運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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重勝が破軍最強と断言する烈の伐刀絶技【土竜の手(モール・ザ・ハンド)】、その全貌が今、明らかとなる!!




土竜の手(モール・ザ・ハンド)

これまでの試合、幸斗は全て自分から先制を仕掛けている、四歳の頃から十一年間鍛え高め続けて身に付けたこの規格外の攻撃力を信じているからだ、自分の剣の一振りは全てを打ち砕けると・・・それは決して慢心でも過信でもない、今まで積み上げてきた自分のチカラを誇りに想い、自信を持っているのだ。

 

今回もまた幸斗は愚直に自分のチカラを信じて正面から対戦相手の烈に攻撃を仕掛けに行ったのだった、烈がどんな能力を使ってこようと関係無い、上等だ、堂々と正面から打ち砕いてやる、真田幸斗という鬼は今までもそうやって戦ってきたのだから・・・・・だが——

 

「っ!!?」

 

烈を射程圏内(クロスレンジ)に捉えた瞬間、突如として幸斗の元傭兵としての戦場の感覚が警報を鳴らし背筋に悪寒が奔った。

 

———なっ!?何なんだよコレッ!?

 

ヤバイヤバイヤバイッ!幸斗の脳内にはそんな文字の羅列が刻み続けられて感覚が危険信号を発しており、彼は前進していた足を止めてしまう。その隙を学園序列三位の実力を持つ烈は逃しはしなかった。

 

「・・・隙ありだ、真田っ!!」

 

「っ!!がはっ!!」

 

烈の姿がブレて一瞬にして幸斗の間合いに入り込み烈の強烈な飛び蹴りが幸斗の腹部に突き刺さる、選抜戦第十戦目の時に兎丸恋々戦で如月絶が使っていた【如月瞬煌流体術】の秘技にして基本の体技である【瞬閃】だ、膝を深く曲げ全身を撃ち出す様に一気に脚を伸ばして爆発的な初速で相手の不意を突くその走法は驚異的な突破力を誇り、合わせて蹴り放った一撃が幸斗の身体を後方へと突き飛ばす。

 

「ぐほぉっ!!」

 

そのまま背中から赤ゲートの上の壁に叩き付けられる幸斗、VSステラ戦の時とは真逆の展開だ、壁に叩き付けられた幸斗は万有引力の法則に従って地面に落下し四つん這いの体勢で顔を上げ、前方約30m先で【どうだっ!】と言っているかのような不敵な笑みをしてこちらを見据えている烈を苦虫を噛み潰したような悔しさを噛み締めて睨みつける。

 

『真田選手いつも通り正面から先制攻撃を仕掛けに行くも、カウンターで如月選手の蹴りをモロに受け吹っ飛ばされたっ!!先制を決めたのは【空間土竜】如月選手!流石は序列三位と言ったところでしょうか!?真田選手がこれまでに戦ってきた生徒達とは一味も二味も違います!!』

 

烈の先制で観客達の大歓声が一気に沸き上がる、試合開始早々かなりの盛り上がりであった。幸斗は痛ててと立ち上がり10カウントルールによりレフェリーが十数える前に再度バトルフィールド上に上がり先程の悪寒を警戒するかのように周囲に気を張り巡らせながら鬼童丸を下段に構えて烈と向かい合った、試合はまだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やっているのよユキトッ!?怖気づいて立ち止まるなんてアンタらしくないわよ!!」

 

右側に青ゲート、左側に赤ゲートが見える位置の観客スタンド三階の席で観戦しているステラが先制を受けてしまった幸斗に苛立ちを覚えて激昂している、確かにいつもの幸斗らしくない行動である、試合で彼女を真正面から吹っ飛ばした真田幸斗という伐刀者は相手を攻撃するのに躊躇いを見せる小心者ではなかった筈だ。

 

「・・・ふぅ・・・少し落ち着きなさい【ステラ】、最近の周りの陰口の所為で気が立っているのは知っているけどあのバカに当たっても仕方がないわ」

 

「別に当たってなんかいないわよ!そんな事よりアンタはどうなのよリョウカ!?ユキトはアンタの仲間でしょう?知り合って間もないアタシにすらユキトらしくないと感じたのにアイツと昔馴染のアンタは今のを見て何とも思わなかったわけ!?」

 

ステラの右隣の席に座っている涼花がイライラして落ち着きの無いステラをしょうがないなという感じで宥め、ステラはそれを気に喰わなく思い反発して涼花に物申す。確かに今のステラは他人には近寄り難い程苛立って気分を害していた、二週間前のスキャンダル騒動と倫理委員会による恋人である一輝の拘束と監禁、それによって彼女に向けられる学園の生徒達の軽蔑の目と陰口、そして何日も愛しの恋人に会えないという状況が彼女に耐え難いストレスを与え続け現在に至っているのである(因みに涼花がステラを名前呼びにしているのは二週間前幸斗が奥多摩の合宿場に向かう前に以前の生徒会室前でのやり取りでステラが言った伝言を涼花に伝えたからである(※詳しくは【最弱の邂逅】の話を確認して下さい))。

 

まあ、涼花の言い分は正しいのだがステラの言う事も一理ある。幸斗と同じ元西風の団員である涼花が攻撃を躊躇して足を止めた幸斗を見ても落ち着いていられるのは確かに変だ、本来ならステラが言った文句は涼花が言うべきセリフの筈だし、いつもの彼女ならば【あのおバカ!】という罵倒を交えて毒づいているところであろう。だが彼女は心変わりした様子も無く普通に答えた。

 

「あら?理事長から話を聞いていなかったのかしら?わたしもあのおバカも嘗ては最強クラスの傭兵団【西風】の一員だったのよ?【実戦の感】の鋭さはこの学園の生徒達の誰よりも優れていると自負しているわ。恐らく幸斗は如月先輩に接近した瞬間に【あのまま突っ込んだら危険】と感じたのね、【吹っ飛ばされて壁に追突する選択が最良の結果だった】と言えるくらいに」

 

「はぁっ?何で吹っ飛ばされるのが最良なのよ!?最悪の間違いでしょう!?」

 

涼花の言っている事を意味不明に思ってステラは苛立ちながらそう言う。それにしてもステラは少し苛立ち過ぎじゃあないだろうか?周囲の生徒達が声を張り上げている彼女に奇妙なモノを見る目線を向けている。

 

「・・・いや、最良だな」

 

ステラの言い分を否定したのは涼花の右隣の席に座っていた烈の弟の如月絶であった。

 

「馬鹿正直に正面から行くかと思っていたが案外真田は戦闘においては頭の回転が速いらしい、或いは昔の実戦経験の賜物か・・・いずれにしてもあのまま突撃していたら間違いなく真田は【消されていた】、正しい判断だったな」

 

無表情で幸斗を称賛する絶、幸斗がもしいつも通り真正面から斬り掛かっていたとしたら幸斗は烈の迎撃によって【消されていた】らしい。

 

「【消されていた】?何よそれ!?」

 

それを疑問に思ったステラは立て続けに疑問を言うがそれに答えたのはこの場に居るのが意外な人物だった。

 

「それが如月さんの能力だからですよ、正確には少し違いますけど」

 

「トーカさん?」

 

ステラの左隣の席には何故か刀華が座っていてステラの疑問に対して優しい声で返答をしてきた。

 

「あれチートだよな~☆、最速の【雷切】と相手の動きを読む【閃理眼】を持つ刀華じゃなかったら近づいた瞬間に一巻の終わりだぜ」

 

「うむ、其もまさかチカラの強さだけではどうにもならないというモノがあるとは思ってもみなかったな、如月の能力を見ると己の認識というものを改めさせられる」

 

「まあ、要は当たらなければどうという事は無いよ!アタシはキサラギ先輩と戦う事になったら逃げ回るけど・・・」

 

「【消される】・・・ね・・・その言葉から予測するに身体強化系はもちろん自然干渉系でもなさそうね、概念干渉系か因果干渉系か・・・どちらにしてもかなり強力な能力なのは間違いないわね」

 

「如月先輩がどんな能力を使うのかは知らないけれど私はあの真田さんがこの程度で終わるとは思えないわ、あの人はお兄様の次に凄い人なんだから」

 

刀華の左隣には泡沫・砕城・恋々・有栖院・珠雫の順番で席に着いており、それぞれ試合を観戦しながら雑談をしている。錚々たるメンツだ、試合よりも学園の有名人達が一堂に会している事が気になってチラチラ彼等を見ている生徒も少なくない。

 

———ここに黒鉄一輝が居たら破軍学園のオールスター大集結ってところだったわね。

 

この場に集まったメンツを見て涼花はそんな事を考えていた。第一訓練場に入る前にバッタリと出くわした彼等は【折角だから皆一緒に試合を観戦しましょうか】という有栖院の提案でこの状況なのだが、生徒会に敵視している重勝が居ないからか意外と楽しく会話が弾んでいるようだ。

 

「・・・トーカさん、一体キサラギ先輩の能力って何なの?あのユキトが攻撃を躊躇うなんて尋常じゃないわ」

 

「説明するより見た方が早いですよ。今【閃理眼】を使って真田君が次にどう行動するのかを読みましたが恐らく近づかず遠距離からの攻撃でしょう」

 

「賢明な判断だな、真田の奴が烈の能力を見破ったにしろ不明なままにしろ得体の知れない相手に対して無闇に接近戦を仕掛けるのは素人以下、飛び道具で相手の動きを牽制するのが定石だ・・・尤も———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———烈は飛び道具すら【消す】から意味が無いがな・・・」

 

絶はバトルフィールド上で烈から距離を取って太刀を振り上げる幸斗を無表情で見据えてそう言った、幸斗に哀れみを向けるように・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした真田、掛かって来ないのか?」

 

烈が右の鉤爪を手招きするようにクイクイ引いて幸斗を挑発する、普段ならその誘いに乗って突撃するところだが幸斗は控室を出る前に重勝が言ってきたアドバイスが気になっていた。

 

『時間がねーから詳しく烈の能力について話せねーけど、一つだけアドバイスだ。アイツの霊装には絶対に触れるなよ・・・【消される】ぜ』

 

【烈の霊装に触れると消される】、恐らくそれが先程の悪寒の正体についてのキーワードだろう、烈の霊装は今彼の両手に装着されている鉤爪【神楽土竜】、あれに触れてはならないのなら接近するのは愚策だ。幸斗はまず自分の規格外の攻撃力を正面からぶつけて強引に打ち破る事を考えたのだが烈の能力が【霊装に触れたモノを消す】ものだと仮定してもどの程度消せるのかは皆目見当が付かない、遵ってやはり自分自身が近接戦を仕掛けに行くのはNGだ。となると・・・。

 

「・・・烈先輩」

 

「ん?何だ?」

 

烈から約20mの距離を挟んで立つ幸斗は眼を瞑り、身体の中から闘気を捻り出して太刀を持つ左腕に集中させる、幸斗が剣圧閃光を放つ際に一瞬だけ発動させて強化を施す【戦場の叫び(ウォークライ)】だ。青白い焔のような闘気が瞬間的に幸斗の左腕を包み込み、通常でも規格外の腕力が想像を絶するものと化す。振り上げると風が天に昇り、天蓋を歪ませる。そして燃える焔のような眼(まなこ)を開き、その双眸に対峙する相手の姿をしっかりと収め、そして———

 

「シゲが学園最強と言ったその能力・・・確かめさせてもらうぜ、この一発でなぁぁああああああああああああああああああああっ!!!」

 

刃を振り下ろした。

 

『出たぁぁあああああっ!真田選手お得意の剣圧閃光だぁぁああああああああっ!!振り下ろされた太刀から解き放たれた暴力の波が如月選手を襲いに行くっ!!その火力は物理攻撃でありながらステラ・ヴァーミリオン選手の天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)を凌駕する超破壊の一撃!!如月選手これを躱せるか!!?』

 

「・・・・・」

 

巨大な閃光が空間を蹂躙するが如月烈は一歩も動く気配を見せない。口もとを凝視すると少々ニヤリと吊り上がっていた。

 

「・・・凄まじいな真田、剣気だけで身体が震える、しかもこれが魔力は一切使わない物理攻撃だと言うんだから驚きだってリユウだ」

 

圧倒的な暴力の波が迫る中で烈は唐突に語り出した、未だに彼は他に何かをする素振りすら見せないでいる。

 

「才能の無いお前が一体どれだけキツイ鍛練と実戦を繰り返してここまでの一撃を放てるようになったのか想像するだけでも芯が震えるってリユウだな、風間が言っていた通り本当にとんでもない男だったってリユウだよお前は・・・」

 

剣圧閃光があと約3mに迫ったところで烈が動きを見せた、先程幸斗が太刀を天に掲げたように右腕を振り上げて鉤爪を天に翳している。

 

一体何をするつもりだと幸斗は思ったが間もなく閃光は如月烈という存在を飲み込もうとしている、いくらBランクといえどもこれが直撃したら一溜りも無い筈だ。これは決まったかと思われたが———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、烈が掲げている鉤爪が青紫の光を纏って振り下ろされ、なんと接近した暴力の波が上から引き裂かれるように掻き消された。

 

「————なっ!!?」

 

逆風が幸斗の髪を逆立てる、同時に彼は今まで自分が磨き上げてきた自慢の一撃が軽々と掻き消されたという事実に驚愕の表情を浮かべて絶句した。

 

「だが相手が悪かったってリユウだな、土竜(モグラ)の爪は核兵器も隕石もか◯はめ波でさえ【削り取る】ってリユウだ」

 

鉤爪を振り下ろしたモーションのまま挑発の笑みを浮かべる烈、お前のチカラはそんなものか?そう言っているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『でっ、出た出た出たぁぁああああっ!!序列三位【空間土竜】の代名詞たる伐刀絶技、【土竜の手(モール・ザ・ハンド)】が全てを葬り去る殲滅鬼の剣圧を掻き消しましたぁぁあああああっ!!』

 

「うぉっ!何時見てもチートだなコレ。やっぱり幸斗のバ火力すらも消せるのかよ・・・」

 

壁に設置されている大型モニターから発せられる実況が控室内に響き渡る。ソファーに座ってモニターで試合を観戦していた重勝は幸斗の剣圧閃光をいとも簡単に掻き消してしまった烈の【土竜の手】の反則的能力に呆れの言葉を口にしている。

 

「烈の異能、それはアイツの霊装【神楽土竜】の爪で抉ったモノを【空間ごと削り取る】概念干渉系の能力だ。どんなに硬い岩盤だろうと例外無く堀り削り風孔を空けるその鉤爪の前には攻撃力・防御力なんてものは意味が無ぇ、削り取ったモノは烈自身すら何所へ行ったのか判らなねーらしいが、たぶん消滅したんだろーな。この分だと俺の光翼ノ帝剣(アストラル・ブレイカー)も幸斗の龍殺剣(ドラゴンスレイヤー)も通用しねーだろ。インチキ効果もいい加減にしろって言いたいぜ」

 

【削り取る】という概念干渉系の能力、それが如月烈の異能であった。空間を掘り進み全てに孔を空ける、故に【空間土竜(ディメンショナルモール)】、真に最強なのは竜の焔でも魔王の暴力でも鬼の剛力でも無い、全てに孔を空ける土竜(モグラ)の爪だ。

 

「幸斗、如月烈という伐刀者はお前にとって黒鉄兄妹以上に相性最悪な相手だぜ。下手に近づけばその鉤爪で消され、受けに回れば防御ごと持って行かれ、自慢のバ火力も削り取られる・・・」

 

幸斗の持つ手札では正面から破る事は不可能、これまでどんな敵も例外無く正面から打ち破って来た誰にも負けない真田幸斗の最強の攻撃力が如月烈には通用しない。

 

「ここが正念場だぜ幸斗、コイツを倒さねー限りお前が最強になる事は一生無ぇ、真田幸斗という全てをもってこの壁を打ち破ってみろよ、幸斗!」

 

重勝は両腕を組み、試すような眼差しでモニターに映る幸斗にエールを送った。

 

『・・・・・へへっ!』

 

そのエールが届いたのかは定かではないが、画面の中の鬼は驚愕の表情を崩し、嬉しそうに子供のような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これ思いっきり某スタンド使いの能力だぁぁーーーーっ!!(笑)

感想でも予想されましたけど、やっぱり伐刀絶技名でバレバレでしたね・・・。

幸斗は今までと違ってEX(測定不能)の攻撃力が一切通用しない相手と戦う事となってしまいました。果たして幸斗はこれをどう打ち破るのか?



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