刀華は疾風の如く宙を駆け回っていた涼花が地に降り立ったのを察知しここまで一度も抜き放っていない伝家の宝刀【雷切】を放つ為の抜刀体勢に入る、雌雄を決する時は来た。
「はっ!」
直線上にて待ち構える刀華に向けて極限まで加速した超音速を超えた神速の疾さをもって前へと踏み出す涼花、いつの間にか鉄の投擲槍を生成していた彼女はその矢尻を殴り飛ばすようにして投擲槍を弾丸の如く前に撃ち出し先行させる。
神速の勢いで撃ち出された投擲槍の着弾地点は抜刀体勢の為後方に下げている刀華の左脚だ、だが幾ら投擲槍の弾速が速くても【涼花が投擲槍を殴り飛ばすという動作】を閃理眼で捉えていた刀華にとって狙われた左脚の位置をズラし抜刀の構えを解く事無く投擲槍をやり過ごす事など造作もない事だ。
———構えを崩して雷切を封じた瞬間にその神速の運動エネルギーをもって私に決定打を入れるのが狙いだったのかもしれないけれど問題無い!これで———
終わりだ、そう思いきる前に投擲槍がコンマ数秒前まで刀華の左脚があった場所の床に着弾し、それと同時に刀華は左脚を後ろに引っ張られたような違和感を感じ突如視線が上方に向いた。
「っ!!?」
その時刀華は思い出した、バトルフィールド全体を縦横無尽に駆け回った追走戦の時に涼花が床を鉄化させたのは三か所だったと・・・そう、涼花が狙ったのは鉄化させた最後の場所、即ち今刀華が立っている床だ、ナパーム弾の直撃にも耐え得る伐刀者専用の素材を使った石畳みの床をそれより遥かに脆い鉄床に変え、それを神速の運動エネルギーをもった投擲槍で砕きその場の地形が僅かに変わった。
刀華はそれによってできた穴に左脚を捕られたのだ、視線が上に向いたのは左脚のみが下に下がり体勢が上に向いてしまったからだ、体勢が上に向く程この穴は深かったようだ、そして左脚のみが下に下がったという事は左半身が傾くという事・・・即ち左腰に差してある鳴神も傾き【雷切】の射線が上に向いてしまったという事だ。
閃理眼で確認してみると涼花は体勢を低くした前傾姿勢で真っ直ぐと向かって来ているのがわかる、ここまで分かれば考えなくても彼女の狙いが理解できる、射線が上に向いた【雷切】の下を潜って突破し決着を着けるつもりだと・・・。
———佐野さん・・・本気で【雷切】を正面から攻略するつもりなんですね・・・確かにこの体勢で抜き放ったところでこの刃は貴方を両断する事無く空を切るでしょうね・・・仮に一秒でも時間があるのならば腰の鳴神を傾けて雷切の射線を調節する事ができるのですが向かって来ている佐野さんの速度を考えると間に合わないか・・・でも甘いですよ、私の間合いに入って来るなら刃が当たらなくても一切問題はないっ!!
体勢が傾いた刀華の間合いに涼花が足を踏み入れる直前に鳴神の刀身が収められた黒漆の鞘から雷光が迸る、刀華は一瞬の迷いもなく雷切を抜き放つつもりだ。
刀華の【雷切】は未だに誰一人として破られた事の無い不敗の一刀、抜き放てば必ず敵を斬って落とす無敵の伐刀絶技、それは手向かう者全てを例外無く一閃のもとに斬り捨ててきた伝家の宝刀・・・それが今———
「雷切っ!!!」
抜き放たれた。
雷光が迸り空間を白く焼き尽くす、一瞬にして解放された圧倒的熱量、雷速を超越した一閃が周囲の空間を爆砕し荒れ狂う暴風の余波が観客スタンドにまで及び第四訓練場を揺るがした。
【雷切】が無敗である理由は二つある。
一つはその剣速があまりにも速過ぎ、そしてあまりにも強すぎる為であり、雷すらも斬り裂くその一撃は最早人の身で対処できるものではないからである。
もう一つは今起きている立っている事も儘ならない程の衝撃波だ、音速を超えれば衝撃波(ソニックブーム)が発生するのは当然であり、雷速となればその威力は計り知れない、故に例えその一閃が外れようとも雷速の衝撃波が間合いに入った万物を引き裂くだろう。
故に近接戦において死角無し、刀華は抜き放った一刀に手ごたえを感じなかった、しかし彼女は確かに見た、【雷切】の下を潜るピンクブロンドの髪の少女の小さな身体を白い暴風が掻き消すのを———
・・・だというのに【雷切】を振りきり大気が爆ぜた瞬間、刀華の閃理眼は異常に疾い伝達信号を感じ取った・・・・・・彼女のすぐ後ろから——
———なっ!!!?
鳴神を振りきった体勢で刀華は首をまわし横目で後方を確認し千切れそうな程眼を見開き驚愕した。
「次に貴方は【何で・・・何で貴方がそこにいるの!!?佐野さんっ!!!】と言って驚くわ」
「何で・・・何で貴方がそこにいるの!!?佐野さんっ!!!」
刀華の背後———バトルフィールド端ギリギリの位置に雷切の衝撃波に引き裂かれた筈の涼花がいつの間にか玩具の剣を取り出し鉄化させて生成した鉄の小太刀を両手に一本ずつ携えてそこに存在しているのだから直前に言い放つ言葉を言い当てられても驚いている暇もないのは仕方がないだろう。
———ど、どうして・・・っ!!?
動揺する刀華は自分の背中を突き穿たんと右の小太刀を繰り出して来きている涼花の足下を見て衝撃を受けた、彼女の足下を中心に床に蜘蛛の巣状の亀裂が入って窪みが作られ、そしてなによりも彼女の両脚を凄まじく濃度の高い黒い闘気が覆っていたからである。
よく見ると涼花が身体全体に纏っていた黒い闘気が脚以外の部位から消えているのが判る、闘気が脚に集束されているのだ。
———ま・・・まさか!?あり得ない!!
刹那、ガラッという【天井の一部が崩れ落ちる音】が刀華の耳に入り彼女は確信した、涼花は【雷切】の衝撃波に引き裂かれたのではなく【吹き飛ばされた】のだと。
正確に言うと涼花は暴風の気流に逆らわず激流に身を任せ同化するかの如く流れに乗り自らわざと吹き飛ばされたのだ、流れに逆らわなければ引き裂かれる事は無い。
だがそんな事は刀華もできるので彼女が驚愕したのはそこではない、普通室内でそんな方法で吹き飛べば音速を超えた速度で壁に激突し、例えAランクの伐刀者であっても重傷は免れない、況してや平均的な魔力量でE判定の防御力しかない涼花の場合激突した瞬間に身体が潰れて弾け飛んでしまうだろう、なのに彼女は健在だ、しかも無傷で・・・。
その理由は涼花の脚を覆う集束された高濃度の黒い闘気にあった、彼女は雷切が発生させた暴風に乗って後方に吹き飛んだ瞬間【戦場の叫び】の闘気を両脚に集束し脚を超強化して着地地点の【観客スタンド二階の通路階段】を強化した足で蹴って勢いを殺さないように三角の軌道で跳び、【天井】【反対側の観客スタンド二階の通路階段】という感じで次々に強化した足で蹴りひし形を描く軌道で一瞬にして刀華の背後に回り込んだという事だった。
———天井が崩れる音は強化した足で踏み抜いたから崩落して足下の亀裂は着地した時の運動エネルギーが強すぎてできたもの・・・確かに全て三角跳びで受け身をとったのなら激突の衝撃を軽減したうえでその勢いを殺さず逆に利用して超加速する事も可能・・・だけどいくら脚を超強化したからといって人間の反射速度でこの方法を可能にするなんて———
不可能だ、人外クラスの身体能力を持った伐刀者が地形を完全に把握して激突するタイミングと軌道を吹き飛ぶ前から計算していない限り・・・そう、涼花は試合前・・・いや、対戦相手が刀華に決まった時からこれをやると決めていたのだ、彼女は数日前からこの第四訓練場内に何度も足を運んで全体を隅々まで歩き回り地形を頭の中に叩き込んで計算し【雷切】を攻略する準備を前もってしていたという事だ。
戦いは剣を交える前から既に始まっている、佐野涼花という伐刀者はそのことをこの学園の誰よりも理解していた。
「ぐう”ぅ”っ!!」
さっき折れた肋骨より来る想像を絶する激痛に耐え刀華は【雷切】により振りきった鳴神を【稲妻】による斥力で無理矢理後方に反発させ、身体を捩じって凄まじい速度で後ろに振り返り様に迫る涼花を迎え撃つ・・・とんでもない執念だが涼花の方が一歩速かった、【雷切】の生み出した衝撃波すら利用して音速を超越した勢いで加速し突き出された切っ先は刀華の右手に握られた鳴神の柄を突き飛ばし、刀華は自分の霊装をその手より失った。
「はぁぁぁああああああああぁあああっ!!!」
鳴神を弾き飛ばした際に突き放った鉄の小太刀は砕け散ったが霊装を失った刀華に最早抵抗する術は無い、涼花はそのまま左手に持ったもう一つの小太刀の切っ先を刀華の喉に向けて突き放つ。
———・・・ここで終わりだっていうの?・・・今年の七星剣武祭に出場できず、学園の皆の期待にも応えられず、若葉の家の子供達を悲しませて、諸星さんにリベンジできず・・・・風間さんに一矢報いるどころか前に立つ事すらできずに?・・・。
鉄の刃が迫り絶望しそうになる刀華、この時彼女の心中には昨年の七星剣武祭の敗北から今までにかけての記憶が走馬灯のように駆け巡っていた。
七星剣武祭ベスト4という実績を上げそれを祝福しながらも優勝できなかった事を微かに残念そうにする若葉の家の子供達・・・自分に期待を寄せ頼ってくれる学園の皆・・・自分の隣に立ち共に切磋琢磨してどんな困難も乗り越えてくれる生徒会の仲間達・・・・・そして———
『勝手に学園の期待だとか責任だとかを背負えって言われてもはっきり言って迷惑なんだけど』
『・・・・・お前がそう言うんなら・・・悪魔でも構わねーよ・・・』
『へっ!やってみろよ【序列二位】、楽しみにしてるぜ』
『・・・・試合の結果に難癖付けられる筋合いねーんだけど・・・』
『・・・・・・そうかよ・・・』
自分より遥かに高い大空を飛び、ハイライトの消えた悪魔のような眼で見下ろし裏切った最強のライバルとの記憶が彼女の心の中を光の速さで駆け巡り、それが彼女の精神を奮起させる。
———そうだ、私はこんなところで負けるわけにはいかない!皆の期待に応え、風間さんの前に立つ為にもっ!!!
あの黒い剣士を打倒するという誓いが限界を超えた身体を無理矢理動かした、槍で風穴を空けられ使い物にならなくなった左腕に電流を流し神経を麻痺させて痛覚を断ち、その手で左腰に残った黒漆の鞘を逆手で取った。
「う”ぁ”あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”あ”あ”ぁ”あ”あ”あ”っ!!!」
「なっ!!?」
折れた肋骨が体内の臓器を傷つけ血反吐を吐きながらも刀華は渾身のチカラを振り絞り左手で鞘を振るって鉄の小太刀を受け止めた。これにはさすがの涼花も予想外だったみたいで驚いている。
結果もう一つの鉄の小太刀も砕け、鳴神の鞘は限界を迎えた刀華の手から握力が失われて弾き飛ばされた、またしても相討ちだ・・・だが——
「はぁぁぁあああああぁぁああああっ!!!」
涼花にはまだ自身の拳が残っている、左脚を前に踏み出し左の小太刀を振るう際に一度引っ込めた右手を握りしめ再び突き出した、狙いは・・・刀華の顔面だ、体力も精神も限界を迎えた刀華は最早抵抗できない、後は鉄の指貫グローブを着けた涼花の拳が自分の顔面に直撃するのを待つだけだった。
———・・・終わった・・・全部・・・・。
パキィィーーーーーーンッ!!何もかも出し切った刀華が全てを諦め眼を閉じた瞬間、彼女の耳にそんな硝子が割れるような音が入ってきた・・・目の前から。
「—————え?」
刀華は思わず眼を開いた、すると眼前に涼花の右拳があったので刀華は尻餅をついてしまったのだが・・・その拳は刀華の顔面を捉える直前の位置で止まっており、その拳を覆っていた筈の涼花の霊装【鉄の伯爵】が何故か砕け散っていた。
「・・・・・わたしもまだまだ三流ね・・・幾ら全力だからって魔力に余力を残さず使い切ってしまうなんて・・・」
涼花はそう呟いていた、よく見ると左手の鉄の伯爵も砕け両脚に纏っていた筈の黒い闘気もきれいさっぱり消えていた・・・そう、涼花の魔力が枯渇したのだ。
考えてみれば涼花の魔力量判定はDランク、平凡な量しか持って生まれてこなかった凡人なのだ、ただでさえ刀華の遠距離攻撃を封殺する為に多数の避雷針を生成してバトルフィールド全体に突き立てたり遠距離戦(ロングレンジ)で牽制する為に沢山の飛び道具を生成したりして半分以上の魔力を消費したと言うのに【戦場の叫び】なんて燃費の悪いスキルを使って長く持つ筈がない、当然の理だ。
『こ、これは一体何が起こったのでしょうかっ!!?東堂選手の伝家の宝刀【雷切】が遂に抜き放たれ、凄まじい衝撃波が会場内を蹂躙したかと思ったらいつの間にか佐野選手が東堂選手の背後に回り込み東堂選手が鳴神を手放して床に座り込んでいました!!この状況から判断すると佐野選手は雷切を掻い潜って東堂選手の背後に回り込み彼女にカウンターを決めようと拳を繰り出したと思われますが・・・しかしどういう事でしょうか?両者共に霊装を失っています・・・』
雷切による暴風が止んで我に返った観客達が唖然として動揺している、当然だ、この状況を作った当事者二人は体感時間的に何分にも感じたのだろうが、実際は【雷切】が抜き放たれてから僅か一秒しか経っていないという刹那の攻防だったのだから・・・。
「どうなってんの?何で雷切を放ったのにあの一年は倒れていないのよ?」
「うわっ、なんだこれ!?階段が崩壊している!?」
「うおっ!?まぶしっ!あそこの天井穴なんか空いていたか?」
「会長、何で座り込んでいるんだ?」
ざわざわと騒ぎ立てる観客達、そんな雑音の中で涼花は前に繰り出していた右手を上に掲げ———
「・・・降参(リザイン)するわ」
と告げた・・・。
『こ・・・ここで佐野選手降参(リザイン)を宣言!!ハイレベルな凄まじい攻防の連続で本日の再注目カードに相応しい激熱な試合でしたが、それを征したのはやはりこの人!我らが生徒会長【雷切】東堂刀華選手ですっ!!!佐野選手もギリギリまで喰らい付き東堂選手を追い詰めましたがやはり前年度ベスト4の壁は厚かった!!』
勝負は決した、勝利の女神は刀華に微笑んだのだ・・・・・しかし、当の本人は涼花の突然の降参宣言で頭が混乱していて尻餅を着いたまま動揺の眼で涼花を見上げていた。
そんな刀華を涼花は不機嫌な顔をして見下ろし口を開く。
「納得いかないでしょうけど・・・生徒会長さん、わたしは無駄な抵抗をする程バカに成りきれないの、理解しているんでしょ?魔力が無い人間は幸斗の龍殺剣のような火力がなければ高ランクの伐刀者に傷一つ付ける事もできはしないって・・・」
「・・・・・」
「貴方の霊装を弾き飛ばした後の一撃で決めて丁度魔力を使い切って勝つつもりだったのだけど貴方の執念がわたしの愚策を上回った・・・ただそれだけの事よ、魔力が尽きた時点でわたしの負けは確定、少なくともルールに縛られた試合形式だとね・・・」
刀華の勝利を祝福する大歓声の中、涼花は呆然と座り込んだままの刀華に背を向け赤ゲートに向けて歩き出す。
「【もう少し魔力があれば勝っていた】とか【持って生まれた才能に助けられたわね】とか見苦しい言い訳をするつもりはないわ、全部わたしが戦術家としてド三流だったのが悪いの・・・じゃ、七星剣武祭の代表入り目指して頑張ってね」
去り際にそう言って振り返らずに軽く手を振りながら涼花は赤ゲートを潜ってバトルフィールドから退場して行き、刀華はそれを呆然と見送る事しかできなかった。
理屈は理解できる、しかしこんな勝ち方で胸を張る事などできはしない。
読み合いで負け、体技で後れを取り、挙句今まで無敗を誇っていた自慢の必殺の伐刀絶技を突破された・・・今まで自分が磨き上げてきたもの全てが敗れたと言うのに持って生まれた魔力(さいのう)のおかげで勝てたなどと彼女のような一流の戦士が納得できるわけがなく、ポッカリと大きな孔が空いたような虚無感が戦いに勝利した筈の学園の英雄と呼ばれる少女の心を埋め尽くしていた。
「・・・ふぅ・・・」
赤ゲートを潜って退場し控室に戻った涼花は次の試合の選手が赤ゲートを潜って入場するのを見送ると気が抜けたように壁に凭れ掛った。無理もない、【戦場の叫び】は制御可能と言っても一輝の一刀修羅と同じ自分の全てを使うスキルには変わりないのだから。
「本当にド三流な選択をしたわ、不足の事態に対処する為に余力を残す事は戦術の基本なのにそれを一時的な感情に身を任せて度外視するなんて戦術家として有るまじき愚行だったわね・・・」
「でも後悔はしてないんだろ?」
涼花が壁に背を預けて今の試合を振り返り反省しているとそこへ通路側の扉を開いて幸斗が入室してきた、涼花が【戦場の叫び】を全力で使った反動で疲れ切っている事が分かっていた為、次の試合の観戦を続ける如月兄弟と別れて彼女を迎えに来たのである。
「ホラ肩貸してやるよ、もう出血は止まっているんだろうが斬られた事には変わりねぇんだ、医務室行くぜ」
「・・・ええ、お願いするわ・・・」
幸斗の申し出に甘えて涼花は幸斗の首の後ろから左腕をまわし彼の横に寄り掛かるようにして立ち上がり二人は医務室に向かう為に控室を退出して薄暗い通路をゆっくりと歩いて行く。
「まったく、疲弊している女の子を歩かせるなんて気が利かないわね、抱きかかえて行くって考えはなかったのかしら、このヘタレ」
「図々しい、んな無駄口叩けるんだからこれで問題ねぇぜ」
「・・・はぁ・・・ホント相変わらず失礼なお馬鹿なんだから・・・」
他愛の無い会話をしながら通路を歩き続ける二人、その様子を見るに涼花は今回の敗戦で反省はしても落ち込んではいないようである。
「・・・そうね、後悔はしていないわ、少なくとも今のわたしじゃ本気を出さずして生徒会長さんの雷切を攻略する事は不可能だったでしょうからどっちにしろ負けていただろうし、寧ろ愚策でも本気を出してよかったと思っているわ・・・わたしもまだまだ戦術家としてド三流だという事を実感できたのだしね」
今回の敗戦は自分を見つめ直すいい機会だったと涼花は感じており、戦術家として三流だったから負けたというその言葉の裏にはあくまでも一流の戦術家は絶対に運命に負けたりしないという持論を貫く想いもあった、当然だ、それこそ佐野涼花の絶対的価値観(アイデンティティー)なのだから。
「で?アンタはわたしと会長さんの試合を見てどう思った?まさかわたしが負けたからって怖気づいたなんて言わないでしょうね?」
「んなわけねぇだろ・・・寧ろワクワクしてきたぜ、七星剣武祭には生徒会長さんみてぇな強ぇ奴等がいっぱい出て来るのかってよ!」
少し意地悪そうな言い方で煽るように聞いてくる涼花に凶悪なくらい不敵な笑みでそう言い返す幸斗、想像もつかないような猛者達と戦えるのが楽しみで仕方がない、そんな顔だ。
「ワクワクしてきたってどこの戦闘民族よ・・・眩しいわ、馬鹿やってる間に出口が見えてきたわね」
太陽光が入り込んで来る外への出口が正面に見えてきた。薄暗い通路にいる為かそれはまるで暗闇の中に光の扉が出現したかのような光景であり、彼等を明日へと導いているように見えた。
「・・・へっ、んじゃ行くかっ!」
未来(あす)に向けて———二人は光の扉を潜り、世界中を覆い尽くしそうな暖かい光に出迎えられるのだった。
・・・こうして学内選抜戦第十六戦目は代表入り候補の一角であった【深海の魔女】と【月花の錬金術師】が敗戦を喫するという結果に終わった。
選抜戦もいよいよ終盤に差し掛かり七星剣武祭代表入り争いはますます激しさを増す事だろう、果たして七星の頂きへの切符を掴む六人は誰になるのだろうか?
激闘決着!結果は涼花の敗北となりました。
何気にオリキャラの敗北は今回で初ですね、オリ主及びオリキャラ最強モノではないのでこういう事もあります。