運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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大変お待たせしました!幸斗VS烈、遂に決着です!




戦鬼の叫び(オーガクライ)発動!真なる攻撃力EX!!

真田幸斗という鬼の叫びは【この次元】を揺るがした。

 

人はおろか最早世界すらも理解が及ばぬそのチカラを世界中の【運命の外側に立つ者】達は感じ取り、そして慄く。

 

「っ!!?・・・何・・・今の?」

 

それはKOK世界ランキング第4位の《黒騎士》を動揺させ——

 

「ぬおっ!?なんっすかこれは!?びりびりするです!」

 

中華連邦のとある場所に幽閉されている《饕餮(トウテツ)》の鍛えあげられた肉体と精神を震わせ——

 

「・・・チッ!気分悪りぃ。この感じ・・・【傭兵王】が連れていたあのガキか?・・・へっ!おもしれぇ」

 

五年前に世界最強の傭兵、【傭兵王】風間星流がこの世を去った事で最強の傭兵の座をモノにした《砂漠の死神(ハブーブ)》の乾ききった心を沸き立たせ——

 

「ビックリするなーもう!せっかくの楽しい虐殺タイムが台無しじゃないかぁ・・・」

 

足下に死体の山を築き上げて快楽に浸っていた《傀儡王(かいらいおう)》の気分を損ねさせていた・・・そして——

 

「世界が怯えている!?・・・東日本の南から感じますね。魔力ではなく闘気のようですが・・・」

 

世界最強の剣士にして世界最悪の犯罪者、五年前に傭兵団西風の団長【傭兵王】風間星流を亡き者にした幸斗達の因縁の伐刀者【比翼】のエーデルワイスにさえにも衝撃を齎していたのであった。

 

「世界が怯える程の尋常ならざる闘気を発する者・・・気になりますがこれ程の闘気を発する強者ならいずれ相見える事となるでしょう。【絶望の未来の運命】を覆すチカラを持つかどうか・・・その時に確かめさせてもらいますよ、鬼のように凄まじい闘気を発する名も知らぬ強者よ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ”・・・あ”あ”・・・」

 

世界そのものが恐怖し定められた運命を脅かす重圧・・・開いた口が塞がらないとはこの事か、幸斗が叫び【戦鬼の叫び】を発動した後、変貌した幸斗の姿を目の当たりにして第一訓練場内に居る人間の殆どが絶句していた。

 

「な、何なのよ・・・あれは?・・・」

 

ステラをはじめとする観客達は、表情を硬直させて戦慄し、バトルフィールド・・・だったクレーター内に立つ幸斗に視線を集めている。

 

「あれが・・・真田・・・だと!?・・・」

 

絶が今の幸斗の姿を見て声を詰まらせる。幸斗は今、身体中に朱く煌く焔のような闘気を身に纏い、夕焼け色の髪は無数の太い針のように逆立って朱い燐光を発し陽炎の様に揺れている。燃え盛る灼熱の眼で目の前の烈(てき)を捉え、獰猛な笑みを浮かべている。両腕を組んで威風堂々と立つその姿はこの世の全てに楯突く反逆者のような雰囲気を出し、神すらも恐れぬ蛮勇さを感じさせていた。

 

その姿、まさに全てを破壊する赤鬼、全ての存在が恐れ慄く破壊の化身そのものであった・・・そして周囲の目を最も惹くのは———

 

「それよりも何なんですかアレは・・・真田さんの周囲の空間が・・・割れた?」

 

叫んだ後に幸斗の周りに突如として出現した無数の【孔】だろう。なんとも異様な光景だ、ガラスに穴が空いて出来たかのような形のそれは幸斗の周囲の空間に割って入って来たかのように浮いており、その【孔】からはまるでプラネタリウムで映す満天の星空のような風景が貌を出している。

 

『いい一体真田選手はななな何をしたというのでしょうか!?いいいきなり獣のように耳を劈くような雄叫びを上げたと思ったら、真田選手は朱い焔のような現象を身に纏っていて、驚く事にその周囲の空間が割れているという現象が起こっていました!!!し、信じられません。真田選手はその魔力の低さ故に伐刀絶技が使えなかった筈なのですが、これは一体・・・どういう事なのでしょうか?・・・西京先生?』

 

『ぜぇ、ぜぇ!・・・はぁ、はぁ!・・・』

 

幸斗が引き起こした現象を目の当たりにして戦慄する実況解説の女子生徒が動揺しながら寧音に問う。その時横目を向けた彼女の目に入ったのは身体中から大汗を流して表情を引き攣らせ、明らかに気分を害している夜叉姫の姿だった。

 

———いったいアレは何だっていうのさ!?ゆっきーが叫んだらいきなり息が苦しくなっちまった。何なのさ、この感じは!?どう考えても普通じゃねーよ、まるで空を飛んでいる最中下から伸びて来た腕に脚を掴まれてそのまま海の底に引きずり込まれる感じがするさね!

 

寧音は今の幸斗から得体の知れない畏れを感じていたのだった。興味本位から来るいつもの驚きではない、彼女は今本気で畏れているのだ、朱い闘気を纏うあの少年を。

 

———それにゆっきーの周りの空間に空いた【孔】・・・見覚えがあるなんてもんじゃない、あれは———

 

「くーちゃん・・・ゆっきーの周りにある孔って・・・」

 

寧音は黒乃に目を向ける。黒乃も幸斗が発する圧力に相当参っており、壁に背中を預けて気分悪そうに寄り掛かっていた。

 

「・・・貴様もわかっているんだろう寧音?・・・あれは時空間が崩壊してできる《次元の裂け目》だ・・・」

 

「・・・やっぱりそうかい・・・」

 

圧力で息が詰まりそうになりながらも黒乃は質問に答え、寧音は最初から返ってくる答えが解っていたかのように呟いた。この二人がアレを見間違う筈がない、実際に二人は学生時代あの孔を目撃した事が・・・いや、此処に居る【世界時計(ワールドクロック)】の二つ名を持つ魔導騎士が実際に創った事のある現象なのだから。

 

「懐かしいねぇくーちゃん。学生時代、ウチらが七星の頂きを懸けてぶつかり合ったあの決勝戦をさ・・・」

 

「・・・ああ、そうだな。アレは貴様がムキになって【覇道天星】なんてもの使ったりしなければ使用したりはしなかったんだぞ?・・・おかげでその時に使用した試合会場は今も【次元の裂け目】だらけで侵入禁止区域になったままなんだからな・・・」

 

寧音の【覇道天星】と同じく連盟から【禁技指定】を受けた新宮寺黒乃必殺の抜刀絶技《時空崩壊(ワールドクライシス)》、指定した座標の空間の時空を無差別に捻り、空間を崩壊させて世界に消えない傷を創ってしまう恐るべき伐刀絶技だ。その消えない傷こそが【次元の裂け目】、世界そのものを傷つけてできる孔であり、そこからどこかの異世界に通ずると言われている超常現象である。

 

「アハハッ、細かい事は気にするんじゃねーよ、もう過ぎた話じゃないか・・・・・しかし、あれはどういうことさね?幾らゆっきーの叫び声が頭がカチ割れそうなくらい五月蠅かったとはいえ【次元の裂け目】が出来るだなんてさ・・・」

 

寧音の疑問はもっともだ。幸斗は黒乃のように空間に作用する伐刀絶技は使えない・・・というか伐刀絶技が使えないので叫んだだけで空間が崩壊したという事実は意味不明としか言いようがないだろう。

 

だが、あの真田幸斗という鬼がどれほど規格外な存在かを黒乃は知っている・・・。

 

「私も信じたくはないがな・・・真田は【物理的に時空間を破壊した】んだ・・・【戦鬼の叫び(オーガクライ)】を使用した真田の攻撃力はもはや世界すら理解できぬ高みに達している、ただの叫び声ですら世界に傷を付けてしまう程にな・・・」

 

「・・・おいおい、マジかよ・・・それって・・・」

 

「ああ、【至っている】貴様が一番感じている筈だ・・・今の真田は【貴様達】を倒せるぞ」

 

黒乃は戦慄する寧音に忠告するように言い、寧音は表情を引き攣らせながらフィールド上に立つ朱い闘気を纏う幸斗に視線を向ける。

 

「なるほどねぇ、あの子鬼は【世界が定めた運命そのものをひっくり返す】っていうのかい?・・・」

 

そう呟く寧音の顔には額から冷や汗を流しながらもいつの間にか笑みが浮かんでいた。

 

「【運命を覆す伐刀者】・・・か・・・ハハ、マジ笑えねー・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが・・・真田の本気・・・」

 

寧音程のトップクラスの魔導騎士さえも戦慄させる幸斗の【戦鬼の叫び】、観客スタンド四階の放送室で感じる威圧感でさえこの有り様なのだから間近でその気当たりを受けている烈の精神は相当擦り減って意識を失いそうな程に参ってしまっている筈・・・なのだが。

 

———確かに驚く程の変貌だってリユウだ。向けられる威圧は半端なく重いってリユウだし、周囲の空間に突然空いた孔なんて非現実的過ぎてリユウが分からない恐怖を感じる・・・だが妙だ、目に見える程の凄まじい闘気だというリユウなのに・・・【全く何も感じない】?

 

烈は幸斗が纏う朱い闘気からは何も感じていなかった・・・いや【何も感じる事ができなかった】という表現が正しいのか?放送室に居る寧音と黒乃は肩で息をして相当参っているというのに烈や観客達は変貌した幸斗にただ動揺するだけで気当たりによる重圧が掛けられている様子は全く見られない、その動揺もどちらかというと空間に空いた孔を見て困惑している感じだ。

 

だからこそ烈は不気味に思った。

 

———なんで何も感じないってリユウだ?目に見える程の闘気が何も感じないなんてリユウ有り得ねぇ!

 

多かれ少なかれ人は例外なく【気】を持っている、【元気】【勇気】【根気】【色気】【殺気】etc・・・それ等を人は感じ取る事ができるものだ。一般人でも近くで背中に掌を向けられれば直接触れられていなくとも微妙な熱を背中に感じる事ができ、感覚が研ぎ澄まされた武術の達人ならば【気】の流れを感じ取って相手の行動を予測する事だってできる。

 

その【気】が目に見える【闘気】となる程巨大なものならば【何も感じない】なんて事は有り得ない筈だ。故に烈は今の幸斗から得体も知れない不気味さを感じたのだ。

 

「・・・ふ・・・ふふ・・・」

 

「っ!!」

 

そう思っている最中に幸斗が動きを見せたので烈は神経を研ぎ澄ませて身構える。緊張が高まる中、幸斗が取った行動は———

 

「———アーハッハッハッハッハッ!!」

 

なんと天に轟くくらいの大声で笑い出したのであった。

 

「らしくねぇぇーーーーーっ!!何らしくない事やってんだよオレはよっ!!当たらなければどうという事は無い?隙を突く?バッカじゃねぇの!?馬鹿なオレがいきなりそんなムズイ戦法やろうとしたってできる筈がないだろうが!アハハハハハッ!!!」

 

「・・・・・」

 

突然笑い出して愉快そうに自虐の言葉を吐き捨てる幸斗を見て烈は唖然と呆気に取られていた。あまりにも予想外な行動だったので呆けたのだ。

 

「そうじゃねぇだろオレッ!!オレの戦法はどんな奴が相手だって堂々と正面から叩き潰しに行く事だろ!!相手がどんな能力を持っていようが関係ねぇ!十一年間鍛え上げたこの腕で!剣で!立ち塞がる相手を能力ごとブッ飛ばすのがこのオレ・・・真田幸斗だっ!!!」

 

笑い終わると高らかにそう言い放って幸斗は烈に朱い太刀の切っ先を向ける。唖然と呆気に取られていた烈はそれで正気に戻り、未だに不気味な感じが抜けきれていない中で呆れるような笑みを浮かべて再び身構えた。

 

「・・・へっ!何を言い出すのかと思えばまだ理解していないってリユウだな!言った筈だぞ?世の中にはどうにもならない運命が一つや二つあるってリユウをよ!どんなチカラや質量・事象だろうと例外無しに削り取る俺の【土竜の手】は無敵だってリユウだ!お前の攻撃力がどんなに規格外だろうと俺を正面からブッ飛ばすなんて不可能だってリユウなんだよっ!!!」

 

【理由】を重ね、幸斗に純然たる事実を突き付けるように言い放ち、烈は戦闘態勢に移行する。これは驕りで言っているのではない、事実烈の土竜の手は幸斗の全力全開の龍殺剣ですらも容易に引き裂く程の理不尽な性能を誇るチート伐刀絶技であり、正面から能力ごと打ち破るだなんて事実上不可能と断言できる。

 

・・・だがそれでも、ここにいるのは【運命を覆す伐刀者】、真田幸斗だ!

 

「へっ!オレにとってそんなの理不尽なんか今に始まった事じゃねぇぜっ!だから何度でも言ってやる!!・・・いいぜ、それがアンタの言うどうにもならない運命だって言うんなら————」

 

幸斗は鬼童丸を天高く振り上げる。どんな理不尽な運命だろうと関係無い、【突き進み続ける意志】をもって突き貫く!その誓いを胸に———

 

「————その運命を覆してやるっ!!!」

 

【運命を砕く剣】を地に振り下ろした。

 

天に轟くような轟音と複数のガラスが一斉に砕けるような破砕音が鳴り響く、世界の意志すら理解できぬ膂力によって発せられた埒外の剣圧が事象改変を引き起こし、想像を絶する巨大なエネルギーが放たれた。

 

「なっ!!!?」

 

それを目の当たりにした瞬間、観客達は言葉を失い、烈の表情が驚愕に染まった。地を割り進むは巨大な朱い光の柱、それが周りの空間を崩壊させながら凄まじい速度で一直線に烈へと向かって来ている。

 

『こ、これはいつもの剣圧閃光では無いぞぉぉおおおおっ!!?圧倒的な朱ですっ!観客席最上階を優に越える高さの朱い光の柱が雑音(ノイズ)すらも掻き消す物凄い爆砕音を鳴らして周囲に【次元の裂け目】を形成しながら如月選手に襲い掛かって行くぅぅうううううっ!!!戦場のド真ん中なんて表現じゃ生温い!地の底から地獄そのものが吹き上がり、現世を侵食して行くかのようなクレイジーな光景ですっ!!如月選手はもはや埒外なこの一撃に対してどう対処するのかぁぁああああああああっ!!?』

 

圧倒的な存在感を出す滅びの朱が空間土竜の名を持つ騎士に襲い掛かる、クレーターの斜面など関係ない、埒外の物理現象は地も空も全てを飲み込んで無に還すのだ。

 

———なんっつう一撃だってリユウだ!空間を歪ますどころか風穴空けながら向かってきやがる!!【常軌を逸した科学は魔法と変わらない】ってリユウはよく聞くが、それを容認してもこれはイカレているな!!・・・だが——

 

思っている事とは裏腹に烈は冷静に身構えていた、何故なら彼には絶対無敵の伐刀絶技がある———

 

———怖れるリユウはねぇっ!どんなに埒外の威力だろうと俺の土竜の手に削り取れないモノは無いってリユウだぁああああああっ!!!

 

「うぉぉおおおぉぉおおぉおおおおおおおっ!!!」

 

『如月選手突っ込んだぁぁあああっ!!霊装【神楽土竜】を振り上げて襲い掛かって来る破滅の光に堂々と正面から挑み掛かって行ったぁぁあああっ!!空間土竜の持つ鉤爪は地獄をも引き裂けると言うのか!?真っ向勝負だぁぁああああああああああっ!!!』

 

烈は右の鉤爪を振り上げ、青紫の魔力を纏わせる。彼は全てを例外無く【削り取る】概念を持つ抜刀絶技ならば地獄だろうと天国だろうと引き裂けると確信している、それは鬼が叫んだ後でもその場に残った者達も同様、空間土竜の負けは無いと思っていた———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———一人を除いて。

 

「・・・無駄よ如月先輩。【戦鬼の叫び】を使った幸斗の攻撃力は世界にも理解できない・・・それ程の埒外な攻撃力を前に概念干渉だろうと因果干渉だろうと全ての事象は・・・【貫かれる】だけよ」

 

月花の錬金術師の二つ名を持つ少女が哀れむように呟いた瞬間、全てを削り取る土竜の鉤爪は眼前に迫った破滅の光に向けて振り下ろされ、爪が光に触れると同時にその爪は・・・消滅した。

 

「なっ————」

 

その顔が驚愕に染まる間も無く烈は地獄に飲み込まれた・・・破滅の光はそこで止まる事は無く、その後ろにある観客スタンドにまで襲い掛かる。

 

「う・・・うわぁぁぁあああああっ!!!」

 

「に、逃げろぉぉおおおおおおっ!!!」

 

「まだ死にたくないよぉぉっ!ママーーーーッ!!!」

 

迫る地獄を前に耐え切れず一目散に逃げ出して行く観客達・・・賢明な選択だ、太刀打ち不可能な災厄から逃れるのは当然の行動であるのだから誰も咎める者などいない。きっと自分は大丈夫と思ってその場に残る者は気が狂ったか、或いは愚か者だけだ。

 

「・・・・・」

 

「ちょっとリョウカッ!?何で逃げないのよっ!!」

 

その場には愚か者とは程遠い筈の戦術家の少女が残っていた。そう、破滅の光が飲み込もうとしている観客スタンドは涼花達が座っている場所だったのだ。

 

涼花は迫る破滅の光を前に微動だにせず無言のままその場を動く素振りも見せなかった、皆と共に出入り口から避難する為に階段を駆け上がるステラが席から動こうとしない涼花に必死に声を掛けるものの、涼花は一向に動こうとしない。

 

「・・・・・」

 

「リョウカァァアアアアアアッ!!!」

 

彼女は正気なのかと疑う余地も無く、破滅の光が観客スタンドの一階を飲み込み始める。観客スタンドは斜面になっている構造なので涼花の居る三階を地獄が飲み込むまでに0.数秒の猶予はあるが、少数単位の秒数なんて人間にとって猶予にならないだろう。

 

ステラの呼びかけも虚しく破滅の光が涼花を飲み込もうとしたその時、突然【白い】魔力砲撃が飛来し涼花を飲み込もうとしていた破滅の光に着弾する。

 

「・・・えっ!!?」

 

「なっ!!?」

 

ステラ達は自分の眼を疑った、白い砲撃が破滅の光に着弾した瞬間双方は眩い光を発すると共に対消滅したからだ。

 

結果として破滅の光は涼花を飲み込む直前で消え去り、彼女は無事であったのだが、破滅の光に飲み込まれてしまった烈は消滅してしまったのか?・・・・・否、彼はまだ健在であった。

 

———あっぶねぇぇええええっ!間一髪だったってリユウだ!!

 

地獄が烈を飲み込んだと思われた瞬間、烈は地獄が通り過ぎた左側に現れていのだった。右の鉤爪が消滅した瞬間に彼は無我夢中で残った左の鉤爪で左の空間を抉り、【空間切削】を使って瞬間移動し奇跡的に回避をする事に成功していたという事だ。もし一瞬でも【空間切削】の使用が遅れていたら彼は今頃三途の川の手前に立って茫然としていた事だろう、まさに危機一髪であった。

 

———一体どうなっているんだってリユウだ!?【土竜の手】はしっかりと発動していた筈だ!?何のリユウでこっちの霊装が消滅したんだ!!!

 

急いで瞬間移動をした為に停止が利かずに烈はその場に転がりながら困惑していた。無敵の筈の爪が真っ向勝負で敗北し打ち破られる事実が信じられなかったのだ。

 

別に事実を否定している訳ではない、全てを例外無く削り取る概念干渉の能力を持つ自信の異能がチカラ任せで引き起こした物理現象に通じなかった事に疑問を抱いて混乱しているのだ。無理もない、無敵と信じていた自慢の伐刀絶技がたかが剣圧という物理現象に打ち破られてしまったのだから。

 

・・・だが、疑問を抱いている余裕など烈にはない。

 

「———なっ!!!?」

 

「うぉぉぉおおおおおおおおおっ!!!」

 

烈は受け身を取り、立ち上がった瞬間またしても異常な程大きな爆砕音が聴こえて来たと思うと、なんと既に目の前で朱い闘気を纏った幸斗が拳を振り抜いて来ていたのだった。

 

先程まで幸斗が立っていた場所を見てみるとその地面から後方の観客スタンド全体とその先の外壁にかけて扇状に崩落していた、幸斗の埒外の脚力で地を蹴った為に崩壊したのだ。

 

———コイツッ!?いつの間に間合いを詰めt———

 

烈の思考はこれ以上続かなかった。先程幸斗が破滅の光を放った瞬間にそれを目の当たりにした観客達は恐怖して一斉に逃げ出していたので崩落した観客スタンドは既に無人であり、死傷者はいなかったのだが、数メートル後方まで崩壊させる程の脚力で地を蹴ったという事はそれ相応の速度で向かって来たという事に他ならない。

 

「———がはぁぁっ!!!」

 

避ける間もなく幸斗の拳は容赦なく烈の腹部に突き刺さった。今の幸斗の攻撃力で殴られて身体が無事で済む筈が無いと悟った烈は死を覚悟したのだが・・・。

 

「・・・・・は?」

 

気が付いた時には烈の眼には異常な光景が飛び込んで来たのであった・・・まずは視界全体に広がる蒼穹と下方に広がる白い雲海だ、右を見てみると渡り鳥の群れが列を組んで翼を羽ばたかせているのが見える。

 

———なっ!?何だってリユウだこれはっ!!!

 

烈は突然視界に映った景色に動揺して取り乱す。

 

———ここは、空の上?・・・まさか、俺は今空を飛んでいるってリユウなのか!?

 

地に足が着いてなく、景色がDVDの超高速再生のようにスライドして行くのを目の当たりにして結論にたどり着き、烈は驚愕する。では何故自分は空の上を飛んでいるのか?一瞬前の時まで破軍学園の第一訓練場内で幸斗を相手に選抜戦をしていた筈なのに・・・。

 

・・・考えを張り巡らせる烈であったが、そんな暇もなく彼の眼に見える景色は変化していく。蒼穹は夕焼け色に変化し、気温も下がっていく・・・更にまた数秒で景色は切り替わる、夕焼けに漆黒の帳(とばり)が下り無数の星々が点灯し、漆黒を彩る・・・。

 

———ちょっ!?俺飛ぶの速過ぎるってリユウだろ!!あっという間に夜になっている場所に移動して・・・なぁっ!!?

 

そして景色が夜に切り替わって数秒後、水平線の向こう側から眩い光が射し込んで来た。

 

「これは・・・・・日の出?・・・」

 

やがて光が照射される場所から夜の闇を蒼穹に染める光の球体が貌を出し、それが徐々に空へと昇って行く光景を見て烈は唖然と眼を見開いた。その光の美しさに感動を覚えたのか、未だに自分の身に何が起きているのかが理解できなくて困惑しているのは判らないけれど、とにかく烈は目の前の光景に目を奪われていた・・・新たな日の始まりを告げる、空へと昇って行く太陽に・・・そして———

 

「———ぐはぁぁああああっ!!?」

 

大空の旅は唐突に終わりを迎えるのだった・・・。

 

突如として鳴り響いた爆音が聴覚を支配するのと同時に烈は背中に痛烈な衝撃を感じ取り、それによって彼の全身の機能が麻痺してしまい、彼は何の抵抗も出来ずに地をバウンドしてスライドし、その摩擦の影響でそのまま減速して仰向けの体勢で止まった。烈は背中から地上に墜落したのだ。

 

「・・・此処は?・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり、烈先輩・・・超特急便での世界一周の旅は楽しかったかよ?」

 

「・・・・・へっ!!?」

 

仰向けに倒れて朦朧と空を見上げる烈の顔を唐突に一人の少年が覗き込み、烈はその少年の顔を認識すると数秒の沈黙を挟んでキョトンと呆けてしまった。

 

「・・・真・・・田?」

 

何故ならその少年は烈が空に旅立つ直前に試合で戦っていた対戦相手だったのだから。

 

周囲に目を向けると目に映ったのはクレーターの斜面と其処ら中の空間に空いた無数の【次元の裂け目】とほぼ全壊した観客スタンド・・・そう、烈は戻って来たのだ。破軍学園の第一訓練場に・・・。

 

『ななな、なんという事でしょうかぁぁあああああっ!!?一瞬のうちに真田選手が如月選手を空高く殴り飛ばし、その僅か数秒後に飛んで行った如月選手が反対の方角の空からまるで隕石のように戻って来て地上に叩き付けられてしまいましたぁぁあああああっ!!!如月選手、勢いよく地上に墜落した衝撃で内臓が潰れてしまったのか!?口から血を流して倒れたまま起き上がる気配がありません!!これは試合続行不可能かぁぁあああああっ!!?』

 

「なん・・・だと・・・!!?」

 

こんな状況でも実況を続けている見上げた根性を持つ実況解説の女子生徒の解説が耳に入り、烈は驚愕した。たった先程幸斗が【世界一周の旅】と発言していた事を合わせて自分の置かれている状況を理解してしまったのだ。

 

———俺は・・・真田に空に殴り飛ばされて・・・世界一周をしたって・・・リユウなのか・・・。

 

世界一周をした・・・それが事実ならば先程の景色の流れがやけに速かったのも説明が付く。そう、烈は空を飛んでいたのではなく超高速で吹っ飛ばされていたのだ、今彼の顔を見下ろしている朱い闘気を身に纏う鬼の鉄拳を受けて・・・。

 

「・・・へっ!これでさっき手を抜かれた借りは返したぜ!かなり手加減して殴ったからな!」

 

「・・・・・は?」

 

してやったりと言うかのように不敵の笑みを浮かべている幸斗が衝撃の発言をした為に烈は訳も分からず更に唖然と呆ける。なんと人間一人を世界一周させる程の威力で殴ったというのにこれで超手加減したというのだ。

 

「なにしろこの状態でマジになって殴ったら次元の果てまでブッ飛ばせるからな!」

 

「・・・・・ハハ・・・マジかよ・・・」

 

スケールが違い過ぎる・・・烈はそう思わざるを得ずに苦笑いをする。

 

「・・・成程・・・それがお前が今までに鍛え上げたチカラってリユウか・・・ハハ・・・やり過ぎだってリユウだろ・・・」

 

「当たり前じゃん、オレは最強目指してんだ。シゲにだって一回も勝ててねぇし、死んだ団長に比べたらまだまだオレは小せぇ男だ。だから才能の壁だのどうにもならない運命なんかで足を止めている暇なんかねぇんだよ、どこまでだって突き進むぜオレは」

 

「・・・そうか・・・」

 

烈はようやく理解できた気がした。仰向けに寝転がる自分に拳を向けてニヤリと笑い、誇らしげに目標を語るこの後輩が何故己の才能の無さに屈せずどんな障害をも乗り越えて行ける強さを持っているのかを・・・。

 

———才能の有無だなんて【何かをやりたい感情】の前にはちっぽけだってリユウなんだ・・・【できる】からやるんじゃない、【やりたい】からやるってリユウの溢れ出す感情が真田を突き動かしている・・・だから止まらない、【やってダメだった場合の惨め】なんて【やらなかった場合の後悔】と比べたら断然マシだってリユウだ。

 

自分の進みたい道を進んで、道半ばで終わったとしても本望だ。もしそれで後悔するならば、その道は最初から本当に自分が進みたい道じゃなかった事に他ならないだろう。誰かに強要されたわけでもなく、自分が本気で進みたいと思った道を自分で選んだからこそ消える事の無い情熱を抱いて進めるのだから。

 

———・・・突き進んだ未来(さき)にどんな結末が待っているリユウでも【やってダメだった場合の惨め】より【やらなかった場合の後悔】の方がしたくない・・・か・・・・・フッ———

 

「・・・俺の負けだってリユウだ・・・真田・・・最終戦・・・頑張れ・・・よ・・・」

 

烈は潔く負けを認め、幸斗にエールを送ると同時に意識を失った・・・遂に試合の決着が着いたのだ。

 

「如月烈、戦闘不能!勝者、真田幸斗!!」

 

「・・・へっ!・・・グラッツェ!・・・楽しいバトルだった・・・ぜ・・・」

 

レフェリーが幸斗の勝利を宣言した後、幸斗は【戦鬼の叫び】の最大持続時間である三十秒を切った為に朱い闘気が消え、身体の限界を迎えてその場に倒れ込んでしまったのだった。

 

限界ギリギリの死闘が繰り広げられたこの試合は幸斗の勝利で幕を閉じた・・・幸斗は遂に七星剣武祭への切符を賭けた学内選抜戦最後の戦いの舞台へと足を進めたのであった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




激闘決着、結果は幸斗の辛勝!

次回は試合後の後始末になります。

今話の疑問になるであろう全ての事象を貫通する筈の【戦鬼の叫び】使用状態で放たれた幸斗の一撃を相殺した白い砲撃を放ったのは誰なのかもちゃんと明かしますよ♪(【砲撃】の時点でもうバレている気がするが・・・)

それではまた、次回もお楽しみにっ!



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