運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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今更ながら先日、ISの11刊をようやく読了しました。朴念仁は死なぬ!何度でも蘇るさ!!(笑)。

宿屋での部屋割りを決めようとする場面で一夏が——

「よし、じゃんけんで決めようぜ」

——と発言した所為で思わず吹き出してしまいました・・・桐原の罪は重いな・・・。




天空より振り下ろされた凶爪、幸斗敗北か!?

超音速で加速し続ける如月烈を捉えるべく、真田幸斗必殺の龍殺剣が天に向かって放たれた。

 

【戦場の叫び】で強化された両腕をもって想像を絶する膂力で振り抜かれた刃は人知が及ばぬ領域を侵す剣圧を引き起こし、大気の事象が改変されて超膨大なエネルギー量が生み出され、それが極大の波動砲となって天へと撃ち出されて行く。

 

「ちょっ!!?なにチョー危ない技使ってんのサナダ君ゥゥーーーーーーーンッ!!!」

 

「ぬぅぅっ!!?なんという一撃だ!!技を放った余波だけでこれ程の衝撃とはっ!!」

 

「あ・の・お・馬・鹿!やっぱりロクでもない事考えていたわね!!前々から不用意に龍殺剣は使うなって口を酸っぱくして言い聞かせているのに!!アイツこの試合が終わったらシメてやるわっ!!!」

 

龍殺剣が放たれた直後その強烈な余波が暴風となって周囲の観客スタンドを蹂躙した。両腕を顔前に交差させて暴風の圧力に耐える涼花達を含め、観客達はその圧倒的な圧力に耐えきれず悲鳴をあげてパニック状態に陥る。小物は勿論の事、一部のガタがきていた不良品の席まで暴風によって吹き飛んで行き、その暴風の圧力は第一訓練場の至る所に亀裂を生じさせている。

 

その恐るべきエネルギー総量はプルトニウム爆弾二百発分に相当する16.8PJ(ペタジュール)・・・いや、これは幸斗がリミッターを付けている状態で放つ龍殺剣のエネルギー総量だ、今の幸斗はリミッターを外している。この一撃はリミッターを付けている時に放つそれを大きく凌駕していると予想される。

 

この龍殺剣は撃ち出された勢いがVSステラ戦で放ったモノより凄まじく放たれた極大波動砲は天に昇りながら広がってあっという間に空間を蹂躙して行く、回避する隙間は無い、これならどんなに速く動けようが直撃を避ける事は不可能と言えるだろう・・・この男——如月烈という例外を除けば。

 

「なるほどな、速くて捉えきれないのなら逃げる隙間無く無差別に攻撃してしまえってリユウか・・・ふぅん、流石だと言いたいリユウだが・・・甘いぞ真田っ!」

 

天に昇りながら空間を蹂躙する龍殺剣を前に烈は遂に姿を現した、【蛍光】を止めて速度を緩めたのだ、【空間土竜】の代名詞たるあの伐刀絶技をもって龍を殺す剣を打ち砕かんが為に。

 

「どんな破壊力を秘めた一撃だろうと俺の【土竜の手】の前には——」

 

烈は天蓋を蹴り、圧倒的質量をもって迫る極大波動砲に向かって正面から突攻して行く。奇しくもこのシチュエーションは以前幸斗が龍殺剣を放って試合を決めた幸斗VSステラ戦のクライマックスと同じなのだが、今回龍殺しの剣に挑むのは未熟な妃竜では無い。勝利を約束された騎士王の聖剣だろうと白い魔王と恐れられる魔導師が放つ魔導砲だろうと宇宙戦艦から発射される波動砲だろうと全て関係無く削り取る無敵の爪を持った土竜(モグラ)なのだ。

 

「———通用しないってリユウだぁぁああああああっ!!!」

 

勢いのまま落下しながら烈は右腕を振り上げ、極大波動砲と接触する直前に青紫の光を纏った鉤爪を振り下ろし、チェーンソーでダンボールを切断するかのように簡単に龍殺剣を中央から削り取って真っ二つに両断してしまう。

 

二つに両断された龍殺剣は烈の左右を通過して第一訓練場の天蓋を完全に消滅させて無限に広がる大空へと昇り、本日南関東の空を覆っていた分厚い雲を纏めて吹き飛ばして蒼穹広がる快晴へと天候を変え、成層圏を突き抜けた二つの波動砲の内の一つが先月打ち上げられたばかりの新たな気象観測用の人工衛星をまたしても飲み込み再び宇宙の塵へと変えてしまい、もう一つの波動砲が火星へと向かう途中だった惑星探査機を飲み込んで塵一つ残さず消し飛ばし、二つの波動砲は無数の宇宙デブリを突き砕きながらそのまま宇宙の果てへと旅立って行く・・・数秒の間地球に二本の光の柱が建ったのであった・・・。

 

『真田選手の龍殺剣が炸裂ぅぅぅううううっ!!!戦略破壊兵器を圧倒的に凌駕するエネルギーの奔流が天を突き、その射線上に存在する森羅万象は一切合切が光の中へと消え逝く定め!!そう、但しこの男を除いてはっ!!』

 

天蓋が消え去り、分厚い雲が遥か彼方へと吹き飛ばされた蒼穹がそこから顔を出した第一訓練場。絶大な破壊の痕を残した最強の極大波動砲は全てを削り取ってしまう無敵のモグラの爪によって引き裂かれ、その姿は宇宙の果てへと消えて行った・・・真田幸斗最大の必殺技はこの日をもって初めて敗れたのだ。

 

『校内序列第三位っ!【空間土竜(ディメンショナルモール)】如月烈選手っ!!その霊装【神楽土竜】の爪で全てを削り取る【土竜の手(モール・ザ・ハンド)】はまさに無敵っ!!戦略破壊兵器を超越した龍殺しの剣ですらこの爪の前には敵ではなぁぁああああああああいっ!!!』

 

『うっひょー!やるねぇ、れっつー!!ゆっきーのあの凶悪剣圧破壊光線を真っ二つにするのかい♪これはさすがのうちも驚いたぜ・・・もっとも———』

 

龍殺剣が引き起こしていた暴風が止み、その圧力に目も開けられずに底に伏せていた観客の生徒達が天より陽が射す中起き上がって光の柱が消え去ったバトルフィールド上空を見る。そこには先程まで無限に加速しその姿を周りの目より消していた烈が姿を現しており、右腕を大振りに振り抜いた格好で地上のクレーターの中央に向かって自然落下して行く最中であったのだった・・・そしてその落下地点には落下して来る烈を見上げながら両膝を深く曲げている鬼がほくそ笑んでいる姿があった・・・。

 

『——ゆっきーの作戦は龍殺剣でれっつーを仕留める事じゃあなかったようさね』

 

「はぁっ!!」

 

放送を通して寧音が言い終えた瞬間、幸斗は曲げた両膝を一気に伸ばして風切り音と共に勢いよく宙へと跳び出し右拳を握り振り上げ、落下して来る烈へと弾丸の如く一直線に向かって行った。

 

幸斗が龍殺剣を放った真の狙いは【蛍光】による超加速を烈に止めさせる為だったのだ。蛍光を実行している間烈は【土竜の手】を使用する事ができない、幸斗はそれを看破して【試合会場全体を一気に攻撃すれば流石の烈も無敵の土竜の手を使用する為に蛍光による超加速を緩めざるを得ないだろう】とひらめき、それを実行したのだ。

 

作戦は御覧の通り見事に成功、空間に潜んでいたモグラはまんまと鬼の眼前に姿を現したのであった。

 

———よしっ、これならイケる!!烈先輩は今切り返すように左の霊装を振り被ってきているけれど、コンマの差でオレの拳が先に届くぜ!!

 

地上約30m辺りの宙で両者はおよそ0.3秒後に接触する事だろう。烈は今上下逆さ向きで落下し、下から迫る幸斗に対し振り上げるように左の神楽土竜を振り上げるように繰り出そうとしているが、幸斗は既に烈の顔面を狙って右拳を振り出している。左手に持つ太刀ではなく拳で攻撃する事を選んだのは今までの経験上一瞬の勝負ならば剣より拳の方が速い故に有利だと本能的に判断したからだ。

 

「オラァァアアアッ!!」

 

幸斗のその判断は正しい、このまま行けば烈の鉤爪が幸斗の身体を抉る前に幸斗の拳が烈の顔面を捉える事だろう。幸斗の全力の拳がクリーンヒットすれば例えBランクであろうと一撃でノックアウトは確実だ。

 

———オレの、勝ちだっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三ノ型————《反衝脚(はんしょうきゃく)》」

 

幸斗の拳が烈の顔面を殴り飛ばさんとする直前、烈がそう呟いたその瞬間に幸斗は腹部に突かれたような強烈な衝撃を感じ取った・・・。

 

———・・・は?

 

幸斗はその衝撃を受けた自分の腹に目を向ける。訳がわからなかった、何故なら彼の腹は木槌て叩き突かれた餅のように大きく円形に窪んでいたのだから・・・。

 

———なん・・・だ・・・と?

 

時が止まったかのような感覚に襲われ驚愕の表情を露わにする幸斗、視線をゆっくり上げると目の前にいる烈は頭をこちらに向けるかたちで向かって来ていたはずなのに何故か地に足を向けている正常な体勢になっていた・・・それだけならまだ驚くに値する事ではないのだが、彼は今・・・上に向かって上昇し始めている。

 

———・・・マジ・・・かよ・・・。

 

遅滞する感覚の中、幸斗は自分が今何をされたのかを察し、動揺の感情が彼の脳内を支配していた・・・幸斗はあの一瞬の間に烈の強烈な踏みつけ蹴りを腹部に受けていたのだ。

 

如月瞬煌流体術、三ノ型【反衝脚】———受けたら致命傷となる大振りの攻撃を囮に視線誘導し、その隙を突いて相手に【瞬閃】の踏み込みを蹴り込んで相手に強烈なダメージを与えると同時に瞬閃で距離を取る攻避一対の技である。

 

「———がはぁっ!!」

 

そして時は動き出す・・・・・幸斗の感覚が正常に戻った瞬間、彼は口から胃液を吐き出し、衝撃によって跳躍する前に居たクレーターの中央に背中から叩き落され、反動で身体がワンバウンドした後、その場に仰向けで倒れた。

 

「が・・・あ”あ”・・・」

 

ド根性でなんとか意識を保った幸斗であったが、烈の【瞬閃】の踏み込みによる衝撃は凄まじく重く、身体が痙攣して彼は一時的に動けない状態となってしまったようだ。

 

———クソ・・・身体が痺れて起きれねぇ・・・このままじゃやべぇ・・・。

 

この時、時計の針は丁度十二時を指していた。先程天に放った龍殺剣により消滅した天蓋の遥か奥にギラギラと輝く夏の太陽が鎮座し無様に倒れている鬼を嘲笑うかのように見下しており、その中心には小さな輝きを放つ青紫の光が在り、それが徐々に増大して太陽を侵食している・・・・否、その光は地上に【近づいて来ていた】。

 

———動け・・・動け!・・・動けっ!!———

 

その光が天より接近して来ているのを視認して必死に身体を動かそうともがく幸斗、あの青紫の光が何であるのかを理解した為に今すぐこの場から退避しなければ危険だと彼は確信したのだ。何故ならあの光は———

 

「これで終わりだってリユウだぁぁあああああ!!真田ぁぁああああああああああああっ!!!」

 

瞬閃で天高く跳び上がった烈が全てを削り取る爪を振り下ろして幸斗が倒れている場所へと一直線に落下して来ている姿なのだから。

 

———動けよオレの身体っ!!根性みせろよクソッ!!

 

空に君臨する太陽を背景に鬼を仕留めるモグラの凶爪が青紫の流星となって迫って来ている、あれをまともに受けたら一巻の終わりであるのは明白だ、しかし幸斗がどんなに必死に足掻こうとも身体が言う事を聞いてはくれない、意志は死なずとも器が神経に拘束されているのだ、どんな拘束具すらも一瞬で引き千切る膂力があってもそれを行使する根源が封じられていてはどうしようもない。

 

———動けぇぇええええええぇぇえええぇええええええええええっ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・そして・・・幸斗の足掻きも空しく無情にもその瞬間はやって来てしまった・・・。

 

とうとう烈が流星の如く第一訓練場内に飛来し、その勢いのまま幸斗の真横に落下すると同時に青紫の光を纏う鉤爪が地に倒れる幸斗の身体に叩き付けられたのであった。

 

「・・・がっ!!!!————」

 

再び時が遅滞する。遥か上空より一直線に直下し叩き付けられた一撃は地に倒れる少年の身体を跳ね上げる。遥か上空からの直下という巨大な位置エネルギーと重力加速という運動エネルギーが学園中に響く轟音を鳴らすと共にクレーターを更に深く陥没させ、砕かれた地の破片と粉塵が第一訓練場内を蹂躙した・・・・・そして時は動き出す。

 

『ききき、如月選手の【土竜の手】が真田選手にクリティカルヒットォォーーーーーーッ!!!なんという事だぁぁああっ!!?真田選手必殺の龍殺剣が天を蹂躙し超加速し続ける如月選手を止めたと思ったら、その隙を狙って追撃を仕掛けて来た真田選手を如月選手はカウンターで地に叩き落とし天高く舞い上がるとそのまま隕石のような勢いで落下して地に倒れた真田選手に決定的な一撃を叩き込みましたぁぁああああっ!!まさに息も吐かせぬ数秒の攻防!!常人には理解の及ばぬ圧倒的な光景に私、この昂る感情をどう言い表したら良いのか分かりません!!これは試合は決したかっ!!?全てを削り取る如月選手の土竜の手をまともに受けてしまった真田選手はどうなってしまったのか!!?』

 

土竜の手による一撃の反動で跳ね上がり、バウンドしながら地を転がってクレーターの斜面が急となる直前の場所に幸斗の身体はうつ伏せに倒れる体勢で停止した。フィールドを覆う粉塵が晴れると第一訓練場内に居る全ての人間が倒れ伏した幸斗の姿を視認し眼を見開いて声が出ず唖然と沈黙する中、実況解説の女子生徒による試合状況を解説する大声が会場中に響いた。

 

「ユ、ユキトッ!?」

 

「真田さん・・・」

 

「まともに受けていたわね・・・彼、無事なのかしら?」

 

うつ伏せに倒れ、ピクリとも動かない幸斗を目の当たりにしてステラ達を含めた観客達が一斉に青ざめる、最悪の事態を想定したのだろう、当然だ、烈の土竜の手は例外無く全てを削り取ってしまう無敵の伐刀絶技なのだから、それをまともに受けてしまった幸斗の身体が今どういう状態になったのかを想像するだけでも悍ましい事だろう。

 

「「・・・・・」」

 

幸斗の仲間である涼花と重勝もそれぞれ幸斗が倒れ伏す姿を見つめて訝し気に眉を顰めていた。果たして幸斗は無事なのか?そして試合の行方は!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




決定的な一撃をくらってしまった幸斗、果たして彼の安否は!?運命を覆す伐刀者の戦いはここで終わってしまうのか!?

待て、次回っ!!


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