運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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【知らない】という苦痛

『けけけ、決着が着きましたぁぁああああっ!!学園ビッグ3の一角、遂に敗れる!【殲滅鬼】真田幸斗選手、奇跡の大逆転勝利!選抜戦最終戦進出決定です!これで最終戦にて七星剣武祭への切符を賭けて戦う十二名の騎士が出揃いましたっ!最終戦は一週間後、破軍学園に在る六つの訓練場の全てを使用して全六試合を一度に行う事になっている予定なのですが・・・この第一訓練場の現在の惨状を視るにもう此処は使用不可能ではないのでしょうか?・・・』

 

幸斗が龍殺剣や戦鬼の叫びを使用して暴れまくった為にほぼ全壊し廃墟同然の場となった第一訓練場内に実況解説の女子生徒のアナウンスが木霊する。こんな惨状でよく放送機器が壊れなかったなと放送部の悪運の強さに感心したいところだが、彼女の言う通りこの悲惨過ぎるこの場の惨状ではもう試合する事は恐らく適わないだろう。

 

龍殺剣によって消滅した天蓋、割れたように瓦解した半周分の外壁、半周以上が崩壊した観客スタンド、巨大クレーターと化したバトルフィールドなどは黒乃の能力で時を遡らせれば修復は可能だが、問題は戦鬼の叫びを使用した幸斗の《事象貫通》の特性を持った埒外の攻撃によって其処ら中の空間に空いてしまった【次元の裂け目】であった。

 

「・・・確かに最終戦を全試合一度に行う事はもう無理かもしれませんね・・・あの無数の孔が新宮寺理事長が【時空崩壊】を行使した時に生じる現象と全く同じモノだとしたら、二度とあの空間は元には戻せない筈ですから・・・」

 

涼花達を除く観客の生徒達が全員避難した為に静寂が訪れた中で若干だが落ち着きを取り戻した刀華が気分悪そうにそう呟いた。彼女の言う通り今この場の其処ら中にできている無数の孔は黒乃が禁技指定の伐刀絶技【時空崩壊】を使用した時に生じる現象と同じモノである。戦鬼の叫びによって世界ですらも理解不能となった幸斗の埒外の攻撃力が物理的に世界に傷を付け、二度と直る事の無い【次元の裂け目】を生じさせたという非現実的な事実に涼花を除くこの場に残った一同は声も出なかった。黒乃の【時空崩壊】のように因果干渉によって時空間を傷つけたのならまだ納得できたのだが、恐るべきはそれが【世界すらも理解不能となる程の埒外の攻撃力で物理的に発生させた現象】だという事である。そんな言葉にもできない規格外な事をやってしまった幸斗は最早《臨界破壊の戦鬼(オーバーブレイカー)》と称されても不思議ではない。

 

「・・・世界が認識不可能となる領域まで攻撃力を撥ね上げ、全ての事象を貫いて破壊する【事象貫通】の特性を持った攻撃を実現する【戦鬼の叫び】・・・正直実際に目の当たりにしても信じられるものではない、まさか真田がここまでの怪物だったとはな・・・」

 

眼下のバトルフィールド・・・だったクレーター内にボロボロになって倒れている烈を見つめて絶は表情を強張らせていた。彼は正直なところ烈が幸斗に負けるとは思ってもみなかったので内心は酷く動揺している、実力者同士の戦いで相性の悪さがひっくり返る事なんてほぼありえない筈だ、なのに幸斗は相性の不利をひっくり返すどころか粉々に破壊してしまってみせたのだから驚くなと言う方が無理であろう。

 

誰もが幸斗の本気モードである戦鬼の叫びの理不尽特性に舌を巻いたのだが、そんな中で一人顎に手を添えて納得いかなそうに首を捻っている者がいた・・・ステラである。

 

「どんな異能だろうと現実に起こった事象である限り貫いて破壊する・・・ねぇリョウカ?あの朱い闘気を出した状態のユキトの攻撃って本当にそうなの?それならさっきユキトが放った朱い剣圧を相殺した白い砲撃は何だったっていうのよ?」

 

「あ、そう言えばそうだったね~」

 

「うむ、其も気になっていたところだ、納得のいく説明をしてくれるだろうか、佐野」

 

「・・・・・」

 

ステラの疑問に他の皆も相槌を打ち、事の真相を知っているであろう涼花に詰め寄る。

 

言われてみれば確かにそうだ、先程幸斗が放った【破滅の光】が観客スタンドごと涼花を飲み込もうとした瞬間に白い砲撃が何所からか飛来して来て破滅の光を相殺したという事実は戦鬼の叫びを使用した幸斗の攻撃は本当に【事象貫通】なんてバグ特性を持っているのか疑問を抱くには十分な証拠であった。そもそも試合中に外から砲撃を撃ち込むなんて非常識な事をしたのはいったい誰なのか?・・・刀華はただ一人無言で砲撃を撃ち込んで来た人物の事が気になって考え込んでいた・・・その時——

 

「あーあ、幸斗の奴派手にブッ壊しやがって。本気出さねーと勝てなかったのは分かるけどな、もうちょっと自重しろよ・・・ま、無理だろうな」

 

「・・・えっ?」

 

刀華は赤ゲート側から聞こえた聞き覚えのある声に思わず声が漏れてしまった。皆も聞こえて来た声に気が付き赤ゲート側にあるギリギリ崩壊を免れた状態の観客スタンドの最上階に目を向ける・・・そこに霊装を左手に携えて立っていたのは——

 

「なっ!!?・・・風間・・・重勝!!」

 

「な・・・何なの、あの姿!?」

 

黒き砲剣を手にバトルフィールドだったクレーター内で気を失って倒れ伏している幸斗を見下ろし笑みを浮かべている【裏切り者の序列一位】風間重勝の姿を見て一同は訳が分からず目を丸くしてしまった・・・今見えている重勝の姿と雰囲気があまりにも異様だったからだ。

 

夜のように黒かった髪は星々の輝きのような銀色に染まり、どこまでも見通すような黒き瞳は闇の中に光るような黄金色に変わっている。その不敵な笑みだけで他を圧倒する存在感を纏い、万物の理(ことわり)を浄化するような異質さを感じさせている・・・本当に彼はあの風間重勝なのか?そんな疑心をこの場に居る人間に植え付けてしまう程に彼は変わっていた。

 

「・・・ふぅ、まったく元西風(ウチ)の連中はどいつもこいつも規格外を通り越した変態ばっかりで頭が痛いわ・・・幸斗の【戦鬼の叫び】とは違う方向性の進化を遂げた【戦場の叫び(ウォークライ)の先の可能性の一つ】《悪魔の叫び(デモンクライ)》、思った通り完成させていたのね、重勝」

 

自分の額を片手で押さえて小さく愚痴を言って額から手を放し、たった今下のフィールドに大きく跳躍して行った銀髪の魔砲剣士を見て小さく笑みを浮かべて呟く涼花。やはり彼女は今の重勝の姿の変化についての詳細を知っていたのだ・・・いや、予想していたと言った方が正しいだろう。実際涼花は重勝が破軍学園に入学してから身に付けたスキルや伐刀絶技についてを本人から聞いたり聞かされたりしたわけではない、先月の重勝VSカナタの試合の後に重勝から聞いた情報に基づいて彼女は重勝がこの【悪魔の叫び】というスキルを既に修得している事を予想したのだ。

 

『・・・光翼ノ帝剣(アストラル・ブレイカー)を身に付けた時からな・・・まるで糞堅ぇー鎖に縛られたみてーに前に進めなくなっちまったんだ、どんなに色々とやり尽くしてもよ・・・』

 

光翼ノ帝剣という必殺の伐刀絶技を身に付けてから前に進めなくなった・・・即ちもう重勝は伐刀者としての成長に限界を感じているという事を涼花は察した。ならば学園に入学する以前から重勝は【悪魔の叫び】というスキルを考案していたのだから、成長が限界ならばもう修得にまで至っているであろうとこの戦術家の少女は考察した、そしてその予想は見事に的中したのであった。

 

———うわぁ、見事に孔だらけだな・・・。

 

幸斗の倒れている近くに降り立った重勝はその場で会場全体を見回し、其処ら中の空間に渦巻いている無数の次元の裂け目を見てこの惨状に呆れていた。

 

———ただブッ壊れただけの部分なら理事長が直すだろーけど、この孔ボコは【直せねー】からな・・・だけど、コレを放置していたら最終戦に支障が出てあのクソ狸を潰す計画がスムーズに行かなくなる可能性が出てくるしな・・・。

 

そう思った重勝は常人には理解し難い行動に出る・・・何故か左手に持った【重黒の砲剣】の切っ先をすぐ目の前に在る次元の裂け目の一つに向けたのだ。

 

「仕方ねーな———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————【塗り替える】か」

 

そして意味深に呟くと砲剣の切っ先に【白い重力エネルギー】を収束してそれを撃ち出した。

 

「嘘・・・白い砲撃が・・・次元の裂け目を覆った・・・」

 

口を両掌で覆って驚愕する刀華を余所に重勝は次々と他の孔にも白い砲撃を撃ち込んでいく、撃ち込んだ白が光の膜となって直せない筈の次元の裂け目を覆い尽くしていく光景は観客スタンドに残る刀華達に驚愕を齎し、やがて全ての孔が白に覆い尽くされるのだった。

 

「ふぅ~、これで全部だな・・・それじゃあ、仕上げといくか!」

 

一仕事を終えた工場の作業員のように一息を吐いた重勝は表情を引き締めてそう言い、【零か無限(ゼロ・オア・インフィニティ)】を発動して宙に浮かび、砲剣を構えて正面に見える白い膜に覆われた孔に向けて勢いよく飛翔して行く、そして——

 

「はぁっ!」

 

砲剣を振るい、白を斜め一閃に斬り裂いた。

 

「え・・・えぇぇえええっ!!?」

 

「まさか・・・そんな事が・・・」

 

「冗談・・・でしょう・・・」

 

「う、うっそだぁ~!」

 

「これは流石に魂消たな・・・」

 

重勝が斬り裂いた白い膜に覆われた次元の裂け目の跡を目の当たりにしてステラ達は腰を抜かす程に驚愕している、今眼に映っている光景が信じられないと言う様に・・・何故なら斬り裂いた跡の空間は元の何も無い空間に戻っていたからだ。

 

「・・・よしっ、次!」

 

孔の消滅を確認した重勝は次の標的を目指して飛んで行き、また斬っては次へと縦横無尽に第一訓練場内を飛び回って孔を消滅させる作業を熟して行く・・・あまりにも衝撃的な事象を目の当たりにしてステラ達は唖然と立ち竦むしかなく、特に刀華と泡沫は宿敵である男の自分達の知らぬチカラを見て息を詰まらせる程に驚愕していた。

 

「風間さん・・・貴方は、いったいどれ程のチカラを・・・」

 

「こ・・・こんなのトリックか何かのイカサマに決まっているだろ!?【次元の裂け目】は世界を傷つけてできる現象なんだから伐刀絶技で直せる筈が無い!!」

 

泡沫が癇癪を起こすように否定しているが確かにその理屈は正しいと言える、世界そのものに付けられた傷は二度と元には戻らない、現に過去の七星剣武祭で学生時代の黒乃が時空崩壊を使用して生じた次元の裂け目は現在も放置されており、その時に使用されていた試合会場は未だに立ち入り禁止区域に指定されたままであるのだから。

 

・・・そんな泡沫の癇癪に応えたのは当然、【悪魔の叫び】の特性を知る涼花であった。

 

「ええその通りよ、一度生じた【次元の裂け目】は二度と元には戻せないわ。重勝は孔を【直した】んじゃない、重力エネルギーの砲撃で【次元の裂け目という事象を塗り替えた】のよ・・・」

 

「・・・ハァ?【塗り替えた】ってどういう事よ?」

 

「そのままの意味よ・・・《事象塗替》、自分の攻撃による事象を他に生じた事象よりも優先して【上から塗り替える】事を可能にする、その他の事象にどんな魔力量が込められていて干渉力が高かろうと、どんなに理不尽な現象だろうと、問答無用で自分の攻撃という事象で塗り替える・・・それが重勝の【悪魔の叫び】の特性なのよ」

 

「なんて規格外なスキル・・・それでは【次元の裂け目】を砲撃で覆い、霊装で斬って消えたのは・・・」

 

「【次元の裂け目という事象】を【重力エネルギーの砲撃という事象】で塗り替え、更にその上から【斬撃という事象を優先化】させて斬り込み【次元の裂け目を塗り替えた重力エネルギーを切断】、次元の裂け目が消え去った事によって世界がその空間を修復し、元の空間に戻る・・・といったギミックよ、理解できた?」

 

涼花の説明を聞きステラ達は顔半分をピクピクと若干吊り上がらせて苦笑いをしてしまう。完全に理解できた訳ではないが幸斗の戦鬼の叫びと同様に重勝の悪魔の叫びというスキルはバグ級の性能だという事を認識したからだ。

 

先程【戦鬼の叫び】使用状態の幸斗が放った【破滅の光】を砲撃で相殺したのも当然【悪魔の叫び】使用状態の重勝がやった事である。世界が理解できなくなる程に上昇した攻撃力で付加される【事象貫通】、【重圧で押し潰す】という重力の異能が極限まで研ぎ澄まされて得られる【事象塗替】、その二つの特性が衝突すると互いの特性が鬩ぎ合って対消滅するので、重勝が撃った白い砲撃が幸斗の放った破滅の光を相殺したという結果になったのであった。

 

ステラ達が顔を引き攣らせている間に重勝は全ての次元の裂け目の処理を済ませ、フィールド上で寝てしまっている幸斗と烈の回収に動いていた。

 

「・・・ま、とにかくあの烈を相手によくやったな幸斗。想像以上に強くなっていて驚いたぜ、まったく大した元教え子だよお前は」

 

烈の左腕を自分の左肩にまわして背負い上げ、幸斗を右腕に抱き上げて重勝は再び空へと舞う。そこで彼は涼花達の存在に気が付き、彼女達と言葉を交わせる程の距離まで飛んで近づいて呆れるように声を掛けた。

 

「何だよお前ら、まだこんなところに残っていたのか?」

 

斜め前上から見下ろす重勝に対して涼花達は十人十色の顔で一斉に目を向けた。

 

「アンタが来るのを待っていたのよ、面白いものが見れると思ったからね」

 

「姫ッチ~、お前無謀な事してんじゃねーよ、さっきの俺が助けなかったら細胞一つ残らず消えていたんだぜ」

 

「あら?西風が誇る名教官様が危険な目に遭っている教え子を見捨てるなんて事をする訳?わたしが逃げなかったのはアンタを信じていたからなのに」

 

「もしもって時を考えろよ、お前それでも戦術家か?・・・」

 

「仲間を信じ抜く度胸も戦術家に必要なスキルよ」

 

「屁理屈だぜそれ・・・」

 

重勝はまず涼花と他愛の無い会話を交わして彼女の無事を確認する。先程の事もあってやはり心配があったのだ、だがこの皮肉を聞けば彼女が何ともないという事を十分理解できる、それ故に涼花との会話はこれで切り上げ、次は背負っている烈の弟である絶に目を向けた。

 

「絶、今回は兄貴の烈が負けて残念だったな。まあこれも勝負の世界の厳しさだから仕方ねーけど、悪いな」

 

「別に気にしてはいない、その愚兄が実力不足だっただけだからな・・・ただ真田の実力は見縊ってはいた、その事については謝罪させて欲しい・・・」

 

「ははっ、それは後でこのお馬鹿に直接言ってやれよ」

 

それから重勝は他の面々にも目を向ける。

 

「ヴァーミリオン、黒鉄の奴が心配だからってあんまり思い詰めるなよ。奴なら大丈夫だ、このお馬鹿に挑戦状を叩き付ける程の気力も有るしな。世間はでっち上げのスキャンダルを真に受けているけど、お前等は何も間違った事はしていないぜ、俺が保証する」

 

「大きなお世話よ。でも心配してくれてありがとうカザマ先輩、そう言ってくれるとなんだか少し気持ちが楽になったわ」

 

「黒鉄の妹も無理して強がらなくてもいいと思うぞ?大切な家族が酷い目に遭っていて悲しく無い訳がない筈だからな。お前の気持ちは解るだなんて無粋な事は言わねーけど、せめてそこの色男ぐらいには胸を貸してもらってもいいんじゃないか?」

 

「別に貴方が気を遣う事じゃないですよ。私は大丈夫です、お兄様が連盟と黒鉄家の陰謀に屈するわけが無いと先程のお兄様の真田さんへのメッセージを聞いて確信しましたから」

 

「そうか、なら大丈夫だな・・・隣の色男さんよ、黒鉄が帰って来るまでそいつをしっかりと支えてやれよな!」

 

「うふふ、色男じゃなくてアリスって呼んでくれると嬉しいわ♪それに言われなくてもそうするつもりよ♪」

 

「ははは、いらねーお世話だったみてーだな♪なら問題ねーか・・・さてと・・・」

 

重勝は最後に刀華達生徒会の面々の顔を見る・・・恋々は気まずそうに右の人差し指で蟀谷を掻き、砕城は困ったような鹿目面で両腕を組んでいる、刀華は今は放っておいて欲しいと言っているかのように俯いて覇気が弱く、泡沫に至っては当然いつも重勝に向ける憎悪の目線を向けて威嚇していた。

 

———コイツ等には・・・俺が言っても仕方がないか・・・。

 

「それじゃあ俺はこのお馬鹿と背中の焼肉のタレヤローを医務室に届けに行くからよ、お前達も訓練場の修繕作業の邪魔にならねーようにとっとと撤収しろよな!俺はもう行k「待って、風間さん!!」・・・・・はぁ・・・何だ?俺は今回はお前の気に障るような事をした心当たりはねーぞ・・・東堂」

 

言いたい事を言い終えた重勝が幸斗と烈を連れて飛び去ろうとした時、俯いていた刀華が血相を変えて必死の形相で重勝を呼び止めた。空の黒い剣士に向ける真剣な眼差しが場に緊迫した静けさを漂わせ、雷切の名を持つ少女は重い口調で黒い剣士に問う。

 

「貴方は・・・知っていたんですか?・・・低ランクのみんなが、私に何もかもを押し付けて希望を捨てている事に・・・」

 

「・・・・・」

 

重い沈黙が空気を押し潰す。試合の最中、烈に追い詰められていく幸斗を蔑む罵倒に交じって聞こえて来た未来への希望を嘲笑う会話は、学園の希望となり皆の未来を導く事を志す刀華の心に深い傷を刻んだ。そこで彼女は思い出した事があった、昨年のあの出来事から重勝は学園の生徒達の不満を煽るような行動をして皆を困らせているのだが、今になってよく考えてみればそれはランク差の弊害や刀華達に頼ってばかりの生徒達の事を否定する内容ばかりであったのだ。その事と聞こえて来た話を照らし合わせて考えると重勝は生徒達の内情を知って失望を覚え、それで皆を見捨てて裏切り行為に及んだとも考えられる。刀華はそれでどうしても真相を知りたく思い、藁にも縋る想いで聞いたのだ、宿敵であり、昔憧れた存在でもあった裏切り者の学園のエースに。

 

——ふーん、ようやくその事に感付いたのか。一月前の試合の時に貴徳原の奴がこの事に感付いちまったから口止めとして簡単には復帰できないように光翼ノ帝剣まで使って派手に叩き潰したんだが・・・こりゃあもう隠しておくのは限界かな・・・。

 

「【そうだ】・・・と言ったらどうするんだ?」

 

「全てを教えて下さい、貴方が学園のみんなを裏切ったあの日から貴方が裏で何かをしようと企んでいる事は知っています、いったい何をするつもりでいるのか、全部洗い浚い話してください!」

 

「それを知ってお前はどうするつもりなんだ?仮に俺が学園の現状を好転させる為に動いていたとして、お前は俺が昨年学園の連中を裏切った事を納得して、俺に協力してくれたりするのか?」

 

「それは・・・」

 

「する訳ないよな、昨年のあの出来事に納得するという事はお前に期待を寄せてくれている連中を裏切るという事だ。連中がどうであれ、助けになりたいと今まで南関東屈指の学生騎士【雷切】として活動してきたお前が学園を裏切る事をやる筈がねーし」

 

「それでも、知りたいんです・・・私は去年、Fランクである黒鉄さんがみんなから酷い虐めを受けていた事に気が付きませんでした・・・みんなが私達高ランク伐刀者に対してどれ程の劣等感を抱いているのかも知っているつもりでしたが、ここまで荒れていたとは思ってもみませんでした・・・もう、嫌なんです・・・現実を何も知らずに周りが傷ついていく事が!」

 

「・・・はぁ」

 

今にも泣き出しそうな悲しみに満ちた眼で懇願する刀華を空から見下ろす重勝はしょうがなさそうに溜息を吐く、東堂刀華という女はこんな弱い姿を見せるような奴だったのか?と呆れてしまったのだ。でも仕方のない事だろう・・・いかに他人の為にチカラを尽くせる強い精神を持った者といえど、その志が揺らげば脆いものなのだから・・・。

 

重勝は観念したのか、面倒臭そうに口を開く。

 

「・・・なら教えてやっても構わねーけど・・・タダで教えてやる訳にはいかねーな」

 

「・・・何をすればいいんですか?・・・」

 

「いや、胸隠して睨んでこなくっても、そんないかがわしい事なんか要求しねーって(楯無じゃあるまいし・・・)・・・んんー、そうだな———」

 

重勝は首を捻って唸り、刀華に情報を教える条件を何にするかを考えてみる・・・気まぐれに幸斗の龍殺剣で天蓋が消滅した為に吹き抜けとなった場所を見上げてみると、崩れかけの吹き抜けの端の上に乗っていた二羽の鳩がその翼を羽ばたかせて蒼穹の大空へと飛び立って行くのが見えた。

 

「———・・・なあ東堂・・・鳥ってさ、何で空を飛ぶんだ?」

 

「・・・え?」

 

「と言っても鳥類の身体構造とかを説明しろと言ってるんじゃねーぞ、鳥自身が何を思って空を飛ぶのかどうかだ。この問いにちゃんと答えられたら正直に話してやるよ」

 

【鳥は何故空を飛ぶのか?】・・・重勝が刀華に提示した問いの内容は学園で起きている問題とは全く関連性が見当たらなく適当であった。その為問われた刀華だけでなく聴く耳を立てていたステラ達もが意味不明に思って戸惑っているようだ。

 

それでも何とか答えようと刀華は咄嗟に思った答えを口にして言おうとするが——

 

「あ、今は答えなくていいぜ。どうせ【木に成っている実を取る為】とか漠然とした事しか思い付かねーだろうしな」

 

「・・・・・」

 

刀華は口を閉じた、図星だったようだ。

 

「・・・明後日の朝七時、お前が幸斗と姫ッチと初体面した休憩所・・・そこでお前の答えを聞かせてもらうぜ、【雷切】東堂刀華の思う【何で鳥は空を飛ぶのか?】をな」

 

「・・・分かりました、約束ですよ」

 

「おうっ、約束だ!・・・・・じゃあ今度こそ俺は行くぜ、あばよ」

 

二日後の朝に再び刀華と会って話す約束をした重勝は、ステラ達に様々な感情の目で見送られながら幸斗と烈を連れて飛び去って行ったのだった・・・。

 

・・・こうして、七星剣武祭への六つの切符を賭けた選抜戦最後の決戦の舞台に上がる十二人を決める戦いは幕を閉じた・・・【戦鬼の叫び】を使用した幸斗の攻撃で空いた第一訓練場の次元の裂け目を重勝が処理した為に激戦の末に廃墟と化した第一訓練場の修復が黒乃の能力によって無事に行われ、最終戦は予定通り破軍学園敷地内の全訓練場を使った全六試合同時進行を行う運びとなった。

 

いよいよ選抜戦もクライマックス、重勝達の倫理委員会の企みを潰す計画も実行に移される大一番だ。果たして重勝達は倫理委員会の陰謀を阻止し、傭兵団西風を壊滅に追い遣った黒幕である赤座守を討ち果たす事ができるのか!?そして幸斗の最終戦の対戦相手とはっ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・なお、破軍学園の理事長である新宮寺黒乃は第一訓練場の修復を終えた後、幸斗が試合で世界中に起こした被害の責任を取る為に各地の被害を修復しに遠出したので、最終戦当日まで彼女は破軍学園に戻れないそうな・・・・・責任者とは辛い立場であった・・・。

 

 

 

 

 

 




テイルズ・オブ・ベルセリアのストーリー内で多く問われ、様々な人物が千差万別の答えを出した【何故鳥は空を飛ぶのか?】・・・今回それを刀華に対して重勝が問いましたが、刀華はどう答えを出すのか?


そしてここで宣伝です。息抜き作品として八月上旬辺りから【蒼空の魔導書 カーニバル・クロノファンタズマ】という作品を投稿しはじめました!

この作品は【運命を覆す伐刀者】を含む自分が投稿している各作品に登場するキャラ達が一堂に会し、皆で色々な事をワイワイとやろうぜ!というハチャメチャな内容となっております!

ただし、息抜きで書くのでかなりの【手抜き描写】、そして【台本形式】なのでそこには注意してください。

また、他作者様のキャラをゲストとして登場させる事も視野に入れており、現在はレタスの店長さんの作品【落第騎士の英雄譚 ~運命を覆し最強を目指す戦士達~】に登場する【天崎翔】と【エリシア・ヴェルモンド】の二人がゲスト出演する事が決定しております!

バトルばかりで飽き飽きして来たと思った読者の皆さん!【蒼空の魔導書 カーニバル・クロノファンタズマ】ではバトル以外の事をする幸斗達が見られるので、是非拝見してみて下さいね!



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