運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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真の強者

太陽から降り注ぐ光を受けて幻想的に白く輝く雲海の上を沿うように二つの閃光———重勝と楯無がハワイ沖で暴走した対伐刀者用無人兵器を撃墜しに行く為に超音速で飛行し蒼穹を駆けぬけて行く。

 

「つまりその無人兵器は魔力を吸収・貯蓄しその魔力の特性を付加・放出する事ができる《運命鉱(フォーチュンタイト)》で製造されていて、伐刀者の伐刀絶技を吸収し自身の攻撃リソースに変換する性能があるということかよ」

 

「そゆこと♪それに加えて大半の伐刀者が持ち得ない飛行性能があるから対伐刀者用の兵器として成り立つのよ」

 

「ふーん、大国同盟の連中は運命鉱なんてよくそんなに滅多に見つからねーもんで兵器を造る気になったもんだな、こんなの量産できねーだろ?」

 

二人は超音速で横に並んで飛行しながら会話をしている、内容は今から破壊しに行く対伐刀者用無人兵器の性能についてだ。

 

話に出た【運命鉱】とは第二次世界大戦の最中突如アラスカ州に落下した謎の小隕石の中に含まれていた超希少な鉱物でありその特性は今重勝が説明した通りである、運命の総量と言われている魔力を吸収するという下手をすれば魔導騎士世界の秩序をひっくり返しかねないこの鉱物はその特性からこの名が付き小隕石が落下したアラスカ州が大国同盟に加入しているアメリカ合衆国の領土であったが為に大国同盟が保有する事となったのだ。

 

「君ぃ、そう言うけれど幸斗君が身に着けてるリミッターも運命鉱製でしょうに?西風が所有していた裏ルートで手に入れたんでしょ?」

 

「まーな、邪の道は蛇ってやつだ」

 

そんな希少な鉱物が故に裏ルートに流出してしまう事が稀にある、そのため西風などの非合法組織が手に入れてしまう事も少なくなかった。

 

「幸斗君のリミッターって確か君の重力の能力を吸収させてリストバンドやレッグバンドの形に加工した物だよね?」

 

「その通りだ、幸斗のリミッターは装着した奴は身体に永続的に40Gの重力とBランクの魔力負荷がかけられ続けるという代物だな」

 

「・・・1Gは1秒間に9.807m/s加速する時の重力加速度の事だから、その40倍・・・そこに幸斗君の体重を掛けて計算して・・・更にBランクの魔力負荷・・・幸斗君って人間なの?」

 

楯無が幸斗のリミッターの概要を聞いて幸斗に掛かる負荷を計算して青ざめる、幸斗の人間性を疑ってしまう程の計算結果だったようだ。

 

「ぶっちゃけやり過ぎたと思っているぜ、幸斗の奴最初は1.2Gくらいでぶっ倒れていたのに外そうとしねーでさ、そんでどんどん負荷を上げたリミッターを着けながら訓練を続けさせていたらいつの間にか40Gの重力が身体に掛かっていても俊敏に動けるようになっていたってわけだ・・・幸斗の奴死ぬ気で鍛練していたからな・・・」

 

「いや、普通あり得ないわよ・・・」

 

「わかっているさ、アイツの身体がいつの間にか普通じゃなくなっていた事ぐらいな、恐らくこのリミッターを着けて戦い続けた所為だ、人間の限界を超えた負荷を身体に掛けて抗い続けた結果幸斗の身体は構造を変えてしまったみてーだな・・・まったく俺の想像を越える大した教え子だぜ」

 

重勝は幸斗の尋常じゃない努力を誇りに思っていた、それを成し続けているのは幸斗の【突き進み続ける意志】だ、幸斗も涼花も重勝も巨門に入った綱定も西風の【道理を叩き潰して運命をブッ飛ばす】という信念を抱いて育ってきたのだ。

 

「さ、無駄話はここまでにしようぜ!」

 

「そうね、たぶんそろそろターゲットは近い、気を引き締めて行くわよ!」

 

重勝と楯無は閃光となって果てまで続く光り輝く雲海の道を駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・マジ・・・かよ・・・」

 

「・・・凄まじいな・・・真田」

 

如月兄弟は後方斜め上の壁に空いた大穴を見て戦慄していた、ここ第四訓練場内観客スタンド最上階まで届いた幸斗の蹴圧がこのような破壊現象を引き起こしたのだ。

 

これだけでもリミッターを外した幸斗の一撃が規格外だという事がわかるであろう、そんな一撃を珠雫にくらわせてブッ飛ばした本人はどこか手ごたえを感じてなさそうに眉を顰めていた。

 

「・・・チッ!外した」

 

珠雫に回し蹴りを叩き込んだ左脚が濡れているのを見て舌打ちをする幸斗、ブッ飛ばしたのは直撃する直前に入れ替わった珠雫の水の分身だったのだ、珠雫は幸斗がリミッターを外している最中にどんな攻撃が繰り出されても対処できるように水の分身を用意していたという事だ。

 

「はぁっ!はぁっ!はぁっ!・・・掠っただけでこれなんて・・・」

 

回し蹴りを回避した珠雫は幸斗の作った山の陰に隠れるように山に背中から寄り掛かって何故か腹部を右手で押さえながら苦しそうに激しく息を吐いている、幸斗の攻撃が速過ぎて完全に躱す事ができなかったのだ、正確には幸斗の蹴り自体は躱したのだがその瞬間に発生した衝撃波が珠雫の腹部を抉りハンマーで殴られたような衝撃を受けてしまったという事だ。

 

『あ・・・ああ・・・なんと凄まじい一撃なのでしょうか・・・私、開いた口が塞がりません・・・真田選手、攻撃こそ躱されたものの一蹴りで形勢をひっくり返してしまいました・・・』

 

実況解説の女子生徒が動揺しながら解説し観客である生徒達の殆どが髪を乱して唖然としている、幸斗が放った回し蹴りの衝撃波は強化窓ガラスを粉砕し中央モニターの画面に亀裂を生じさせ観客スタンド中にある小物を吹き飛ばすなどの凄まじい被害を出していた。動揺するのも無理は無い、この惨状を引き起こしたのはたった一蹴りなのだから。

 

「く・・・!」

 

———冗談じゃないわ!こんなの一撃でも受けたら一巻の終わりじゃない!

 

珠雫は右手で腹部を押さえながら呻く、あまりにも自分の予想を超えた幸斗の戦闘力に彼女は内心焦りを覚え脳内の危険信号が激しく鳴動する、今この時をもって試合の主導権は幸斗が握り———

 

「・・・そこにいるんだろ黒鉄妹?次はブチ当てるぜっ!!」

 

「っ!!?」

 

———気付かれt———

 

「うぉらぁぁあああああああっ!!!」

 

大爆発したような轟音と共に山が粉砕されるのを合図に鬼の逆襲が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まさに大災害!まさに破滅(カタストロフィ)への序曲!真田選手リング・・・だったクレーターの地形を次々と変え黒鉄選手に超猛攻!!一方黒鉄選手は水や氷の分身を駆使してなんとか凌いでいますが、いやはや真田選手の攻撃が速すぎる!私、目で追う事が出来ません!黒鉄選手、防戦一方で反撃できません!!もし真田選手の攻撃が一撃でもクリーンヒットしたなら恐らく黒鉄選手は地に沈m・・・いや、粉々になってしまうかもしれません!黒鉄選手絶体絶命だぁぁああああぁあああっ!!!』

 

「なによ、これ・・・強すぎるじゃない・・・」

 

バトルフィールド内を圧倒的破壊で蹂躙し珠雫の分身を次々と粉砕していく幸斗、その光景を目の当たりにしてステラは戦慄していた、今の自分とはケタが違い過ぎると・・・そして彼女は珠雫が異常である事に気が付いた。

 

「ねぇイッキ、シズクどうしちゃったの?」

 

「どう、とは?」

 

「見てわかるでしょ?突然動きも対応も伐刀絶技のキレまでかなり悪くなっているわ」

 

「・・・さっき重りを外した後の初撃を完全に回避しきれなかったみたいね、不意にあのスピードで攻撃されたら一輝やステラちゃんならともかく珠雫にはひとたまりもないわ・・・」

 

ステラが一輝に問いた答えは真剣な表情で観戦している有栖院が振り向かずに代わりに答えた、彼はバトルフィールド内の蹂躙劇から目を離せないらしい。

 

「!?、じゃあシズクはあの一撃を受けたダメージを庇いながら戦っているって事なの!?」

 

「受けたと言うか掠ったんだろうね、でもあの破壊力から察するに今の真田君の攻撃は掠っただけでも致命傷だ、たぶん珠雫は今、いつ気を失ってもおかしくない程の激痛に耐えながら戦っているんだ」

 

「そんな・・・」

 

今度はしっかりと一輝が答え、それを聞いたステラは珠雫が幸斗の一撃をくらって粉々になってしまうのを想像してしまい呻いた。

 

無論一輝も珠雫の敗北など想像したくないだろう、しかし幸斗と珠雫の間には絶望的と言える差がある事を彼は察してしまった、なにしろ珠雫が対幸斗の為に用意した秘策すらもはや意味の無いものになってしまったのだ、珠雫の勝利は絶望的だろう。

 

「得意な遠距離戦(ロングレンジ)も破れ秘策すら通用しなかった・・・正直このままじゃ・・・珠雫は負けるわ」

 

「っ!!!」

 

有栖院のチカラの無い声の結論を聞いた瞬間、ステラは胸の奥底が熱くなるのを感じた、そして———

 

「シズクーーーーーーッ!!がんばってーーーーーーーーーっ!!!」

 

チカラの限り叫んだ、叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステラの叫びは第四訓練場内に響き渡り、戦意喪失しかけていた珠雫の耳にもよく聞こえた。

 

———貴方なんかに応援されても嬉しくないんですからっ!

 

血が滲む程拳を握りしめて眉を吊り上げ強がる珠雫、素直になれない彼女だったがこの叫びは戦意喪失しかけていた珠雫の闘争心を再び燃え上がらせる。

 

———目の前にいるのはステラさんが勝てなかった相手・・・彼を倒せば私がステラさんより上だという証明になる・・・。

 

珠雫は目の前に迫りつつある幸斗を睨みつけて宵時雨を構える。

 

———それにお兄様は必ず七星剣武祭に行く、だから妹である私はお兄様の横に立たなければならない!

 

珠雫は尊敬し愛する兄の強さを理解している、Aランク伐刀者ですら倒した兄が選抜戦なんかで躓くわけがない、珠雫は奮起した強い想いを胸に目の前の鬼に立ち向かう。

 

———だから絶対に勝つ!!!

 

「っ!?」

 

「ああぁぁぁああああっ!!?」

 

珠雫は幸斗が振るう鬼童丸の側面に宵時雨をぶつけるがそれでも圧倒的な膂力の前には意味を成さず衝撃で吹き飛ばされてしまう・・・しかし、珠雫にとってはそれでいいのだ、これで距離が稼げたのだから。

 

砂煙を巻き上げてクレーターの坂を転がり上がる珠雫は今自分が転がり上がっている坂を凍らせた、そしてそれを空中への滑走路としてクレーターの坂を転がり上がりきり上空へと珠雫の身体は投げ出された。

 

「《多重水分身(たじゅうみずぶんしん)》っ!!」

 

珠雫は空中で身を翻し宵時雨の刃を天に掲げて高らかにそう言い放った。

 

第四訓練場内中の空気中の水分を一斉に自分の形に形成させてバトルフィールド全体に百人を超える自分の分身を造りだし、バトルフィールド中央にいる幸斗を取り囲んだ。

 

『なんだこれはぁぁあああああっ!?黒鉄選手、大多数の分身を造って真田選手を取り囲みました!お前は一体どこの世界のNINJAだぁぁあああっ!?』

 

「へっ!圧巻じゃねぇか、そう来なくっちゃなぁぁあああああっ!!」

 

幸斗はクレーターを駆け上がり珠雫の大軍に向かって突攻、戦争地帯の激戦区のように飛んで来る水弾の嵐を掻い潜り、波のように押し寄せる珠雫の分身達を次々と斬り飛ばし殴り飛ばし粉砕して行く、幸斗の猛攻は止まらない、どんなに数を集めようが枷が解き放たれた鬼は止められない。

 

「・・・どうして?・・・」

 

「ん?」

 

百人以上いた珠雫の分身が本体を含めて残り五体となった時、珠雫は悔しさのあまりとうとう声に出してしまった、自身の胸の内に秘めていた疑問を———

 

「どうして【貴方達】は・・・そんなにも強いの・・・私は、こんなにも弱いのに・・・」

 

「・・・・・」

 

幸斗は無言で襲い掛かってくる珠雫の分身に応戦しながら10m先で再び戦意喪失寸前の珠雫の独白を聞く。

 

【貴方達】と言ったのは幸斗の他に自分の愛する兄である一輝の事も指しているからだ。

 

珠雫は実家である黒鉄家にいた頃、彼女の周りにはチカラに屈服する【弱い】人間ばかりだった、自分は生まれながらにして伐刀者として高い才能を持っているから自分は何をやっても許されて、周りの人間達は自分の才能というチカラの前に頭を下げ媚び諂い誰も逆らおうとはしなかった。

 

珠雫は実に下らないと思った、強い者に頭(こうべ)を垂れて内心微塵も感じていないような謝意や誠意を平気で言う汚い人間が珠雫は大嫌いだった。

 

そして自分もコイツ等と同類だという事実が珠雫自身を苛立たせ、その鬱憤を自分より弱い者にぶつけている時、黒鉄家の落ちこぼれと呼ばれていた兄、一輝と出会った。

 

『よわいものいじめをしちゃダメだ』

 

一輝は珠雫の頬を叩いてそう言った、黒鉄家の強者である筈の彼女に対して弱者である筈の一輝が真っ向から刃向かってきたのだ。

 

珠雫はこの時【本物の強い人間】に出会った、己の信念を貫き何者が相手だろうと立ち向かう事ができる人間が本当の強者なのだと珠雫は感じた。

 

故に珠雫は憧れた、本当に強い人間である兄に。

 

そして目の前の伐刀者もまた兄と同じ真の強者である、だからこそ珠雫は知りたかったのだ、二人はどうして強いのかと・・・。

 

「・・・・・そう思ってんなら何ウジウジしてやがるんだ?・・・テメェ!」

 

「っ!?」

 

幸斗は珠雫の独白にイライラしながら彼女の分身最後の一体を撃破し彼女に向き合った。

 

「そうやってウジウジ立ち止まってたってどうにもなんねぇだろうが!戦う気がねぇんならとっととギブアップしやがれ!オレは才能があるのに前を向かない奴が大嫌いなんだよっ!!」

 

幸斗が珠雫に返した言葉は彼女を卑下にする暴言だった、それを聞いた珠雫は当然激昂して———

 

「貴方に・・・お前に何がわかるって言うの!私が今までお兄様と自分は何故違うのk「わかるわきゃねぇだろ!オレはテメェじゃねぇんだ!弱いと思ったらとにかく前に突き進むしかねぇんだよっ!!」ふ、ふざけないで!!」

 

珠雫は幸斗に横槍を入れられた事に激怒して彼に水弾を放つ。

 

「ふざけちゃいねぇっ!オレは今まで自分が弱いからこそ前に突き進み続け、今ここにいるんだぁぁあああああああああっ!!」

 

「っ!?障波水漣!!」

 

幸斗は水弾を太刀で一閃し珠雫に正面から突撃し、珠雫は自分の前に水の壁を出現させて幸斗を迎え撃つ。

 

「壁が立ち塞がるならブチ抜いて進む!」

 

幸斗は障波水漣を右ストレート一発で崩壊させた、今まで一から鍛えあげた自慢の拳で。

 

その瞬間を見ていた政和はこう語る。

 

「へっ、それでこそ俺のライバルだ!才能だけに頼った奴はもろい、ちょっと自分のチカラが通じなかっただけで簡単に潰れちまう、それは才能というチカラしか信じられなかったが為にそれだけが自分の全てだと思い込んでしまうからだぜ!だから強ぇ奴等はどいつもこいつも限界という壁を壊そうとするんだ!」

 

真の強者、それは限界という壁に立ち向かい挑み続ける事ができる者。

 

「氷獣群っ!」

 

珠雫は幸斗が障波水漣を崩壊させるのと同時に三体の氷ゾウを自分と幸斗の間に作って自分への進路を塞いで幸斗を妨害する。

 

「道がなければ自分(テメェ)で切り拓く!」

 

幸斗は鬼童丸の横一閃だけで三体の氷ゾウを倒壊させた。

 

それを見ていた珠雫の兄、一輝はこう語る。

 

「僕は五歳の時何もかも諦めて家から逃げ出してしまった事があった、でもそんな時僕の前に龍馬さんが現れて僕に言った、【諦めない気持ちさえあれば人間はなんだってできる、なにしろ人間ってやつは翼もないのに月まで行った生き物なんだからな】と、真田君が言っている事も恐らく同じなんだね、【諦めずに道を切り拓こうとすればきっと上手くいく】ってさ」

 

真の強者、それは自分の道を自分で切り拓いて見つける事ができる者。

 

「ここだ!凍土平原っ!」

 

「なっ!?」

 

氷ゾウ達を倒壊させた瞬間珠雫が幸斗の僅か1m前方の地面に宵時雨の刃を突き刺して半径20mの地面を幸斗ごと凍り漬けにしてしまった。

 

『真田選手不意を突かれて氷像になってしまったぁぁああ!黒鉄選手の逆転勝ちかぁぁあああっ!?』

 

「図に乗るからこうなるんですよ、何が突き進むですか、そのt————」

 

珠雫が氷像となった幸斗を見据えて凄艶な微笑を浮かべていると突如地面が振動し、次の瞬間幸斗の氷像が砕け、氷の内側から身体を高速振動させて密着している氷を切削して破壊し生還した幸斗が不敵な笑みを浮かべながら鬼童丸の切っ先を珠雫に向け・・・高らかに口を開き———

 

「魂の熱風が未来(あす)へと吹き荒れる!!」

 

そう言い放った。

 

これを見ていた元西風の隊員である涼花と綱定はこう語る。

 

「「いや、それはいらないわよ(っての)・・・」」

 

真の強者、それは何事にも怯まない強靭な心を持つ者・・・・・これは違う気がするが・・・。

 

「くっ!こうなったら!!」

 

珠雫は後方に飛び退きクレーターの端に着地する、そして———

 

『うぉぉぉおおっと黒鉄選手!大気中の水分を集束して水の龍を自らの背後に降臨させました!』

 

「ちょっ!?シズク、何よこれ!?アタシの妃竜の大顎(ドラゴンファング)ソックリじゃないの!パクリよパクリ!」

 

「パクリじゃありません、参考にして私なりの伐刀絶技に昇華させたんです、人聞きの悪い事を言わないでくださいステラさん、あと脚太いですよ」

 

「なんでそこから見えるのよ!?」

 

青ゲートの上の観客スタンドから発情期のようにギャーギャー騒ぐステラと口論をする珠雫の背後に現れたのは蛇のような身体を持つ水でできた龍である。

 

「へぇ、そいつでオレを倒すってのか?」

 

「ええ、この伐刀絶技の名は《水龍弾(すいりゅうだん)》、さっき言ったとおりステラさんの妃竜の大顎を参考にして編み出したものです、そして貴方はこの水龍を討ち倒すことはできませんよ」

 

「言うじゃねぇか、ヴァーミリオンの妃竜の大顎はオレに通用しなかったってのによ」

 

「確かにこの水龍弾はステラさんの妃竜の大顎みたいに複数同時に放つ事はできません、それは魔力量の違いもありますがそれとは別に私がこの水の龍の身体中全てを常に高圧で循環させているからですよ」

 

高圧で循環させている水流はダイヤモンドすら簡単に切り裂く事ができる、そもそもこの地球の大地は水によって形造られたものなのだ、故に———

 

「この世に水で破壊できない物など存在しない!もう一つ言えばこの水龍弾の追尾性能はステラさんの妃竜の大顎を大きく上回っています!つまり貴方はこの水龍に打ち勝てずに敗北する運命だっ!!」

 

珠雫がそう宣言すると水龍が珠雫の前に出て幸斗を今にも喰い殺さんとするように前傾姿勢をとっていた。

 

圧倒的存在感を出す水龍に睨みつけられた幸斗(鬼)は・・・凶悪と言える程に笑っていた、幸斗にとって龍と対峙する事など今更だ、幸斗は一旦視線を観客スタンドに向けてここからでも良く見える席に座ってこっちを見ている自分の最大最強のライバルと目を合わせ———

 

———オレが倒したい龍はお前だ、こんな奴とっととブッ倒してやるからそこで見ていやがれ!

 

と眼で伝えるように睨む、政和がそれに答えるように【へっ!】と不敵な笑みを浮かべると幸斗は視線を水龍に戻して鬼童丸の朱い切っ先を水龍に向けて口を開く。

 

「いいぜ、オレがそいつに無様に倒されるのが運命だって言うんなら————その運命を覆してやる!!」

 

幸斗はいつも通りの決めゼリフを言い放ち、鬼と水龍は同時に討ち倒すべき敵に向けて突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、幸斗VS珠雫 決着です。




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