運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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涼花VS刀華の試合の開戦です!




月花の錬金術師VS雷切

十分前の幸斗と珠雫の激闘によりバトルフィールドが大破した破軍学園第四訓練場・・・それも経った今理事長である黒乃の手によってクレイジーダイヤm・・・もとい、修復が完了しいつでも試合をする事が可能な元の石畳のリングに直った。

 

次の戦いの期は・・・熟した。

 

『皆さん、長らくお待たせしましたっ!これより本日の最注目カード、第十三試合目を開始します!』

 

実況解説の女子生徒の試合準備完了の放送が第四訓練場内に響き渡り、今日これまでに無いと言える割れんばかりの大歓声が沸き起こった・・・たった今青ゲートから姿を現した破軍学園の英雄の登場によって。

 

『さあまず青ゲートから姿を見せる騎士はこの学園で知らない者などいないでしょう!我が校の生徒会長にして校内序列二位!しかし学園の誰もが口を開けばこう言います、【彼女こそ破軍学園最強の騎士だ】とっ!それは彼女が今までに出した輝かしい実績が示しています!前年度の七星剣武祭では二年生で準決勝まで駒を進めるという快進撃を見せ堂々のベスト4に輝き、この選抜戦でも未だに無傷の十五戦十五勝無敗!あの【裏切り者の序列一位(エース・オブ・ビトレイアー)】風間選手や現【七星剣王】諸星選手にすら破られた事の無い不敗の伝家の宝刀が今日も金色の閃光が瞬くと共に相手を斬って落とすのか!?三年Bランク【雷切】東堂刀華選手ですっ!!』

 

相手を射貫くように鋭く、しかし奥に皆の為に必ず勝つという決意の焔を秘めた眼をした刀華が栗色の長い髪を靡かせて盤上に上がる、その眼にはいつもかけている眼鏡は無い、視力を遮断する事によって生物の身体に流れる微細な伝達信号を感じ取る伐刀絶技【閃理眼(リバースサイト)】の精度を最大にする為・・・つまり刀華は本気なのだ、彼女の正面に見える赤ゲートの薄暗い通路を通ってたった今現れた一人の戦術家の少女を倒す為に・・・。

 

『そして次に赤ゲートから姿を見せるのは相手の度肝を抜く多彩な戦術を以って【狩人】【紅蓮の皇女】と次々に代表入り候補達を七星の頂きへの道から叩き落してきた戦術家!彼女もまた学園で注目の的となっている騎士の一人です!果たして彼女の戦術は無敵の雷切を掻い潜り、いつも口にする【最も面白い事をする者が勝つ】という思想を貫き通す事ができるのか!?一年Eランク【月花の錬金術師】佐野涼花選手ですっ!!』

 

目の前で猛者の風格を漂わせて佇む刀華をその双眸に収めて盤上に上がって来た涼花、刀華の前方約20mで立ち止まり無言で刀華を睨みつける、バトルフィールド全体の空気が礫の様に降り注いで二人の猛者の身体を震わせる、この場だけ重力が何倍にもなったかの様に空間がビリビリする・・・今、二人の間に交わす言葉は無いしその必要は無い、あるのはただ・・・戦いのみ———

 

「希望(ゆめ)を創り出せ!鉄の伯爵(アイゼングラーフ)!!」

 

「轟け!鳴神!!」

 

全ての無機物を鉄に変える鉄の指貫グローブが涼花の両手を覆い、黒漆の光沢を持つ鞘に収められた日本刀が刀華の左腰に据えられる・・・今、二人の少女の決意と意地を懸けた戦いが———

 

『それでは参りましょう!第十三試合目・・・LET's GO AHEAD(試合開始)!』

 

始まった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こ、これはどうしたことでしょうか?試合開始から既に一分が経過しているというのに未だ両者前に出ません!』

 

左腕に巻かれた無数の手拭いのうちの一枚に右手を添える涼花。

 

左腰に差してある鳴神の柄を右手で掴み抜刀の構えをとる刀華。

 

互いに今にも飛び出して行きそうな前傾姿勢で距離を保ったままバトルフィールドを半周、両者この一分の間一度も攻撃せず睨み合ったままである、だが観客達は全員が固唾を呑んで二人を見守り第四訓練場内はひりつくような緊張感に包まれていた、まるで嵐の前の静けさの様に・・・。

 

「・・・いつまでああしているつもりなんだ?そろそろ飽きてきたんだけど」

 

観客スタンド最上階の通路の手摺りに両手を着いて観戦する幸斗が退屈そうに呟く、彼は試合の後にここで如月兄弟と合流していたのだった。

 

「そう言ってはいるが貴様も解っているのだろう?佐野と東堂先輩は互いに七星剣武祭代表候補に名が挙がる実力者同士、しかも互いにリングの端から端まで届く攻撃手段があるのだ、両者共に相手を自分の射程内に収めているというのに迂闊な動きを見せるのは阿呆のする事だ」

 

「リユウはそれだけじゃない、戦況に敏感な佐野の事だからアイツは恐らく東堂に近寄る事を拒んでいるな」

 

幸斗の両隣で観戦している如月兄弟が試合状況を分析する。

 

「・・・【雷切】ってやつを警戒してんのか?」

 

幸斗は自分の考えを口にした、刀華がこれまでの公式戦で雷切を抜き放った試合は一つの例外も無く彼女が勝利している、雷切はあまりにも強すぎるからだ。

 

腰に差した鳴神の鞘と刀身に強力な磁界を発生させてレールガンのように刀身を射出し、落雷すらも斬り裂く超雷速の一刀が敵を両断する、それはもはや人間が対処できる一撃ではない、故に必殺だ。

 

破軍最強の重勝も雷切から逃れる為その刃が届かぬ空へと逃れ、現七星剣王ですら終始雷切の間合いの外に身を置く事に徹した。

 

つまり未だ嘗て刀華の近接戦(クロスレンジ)を突破した者はいないということだ、幸斗がそう考えるのも当たり前だ。

 

烈は溜息を一つ吐いておもむろに答えだす。

 

「それもリユウの一つだが佐野にとってそれ以上の脅威は東堂の【閃理眼】だろう、あれは戦技・戦術タイプの天敵だ、自分の全ての動きが読まれているからな・・・」

 

烈の言う事も尤もだ、やる事が全てバレているのなら戦術の意味はなくなる、涼花はこれだけで戦術家として潰されたも同然なのだから。

 

「つまりこの試合佐野は受けに徹するしかないってリユウだな、あの戦術戦術うるさい佐野が自分から不利になる距離に足を踏み入れる筈がない」

 

「そうだな、だが東堂先輩が動き出せば戦況は一気に動く事だろう、佐野が最初から主導権を奪われるのは明白だ」

 

戦術戦において生命線と断言できる主導権を涼花は最初から失っていると如月兄弟は答えた・・・しかし——

 

「涼花が不利?・・・・・プッ!ダハハハハハハハッ!!」

 

それを聞いた幸斗は笑った。

 

「?・・・何がおかしい?まさか今の話を聞いても佐野の戦術が東堂を上回るリユウがあるとでも言うのか?」

 

烈は幸斗が笑うのを理解できなかった、当然だ、無敗の【雷切】に生物の動きを完全に読む【閃理眼】、戦術で刀華を破れる要素がどこにもないのだから。

 

首を傾げる烈を横目に幸斗は不敵の笑みをしてバトルフィールドを見据えて口を開く。

 

「見てみりゃ解るぜ烈先輩!・・・絶、さっきテメェは生徒会長さんが動けば戦況が一気に動くっつったな?だけど————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———先に動くのは涼花だぜ!」

 

幸斗は確かに断言した、この受けに徹しないといけない状況で涼花は動くと・・・西風に常識など通用しない——

 

『おおっと佐野選手ここで前にでたぁっ!堂々の突撃だぁぁああああっ!!』

 

「なっ!?」

 

「なん・・・だと!?」

 

眼を見開いて驚愕する如月兄弟の声を合図に試合は動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂は突然涼花が刀華に向かって駆け出した事により破られた。

 

周囲に響くどよめきの中涼花は左腕に巻かれた無数の手拭いの内一枚を外しそれをオーバースローで投げる寸前に鉄化(エンダーンアイゼン)を発動して鉄のブーメランに変える。

 

———このタイミングで仕掛けて来た!?

 

閃理眼で常に涼花の身体に流れる伝達信号(インパルス)を見ていたから【動くのは判っていた】、しかし伝達信号の流れで行動と心理状態を読んで考えている事を予測する事ができても考えそのものを読み取る事はできないのでここで【動くとは予想外だった】、故に刀華は一瞬驚いてしまった。

 

「はぁっ!」

 

———正直驚いたけど・・・甘い!

 

驚いたと言っても動きは読めている、刀華は真正面から馬鹿正直に飛来して来たブーメランを最小限の動きで難なく躱してすかさず鳴神を抜刀、抜き放たれた刃から三日月型の雷撃が飛び涼花に迫る。

 

涼花は天高く跳躍する事によりそれを回避、しかし刀華の眼は涼花を捉えて離さない。

 

———少し早いですがこれで決まりです佐野さん、空中ではこの雷撃を躱す事などできないでしょう!?

 

収め直した黒漆の鞘から再び刃が抜き放たれ雷撃が飛翔する、空気を蹴れる幸斗や空を飛べる重勝と違い涼花は空中で身動きを取るスキルなど持っていない、故に今下から飛来して来ている雷撃を躱す事など不可能、雷の刃が涼花の身体を呆気なく両断・・・するかと予想されたが雷撃が放たれる前に涼花が妙な動きをしていた。

 

———っ!?鉄を放り投げて身代わりにした!?

 

涼花は一本の鉄棒を造りだして宙に放り投げ、放たれた雷撃は身代わりとなった鉄棒に直撃してそれが灰となって消滅した。

 

そして涼花は空中に跳んだまま左腕の無数の手拭いの内約半数を取り外して全てを鉄棒に変えて———

 

「はぁぁあああああああっ!!」

 

バトルフィールド全体に散らばるように全てを投げ下ろし石畳の床に全て突き立った。

 

「絶影っ!」

 

無事バトルフィールド上に帰還した涼花が常人には認識不可能な速度で無数に突き立った棒の合間をジグザクに駆けて再び刀華に接近する。

 

対する刀華は涼花の動きを牽制する為に雷撃を放つ、だが———

 

「なっ!?」

 

『な、なんと東堂選手が放った雷撃がリングに突き立つ鉄柱に吸い寄せられたぁっ!?』

 

「くっ!」

 

『東堂選手雷撃を乱発しますが全て佐野選手に飛んでいかずリング中に突き立った鉄柱に向かって行きます!これは一体どういう事だぁっ!?』

 

「これってどう見ても【避雷針】よね?」

 

青ゲート上の観客スタンドの席で観戦しているステラが微妙そうな表情をして隣にいる一輝に質問をする。

 

「そうだね、でも凄く単純な作戦だと思うけれどかなり効果的かもしれない、避雷針は落雷を避ける為に設置するものだけれど別に上から落ちて来る雷が吸い寄せられるわけじゃなくて【雷を導く為の導雷針】だから雷の方から向かって行くみたい、だから落雷である必要は無いらしいね、避雷針が大地に蓄積された電荷を放出して電位差を緩和するから雷が誘導されるって言われているけれど詳しい原因は未だに不明らしい・・・なんにせよこれで東堂さんの遠距離戦(ロングレンジ)と中距離戦(ミドルレンジ)を封じ込めたも同然、佐野さんは遠中距離の優位性を得た事になるからこれで五分五分になったという事だね」

 

一輝が曖昧にそう説明をした、つまり涼花は刀華の飛び道具を封じたという事らしい、近距離戦(クロスレンジ)で勝てないのならば飛び道具を封殺して自分だけ遠距離から飛び道具で攻めればいい、実に理に適った作戦だ。

 

「でも五分五分になったからと言ってもリョウカが有利になったってわけじゃないでしょう?」

 

「もちろん、東堂さんにはまだ不敗の雷切による無敵の近接戦がある、それにステラや真田君のような大火力持ちならともかく佐野さんは遠距離戦の火力が低いから東堂さんに決定打を与えるには接近する必要がある、五分五分とは言ったけれど実質有利なのは東堂さんかな?・・・」

 

一輝は涼花が刀華を倒すにはやっぱり無敵の近接戦を攻略するしかないと言う、事実今涼花は突き立った無数の鉄柱の間をジグザグに絶影で超高速移動をして刀華に近づき雷切の射程圏外ギリギリのところで鉄の投擲槍を投げては後退してまた近づいては投擲槍を投げて後退してのヒット&アウェイを繰り返しているが刀華は余裕で対処していた。

 

そして今まで様子見をしていて膠着状態だった学園二位が遂に動き出した。

 

『東堂選手とうとう動き出しました!自ら接近し無敵の雷切で決着を着けるつもりなのでしょうか!?佐野選手急遽方向転換をして進撃してくる東堂選手から逃走を開始します!ライトが描く光の軌跡のような二つの閃光がリング中を縦横無尽に駆けまわる!激しいデッドヒートの開戦だぁぁあああっ!!』

 

《疾風迅雷(しっぷうじんらい)》、電力で自らの筋肉を刺激し身体の性能を限界まで引き上げる刀華の伐刀絶技だ、その速度はまさに電光石火と表現できる超高速であり涼花の高速移動スキル【絶影】にも引けを取らない。

 

二つの閃光がほぼ互角の速度で追いかけ合う、バトルフィールドの端を旋回し突き立った無数の鉄柱の間をジグザグに駆け抜けフィールドの端から端に鮮やかな放物線を描いて跳び回る・・・そんな中で刀華の閃理眼は奇妙な伝達信号を感じ取っていた。

 

———佐野さんがどこかで床に三回手を着いた・・・私を落とし穴か何かで罠に嵌めるつもりですね!

 

思い浮かぶのは選抜戦第十戦目の涼花VSステラの試合、涼花は鉄化を応用して地中深くまでを鉄に変えそれを魔力で強化した拳で砕くことによって深い【壕】を造りそれを利用した戦術でステラを出し抜いた事だ。

 

ここで刀華が予想した涼花の戦術は高速戦闘によって現在位置を曖昧にし罠を仕掛けた位置を刀華に誤認させて彼女を罠に誘導し嵌まったところを鉄のブーメランなどの飛び道具で狙い撃つというものである。

 

———確かに音速に等しいこの速度だと罠を仕掛けた位置を把握するのは至難の業・・・だけど佐野さん、その戦術には孔がありますよ!

 

刀華は見破ったと言っているかのように微笑する。

 

———佐野さんが落とし穴を造るには同じ場所に拳を叩きつけるという動作をしなければならない筈、それほどの大きな動作を私は見逃したりしません!逆にその隙を見切って罠を回避するのと同時に貴方に接近し雷切で斬って落とす!それで試合は終わりです!!

 

刀華はそう確信して不敵の笑みをする、自分が勝利するヴィジョンが見えたからだ。

 

勝利を確信した刀華は雷光が駆けるかのように疾走する涼花のすぐ後を追ってバトルフィールド中央を駆け抜ける・・・その時———

 

———・・・えっ!?足に魔力を————

 

しまった、その手があったか!?・・・そう思った時にはもう遅い、脚に踏ん張りを効かせて急に方向転換しようとする刀華だったが車は急には止まれないように音速に等しいこの速度でいきなり進路を変えることなどできはしない。

 

「っ!!?」

 

戦術そのものは刀華の読み通りだった、だが罠を作成する方法が少しだけ違ったのだ・・・涼花は鉄化した床を拳ではなく足を魔力強化して踏み抜いたのだ、これなら大した動作をする事もなく落とし穴を造る事ができる。

 

刀華は涼花が【拳を床に叩きつけるという固定概念に囚われていた】所為で文字通り墓穴を掘ってしまった、閃理眼は動きを読んで予測する事はできても未来予知ができるわけでは無い、涼花の身体に流れる伝達信号を一瞬で感じ取って行動の意味を理解できても身体がそれに間に合わない・・・ここまで言えばもう分かるだろう、刀華は今涼花が仕掛けた罠にまんまと嵌まってしまったという事だ。

 

直径3m、深さ40cmの円形の穴に脚を捕られた刀華は身体のバランスを崩してその場に硬直し動きを止めてしまった、そして———

 

「はぁぁああああっ!!」

 

刀華が穴に嵌まるのを見計らって涼花は振り返り体勢を崩した刀華に無数の鉄のブーメランを投げつける、しかしこの行動は刀華が予め予測していた通りだったので不意討ちにならなかった、刀華は身体中から放電する事によって全てのブーメランを弾き飛ばしたのだ。

 

「はっ!」

 

すぐさま跳躍して穴から脱出する刀華、結局涼花の策は失敗に終わった———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・と思われたが実はこれは単なる時間稼ぎだった、月花の錬金術師が刀華に対抗する武器を造るまでの———

 

「っ!?その武器は」

 

刀華は驚愕のあまり思わず声を出してしまった、今涼花が捻じって棒状にした手拭いを三枚結んで連結させて鉄化を使い造りだした武器が刀華にとって因縁深い物だったからだ。

 

『ああっと佐野選手!東堂選手がブーメランに対処して穴から脱出している隙に一本の鉄の長槍を造りだした!槍といえば昨年の七星剣武祭準決勝で東堂選手を下した現七星剣王の霊装と同じ形状の武器です!佐野選手は昨年の現七星剣王と同じようにそのリーチの長さをもって雷切を封殺するつもりなのでしょうか!?』

 

涼花は造りだした長槍————昨年刀華を負かした現七星剣王の霊装と同じ種類の武器の切っ先を10m前に立つ刀華に向けて構え彼女をその視界から逃さないとでも言わんばかりに睨みつけた。

 

 

 

 

 

 


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