運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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今回は幸斗の昔の回想から始まります。

そして今回、涼花が試合をします、相手はあの「ジャンケンで決めよう!」でお馴染のアイツです。


あの頃の悪夢と延期された試合の再開

・・・・・北九州の北西に位置する死神が住むと言われている島《死絶島》、この島の最南端の岸の目の前の場所で後方の船の上で負傷した大勢の伐刀者が見守る中で世界最強クラスの魔導騎士二人が対峙していた。

 

「私に深手を負わせるとは・・・確かに貴方は私が剣を交えた者の中でも最も強い騎士でした・・・ですがもうおやめなさい、もはや貴方に勝ち目はありません」

 

一人は純白の騎士、神聖さすら感じさせる純白の装いに翼を思わせる一対の剣。強すぎるあまり捕らえることを放棄された世界最悪の犯罪者にして世界最強の剣士《比翼》の《エーデルワイス》が肌がむき出しになっている部分である腹部に剣で斬られた深い大きな斜め傷があり、そこからの出血により腰に着けた純白の防具を緋色に染めながらも顔色一つ変えずに悠然と立ち、目の前の敵に告げる。

 

「へっ!なに勝った気でいやがる!後ろにいるは護るべきガキ共!前にいるは世界最強!一歩も引けぬこの大一番で!ここで引いたら男が廃るってもんだ!!」

 

「・・・・・団長・・・」

 

対するは満身創痍の重症ながらも目の前の世界最強に対して一歩も引かずに毅然と対峙する太陽の様な熱気を感じさせる長身の伐刀者、実年齢四十代であるにも関わらず二十代にしか見えないがっしりとした身体つきの男が上半身裸でその上に袖に腕を通さずに肩にかけただけの背中に大きく縦書きで【不撓不屈】と書かれたロングコートをマントのように風ではためかせダボダボの長いズボンを身体中の剣傷から流れる流血で朱く染めながらも右手に持った電動刃が付いた太刀の霊装《紅蓮疾風(ぐれんはやて)》の切っ先を目の前の世界最強に向けて警告を拒否する。

 

「どうしても引かないと言うのですね・・・」

 

「当たり前だ!俺を誰だと思ってやがる!!西より吹き荒れる猛き熱風、天下無敵の傭兵団【西風】団長、不撓不屈の疾風(かぜ)の【傭兵王】【風間星流】様だぜっ!!!」

 

熱き魂を燃え上がらせて世界最強相手にそう言い放つ星流、二人が発する強大なチカラの奔流により島中の地中から火山が噴火したかのようにマグマが噴出し大地を煉獄のような死の大地に変える中、星流は後ろの船の上にいる西風の戦闘服である黒いライダージャケットを着た少年達に大声で告げる。

 

「いいかガキ共!どんな理不尽が自分(テメェ)に降りかかろうが自分(テメェ)を信じて進み続けろ!!魔力量が運命を決めるのが道理?そんなのはクソくらえだ!!道理を叩き潰して運命をブッ飛ばす!!それが西風だ!!これから先もそれを忘れずに突き進めっ!!!」

 

「「「「「「「団長っ!!」」」」」」」

 

そして・・・エーデルワイスの後方数メートル先の地中から轟音と共にマグマが噴出した瞬間に星流はエーデルワイスに向かって行きマグマが星流と船の間に落ちて二人はその中に消えて行った。

 

「・・・あばよ・・・ガキ共!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————こっから先は、テメェ等の時代だっ!!————

 

これが傭兵王の最後の言葉だった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「団長っ!!」

 

学内選抜戦で【紅蓮の皇女】ステラ・ヴァーミリオンを破った三日後、幸斗は破軍学園の第一学生寮の自室の二段ベッドの上段で悪夢から覚めて大声で叫びながら飛び起きて—————

 

「痛ってぇーっ!?」

 

天井に頭をぶつけて痛みを感じて頭を抱えた。

 

「何やってんの?」

 

二段ベッドの下段で寝ていたルームメイトで同じ組織に所属していた腐れ縁である涼花が幸斗の叫び声の所為で起きてしまった。

 

「・・・・またあの日の夢を見ていたの?」

 

「・・・・ああ、なかなか割り切れない出来事だったからな・・・」

 

「・・・そう・・・」

 

大切な人を失った日の事に悲観な想いを馳せる二人、しかし立ち止まっていては何も始まらない、時計を見るともう朝の六時だ、二人はベッドから降りて起きる事にした。

 

「・・・さて、今日は誰かさんが試合会場を壊してくれたおかげで延期になってたわたしの試合ね」

 

「・・・・・悪かったな」

 

あの試合の後に涼花の出る試合も含めて何試合かあったのだが、幸斗とステラが・・・主に幸斗が放った龍殺剣(ドラゴンスレイヤー)の余波が試合会場である第五訓練場を半壊させた所為で延期になったのだ。

 

「気にすることはないわ、戦略を練る時間が増えて万全な態勢が整えられたし」

 

圧倒的な攻撃力で圧倒する幸斗とは違い、涼花の戦闘スタイルは戦術・戦略を駆使して戦うスタイルなので時間が空いたのはむしろ都合がよかったと言える。今日、涼花が戦う相手は学内選抜戦の一試合目で一輝に敗北した《狩人》の二つ名で知られ、完全ステルスの伐刀絶技《狩人の森(エリア・インビジブル)》で相手を一方的にいたぶる戦い方をするCランク伐刀者《桐原静矢(きりはら しずや)》だ、厄介な能力を持つ相手なので対策が必要なのだ。

 

「それで?勝てんのか?」

 

幸斗は不敵な笑みを浮かべながら涼花に勝算があるのかを聞く、そんな表情なのは返ってくる答えがわかっているからだ、それに対して当然涼花は————

 

「万全な態勢が整ったって言ったでしょ?勝ってみせるわよ」

 

と自信に満ちた表情でそう答えた。

 

「見てなさい幸斗、戦闘はなにも攻撃力やランクだけじゃ決まらないわ、本当に勝てる戦士というのは【面白い事をする者】が勝つのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

選抜戦は一度負けると代表入りは絶望的と言われている、それは選抜戦が進むにつれて無敗の生徒が多数いるからだ、一敗した者が代表入りするためには試合で無敗の生徒と当たった時にその生徒達を一人でも多く倒して最終的に無敗の生徒を五人以下にするのが絶対条件だった。

 

「フハハ、アハハハハッ!どうしたんだい?無様に逃げ回るだけなのぉ?アハハハハッ!!やっぱり低ランクはこうあるべきだよねぇ、天才であるボクに勝ってはいけないんだよ!アハハハハッ!!」

 

「・・・・・・」

 

『佐野選手桐原選手の【狩人の森】の前に成す術が無いのか!?リング中を縦横無尽に逃げ回っています!!』

 

ここはこの前幸斗とステラの試合で半壊していた第五訓練場、この場所は先日理事長であり【世界時計】の二つ名を持つ魔導騎士である黒乃の時を操る能力によってク〇イジーダイヤモn・・・第五訓練場の時を遡らせることによって復元させた事で今ではすっかり元通りになり、延期していた試合を再開した。

 

鉄の指貫グローブを両手に装着し鉄の小太刀を両手に一本ずつ持ってバトルフィールド上を【満遍無く】駆け回る涼花、そしてその対戦相手である桐原静矢の姿はバトルフィールド上のどこにも見当たらない・・・いや見えないのだ、静矢の伐刀絶技である【狩人の森】によって彼の情報は他の人間に完全に遮断されて知覚する事ができなくなっているからである、音も気配も匂いも姿すらも全てを敵から隠してしまう完全ステルスを相手にするのに有効なのは広範囲攻撃だ、しかし涼花にはその手段を持っていない。

 

涼花は幸斗と同じEランク伐刀者だ、そして彼女の伐刀絶技である《鉄化(エンダーンアイゼン)》は彼女の霊装である鉄の指貫グローブ《鉄の伯爵(アイゼングラーフ)》で【触れた生物以外の物を鉄に変える】能力である、幸斗ならバ火力の剣圧でバトルフィールド全体を派手に蹂躙してしまえばいいのだが涼花にはそれができない、彼女が今できる事はどこから来るのかわからない静矢の弓の形をした霊装《朧月(おぼろづき)》から放たれる見えない矢から逃れる為に逃げ回るしかない。

 

「ホラホラ!もっと早く逃げないとその綺麗な身体に穴が空いちゃうよぉ!アハハハハッ!!」

 

下品な笑い声を響かせながらバトルフィールド上のどこからか遊ぶ様に矢を涼花に放ち続ける静矢、彼の戦術はこの狩人の森で敵から身を隠し絶対安全な場所から敵をいたぶるように矢で射貫いて狩猟する、故に静矢は【狩人】と呼ばれている。

 

「・・・フッ、わたしよりランクが低い【落第騎士】に負けた癖になに言ってんだか」

 

「・・・・何か言ったかい?」

 

逃げ回っていた涼花が突然バトルフィールドの端で振り返って止まり静矢を挑発するような事を言い、それを聞いた静矢はそれが気に障って矢を放つのを止め涼花に冷たい声でそう尋ねる。

 

「随分焦っているようね狩人、そんなに自分が黒鉄一輝に負けた事が認められない?そんな風に他の低ランク伐刀者に八つ当たりしてまるで駄々を捏ねるガキみたいね・・・」

 

「・・・少し黙ってくれないかな?」

 

更に挑発する涼花に少しずつ態度を変える静矢、彼は才能が低い奴を見下して優越感に浸る傲慢な男で言い換えれば自分の才能に対して非常に高いプライドを持っているということである、一ヶ月前の試合で今まで馬鹿にしてきた一輝と試合に当たりその試合の途中までは今までのように一輝をいたぶるように追い詰めたのだが、そのときに一輝が異常と言える洞察力で相手の思考・行動・意識・発言・・・全ての相手のあらゆる【理(ことわり)】を暴き出して掌握する《完全掌握(パーフェクトヴィジョン)》という神技によって反撃された静矢は泣き喚くなどの無様な醜態を晒しながら敗北した為に今まで注目と信頼を浴び続けてきた静矢は誰からも見向きもされなくなってしまったのだ。

 

故に涼花の発言が癇に障った、そして涼花は挑発を続ける。

 

「それってつまりアンタは才能があるにも関わらずちょっとしたことで勝てなくなる真の弱者って事よね?「黙って」ふーんそうなんだ、そういえばその落第騎士との試合見たけれどみっともない負け方だったわね泣き喚いて「黙れ」去年の七星剣武祭も相手が自分よりも強者だったから逃げたって聞いたけどその反応を見ると実力差を弁えて引いたんじゃなくて臆病風に吹かれて逃げたって事が丸わかりね「黙れ」つまりアンタは【騎士】でも【狩人】でもない、ただ自分の才能に慢心して他者を見下して優越感に浸りたいだけのただのクソガキってことね「黙れえええええええええぇぇぇっ!!!」」

 

涼花の数々の侮辱の言葉に静矢は遂にキレた、怒り狂った静矢は涼花の額に狙いを定めて朧月の弦をチカラいっぱい引き矢を放った。

 

完全ステルスの矢が涼花に迫る・・・そして—————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涼花が首を右に傾けたことによって矢は涼花の蟀谷を少し掠っただけで外れた・・・。

 

「なっ!!?」

 

『ど、どう言うことでしょうか!?佐野選手蟀谷に小さな切り傷を作っただけで大したダメージは負っていません!佐野選手は桐原選手の見えない矢を見切ったと言うのかぁああっ!?』

 

————そ、そんな筈は!?まさかまた!?

 

「ふ・・・ふざけるなぁああああっ!!」

 

怒り狂いながら矢を乱射する静矢、目の前のEランク伐刀者にまたしても見破られたと思ったのだろう、余程一ヶ月前の一輝との試合はトラウマになったのだろう。

 

——————別にわたしは【無冠の剣王】の完全掌握みたいなイカレた事はできないわよ

 

涼花は最小限の動きで飛んで来る見えない矢を身体中に掠り傷を作りながら躱し続ける。

 

——————【狩人の森】は完全ステルスと言ってもわたしの五感が消えるわけじゃない、それなら矢が服や肌にめり込む瞬間を感じ取って・・・・・躱せる!

 

「なっ!?何で当たらないんだよ!?ふざけるな!低ランクは低ランクらしくボクにひれ伏していればいいんだよ!何で天才であるこのボクがこんな惨めにならなければいけないんだ!?あの落ちこぼれの所為でボクはガールフレンド達に幻滅されるし誰からも見向きもされなくなったんだ!!あいつの所為で!あいつの所為で!!あいつの所為で!!あいつの所為で!!あいつの所為で!!あいつの所為で!!あいつの所為で!!あいつの所為で!!あいつの所為でっ!!!」

 

喚きながら矢を放ち続けるも一向に涼花に当たらない・・・そして————

 

「・・・悪いけどアンタの居場所はもうわかってるの」

 

涼花は躱し続けながら左腕に無数に巻き付けてある手拭いのうちの一枚を右手で取ってそれの片端だけを持ってオーバースローの体勢にはいり—————

 

「そして次にアンタは【そんなわけがあるかぁああああっ!!】と言うわ」

 

そう宣言して手拭いが【く】の字になった瞬間、涼花は自分の《因果干渉系》の伐刀絶技【鉄化】を使い手拭いを鉄のブーメランに変えてそれを投げた。

 

「そんなわけがあるかぁああああっ!!・・・・・ハッ!?」

 

涼花の宣言通りのセリフを叫んだ知覚できない筈の静矢にブーメランが迫る。

 

「なあっ!!?何んでだよちくしょぉおおおおおおおおっ!!!」

 

静矢は泣き叫びながらブーメランを朧月で防御しようとするが————

 

「のあっ!?」

 

突然静矢の眼前でブーメランが手拭いに戻り静矢の顔面に覆い被さった。

 

「お似合いの姿ね桐原静矢・・・もう捉えたわ!」

 

「んぷーっ!んぷーっ!!」

 

何も無い空中に浮いているように見える手拭い、つまり静矢はそこにいる。

 

「フィーネ(終わり)よ」

 

涼花は両手に持った玩具の剣を鉄化させて造った鉄の小太刀を持って両腕を交差させるように構えた。

 

「・・・・《絶影(ぜつえい)》」

 

そして残像ができる程の速度で一瞬にして宙に浮く手拭いの許に近づいてそのまま両腕を勢いよく横に開くように小太刀を横に振るい撫で斬りを放った。

 

「—————————」

 

ばたりという音と共に宙に浮いていた手拭いが地面に落ちてそこには一人の軽薄そうな少年が目を開いて白目を向いたまま気絶して倒れていた。

 

「わかった?勝つのは高ランクや強い能力を持った奴じゃない、一番【面白い事をした者】が勝つのよ」

 

この少年こそが【狩人】桐原静矢だ、つまり今の一撃で意識を刈り取られて狩人の森が消えたのだ。

 

「桐原静矢、戦闘不能!勝者、佐野涼花!!」

 

レフェリーが勝者の名前を告げて第五訓練場内が歓声に沸いた。

 

『決着ぅううううっ!!佐野涼花選手!これで無傷の九連勝目だぁぁああっ!!しかしどうやって桐原選手の狩人の森を見破ったんだ?・・・・ん?・・・こ、これは!?』

 

バトルフィールド上をよく見てみるとバトルフィールド全体に無数の足跡があった。

 

『足跡です!これは砂?・・・いや、【砂鉄】だぁあああっ!!佐野選手はいつの間にかリング全体に砂鉄をばら蒔いていたぁああ!先程までリング中を逃げ回っていたのはこのためだったぁあああ!!』

 

そう、涼花は成す術がなく逃げ回っていたわけでは無い、走りながら手拭いを小太刀で細かく切り刻んで鉄化させてバトルフィールド全体にばら蒔いていたのだ、【狩人の森】は姿は隠せても存在が消えたわけではない、故にばら蒔かれた砂鉄によって足跡ができていたのだ、涼花はなにも特別な事はしていない、ただ足跡を辿っただけなのだ。

 

つまり涼花の作戦勝ちだった。色々と工夫をして相手を追い詰める戦略的な戦い方、これが佐野涼花の真骨頂なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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