運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

42 / 54
バイトがある日は投稿困難だとは言ったが絶対に不可能だとは言っていない(笑)・・・と言うか実はこの話自体は昨日の内に完成していたんですよねぇ(汗)、書き上がった時に急な用事が入ってしまって・・・・今日になってしまいました(土下座)。




【一撃】の戦い、殲滅鬼VS空間土竜

《六感蹴士(サイドキッカー)》と名高い破軍学園三年のCランク伐刀者《工藤新二(くどう しんじ)》は大変優秀な学生騎士である。

 

生まれ付き視力・聴力・嗅覚・味覚・触感の五感に優れた非凡な情報認識能力を持ち、場の情報を暴き出す《第三の眼(サードアイ)》の能力が使えるという伐刀者としての才に恵まれて生まれてきた彼はその才能に胡坐を掻かず健全な精神をもって精進してきた。新二はその高い情報認識能力と幼い頃から磨き上げてきたテコンドーの蹴り技で校内序列第七位にまで上り詰め、昨年の七星剣武祭代表候補の最終選考にまで残った程の実力者である。

 

惜しくも昨年は代表入りを逃してしまったものの、今年こそはと【第三の眼】の精度の向上と蹴り技にひたすら磨きを掛け、その甲斐あって新二はこの選抜戦をここまで無敗で勝ち進んで来れたのであった。

 

その成果は生まれ付いての才能だけでなく決して慢心しない切実性と才能至上主義の現在には珍しくランクで相手を測らず、自分の目で視る視野の広さを持っていたから出す事ができたのだ。

 

———何だ・・・コイツ・・・。

 

そんな彼だからこそ深く感じとる事ができて理解してしまったのだろう・・・今自分が相対している剣士が放つ闘気が尋常じゃなく、相手が自分が勝てる見込みが限りなく低い猛者であるという事に・・・。

 

———なんて重圧だよ、圧力も半端じゃねぇ、まるで高熱で焙られた圧力釜の中に入れられたみてぇじゃねぇか・・・。

 

気当たりだけで意識が持って行かれそうになっている新二は現在薄暗い広場の中央でその強烈な威圧を放つ黒髪の剣士と向かい合っている、全身から流れ出る汗が止まらない、今にも自分の全身を切り裂きそうな強い目線で真っ直ぐこちらを見据えているその剣士は魔力量F判定という欠陥伐刀者ながらも剣を構えるその姿だけで竜をも葬りそうな剣気を放っており、有無を言わせぬその眼光はまるで悪鬼羅刹の様である・・・その剣士、一言で表すのならば・・・修羅。

 

———去年【狩人】の奴が起こした騒動で目にした時からタダ者じゃねぇとは思っていたが、まさかここまでの奴だったとはな・・・落第騎士(ワーストワン)、黒鉄一輝!

 

その眼光の奥に果てしない意志を感じ取った新二は戦慄により震える指先を抑えてその剣士———黒鉄一輝と相対す。一輝のその意志は恐らく新二に向けられたものでは無いのだろう、もっと先の・・・鬼の背中を。

 

「それじゃあ黒鉄くん、工藤くん、準備はいいかしらぁ?」

 

「いつでもいいですよ、戦意も覚悟も上々です、工藤さんは大丈夫ですか?」

 

これから行う試合のレフェリーを務める不健康そうな雰囲気の女性教諭——折木有里が試合の準備は出来たのかと二人の意を確認する、すると一輝がなんの迷いも無く肯定し戦意を向けながら新二に確認の目を向けた。

 

———っ!バーロー!しっかりしろ俺っ!!今年こそ七星剣武祭への切符を手にするんだろうが!

 

「ああ!問題ねぇよ!チャッチャと試合を始めようぜ!!」

 

新二は動揺してなるものかと威勢良く返事をして試合を始めるよう促した。上等な笑みを見せる新二であったが彼の手は目の前の修羅に怯えて震えている、強がる事はできてもなまじ実力があるが故に本能が告げているのだ・・・この修羅には勝てないと・・・。

 

「うん、わかったわぁ・・・ゴホンッ!・・・それじゃあ、これより選抜戦第十九戦目、三年Cランク工藤新二君、対、一年Fランク黒鉄一輝君の試合を開始します、二人共、霊装を顕現してください」

 

「来てくれ!陰鉄!!」

 

「蹴り穿て!ストライカー!!」

 

有里の指示に従って両者共に霊装を顕現して構え互いに睨み合った。此処、国際魔導騎士連盟・日本支部の地下摸擬戦場にて彼等の最終戦への進出を賭けた試合が今、始まる!

 

「それでは二人共位置に着いてぇ~——————LET's GO AHEAD(試合開始)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これまで数多くの火力を凌駕してきた幸斗の剣圧閃光を烈の土竜の手はいとも簡単に掻き消してしまった。これによって幸斗は勢いを無くし、下手に攻めに行く事はできなくなった・・・というのが普通なのだが———

 

「シッ!」

 

「うぉっ!?」

 

生憎元西風の団員は普通じゃない、幸斗は再び正面から烈に突撃し烈の土竜の手による横薙ぎ払いを体勢を下げてやり過ごしてそのまま烈の足下を太刀で横一閃する、烈はそれに対して大きく上に跳んで回避するが規格外の膂力で振るわれた太刀は強烈な衝撃波を発生させ跳び上がった烈の身体を暴風で吹っ飛ばした。

 

「まだまだぁっ!!」

 

「マジか?」

 

幸斗はそのまま追撃を敢行する、弾道ミサイルが発射されるかの如く勢いで床を蹴った幸斗は空中で放物線を描いていた烈を通り過ぎて観客スタンド最上階の壁を蹴り、勢いのまま跳ね返って来て空中の烈を背後から強襲する。

 

「させるかってリユウだ!」

 

「っ!!」

 

「ウララララララララァッ!!」

 

「ハッ!ホッ!シッ!サッ!カッ!」

 

やらせて堪るかと烈は空中で無理矢理身体を捻って体勢を反転させる、そのまま弾丸のような速度で向かって来る幸斗を土竜の手による乱れ薙ぎ払いで迎え撃つのだが、幸斗はタイミングを見極めて空気を蹴り、最小限の動きで自分に襲い来る鉤爪を全て躱し——

 

「もらったぁっ!!」

 

「ぐおぁっ!!」

 

乱撃が止むのを見計らって烈の左頬に拳を一発叩き込んだ。

 

———くっ!そういや真田は空気を蹴って空中で動けるってリユウだったな・・・痛ってぇ・・・。

 

しかしそこは流石序列三位、烈は幸斗の拳がインパクトする直前に首を拳のチカラの向きに合わせて振る事によって衝撃とダメージを軽減した・・・のだが、やはり幸斗の最強の攻撃力を受け流しきるには至らなかったらしく、烈は地上に落下しながら左首筋を掌で押さえている、どうやら骨に僅かな皹が入ったようだ。

 

『真田選手、正面突破からの追撃!如何なる攻撃も防御も関係無く理不尽に削り取る如月選手の【土竜の手】の前には如何に殲滅鬼の二つ名を持つ真田選手といえども慎重にならざるを得ないだろうと予想しましたが、予想を裏切って積極的な攻勢に出てきました!』

 

『ゆっきーの身体能力は明らかにれっつーを上回っているからねぇ、れっつーの無敵の爪も結局のところ当たらなければどうという事は無いのさ。それに戦闘経験の差もあるだろうさね』

 

『はぁ、戦闘経験ですか?如月選手はあの【雷切】東堂選手や【紅の淑女】貴徳原選手のように【特例招集】に参加した事もあると聞きますから、寧ろそれに関しては如月選手の方が上なのでは?』

 

『アハハッ!まあ大人の事情というやつさ、ゆっきーにも色々あるんだよ』

 

『はぁ・・・』

 

「あの人また適当な事言って誤魔化しているわね・・・」

 

放送で会場全体にモロ聞こえているにも拘らず適当に話を誤魔化す寧音のフリーダムっぷりに眼を細めてステラは呆れる。そりゃあ幸斗が元非合法の傭兵という連盟から犯罪者の烙印を押された人間だったという事がバレれば皆動揺するだろうからそれを避けたいのは分かるのだが、【大人の事情】は適当過ぎるだろう・・・。

 

「・・・まあそれは置いといて、ホントユキトは毎回予測不能な行動をするわね。アタシも常識人とは言えないけれどユキトの行動はブッ飛び過ぎよ、アイツ消されるのが恐くないわけ?」

 

先程までイライラして落ち着きがなかったステラだったが、烈の土竜の手が幸斗の剣圧閃光をアッサリ掻き消してしまったのを見て衝撃を受けた事によって今は少々気を静めている。その時に刀華から【土竜の手】の説明をしてもらい、その内容が余りにも規格外だったので彼女はそれに恐れず攻撃を仕掛けに行った幸斗の神経を疑った。

 

「確かに真田君は少々無謀が過ぎますね、幾ら身体能力で上回っていて経験も勝るからといって一撃でも受ければ自身が消滅してしまうというのにそれを判っていて正面突破を図るだなんて愚行にも程があります。私は相手の行動を前もって読み取る事ができる【閃理眼】と何よりも速く相手に刃を届かせられる【雷切】がありますからほぼ確実に正面から破る事ができますが、真田君は身体能力と実戦経験によって培われた感ですから確実とは言えません。距離を取って剣圧の連発で牽制しながら隙を狙うという戦法もあるのに何故真田君は正面突破という無謀な行動をしたのでしょうか?」

 

刀華の指摘は尤もだ。一撃受ければゲームオーバーとなってしまう条件で突攻するなど正気の沙汰では無い、幸斗が馬鹿野郎だからと言ってしまったらそれまでだが、刀華は幸斗が突攻以外の戦術を知らないようにも見えたので彼女は疑問に思ったのである。

 

「・・・あのお馬鹿には・・・それしか無いからよ」

 

刀華の疑問に辛辣そうに答えたのは幸斗の仲間である涼花だった。

 

「知っての通り、幸斗は伐刀者としての才能が誰よりも劣っているわ・・・でも幸斗の無才はそれに止まらないの。学問はどれだけやってもほんの僅かな内容しか理解できず、剣は技が無くチカラ任せに振るうだけ、機械を弄ればすぐに壊し、元々は身体能力も運動オンチだった為に昔はよく何も無い平地で転倒していた・・・幸斗が身に付けたスキルも全て重勝が組んだ効率の良い訓練メニューのお蔭で【年単位】で体得したものよ。アイツはそれ程人よりも覚えが悪いの・・・」

 

涼花の淡々とした説明を聞いてステラ達は表情を曇らせる。幸斗は一輝のような剣才と観察眼が無い、幸斗はステラのように強大な魔力があるわけでは無い、幸斗は刀華のような高い戦闘技術を習得するセンスが無い、幸斗は涼花のような超高等戦術を組む発想力が無い、幸斗は重勝のような高いバトルセンスは無い・・・・・真田幸斗という男はとことん才能に見放された存在だ、まるで神から見捨てられたかのように・・・。

 

「アイツが元より生まれて持っていたモノなんてギリギリ一回霊装が顕現できるだけの雀の涙程度の魔力のみ、だからアイツが高みに上り詰める為にはどんな事があろうとも一度選んだ道を変える事はできないの。幸斗の歩みはこの世の誰よりも遅い、道を外せば終点に到達できる時間が無いのよ幸斗は・・・あのお馬鹿は正面から全てを打ち倒す道を選んでしまった・・・だからアイツが頂点に立つ為にはもうその道一本を突き進むしかないのよ」

 

才能が優れていれば優れている程選択の幅は広がる、何でもスポンジのように吸収して覚えるが故に道を進む速度が速くその分道を変えても終点に到達する時間があるからだ。逆に才能無き者はその才能の無さに比例して歩みが遅い・・・故に才能無き者が才能に恵まれた者に勝つには選択の余地は無いのである。故に幸斗はステイタス攻撃力極振りの一点特化に鍛え上げて今まで降りかかる苦難を乗り越えて来たのだ。

 

「・・・・・」

 

涼花が語る無才少年(幸斗)の宿命に一同が重く沈黙する中、絶はバトルフィールド上に着地して左首筋を掌で摩る烈を儚げな表情で見つめていた。

 

「残酷だな、才能の有無というのは・・・」

 

絶のその呟きは誰に向けてのものなのか・・・皆が見守る中烈は約15m正面に着地して太刀を下段に構えてこちらを見やり不敵な笑みを浮かべている幸斗を甲斐甲斐しい眼で見据えていた。

 

「大胆にも攻めるな真田、俺の土竜の手は一撃でもまともに受ければ終わりだってリユウなのによ」

 

「へっ!さっきはビビッたけど、能力のカラクリさえ分かれば立ち止まる理由はねぇ!オレはいつだって全力全開で突き進む!相手の能力が怖くて最強を目指せるかよ!!」

 

F-の魔力量しか持って生まれなかった幸斗にとって相手の異能が脅威である事など今更だ、幼い頃何度も苦渋を舐めさせられ続けて来た、彼はその度に立ち向かい続けて強くなったのだ。

 

「それに烈先輩、アンタ防御力がそんなに高いわけじゃないだろ?さっき殴った時全身の魔力防壁が一輝の妹と比べて少し薄い気がしたからな」

 

「・・・・・」

 

幸斗の挑発気味の指摘に対して訝し気に左首筋から掌を離し、幸斗から若干視線を外してまいったなという感じでそっぽを向き掌で自身の後頭部を摩った。

 

「成程な、一撃必殺はお互いさまというリユウか・・・」

 

今の烈の発言からしてどうやら図星だったようだ。烈の魔力量と防御力はC判定、このランクで身体に纏う魔力防壁だと通常の銃弾なら防げるが対物(アンチマテリアル)ライフルの弾丸だと大怪我、戦車の砲弾だと防壁が粉砕されて身体が木っ端みじんとなるくらいの強度だろう。それを圧倒的に凌駕する幸斗の超火力の攻撃がクリティカルヒットすれば一撃で烈の身体は爆裂四散してしまう事だろう、先程の拳ももし受け流しに失敗していたら首から上が弾け飛んでいたところだ。

 

そんな危機一髪の状態だったというのに烈は冷や汗一つ掻かずに何食わぬ顔で幸斗に話を持ち掛けた。

 

「真田、今【オレはいつだって全力全開で突き進む】って言ったな?・・・だったらそのリミッター外したらどうだ?」

 

「っ!」

 

烈の提案に若干驚きの表情を浮かべる幸斗、烈の言う通り現在幸斗はリミッター———四つの超重力バンドを身に着けたまま戦っている、しかしわざわざ自分が不利になるような提案を持ち掛けるとはどういう事なのだろうか?幸斗は警戒する。

 

「?・・・ああ、安心していいぞ、俺は風間の奴と違ってヒーロー・ヒロインの変身中やパワーアップ中に砲撃をかますような空気の読めないロクでなしじゃねぇってリユウだ、外している間に不意打ちなんてしないで待っていてやるから、そう警戒しなくていいってリユウだ」

 

そんな事言われても普通信用しねぇよと思う幸斗であったが、確かに烈は不意打ちしてきそうな雰囲気は出していない。

 

「・・・はっ!まったく、大胆なのはどっちだよ・・・」

 

幸斗は烈の提案に応じてリミッターを外す事にした、確かにコレを着けたまま戦うのは舐めすぎていたかもしれない、烈は重勝と刀華に次ぐ序列三位、全力全開(フルパフォーマンス)が出せる状態じゃなければ勝つのは難しいだろう。

 

「ホイっと」

 

「「「「「「「こっちに投げんなぁぁあああーーーーーーーーーーーっ!!!」」」」」」」

 

両腕両脚から超重力バンドを取り外した幸斗がそれを後ろに放り投げる、綺麗な放物線を描く軌道が観客スタンドに向かっている事を察した落下地点の観客達が白目を向いて涙を流しながら文句という名のツッコミを入れてその場を退避し、その直後にドッカーーーーーンッ!!という爆発音が鳴り響き、誰もいない観客席が大破したのだった(笑)。

 

「うわぁぁああああああああっ!!逃げろぉぉおおおおおおっ!!」

 

「巻き込まれるぞ!!速く避難するんだぁぁあああああああああっ!!!」

 

「総員退避!!繰り返す、総員退避ぃぃぃいいいいいっ!!!」

 

『真田選手リミッター解除!対黒鉄珠雫選手との試合で見せた鬼の蹂躙劇が今再び始まろうとしています!あの試合での周囲への被害規模を思い出したのでしょうか?真田選手がリミッターを外したのを目の当たりにして如月選手の後方の観客席にいる生徒達が悲鳴を上げて一斉に避難を始めています!、如月選手は真田選手の猛攻にどう対処するのでしょうか!?』

 

「へっ!だらしねぇ奴等だ!」

 

「いや、賢い行動だってリユウだろ・・・。先日の【深海の魔女】戦でどれだけスタンドに被害が行ったと思っているんだ・・・俺もコブができたってリユウだし・・・」

 

そう恨めしそうに呟いて烈は前頭部を掌で摩る。イラッときて幸斗が蹴り飛ばした珠雫の氷首が頭に直撃した時の事を思い出したのだ(笑)。

 

烈は気を取り直して右の鉤爪の先を幸斗に向ける。

 

「まあそれは置いといて・・・来いよ真田、お前の全力を見せてみろっ!!」

 

「へへっ!それじゃあリクエストにお応えして・・・行くぜっ!!!」

 

戦闘再開、幸斗がブォン!という風切り音と共にその場に残像を残し音を置き去りにする超高速で烈に接近、同時に相手の頭部を狙う跳び水平蹴りを推進の勢いに乗って放つ。

 

「ふっ!」

 

烈はそれを前傾姿勢で体勢を低くする事によって回避、攻撃対象を見失った蹴りは空を切り、規格外の膂力で振るわれた蹴りは強大な衝撃波を発生させて既に避難が完了した後方の無人の観客スタンド一階を撃ち抜き、轟音と共に新たなトンネルが開通した。

 

———まるで空気砲ってリユウだな、【深海の魔女】との試合の時よりキレと破壊力が増してやがるってリユウだ!

 

「うぉぉぉおおおおおっ!!」

 

幸斗の動きの爽快さに感心を示す烈であったが感心している余裕はない、外した勢いで烈を通り過ぎた幸斗が3m先で地を片手で【掴み】、それを支点にした遠心力をもってUターンをして来たのである。

 

———指を床に突き刺して腕を軸にしただとぉっ!?あんな勢いが付いていたら普通腕が千切れるってリユウだろ!?

 

「ドラァアッ!!」

 

「うおっと!」

 

驚愕する烈に幸斗は加速の勢いに乗って太刀による一閃を繰り出す。幸斗の連続攻撃が速すぎる為に迎撃は困難だと咄嗟に判断した烈は高く空中に跳躍する事によって一閃を躱すものの、幸斗はすぐさま地を蹴って宙へと跳躍して烈を追撃、地上10mで烈を鬼童丸の刃が届く範囲に捉えた。

 

「いっただきぃぃいいいいいいいいいいいっ!!!」

 

無防備な烈の背中に幸斗は容赦なく一閃を放つ、タイミングも完璧だ、これなら烈が振り返って鉤爪を振るおうとしようが間に合う事はないだろう。朱い刃が烈の背中を斬り裂いた・・・と思われたのだがその瞬間——

 

「っ!!?」

 

突如として烈の身体が一瞬にして消滅し朱い刃が空を切って真空刃が天蓋を斬り裂いた。突然の出来事に空中で戸惑う幸斗は周囲を見渡して消滅した烈を探した。何も無しに身体が消滅するなんてあり得ない、恐らく烈は何らかの伐刀絶技を使って瞬間的に移動したのだろう、幸斗は傭兵時代の経験から本能的にそう判断したのである。

 

「下だってリユウだぞ真田」

 

案の定烈の姿は地上にあった。上空にいる幸斗を真っ直ぐ見据えて右の鉤爪を肩の後ろに回して斜め上に掻き下ろそうとする体勢を取っている。一体何のつもりだろうかと幸斗が疑問に思った時、烈が口を開いた。

 

「ここで少し手品を見せてやるってリユウだ。俺の能力はこの【神楽土竜】の爪で抉り取ったモノを【削り取る】ってリユウなんだが・・・こうやって【空間を削り取れ】ば———」

 

話している最中に急に烈が振り被っている右鉤爪が青紫色に発光し、抉るように振り下ろされた鉤爪が烈と幸斗の間の何も無い【空】を空振った。

 

———は?烈先輩は何やってんだ?いきなり霊装を素振りするだn———っ!!?

 

刹那、幸斗の眼に驚愕の光景がが映った。なんと10m下の地上に居た筈の烈が瞬きする一瞬にして眼前に現れたのだ。

 

「なっ!!!?」

 

「———【瞬間移動】の伐刀絶技《空間切削(シュナイディング・ディメンション)》ってリユウだ!驚いたかっっっ!!!」

 

「ぬおおっ!!!」

 

振るわれた左鉤爪が仰天して素っ頓狂な声をあげる幸斗の前髪を僅かに散らす、戦闘経験によって培われた直感により幸斗は反射的に右足で空気を蹴り空中サイドステップによって攻撃を左に躱したのだ。

 

「くそっ!」

 

幸斗はそのまま下方に体勢を傾けて空気を強く蹴り弧を描くようにスタイリッシュに地上へと着地する、一方烈はそのまま放物線を描き自然落下によってシュタッ!と観客スタンドの方を向いた状態で地上に着地して後方に振り返り、20m前方で太刀を構える幸斗を睨みつけて不敵な笑みを浮かべた。

 

「惜しかったな~、あと一瞬でも速く繰り出していれば終わっていたってリユウなのによ!やっぱり空間を削り取ってワープした後に相手を目視確認してから土竜の手じゃ遅いのかってリユウだな、うんうん」

 

軽く首を上下に振って自分で納得するような動作をする烈、しかし実際には間一髪であった、幸斗の反応が一瞬でも遅れていたら今頃彼の身体はこの世には無かったであろう。幸斗はそんな紙一重の戦闘に歓びを感じてニィッと笑みを浮かべていた。

 

「マジ強ぇな烈先輩!くぅ~っ!こんなギリギリの戦い久しぶりでワクワクが止まらないぜ!!」

 

「おいおいどこの野菜人だよってリユウだ・・・まっ、そう言っても俺も楽しんでるってリユウだけどな」

 

「でも烈先輩のその能力の弱点は見切ったぜ!確かにシゲの言う通り何でも無差別に削り取るその能力はシゲの砲撃やステラの炎より強ぇけど霊装を振るう動作は特別速ぇわけじゃねぇから腕の動きに注意してりゃあ難なく避けられる、烈先輩自身も速ぇっちゃ速ぇけどスピードも反射速度もオレの方が速ぇから先に攻撃を叩き込めばいい、つまりスピード不足だぜ!」

 

鬼童丸の切っ先を烈に向けて能力の弱点を指摘する幸斗、どんなに無敵の攻撃でも当たらなければどうという事はない、霊装で直接抉り取らなければ能力が発動しない烈にとってスピード不足は致命的だ。重勝が空を飛ぼうが【空間切削】で空いた距離を詰めればいいしカナタが【星屑の剣(ダイヤモンドダスト)】を空気中にばら撒こうが空間ごと削り取ってしまえばいいのだが、鉤爪が振るわれる前に刀華の【雷切】が先に自分の身に届き一刀両断されてしまう、一輝の【一刀修羅】のスピードに着いてこれずに翻弄されてしまう、これが如月烈の弱点だった。

 

・・・だが、序列三位の実力者がそんな自分の弱点を把握せずに放置しているわけがなかった。

 

「・・・ふぅ、バレたか・・・お前普段は馬鹿なのに戦闘の事に関しては鋭いってリユウなんだな」

 

「舐めんなよ、これでも今まで色々経験してきているんだ!!」

 

「はははっ!悪かったってリユウだな・・・んじゃ見せてやるか。速度を極めた如月家伝統の【如月瞬煌流体術】の技をよっ!!」

 

威勢良く言い放ち太刀を構える幸斗に対して技を見せると言い放ち左脚を前に大股を開いて腰を落とし今にも飛び出して行きそうな前傾姿勢で烈は構えを取った。

 

「行くぞ真田ァッ!!如月瞬煌流体術【初伝】、如月烈!参るっ!!」

 

烈が気合いと共に名乗りを上げた瞬間、彼は地を蹴り疾風(かぜ)となった。

 

「・・・・・・」

 

その姿を彼の弟である絶は訝しくも真剣な顔をして見守っていた・・・その蒼い瞳の奥に暗い影を落として・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




破軍学園壁新聞


如月烈

PROFILE

所属:破軍学園三年一組

伐刀者ランク:B

伐刀絶技:土竜の手(モール・ザ・ハンド)

二つ名:空間土竜(ディメンショナルモール)

人物概要:破軍学園校内序列第三位の実力者

ステイタス

攻撃力:A

防御力:C

魔力量:C

魔力制御:E

身体能力:B+

運:E


かがみんチェック!

風間先輩と東堂会長に次ぐ破軍学園ビッグ3の一角!昨年の七星剣武祭にも出場してベスト8の好成績を残している超優秀な伐刀者!如月先輩が【空間土竜】と呼ばれているリユウはお得意の伐刀絶技【土竜の手】が余りにも印象的で反則的に強すぎるからってリユウだ!(言葉うつっちゃった・・・) 七星剣武祭準々決勝で如月先輩を負かした現七星剣王の諸星さんも「攻撃力も防御力も魔力も異能の効力すらも関係無く無差別に削り取るやなんて、そんなんチートやチーターや!!」とコメントしているよ!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。