「・・・ハァァ・・・親父に吹き込まれたのかソレ?俺はそういう根拠のねー根性論が嫌いなんだよ。とんだロマンティストだぜ・・・あのさ、ならその【突き進み続ける意志】でどうやって強くなるつもりでいるんだよ?まさかさっきの手旗信号ゴッコを毎日続けていれば強くなれるなんて考えてんじゃねーだろーな?」

 

父親である星流の影響を受けて理想に走ろうとしている幸斗を正す為に重勝は現実的な疑問を幸斗にぶつけてやる。

 

———親父の根性論なんて理想だけで何の根拠もねー無茶苦茶な精神だし、こう現実を突き付けれてやればコイツは何も言えなくだろーよ。

 

重勝はそう思ったのだが、返ってきた返答は滅多に動揺しない彼を大いに驚愕させる言葉であった———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはわかんねぇ・・・だからおしえてくれっ!!!」

 

「・・・・・・ハァッ!!?」

 

数秒の沈黙の後、黒髪痩躯の天才六歳児の呆け声が海岸中に響き渡った、この出来損ないは何を言っているんだ?流石の重勝も今幸斗が発した言語は理解不能であった。

 

「お前何言ってんだよ!!?俺に教えろ?鍛えてくれってか!?おいおい、俺に何のメリットが有ってお前みたいな才能無しを鍛えねーといけねーんだよ!!」

 

「だってさっきのシゲのスイングすごかったぜ!だからおしえてもらうのはアンタがいいとおもったんだ!!だからおしえてくれよ!?つよくなるやりかたを!!」

 

「言っている事無茶苦茶だなお前!?それに【シゲ】って俺の事か?急に気安く呼ぶなよな!てか離れろって!!」

 

重勝は鬱陶しがりながら這い蹲りながら自分の足にしがみ付いて懇願してくる幸斗を無理矢理振りほどく。この時の幸斗はまだ大した腕力も無かったので拘束を抜け出すのは然程難しくは無い。シワシワに乱れたズボンを直して重勝は厄介な奴と関わってしまったと面倒な感情を抱きながらその双眸で砂地を這って自分を見上げる幸斗を睨む。

 

「大体お前、何でそんなに強くなりたいんだ?そのザマを見れば自分(テメー)に戦う才能が無い事ぐらい判っているだろ?普通ならその時点で妥協して他の道を探すのが当たり前だ。何故だ?命を救ってもらった親父に恩返しをする為か?両親を殺した三下テロリスト共に復讐をする為か?それともまさか才能が無い事をバカにされたのが悔しいからじゃねーだろーな!?」

 

叩み掛けるように疑問を投げつける重勝、すると幸斗は砂地に着く腕を凍えるように震わせはじめ——

 

「・・・ああ、そうだぜ・・・」

 

顔に影を落として立ち上がり出す。その声音は地の底から響くような憤慨に満ちている。

 

「だんちょうにおんをかえしたいというのもそうだけど・・・それいじょうにくやしいんだ、がまんならねぇんだ、ゆるせねぇんだ。うまれもったさいのうだけでひとにかってにランクづけされるのが、チカラがなくてみくだされるのが、よわいオレじしんが!」

 

「っ!!?」

 

立ち上がったその灼熱色の眼からは本気の悔しみに満ちた涙が流れていた。溢れ出す感情を向けて来る瞳の中の灼熱は遥か上から見下す大空すらも落としてやるという【渇望】の焔。その視線を今一身に受けている重勝は幸斗が発する果てしない威圧感に圧されて一歩後ろに右脚を下げてしまう。

 

「さいのうがないだけでなにもできないのがくやしい!さいのうがあるやつらしかどりょくをみとめられないのがくやしい!ちからがなくてひねりつぶされるのがくやしい!がんばるのをわらわれるのがくやしい!あきらめろといわれるのがくやしい!!たにんにまけるのがくやしい!!よわいままのオレがくやしい!!くやしいおもいをするのがくやしいっ!!!」

 

「・・・お前・・・」

 

———なんて眼をしやがるんだ、コイツッ!?一見すると無様な泣きっ面だが、その眼の奥はチカラへの渇望と絶対に上から見下す奴等を自身の手で引きずり下ろしてやるという野心、そして何よりも運命なんかに屈してやるもんかという底知れない反逆の意志が渦巻いてやがる・・・。

 

こんな眼をする奴は初めて見たと重勝は内心驚愕する。そしてゆらりと立ち上がった幸斗は強さへの渇望の焔を秘めた眼で重圧に食い縛って耐えている重勝の眼を強く睨みつける。

 

「だからシゲ、たのむ!オレをつよくしてくれっ!!オレはぜったいにつよくなって、どんなチカラやさいのうをもったやつにも・・・きめられたうんめいにだってまけないさいきょうのようへいに———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———【うんめいをくつがえすブレイザー】にっ!!オレはなってやるっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが全ての才能から見捨てられた無才少年真田幸斗と、幼くして生まれ持った才能で人間の全てが決められる魔導騎士世界を下らなく思っていた天才少年風間重勝の出合いであった。

 

この時より風間重勝の見る世界は変わった、真田幸斗という男はこの下らない世界を変えてくれるかもしれないと心の底から感じたのだ。

 

ハッキリ言ってその根拠は無い、柄にもなく直感で思った。しかしコイツに懸けてみたい、真田幸斗という男の未来(さき)を視てみたいという感情が溢れ出して止まらない。

 

重勝は幸斗の熱意を受け、その直後に【ある約束】と引き換えに彼の教導役を引き受ける事を承認する。

 

『いいぜ、そんなに言うんなら全力全開で鍛えてやるよ・・・ただし約束しろ、何年掛かってもいい、一生の内に・・・真田幸斗の人生の内に一回、風間重勝(おれ)を倒してみろ!最強になるだなんて大口叩いたんだ、それぐらいやってもらわねーとカッコ悪いぜ、お前』

 

『ああ、やくそくするぜ!かならずいつかシゲをたおせるくらいにつよくなってみせる!そしていつかはだんちょうにもかって・・・【うちゅうさいきょう】のせんしになってやるぜ!!』

 

そして・・・その約束を果たすのは———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・現在(いま)だ!!

 

『七星剣武祭破軍学園学内代表選抜戦最終戦、第六試合 風間重勝 VS 真田幸斗』

 

あの第十九戦目の激闘より一日が経過した夕方五時、学内選抜戦最後の戦いの対戦カードを盛大に発表する為に滅多に使われない破軍学園の体育館に全学園生徒が集められ、経った今最終戦の組み合わせの六組全てが壇上に仮設置されたモニターにバアッと表示された。

 

「マジかって・・・リユウだ・・・」

 

「・・・悪夢だわ、この学園終わったわね・・・」

 

周りの生徒達がモニターの一番上の組み合わせに注目して動揺の声が体育館内を包む中、モニターの一番下に表示された対戦カードを見た烈と涼花が絶望に近い青ざめた表情をして呟いている。恐れていた組み合わせが現実になってしまい、途方に暮れているのだ。

 

幸斗と重勝・・・片や測定不能の最強の攻撃力を誇り、全力を出せば世界を巻き込んだ災厄を引き起こす赤鬼・・・片や大空を重力操作という黒き翼を羽ばたかせて蹂躙し、容赦の無い砲撃と黒い軌跡を描く剣閃をもって相手を圧倒する学園最強の悪魔・・・そして、二人は過去に同じ傭兵団に所属していた仲間であり、教え子と教官という師弟関係・・・。

 

「オレの選抜戦最後の相手が・・・シゲ?」

 

五年前に世界最強の剣士【比翼】のエーデルワイスの刃によって一番の憧れであり目標であった【傭兵王】風間星流が倒れた今、幸斗にとって風間重勝という存在はこの世で最も憧れる伐刀者であり尊敬する兄貴分でもある。

 

【紅蓮の皇女】ステラ・ヴァーミリオン、【城砕き(デストロイヤー)】砕城雷、【深海の魔女(ローレライ)】黒鉄珠雫、【空間土竜(ディメンショナルモール)】如月烈・・・七星剣武祭代表候補に名を連ねる猛者達をその天地粉砕級の埒外な攻撃力と絶対に諦めない不屈の心をもって次々と撃破して来た幸斗も、重勝には今まで生きてきてただの一度も勝利した事がない、奴は間違いなくこの学内選抜戦で最強の学生騎士だ。

 

「・・へ・・・へへ・・・」

 

そんな男が七星剣武祭の舞台に立つ為に越えなければならない最後の壁となった事を実感すると幸斗は震えだした・・・校内序列一位にして過去に一度も勝った事の無い最強の相手と試合をする事に怖気づいたのかと思われたが——

 

「最高じゃねぇか・・・」

 

そんな事は全く無かった。この震えは武者震いだ、自分の憧れる最高の伐刀者と五年振りに本気で戦える、傭兵時代から今まで自分を鍛えてくれた教官を超えるチャンスがようやく巡って来たという喜びが身体の底から沸き上がってきて仕方がないのだ。

 

「伊達や一輝と約束した七星剣武祭の舞台に上がる道への最後の壁に、これ以上相応しい相手は他に居ねぇ」

 

その顔に浮かぶのは無論、空の上から見下ろす奴を引きずり下ろしてやろうという不敵の笑みであった・・・幸斗は自分に向けられている気配を感じて体育館内の左端の上に架けられている通路の方を見上げる。その視線の先には長身痩躯の黒髪の少年が両腕を組んで立っており、挑発するような不敵な笑みをして幸斗を見下ろしていた。

 

『来いよ幸斗、この俺を倒してみろよ!』

 

その黒き瞳はそう言っているように見え、その挑発に乗った幸斗は更に挑発し返すような不敵の笑みをしてその黒髪の少年の視線に合わせ、左拳をその少年に向けて突き上げ、心の中で高らかに言い放つ!

 

———勝負だシゲ!今こそオレはテメェに勝ってやる、覚悟しておけよっ!!

 

その宣戦布告が伝わったのか、重勝は口の端を吊り上げていた・・・学内選抜戦最終戦は五日後、それは間違いなくこれまでの試合で最大の戦いとなるだろう。果たして七星剣武祭の舞台に上がる破軍学園の代表六名は誰になるのか?そして幸斗と重勝の師弟対決の行方は!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

規格外の新人(ルーキー)である幸斗と学園の裏切り者でありながらも最強の校内序列第一位である重勝という学園崩壊必死の対戦カードは学園の生徒達の注目を大いに集めたのだが、一番注目を集めている対戦カードはそれではなく、モニターの一番上に表示されている組み合わせであった。

 

『——最終戦、第一試合 東堂刀華 VS 黒鉄一輝』

 

破軍学園の生徒会長であり昨年の七星剣武祭ベスト4という実績を持つ学園の英雄とFランクという前代未聞の劣等生でありながら達人級の剣技と照魔鏡の如く全てを見通す洞察眼をもってここまで選抜戦を勝ち抜いて来た脅威のダークホースの少年の対戦・・・先日のスキャンダルの件もあり、この対戦カードは生徒達の期待を大いに沸き上がらせていた。

 

「おい見たかよ!?あの東堂会長と落第騎士が試合するんだってよ!」

 

「マジかよ!?超面白そうじゃんこの試合!」

 

「【雷切】と【無冠の剣王(アナザーワン)】のどっちが強いのかというのは前からネット内のスレッドで議題に上げられていたし、これは見物だわ!」

 

「ねぇ、どっちが勝つと思う?」

 

「そりゃあやっぱり会長だろ?あの人の雷切は最強無敵だぜ!この前の試合で【月花の錬金術師】に突破されたように見えたけれど、結局その後に奴は降参しているし、実質無敗には違いないからな!」

 

「確かに東堂会長には勝ってほしいけれど相手はあの黒鉄だ、ひょっとしたら奴なら雷切を攻略できるかもしれないぞ?」

 

「お前それ本気で言ってんの?幾ら落第騎士が予想外に強いと言っても所詮は魔力量平均以下の落ちこぼれだろ。そんな落第騎士如きが無敵の雷切を攻略できるわけないじゃん!」

 

「そりゃそうだな・・・」

 

「結局黒鉄のような落ちこぼれや俺達のような凡人がどんなに頑張っても英雄になるような天才には絶対に敵わないと決まってんだよなぁ、努力なんて時間の無駄無駄!人生テキトーが一番だってーの!」

 

「ああ、それが運命って奴だしな!」

 

「ホントウゼェよな!・・・まっ、そんな選ばれた天才が大活躍してくれるおかげでオレ達は楽できるんだけどな♪」

 

「将来安泰!魔導騎士になって安全な後方に居るだけで高収入!大して苦労しないでウハウハ!本当に天才様々だな♪」

 

「違いねー!」

 

「「「「「「「アハハハハハハハハハッ!!」」」」」」」

 

体育館の角で屯っている素行の悪そうな生徒達が下品な笑い声を上げ、それを近くで耳にしていた三つ編み眼鏡の少女———東堂刀華は気分を悪くしたのか、相当辛そうに俯いて立っていた。

 

「私の対戦相手は黒鉄さんか・・・」

 

彼女が吐露した重い呟きが圧し掛かる不安の大きさを物語っていた。【落第騎士】黒鉄一輝・・・黒鉄という銘家に生まれながら平均の十分の一の魔力量しか持って生まれず、その所為で実家の人間からも学園の人間からも出来損ないとして蔑まされてきた少年。そのあまりにも劣悪な条件でありながらも自分は強い騎士になれると証明する為に例え他者にどんなに侮蔑されようとひたすら高みを目指し続け、【無冠の剣王】という異名で呼ばれるまでの優秀な伐刀者となった。それは並の精神でできる事では無いだろう。刀華の脳裏に実家の策略によって捕まった後輩の少年の堂々とした立ち姿が浮かび上がる。

 

———あの男の子は無実の罪を着せられて勾留されている今でも自分に降りかかる理不尽と戦い続けている・・・辛い現実から決して逃げ出さず、自分の願う理想を叶える為に運命に抗い続けているんだ・・・それに比べて今の私は・・・。

 

【雷切】東堂刀華の双肩には学園の生徒達や【若葉の家】の子供達の期待と憧れ、そして破軍学園の英雄としての責任が掛かっている。彼女はその重みを誇りに思っているし、それを背負って成し遂げる事が彼女の生き甲斐であり願いでもある・・・だが今は逆にその背負った多くの想いが凄まじく苦痛に感じてしまって仕方がなく、それが彼女の心に大きな不安を抱かせていた。

 

『———第三者の為に尽くすのは結構だがそれで傷ついて死んでそいつ等を悲しませたら本末転倒だろ?・・・【若葉の家】だか何だか知らねーけど背負った想いの重みで潰れちまったら意味・・・ねーだろ・・・俺、何か間違った事言ったか?』

 

『【もう少し魔力があれば勝っていた】とか【持って生まれた才能に助けられたわね】とか見苦しい言い訳をするつもりはないわ、全部わたしが戦術家としてド三流だったのが悪いの・・・じゃ、七星剣武祭の代表入り目指して頑張ってね』

 

『———アンタは【責任という理性】で戦い、理性で相手を倒そうとしてやがる、そんなの剣の刃を鞘に収めたままなのと一緒だ、そんなんじゃあ地を這う敵は叩き潰せても気が遠くなる程遠い空には届かねぇぜ、絶対にな』

 

自分の想いを代弁するようにぶつかる親友の少女を裏切り者の宿敵の少年が悪魔のようなハイライトの消えた冷たい眼で空から見下ろして言った言葉、自分と限界ギリギリの死闘をして無敗だった自分の伝家の宝刀を攻略したにも係わらず魔力切れという理由で降参をした戦術家の少女が言ってきた皮肉、奥多摩の山中の横穴で雨宿りをしている時に突き進み続ける意志を秘めた不屈の少年に断言された現実・・・それらが次々と刀華の脳裏をフラッシュバックするように投影され、彼女の不安を増大させて行く。

 

みんなに期待を寄せられていると思っていたがそれはBランクの天才である自分への面倒事の押し付けだった・・・誰もを夢見る未来へと導く事は高い才能を持って生まれた自分には不可能だったのか?自分が育った施設の子供達も結局外に出れば世界の理不尽を知って夢を諦めてしまうのだろうか?押し付けられた責任を背負っているだけでは・・・あの最強の宿敵が居る空には届かないのか?・・・。

 

そんな不安に押し潰させそうになっている刀華とどんな理不尽にも負けずに前を向いて進むあの落第騎士は違う、違い過ぎる。

 

『真田幸斗君、この前はありがとう。合宿場の河原で君が教えてくれた【突き進み続ける意志】と【自分だけの剣】は僕に大切な夢を思い出させてくれた、騎士の高みを目指す想いを強くしてくれたんだ。だから僕はその想いを胸に理不尽に抗い続け、こうして選抜戦最後の戦いへと臨みを繋ぐ事ができたんだ。あの話を聞いた時、僕は君が【本物の強さを持った騎士】だと感じさせられたよ。どんなに才能に見放されて上手くいかなくてもできるまで物事に立ち向かい続ける不屈の心、周りから多くの挫折を突き付けられても自分の想いを真っ直ぐ曲げない鋼より固い信念、強さを手に入れる為に想像を絶する努力を毎日積み重ねてきたド根性、そして世界が定めた運命をその【運命を砕く剣】をもって覆し続け常に前へと突き進み続ける意志・・・それらの君の強さと凄さを僕はあの時に感じた。それで思ったんだ・・・僕はそんな凄い君と七星の頂きを懸ける舞台で戦いたいと!!君に負かされたステラと珠雫の仇討ちというわけじゃない、僕は純粋に君と戦って勝ちたいんだ。君と勝負をする事で僕は更なる高みに行く事ができると思っている。僕と君、どっちが上かお互いの剣を交えて白黒ハッキリ付けよう!だから共に七星剣武祭の舞台に行こう、幸斗君!!』

 

昨日の幸斗と烈の試合の途中で放送室にやって来た黒乃を通して幸斗に伝えられた一輝のメッセージは刀華の耳にもハッキリと残っている。あれは本当に熱烈で希望に満ち溢れ、それに向かって全力で進んで行くという気概が強く伝わってきた。

 

そんな確固とした意志を持った強い少年と過去の因縁と理想に縛られ続けている弱い自分・・・その事実はまるで黒い霧のような漠然とした形となって刀華の心に纏わり付く・・・そしてそれは彼女に問いかけた。

 

・・・君のその刃毀れした剣で、彼を倒す事など出来るのか?・・・と・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




七星剣武祭の舞台に上がる為に幸斗が越えなければならない最後の壁!それは破軍学園最強にして幸斗の尊敬する元教官、風間重勝!

はい、この【学内選抜戦編】で幸斗の最後にして最強の壁はシゲです!ここで幸斗と重勝が七星剣武祭出場を懸けてぶつかるという流れはこの作品のストーリーを構想する段階で既に決めていました!

今まで一度も勝った事が無い伐刀者にして自分の全てを知り尽くしている元教官、そして自分のアニキ同然の存在を相手に幸斗はどう立ち向かうのか!?長かった学内選抜戦編もいよいよクライマックス!試合の展開も今までで最大級の戦いとなる予定です!ご期待ください!!









・・・と、煽りを入れておいて申し訳ないのですが、ここでお知らせです。

今週の木曜日に発売される【英雄伝説 閃の軌跡Ⅲ】を集中してプレイしたいので、来月よりこの作品を含めた蒼空の全作品の更新を1~2ヶ月の間停止する予定です。

次話の更新はできるだけ今年中に行いたいと考えていますので、少し待たせてしまいますが次回の更新を楽しみにしていてください。そしてこのようなテンションを下げてしまうお知らせを最後にしてしまって申し訳ありませんでした。

来た感想に対する返信は必ず行いますのでそちらに関しては心配は無用です!

では、また会う日まで!!



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