運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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切る場面が定まらずに一万二千字越え・・・この作品の連載開始当初、一話長々と書かないと宣言した筈だったのに・・・。





幸斗絶体絶命、最速の如月瞬煌流体術

【一瞬の煌き】の間に相手を地に伏せるとされている速度を重点的に置いた如月家伝統の体術【如月瞬煌流体術】はまず流派の基礎にして秘技である【瞬閃】を修得する事で初めて【初伝】の技を学ぶ事が許される。

 

如月瞬煌流体術には【初伝】【中伝】【奧伝】そして【皆伝】という感じで技の修得状況に応じた【段位】が流派の継承者達に与えられ、その技は全て【瞬閃】の爆発的な加速力から派生する。【初伝】の技とはその【瞬閃】によって派生させる【基本の十二の型】を指し、その十二の型を全て修得した者は【初伝】の段位を貰う事ができるのである。

 

先程試合開始直後に幸斗を吹っ飛ばした飛び蹴りも実は如月瞬煌流体術の【基本の十二の型】の内の一つ、五ノ型《閃牙突(せんがとつ)》であり、【瞬閃】の爆発的な初速の推進力を利用して相手の不意を突き高い突破力を持つ一撃を叩き込む技だったのだ。

 

「一ノ型《飛炎(ひえん)》っ!!」

 

如月瞬煌流体術の【初伝】を持っている烈は今、更なる技を披露した。【瞬閃】の驚異的な加速と共に繰り出した蹴りが空気の摩擦によって炎を纏い、それが赤い軌跡となって幸斗の脳天に襲い掛かった・・・だが——

 

「甘ぇぜ烈先輩!こんなチンケな炎ステラのヤツに比べたら蝋燭同然なんだよっ!!ドラァッ!!」

 

幸斗は烈の炎の蹴りを余裕で太刀で受け止め、そのまま太刀を振り切る事によって烈を斜め45度の角度で後方に吹っ飛ばし烈は観客スタンド最上階の壁に叩き付けられそうになるのだが、彼は壁に激突する直前に空中で膝を両腕で抱えるようにして身体を丸め、瞬時に高速回転する事によって体勢を立て直し、壁を蹴る事によって華麗に方向転換すると共に加速した。

 

『おおっと!?如月選手、真田選手の一振りでホームランされてしまいましたが、逆にその反動を利用して加速したぁぁああっ!!壁を蹴り、天蓋を蹴り、大地を蹴って縦横無尽に宙を跳び回り加速し続けています!私段々と如月選手の姿を眼で追い切れなくなってきました!!ってか速すぎてもう見えないっての!!!』

 

『ほほぅ~♪これが如月瞬煌流体術、十二ノ型《蛍光(ほたるのひかり)》かぁ』

 

『知っているんですか、西京先生?』

 

『まあね~♪【蛍光】というのは相手のチカラの反動を利用して爆発的に加速する機動技さね。パルクールって競技は知っているかい?地形を活かして【走る】【跳ぶ】【登る】などの動作を複合的に実践する事によって人が持つ身体能力を極限まで引き出すのさ。【蛍光】はそれ等の動作と相手のチカラの反動を使ってドンドン加速するんだよ。たぶん今のれっつーはもうマッハ5くらいまで加速しているんじゃあねーかな?』

 

『マッハ5!!?あの【速度中毒】兎丸恋々選手の【ブラックバード】より速いじゃないですか!!』

 

「んにゃああああああっ!!また体術に負けたぁあああああっ!!?」

 

寧音の解説を聞き恋々は頭を抱えて発狂する、兄弟揃って如月の体技に自分の異能が後れを取った事実が相当ショックだったのだろう。目の前では最早その姿を目に捉える事も適わぬ残像の軌跡が縦横無尽に第一訓練場内を翔け廻っている、とんでもない加速力だ、このまま行けば後数十秒でその残像すら目に映らなくなるだろう。

 

「如月さん、相変わらず・・・いや、これは今までの比にならない程の速さがでていますね」

 

「当然だ、【蛍光】は起点となる瞬発力の大きさの流れに乗って加速し続ける技だからな、真田の馬鹿力が起点となっているんだ、そこから生み出される速度はケタ違いに決まっているだろう」

 

「・・・・・」

 

真剣な表情で試合の行方を見守る刀華はこれまでに自分が見た烈の最高速度よりも遥かに速い事に内心驚き、絶が当たり前だと言わんばかりに【蛍光】の詳しい詳細を踏まえて呆れた表情をする。如月瞬煌流体術十二ノ型【蛍光】の神髄は相手の流れと自分の流れを理解する事に有る、起点となる反動に逆らわずその瞬発力に乗って加速し、立ち塞がる障害物に激突しそうになっても勢いを殺さず流すように蹴って更に加速する・・・正に激流に身を任せ同化するかの如し、最早今の烈の姿は【一人を除き】この会場内の誰の眼にも映らず、あちこちで蛍の発光の如く点滅するような連鎖的な爆砕のみが烈の行方を示しているのだった。

 

・・・そんな中で唯一超音速で加速する烈の姿をその目に捉え続けられている例外の一人が己の胸の内に抱いていた疑問を解消する。

 

「・・・成程ね、前の会長さんとの試合で何故会長さんは雷切を放った後すぐにわたしが壁と天蓋を利用して後ろを取った事に気付けたのかと疑問に思っていたけれど、この技を知っていたからだったのね・・・」

 

佐野涼花には前の刀華との試合で気になっていた事があった。それは涼花が刀華の放った雷切の衝撃波の反動を利用してワザと吹っ飛ばされ、壁と天蓋を蹴って一瞬で刀華の背後に周った時、何故刀華はそれに反応できたのか?幾ら閃理眼で相手の動きが読めるからといって雷切なんて大技を放っている最中に壁と天蓋を踏み砕いた僅かな音を手掛かりに瞬時に相手が背後に周ったと判断するなんて普通できるわけがない(まあ雷切の衝撃波に乗って壁と天蓋を蹴って相手の背後に周るなんて神技をやってのけた涼花が言える立場ではないが・・・)、以前に同じような事をする相手と対峙した経験がなければ対応できる訳がないと不思議に思っていたのだが、今の刀華の発言でその疑問は綺麗に解消できたのだった。

 

「うん、あの時程如月さんに感謝した事はなかったですね。もし如月さんの【蛍光】を見ていなかったらあの時私は佐野さんに背後を取られた事に気付くことも無く背中を刺されて負けていた事でしょう、あの時の佐野さんは閃理眼で読み取れる情報だけでは反応が間に合わない程の速度が出ていましたから・・・」

 

「ほぅ、経験が活きたな。だが【蛍光】の真価はこれだけではないぞ、真田が相手なら・・・もっと速くなる」

 

如月瞬煌流体術がこの程度だと思ってもらっては困る、絶は称賛と共に前の涼花との激戦を思い出して思い耽る刀華にそういう理由を込めて言ってそこら中が超音速で動き回る烈の運動エネルギーによって爆砕する爆心地と化しているバトルフィールド上を眺めた。

 

「くっ!!」

 

正面の床が爆砕して蜘蛛の巣状の小さなクレーターが作られるのを見計らって幸斗は瞬時に飛び込むように右に移動し、その刹那幸斗がコンマ数秒前に居た場所を一迅の突風が通り過ぎる。

 

「チッ、速ぇな!涼花の絶影よりも圧倒的に速ぇ」

 

床を一回転転がって受け身を取り、瞬時に立ち上がって幸斗は舌打ちをする。周りを見回してみると床も壁も天蓋も辺り一帯蜘蛛の巣状にひび割れた小規模のクレーターだらけだ、烈が方向転換して加速する為に蹴った場所が超音速の運動エネルギーによって踏み砕かれて陥没したのだろう。今も超音速で加速し続ける烈の姿は当然幸斗の目でも捉える事はできない。今のように烈の運動エネルギーによって踏み砕いた床や壁が爆砕して陥没するのを見極めて躱すタイミングを図ることはできるが、このままでは反撃する事は難しいだろう。今の烈の速度はリミッターを外した幸斗も涼花の絶影も刀華の疾風迅雷も恋々のマッハグリードですら超越しているのだから捉えるのは至難の業と言える。

 

———地面が爆砕するタイミングを見計らってカウンターを決めるしかねぇか?モタモタしていたら烈先輩は更に速くなるかもしれねぇし考えている暇はねぇ!!

 

これ以上烈の速度が上がったら躱すタイミングすら掴めなくなると察した幸斗は意識を周囲に張り巡らせて烈が攻撃して来るタイミングを計りその瞬間を狙おうとするが・・・しかし———

 

「どあぁっ!?」

 

突如として右の床が爆砕すれば暴風に吹き飛ばされ——

 

「のわぁぁああっ!!」

 

いきなり頭上の天蓋が陥没すれば数センチ前の床も爆砕されたので仰天し——

 

「ちょっ!?そんなの有りkぐはぁあっ!!」

 

前方右と前方左の床とその奥の壁にほぼ同時に小規模のクレーターが形成されたので驚いたらその瞬間に背中に強烈な衝撃が叩き込まれたので正面に身体が弾き出されて勢いのまま床を転がり壁に激突して自分の形をした壁穴が空いた。

 

『おおっと真田選手、如月選手の【蛍光】の超スピードの前に手も足も出ません!一方的にフルボッコだぁああああっ!!』

 

「ぐぐぐ、ぐっそぉぉ・・・」

 

若干癇癪を起しそうになりながらも幸斗は自分の形をした壁穴の中から根性で這い出て来る・・・なかなかタイミングを合わせる事ができない、烈が速過ぎるのだ、しかし焦ってはならない。

 

———集中しろオレ!こういうオレより速い相手と戦うときはどうしろとシゲから教わった?オレのチカラはどう活かせと?相手が速過ぎてタイミングが取り難い場合は?———

 

壁穴から這い出た幸斗はバトルフィールド上に戻りながら過去に重勝から教わった幸斗なりの速い相手への対処法を思い出そうとしていた、幸斗の武器は四歳の頃から愚直に鍛え上げてきたこの常識外れの膂力だ、それをどう活かして速い相手を捉えられるのか、どうすればこの一撃を叩き込めるのか・・・その答えは幸斗がバトルフィールド上に戻り、彼の真正面に見える壁が爆砕した瞬間に出た。

 

「っ!!そうだ・・・思い・・・出したっ!!」

 

幸斗はそう言い放ちながら正面から目視不能の速度で突攻して来ていた烈の攻撃を左に跳び退いて回避し、超音速の突風が通り過ぎると今度は後方の壁・天蓋・正面約10m前方の床の順に爆砕して小規模のクレーターが形成され、その間に幸斗は両脚を大股に開いて立ち鬼童丸を天高く振り上げる、そして幸斗の前方に見える観客スタンド二階の階段が爆砕した瞬間———

 

「うおりゃぁぁああああああぁぁああああぁああああああああっ!!!」

 

雄叫びと共に朱い刃をチカラいっぱい地に振り下ろした。

 

「どわぁぁぁああああああっ!!?」

 

「じ、地震だぁぁあああああっ!!関東大震災の再来かぁぁぁああああっ!?」

 

「何考えてんだあの一年はぁぁあああああっ!!?」

 

「ギャァァァアアアアアッ!!照明が落ちて来たぁぁぁああああっ!!」

 

幸斗が規格外の膂力を込めて振り下ろした太刀の一撃が伐刀者専用の石畳の床を粉砕しバトルフィールド全体に大規模の粉塵が舞い、大爆発を思わせるような轟音と共に関東全域が激震(この時気象庁はマグニチュード約10の地震を観測した)した為に第一訓練場内の観客達はパニックに陥った。

 

幸斗は烈が攻撃するタイミングを完璧に捉える事はできないが、攻撃の間合いは肌で感じる風圧と床や壁が烈の運動エネルギーによって爆砕する場所を見て大体予測する事ができていた。それだけできれるのならば烈が中距離(ミドルレンジ)の間合いに入った瞬間に広範囲攻撃でブッ飛ばしてしまえばいい、チカラ任せに地面を爆砕するのは幸斗の十八番だ、どんなに速かろうと逃げられない程の広範囲を一瞬で蹂躙し尽くしてしまえば速さなど恐れるに足りない。

 

そして案の定、超音速で幸斗の間合いに入って来ていた烈が問答無用で幸斗の一撃で発生した強大な衝撃波を受けて一瞬にして観客スタンドの最上階の壁に吹っ飛ばされて行ったのが見えたのだが・・・。

 

「「・・・・フッ!」」

 

その時、如月兄弟は同時に口の端を吊り上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「如月瞬煌流体術、七ノ型《貫穴閃(かんけつせん)》っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは激震と暴風の中の一瞬の出来事であった。幸斗の振り下ろした鬼童丸が石畳のバトルフィールドを粉砕し爆散すると共にブッ飛ばされた筈の烈が・・・何故か一瞬にして幸斗を背後から強襲していたのだ。

 

正確に言うと烈が攻撃したのは幸斗本人ではなく彼の足下の地面であった、幸斗の後ろに見える観客スタンド最上階の位置から超音速で斜め45度の角度で急降下して来た烈は勢いのままその強大な運動エネルギーを持って突きを放ち鬼の足下を穿つ。

 

「————っ!!!?」

 

地が穿たれた瞬間、そこから突如として巨大な光の柱が間欠泉のように吹き上がった。

 

「がぁ”ぁ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ーーーーーーーーーっ!!!」

 

如月瞬煌流体術七ノ型【貫穴閃】とは自分に掛かっている運動エネルギーを地面に打ち込んでそのエネルギーの波を上空に吹き上げる技だ、地を突き穿った時に自分に掛かっていた運動エネルギーが巨大であれば巨大である程吹き上がるエネルギーの規模も巨大になり攻撃範囲が広がって広範囲の敵を攻撃する事ができのであり、それを受けた者はダメージを負うと共に上空へと身体を押し上げられて宙に投げ出されてしまうのだ。

 

———嘘だろ?確かにブッ飛ばした筈だぜ!?何で烈先輩が後ろから!!?

 

上空に投げ出されて無様に宙を回転する幸斗はバトルフィールドを粉砕した衝撃で吹っ飛ばした筈の烈が瞬く暇も無く一瞬にして背後から強襲して来たという事実に驚愕を隠せずに頭の中が混乱していた。恐らく烈はまた壁や天蓋を蹴って幸斗の背後に周ったのだろうが、それにしても速過ぎる。コンマ一秒も経っていたのか判らぬ間に足下から光の柱が吹き上がって地上約30mに投げ出されていたのだ、信じられないのも無理はないだろう。

 

『いいい一体何が起こったんだぁぁああああっ!!?もはやテンプレのように真田選手がリングを破壊して巨大クレーターが姿を現したと思ったらその中心から何やら巨大な光の噴水のようなものが噴き出ていて真田選手が上空に吹っ飛ばされていましたぁぁああああああっ!!?どうしてこうなったのかわけがわかりません!真田選手の規格外の一撃は遂に地球の核すら破壊してしまったと言うのかっ!?それから如月選手はどうなってしまった?彼の姿が未だに見当たりません!!』

 

「っ!!?」

 

激震が治まった事により会場内の混乱は収束に向かっている中、幸斗は実況解説の女子生徒の発言を聞いてハッ!と眼を見開き、空気を蹴って天蓋へと跳び、地面から見て逆さの体勢で天蓋に足を着けると同時に地上を見渡して烈を探してみるが・・・彼の姿はどこにも見当たらない。

 

———あの技を放った衝撃を利用して更に速くなったっていうのか!?信じられねぇ・・・。

 

もはや音すら置き去りだ、たぶんもう涼花ですら烈の姿を見失っている事だろう、運動エネルギーによって踏み砕かれて爆砕する壁や床も現象を引き起こしている本人が速過ぎてもう動きを捉える手掛かりにもならない、これが速さを極めたという【如月瞬煌流体術】だというのか・・・。

 

「へへっ・・・凄ぇ、これで【初伝】なのかよ・・・」

 

「この程度で驚いてもらったら困るってリユウだな、真の如月の技はまだまだこんなものじゃねぇってリユウだ」

 

「っ!!」

 

天蓋を軽く蹴った幸斗が再び宙に身を乗り出すといきなり何処からか烈の声が幸斗に語りかけて来たので幸斗は襲撃に備えて落下しながら身構えた。すると———

 

「六ノ型、《疾砲(しっぽう)》っ!!」

 

「なっ!?」

 

烈が技名を言い放つ声が聴こえて来るのと共に幸斗の眼前の空間が一瞬歪み、そこから半径約50cm程の円盾状の衝撃波が二発発生して幸斗に向かって放たれる。

 

「くっ!」

 

幸斗は空気を蹴って進行方向を変え二発の衝撃波を回避し、攻撃目標を見失った衝撃波はそのまま一直線に飛んで行き天蓋の一部を凹ませる。それを横目で確認した幸斗は今の衝撃波に違和感を感じていた。

 

「おいおい、これってまさか・・・」

 

「そのまさかだってリユウだ、【ケン圧】を飛ばすのはなにもお前だけの専売特許じゃないってリユウさ!」

 

「うおっ!?」

 

今度は空中を滑空する幸斗の斜め右上から先程と同じ形状の衝撃波が放たれ、幸斗はそれを紙一重で左に躱す。六ノ型【疾砲】は所謂【拳圧による空気砲】だ、【瞬閃】による爆発的な初速の直進と共に拳を突き放ち空気を打ち出すという単純な技ではあるが打ち放つ瞬間の速度と瞬発力が大きければ大きい程それに比例した威力の拳圧を放つ事ができるのである。

 

———くそっ!烈先輩の動きが全然読めねぇ。この速さの中じゃ多分【削り取る】能力を使うタイミングを計れないんだろうから烈先輩が速度を緩めるのを見逃さなければ消される心配はねぇだろうが・・・。

 

「【疾砲】だけに意識を向けすぎて隙だらけだってリユウだぞ!」

 

「なっ!?———ぐはぁっ!!」

 

幸斗が空中を滑空しながら思考を張り巡らせていると突然彼は腹部に強烈な衝撃を感じ、気が付けば身体が【く】の字に曲がって上に吹っ飛ばされ天蓋に背中から叩き付けられて跳ね返る。

 

そして認識不能の速度で動き回る【空間土竜】の逆襲が始まった。

 

「顔面のガードが甘い!!」

 

「ゴハァッ!?」

 

「頭上注意!!」

 

「ゴフゥッ!!」

 

「背中がガラ空きってリユウだ!!」

 

「がっ!!」

 

『おおっと、真田選手空中でフルボッコにされていますっ!如月選手声は聴こえど姿は見えないっ!まるであの【狩人】桐原静矢選手の【狩人の森】のようだぁぁああっ!!やはり序列三位は流石に強い!!【殲滅鬼】大ピィィンチッ!真田選手このまま選抜戦から消えて行くのかぁああああああっ!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【狩人】のヤツとは全然違げーよアホ」

 

赤ゲート側の控室のソファーに座り大型モニターで観戦中の重勝が解説を聴いて呆れるようにそう呟いた。

 

「【狩人】のヤツは認識できねーだけだから広範囲攻撃で潰せばそれでいい、だけど今烈の奴が認識できねーのは単純に速過ぎるからで広範囲攻撃をくらわせようとしても【放つ前に潰される】か【一瞬にして範囲外に逃げられる】かでアッサリ対処されちまう・・・要するに【瞬発性】が明らかに違う」

 

重勝の言う【瞬発性】とは簡単に言えば瞬間的なフットワークの事だ、瞬発性が優れていればいる程相手に攻撃を命中させる時間が短縮され反撃を許す可能性も下がる。

 

桐原静矢の霊装は弓型で遠距離から攻撃する事ができるのだが【弓を引いて矢を放つ】という一連の動作があまり俊敏では無く、本人自体の動きも大して速くはない、故に相手に広範囲攻撃を放つ時間を与えてしまい、撃たれれば逃げる事はできない。

 

それに対して今の烈は強大な瞬発性を得ているが故にどのタイミングでも相手に攻撃を届かせる事ができる、相手が広範囲攻撃を放とうとしても一瞬にして技の出を潰す事が可能であり反撃する隙を与えない、更に常に超音速で動き回っている為に位置が掴み難く、適当に広範囲攻撃を放っても簡単に避けられてしまう可能性が高いのである。

 

同じ認識不能でも【瞬発性】の違いだけでこれ程大きな違いがあるのだ。

 

「それにしてもマジ速ぇーな、たぶんもう姫ッチでも目で追えねーだろうな」

 

重勝が観ているモニターには空中で視えない何かに全身滅多打ちにされて悪戦苦闘している幸斗の姿が映し出されている。

 

「如月瞬煌流体術【基本の十二】の型の一つ、十二ノ型【蛍光】の真骨頂は【相手のチカラを利用して加速する】事だったな。技の引き金(トリガー)となる【相手の強力な一撃による反動の瞬発力】も勿論重要だが、最大の利点は【高速移動中に受けた相手の攻撃の反動すら利用して更に加速する事が可能】ってところだな」

 

要するに技の引き金となる瞬発力だけでなく音速移動の最中に受けた相手の攻撃をも自分のプラスに作用させてしまうというのだ。自分の繰り出した攻撃が例え不発であろうが防御されようがその【勢い】【反動】【衝撃】に逆らわずそれ等の流れに乗って無限に加速し続けて行く、まさに【激流に身を任せて同化する】かの如く・・・。

 

「その特性故に相手のチカラが強ければ強い程【蛍光】の加速力は増す。人間の想像を絶する膂力を持つ幸斗はこの技の格好の動力源だ、あの技は普通ならこんな短時間で視認できなくなる程の速度には達しない、俺と戦った時もここまでにはならなかったからな」

 

幸斗の最強の攻撃力も相手によっては仇となる、今まさに幸斗はその身をもってそれを体感し追い詰められているのだった。

 

「へっ!どうするよ幸斗。このままじゃお前はそのチカラを活かせねーまま負けっちまうぞ?」

 

モニターに映るボロボロの幸斗を試すような目線で見て不敵な笑みをする重勝、その眼はいつの間にか教え子の成長を期待する教官のモノへとなっていたのだった。

 

「・・・ん?」

 

その時、重勝は知っている気配を感じ取った。その気配が向かっている場所はこの第一訓練場の観客スタンドの四階———現在実況解説の女子生徒とゲストの西京寧音が居る放送室だ。

 

「この気配は・・・へっ!どうやら【あっち】は終わったみてーだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁぁぁあああああっ!!」

 

幸斗は烈が放った【疾砲】による衝撃波の砲弾によって地に墜とされクレーターの中央に叩き付けられた。天に響く轟音が鳴り砂煙が舞い上がり・・・そして幸斗は立ち上がる。

 

「・・・ハァ、ハァ、まだだっ!・・・ハァ、ハァ・・・オレはまだやれる・・・ハァ、ハァ・・・ぜっ!!」

 

肩で息を吐きながらも不屈の精神をもって上を睨みつける幸斗、額から血を流しその身体はもうズタボロだ。幼い頃からの鍛練と実戦で鍛え上げた体力と団長譲りのド根性のおかげで耐久力は凄まじく高い幸斗だが、しょせん魔力の防壁を纏えない彼の防御力は最低値、このままやられ続けたら精神よりも先に身体が限界を迎えるのも時間の問題だろう・・・。

 

「いい加減見苦しいんだよ出来損ない!」

 

「【紅蓮の皇女】や【深海の魔女】に勝ったからもしかしたらと思ったけど、やっぱりEランクはEランクだったな!!」

 

「伐刀絶技が使えないゴミ以下の存在が学園のトップ3に勝とうだなんておこがましいのよ!!」

 

「七星剣王だなんて選ばれた天才しか成れないモノなんかに魔力がカスなお前や落第騎士が成れる訳ねぇだろバーカ!無駄な努力なんだよ!!」

 

「ちょっと馬鹿力だからって調子に乗った報いだな落ちこぼれ、実に良い格好だぜその姿!」

 

「ホンット調子付いた身の程知らずが這い蹲るのを見るのは爆笑オンエアだよなぁ!笑えるったらありゃしない」

 

「だよね~」

 

「「「「「「「アハハハハハハハハハハハッ!!」」」」」」」

 

烈の【蛍光】を前に手も足も出ない無様な幸斗を目の当たりにした観客の生徒達が一斉に幸斗を嘲笑し出す、その生徒達は皆選抜戦を勝ち抜き続ける低ランクの幸斗や一輝に嫉妬の念を抱くE~Dランクの生徒ばかりだ、今まで自分達より格下である筈の幸斗がステラや珠雫などの最高ランクを打ち倒し続けるという快進撃に業を煮やす想いを抱き続けていた彼等はここに来て地に這い蹲る幸斗を見て爽快な気分になったので溜まっていた鬱憤を幸斗を嘲笑する事で晴らしているのだ。

 

ギリッ!と歯を軋らせて観客スタンドを睨みつける幸斗、だが観客達の嘲笑は止まない、ボロボロな姿で睨みつけられたところで滑稽なだけなのだから。

 

「いい加減にしなさいよアイツ等!イッキと・・・名前忘れた・・・イッキの一戦目の試合の時といい、アタシがユキトやリョウカと試合している時といい、アイツ等そんなに低ランクを見下したいの!?選抜戦に出る度胸も無い癖に人がやられているのを見て馬鹿にして笑って!ホント、頭に来るわ!!」

 

「ステラさんと同意見なのは癪に障りますが私も同じ気持ちです。自分から行動を起こす気もない下等生物の分際でお兄様や真田さんを愚かにも嘲笑うだなんて万死に値します・・・アイツラドウシテクレヨウカ・・・」

 

「腹が立つのは分かるけれどカタコトは止めなさい珠雫、アナタ今規制が掛かるような見せられない顔になっているわよ・・・」

 

聞くに堪えない嘲笑は当然ステラ達を不快にさせていた。身体中から火の粉を放出し今にも霊装を顕現して暴れ出しそうになっているステラに瞳のハイライトを消して眼を細め殺意を振る撒く珠雫をさりげなく宥める有栖院などが周りの目を惹いている。

 

「・・・・・」

 

この見苦しい惨状は皆の期待と信頼を集める学園の英雄である刀華にすら気分の悪い想いを抱かせていた。

 

———これが・・・今の学園の現状だっていうの?・・・みんなが私達高ランク伐刀者に対して劣情を抱いているのは知っていた、選抜戦を勝ち抜き続けている真田君や黒鉄さんに嫉妬しているのもなんとなく解っていた・・・だけど・・・これはあまりにも———

 

酷すぎる・・・そう思ったその時——

 

「そういうのは全部東堂会長に任せとけばいいんだよ!」

 

「そうそう。七星剣武祭の制覇も、裏切り者の風間重勝の打倒も、学園の平和を護る事だってみぃーーーーんな優秀な生徒会長がやってくれるんだからさぁ、凡人なアタシ達が出しゃばったって何もできる事は無いんだよ!」

 

「ホント馬鹿みたい(笑)、夢を叶えられるのは一握りの天才だけだというのにねぇ」

 

「どんなに努力したって、しょせん出来損ないは出来損ない、凡人は凡人なんだよ。夢を目指すだなんて無駄無駄、人生テキトーが一番だぜ!」

 

「まあ、無理だと思ったら会長のような生まれ持っての天才伐刀者に押し付ければいいのさ。有名人が活躍するのを見て夢を見る世の中のガキ共って本当に馬鹿だよなぁ?そのうちその有名人と自分との才能の差に気が付いて挫折するのが見え見えだってーのっ!」

 

「っ!!?」

 

周囲の観客達が嘲笑に雑じらせて話すひそひそ話が聞こえてきて、刀華は背中に悪寒が奔り眼を見開いた。周りから信頼されて頼られているという事には刀華自身も誇らしく思っている、彼女は他人を無償で助ける慈愛の精神で学園の皆を支えてきたのだから。しかし、それは皆が安心して自分の道を進めるよう手助けし導く為、あるいはやりたくても【できなかった】者達の無念を背負って夢を見せる為なのである。なのに今聞こえてきた話はどれもこれも才能で全てを量り、夢も努力も否定し【できないと決めつける】内容ばかり、挙句未来に夢と希望を抱く子供達まで馬鹿にする始末であり、明らかに未来を諦めきった感情が渦巻いていた。

 

———そんな事・・・思っていたの?・・・私は今までみんなに・・・夢を諦めないで・・・希望を持ってほしかったから・・・その助けになれればと・・・みんなの想いを背負ってきた・・・筈なのに・・・。

 

若葉の家に居た頃から刀華が抱き続けてきた志はこのたったの数秒で崩れかけの状態に陥ってしまう。彼女は今まで学園の皆や若葉の家の孤児達を未来に向かって進んで行く道に導く為に全力で支えてきた、自分が七星剣王という栄光を手にする事で彼等に何かを成すきっかけを与える事ができると信じて今まで戦ってきた・・・だがその結果が今のひそひそ話の内容とはあまりにも酷ではないか・・・。

 

「・・・・・刀・・・華?」

 

隣の席に座る泡沫が彼女の異変に気が付き彼女の顔を覗き込む。

 

「・・・・・」

 

普段から凛々しさと優しさを兼ね揃えている刀華の顔色は誰もが一目で判ってしまう程真っ青になっていた。彼女の目線は焦点が定まっておらず、どうしたら良いの判らないかのように戸惑っている感じが見て取れる。余程今のひそひそ話が堪えたのだろう、自分の想いどころか子供達の未来まで否定された事に怒りが湧くよりも先にショックによる喪失感が支配したのだ。

 

「刀k「うるっせぇぇええええええええええっ!!!ビーチクバーチク喧しいんだよっ!!黙って観てやがれこのマナー違反者共がぁぁあああああああっ!!!」」

 

明らかに刀華の顔色が悪いと気が付いた泡沫が心非ずな心境の刀華の意識を確認しようとした瞬間、破軍学園中を揺るがす程の超大音量の怒鳴り声が地の底から鳴り響くのであった。

 

大音量の怒鳴り声が第一訓練場内全体に響き渡り会場に居る全ての人間の聴覚を劈く。あまりの騒音の大きさに会場中の人間は耐え切れずに耳を両手で塞いでその場に蹲って悶えた。

 

「————っ!!・・・うるさいのはアンタよ幸斗、少しは周りの迷惑を考えなさいっての・・・」

 

騒音が止んでも尚耳鳴りが酷く反響している。その耳鳴りに耐えながら意識を正常に戻した涼花は騒音の原因である怒鳴り声を上げた張本人に対して文句を呟いていた。

 

「・・・よしっ!静かになったな!これで集中できるぜ!!・・・さーて、どうするかな?」

 

何はともあれ観客達を黙らせた幸斗は再び上を見上げ、未だに超音速で動き周っていて姿を見せない烈を攻略する方法を模索する。今の騒音の中でも烈は速度を落とさなかったのかと疑問に思うかもしれないが、考えてみれば音すら突き破る速度で動いているのだから堪えるわけがないだろう・・・そう考えていたのか、ただの直感かは定かではないが、幸斗は唐突に何かをひらめく。

 

———まてよ?どんなに速かろうが試合会場から外に出れるわけじゃねぇ・・・それにスピードを緩めなければ無敵の【土竜の手】を繰り出す事ができねぇ・・・なら烈先輩の動きを封じるには・・・・・そうだ!!

 

普段は頭カラッポの癖にこういう時だけ頭が回る。幸斗は周囲が運動エネルギーによって爆砕される現象が上に集中しているのを確認すると鬼童丸の柄を両手で握り、不敵な笑みを浮かべながら【太刀を振り上げる体勢】に構えだす。

 

「・・・まさか・・・」

 

涼花は嫌な予感を感じた。あのお馬鹿が考える事なんてロクな事じゃない・・・その感覚は・・・正しい。

 

「良い事考えたぜ!烈先輩がどんなに速かろうが試合会場全体を吹っ飛ばしちまえば関係ねぇっ!!」

 

何か恐ろしい事をいきなり言い放った幸斗は鬼童丸の柄を持つ両腕に青白い闘気を纏わせる。この瞬間、第一訓練場内の人間は一人残らずこれから幸斗が何をしようとしているのかを理解して顔を青くした。

 

『さささ真田選手!?一体何を・・・・・ま、まさかっっっ!!?』

 

『あー、ゆっきー【アレ】をブッ放すつもりみたいさね・・・』

 

幸斗が地を踏みしめると足下が大きく陥没し、大気が強大な闘気に当てられて大きく揺れはじめる。

 

「・・・まさかユキト、【アレ】を放つつもり!!?」

 

この状況、ステラには見覚えがあった。相手が上に位置取り、幸斗が上に狙いを澄まして太刀を両手で握り締めるこの状況を。

 

「・・・忘れやしないわ・・・ユキトのあの一撃は———」

 

彼女は思い返す、自分と最愛の恋人の運命が覆される事となった、あの一戦を・・・。

 

『オレだって七星剣武祭でブッ倒すと誓った【龍】がいるんだぁああっ!!こんなところでテメェに負けている暇はねえんだよっ!!ステラ・ヴァーミリオンッ!!!』

 

「———アタシとイッキの約束を跡形もなく消し飛ばした一撃———」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————龍殺剣(ドラゴンスレイヤー)ァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

殲滅鬼(デストラクター)真田幸斗を象徴する龍をも消し飛ばす必殺にして超破壊の一撃、それが今再び空に撃ち放たれた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第三話以来、遂に再び放たれた幸斗必殺の龍殺剣(ドラゴンスレイヤー)!果たして加速し続ける烈の【蛍光】を止める事はできるのか!?

因みに【蛍光】は対魔導学園35試験小隊に出てくる草薙諸刃流の技である【怪火蛍】を参考にしていたりします。



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