運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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重勝が企てる倫理委員会を潰す為の計画、その全貌がいよいよ明らかになります!




反撃の狼煙

「じゃあ順を追って話すぜ、倫理委員会の企みをブッ潰す計画をな」

 

無実の罪を着せられ連盟に連行されて行った恋人を想い真剣な表情でこの場に集まった面々にこれからどう動くのかを問うステラに重勝は室内をうろうろ歩き回りながら説明し始めた。

 

「知っての通り今回黒鉄一輝は倫理委員会の奴等に連行され、奴が査問会とかいう名のくだらねー尋問をされる事になっちまった理由はヴァーミリオン、お前と黒鉄が交際している事が外にバレて国際問題になりかねない状況になった所為で倫理委員会の奴等がその不祥事の責任は国賓と交際するという軽率な行動をした黒鉄にあると主張した事によるものだ。だけどそれは法的に考えてもおかしい、既に元服制度によって成人になったと国から認められている伐刀者(俺達)はもうガキではなく交際は勿論結婚する権利もある、つまりお前等が交際しようがセッ◯スしようが本来問題なんか起こり得ねーっつう事なんだが・・・」

 

「セッ!?ちょ、ちょっと!!」

 

「風間、交際はともかく学生の身で性行為をするのはさすがに問題になるぞ」

 

「寮の部屋割りを男女同室にした奴が何言ってんだか・・・話を続けるぜ、そういうわけで本来認められている事柄を倫理委員会の奴等は新聞や報道などの情報メディアを利用して世間を騒がせ、黒鉄の奴を世の敵に仕立て上げて奴が査問会の場に出ざるを得ない状況を作り上げたという事だな」

 

重勝はまず今回の事の発端である一輝とステラのスキャンダル騒動について纏めた、この場にいる全員が今回の事件の内容を理解しているのかを確認し、理解していないのなら改めて理解させる為である。

 

「当然このスキャンダルはどう見ても捏造だ、倫理委員会の奴等はそうまでして黒鉄一輝という男を潰したいらしい、その黒幕は恐らくさっきスピーカーで聴いた黒鉄と話していた男・・・国際魔導騎士連盟日本支部長で黒鉄家の現当主【黒鉄厳】だろーな、そして倫理委員長であるあの狸野郎は黒鉄家の分家【赤座】の当主・・・ここまで言えば察せるだろ?倫理委員会が黒鉄の奴を貶めて連盟から追放しようとしている真の理由をよ」

 

「・・・イッキの実家がFランクの落ちこぼれであるイッキを魔導騎士にさせない為に・・・」

 

一輝を連盟から追放しろと倫理委員長に命じた人物が一輝の父親である厳であり、倫理委員長の赤座が黒鉄家の分家の当主であると重勝が説明した瞬間ステラは察する。一輝の実家である黒鉄家は名家であるが故に異常なくらい面子を重んじる、Fランクの出来損ないである一輝を世に魔導騎士として出してしまったら家の名誉に傷が付くと考え今まで彼を騎士の道から排除する為に黒鉄家は数多の妨害工作を行ってきた連中だ、今回の件もその一環として一輝とステラの関係を利用されたのは間違いないだろう、なにせ一輝の妨害の為に家名の圧力だけで【実戦教科を受講する最低能力水準】などという普通あり得ないような無茶苦茶な規定を学園に組み込んでしまうような連中なのだ、奴等の仕業だと疑わない方が無理である。

 

「そういう事だ、仮に黒鉄厳個人の意志で黒鉄を追放しろとあの狸野郎に命じたんだとしても、盗聴器からさっき聴こえてきた黒鉄厳本人がぶっちゃけた主張の通り奴はカスな魔力量の伐刀者が成果を上げるのを害悪だと認識しているからどっちにしろ変わらねーな・・・ハッ!正直時代遅れのくだらねー考え方だぜ、確かに高望みせず全ての人間が生まれ持った能力に従って生きれば争いも起きねー平和な世界になるだろうな。だけど永遠に変わらないものなんざこの世にねーよ、形あるモノは必ずいつか滅びる、現状維持に固執した進歩のねぇモノは時代の流れに飲み込まれるっつう未来(さき)が目に見えているからな、だから常に変わり続けなければならねーんだよ、魔導騎士の有り方も人の認識もな・・・」

 

重勝は先程盗聴スピーカーで聴いた厳の思想を鼻で笑って否定する。伐刀者という異能力者がこの世に現れる以前より人間という生き物は文明を発達させ続け、常に前に向かって進歩してきたからこそ現代という時を生きているのだ、進歩無き秩序に未来(さき)はない、常に進歩し続ける時代の流れに乗れなければ時代に取り残されていずれは消え逝く定めなのだから。

 

「さて、これで今回の騒動の確認は終わりだな・・・それじゃあ倫理委員会の企みを潰す計画について話すけど、その前に何か質問はあるか?」

 

今回の事件の説明を終えた重勝は執務机の前に立ってステラに質問はあるのかと尋ねた。

 

———質問ねぇ、そんな事よりもさっさとその計画ってやつを話してもらいたいものだけど・・・そうだ!

 

ステラは折角なので気になっていた事を聞いておこうと思い、問いを投げた。

 

「ねぇ、イッキの選抜戦はどうなるの?まさか不戦敗なんて事にはならないでしょうね?」

 

「そんな事は私の名誉に賭けてもさせない、黒鉄の試合は連盟日本支部の摸擬戦場へ対戦相手を派遣して行われる事になっている。勿論審判として本校の教師も一人同伴するぞ、連中にジャッジなんぞを任せたら何をされるのかわかったものではないからな」

 

「因みに応援に行くのは無理さ、査問会が終わるまで面会謝絶らしいし」

 

「完全に監禁ですね・・・」

 

ステラの質問に対しては重勝ではなく黒乃が返答し寧音がそれに補足を入れるとスバルがそう呟いた、だが一輝は不戦敗にならないと聞くとステラは安堵の溜息を吐き、重勝が一回咳を払って本題を切り出す為に口を開く。

 

「まあそんなわけで選抜戦については黒鉄が負けねー限り問題ねぇ、精神も幸斗のバカのおかげで高揚しているみてーだしな。そうなると後は連盟の奴等に反撃するだけなわけなんだけど・・・・・困ったことに計画を実行する為には倫理委員長の狸ジジイを公衆の全面に引っ張り出す必要があるんだ。今やってる査問会の所為でそれが難しくてさ・・・だからあの狸ジジイを引っ張り出す為の秘策として昨日、今回の件を説明して日本に来てもらう約束を取り付けたんだ———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————ヴァーミリオン皇国次期女王、第一皇女《ルナアイズ・ヴァーミリオン》にな」

 

「「ブーーーーーーーーーーーッ!!!」」

 

重勝が赤座を公衆の全面に引っ張り出す為の切り札となる人物の名を真顔で暴露した瞬間にステラとスバルは衝撃のあまり吹きだした、涼花と楯無は眼を細めて呆れ、黒乃は片手で額を押さえて勘弁してくれと悩み、寧音は笑いを堪えるように腹を抱えて悶えている。

 

「今回の件は倫理委員会の奴等が【黒鉄が国賓であるヴァーミリオンと交際したという国際問題になりかねない軽率な問題を起こした】と告発した事がそもそもの発端だ、ならヴァーミリオンの家族に黒鉄の事を認めさせればこの件は収まるだろう?本来ならヴァーミリオン皇国の長である国王に来させるのが筋だが、国王は幸斗とヴァーミリオンの試合の動画を観た影響でショックを受けて気絶し、今現在も気絶したまま目を覚ましていないからな、だからルナの奴が国王代理として来日する事になったんだよ、黒鉄が自分の妹に相応しい男かどうか見極める為にn「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!?」ん?」

 

微妙な空気の中何事もなかったかのように話し続ける重勝に気が動転していたステラが我に返って横槍を入れる。

 

「何でアンタ人の姉の連絡先知っているのよっ!!?それに【ルナの奴】ってなんで親しそうに気安く呼んでいるの!!?」

 

「俺は傭兵時代の時、単独任務で一回だけヴァーミリオン皇国の隣国のクレーデルラント王国に行った事があってな、その時に訳あってルナと知り合ってダチになったんだよ」

 

「き、聞いてないわよそんなのっ!」

 

「・・・重勝・・・アンタがヴァーミリオンの第一皇女と知り合いだったなんて今初めて聞いたわよ・・・」

 

「ぼ、僕も初耳です!重勝さん、何で教えてくれなかったんですか?」

 

「ん?言ってなかったか?」

 

「「「言ってないわ(ません)よ!!」」」

 

重勝が過去にルナアイズと知り合っていたという事実を聞いて納得いかないと重勝に問い詰めるステラと涼花とスバルであったが、重勝がいつものように惚けた為に三人はすかさず指摘をした。それにしても対暗部の一族である楯無といい、ヴァーミリオン皇国の第一皇女であるルナアイズといい、重勝の交友関係は一体どうなっているのだろうか・・・。

 

「ルナ姉もルナ姉よ、そんな話アタシに一言も話してくれなかったし・・・」

 

「まっ、非合法の傭兵と知り合ったなんて話してもしょーがねーだろうからな。そういう訳で今から三週間後にヴァーミリオン皇国の第一皇女が国王代理として黒鉄一輝という男が自分の妹の婿に相応しい人間かどうかを見極める為に来日する、明日にはその事がメディアにも報じられる筈だ。ヴァーミリオンの次期女王が訪ねて来たらさすがの倫理委員会も査問会やら面会謝絶なんてもの中止せざるを得ねーだろうし、黒鉄の奴を表に出さないわけにはいかなくなるぜ」

 

「そしてそこでお前を含めた当事者同士の話し合いの場が持たれることとなれば必ずこの件に関しての結論は出る。今の黒鉄が【不祥事】を起こしたという連中の論調は当事者同士の話し合いが持たれていないうちから勝手に吹いているだけの憶測に過ぎないからな、ヴァーミリオンの親族が黒鉄を認めれば連中の論拠は根底から覆る」

 

「そうなれば今度はこっちが倫理委員会を追及して彼等の企みを潰にかかる事ができるわ、きっと倫理委員長の赤座はそうさせない為に公衆の全面に出て来て黒鉄君を陥れるような有る事無い事をルナアイズ様とその場に集まった民衆に吹き込もうとする筈・・・そこでこの前私が連盟に潜入して調べて来たこの【倫理委員会が今までに起こしてきた不正の数々の資料】を新宮寺理事長と西京教諭がその場で倫理委員長に叩き付ければ連中は言い逃れできず負けを認めるしかなくなるわ」

 

楯無が重勝と黒乃の説明を引き継ぐように説明しながらプリントの束を机の上に置く、プリントには五年前の西風壊滅事件の真相を始めとした倫理委員会の不正行為の数々が倫理委員長の赤座の直筆で記録されていた。

 

「既に筆跡鑑定は済ませてあるぜ、動かぬ証拠だ。計画通りにいけばこれで倫理委員会の奴等を黒鉄を追放するという企みごとブッ潰す事が出来る!」

 

「アハハハッ、やるじゃねーか重坊!こりゃあ面白くなってきたよ!あの赤狸が無様に絶望する姿が目に浮かぶねぇ」

 

「ま、ルナの奴が黒鉄を認める事が前提にはなるけど話の分かるアイツの事だ、黒鉄の誠実な人間性を見れば気に入るだろーし後は黒鉄の実力さえ見せればすぐに認めると思うぜ、丁度三週間後は選抜戦の最終戦だから黒鉄の実力を披露する場については問題ねーしな。いや~黒鉄の精神を奮起させた事といい、親馬鹿で娘の事に関しては頭の固いヴァーミリオンの親父を長期間意識不明にして事を運びやすくしてくれた事といい、本当に幸斗の奴視えないところでいい仕事をしてくれたな!おかげで計画は上手く行きそうだぜ!ハハハハハハッ!!」

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

寧音と共に高笑いをする重勝を見てその他の面々は唖然とした表情で思った、【コイツを敵に回したら厄介な事になるだろう】と、倫理委員会の企みを潰す為にこの男はこの数日の間でこれだけの手を裏で回していた事を思うと呆れてモノを言えない。こんな厄介な男を敵に回した倫理委員会には自業自得とは言えご愁傷さまと言いたくなるくらい同情を禁じ得なかった・・・。

 

————・・・ま、倫理委員会の連中は公衆の全面で今までの不正を暴露するだけにしといてやるが、あのクソ狸だけはこれだけじゃあ済まさねぇよ、アンタには西風を舐めた計画で嵌めてくれた礼をたっぷりとしてやるぜ、この世に塵一つ残してやらねーから首を洗って待っていろよ・・・。

 

高笑いをして高揚に浸る重勝であったが、その眼の奥には氷の様に冷たい非情な殺意を秘めていたのだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

計画の決行は学内選抜戦の最終戦が行われる三週間後となった。この計画の内容は一輝の試合の審判として連盟日本支部に派遣された《折木有里(おれき ゆうり)》教諭の口から一輝にも極秘に伝えられ、【運命の日】を迎えるまでは選抜戦に集中するという運びとなった。

 

ここまでで全勝を守っている幸斗、重勝、刀華、有栖院、そして一輝はそれからも対戦相手を寄せ付ける事も無く連勝を重ね続けて行った。【運命の日】が後一週間に迫った頃には全勝を維持する生徒が幸斗達を含めて丁度二十四名となり、代表入りの生徒六人は全勝の者で埋まる事が確実のものとなった事によって涼花や珠雫等一敗を喫している生徒達は全員選抜戦のエントリーが抹消される事となり、残りの試合数は泣いても笑ってもあと二試合となった。

 

ここまで来ると残りは全員一瞬たりとも油断ならない強者だ、序列二位の刀華もそうだが序列三位の如月烈や未だに伐刀絶技を使わずに体術のみで勝ち続けている如月絶はもちろん、それ等には劣るだろうが学園序列一桁台の生徒を破って全勝を維持し続けているという三年の【葉暮姉妹】も中々の実力者であるとされているので気を抜く事はできない。

 

なお一層気合いを入れて鍛練に励む幸斗であったが、そんな中で幸斗の生徒手帳に次の対戦相手を知らせるメールが送られてくる。

 

『真田幸斗様の選抜戦第十九試合の相手は、三年一組・如月烈様に決定しました』

 

次の幸斗の対戦相手は破軍学園内で数少ない重勝の友人であり、学園序列三位の猛者である烈だった。幸斗は送られてきたメールを見ると重勝が認める程の強者である烈と戦える事に歓喜を上げる。あと二回、あと二回勝てば七星剣武祭に出場する事ができる、大きな壁があと二つ立ち塞がる事になるが最大のライバルである蒼い龍との約束の舞台はもう目の前だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




衝撃の事実発覚!重勝は西風時代にステラの姉と知り合ってダチになっていた!

電話一本で次期女王を呼び出すとかとんでもない事をするなぁ(汗)、因みに重勝はルナアイズと知り合ったその時にクレーデルラントの第一王子であるヨハンともダチになっています・・・どんだけだよ(汗)。


そして幸斗の次の対戦相手が決定!相手は第六話に初登場したオリキャラの如月烈!皆さんは烈の事を覚えていますか?メシには必ず焼肉のタレをかけて食べる変食者で「——ってリユウだ」が口癖の序列三位ですよ~。果たして烈の実力は如何に!?



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