運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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突然ですが、前回のラストから場面が飛びます、査問会の内容は原作と変わらないので・・・。





黒鉄一輝の夢

落第騎士(ワーストワン)黒鉄一輝は日本の魔導騎士の名門【黒鉄家】の血筋である。

 

黒鉄家は明治時代より第二次世界大戦の英雄にして《サムライ・リョーマ》の名で知られる魔導騎士《黒鉄龍馬(くろがね りょうま)》をはじめ代々多くの優秀な伐刀者を今まで輩出してきた、その為黒鉄家は魔導騎士の世界で強い影響力を持っており、その当主の座に就く者は日本の魔導騎士達の規律となり秩序を護る責務を果たす使命が課せられている。

 

それは黒鉄家の現当主にして現在の国際魔導騎士連盟日本支部の支部長、そして一輝の父親である《黒鉄厳(くろがね いつき)》も例外ではなかった。厳は魔導騎士の世界の秩序を護るべく誰に対しても厳格たる人間であった、故に彼は《鉄血(てっけつ)》の名で呼ばれ、伐刀者としての能力が低い者が魔導騎士となる事を許さなかった、それは厳の実の息子である一輝も例外ではない。

 

伐刀者の超常たるチカラはその魔力の大きさで【できる】【できない】を明確に理解する事ができる、その為連盟は伐刀者ランクという格付けを行う事により伐刀者達に分相応の役割を自覚させ、下剋上などという世界の秩序を乱す意識を根こそぎ奪う事によって調和を保つシステムを創ったのだ。故に一輝や幸斗のような【何もできない筈の人間】が努力を重ねてチカラを付け【何かをしてしまう】事は魔導騎士世界の秩序を混沌に陥れる【害悪】に他ならない、【努力だけで手に入れるチカラ】は根拠が無く絶対に通用するか知れない不確定なチカラであり、生まれ付いての魔力量と違い他者が明確に理解できないものだからだ。

 

故に厳は現在テーブルを挟んで向かい合っている出来損ないの息子にこう言う———

 

「【何もできないお前は何もするな】、今も昔も私がお前に望むのはその一事だけだ」

 

彼等が座っている椅子とテーブルと煤けたベッド以外何も無い質素な室内が虚無感に包まれ、一輝の心に冷たい氷の剣山が突き刺ささるような無情さが突き刺さった。

 

一輝とステラのスキャンダル報道があった三日前、一輝は倫理委員会の招集に応じて東京都新宿区にある国際魔導騎士連盟日本支部に出向し、国賓との不純異性交遊の疑いにより騎士としての資質を再検証される事となった為、支部の地下十階にある倫理委員会の区画の一室にて開かれた査問会に自分の騎士の道を賭けて出席した。

 

表向きは一輝に掛けられた不祥事を弁明し彼の騎士の資質に問題は無いと証明する為の場であったが、査問員として集まった倫理委員長の赤座をはじめとする倫理委員会の奴等が伐刀者として落ちこぼれである一輝を弁護するわけがない、彼等の真の目的は奥多摩に重勝と共に現れた涼花が幸斗に説明した内容の通りの酷いものであった、倫理委員会の奴等は一輝に問い質す際に一輝の成人としての責任能力を問いながら彼にあるべき成人としての法的権利は一切無視し自分達にとって都合のいいシーンだけ彼を成人として扱う汚いやり方で一輝を精神的に追い込み彼を騎士の道から蹴落とす為の汚点を探る。

 

実に悪質な茶番だ、まるで普段は男女平等を主張している癖に【レディーファーストなんだから私が先よ】とか【女を殴るなんてサイテー】などと自分に都合のいい時だけ女性の権利を主張する自己中女のように指示滅裂であった。

 

そんなくだらない尋問に今まで実家から数々の妨害を退けてきた黒鉄一輝という男が屈する筈もなく、彼がステラと不純な目的で交際しているのでは断じてないと主張しきった為にその場の判定は保留という事となり、後日改めて再度査問会の場が設けられる事となった。

 

不祥事の容疑が晴れていない一輝は此処———連盟日本支部地下十階にある一室に勾留され、現在五歳の誕生日以来顔を合わせていない父親の厳と面会をしていたのだった。

 

気まぐれで息子の顔を見に来たという厳に何をトチ狂ったのか「娘さんを僕に下さいっ!!」と言って「お前に珠雫(むすめ)をやれるわけがないだろう」と当たり前のようにバッサリ断られてしまうというなんとも言えない出来事があり、気まずい雰囲気の中面会を始めた黒鉄親子だったのだが一輝は気まずい空気の中で予想だにしなかった言葉を耳にして驚いた、なんと一輝が選抜戦を無敗で勝ち進んでいる事に対して感心を示すような話を厳が切り出してきたのだ。

 

一輝はその言葉が幻聴なんじゃないかと自分の耳を疑った、当然だ、自分の実家である黒鉄家は伐刀者として欠陥である自分に今まで酷い仕打ちを行ってきた、生まれた時より実家の人間達に一族の恥としてみなされ存在しない者として完全無視という酷い扱いを受け、家を出て魔導騎士を目指そうと学園に入学したならば一族の恥である自分を魔導騎士にさせまいと家の発言力を使って様々な妨害工作を行ってきた・・・目の前の父親はそんな実家の当主なのだ、称賛の言葉を自分に向けてくれたのを疑うのも無理はない。

 

だから一輝は・・・思い切って目の前の父親に秘めた想いを打ち明けた、【もし自分が七星剣武祭で優勝したら自分を認めてほしい】と・・・。

 

しかし一輝の切実な想いに対し厳が返した返答は最後に会った五歳の誕生日の時に言われた言葉と変わらなかった。

 

正確にはその言葉の意味も説明して理解させた上での返答だった。厳は黒鉄家の当主としてではなく国際魔導騎士連盟日本支部の最高責任者として魔導騎士世界の秩序を保つ責任がある、その為には一輝や幸斗のような分不相応な存在が邪魔なのだ。

 

世界の多くの人間が持って生まれた己が領分をはみ出さない分相応な生き方をしている、そこに地を這いずる下賤の者が天壌に位置する者達を引きずり下ろす下剋上という名の分不相応な野心を抱き、それを成してしまうものなら【もしかしたら自分も】と下の者達が次々と下剋上を掲げていき、やがては大きな争いに発展する・・・そしてその中の多くの者がチカラ及ばず後悔しながら敗れていくのだ、【やっぱり下剋上を成した奴も特別な存在だった】と・・・魔力量という明確なチカラは一目で万人が理解する事ができる、しかし一輝の持つ才は万人に理解できるものではない、故に黒鉄一輝は世界の秩序を乱す害悪であり魔導騎士の世界から排除すべき者だと厳は断じたのである。

 

厳は一輝をしっかり認めていた・・・認めていたからこそ今まで一輝の道を妨害してきたのだ。考えてみれば一輝が本当に【取るに足らない落ちこぼれ】ならば妨害工作など必要ない、そんな事をしなくてもチカラ及ばずに勝手に潰れていくだろうから・・・。

 

「一輝・・・私に認めて欲しいと言ったな・・・ならば今すぐ騎士をやめろ。その道はお前に与えられた役割ではない、お前にはお前に与えられた役割がある、その正しい道を進め、それが魔導騎士世界の秩序を保つ為になる。何故なら魔力量とは人の持つ運命の量、生まれ出ずる時より定められた序列なのだからな」

 

厳は一輝の夢を断ずるあまりにも非情な言葉を言い放った。黒鉄家の名誉などどうでもいい、ただただ魔導騎士世界の秩序の為に分不相応な存在を排除する、それが国際魔導騎士連盟日本支部長【鉄血】の黒鉄厳という男・・・一輝はようやく自分の父親がどういう立場の人間かを理解した・・・自分の事をどう思っているのかも——

 

———・・・そうか・・・僕は才能を持って生まれなかった時点で父さんに何も望まれていなかったんだね・・・ハハッ、なんだ、別に嫌われていたんじゃなかったんだ・・・でもこんな理由なら正直嫌われていた方がマシだな・・・。

 

実の父親に夢を否定され、最初から何の期待もされていなかった事を知って冷たく悲痛な感情が一輝の心を支配した、【好き】の逆は【嫌い】ではなく【無関心】、一輝と厳はそんな言葉を連想させる関係だったのだ。

 

———たぶん僕はまだ父さん(この人)との繋がりを求めていたんだろうな、だからこんなに悲しいのか・・・でも何でだろう?僕はまだ———

 

騎士の道を歩き続けたいと思っている・・・世に・・・いや、父に自分の存在を認めてもらいたくて今まで騎士の高みを目指してきたのに全てが無駄だった、心の拠り所であった最愛の恋人にして最強のライバルと七星の頂きを賭けてもう一度戦う約束は鬼の龍殺しの剣によって既に打ち砕かれている・・・黒鉄一輝が戦い続ける理由はこれで全てが失われた筈だ、なのにどうして・・・。

 

『一輝、お前自分の剣を何だと思ってやがる?』

 

想いに揺れる一輝の脳裏に思い浮かんだのは父親である厳でも妹である珠雫でも最愛の恋人であるステラでもなく、ステラとの大切な約束を打ち砕いた鬼———真田幸斗であった。

 

鬼はその燃えるマグマのような灼眼でまっすぐ一輝を見据えて問いた、【お前の剣は何の為にある】と・・・。

 

鬼は己の過去を交えて語った、【オレの剣は運命を砕く剣】だと・・・。

 

そうだ、黒鉄一輝にはまだ騎士の道を行く理由が残っている、例え肉親が否定しようと関係無い、運命が道を決めようとも自分は自分が決めた道を行く・・・迷う必要は・・・無い!

 

「それは断るよ、父さん」

 

一輝は無表情で返答を待つ厳の眼を強い意志を秘めた眼で見つめて堂々とそう答えた、それならもう認めてもらう必要は無い、だからその望みには従えないと・・・今まで無表情だった厳はその返答を聞いて若干眉を顰めた。

 

「・・・理由を聞こうか?」

 

これだけ説明したのにまだ理解できないのかと解せない思いを抱いた厳は返答の根拠を一輝に求めた。

 

「・・・少し前に一人友達ができたんだ・・・その友達は僕よりも魔力量が低く伐刀者としての才能が欠如している、それどころか剣才も知性も他者より劣っていて【出来損ない】という存在を体現したかのような少年だった」

 

一輝は語り始めた、本当の意味でなんの才能も持っておらず神から見捨てられたかのような男の話を・・・。

 

「そんな人は普通なら運命に押し潰されてしまうのが道理だろうね、父さんの言う通りチカラの無い者が何もできる筈が無いんだから・・・・・でもね、その少年はそれでも進んだんだ、茨の道なんてものじゃない、進めば確実に死ぬような底無しの沼を・・・」

 

一輝が幸斗と友になったのはつい最近だ、今語っている話はキャンプ場の河原で幸斗が話してくれた過去から推測しているだけに過ぎず、少年の全てを知っているわけではない。

 

「例え底無しの沼だろうと少年は突き進む事を諦めたりしなかった、進んで沈むのなら進めるように橋を架ければいいと必死にチカラを付けて降りかかる運命を覆し続けて来たんだ、世界最高の魔力量を持つ気高き伐刀者の運命すら覆して・・・僕はその少年の事を心から凄いと思った、一体少年の道には今までどれだけ多くの壁が立ちはだかりそれを越えて来たのか、どれだけ多くの挫折を周りから突き付けられてそれを押しのけて来たのか、想像するだけで途方もなく感じたよ・・・」

 

一輝も平均の十分の一という魔力量しか持って生まれなかった故にそれなりの挫折を乗り越え場数を踏み越えて来た、故に平均の三十分の一しかない一輝以下の魔力量にも拘らず世界最高の魔力量を持つ伐刀者(ステラ)に真っ向から打ち勝つ程のチカラを鍛え上げた幸斗がどれ程の挫折と場数を越えて来たのかは計り知れない。

 

「そんな少年と僕は友達になり、三日前に河原の前で僕は友達になったばかりのその少年に聞いてみたんだ、【君はどんな事を考えて剣を振っているの】かと・・・そしたら少年は質問を質問で返すように僕にこう聞いてきたんだ、【一輝、お前自分の剣を何だと思ってやがる?】ってさ」

 

「・・・・・」

 

「そしたら少年は僕の答えを待たずに自分の過去を語りながら【自分の剣】について教えてくれた、その時に僕は思い出したんだ、僕が騎士の道を進むと決めた切っ掛けを」

 

何故黒鉄一輝という男は騎士の高みを目指すのか・・・思い出したと言っても別に忘れていたわけじゃない、この時の一輝は泡沫に言われた【君の剣では大勢の人達の想いを背負う刀華には勝てない】という言葉に惑わされて心在らずという心理状態だったので再確認したと言うのが正しい表現だろう・・・黒鉄一輝という騎士の原点、それは彼が幼い頃居ない者として実家の人間達から酷い扱いを受けた事に耐えられず家を飛び出し猛吹雪の中を彷徨っている時に出会った日本の魔導騎士の英雄【黒鉄龍馬】に言われた言葉によって救われた出来事だ、チカラを持って生まれず何もできずに悔しい想いを抱いて途方に暮れていた時に【悔しいか小僧?その悔しさを捨てるなよ、悔しいと思うのはまだ諦めていない証拠だ】と———

 

『いいか小僧、今はまだ小さな小僧、お前が大人になった時、連中みたいな才能なんてちっぽけなもんで満足する小せぇ大人になるな、分相応なんて聞こえのいい諦めで大人ぶるつまらねぇ大人になるな、そんなもん歯牙にも掛けないでっかい大人になれ。諦めない気持ちさえあれば人間は何だってできる、なにしろ人間ってやつは翼もないのに月まで行った生き物なんだからな』

 

この言葉を聞いた時、一輝は夢を抱いたのだ———

 

「僕は、例え才能が無くても騎士の道を目指して行きたいと頑張る人達の助けとなって導く騎士になる!諦めなくてもいい、自分ならやれると信じて前に突き進み続ければ才能が無くても強くなれると胸を張って言えるような!!」

 

激しく燃え盛る炎のような意志を宿した眼で鉄のように頑な厳の眼を見て一輝は堂々と宣言した、持って生まれた才能は絶対ではない、そんなものが無くても【突き進む意志】を曲げずに強くなろうと上を目指し続けて行けば誰だろうが強くなれるのだから、そう、本当に何の才能も与えられずにこの世に生を受けたまるで神に見捨てられたかのような存在にも拘らず運命を覆そうと愚直に進み続けるあの鬼のように強い伐刀者のように。例えどんなに醜く足掻く事になろうともそれは恥などではない、諦めて弱いままでいるのを容認する事こそ恥なのだ。

 

一輝の宣言を聞いて厳は失望するかのように一回小さく溜息を吐いて口を開いた。

 

「・・・莫迦者が、話を聞いていなかったのか?それが秩序を乱す愚かな行為だと言っているんだ。どれだけ修練を積み重ねようと魔力量の乏しい者全てがお前のようになれる保証など無い、その結果大勢の人間が無駄な最後を遂げるのは目に見えている」

 

「もちろん頑張れば絶対に強くなれるという保証は無いさ、でも僕は知っている、誰よりも才能に恵まれず誰よりも不屈な意志を持って突き進み続けて運命を覆し続けAランクすら正面から打ち破る強さを身に付けた一人の少年を」

 

確かに必ず歴史に名を連ねる英雄になると歴史が証明しているAランク伐刀者と違い、才能無き者でも頑張れば誰だって運命に逆らえるという保証はない、しかし、誰よりも才能が劣る真田幸斗という男はその不屈の意志と根性で多くの運命を覆して来た、故に才能無き者が絶対に運命に逆らえぬ道理も無いのだ。

 

先程も説明した通り一輝と幸斗は友となって間もない為二人の絆は浅いものだ、過去だって全てを知っているわけではない・・・だが三日前、あの時一輝は真田幸斗に秘められた強大な魂を確かに感じ取った——

 

『一輝、オレがどんな事を考えて剣を振っているのかと聞いたな?そんなの決まっているだろ、【突き進む!】それだけだぜ。オレの剣は運命を砕く剣だ、それは今でも変わらねぇ、壁が立ち塞がるならブチ抜いて進む!道が無ければ自分(テメェ)で切り拓く!魂の熱風が未来(あす)へと吹き荒れる!!オレを誰だと思ってやがる!?オレは真田幸斗だ!!運命を覆す伐刀者だ!!オレの前に立つ敵(うんめい)は例え会長さんだろうが全国の学生騎士だろうが全部ブッ倒すっ!!!』

 

なんて雄々しく猛々しい騎士なんだと一輝は幸斗の気迫に圧倒された、そして同時に憧れも抱いたのだ、自分もこの少年のように前を向いて進みたいと願い、目標となった。

 

「だから僕は大きな意志を持って努力し続ければ誰もが騎士になれると信じている!父さんが懸念するような運命に負けてしまいそうな人がいたら、みんな僕が立ち上がらせて導いてみせる!!だから僕は・・・騎士になる夢を諦めないっ!!!」

 

一輝は改めて厳に宣言する、貴方が思っているような事態には自分がさせない、だから自分は貴方の思い通りにはならないと。

 

「・・・・・」

 

厳は無表情のまま無言で一輝の眼を見る、その眼は先程非情な言葉を突き付けた時に一瞬だけ見せた生気の感じられない悲しみの眼と違って激しく燃えるマグマのような強い意志が宿った眼であった。

 

「・・・はぁ・・・もういい」

 

厳はこれ以上言っても無駄なようだなと溜息を吐いて立ち上がり、面会を切り上げようと部屋の出入り口の前に移動する。

 

「・・・だから私は反対したんだ、あの西風の子破王を学園に入学させ魔導騎士の資格を取得させて連盟の戦力として利用するなどと・・・」

 

厳は一輝が聞き取れない程音量を下げた声でそう呟き、部屋から退室して行ってしまった。

 

連盟本部が西風の残党である少年伐刀者達を戦力として利用する為彼等を再教育して魔導騎士学校に入学させる事が決まった当時、厳はF-の魔力量である幸斗を学園に入学させる事に猛反対していた、しかし決定権は連盟本部長の【白鬚公】《アーサー・ブライト》にあったが為に厳の申し出は却下された・・・一輝の事もある為これ以上不穏分子を取り除く手を回していられない為に厳は苦肉の策として幸斗の伐刀者ランクを攻撃力の規格外さを理由に特例としてEランクと評価するよう手を回したのだった・・・これが真田幸斗が魔力量世界最低のF-でありながらEランクである真相であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~、黒鉄の奴なかなか良い啖呵を切るじゃねーか、お馬鹿な幸斗に見事に影響されたな」

 

場所は替わって破軍学園の理事長室・・・今この場所には多数の人間が集まっていた。

 

窓際の壁に背中を預けて寄り掛かり、たった今実に愉快そうに不敵な笑みをして言葉を紡いだ風間重勝を筆頭に彼と同じ元傭兵団西風の佐野涼花、破軍学園理事長の新宮寺黒乃、臨時教師の西京寧音、来客者として来た貪狼学園の生徒会長にして更識家当主の更識楯無、同じく貪狼学園生徒会庶務にして重勝と涼花と同じ元傭兵団西風の美空スバル・・・そして黒鉄一輝の恋人にしてヴァーミリオン皇国第二皇女であるステラ・ヴァーミリオン、以上七名がこの場に集結しており、部屋の中央のテーブルの上に置かれた盗聴用のスピーカーでこの場にいる全員が今の一輝と厳の面会を聴いていたのであった。

 

「しっかしとんだロマンティストだな黒鉄、全ての落ちこぼれを救おうなんてよ」

 

「あら?おかしいわね、とても世界最低の魔力量の伐刀者を鍛えた元教官の言う言葉には聞こえないんだけど?」

 

「ん?別に否定してるわけじゃねーぞ、俺は理想を主張するだけで何もしない奴は嫌いだけど理想を実現する為に行動できる奴は寧ろ好きな部類だしな」

 

「アンタは普段の態度と発言の所為で勘違いされやすいのよ」

 

一輝を小馬鹿にするように微笑しながら言う重勝を揶揄うように笑みを浮かべて皮肉を言う楯無、それに対して重勝が軽い口調で返答し、涼花が呆れるように呟きながら盗聴スピーカーの電源を切った。

 

「それにしても呆れるような手際の良さだな佐野、まさかたったの数時間で連盟に侵入して黒鉄が監禁されている部屋を探り出して気付かれずに盗聴器を仕掛けて来るとはな・・・」

 

「アハハハッ!涼ちんやるねぇ~、さすが元西風隠密機動部隊の【鉄の乙女(アイアンメイデン)】さね!」

 

三日前に赤座が一輝を連れて行った後、深夜に破軍学園に帰還した重勝は涼花に【今から連盟の日本支部に潜入して黒鉄が監禁されている場所に盗聴器を仕掛けてきてくれ】と無茶な事を頼み、それを涼花はしょうがなさそうに了承して新宿区に向かい、あっという間に連盟日本支部に潜入して重勝の頼み事を完遂して来たという出来事があった。あまりにも簡単に連盟に潜入し見つからずに盗聴器を仕掛けてきた涼花に対して黒乃と寧音は舌を巻いている、涼花の隠密スキルは驚く程優秀だなと感心する一方で、こんなにアッサリと侵入を許して連盟日本支部の監視防衛機能は大丈夫なのかと心配で仕方がない心境であるようだ・・・寧音はまるで気にしていないようだがが・・・。

 

「・・・ねぇ・・・いい加減にして早いところ本題を話しなさいよ」

 

他愛ない話で場が乱れ、来客用のソファーに座る紅蓮の皇女が浮付いた雰囲気に苛々しながら一同にそう催促してきた。

 

一輝が倫理委員会に連れ去られてからというものステラは気が気で無く常に眉を吊り上げて普段の涼花以上に不機嫌な雰囲気を醸し出して周りにばら撒いていた。この場に呼ばれる前も彼女は食堂で珠雫と校舎の一部を破壊する程のケンカをしている、一輝の事でステラと珠雫がケンカをするのはいつもの事だが今回はステラが弱音を吐いて珠雫を怒らせたといういつもとは異なる原因であった、そんなギスギスした中でこの場に呼び出されたステラは盗聴スピーカーから発せられた一輝の声を耳にして恋人が無事である事を確認すると気持ちが少し軽くなって肩のチカラを抜く事ができたのだが、突如一輝の父親である厳の声がスピーカーから発せられて面会が始まり、厳が一輝の切実な申し出に対して非常な言葉を返した時、ステラの怒りは頂点に達した。

 

———魔導騎士の世界の秩序の為に何もできないお前は何もするな?認めて欲しかったら騎士をやめろですって?・・・それが・・・それが父親が実の息子に対して言う言葉なの!?ふざけるんじゃないわよ!!必死に努力をして強くなった人間を才能が無いってだけで害悪と定める秩序なんてクソくらえだわ!!決められた運命に従って生きろだなんてまるで人形じゃないの!!私達伐刀者は腐った世界の仕組みに組み込まれるだけの部品じゃない!!!

 

両親から大きな愛情を受けて育って来たステラにとって子の夢を否定する親など存在してたまるものではなく、連盟が騎士に望む真の役割を知って内心怒りが火山の噴火のように爆発していた、じっとしてなどいられない、一輝を助けられる方法があるのなら早く教えろと彼女はこの場にいる全員に求めた。

 

「何から何まで話してもらうわよ、アンタ達が何を企んで何をしようとしているのかを洗い浚い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一輝、父親の非情なる言葉に屈さず!一輝の心の乱れを幸斗が直したのはこの為の伏線だったのです!(イエィッ♪)

ステラとの約束が消えたこの世界の一輝はそのまま放置していたらここでリタイアでしたからねぇ、幸斗がカウンセリングした結果、一輝が厳に啖呵を切る展開になりましたがどうでした?


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