運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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最初に言っておきます・・・ベタ過ぎる!?そんなの知らない!たとえイタくても熱い展開が好きなんだっ!!!




届けられたダチからのメッセージ!幸斗、今こそ本気を出す時だ!!

如月烈の無敵の【土竜の手】をその身に受けて倒れ伏した我らが真田幸斗。観客達は最悪の事態を想像して表情を青ざめさせ、ピクリとも動かない幸斗を固唾を呑んで見守っている。

 

『真田選手全く動く気配がありません!試合はこれで決したか!?それより彼は生きているのでしょうか!!?』

 

『ん~、そうさねぇ。れっつーの【土竜の手】はその鉤爪で抉ったモノを例外無く削り取って消滅させてしまうらしいからねぇ、正直あれで削り取られたところによっては取り返しのつかない事になっているかも・・・』

 

『そ・・・それでは真田選手は死n『と言っても———』えっ!?』

 

寧音が放送を通して最悪の事態の細かい予想をした為に実況解説の女子生徒が表情を引き攣らせて結論を口にしようとするが、のらりくらりと寧音がその言葉を遮る。

 

「ユキト、アイツもしかして死んじゃったんじゃないでしょうね!?」

 

「「・・・・・」」

 

「ねぇっ!!何か言いなさいよリョウカ!アンタの仲間がやられたっていうのに何で黙っているのよ!?ゼツも何とか言ったらどうなの!?アンタの兄g「あの愚兄が、何を甘い事を。それは真田に・・・いや、覚悟を持って戦う者に対する最大の侮辱だろうが」えっ!?」

 

一方同時に観客スタンドに居るステラ達は揉めていた。仲間が死んだかもしれないというのにいつも通りの不機嫌そうな平静な態度でいる涼花や自分の兄がクラスメイトを殺したかもしれないのに相変わらず無愛想な絶に対して怒りを露わにして怒鳴るステラであったが、いきなり絶が呆れるように額に右掌を当てながら怒鳴り声に割り込み、烈のやった行為に対して扱き下ろしたのだが、ステラが怒鳴っている理由とは違う意味で言ったようである。

 

「真田は死んではいないぞヴァーミリオン、何故なら——」

 

そして寧音と絶は同時に同じ言葉を口にする———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『実像形態でくらったんじゃないなら死ぬわけがないだろうが(けどねぇ)』」

 

「げほっ!げほっ!」

 

二人が発言し終えると倒れ伏す幸斗が息を吹き返し、右手を地に着いて起き上がろうとしていたのだった。

 

『さ、真田選手は生きていたぁぁああっ!!?特に目立った外傷も無く、致命傷を負った形跡は見当たりません!』

 

「ユキトッ!!」

 

「真田さん!」

 

「よかったぁ、生きていたよー、死んじゃったかと思って心配したよー」

 

「うむ、無事な様で安心したな」

 

「あのお馬鹿、余計にくらい過ぎなのよ防御力紙のくせに、もっと上手く立ち回れればこんな醜態曝さずに済んだわね」

 

「まあまあ、涼花ちゃん。ここは素直に無事だった事を喜んであげなさいよ、ね?」

 

幸斗が無事であった事にステラ達は歓喜しホッと安心感を得る(若干一名皮肉を言っているが・・・)、会場内も幸斗が存命だった事で重たくなっていた空気が和らいだようであり、他の観客達も胸を撫で下ろしていた・・・しかし——

 

「烈先輩・・・テメェ・・・何で・・・幻想形態に・・・」

 

当の幸斗は内心怒り心頭であった。彼はうつ伏せに倒れたまま顔を上げて目の前に立って自分を見下ろしている烈を怒りの形相で睨みつけている。

 

【土竜の手】をもろにくらったのに幸斗の身体に外傷一つ無い理由、それは烈が霊装を非殺傷の【幻想形態】に切り替えて伐刀絶技を放ったからである。今幸斗が怒りを抱いているのは烈にお情けをかけられたと思っているからだ。命を懸けて戦場に身を投じる者にとって敵に情けをかけられるのは最大の屈辱だ、元傭兵である幸斗もまたそういう類の人間であり、故にこの絶好の好機に自分に実像形態で止めを刺さなかった烈に対して非常に腹立たしい感情を抱いたのである。

 

「あ~・・・お前の言いたい事は解ってはいるってリユウだが・・・勘弁してくれって。真剣勝負とはいえお前は俺の後輩ってリユウなんだぞ?可愛い後輩を消して気分が良いリユウがないからな」

 

幸斗に怒りの感情を向けられても困ったように両掌を肩の横に上げてやれやれと理由を説明する烈。選抜戦は実戦の感覚を養う為に実像形態で行う命懸けの戦いではあるのだが本物の戦場というわけではない、況してや対戦相手は皆ライバルではあるが殲滅するべき敵では無く学園の仲間なのだから命を奪って気分が良い訳がないだろう。覚悟が無いと言われればそうなのかもしれないが、少なくとも今目の前で倒れ伏している少年は自分の殺すべき敵ではないと烈は思ったのだ。

 

「ふざ・・・けんな!」

 

だが幸斗にとって相手の感情などどうでもよかった、【かわいそうだから手加減してやろう】【殺す価値がないから命だけは見逃してやろう】【オメーじゃオラには勝てねぇ】、幸斗はそういう見下げた感情を自分に向けられるのが大嫌いなのだ。

 

「舐めんな!こんなんじゃオレはまd———!!?」

 

『おおっと!?真田選手どうしたぁっ!?怒りの形相で立ち上がろうとしますが、肩から崩れ落ちて身を伏せてしまいました!!真田選手立ち上がれません!』

 

———なん・・・だ?・・・急に・・・意識と・・・感覚・・・が・・・。

 

突如として意識が暗んだ幸斗は再び倒れ伏し、動揺の顔を烈に向けた、その灼熱の瞳の光は消えかけている。烈は当然だと呆れるような目線を見上げる幸斗のチカラの無い目線に合わせて口を開いた。

 

「無駄だ、【これで終わりだ】って言っただろう?幻想形態は肉体は傷付けないが【それ以外】なら通常通りに作用するってリユウだからな。つまり今、お前は肉体は削り取られていないが【それ以外】は根こそぎ削られているってリユウさ、そのしつこい根性とかな・・・」

 

「っ!!」

 

烈の説明を聞いて幸斗の薄れる眼が一瞬だけ見開かれる。烈は先程の一撃で幸斗の【肉体以外の全てを削り取った】と言ったのだ。

 

人という存在を構成するのはなにも【肉体】だけではない、【精神】や【感覚】、伐刀者ならば【魔力】という風に様々なモノが人の身体には秘められている、幻想形態で放つ烈の【土竜の手】は肉体の代わりにそれらを全て削り取るのである。

 

これはお馬鹿な幸斗でも理解できた、今自分は体力も魔力も・・・自慢である不屈の意志すらも削り取られてしまっているのだと・・・。

 

「これをまともにくらって未だに意識を保ち続けているのは大した意志を持っているなってリユウだが・・・その状態じゃあもう戦えないってリユウだな、身体が無事でも立ち上がる意志と気力がもう無いってリユウなんだからな」

 

「・・・・・」

 

「風間の奴が言っていた通り大した男だってリユウだよお前は、出来損ないと称されるようななんの才能も無い身でこれ程までのチカラを身に付けたってリユウの他に、絶対に諦めない不屈の心・・・俺なんかとは大違いだってリユウだ」

 

烈はほぼ廃墟と化している第一訓練場全体を見回して幸斗のチカラを称賛すると、冥土の土産に教えるかのように幸斗に語りだした・・・如月烈という【出来損ないの武術家】の話を・・・。

 

「・・・俺と絶の実家は武術家の家系ってリユウでさ、魔導騎士が台頭に立つ魔術の才能中心の現代においては非常に珍しい【身体能力の高さで資質を量る価値観】を持っている一族ってリユウなんだ」

 

如月瞬煌流体術を創設した如月家は神奈川県のはずれにその門を置いている。最速と謳われる武術の一派である如月瞬煌流体術は今時珍しく魔力量よりも身体能力・・・特に脚力を重要視する流派なのである。

 

「俺の弟である絶は生まれつき身体のバネが異常に発達しているってリユウで如月瞬煌流体術と非情に相性が良く、過去最年少の十二歳で奧伝に至り、如月家始まって以来の神童って呼ばれているってリユウなんだが・・・その一方で現如月家の長男で次期当主である筈の俺は逆に生まれつき身体が弱かったってリユウでな・・・あ、身体が弱いと言っても不健康ってリユウじゃないぞ!俺は至って健康だ!まあ最近よく腹を壊すし、食生活がどうのこうのって絶に言われているってリユウだけど・・・」

 

「・・・・・」

 

「いや、そんなイタイ奴を見る目で見るなってリユウだ!ジャ◯とか黄◯の味とか牛◯のタレとか、凄く美味いんだから何にかけたっていいだろうがってリユウで——」

 

・・・話が脱線して烈は焼肉のタレは何にかけても美味いという内容を熱烈に語り始めたのだが、幸斗を含める第一訓練場内に居る人達が全員唖然としてビミョーな空気になったので烈は咳を一回吐いて気の昂りを抑え話を戻す。

 

「・・・まあ、それは一旦置いといて・・・・・俺は絶とは違い他より身体能力に恵まれていなかったってリユウさ。俺は幼い頃は運動オンチってリユウでな、走ると200mも走破しないうちに息切れを起こし、50m走は魔力強化を施しても十秒以下、鉄棒は逆上がりすらまともにできなかったってリユウ・・・」

 

烈は溜息を吐いて参ったなと黄昏て幼き日の黒歴史を語る。その黒歴史から判るように如月烈という少年は武術には向かない体質をしていたのだ。

 

「そんなリユウで俺はこれではいけないと人より十倍の身体能力向上の鍛練に励み、なんとか初伝を貰うにまでは至ったってリユウだが、俺にはそこが限界、師範である親父に中伝の継承は打ち止めされて事実上の破門になったってリユウさ・・・フッ!笑っちまうってリユウだよな。伐刀者としては天才ともてはやされていても、価値観の違いってだけでその天才も落ちこぼれになっちまうってリユウなんだからな・・・ホント理不尽な世の中だってリユウだ・・・」

 

魔導騎士養成を目的とした破軍学園では校内序列第三位という優秀な学生騎士である如月烈も如月という一派の中では落ちこぼれであった。技の伸びに限界を感じていた事を師範である父親に見抜かれて修練を打ち止めにされた時の絶望感と脱力感を烈は一日たりとも忘れた事はない。本当は悔しくて仕方がない筈なのに、その時の彼自身の弱い心が負けを認めてしまったのだ。

 

「だから真田、俺は前を向いて突き進み続けるお前の事は本当に尊敬するってリユウだ、羨ましいくらいにな・・・・・だがこれで理解したってリユウだろう?世の中にはどうにもならない運命が一つや二つあるってリユウをよ・・・」

 

「・・・・・」

 

「悪いが今年のお前の選抜戦はここで終わりだってリユウだ。なぁに、お前を馬鹿にする連中の事なら気にするな、お前を笑う奴等は俺が黙らせてやるってリユウだからな。ここで倒れても恥じるリユウじゃないぞ、お前はまだ学園に入ったばかりの一年、お前の実力なら来年はほぼ確実に七星剣武祭代表入りできるってリユウだ・・・だから安心して眠れ」

 

「・・・・・」

 

多くの理由を重ねて意識を失いつつある幸斗に烈は挫折を突き付ける。確かに幸斗はもう立ち上がるどころか左手に握る太刀を振るう気力と体力すら残っていない・・・諦めない不屈の心も・・・根こそぎ削り取られてしまった・・・。

 

———真田、お前はよく戦ったと思う・・・だが巡り合わせが悪かったな。お前の一番の長所である攻撃力が通用しない相手という時点でほぼ勝敗は決まっていた。自分より強い相手に勝つ為にはその相手より自分が優れているモノで勝負するというのは基本だが、一流の伐刀者は相手より劣っているモノすらも利用して相手を罠に嵌めて潰す・・・終わったな・・・真田。

 

観客スタンドの席に座ってこの状況を眺めている絶もまた兄同様、幸斗はもう立てないだろうと思っていた・・・多少の相性の悪さなら戦法次第でひっくり返す事が可能ではあるのだが、あまりにも分が悪過ぎるのならひっくり返すのは不可能に近い、況してや一流の伐刀者が相手となるとほぼ勝ち目は無い。

 

「ユキト・・・」

 

ステラの神妙な呟きを最後に第一訓練場内全体は静まり、バトルフィールドだったクレーターの外側に居るレフェリーが手に持った旗を上げて烈の勝利を今にも宣言しようとしていた・・・。

 

———・・・ここまでなのかよ・・・。

 

消えゆく意識の中、幸斗は心の中で弱音を吐いていた。魂の底にある大切なモノが消えて行く感覚に苛まれていく。最強を目指し続ける心意気も、最大のライバルとの約束も、諦めないド根性も・・・偉大なる男から受け継いだ突き進み続ける意志も・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ちょっ!?困りますって!!今試合中ですから!ちょまっ!!』

 

『悪いな、少しマイクを譲ってもらうぞ』

 

終戦ムードの会場の静けさは、突如放送を通して聴こえてきた妙齢の女性の声によって破られた。

 

「へっ?」

 

「この声って・・・」

 

突如として聴こえてきた女性の声に会場内は何だとざわめき始め、試合終了の宣言をしようとしていたレフェリーの手も止まった。ステラ達は聴こえてきた女性の声に聞き覚えがあるようであり呆けた声をあげている・・・その女性の声の主は———

 

『試合の最中にすまない、学園理事長の新宮寺黒乃だ』

 

「理事長!?」

 

「何であの人が放送室に・・・」

 

いきなり放送を通し会場内に居る人間達に声をかけてきた黒乃の声に一同は困惑する。試合が決しそうなこのタイミングでいったい何の用があるのか?・・・その疑問は黒乃の次の発言によって明かされた。

 

『先程魔導騎士連盟日本支部に出向かれている折木教諭より黒鉄一輝と工藤新二の試合が決したとの連絡が入った。私はこれから其処で倒れている問題児が引き起こした被害の対応に追われなければならなくて後に時間が取れないので、この場を借りて皆にその結果を口頭で伝えさせてもらう—————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———一年Fランク、黒鉄一輝と三年Cランク、工藤新二の試合は本日11:55をもって黒鉄一輝が勝利した。傷一つ負う事の無い完勝だったそうだ』

 

黒乃の口より齎された速報により静寂に包まれていた第一訓練場内は一瞬にして沸き上がった。落第騎士、黒鉄一輝の勝利・・・この時点で最終戦進出の騎士が十一人決定し、残る切符はあと一枚となったのだった。

 

「イッキ!よかった、勝ったのね!!」

 

「当然です、どこの馬の骨かわからない三下なんかにお兄様が負ける筈がありませんから」

 

「アラ?口ではそんな事言っているけれど珠雫、貴方今凄く嬉しそうな顔をしているわよ♪」

 

「さっすがクロガネ君だね!アタシが見込んだ通りの騎士なだけはあるよ~♪」

 

「うむ、見事だ」

 

「相手がザコだったとはいえ、監禁という不自由な状況に置かれて精神が不安定な状態である筈にも係わらず完勝とはな・・・フッ、なかなかやるじゃないか」

 

「別に驚く事じゃないわよ。【模倣剣技】に【完全掌握】、【一刀修羅】なんて高度な集中力と精神力を要するスキルを駆使する黒鉄一輝がたかが監禁程度で精神を乱すわけが無いわ、順当な結果ね」

 

一輝の勝利という吉報に歓喜の声をあげるステラ達——

 

「・・・黒鉄さん・・・」

 

「刀華、気分が悪いんなら席を外したほうが・・・」

 

「ううん・・・大丈夫、しっかり観ておかないと・・・」

 

先程から心此処にあらずな状態だった刀華は泡沫に心配されながらも齎された報を聞いて気を取り戻す。

 

「あっちは黒鉄が勝ったってリユウか。奴は今先日の皇女サマとの熱愛報道で注目の的ってリユウだからな、こりゃあ最終戦は大いに盛り上がるってリユウだ」

 

試合の勝利目前だった烈もまた空気を読んで報に耳を傾けて笑みを浮かべていた・・・そして、一輝が試合に勝利し最終戦に駒を進めたという吉報は意識を失いかけている幸斗の耳にも届いていた。

 

———一輝が・・・勝った・・・。

 

幸斗は予期せぬ朗報に少しだけ意識を取り戻した。約二週間前に【必ず戻る】と約束して連盟に連れて行かれたダチが自分に向けられる理不尽な風当りと倫理委員会共による胸糞悪い仕打ちにも負けずに前に進み続けているという情報は消えかけている幸斗の意識を保たせるには十分に効果があるモノであった。

 

・・・そして、放送室に現れた黒乃は窓ガラス越しにフィールドに倒れる幸斗を見つめ、一呼吸の間を置いてから更なる報を齎す。

 

『それともう一つ、折木教諭から其処に倒れている馬鹿者に伝えてくれと黒鉄からのメッセージを預かった。今言った通り私はこれから忙しくなるのでな、面倒だからこれもこの場で伝えさせてもらう、一度しか言わないのでそこの馬鹿者は良く聞くように——』

 

黒乃はそう言うと一呼吸息を吸って間を空けてから幸斗に伝えるべく一輝のメッセージを言い放つ・・・この絶体絶命の窮地から彼を救う、降りかかる理不尽と戦い続けるダチの想いを———

 

『真田幸斗君、この前はありがとう。合宿場の河原で君が教えてくれた【突き進み続ける意志】と【自分だけの剣】は僕に大切な夢を思い出させてくれた、騎士の高みを目指す想いを強くしてくれたんだ。だから僕はその想いを胸に理不尽に抗い続け、こうして選抜戦最後の戦いへと臨みを繋ぐ事ができたんだ。あの話を聞いた時、僕は君が【本物の強さを持った騎士】だと感じさせられたよ。どんなに才能に見放されて上手くいかなくてもできるまで物事に立ち向かい続ける不屈の心、周りから多くの挫折を突き付けられても自分の想いを真っ直ぐ曲げない鋼より固い信念、強さを手に入れる為に想像を絶する努力を毎日積み重ねてきたド根性、そして世界が定めた運命をその【運命を砕く剣】をもって覆し続け常に前へと突き進み続ける意志・・・それらの君の強さと凄さを僕はあの時に感じた。それで思ったんだ———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———僕はそんな凄い君と七星の頂きを懸ける舞台で戦いたいと』

 

「っ!!?」

 

【黒鉄一輝は真田幸斗と七星剣武祭で剣を交えるのを望んでいる】、それが伝えられた瞬間幸斗は眼を見開いていた。

 

———一輝が・・・オレと・・・。

 

メッセージ越しのダチからの想いに戸惑いのあまり困惑する幸斗、これは挑戦状だ、落第騎士・・・いや無冠の剣王(アナザーワン)から殲滅鬼(デストラクター)へのライバル宣言である。

 

『君に負かされたステラと珠雫の仇討ちというわけじゃない、僕は純粋に君と戦って勝ちたいんだ。君と勝負をする事で僕は更なる高みに行く事ができると思っている。僕と君、どっちが上かお互いの剣を交えて白黒ハッキリ付けよう!だから共に七星剣武祭の舞台に行こう、幸斗君!!』

 

———一輝・・・。

 

挑戦状は今、叩き付けられた。その音が幸斗の意識を、気力を、チカラを、不屈の心を、突き進み続ける意志を甦らせる!

 

「熱いねぇ~、心が滾るようなリユウのメッセージだ、ご苦労なこったな。悪いがその想いは・・・・・なっ!!!?」

 

黒乃が『以上だ』と一輝のメッセージを伝え終えて放送を切ると烈は呆れるような表情でやれやれと皮肉を言い、試合の決着を着けようと倒れ伏す幸斗に顔を向けると、烈の目に驚くべき光景が飛び込んで来たのだった・・・倒れていた筈の幸斗が・・・四つん這いの体勢になって意識を取り戻している。

 

「真田・・・お、お前っ!!」

 

烈は口どもって動揺を露わにする。何故だ?確かに奴の意志と気力は根こそぎ削り取った筈だ、何故起き上がっている!?と・・・。

 

「・・・へへっ!まったくとんだ浮気ヤローだ。ステラとの約束が叶えられないからって今度はオレに乗り換えて来るなんてよ・・・」

 

皮肉を交えながらもその顔には笑みが浮かんでいた、何事にも喰って掛かるようないつもの不敵の笑みだ。幸斗は続いて身体を引いて片膝を立て、その足を地に着ける。

 

「・・・いいぜ、伊達のヤローのついでだ。その約束受けてやろうじゃねぇか一輝!たった今からテメェはオレの・・・・・ライバルだ!!」

 

そう言い放って幸斗は・・・・・立ち上がった。

 

『た・・・立ったぁぁああああああああっ!!!真田選手、現在連盟に居る黒鉄選手からの熱烈なメッセージを受け取ってあの絶望的な状態から見事復活しましたぁぁあああああああっ!!なんという不屈!なんという超展開!真田選手の鉄の意志と鋼の強さには本当に脱帽です!!彼の復活に会場内は最高にヒートアップッ!!試合続行ですっ!!!』

 

実況解説の女子生徒が黒乃からマイクを取り戻し、叫び狂うように解説を言い放つと同時に第一訓練場内の雰囲気は観客達の大歓声によって地の底から沸き上がるかのように最高の盛り上がりを見せる。

 

「うっわー!凄い凄ぉい!まるでマンガみたいだね~♪」

 

「うむ、其も心が震えたぞ」

 

「まったく・・・イッキったらしょうがないんだから。これもアタシがユキトに負けたのが悪いのだけど、なんか妬けるわね・・・」

 

「負け犬であるステラさんにはもう用は無いという事なのでしょうね。てなわけで敗者の妬みは醜いので口を閉じてください、あと脚太いですよ」

 

「アンタもユキトに負けたでしょうが!!あと脚太い言うなっ!!」

 

「んじゃ使いどころのない無駄乳」

 

「く~っ!見てなさいよ、来年はイッキもユキトもリョウカもシズクもみぃんなアタシがギャフンと言わせてやるんだから!!」

 

「ギャフン」

 

「キィィーーーッ!馬鹿にしてぇ!!誰が今言えと言ったのよシズク!!!」

 

「まあまあステラちゃん・・・」

 

幸斗の復活にステラ達のテンションも上がりに上がって盛り上がっているようだ(特にステラが騒がしい)。

 

「烈の土竜の手をまともに受けて・・・立ち上がった・・・だと!?」

 

その隣では絶が表情を固めて驚愕の声を上げ唖然としていた。幾ら幻想形態とはいえ土竜の手はその鉤爪で抉り取ったモノ全てを削り取る文字通り必殺の伐刀絶技、その恐ろしさを幼い頃から良く知っている絶は幸斗が立ち上がった事実が受け入れ難く感じているのである・・・そして彼の隣の席に座る涼花は当然と言うかのように微笑を浮かべていた。

 

「なに、これも驚く程の事じゃないわよ。一瞬意識と精神を削られた程度で沈むようならあのお馬鹿は西風時代の初陣でもうとっくに死んでいるわ。選択を誤ったわね如月先輩、これでもう幸斗は本気になった。こうなったらもうあのお馬鹿を止められるのは、わたしの知っている限り世界に五人しかいないわよ」

 

「・・・なに?」

 

微笑を浮かべながら両腕を組んでさりげなく涼花が言った発言を聞いて絶は疑惑をの声を上げる。本気になった幸斗を止められるのは世界に五人しかいないとはどういう事なのだろうか?・・・その疑問は今、立ち上がった幸斗に起こっている現象が関係しているようだ。

 

「な!?・・・何だ【アレ】はっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もぉ~、新宮寺理事長、困りますよぉ。マイクは私の魂なのにぃ」

 

「スマンな、どうもこの後時間が取れそうもなかったんだ。勘弁してくれ」

 

「アハハッ!くーちゃん白々しいってば、他の教員にでも伝言で頼めばよかったのにさぁ♪」

 

一方、観客スタンド四階の一角にある放送室では先程いきなり勝手に入って来て実況中の女子生徒から放送マイクを取り上げ情報告知を行った黒乃が被害者の女子生徒にガミガミ叱られていた。隣ではゲストでこの場に居る寧音が叱られて困った表情を浮かべている黒乃を見て愉快に笑っている。

 

「それにしてもゆっきー、派手にブッ壊してくれたねぇ、もう廃墟じゃんか此処」

 

「この場だけで済んだのならまだ良かったんだがな。先程奴が引き起こした地震の影響で関東地方全域の山で土砂崩れが起きるわ、建物は数えきれない程倒壊するわ、海沿いでは津波が発生するわ・・・おかげで日本中の魔導騎士達が残らず出動して民間人の安全を確保する作業をしなければならない事態になった上に先程の龍殺剣でまた人工衛星を破壊し更には惑星探査機をも一機撃墜・・・もう勘弁してくれ、誰が事態を収拾すると思っているんだ・・・」

 

「アハハッ!ホントくーちゃん時の能力が使えて良かったねぇ、コレ被害総額何兆じゃあ済まないと思うよ♪」

 

「・・・この被害規模だと全てを元に戻すのに半年以上は掛かるだろうがな・・・」

 

「ハハハッ!ドンマイ!きっとそのうちいい事がある・・・ん?」

 

肩を落として落ち込む黒乃を他人事なのを良い事に気さくに黒乃を励ます寧音であったが、会場内のバトルフィールドが眺められる窓ガラス越しにフィールド内を見た寧音はそこに立つ幸斗が今何かをしようとしているのに気が付いたようだ。

 

「お!?ゆっきーが何かするみたいさね!さて、次はどんなモノをブッ壊すn————っ!!!?」

 

その時、寧音は今幸斗が発し始めた【何か】からゾクリ!と背筋が凍るような感覚を感じ取った。

 

———っ!!!?・・・うちの手が・・・震えている?

 

寧音はその【何か】を感じ取ると自分の手が小刻みに震え出している事に気が付いた。これは感動から来る震えでも武者震いでも況してやこの猛暑の中で寒いという訳でもない・・・これはそう———

 

———まさか、うちが恐怖しているっつーのか!?【至ってすらいない】子鬼(ゆっきー)の闘気なんかで【至っている】夜叉(うち)がビビッているっつーのか!!?

 

寧音は破軍学園の臨時講師に就いてから今までに無いと言えるくらいに顔を引き攣らせた。眼を見開き身体全体から汗を流し出しているその戸惑いの小柄からは普段の楽観さは微塵も感じられない・・・KOK・A級リーグ世界ランク三位【夜叉姫】西京寧音は今、元服したばかりの一人の少年が現在発している【何か】によって正真正銘の恐怖を抱いているのであった。

 

「く、くーちゃん・・・これは一体———なっ!!?」

 

寧音が黒乃に振り向くと寧音は更なる驚愕を目にする。なんと黒乃も寧音と同じように身体を小刻みに震えさせて全身から大汗を流しているのに対し、その隣に居る女子生徒は何事も無いかのように身体に異常は見られなかったのだ。

 

「ど、どうしたんですか?御二人共凄い汗ですよ!?」

 

「・・・はは、そうか・・・真田の奴遂に本気になって【アレ】を使ったか・・・選抜戦では使わないだろうと高を括っていたが・・・・・これはまだまだこの試合で相当な被害が出そうだな・・・はは・・・もう胃薬の貯蔵は残っていない・・・な・・・」

 

「く、くーちゃん!い、一体ゆっきーは何をしたんさ!?」

 

「あぁそうか・・・貴様にはまだ教えていなかったな・・・」

 

原因不明の恐怖に晒されて混乱気味になっている寧音が問うと黒乃は遠い目をして明後日の方向を見ながら問いに答えた。

 

「初めに言っておく・・・信じられないかもしれないが、この恐怖は《世界の定めた運命の壁に達した者》と《運命の外側に立つ者》しか感じ取る事ができない・・・」

 

「なっ!!!?」

 

「?」

 

黒乃の発言に寧音はこれでもかと言うくらい絶句し、女子生徒は意味不明と言わんばかりに首を傾げたのであった。

 

「よく見ておくといい、これが真田が・・・攻撃力EXの判定を受けている真の理由だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、真田・・・何だって・・・リユウだ・・・それは?」

 

如月烈は今、この試合で初めて動揺の感情を露わにしていた・・・・・目の前に立つ対戦相手の学生騎士、真田幸斗の足下や両肩から溢れ出す【異常】を目の当たりにしているからだ。

 

「ああ、これか?別に、これはただの【闘気】だぜ」

 

幸斗は烈の疑問に対してバッサリとそう答える。足下や肩から湯気のように溢れ出ている【朱】、それは焔の様であり、溶岩の様であり、血の様な色にも見えた。イメージをするならば【地獄】から吹き出て来るような【朱】であった。

 

———闘気?そんなリユウがあるかよ。ただの闘気が目に見えるリユウが無い、黒鉄の【一刀修羅】や真田達の【戦場の叫び】のように魔力も使用しているってリユウならともか・・・く・・・っ!!?

 

思考を張り巡らせているとここで烈はある事に気が付いた。

 

———そういえば真田、コイツは剣圧や龍殺剣をブッ放つ時に【戦場の叫び】を使っているというリユウだが、そもそもコイツの使う【戦場の叫び】からは魔力を感じなかったってリユウだぞ!!?

 

そう、涼花や重勝とは違い、幸斗は【戦場の叫び】を使用する際、魔力は使用していない。そもそも真田幸斗という伐刀者は魔力量を平均の三十分の一程度しか保有してなく、一度固有霊装を顕現したらもう体内の魔力はほぼ空の状態になってしまうのだから魔力を使用するわけが無い。烈はその事を失念していた。

 

・・・なら・・・今、目の前の鬼の身体から溢れ出ている【朱】は一体・・・。

 

「・・・烈先輩、ごちゃごちゃ言うのはここまでにしようぜ・・・へへっ!【コレ】は七星剣武祭で伊達の奴と戦る時まで取っておきたかったんだが・・・仕方ねぇ、披露してやるよ。オレの・・・全力全開(フルパフォーマンス)を!!!」

 

幸斗が威勢よく本気で戦う宣言を言い放った瞬間に溢れ出る朱い闘気が彼の全身を包み始めた、幸斗達元西風の団員達が使用するスキル【戦場の叫び(ウォークライ)】の闘気と同じように。

 

それは元西風の団員である涼花と重勝にも行動を促した。

 

「皆、良く聞きなさい!アイツが【アレ】を使用したらもう先生方が護っているこの観客席も安全ではなくなるわ!死ぬ覚悟が無い者はすぐにこの場から逃げなさい!!」

 

「リョ、リョウカ!!?」

 

「一体何を言っているのですか?真田さんは一体、何をしようとしているの?」

 

涼花は観客スタンドに居る人間全員に対して大声で避難勧告を出しており——

 

「あ~あ、やっぱり【アレ】を使うよな・・・・・これは俺が出ないと死人が出るかもしれねーな、仕方ない・・・・・未来(さき)を指し示せ、重黒の砲剣(グラディウス)」

 

赤ゲート側の控室でモニター越しに試合の行方を見守っていた重勝はソファーから立ち上がってそう呟き、廊下側の出口から出て霊装を顕現していた。

 

「此処に残るのならば覚悟しておきなさいよ———」

 

「烈、運良く生き残れたら特上の焼肉でも奢ってやるよ、だから気を抜くんじゃねーぞ———」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「———鬼が・・・【叫ぶ】わ(ぜ)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「GURRAAAAAAAAAAAAAAAA----------ッ!!!!」

 

幸斗が空に向かって咆哮を上げた瞬間、彼の纏う朱い闘気が一気に激流の様に流動し活性化して弾けた。

 

そしてその闘気は世界を・・・次元を激震させる・・・《戦鬼の叫び(オーガクライ)》・・・発動!!

 

 

 

 

 

 

 

 




てなわけで今回の話で幸斗と一輝は両者公認のライバル同士となりました!!さすがライバルフラグ一級建築士、真田幸斗!彼のライバルはこれからも増え続けて行く!!(ヒロイン?何それおいしいの?)

そして遂にベールを脱いだ幸斗の本気モード【戦鬼の叫び(オーガクライ)】!!(もちろんスキル名の元ネタは英雄伝説軌跡シリーズから!!)

次回、そのスキルの全貌が明らかとなります!果たして学内選抜戦の最終戦への最後の切符を手にするのは幸斗か!?烈か!?


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