運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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佐野涼花の体技、東堂刀華の一年間

閃理眼から齎される情報による刀華の予測を逆に利用して彼女を罠に嵌め、その隙に鉄の長槍———現七星剣王の霊装と同じ種類の武器を造りだし刀華を睨みつける涼花。

 

———相手の能力の裏を掻く思考にそれを怯まず実行する大胆不敵さ、そして戦術が成立するまでどんな事があっても心を乱さない冷静沈着さ・・・流石佐野さんですね・・・。

 

刀華は涼花の戦術を見切る自身があった、しかし見事に出し抜かれてしまい少々恥ずかしく思った刀華は佐野涼花という戦術家の認識を改めた、認めよう、彼女はこの眼で捉えきれるような相手ではないと・・・しかし、刀華は口の端を若干吊り上げて微笑していた。

 

———ですがその選択は大きな間違いですよ・・・何故なら貴方と七星剣王とでは決定的な違いがある!

 

『おおっと!動きが止まっていたのも束の間、東堂選手迷いなく佐野選手へと駆けだした!』

 

相手が昨年自分が負かされた伐刀者の霊装と同じ種類の武器を持って待ち構えているというのにそれに怯まず正面から突撃する刀華。

 

得物のリーチというアドバンテージを得ている涼花は雷切の射程に捉えられるより先に刀華を射程圏内に捉え、片脚を踏み出してその長いリーチを活かした突きを繰り出す。

 

刀華は一瞬にして身を屈めて迫る槍の真下を潜りそのまま涼花の懐に潜り込む、槍という武器はそのリーチ長さからして懐に潜り込まれると弱いという弱点があり刀華はその弱点を把握していた、故に迷わずこの避け方をして接近したのだ。

 

右手で鳴神の柄を掴んで抜刀の体勢に入る刀華、彼女はその刃が届く距離に涼花を捉えた瞬間に雷切で彼女の細い胴を一閃するつもりだ・・・だがそれをアッサリやらせる程佐野涼花という伐刀者は甘くない———

 

「はぁっ!」

 

伝家の宝刀が抜かれる前に手首を翻して長槍を回す涼花、刃が付いていない柄尻の部分が弧を描いて払い上げるように刀華に迫る。

 

「ふっ!」

 

刀華はそれを横に転がる事によって余裕で回避に成功、すかさず涼花が長槍を棍のように振り回して刀華を追撃するものの刀華は軽々と回避し続け涼花を翻弄していた。

 

———見事な槍術ですね佐野さん、槍の主となる攻撃方法である【突き】を囮にし長い棒のような柄を棍術のように振るって【払う】・・・一体どれだけの武術を修めているのかと関心しますが残念ながらその程度じゃ【七星剣王】には程遠い。

 

涼花の繰り出した遠心力を利用した長槍の横払いを小さくバックステップをして回避する刀華。

 

———槍の攻撃方法は【突き】と【払い】の二種類があるけれど【七星剣王】の槍術には一切【払い】が存在しない。

 

横払いを躱した刀華は涼花が長槍を反転させる隙を見て前に出る。

 

———【七星剣王】の【突き】は強いし速い、【払い】なんて必要ない程に・・・だけどそれだけなら私は負けたりしない、何故なら【突き】はあくまでも【点】の攻撃でしかないから見切りやすい。

 

手首を器用に翻して柄を回転させ向かって来る刀華に突きを放つ涼花、しかし刀華はそれを見越したかのように身体を傾け、長槍の切っ先の狙いの外に位置取って突進し続ける、このままだと涼花の突きは空を切り大きな隙ができるであろう、そうなったら雷切の絶好の的だ。

 

———・・・でもあの人の突きは———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【曲がる】んでしょう?七星剣王の突きは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな声を耳にした瞬間、刀華の閃理眼が視覚えがある奇妙な伝達信号を感じ取った、目の前の少女の身体から——

 

「———なっ!!?」

 

瞬間、涼花が突き放った槍の軌道が変わった。

 

「ぐうぅっ!!?」

 

『な、なんと!?佐野選手の渾身の突きが東堂選手の左肩を貫いたぁぁああああっ!!東堂選手この選抜戦初のダメージ!先制したのは佐野選手だぁぁあああああっ!!!』

 

強烈な一撃が刀華を後方に突き飛ばし観客スタンドからどよめきの声が上がる、刀華は脚を踏ん張ってなんとか倒れずには済んだものの貫かれた左肩の傷口から流れ出る血を右手で押さえて20m前方にいる涼花を睨みつける、刀華の表情は激痛による苦痛よりも涼花が繰り出した槍の軌道が突然変わった事による驚愕に染まっていた。

 

「どうなっているの!?・・・どうして佐野さんが《ほうき星》を!?」

 

思わず声を荒げて思った事を口に出してしまう刀華、無理もない、今涼花がやったのは現七星剣王が使う変則体技【ほうき星】そのものだったのだから。

 

「・・・ふう、手首が痛いわ、七星剣王みたいに連発するのは無理みたいね・・・ま、動画を観た見様見真似の一夜漬けの特訓じゃこんなものか・・・」

 

右手首をブラブラ振って訝しそうにそう言う涼花、完璧にできなかった事に納得がいかない様子だ。刀華はそんな涼花の発言を聞いて驚愕の表情を更に険しくする。

 

———今・・・何て言ったの?・・・動画を観た見様見真似?・・・一夜漬け?

 

困惑する刀華、七星剣王の【ほうき星】とは槍を突き出す瞬間手首のスナップと肘の角度を変えることで【槍を突き出しながら軌道を変える】変則体技だ、曲がるというのはその軌道の変化があまりにも鋭すぎるが故に受けた者には槍が曲がったと錯覚するからである。

 

そしてそれは傍から見たら一突きにしか見えない程の超高速変化の筈だ、実際この場で今の一撃の事象を正しく認識できた者は誰一人としていない、一般生徒達は勿論有栖院やステラや如月兄弟、幸斗や一輝でさえも【刀華が槍の突きを躱し損ねた】としか認識できていない。

 

涼花が口にした動画というのは恐らく七星剣王の公式戦の記録映像だろう、七星剣王が【ほうき星】を使ったところをその動画で観たのだろうが今説明した通り常人では・・・いや、一流の魔導騎士でさえ映像越しでほうき星の変化を認識する事は厳しい、もし涼花が言った事が事実ならば彼女は映像越しで【ほうき星】が視えていたという事になる。

 

恐ろしい動体視力だと刀華は思った、事実涼花は【アンクルブレイク】や【交叉法】などといった並外れた動体視力がなければできないような事をVSステラ戦にて披露していたがここまできたら最早並外れたでは済まないだろう。

 

驚愕の理由はそれだけではない、突きと同時に軌道を変え鋭すぎる所為で槍が曲がって見えるなんて芸当一夜漬けでできるものではない、【ほうき星】は現七星剣王が気が遠くなる程の果てに極めた積み重ねた努力によって成し遂げられた奇跡なのだから。

 

———想像を絶する程の技量がなければあの体技を身に付ける事なんてできる筈がない、況してや一夜漬けなんて・・・佐野さん、一体貴方は傭兵時代にどれだけの修練と実戦を積んできたというの?

 

生徒会のメンバー達は涼花達が元傭兵だという事を知っている、独自に調べたからだ。刀華は涼花が不完全とはいえ現七星剣王の体技を使用したという現実に対して涼花の過去の修練と実戦の賜物だろうと思い彼女の・・・いや、傭兵団西風の底知れなさを感じて内心戦慄していた。

 

「・・・・・・」

 

再び鉄の長槍を構えて無言で刀華を睨みつける涼花、その眼(まなこ)は戦慄する刀華の姿をしっかりと捉えている、凄まじい闘気と威圧感だ、まるで蛙を睨みつける蛇のような眼光だ、刀華の額から汗が流れ出る。

 

———いくら探しても全く隙が見当たらない、【意識の狭間】すらも・・・七星剣王の《八方睨み》にも引けを取らない程死角が無いし、どうしようか・・・。

 

刀華は左肩の傷口から右手を離し凄まじい威圧感で睨みつけてきている涼花に対抗するように鋭い目線で睨み返し抜刀の構えをする、相手の過去を模索したって仕方がない、試合に勝つ事の方が重要だ。

 

———雷撃はリング中に突き刺さっている避雷針で封じられている、接近しようものなら巧みな槍術と【偽・ほうき星(今、刀華が名付けた)】で迎撃される、【抜き足】で接近しようにも意識に隙が無い・・・これは完全に戦いの主導権(イニシアチブ)を取られちゃったな・・・。

 

困り果てて眉を顰める刀華、誰がこんな展開を予想しただろうか?絶対無敵の雷切による無敗の近接戦(クロスレンジ)を持ち学内序列第二位で前年度の七星剣武祭ベスト4の東堂刀華がEランクでたかが【生き物以外の触れた物を鉄に変える】なんて程度の低い能力の伐刀者に主導権を奪われて窮地に陥るなどと。

 

沈黙が第四訓練場内を支配する中涼花と刀華は睨み合い、それは永遠に続くのかと思ってしまう程時間が経過したその時———

 

「・・・・いい加減飽きたわ」

 

『佐野選手長い沈黙を破って動きだした!あまりに長い睨み合いに痺れを切らしたのか!?槍の切っ先を東堂選手に向けたまま突進だぁっ!!』

 

———我慢できなくなった?違う、佐野さんは常に冷静だ、閃理眼で視たから判る。

 

突騎兵のように突撃して来る涼花を迎え撃つ為に身構える刀華、あまりにも凄まじい速度だったので槍の切っ先が風を突き斬り三角錐状の小規模な衝撃波が発生している・・・そして一秒も掛からず鉄の長槍が刀華を射程圏内に捉えた。

 

突進の勢いのまま突き放たれた槍を刀華は左に回避しようとするが涼花は当然【偽・ほうき星】で槍の軌道を変えた、狙いは刀華の利き腕である右腕だ。

 

———・・・ここだっ!!

 

刀華は迫る長槍の切っ先を狙って鳴神を抜刀、銀色の刃は見事に槍の切っ先の横腹に命中し軌道を外側に逸らす事に成功した。

 

「やぁぁああああああっ!!」

 

好機と思った刀華はそのまま抜刀した鳴神を上段に構えて大きく踏み込み若干体勢を崩した涼花の喉を目掛けて突き放ち、銀色の切っ先が彼女の喉を———

 

「————っ!!?」

 

突き穿つ寸前で刀華は突如として涼花を見失ってしまう、刀華は涼花が何をしたのかをすぐに理解した、自分の【意識の死角を突かれた】と。

 

脳の情報の優先度が低い【覚醒の無意識】に入る【抜き足】とは似て非なり、完全に相手の【意識の外側】に身を置いて存在を見失わせるという傭兵団西風の特殊スキルの一つ【集中回避】。

 

【意識の外側】を突かれた人間は基本的にこれに対処する事はできないのだが刀華には相手の身体に流れる伝達信号を感じ取る【閃理眼】がある、意識から外れていても伝達信号が発せられる場所を感じ取ればそこに敵は必ずいる。

 

・・・後ろだ!刀華は踏み込んだ脚を軸にして腰を回し弧を描く軌道で振り返り様に水平斬りを放つ態勢に入りカウンターを狙う。

 

「ちょっと遅いわね、生徒会長さん」

 

「なっ!?」

 

刀華が振り返った時には既に涼花が鉄の長槍をもって突き放って来ていた・・・それは傍から見たら一突きにしか見えずに三点同時に穿つ現七星剣王の《三連星(さんれんせい)》をも上回る——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———五連・・・同時突き!!?

 

「《流穿五芒星(ペンタルファトラスト)》っ!!」

 

「ぐはぁぁっ!!!」

 

突き放たれた五つの刃の内三つが刀華の両膝と左の上腕を刺し貫き、残り二つが右の前腕と蟀谷の右側を掠り鮮血が飛び散った。

 

『佐野選手の攻撃がまたしても東堂選手にクリーンヒット!!痛烈な一撃が・・・いや、一撃にしか見えませんでしたがよく見ると東堂選手は今の一突きで五ヶ所負傷している!!?超神速の五連突きだぁぁあああっ!!』

 

「くっ!!」

 

堪らず後方に飛び退く刀華、閃理眼で涼花の動きを察知したおかげで槍が突き刺さる寸前に反応し、右腕を下げ首を左に傾ける事によってなんとか利き腕と頭部の負傷を軽傷にする事に成功、両脚は突き刺さった瞬間に若干後方に身を下げる事によって負傷はしたものの機能はするくらいにはダメージを和らげる事ができたのだが———

 

———くっ!左腕はもう使い物にならないか・・・左腕を狙った一撃だけ【偽・ほうき星】を使って来たから避けきれなかった・・・。

 

言葉にならない程の左腕の激痛に表情を曇らせる刀華、上腕に空いた大きな傷口からの流血により緋色に染まった左腕をだらんと垂らしていて明らかに左腕はもう機能していない事が解る。

 

———・・・これが佐野さんの・・・風間さんの教え子の実力か・・・。

 

この機を逃すまいと追撃して来る少女を自分が打倒すべき黒い剣士の姿と重ねてギリッと歯を軋らせる刀華、そうだ、私はここで負ける訳にはいかない、あの学園最強の裏切り者にこの刃を届かせるまでは・・・刀華は激痛を堪え鳴神の刃を左腰の鞘に収め、抜刀体勢で迫る涼花を迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これはなんと予想外な試合展開なのでしょうか!?あの【雷切】東堂刀華選手がEランクの佐野選手が振るう槍術の前に防戦一方!雷切の間合いに入る事ができずに徐々に身体中に刺突傷が付いて追い詰められて行く!東堂選手このまま昨年の七星剣武祭準決勝の敗戦の二の舞となってしまうのかぁぁあああああああっ!!?』

 

「マジかよ、あの雷切が・・・」

 

「なんなの?あの一年・・・」

 

「俺・・・夢でも見てんのか?・・・」

 

「これはもしかするともしかするかも・・・」

 

破軍学園の英雄である刀華が主導権を奪われて劣勢となっている光景を目の当たりにして観客の生徒達が動揺の声を洩らしている・・・ここは一輝達がいる席とは反対側の位置にある赤ゲートの真上の席、そこに生徒会庶務・兎丸恋々、生徒会書記・砕城雷、そして生徒会副会長・御祓泡沫———現在入院中の生徒会会計・貴徳原カナタを除く生徒会メンバー達がこの場に集い自分達のリーダーの試合を真剣に見守っていた。

 

「ひぇぇ~、かいちょーがボコボコにされてる・・・」

 

「元傭兵団西風の【鉄の乙女(アイアンメイデン)】佐野涼花・・・よもやこれほどの腕とは・・・」

 

防戦一方なリーダーの姿を目の当たりにして唖然とする恋々と砕城、やはり彼等も刀華が劣勢に陥っているのが信じられないようだ。

 

「アタシが試合で負けたクロガネ君やキサラギ君といい、さいじょーを熱海までブッ飛ばしたサナダ君といい、ホント今年の一年生はバケモノだらけだね~、アタシ達二年生の代表候補は全滅しちゃって上級生としての面目が丸潰れだし・・・」

 

「うむ、まったくもって情けない限りだ・・・」

 

「カナタ先輩も負けちゃったし、もしここでかいちょーまで負けちゃったr「バカな事言ってるなら少し黙ってよ恋々」・・・副かいちょー?」

 

刀華が負けると不安そうに恋々が口にした瞬間にこの試合が始まってから不気味なくらい真剣に無言で観戦していた泡沫が冷たい印象の低いトーンの声で恋々の発言を制した、いつも呑気でふざけている事の方が多い泡沫の印象からはかけ離れた冷たい声で言うので恋々は畏縮した。

 

「刀華が負ける?おかしな事を言うんだね、確かに涼花ちゃんの戦術は脅威だし体技だってあの七星剣王に引けを取らないくらい凄い・・・だけどこの一年間刀華が何もしないでいたと思うかい?」

 

「それは・・・」

 

「ありえぬな、あの方は常に上を見続けるお方だ、昨年の敗戦の経験を活かして何か対策を練っているに違いない」

 

「そういう事さ、何も心配する必要は無いよ、背負っているものの重みが違うんだ、刀華は必ず勝つ」

 

自信をもって【刀華は勝つ】と断言する泡沫、彼は刀華を信頼しきっていた、今まで培って来た絆、大勢の人達に希望を与えるという重責、そして大切な人達を想う心がある限り彼女は負けたりしないと・・・。

 

「そう、涼花ちゃんにも今の七星剣王にも・・・風間重勝にだってね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『佐野選手猛攻っ!流れるような槍術で東堂選手を雷切の射程圏内に入らせずに攻め立てる!ラッシュ!ラッシュ!ラッシュ!!東堂選手防ぐのが精一杯だぁぁああああっ!!』

 

長槍の長いリーチを活かした鋭い突きに時折【偽・ほうき星】を織り交ぜ、懐に潜り込まれそうな躱し方をされたなら長槍を棍の様に回して【払う】ことによって牽制する、一見すると涼花の方が圧倒的に優勢に見えるし事実先程まではその変則的な攻勢で刀華を圧倒していたのだが———

 

———・・・何かがおかしいわね、さっきまで生徒会長さんは重心を後ろに下げて打ち合っていたのに今は安定した・・・いや、寧ろ少々前傾姿勢になっているわ。

 

再び鳴神を抜刀した刀華と打ち合いながら今の状況に違和感を感じる涼花、打ち合いで前傾姿勢という事は攻めに転じているという事だからだ。

 

———わたしの攻めに慣れてきたという事?・・・いや、今でもわたしが急に槍の軌道を変えれば生徒会長さんは受けに回っているわね・・・。

 

つまり刀華は涼花の槍術を見切ったわけではないという事だ。

 

涼花は突きを左に躱して自分の懐に踏み込もうとしている刀華を【偽・ほうき星】で追撃し、その際に咄嗟に受け止めてきた鳴神を大きく外側に弾き飛ばした、これで刀華に隙ができた。

 

———もらったわ!雷切ならともかく生徒会長さんの通常の剣速じゃこの位置からわたしの切り返しには追い付けない!!これで———

 

決定打が入る!・・・涼花がそう確信して再び槍を突き放とうとしたその時、外側に弾かれていた鳴神が突如雷光のような速さで切り返されて突き放たれた槍を斜めに割り込むようにして上から叩き落した。

 

———なっ!!?何、今の切り返しの速さ!?

 

ここで涼花がこの選抜戦で初めて動揺の感情を顕わにした、彼女が調べた刀華の情報にはこのような技は無かったからだ。

 

「くっ、はぁっ!」

 

涼花は叩き落された反動を利用して槍をクルッと回し左脚を軸にして一回転して即座に連撃を繰り出すがこれも刀華の異常な速度の切り返しによっていなされてしまう。

 

———どういう事?ただの魔力強化じゃAランクでもない限りこの切り返しの速度は出せない筈よ。

 

相手の弾き返しの反動を利用した流れるような槍術で刀華を攻め立てる涼花、しかし今の刀華には簡単にあしらわれ、先程まで刀華が後退気味だったのに今は涼花の方が後退気味だ。

 

———この切り返しの速さ、まるで強力な斥力で反発させているような・・・まさか!?この感じは!

 

佐野涼花は常に流動的な戦場の変化に対応する為西風時代から肌で周囲の空間の変化を敏感に感じ取れるように鍛えてきている、故に察する事ができた、刀華の周囲に特殊な磁場が形成されているのを。

 

———なるほど理解したわ、生徒会長さんは電磁力の引力と斥力を利用してこの異常な剣速の切り返しを繰り出しているのね。

 

先程泡沫が言った通り刀華はこの一年間何もしていなかったわけじゃない、今刀華が使っている伐刀絶技は現七星剣王の【ほうき星】を攻略すべく編み出し磨き上げてきたものだ、手首にかかる負担が尋常ではない為乱発はできないものの、その稲光のような斬閃の鋭さによる切り返しは相手のリズムを狂わせる、これが刀華の新伐刀絶技の一つ《稲妻(いなずま)》である。

 

「・・・佐野さん、貴方には感謝します」

 

刀華が打ち合いをしながら悠々と涼花に話しかける。

 

「七星剣武祭の舞台で諸星さんと再戦する前にこの伐刀絶技が【ほうき星】に対抗できるのかを確かめる事ができたのですからっ!!」

 

長い打ち合いはとうとう終わりを迎えた、刀華が振るった軌跡しか見えない程の剣閃が涼花の長槍に打ち込まれて彼女を後方に大きく弾き飛ばした。

 

「くっ!」

 

バク転側転バク宙とバトルフィールドの端までアクロバティックに距離を取った涼花、雷切の射程圏外でも近接戦(クロスレンジ)は不利と悟った涼花は遠距離戦(ロングレンジ)中心の戦術に切り替えようと左腕の手拭いに右手を添える。

 

刀華の飛び道具はバトルフィールド中に突き刺した無数の避雷針により封じられている、最高速力も二人はほぼ同じだ、近づかなければまず涼花が負ける事はないだろう。

 

———・・・仕方ない、遠距離戦で牽制しながら戦術を練り直しt———

 

涼花がそう考えた瞬間、突如左手に持った鉄の長槍と彼女の両手の鉄の指貫グローブ型の霊装【鉄の伯爵】が凄まじい【引力】によって正面に引っ張られた。

 

「っ!!?」

 

引っ張られる長槍と霊装に引かれて涼花の身体が宙に浮き上がり数十メートル前方で【鳴神を後方に引くようなジェスチャーをしている】刀華に向かって真っすぐ強制的に飛んで行く、抵抗は・・・できない。

 

———これは・・・【磁場を直線状に延ばして電磁力の引力で金属の物を引き寄せている】っていうの!?

 

刀華が倒すべき相手は現【七星剣王】だけではない、これは大空を蹂躙する黒い剣士——学園最強の【裏切り者の序列一位】風間重勝を大空から地に引きずり墜とす為に編み出した彼女の二つ目の新伐刀絶技・・・その名も———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《落雷(らくらい)》っ!!!」

 

涼花が刀華の領域(クロスレンジ)にダイブした瞬間に鳴神の刃が袈裟の軌道で振るわれ、涼花が持っていた長槍が柄の中央から両断されて——

 

「——がっ!!?」

 

涼花の左胸から右脇腹までにかけて鳴神の一閃が刻まれた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




刀華の刃を受けてしまった涼花、果たして試合の行方は?

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