運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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レタスの店長さんの作品《超次元クロスジェネレーション戦記》にて、我らが真田幸斗が絶賛出演中っ!!

様々な他原作のキャラ達や名だたる作者さん達の作品のキャラ達が一同に集結して大暴れ!

もし幸斗が最初から一輝のダチで選抜戦一回戦のあの試合を観戦していたとしたら、幸斗はどういう行動をしていたのかもこれで分かる?

レタスの店長さん作、【超次元クロスジェネレーション戦記】!大好評連載中!!


——宣伝終わり——





堕ちた記憶とダチの拳(こぶし)

・・・五年前、世界最強クラスと謳われる傭兵団【西風】は国際魔導騎士連盟【倫理委員会】の卑劣な策略によって世界最強の剣士【比翼】のエーデルワイスと対峙して敗れ、西風団長【傭兵王】風間星流が命を散らし、西風は壊滅した。

 

西風の団員達は北九州の港で待ち伏せしていた連盟の魔導騎士達によって戦いの最中に海に落ち行方不明になった数名を除き【魔導騎士制度法違反】の罪により全員が拘束され、元服済みの者達は投獄、そして元服していない少年伐刀者達は青森県の人里離れた山奥にある伐刀者専用の少年院に送致され再教育プログラムを受けさせられる事となった。

 

「囚人番号53番、出ろ!」

 

施設の一室の扉が開き暴力的な命令口調の声が室内を反響する。大便器と寝心地悪そうな鉄のベッド以外何も無い白一色の小部屋、ここは施設で再教育プログラムを受ける罪を犯した少年伐刀者を勾留する為の部屋である。

 

「・・・・・・」

 

「・・・フンッ、汚くて陰湿な面だ!法に逆らったクズにはお似合いだな」

 

警棒を掌に軽く叩いて不快な音を出す無精髭面の看守が室内の奥の壁に凭れ掛って座り込み虚ろな目をして堕落している十歳の少年に対して悪態を吐く、その少年は赤いメッシュが入った夕焼け色の髪を爛れさせ灼熱色の瞳のハイライトを消沈させて一言も発さずに項垂れている。

 

「とっとと出ろと言っているんだ、このクズガキが!」

 

看守は命令しても返事一つしない少年に怒声を浴びせて無理矢理立ち上がらせ、手に持つ警棒で少年の背中を殴り付けて部屋の外に追い出す・・・少年の名は【真田幸斗】、魔力量F-という不遇を毎日の努力と不屈のド根性と【突き進む意志】で今まで運命を覆し続けてきたこの少年は命の恩人で父親同然だった星流と西風という居場所を失い、心の支えを失った少年は今燃える太陽が沈みかけるかのようにその意志を無くしかけて気を落としていた。

 

・・・運命を覆す伐刀者は今、悲しみという運命に屈しようとしていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸斗達元西風の少年伐刀者達がこの施設に送致されてから一日が経過した日の昼過ぎ、彼等の再教育プログラムの一環として各個人の戦闘データ採取の為の摸擬戦が行われる事となった。

 

摸擬戦の内容は連盟が施設に派遣した魔導騎士との実戦形式での試合だ、行う場所は施設にある摸擬戦場であり外に待機させられた元西風の団員達がそれぞれに付けられた囚人番号順に呼ばれて一人ずつ摸擬戦場に入り、摸擬戦場のバトルフィールド上に待ち構えている魔導騎士と順番に一人ずつ一対一で実戦形式の試合を行い、それぞれの戦闘力を測るのである。

 

『次!囚人番号53番、入れ!』

 

「・・・・・」

 

暴力的なアナウンスが幸斗の囚人番号を呼び、摸擬戦場の出入り口の扉が開かれて幸斗が無言で入室する。

 

施設の摸擬戦場は室内にあり白く殺風景な空間が広々と広がっている、天井は約40m程の高さがあり室内の中央には伐刀者専用の石畳のバトルフィールドが質素に設置されていてその上には幸斗の対戦相手を務める魔導騎士が立っていた。

 

「来たね、僕が粛清するクズ傭兵団の残党が、クククッ、なんとまあ流石連盟の法を犯すクズ共の一員というべきか、陰気なクソガキだね、クククッ、僕としてはもっと生きの良い奴の方が粛清し甲斐があってよかったんだけど仕方がないか、クククッ」

 

「・・・・・」

 

バトルフィールド上で自分の金髪のモミアゲを人差し指で弄っている如何にも陰湿貴族っぽい感じの魔導騎士が幸斗が入室して来たのを確認し、俯きながらバトルフィールド上に上がってくる暗い表情の幸斗の姿を見て彼を不快な笑みで蔑み、バトルフィールド上に上がった幸斗を見下すような目線で見定める。それを聞いても幸斗は何も返さない、ただ虚ろな眼をして俯いたままである。

 

「ユキどうしちゃったの?何で西風が馬鹿にされたっていうのに何も言い返さないんだよ!」

 

既に摸擬戦を終えた者達が待機させられている観戦室にて幸斗の仲間の一人である美空スバルが摸擬戦場内が覗ける強化ガラスを拳で叩いて怒りを露わにしている、今の幸斗が以前の元気先行な彼からは考えられないような生気の無さなので動揺しているのだ、以前の幸斗なら「へっ、ならテメェはそのクズ傭兵団の残党にこれから惨めったらしく負ける無能野郎ってわけだな!」と内心怒りを燃やしながら不敵な笑みで挑発し返す筈なのだから。

 

「あのお馬鹿・・・と言いたいところだけど、今回ばかりは・・・わたしだって辛いわよ・・・」

 

「幸斗・・・団長の事引きずるなって・・・言えるわけ無いか・・・オイラもだし・・・」

 

「・・・・・・」

 

佐野涼花、鬼庭綱定、そして死んだ風間星流の息子である風間重勝、彼等もまた摸擬戦を終えて観戦室におり、そこから摸擬戦場内の生気が抜けた幸斗の様子を目の当たりにして気を落としていた、いつもクールでどこか余裕を持った精神をして毒舌を言う涼花も今回ばかりは弱音を吐き、いつもやる気がなさそうでマイペースな綱定は星流が死んだ事の悲しみに関して自分も立ち直っていないという理由で気を落とし、いつも飄々としていて余裕の表情を絶やさない重勝は腕を組んだまま立ち無表情で一言も発さずに摸擬戦場内の幸斗を気難しい目線で眺めていた。

 

そして涼花達が見守る中、試合は開始されようとしていた。

 

「さあ、ゴミ掃除の時間だぁっ!粛清せよ!《白凰の双聖剣(ヴァイスフリューゲルス)》ゥゥッ!!」

 

金髪の魔導騎士が双剣型の霊装を顕現する、白翼のような形の柄に真っ白な刃を持った西洋風の剣が一本ずつ両手に握られてそれを金髪はムカつくぐらい優雅に構えて嘲笑するような目で幸斗を見据えた。

 

「っ!!?・・・・あ”ぁ”・・・」

 

金髪が構えた二本の白い剣をその虚ろな瞳に収めた幸斗は突如眼を見開いて戦慄する、全身が強張り心の臓にドス黒い何か渦巻いて今にも噴き出しそうな感情が沸き起こる・・・何故なら彼は今目の前の金髪の姿に幻影を重ねていたからだ。

 

「クククッ、安心したまえ!この偉大なるCランク魔導騎士《伊集院皇(いじゅういん すめらぎ)》が苦しまぬよう一瞬で楽にしt「運命を切り拓けぇぇっ!鬼童丸っ!!」ひっ!!?」

 

金髪の魔導騎士———皇は相手を蔑む憎たらしい口調でせめてもの情けだと言わんばかりに気取って幸斗に対して瞬殺宣言をしようとするのだが、言葉を語る最中に魂が抜けたかの様に生気が無かった筈の幸斗が突如猛獣が吼えるかの如く霊装を顕現し憎悪の炎を宿した灼眼で皇を親の仇を見るかのように睨み、そのドス黒い殺気に恐怖した皇は一瞬悲鳴を上げてしまう。

 

・・・今、親の仇を見るかのようにと言ったが訂正しよう、幸斗は今まさに親同然だった大切な人を殺めた仇の幻影を皇に重ねていた・・・あの純白の戦乙女(ワルキューレ)と同じ白い双剣をその瞳に収めた瞬間に。

 

———比翼の・・・エーデルワイスッ!!!

 

『LET's GO AHEAD(試合開始)!』

 

『来なさい、才無き少年よ、【傭兵王】の後を追わせてさしあげましょう』

 

「比翼ぅぅううううぅぅううううぅうううううっっっ!!!」

 

試合が始まり世界最強の剣士の幻影がそう発言した瞬間、幸斗は怒り狂った叫び声を上げて地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怒りで我を失った鬼は破壊の限りを尽くし摸擬戦場内は僅か一分で廃墟と化した、核シェルター並の硬度がある内壁は鬼が振るう剣の衝撃波により半壊し、天井は鬼の剣圧によってその上の屋根ごと消滅して蒼穹が顔を出し、ナパーム弾にも耐え得るバトルフィールドは鬼が叩きつけた剣によって完全に崩壊しクレーターと化したのだった。

 

「ひ、ひいぃぃっ!!来るなぁああバケモノォォォオオオオッ!!!」

 

鬼の殲滅対象である皇は怒り狂い襲い掛かって来る鬼の恐怖に晒され悲鳴をあげながら逃げ惑っている、先程の余裕は何処へ行ったのやら、涙目で地にへたり込んで後退しながら白い双剣をメチャクチャに振り回して錯乱しているというなんとも情けない姿を曝している。それで威嚇しているつもりなのだろうか?そんなもので鬼が止まるわけがない。

 

「あ”ぁ”ぁ”ああああああああっ!!!」

 

「ひぃぃぃいいいいいいっ!!!」

 

鬼の一撃が振り下ろされ、悲鳴をあげながら無様に転げ回って鬼の凶刃から逃げ回る皇、我を失った鬼は追尾ミサイルのようにひたすら狂うような突攻を繰り返し憎むべき敵を殲滅せんと襲い掛かる、今の幸斗は怒りと憎しみに支配されて自分の意志を無くした狂戦士(バーサーカー)だった。

 

「何で、どうしてぇぇっ!?奴の膂力は僕の《怠惰の楽園(ウィーク・エリア)》で弛緩させている筈なのにぃぃいいいっ!!?」

 

皇は自分を中心にした半径1km以内に在る有りとあらゆるモノを弛緩させて弱体化させる能力を持っている、それは筋力や感覚、モノの耐久性や伐刀絶技の威力に至るまでこの金髪の魔導騎士の1km以内に入った者は魔力量以外の全てが時間が経つにつれてどんどん無力化され続けるのだ。

 

その筈なのに幸斗の攻撃力は止まる事を知らずに鬼は破壊の限りを尽くし続けている。皇の伐刀絶技が利いていないんじゃない、幸斗の膂力が規格外過ぎて弱体化させ切れないのだ。幸斗の規格外な攻撃力は彼が今まで毎日積み上げて続けて来た修練とド根性の軌跡だ、真田幸斗の、傭兵団西風の子破王の、突き進む意志の、運命を覆す伐刀者の魂だ。皇如きに喰らい尽せるわけなど無い。

 

・・・しかし意志を失くして振るう剣に魂は宿らない、これではただの破壊者だ。

 

「ユキ!もうやめて!いつも真っ直ぐなユキは何処へ行っちゃったの!?そんな自分を見失って暴れるだけの弱いユキなんかもう見たくないよ!!」

 

「あのお馬鹿自分を見失っているわ、どんな苦しみにも悲しみにも屈せずに自分の意志で愚直に進み続けるだけがあのお馬鹿の唯一の取り柄だったっていうのに、それすら失ったアンタになんの価値があるのよ・・・」

 

「・・・アイツ・・・もうだめかもな・・・せっかくここまでのチカラを身に付けたっていうのに・・・」

 

観戦室の仲間達も暴走する幸斗の哀れな姿を目の当たりにして嘆いている、運命を覆し続けた不屈の少年の姿はもう・・・どこにもない、それが悲しくて仕方がないのだ。

 

「・・・・・」

 

そんな嘆き悲しみに沈んだ空気の中、一人静かに動く男がいた。

 

「・・・・重勝?」

 

物音一つたてずに恐怖を感じる程氷の様に冷たい雰囲気を感じさせて強化ガラスの前に立った男の名を涼花は口にする。怒りで我を見失い野獣のように暴れる幸斗を見て何を想ったのだろうか、重勝は顔に影を落として気を静めている。

 

摸擬戦場内の戦闘は最終局面を迎えていた。

 

『西風の子破王のチカラはその程度なのですか?これでは私どころか【傭兵王】にすら及びませんよ』

 

エーデルワイスの幻影が幸斗の心に揺さ振りをかけて来る。

 

「比翼ぅぅっ!!」

 

『私を殺したいのなら本気を出しなさい、それともここで果てて【傭兵王】の許へと行く事を望みますか?そんな貴方に彼は心底失望するでしょうね』

 

「うるせぇ・・・黙りやがれぇぇええええええぇぇえええええぇええええええええっ!!!」

 

憎しみに支配された鬼は狂うように吼えた、大切な人を殺したこの女は髪の毛一本残さない、幸斗は【戦場の叫び(ウォークライ)】の闘気を両腕に纏い鬼童丸をその両手で持ち振り上げる、真田幸斗必殺の【龍殺剣(ドラゴンスレイヤー)】を放って何もかも消し飛ばす気だ。

 

核兵器すら超越する破壊力を誇る龍殺剣が放たれれば摸擬戦場どころかこの施設も・・・いや、この青森県を中心に東北地方の約半分と北海道の一部が日本地図から消えて無くなってしまうだろう、この施設にいる西風の仲間達も共に・・・。

 

———団長もいない・・・帰る場所もない・・・もうどうでもいい・・・生きている意味もねぇ・・・なら、全部消えちまぇぇええええええええええええええっ!!!

 

「うぉぉぉおおおおおおぉぉおおおおおぉおおおおおおおっ!!!!」

 

龍すら殺す究極の一撃が振り下ろされる、少年の絶望と悲しみと共に・・・・・その瞬間だった、ドガァァアアアアアアン!という破砕音が突如として空間を揺るがす様に鳴り響き、粉塵と無数の何かの破片が摸擬戦場の東側から飛来してきた。

 

突然のアクシデントに幸斗は思わず恐怖のあまりに気を失った皇(その際に失禁している(笑))に向けて振り下ろす寸前だった鬼童丸を止める、破砕音が聴こえてきて破片が飛んで来た方向にあるのは既に摸擬戦を終えて待機している西風の仲間達がいる観戦室がある場所だった、そして———

 

「幸斗ぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

そこから幸斗の名を叫ぶ男の声が摸擬戦場内に響き渡った、地の底から吹き上がる様な雄々しい叫び声だ。

 

「・・・・・・・・・えっ!!!?」

 

幸斗は声が聴こえて来た観戦室の方を振り向き、そこに威風堂々と立っている男の姿を見た瞬間、衝撃のあまり眼を限界いっぱいまで見開いていた・・・そこに居たのは————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・団・・・長?」

 

【不撓不屈】という文字が書かれたロングコートを肩に掛け、灼熱の太陽の様な熱気を感じさせる男、団員達を護って命を散らした傭兵団西風団長、熱き魂の【傭兵王】風間星流その人が紅蓮に燃える眼で真っ直ぐと幸斗を見ていたのだった。

 

どうして死んだ筈の星流が此処に?などと思う暇も無く、星流は崩壊した観戦室の壁穴から勢いよく摸擬戦場内の宙へと跳び出し空中で思いきり身体を捻り拳を握って左腕を引く、そして———

 

「歯ぁっ、食い縛れぇぇえええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!」

 

流星の如く叫びと共に繰り出された魂の鉄拳が根性が曲がった幸斗の頬を殴り飛ばした。

 

「ぐほぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

それは肉体どころか魂にもキツく響く一発だった、幸斗の身体が一直線に吹っ飛び反対側の内壁にクレーターができる勢いで叩き付けられ、大の字の体勢でそこにめり込んだ。

 

「痛って・・・・・・え・・・・・シゲ?」

 

「目は覚めたかよ・・・幸斗・・・」

 

壁にめり込んだ幸斗は骨の髄まで沁みるような痛みを感じながら眼を開く、すると目の前にいたのは星流ではなく、その実の息子の風間重勝が左拳を振り下ろしている体勢で幸斗を怒気の籠った眼で睨んでいたのだった。

 

幸斗が見た星流は幻覚で幸斗を殴り飛ばしたのは重勝だったのだ、彼は今非情にみっともない醜態を曝す幸斗を見てキレていた、しかし彼がいつもキレた時に見せる眼のハイライトが消えた悪魔のような冷たい怒りでは無い、歯を軋らせ眉間を寄せて眼を吊り上がらせた激情の怒りである。

 

重勝は真っ直ぐ壁にめり込んだまま呆然としている幸斗に近づき———

 

「シゲ?・・・・なんdうぐっ!」

 

怒気の籠った右腕で幸斗の胸ぐらを掴み上げて壁から引き剥がし、そしてそのまま腑抜け切った根性の幸斗に・・・大声で怒鳴った。

 

「お前何してるんだよっ!!絶望なんかで自分の意志を見失ってみっともない戦いをしやがって!ふざけてんのか!?親父・・・団長や俺はお前にどんな事があっても【突き進む意志】を忘れるなと教えた筈だ!!!」

 

重勝は幸斗の胸ぐらを掴み上げたまま想いのままの激情をぶつけた、故に幸斗は動揺する、今まで重勝がこれ程までに激怒した記憶は幸斗には無いのだから。

 

重勝は絶望して意志を失くした幸斗が許せなかったのだ、今までどんなに無能でも諦めずに誰よりも強くなろうと毎日地獄のような鍛練と実戦を想像を絶する不屈の精神と不変のド根性で乗り越えて来たこの少年が憎しみなんてものの所為で情けない醜態を曝しているのが我慢ならないのだ・・・だが。

 

「・・・もう、オレは進めねぇよ・・・全部終わったんだよ・・・西風も・・・オレの進む道も・・・」

 

風間星流という大きな存在と西風という居場所、二つの心の支えを失った幸斗の中にはもう不屈の精神など無かった、彼に重勝の言葉は届かない、悲しみの涙を流して弱音を吐くだけだ。

 

「オレ達を・・・オレを導いてくれた団長はもういない・・・もうどうする事もできやしねぇよ・・・いっそオレも死んで団長のいる場所にi「ふざけた事ほざいてんじゃねぇぇえええええっ!!!」がはぁぁっ!!?」

 

希望が無いのなら死んだ方がいい、そう幸斗が口にした瞬間重勝の怒りは爆発し怒りの左拳が幸斗の頬に炸裂する。殴り飛ばされた幸斗は後ろの壁に背中から叩きつけられて地に伏した。

 

あまりにも情けない男に成り下がってしまった幸斗に重勝はもう我慢の限界だった、彼は魂の奥底の感情を爆発させる。

 

「お前そんなんで・・・そんな情けねぇ戯言をほざいて・・・そんな曲がりまくった体たらくで———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———親父に・・・傭兵団西風団長【傭兵王】風間星流に顔向けできんのかよっ!!!」

 

「っっっ!!!?」

 

爆発するような重勝の一喝が堕ちかけた少年の魂に突き刺さり幸斗はハッと眼を見開いた、感情の爆発が止められない重勝は続けざまに幸斗に想いのままの激情をぶつけ続ける。

 

「確かに風間星流という男はウンザリする程救い様が無いロマンティストだったさ!だけどあの男は自分の意志を絶対に曲げずに降りかかる苦難に立ち向かい、無理を通し、道理を叩き潰し、運命をブッ飛ばして来たとんでもない男だった!!お前はそんな凄ぇ男に今のみっともねぇ姿を曝して顔向けできんのか!?胸を張って全力で突き進んで生きたって言えるのか!!?答えろよ、真田幸斗っ!!!!」

 

重勝の魂の奥底から来る純粋な想いを乗せた叫びが幸斗の魂を撃ち抜いた、今のお前に風間星流という偉大な男に顔を向ける資格があるのか?憎しみに支配されて意志を見失い恥となる曲がった剣を振るって恥ずかしく無いのかと問い質され、幸斗は・・・みっともない恥ずかしさのあまり悔し涙を流した。

 

「・・・でき・・・ない・・・・胸を張れる・・・わけ・・・ねぇ・・・」

 

幸斗は地に手を着いて突き進む意志を見失った自分を嘆き、心の内を言葉にして曝け出していく。

 

「悲しかった、団長が死んだ事が・・・・悔しかった、比翼の奴にも連盟の連中にも負けて西風を失った事が・・・憎かった、団長を殺した比翼の奴が・・・」

 

「・・・・・」

 

「だから・・・そんな弱ぇ自分が情けなさ過ぎて・・・もう・・・どうだっていいと思っちまって・・・団長がオレに教えてくれた大切な意志を・・・踏み躙っちまった・・・ううっ・・・うぁぁああああーーーーーー!!!」

 

幸斗は自分の大切なものを忘れた事を恥じて泣き叫ぶ。

 

「面目ねぇっ!面目ねぇ面目ねぇっ!!ううぅっ、オレ憎しみなんてくだらねぇ感情でみっともない剣を振っちまった!!自分の意志を曲げちまった!!・・・シゲ・・・団長・・・すまねぇ・・・ホントすまねぇ!!うわぁぁああああああああああああああっ!!!」

 

少年は泣いた、自分が曝した恥を懺悔して泣き叫んだ、心の叫びを・・・そんな少年の叫びを少年の教官である黒髪痩躯の少年は正面から受け止めていた。

 

「俺だって親父を殺した比翼は憎いさ・・・でもよ、どんなに憎くかろーが悲しかろーが、自分の意志だけは見失ったらいけねーよ」

 

重勝は眼の前の教え子の心の叫びを聞き入れながら大切な事を泣き叫び続ける教え子に語る。

 

「憎しみを抱いたっていい、復讐する事も否定しねぇ、だけどよ・・・自分に恥となる剣だけは振るっちゃいけねーよ」

 

実の父親を失った重勝の方が誰よりも悲しい筈だ、なのにこの教官は自分の悲しみよりも潰れそうになっている教え子を再び立ち上がらせる事を優先したのだ、この少年は本当に強い男だ、死んだ父親と同じで。

 

「一度立ち止まって泣いたっていいさ・・・泣き止んだんなら、また進み出せばいい・・・」

 

重勝はその後も幸斗が泣き止むまで彼をその場で見守り続けたのだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうしてオレは自分の教官だった男の拳と教えと剥き出しの本心を有りったけぶつけられて【突き進む意志】を取り戻したってわけだ・・・そしてオレは誓ったんだ、もう二度と風間星流という偉大な男に・・・何よりも自分に恥じるような剣は絶対に振るわねぇとな」

 

「・・・そんな事が・・・」

 

幸斗が語った五年前の話を聞いて刀華は内心驚いていた、どんな事があろうとも自分の想いを真っ直ぐ曲げないであろうと思っていた幸斗が過去に絶望して自暴自棄になっていた事もそうだが、何よりもあの何を考えているのかがよく分からない重勝が激情の怒りを露わにして人に本心をぶつけたという出来事に驚愕したのだ。

 

———あの風間さんが自分の本心を剥き出しにして激怒した事があったなんて・・・。

 

刀華の知る風間重勝という男は飄々としていて掴みどころが無くいつも余裕を絶やさない冷静さで激しい感情を表に出さない印象である、その為彼が激情を露わにして怒り人と正面から向き合って救っていたという話は彼女が衝撃を受けるには十分だった。

 

「その後オレは施設を破壊した罰として独房にブチ込まれて二週間謹慎処分、教育プログラムはランク別だったからBランクのシゲとはそれっきりだ・・・以上、一度大切な意志を見失ったみっともない男の話はこれで終わり」

 

パンパンッと手を叩いて過去語りが終わった事を告げる幸斗、実はその謹慎明けの二週間後幸斗は面会にやって来た隻眼の少年と七星剣武祭で戦う約束をして宿命のライバルとなるのだが、それは今刀華に話す必要はないのでここで締めたのである。

 

「オレは自分の教官だった男の剥き出しの本心によって救われたんだ、内に秘めた自分(テメー)の本心をブチ撒けたら相手を傷つけるかもしれねぇ、そうじゃなくともそれを聴いた第三者に失望されるかもしれねぇ、けどそんなものにビビッてたんじゃあ遠い空に剣は届かねぇぜ・・・生徒会長さん、アンタ有るんだろう?その男にぶつけたい本心ってやつが・・・【善意】や【責任感】なんて理性からの本心じゃねぇ、魂の奥底に眠る【純粋な本心】ってやつがよ」

 

「わ、私は・・・」

 

「分かっているとは思うが裏切られた憎しみなんてものの事を言ってるんじゃねぇぞ、もっと単純で真っ直ぐな感情だぜ」

 

「憎しみじゃないって・・・真田君は憎んでいるんじゃないんですか?貴方の大切な人を殺したあの比翼の事が」

 

「当然憎んでるぜ、団長の仇だからな・・・だがさっきも言っただろ?オレはもう曲がりくねった恥となる剣は絶対に振るわねぇってよ・・・団長の仇は勿論取る、だがそれは憎しみに囚われた【復讐の剣】でじゃねぇ、オレの意志で振るう【自分(テメー)の剣】でやるんだ、比翼はオレの越えるべき最大の目標だ、いつか【オレの剣】で奴をブッ倒す!それがオレの【純粋な本心】だぜ!」

 

「越えるべき最大の目標・・・」

 

真っ直ぐ向けて来る燃えるような灼熱色の幸斗の目線に刀華は圧倒されてたじろいでしまう、幸斗が言う通り刀華は他人の為ではない自分自身だけの本心を曝け出すのを恐れているのだ、これを曝け出してしまったら周りとの関係が壊れてしまうかもしれない、自分を信頼してくれる皆を失望させてしまうかもしれないと・・・刀華は苦し紛れに憎しみを抱いている存在がいるのは君だって同じだろうと幸斗に指摘するが真っ直ぐな言葉で返して来た言葉に刀華は何やら思う事があったようであり、静かに言葉を復唱する。

 

「・・・私は———」

 

刀華が観念して自分の想いを吐き出そうとしたその時——

 

「っ!?・・・何だ今の音は!?」

 

雨音を掻き消す程の轟音がどこからか聴こえて来たので二人は驚きその場を立ち上がる。

 

「音の大きさからしてここから近いですね・・・」

 

「もしかしたら例の巨人が現れたのかもしれねぇ!行こうぜ、生徒会長さん!!」

 

「ちょっ、真田君!?」

 

幸斗は音が聴こえた方角へと一人で横穴を飛び出して行ってしまった、何の迷いも無く真っ直ぐに・・・。

 

「・・・本当に昔絶望していたのかを疑問に思うくらい真っ直ぐな人ですね・・・」

 

刀華はあっという間に姿が見えなくなった幸斗が行った方向を眺めて関心する、自分の宿敵である黒い剣士はあの少年に本能から来る純粋な本心をぶつけて絶望していた少年を再び立ち上がらせて前に進ませた・・・そんな黒い剣士の前に再び立った時、果たして少年の言う【剥き出しの本心】を彼にぶつけてこの気が遠くなる程遠い空に自分の剣を届かせる事ができるのか?横穴から歩き出た刀華は激しく降り続ける雨空を見上げて感傷に浸った。

 

「【一度立ち止まって泣いたっていいさ・・・泣き止んだんなら、また進み出せばいい・・・】か・・・気障な台詞ですね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨人とエンカウントしていたのは一輝達だった。数時間前に突如ステラが高熱の病に倒れ、緊急避難用の山小屋へ避難して雨をしのいでいた一輝達に突然岩石の巨人が襲撃して来た。山小屋は巨人の岩拳によって破壊され、一輝は高熱で弱っているステラを後方に下がらせて雨の中単独で巨人に立ち向かっている。

 

「第一秘剣、《犀撃(さいげき)》っ!!」

 

限界まで引き絞った右手で突き出す一輝の最大攻撃力を誇る対物奥義が岩石の巨人の胸を穿ち、そこに大孔が開通し、そこから岩を繋ぎ合わせて作られた巨人がガラガラと音を立てて崩壊した。

 

よし!と空中で小さくガッツポーズをして安堵を浮かべた一輝が着地した瞬間、なんと今崩壊した岩石が再び重なり合いあっという間に無数の岩人形へと変貌してしまった。

 

「・・・え?」

 

一輝は信じられない物を見るように唖然とする、良く岩人形達を見てみると岩と岩の間に糸の様に細い魔力を感じる事ができた・・・つまりこの岩人形達は——

 

「伐刀絶技・・・敵は伐刀者だ!ステラ、周囲を警戒してっ!」

 

一輝は後方に下がっているタオルケット一枚で何故かそれ以外何も身に着けていない裸同然の姿のステラに注意を促す・・・・・一体二人は山小屋の中で何をしていたのかと疑問に思うところだが、そんな些細(?)な事を気にしている余裕など無い。

 

「イッキ!後ろっ!」

 

「っ!」

 

ステラの叫びに反応して一輝は背後から不意打ちして来た一体の岩人形の岩拳を陰鉄で斬り払ったが、岩人形には少し亀裂が入っただけで大したダメージは与えられていない、明らかに火力不足だった。

 

———これは・・・まずい!

 

硬い岩に刃を打ち付けた反動で腕が麻痺した一輝に周囲の岩人形達が一斉に襲い掛かって来た、流石の一輝もこんな状態で何十体もの岩人形に一斉に殴り掛かられては一溜りもないだろう。

 

「イッキィィイイイイイーーーーーーーーーッ!!!」

 

一輝の危機にステラは悲痛な叫び声をあげる、万事休すか・・・・・・と思われたその時——

 

「させるかよっ!運命を切り拓け!鬼童丸-------っ!!」

 

突然雨空に雄々しく威勢のいい声が響き渡り、一輝に群がって来た数十体もの岩人形達がいきなり上から落ちて来た前髪に朱いメッシュが入った夕焼け色の髪で両頬に逆三角形のタトゥーを入れた灼熱色の眼をした少年が着地と同時に振り下ろした朱い刀身を持つ太刀の一撃の衝撃によって全て木っ端微塵に砕け散った、まさに間一髪だ。

 

「ようっ!待たせたな一輝、ステラ!随分と苦戦してんじゃあねぇか?」

 

「「幸斗(ユキト)君!?」」

 

「成程な、巨人ってぇのはガセネタだったというわけか・・・」

 

鬼童丸を肩に担ぎ威風堂々と現れた幸斗は歓喜の声をあげる一輝とステラの前に立ち、周囲からにじり寄って来ている無数の岩人形達を灼熱の眼で睨みつける、そして岩人形達に向けて・・・叫んだ。

 

「おぅぉうおうおうおうおうデク人形共っ!!集団で群れて寄って集って!オレのダチ共を甚振ってくれるたぁ~いい度胸じゃねぇかぁっ!!」

 

幸斗はいきなり岩人形達に向かって威勢良く啖呵を切り始める。

 

「ゆ・・・幸斗君?」

 

「い、いきなりなにやってんのよユキト!」

 

幸斗の唐突な奇行に一輝とステラが困惑して立ち往生してしまう、幸斗はそんな二人の事などお構いなしに左手に持った鬼童丸を振り上げ刃を天に掲げる、すると剣圧が天に届いて雨雲を吹き飛ばし、陽の光が幸斗を照らす。

 

「天より陽が射す日ノ本にぃ~、荒々と吹き荒れる西熱風っ!」

 

朱い鬼童丸の刀身が陽の光に照らされてキラリと光る。

 

「団を護りて気高く散ったぁ~、偉大な男の魂この胸にっ!」

 

この大空に響き渡る程猛々しく吼える。

 

「受け継ぎし不撓不屈の伐刀者っ!!」

 

燃える太陽のように熱き闘志を秘めた一人の男の姿が少年に重なる。

 

「この真田幸斗がっ!!相手になってやるぜぇっ!!!」

 

運命を覆す不屈の伐刀者、真田幸斗は高々と言い放つと同時に地を蹴った、突き進む意志を宿した剣と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハイ、心の支えを失って絶望した幸斗を救っていたのは星流の息子である重勝でした。

いつもどこぞの白い魔王がO☆HA☆NA☆SHIするかの如くハイライトの消えた眼でキレる重勝ですが、この時ばかりは本気で怒りました。

さて、幸斗と話した一輝と刀華はこれから先どういう想いを抱いて変わって行くのでしょうかね・・・。

次回、いよいよ原作第三刊のあの事件が動き出します!



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