運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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原作第三刊の例の事件が遂に始まります、倫理委員会と接触する前に一輝とステラを保護しようと奥多摩に急行する重勝と涼花は果たして間に合うのか?そして幸斗はどう動くのだろうか?





始まる悪意渦巻く騒乱

東京にある総合病院・・・その内部にある穢れ一つ見当たらない清潔な白一色の病室のベッドにて【紅の淑女】貴徳原カナタは意識を取り戻した。

 

「・・・・・ここは?・・・」

 

知らない天井を見て何故自分はここにいるのかと朦朧とする意識の中カナタは上体を起こし、気を失う前の出来事を思い出そうと記憶を洗う。

 

———・・・そう・・・確かわたくしは選抜戦で風間さんと試合をして———

 

敗北した、それも完膚無きままに・・・恐らく自分は意識不明の重体で大型の病院に移送されたのであろうとカナタは察した、切り落とした筈の右腕が元通りに接合しているのも再生槽(カプセル)の治療によるものだろう。

 

———・・・わたくしはなんて不甲斐無いのでしょう、あれほど風間さんを倒すと息巻いておきながら手も足も出ずにこの体たらくとは、これでは刀華ちゃん達に合わす顔がありませんね・・・。

 

カナタは学園序列一位の黒い剣士に圧倒的な実力差を見せつけられて敗北した自分を情けなく思い気を落とした、彼女より強い刀華すら凌駕する実力を持つ重勝に勝てなかったのは順当な結果と言えるのだがやはり一人の騎士として悔しかったのだ・・・だが落ち込んでいる場合ではない。

 

———負けたのは悔しいですが収穫はありました、これは試合中の風間さんの発言と今までの彼の行動からわたくしが立てた仮説に過ぎませんが風間さんがわたくし達と対立して皆から嫌われる行動を取る理由は恐らくこれなのでしょう、急いで刀華ちゃん達に伝えなくては!

 

昨年からの苦しみから親友を救う為にカナタは命懸けで答えを探り出した、この答えを親友達に伝える事ができれば重勝との因縁に決着を着ける事が出来る筈・・・そう思って彼女は意識を覚醒させるのだが———

 

「・・・・・えっ!!?」

 

白白白・・・意識が覚醒してカナタの視界に入って来たのは病室内に広がる純白だった、天井も白い、壁も白い、カーテンも白い、ベッドとシーツも白い、自分が今身に着けている患者衣も白い・・・。

 

『フィーネ(終わり)だぜ・・・貴徳原』

 

「う”っ!?」

 

カナタは辺り一面真っ白な病室内を目の当たりにした瞬間、天(そら)から悪魔のようなハイライトの消えた冷たい眼で見下ろす黒い剣士が白く膨大なエネルギーを砲剣の切っ先に収束してそれを漆黒のリングで身体を拘束された満身創痍の自分に向けているあの試合の決着直前の映像がフラッシュバックして顔を青くし頭を抱えた。

 

『これが俺の全力全開!!』

 

「あ、ああっ!!」

 

『光翼ノ帝剣(アストラル・ブレイカー)アアアアアァァァァァーーーーーッ!!!』

 

「ア”ァ”ァ”ア”ア”ア”ア”ア”ァ”ア”ア”----ッ!!!」

 

そして自分が成す術鳴く白い極大砲撃に飲み込まれた映像がフラッシュバックすると紅の淑女は発狂、眼を回してバタンとベッドにブッ倒れ再び眠りに就いてしまった・・・かわいそうな事にどうやら彼女は白がトラウマになってしまったようだ・・・・・合掌(笑)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~、頭痛ぇ、鬱だ、何でオレがどやされなくちゃならねぇんだよ?」

 

「当たり前です!勝手に単独行動をした挙句に自然破壊、本来ならお説教で済む問題ではありませんよ!」

 

「あはは☆、天候まで人為的に変えちゃったし、こりゃあ学園に気象庁からの苦情がきているだろうね、帰ったらたぶん理事長からも叱られるだろうから覚悟しておいた方がいいよ、殲滅鬼クン♪」

 

「うげ~・・・」

 

「あはは・・・ご愁傷さま・・・」

 

幸斗が岩人形達を相手に無双した後、幸斗は刀華(オカン)により一時間説教され、現在は憂鬱な気分で皆と共に下山している真っ最中であった。

 

空はすっかり日が沈みかけていて既に朱い一番星が顔を見せる時間帯、ほぼ真っ暗になった山道をライトで照らして彼等は帰路を進む。岩人形達を操っていた者の正体は幸斗が手掛かりである岩人形達を塵も残さず殲滅してしまったので結局解らず終いだった、おまけに訓練施設の一部である山林も幸斗無双によって半壊してしまったので巨人騒ぎが収まってもこれではとてもじゃないけど代表選手の強化合宿などできる環境ではないだろう、強化合宿ができるようにしに来たのにこれでは本末転倒な結果だ、刀華は絶対に二度と生徒会の仕事の手伝いを幸斗には頼むまいと決めたのだった・・・。

 

「あ!明かりが見えたよー!やっと帰って来れたー!」

 

数分歩きやっと麓に下りると恋々が先に視える合宿所の明かりを指差して燥ぐ、一行はようやく戻って来れたのだ。

 

「む、帰って来たようだな」

 

彼等の帰りを律儀にも施設の外で待っていた砕城が皆を出迎える。

 

「ヴァーミリオンが倒れたと聞いたが、大事はないか?」

 

「迷惑かけてごめんなさいね、風邪なんて初めてだったから自分が風邪だってよくわからなくって」

 

「何だ、ステラ風邪ひいたのか?オレも風邪なんかひいた事ねぇからよくわからねぇけど辛いのか?」

 

「幸斗君も風邪ひいた事ないの!?なんとかは風邪をひかないとはよく言うけどそれは・・・」

 

「おい一輝、テメェ今オレの事を馬鹿にしなかったか?」

 

砕城はステラが道中病を患って倒れたという連絡を受けていたので彼女を心配して確認する、心配させた事をステラは謝罪し、生まれて一度も風邪をひいた事がないと言う幸斗が疑問を口にしたのでそれを聞いた一輝が驚き迂闊な事を言ってしまい、幸斗がムッときて一輝を不審に睨みつけた、事実なので仕方がない(笑)。

 

念のためこれをと砕城はステラに風邪に良く効く自作の薬を渡す、なんでも砕城の実家は薬師の家系らしい、ステラはありがたくお礼を言ってそれを受け取ると砕城はそういえばと一輝に声を掛けた。

 

「黒鉄、実は先程お前を訪ねて来た人がいたのだが」

 

「僕を?」

 

「ああ、学校に行ったらこっちにいると聞いてきたらしくてな」

 

一輝はわざわざここまで自分に会いに来るような知り合いに心当たりがないので首を傾げた。

 

「砕城さん、その人の名前は?」

 

「確か———」

 

砕城は腕を組んで訪ねて来た人物の名を思い出そうとしてう~んと唸る。

 

「わざわざこんな山奥まで来るなんてご苦労なこったな、一体何所の誰————っ!!?」

 

幸斗はやれやれと右掌を右肩の上に翳して皮肉を言う・・・その時、背中に不可解な怖気が奔り、幸斗は思わず振り向き身構えてしまう。

 

———何だ、この身の毛が弥立つような嫌な感じは!?

 

背後の薄暗い広場を不快な形相で睨みつける幸斗、するとその広場の先からコツコツと足音が聴こえて来た、一体何者だ、この非常に不愉快な雰囲気を感じさせる奴は?例えるなら吐き気を催すような邪悪!そう思った時考え込んでいた砕城が思い出したようにその人物の名を口にした。

 

「———・・・ああ、そうだ、【赤座】と名乗っていたな」

 

「っ!!?」

 

一輝は告げられた名を聞いて表情を強張らせた・・・そして———

 

 

 

「おーいたいた、よぉ~やく会えました」

 

 

 

幸斗が睨みつけている方の陰から気味の悪いねっとりとした男の声が聴こえてきて、全員が視線をそちらに向けると陰から赤いスーツを身に纏った肥満体型の中年男性が現れた。

 

「ご無沙汰してますねぇ~一輝クン、んっふっふ」

 

「・・・・・」

 

男は恵比寿にも似た笑みを浮かべて嘗め回すような視線を一輝に向けている、その男を見て幸斗は得体の知れない嫌悪感が身体中を駆け巡って表情を強張らせていた。

 

———何なんだこのオッサン、凄ぇ粋好かねぇ感じがする、オレは今まで傭兵家業をしてきて色んな人間を見てきたけど初対面でここまでクソみたいな雰囲気を感じた野郎は今まで会った事がねぇ、コイツは臭せぇ、ゲロ以下の臭いがプンプンするぜ。

 

何がなんだかわからないがコイツは激しく気に入らないと本能が疼いている、幸斗はおそらく知り合いであろう一輝に神妙な声音で問いかけた。

 

「一輝・・・誰だこのオッサン・・・」

 

その問いに対し一輝は同じく神妙な声音で答える。

 

「この人は・・・《赤座守(あかざ まもる)》さん、黒鉄家の分家の当主さんだよ」

 

「っ!!」

 

幸斗はそれを聞いた瞬間にこの人物がどういう人間なのかを理解してすぐに威嚇の目線を赤座に向けた、黒鉄家の人間が一輝に対してどういう仕打ちをしてきたのかは幸斗も重勝から聞かされて理解している、コイツはクズだ、纏う雰囲気からして交流しなくても解る、幸斗は今にも霊装を顕現して斬り掛かりそうになるくらい赤座に敵意を向けて威嚇し空気をひりつかせるが———

 

「んっふっふ、そんな怖い顔をしないでくださいよぉ、私だって嫌なんですよぉ?こんな出来損ないの為にわざわざ奥多摩くんだりまで足を運ぶなんてねぇ?」

 

当の赤座はまるで臆した様子もなく見繕ったような笑みで攻撃的な言葉を言った。

 

そのわざとらしい侮蔑にその場にいる全員が赤座が一輝に明確な敵意を向けている事を感じ取る、この男は紛れもなく一輝の敵だ、低ランクの伐刀者を出来損ないと嘲るその魔力至上主義のクズ共によく見られる態度、幸斗はそれが激しく気に障って我慢ができなくなり赤座のスーツの襟首に掴みかかった。

 

「テメェこのクソ野郎っ!!誰が出来損ないだって?もういっぺん言ってみやがれっ!!」

 

「んぐっ!?」

 

「幸斗君!?止めるんだ!その人は《国際魔導騎士連盟日本支部の倫理委員長》、下手な事をしたら君にどんな処分が下されるかわからないよ!」

 

「知るかよそんなk「真田君!」・・・ちっ!」

 

一輝の制止も聞かずに赤座を掴み上げて左拳を振り上げると刀華が厳しい眼を幸斗に向け促すように首を左右にゆっくりと振っていたので幸斗は気まずくなり、舌打ちと同時に仕方なく赤座を解放した。

 

「けほっ!けほっ!いきなり何をするんですか?苦しいですねぇ・・・・・んん?そういえば貴方どこかで・・・」

 

首の圧迫感から解放された赤座は汚らしく咳き込み、自分に危害を加えてきた少年に抗議の眼を向ける、すると赤座は幸斗の顔を見てどこかで見た顔だと思い右手の人差し指と中指を自身の蟀谷に当てて思い出そうと考え込む、数秒の沈黙が辺りを支配すると赤座は思い出したかのように顔を上げてニタリと気色悪い笑みを浮かべ口を開いた。

 

「ああ~、思い出しましたぁ、誰かと思えば西風とかいう害悪集団の負け犬でしかも一輝クンより出来損ないの虫ケラクンじゃあないですかぁ、んっふっふ、どうりで汚らしい手だと思いましたぁ」

 

「テメェ・・・」

 

「んっふっふ、相変わらず野蛮人ですねぇ、暴力はいけませぇん、今の自分の立場わかっているんですかぁ?貴方達は連盟本部の《白鬚公(しろひげこう》に【使える】という恩恵を受けて釈放されているんですよぉ、倫理委員長である私に逆らうのは賢明ではないと思いますがねぇ、んっふっふ」

 

「この野郎・・・」

 

「ですがしかし笑えますねぇ、五年前の一件で西風(貴方達)は団長の【傭兵王】を失い壊滅、一方私達騎士連盟日本支部は世界最強クラスにして次々と仕事を無断で奪っていく悪徳傭兵団を壊滅させて世に連盟の有能さを知らしめ大満足、随分と差が付きましたぁ、悔しいでしょうねぇ~」

 

「んだとっ!!」

 

「真田君っ!」

 

「・・・くそっ!」

 

幸斗が元西風の【子破王】だと知って西風を侮辱する数々の言葉を吐き出す赤座に再び殴りかかろうとする幸斗であったが、刀華が真面目に心配そうな辛い表情をして制止の声を掛けてきたので、悔しそうに悪態を吐いて振り上げた左腕を下ろした、これ以上刀華に心配されたくなかったからだ。

 

赤座は嘲るような笑みで幸斗を一瞥すると再びその嘗め回すような目線を一輝に向ける。

 

「んっふっふ、まったく貴方に相応しい友人ですねぇ、出来損ない同士で傷を舐め合ってとてもお似合いですぅ」

 

「・・・・・」

 

「ア、アンタいい加減に———」

 

「まあひとまずその事は置いといて、さっさと本題に入らせてください、山奥は蚊が多くてかないませんからねぇ、んっふっふ、今日私がここに来たのはですねぇ、騎士連盟日本支部の倫理委員長として一輝クンにとーっても大事なお話があるからなんですぅ」

 

一輝と幸斗を低ランクという理由で出来損ない扱いをし続ける赤座にステラが我慢の限界を迎えて文句を言おうとするが赤座は聴く耳持たずに話を切り出してきた。どす黒い感じがプンプンする話だ、どう考えても要件はろくでもない。

 

「今更僕にどんな話があるのでしょうか?」

 

「んっふっふ、まあ話すよりもコレを見てもらった方が早いでしょう、どーぞどーぞ、今日の夕刊ですぅ」

 

話を促す一輝に赤座は本日連盟が発行した複数の新聞記事を手渡した、一輝は早速妙な胸騒ぎを感じる中新聞を開き、ここにいる全員がどれどれと一輝の周りに集まって新聞を覗き込む。

 

「っ!!!?・・・イッキ、こ、これって!」

 

それは先程破軍学園の掲示板に張り出されたものと同じ、口付けを交わしている一輝とステラの写真が一面に掲載されたスキャンダル記事だった。

 

驚きのあまり一同は眼を丸くして内容を読み上げていく。

 

「【黒鉄一輝は昔からの札付きで人格的に問題のある男だ】」

 

「【姫の純潔を奪った男】・・・ひどい内容・・・」

 

「【日本とヴァーミリオンの国際問題に発展か!?】・・・まあ、そうなるよね」

 

「んっふっふ、凄い内容でしょう?巷は今大騒ぎですよぉ?国賓に手を出すなんて前代未聞の不祥事ですからねぇ」

 

「・・・【ヴァーミリオン国王、一月前より意識不明のまま未だ目覚めず】・・・何だコレ?」

 

「ちょ、ちょっと待って!なんなのよこのデタラメは!?明らかにゴシップ記事じゃないの!・・・最後のはともかく」

 

その記事は確証もない内容で一輝を非難し事態の重大さを煽り立てるような言葉が並んでいる、一部おかしいのも混ざってはいるがこれは明らかに作為的なでっち上げだ、ステラは一輝から新聞をひったくって怒鳴り声を上げ赤座に詰め寄った。

 

・・・因みに幸斗が読み上げたヴァーミリオン国王が一月前から意識不明だという内容については、実は国王は動画サイトで一月前の幸斗VSステラの試合を観ており、幸斗が放った全力全開の龍殺剣(ドラゴンスレイヤー)にステラが飲み込まれたシーンを見た瞬間にショックで失神し、それが衝撃的過ぎた所為で未だに生死の境を彷徨っているからである(笑)。

 

赤座は激昂するステラにわざとらしくニタニタとした笑みである事ない事を吹き込もうとするがこの三か月間黒鉄一輝という人間を一番近くで見てきたステラには通じない、それでも赤座はそんな事はどうでもいいと要件の内容を続ける。

 

「んっふっふ、まあお姫様がどう思おうと事実はこうして記事になったわけです、大衆がどう受け取るかは明らかですなぁ、現にこの一報を受けて一輝クンの騎士としての資質に対する疑問の声が連盟の方でも強く上がっています、そこで緊急に連盟日本支部の方で本件に関する査問会が開かれることになりましてね、その場で一輝クンの騎士としての資質を総合的に検証し、もし資質が不適格だと判断した場合、日本支部から連盟本部の方に一輝クンの【除名】を申請させていただくことになったんです・・・今日、私は一輝クンをその査問会に連れて行く為にやって来たわけなんですよ。これは【倫理委員会】の正式な招集ですぅ、応じて頂けないと・・・んっふっふ、まあ一輝クンの立場はとても悪いものになってしまいますぅ、もちろん来て頂けますよねぇ一輝クン、んっふっふ」

 

「っ!!」

 

幸斗はもう我慢の限界だった、嘘も周りが全て信じれば真実になる、そんな権力に物をいわせた汚い手段で全てを思い通りにしようとする権力者のクズ野郎共が彼は大嫌いなのだ。

 

「・・・おい」

 

「ひっ!!?」

 

「「「幸斗(ユキト)(真田)君!?」」」

 

幸斗は先程よりも凄まじい殺気を出してズンズンと赤座に詰め寄り、赤座はその殺気を受けて怖気付き、一輝とステラと刀華は突然の幸斗の行動に声をあげる。

 

「こ、今度はなんなんですか!?虫ケラクン、私に手を出したr「黙れよ」ひぃっ!!」

 

赤座は動揺しながらも倫理委員長という権力を盾にして自分に危害を加えようとする幸斗を制しようとするがそれも向けられる殺気が強まるだけであり赤座は畏縮する。

 

「オレは表向き学生騎士の身分だが連盟(テメェ等)の飼い犬である騎士じゃねぇ、元傭兵で戦士だ、除名されようが関係ねぇんだよ、向かって来る奴は潰すだけだ・・・オレは今までの傭兵生活で権力者という奴等を山ほど見てきた、全部じゃねぇが大半が反吐が出る程のクズ野郎共だったぜ、その中でも思い通りにならなければ権力を使って他者を追い詰めるやり方をする奴等は特に虫唾が走った」

 

連盟の役人に危害を加えて学生騎士の身分を剥奪されたところで真田幸斗という男には大した打撃にはならない、いや、元西風の残党達全員がそうだろう、何故なら彼等は魔導騎士になれなかろうがまた昔のように非合法の傭兵生活に戻ればいいのだから。

 

故に幸斗は止まらない、自分の古巣である西風を侮辱し、剰え権力にものを言わせたでっち上げの汚い所業でダチを貶めようと企むこのクズ野郎は絶対に許さねぇと。

 

「・・・オレはなぁ、テメェのようなクズ野郎は————」

 

たじろぐ赤座の前に立った幸斗は左拳を振り上げる。

 

「———地の果てまでブッ飛ばすと———」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、ここは冷静に話し合いm———」

 

「———決めてんだよっ!!!」

 

「「「幸斗(ユキト)(真田)君っ!!!」」」

 

今度は皆の制止の声は聞かない、幸斗は怒りを込めて振り上げた左拳を見苦しく焦る赤座の顔面に向けて振り下ろした———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止せ、幸斗っ!!」

 

刹那、すっかり日が暮れて闇が支配する天の星空から声と共に二つの影が舞い降り、拳が振り下ろされる前に幸斗と赤座の間に割って入り幸斗を制した、こんな時にいったい誰だ?幸斗は思わず拳を止めてしまい、割り込んで来た二人の正体を見て眼を見開き驚愕する。

 

「シゲ!?」

 

「このお馬鹿!状況も考えずに殴りかかろうとしてるんじゃないわよ!」

 

「涼花まで!?」

 

空から現れたのは重勝と涼花だった、二人は学園の掲示板に張り出されたスキャンダル新聞を拝見し、重勝が涼花を横抱きで抱えて空を飛び此処に急行して来たのだ、一輝とステラが倫理委員会と接触する前に二人を保護する為に・・・だが———

 

———くそっ!一足遅かったか!黒鉄とヴァーミリオンがこの場にいなければいくらでも誤魔化し様があったんだが、二人が奴の目の前にいるんじゃ下手な事をすればそれを理由に黒鉄の悪評を拡大されかねねぇ・・・。

 

当の二人は既に倫理委員長である赤座と接触していたので手遅れだった、本来ならば二人を赤座と接触する前に保護して身を隠させ、赤座には【二人はまたどこかに遠出して行って行先は聞いてねーんだ、悪ぃな】と適当な事を言って一度追い返し、その間に対策を立てる予定だったのだがこれではどうしようもない。

 

「なっ!?風間さん!?」

 

「リョウカ!?アンタどうしてここにいるのよ!?と言うかどこから現れてんのよ!」

 

突然空から飛来して来た二人に周りも驚きを隠せなくて動揺している、それを鬱陶しく思った涼花は——

 

「少し黙っていなさい、話がややこしくなるわ」

 

と周りを一瞥して黙らせる(誰の所為でややこしくなっていると思ってんのよとステラが言い返そうとしていたがこれ以上場を混乱させない為に一輝が制した)と飛来した二人は重々しい空気の中、恐怖心で尻餅を着いていた赤座と向き合った。

 

「お、おやおや何かと思えば破軍に身を置く負け犬軍団が勢ぞろいですかぁ~、助けてくださった事には感謝しますが狂暴なガキの手綱はしっかりと握っていてくれないと困りますよぉ」

 

赤座は尻に付着した砂を手で叩き落としながら立ち上がり、額に冷や汗を掻きながらもわざとらしい笑みを浮かべて二人に蔑むような言葉でそう指摘する。すると重勝はなんと———

 

「そーだな、ウチのお馬鹿が仕事の邪魔をしてすまなかった、俺達はこのお馬鹿を迎えに来ただけなんだ、仕事を続けてくれ」

 

と普段通りの飄々とした態度でそう謝罪の言葉を述べて促した。それを聞いた幸斗が納得いかないと怒りの感情を露わにする。

 

「なっ!?ふざけるなよシゲ!コイツは西風を侮辱した上に一輝を———ぐはっ!?・・・涼花・・・テメェ・・・」

 

納得できない幸斗は反抗しようとするが、涼花が幸斗の腹部に無言の肘打ちを入れてそれを阻止し、幸斗は肘打ちによる鈍痛で腹部を両手で押さえながら見損なったと言っているかのように涼花を睨みつける、すると涼花が幸斗に身を寄せて周りに聴こえないように幸斗に言う。

 

「お馬鹿、ここでアンタがこの古狸に手をあげたら他人に暴力を振るう狂暴な友人を持っていると黒鉄一輝の悪評が拡大して取り返しの付かない事になるわ、奴等の目的は黒鉄一輝に無実の罪を着せて汚点を燻り出しそれを突き付け連盟から追い出し彼を魔導騎士の道から抹消する事なのよ、アンタ黒鉄の夢を終わらせたいの?」

 

「っ!!」

 

幸斗は涼花の説明を聞いて苦虫を噛み潰したように唇を噛んだ、迂闊だった、自分は除名されようがまた昔みたいに好き勝手に己を貫く非合法の傭兵に戻るだけだから問題ないと一輝の置かれている立場を考えていなかったのだ。

 

「くっ・・・畜生・・・」

 

幸斗は眼を強く瞑りバツが悪そうに呻いて黙り込んでしまう、幸斗がこの場で一輝(ダチ)にしてやれる事は何もない、幸斗の心は今やりきれない悔しさでいっぱいだった。

 

「・・・幸斗君」

 

そんな時、強い意志が秘められた静かな声が幸斗に掛けられる、幸斗はゆっくりと俯いていた顔を上げて自分に声を掛けてきた男———黒鉄一輝と目を合わせた。

 

「一輝・・・」

 

「・・・・・」

 

大きな決意を秘めた眼が幸斗に強く訴えてきている、【僕は大丈夫だ、必ず戻ってくる】と・・・。

 

「・・・・・信じて良いんだな?・・・」

 

幸斗は真剣な眼差しで静かに一輝に問う、一輝は幸斗と目を合わせたまま約束すると言わんばかりに無言で頷き堂々たる姿勢で赤座の前に出た。

 

「わかりました、査問会に出向します」

 

「んっふっふ、賢明な判断ですぅ、本来ならば暴行未遂でそこの虫ケラクンもしょっ引くところでしたけれど、一輝クンの素直な対応に免じてそれは不問にして差し上げましょう、聞き分けの悪い狂犬を檻に入れるのも手が掛かりそうで面倒臭いですからねぇ、んっふっふ、では行きましょうか」

 

まっすぐと挑むような覚悟の眼で赤座を見つめ返し従う意を示す一輝、赤座はようやく終わったと安堵するかのようにほくそ笑み一輝を連れてその場から立ち去ろうと施設の出口に向けて歩き出す———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこへ重勝が赤座を呼び止めた。

 

「・・・仕事が済みそうで気分がいいところ悪ぃーけどちょっと待ってくれねーかな、倫理委員長さんよ」

 

「おや、一体何でしょうか?私も忙しい身なので手短にお願いできますか?」

 

赤座はその呼び止めに応じて重勝に首だけ振り向き鬱陶しそうな気持ちが駄々漏れな丁寧語でそう言う、やっと一仕事が終わったと思ったのに余計な横槍を入れられて心に鍵をかけるのが疎かになっているようだ。

 

「なに、用って程のものじゃねーよ、こんな山奥まで足を運ぶ仕事熱心な倫理委員長さんにちょっとしたアドバイスをしてあげようと思ってな・・・」

 

「・・・風間さん?」

 

学生服のポケットに両手を突っ込んでゆっくりと赤座の前に向かって歩く重勝、彼から漏れ出る並々ならぬ殺気を感じ取った刀華は一瞬戸惑った、こんな剥き出しの刃が心臓を貫くような殺意など今まで彼から感じた事はないと。

 

「・・・・・」

 

その殺気を向けられている赤座は無言で・・・いや、一言も声が出せない程歩いて向かって来る悪魔を畏怖し恵比寿のような顔面を恐怖で歪ませている、夜だというのに身体中から出る汗が止まらない、一体この悪魔はこれから自分に何をするつもりなのかと身を震わせていた。

 

そして重勝はいつになく神妙な面持ちで赤座の前に立つ、その相手を刀剣で劈くような鋭い目線で目の前のクソ野郎のどす黒く濁った眼を睨みつけて・・・言い放った———

 

「出世できそうでお高く留まっているみてーだが油断はしねー方がいいぜ、【偏西風】はテメェの追い風になるとは限らねーからよ・・・」

 

悪魔は忠告する【偏西風】には気を付けろと・・・・意味不明な言葉ではあったがその言葉には明確な殺意が込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五年前の西風壊滅事件の首謀者、それはこの日の昼時、事の真相を突き止めた更識家の当主である少女の口より語られた。

 

『首謀者は——————国際魔導騎士連盟日本支部倫理委員長、赤座守よ』

 

今、悪意渦巻く陰謀と五年前の決着を着ける戦いの火蓋が切って落とされた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 




重勝と涼花は結局間に合いませんでした、これで下手に動けなくなりましたね、一輝を人質に取られているようなものですから。

そして遂に五年前の事件の首謀者が発覚!首謀者はクソ狸こと倫理委員会【赤座守】!!・・・・・うん、バレバレですよね!(笑)



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