一進一退の攻防を繰り広げる幸斗と珠雫、青ゲート上の観客スタンドの席で観戦している一輝達は相変わらず常識外れの幸斗に唖然としていたがそれ以上に繊細な魔力制御と柔軟な思考による戦法をもって予想以上の実力を発揮した珠雫に驚いていた。
「あ、あのユキトの剣圧を受け流しきるなんてやるじゃないのシズク」
「うん、正直驚いたよ、どうやら珠雫は僕の想像以上に実力を付けていたみたいだね」
障波水漣の形を変えて幸斗の放った剣圧閃光を空へと逸らした珠雫の技量を絶賛するステラと一輝、特にこの剣圧閃光で自分の最大火力の伐刀絶技を破られているステラは声が震えるくらい驚いていた。
「珠雫の高い魔力制御があってこその防御方法だね、もしあれをまともに受け止めていたら珠雫は障波水漣ごと吹き飛ばされていただろうね」
「それはそうよ、アタシの天壌焼き焦がす竜王の焔が撃ち負けたんだもの、もしシズクがあれを簡単に防いだらアタシの立場が無いわ」
「うふふ♪鍛練の成果が出たわね珠雫、凄いわ!」
「・・・成程、この三日間珠雫と一緒に姿が見えないと思ったらアリスが珠雫の鍛練に付き合ってくれていたんだね」
一輝は自分の事のように喜んでいる有栖院を見て彼が珠雫の成長を手助けしていた事に気が付いた。
「そうよ、でもあたしは大した事はしていないわ、あたしはただ《鳥獣戯画(シャドウビースト)》を使って四方八方から珠雫を攻撃していただけなんですもの、珠雫はそれを障波水漣の形を変えて受け流し続けるって訓練をしていたってわけ♪」
有栖院の【鳥獣戯画】はダガーナイフ型の霊装《黒の隠者(ダークネスハーミット)》を地面に突き立てて虎や熊といった影の猛獣を出現させて襲いかからせる伐刀絶技である、珠雫はこれを長時間障波水漣で受け流し続ける事により高い耐久力と柔軟性を得ることができたのだった。
「・・・やっぱりユキトの圧倒的な攻撃力に対抗するにはイッキがアタシの皇室剣術を受け流し続けたように【柔】のチカラで制すしか無いのか・・・ねぇイッキ、シズクはこれで勝てると思う?」
Aランクの意地に懸けてユキトにチカラで勝ちたかったステラは半分諦めたかのように落胆してから一輝にこの試合の行方を聞いてみた。
「そうだね・・・珠雫が遠距離戦を維持し続けて真田君を近寄らせずに制すれば珠雫が有利に試合を進める事ができると思うよ・・・・ただ———」
一輝はバトルフィールド上で珠雫が放つ水の弾幕を蹴散らして彼女に正面突破をしてくる幸斗を真剣な表情で見据えてステラの質問に答える。
「———もう遠距離戦法は崩壊しているから珠雫に秘策がなければ有利なのは真田君だね」
一輝は気難しそうにそう断言した、しかし有栖院はそれでも余裕の笑みを崩さない。
「秘策ならあるわよ♪たぶんそろそろ札(カード)を切ると思うわ♪」
剽軽な態度で自信たっぷりにそう言う有栖院、果たして珠雫の秘策とは?
『真田選手攻める攻める!黒鉄選手が放つ水弾の嵐をもろともしていません!まるでどんな砲撃も恐れないで突き進む突騎兵のようだ!!』
「まだまだいくぜ黒鉄妹っ!!」
「その呼び方はやめてくださいっ!」
幸斗が凍土平原によって凍り付いたクレーターの斜面を滑るように疾走し迫り来る水弾の嵐を一太刀で吹き飛ばし眼前に吹き上がって行く手を阻む障波水漣すら拳一つで粉砕して珠雫に迫る。
「オラァッ!」
「くっ!」
幸斗が振るう太刀を前方高く跳び上がって回避する珠雫、そのまま幸斗の頭上を前方宙返りをして通り過ぎクレーターの斜面を登り切ったところにある端に着地した。
————そろそろ仕掛けるか!
「障波水漣!」
珠雫が再び水の壁で自分の周囲を覆って防御体勢に入る、しかしそれはさっき幸斗が放った剣圧閃光を空へと逸らした反り立つ壁ではなく普通の障波水漣だった。
「それで守りを固めたつもりか黒鉄妹っ!?そんなの一発でぶっ壊してやるぜ!」
幸斗は珠雫の方へと振り返って鬼童丸を振り上げる、剣圧閃光を放ってふっ飛ばすつもりだ、しかし——
「んがっ!?」
幸斗は何かに足を捕られて前のめりに倒れて凍り付いた地面にキスをする事になった、何故なら凍り付いた地面から生えてきた水の腕が幸斗の両脚を掴んだからだった。
———今だっ!!!
幸斗が間抜けな格好で倒れると同時に彼の頭上に巨大な影がかかる、珠雫がコッソリと空気中の水素を幸斗の頭上に集束して一瞬にして氷結させて造り出した巨大な氷塊だ、それが真下の幸斗に落下して豪快な破砕音と共に幸斗を押し潰した。
「よしっ!やったの!?」
だがステラがフラグを建ててしまった・・・。
「うぉらぁぁあああっ!!」
幸斗の上に落下した瞬間、大気を揺るがす程の衝撃波と破砕音と共に氷塊が爆発する様に粉々に破壊された、幸斗が右アッパーで氷塊を殴ったのだ。
———・・・どういう事?これに反応するなんて・・・。
珠雫は内心困惑していた、どうして幸斗は今の奇襲に反応できたのかと、Aランククラスの魔力制御による迷彩に人間の絶対の死角である頭上からの奇襲、だというのに幸斗はそれに当たり前のように反応し粉々に粉砕して見せたのだ、わけがわからないのも無理はないだろう。
「ハッ!地面を凍り漬けにしたのは間違いだったな」
政和は鼻を鳴らしてそう言う、彼は幸斗が今の奇襲に反応できた理由が解ったみたいだ。
「ああ、今のは俺も解った、凍り付いた地面が鏡の役割を果たしてそこに氷が映ったから反応できたのだろう?」
「フレッシュだぜ十士郎、その通りだ」
そう、凍り付いた地面に氷塊が映ったからだ、幸斗は転倒した瞬間にそれが目に入って一瞬で受け身を取りすぐさま体勢を立て直して落下してきた氷塊に右アッパーを叩き込んだのだった。
「だからと言って普通あれを拳一つで破壊できるのか?なんと常識外れな・・・」
「幸斗が常識外れなのは今に始まった事じゃないし~、あれぐらいはな・・・」
「へっ!それぐらいやってもらわねぇとこの俺のライバルに相応しくないぜ!」
「お前らな・・・ん?あの少女何かするみたいだぞ?」
十士郎は政和と綱定の言動に呆れているとバトルフィールド上の珠雫が宵時雨を凍り付いた地面に突き刺そうとしている姿が目に入った。
「へっ!どうやら無冠の剣王の妹はまだ奥の手を残していたみてぇだな、どれ、お手並み拝見とさせてもらうぜ」
近接戦(クロスレンジ)は自殺行為、遠距離(ロングレンジ)からの弾幕は全て叩き落される、不意打ちすらチカラ技で押し切られた・・・珠雫が考えた対幸斗の戦術は出足を挫き遠距離戦で釘付けにすることだったのだが最早破綻している、幸斗相手に遠くで縮こまっていてはジリ貧にしかならないと悟った珠雫はとっておきの切り札を切ることにした。
———確かに貴方のチカラは私の想像を絶する程のものだった・・・なら———
「当たらなければいいっ!《白夜結界(びゃくやけっかい)》!!」
珠雫は宵時雨を凍り付いた地面に突き刺しそう言い放った、その瞬間に凍土平原の氷結が一瞬で固体から気体へと変換され濃く白い霧がバトルフィールド全体を覆い尽くしてしまった。
『何だどうした!?突如黒鉄選手の伐刀絶技によって濃霧が発生してリング・・・だったクレーター全体を覆い隠してしまいました!これでは試合状況がまったくわかりません!』
「おいおいなにも見えねぇぜ・・・オレの視界を封じて一方的に嬲り倒そうと考えてんだろうけどこの霧じゃテメェm———」
濃霧の中に閉じ込められた幸斗は辺りを見渡し霧が濃すぎる故に全く何も見えない事からこの霧を発生させた珠雫もわからなくなっているだろうと予想するがその瞬間に正面から水の弾丸が直線的に飛んで来て幸斗の右頬を掠った。
「・・・・・・マジ?」
幸斗は呆けた、どうやら珠雫は幸斗の居場所を正確に把握しているみたいだ。
自分は全くわからないというのにと思っている暇も無く今度は幸斗の真下の地面から水の剣山が飛び出して来て幸斗を串刺しにしようとしていた。
「どあぁぁああぁああああっ!!?」
不意を突かれて間抜けな叫び声を上げながら奇妙なポーズをして剣山をやり過ごした幸斗は先程水の弾丸が飛んで来た方向に突撃する、珠雫が水の弾丸を放つ時は必ず宵時雨の切っ先から放つので飛んで来た方向に彼女がいると思ったのだ。
そして幸斗の読み通り珠雫はそこにいた。
「見つけたぜ黒鉄妹!くらえっ!!」
幸斗は珠雫を鬼童丸で横一閃!・・・しかし———
「なっ!?また分身だと!?」
それは氷でできた分身だった・・・珠雫の氷像の首が飛び地面を転がる、幸斗はそれを不気味そうに見ていると今度は鋭く先が尖った大きなつららが複数幸斗の頭上から降って来た。
「一体何でオレの居場所がわかんだよっ!」
幸斗は振って来たつららを悪態吐きながら太刀の一振りで薙ぎ払う、すると地面に転がっている珠雫の氷像の頭がギギギと幸斗の方に振り向き口を開いた。
「貴方は馬鹿ですか?この霧は私の能力で作ったもの、つまりは私の身体の一部と同じです、視界が利かずともどこに何があるのかも誰がいるのかも全て感じ取れるに決まっているじゃないですか」
「キショイッ!?」
突然珠雫の氷像の頭が語りかけて来たので幸斗は悪寒が奔って驚いた、濃い霧の中氷首が語りかけてくる・・・かなりホラーだ。
「この霧の中では貴方は私に手も足も出せません、幾ら貴方の攻撃力が規格外だからといっても当たらなければどうという事は無いのですから」
「・・・へっ、だったら!」
幸斗は思いっきり鬼童丸を振り上げて勢いよく振り下ろす、強大な膂力で振られた事により事象改変が発生し剣圧が巨大な閃光となって放たれ濃霧を吹き飛ばした。
「へへっ!どんなもんd「無駄ですよ」・・・マジか?・・・」
四散した濃霧が間もなく集まって来て再び辺りを覆い隠す、Aランク判定の魔力制御能力を持つ珠雫が霧を操っているのだ、吹き飛ばされた霧を一瞬で掻き集める事など朝飯前だろう。
「余裕ぶっていられるのも今の内です、目の前をご覧になってください」
「は?」
珠雫の氷首がそう言うので幸斗は困惑気味に目を凝らして正面を見た、するとそこには霧に紛れた何かの影がこっちに向かってゆっくりと近づいて来ているのがわかった。
「おいおいおい何なんだよあれ?」
「知っていますか?魔力制御能力が高い伐刀者は想像力次第で何でもできるようになるのですよ」
そして幸斗の前にそれは姿を現した、氷と水でできた巨大な虎・鷲・大蛇・etc・・・氷と水の猛獣の群れがあらわれた!(笑)
「これこそ私がアリスの【鳥獣戯画】をヒントに編み出した伐刀絶技《氷獣群(ひょうじゅうぐん)》!さあ、絶氷のサバンナより来たる誇り高き獣達よ!その全てを噛み砕く牙を以って目の前の獲物を捕食せよっ!!」
「「「「「「「UREEYYYYYYYYYYYYYYY!!!」」」」」」」
「・・・テメェ・・・キャラ崩壊してねぇか?そして氷獣共もその咆哮はなんか違うぞ、なんか人間止めたっぽいぞ?」
眼をカッと見開いて氷獣達に大声で号令を出す珠雫の氷首、すると氷獣達が奇妙な雄叫びを上げてツッコミをしている幸斗に襲い掛かって来た。
「ドラァッ!!」
まず先頭の氷ライオンが先陣を切って幸斗に飛び掛かって来るが幸斗はそれと同時に氷ライオンに向かって走り出し太刀の一閃で難なく氷ライオンを破壊した。
「「「「「「「UREEYYYYYYYYYYYYYYY!!!」」」」」」」
硝子が割れたかのような破砕音と共に氷ライオンが砕け散ったのを合図に氷獣の群れが奇妙な咆哮を上げて次々と幸斗に襲い掛かって行く。
「かかって来やがれっ!」
幸斗は鬼童丸を地面に突き刺して手放し拳で迎撃する構えをしてそう言い放つ、そして———
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラアァァアアアアアァアアアアッ!!!」
暴風が巻き起こる程の超高速ラッシュを一斉に飛び掛かって来る氷獣の群れに叩き込んで一気に粉砕した。
「UREEYYYYYY!」
「チィッ!?」
ラッシュが止むのを見計らって上空から一体の氷コンドルが急降下して来てその鋭利な嘴をもって幸斗の眼を突き刺そうとして来た。
「ウラァッ!」
幸斗は首を右に傾けることによって嘴を回避し通り過ぎた氷コンドルを回し蹴りで破壊した。
「「「UREEYYYYYY!」」」
「チッ!次から次へとっ!!」
続いて氷ジャガー・氷ジャッカル・氷大蛇が幸斗を取り囲むように三方向に陣取り幸斗を威嚇する、後方にもまだまだ珠雫が作り出した氷獣達が控えている、これだけの数の氷獣を作り出し形を維持し続けながらコントロールをする珠雫の魔力制御能力には感服をせざるを得ないだろう、幸斗は面倒だと思って舌打ちをした。
「グッ!?」
その瞬間一匹の氷蜂が幸斗の右肩にコッソリと近づいて来て尻の針を突き刺した、針は結構大きかったようであり突き刺した傷口からかなりの量の血が流れ出ていた、この試合初めてのダメージを負った幸斗は小さく呻いてよろけ、その隙を見計らって周囲の氷獣達が次々と幸斗に襲い掛かった。
幸斗は襲い掛かって来る氷獣達を次々と粉砕していくものの凄まじい数の群れが次々と襲い掛かって来るので時折攻撃がヒットしてジワジワと傷ついていった。
「あははは!さあ踊って酔いなさい、破滅への輪舞曲(ロンド)を!醜く刻みなさい、血染めの拍子(ビート)を!!そして奏でなさい、敗北への鎮魂歌(レクイエム)をっ!!!あははははははははh「うるせぇっ!!」」
足下でキャラ崩壊して笑い転がる珠雫の氷首を幸斗は場外に蹴り飛ばした、相当イラッとしたようだ。
「こうなったら全部纏めて一気に剣圧で蹴散らしt———」
痺れを切らした幸斗が地面から鬼童丸を引き抜いた瞬間地面から水の鎖が伸びて来て幸斗の四肢を拘束した。
「こんなもんがオレに通用するとでも思っt———」
幸斗は強引に四肢にチカラを加えて水の鎖を破壊した、幸斗の規格外の膂力の前には重勝の重力の拘束具(グラビディバインド)ですら意味を成さない、しかし珠雫にとっては一瞬でも隙を作れれば良かったのだ、水の鎖が地面から飛び出した時には既に氷獣達が幸斗に向かって飛び掛かっていて気が付いた時には氷獣達は幸斗の眼前に迫っていた。
「・・・・・・マジかよ?」
幸斗は虚しくも圧倒的な質量に押し潰されてしまった・・・。
「やべっ、もう始まってやがるってリユウだ!?」
「貴様が悪いのだぞ愚兄、いい加減焼肉のタレを飯にかけて食うのをやめろ!」
第四訓練場の観客スタンド最上階の通路の出入り口から如月兄弟が大急ぎで入って来た、今日は二人の試合は無いにも拘らず既に第十二試合目だというのに今頃になってやって来た理由は烈が食あたりで二時間トイレに籠っていたという実にくだらない理由であり絶は変食を続ける烈を咎めている・・・トイレに籠る兄が出て来るのを二時間も待ち続けた絶も相当な御人好しだと思うが・・・。
「美味いんだから仕方がn「烈!前だ!」い”っでっ!?」
観客スタンド最上階の通路にある柵の前に出た瞬間に前斜め下から烈の頭に何かが飛んで来てスコーン!と綺麗に命中した、烈はかなり痛そうに頭を抱える。
「痛てて、何なんだよ一体・・・ってぎぇぇえええええっ!生首!?」
「よく見ろ馬鹿兄、氷だぞこれは」
烈は飛んで来て自分の頭に命中して通路上に転がる珠雫の氷首を見て悲鳴を上げすぐさま絶が烈を落ち着かせた、これは先程幸斗がイラッとして蹴り飛ばしたものであった。
「なんだよ脅かすなよ・・・何でこんな物が・・・・何だ、この状況は?」
烈は気が抜けたようにバトルフィールドを見下ろすとバトルフィールド全体が全く見えない程の濃霧に包まれているのを見て唖然とした、周りの観客達もざわざわと動揺していて試合の時はいつも大歓声で騒がしい訓練場内がこんなにも静まり返っているのだから無理もないだろう。
「真田にこんな芸当は不可能だ、恐らく黒鉄珠雫の伐刀絶技だろうな」
「成程、真田の近接戦を封じる戦術としては悪くないってリユウだが観戦している側から見たら迷惑な戦術d『ドオオオオオオォォォン!!』何だ!?爆発音?」
絶が状況を分析し烈が納得していると突然爆発音が聴こえてきて第四訓練場内は緊迫した空気に包まれた。
『おおっと!?なんの状況もわからないこの霧の中で突然の爆発音です!果たして真田選手が優勢なのか?それとも黒鉄選手が優勢なのか?一体どうなんd————って何だあれはっ!?突如霧の中から山がせり上がってきましたぁああああっ!!』
緊迫した空気の中爆発音と共に突如出現した高さ約50mくらいの山、その山の後方下から山の頂上に跳び上がって来て着地する一つの人影があった・・・幸斗だ。
『あぁぁっと真田選手です!とんでもない跳躍力で山の頂上に跳び乗りました!しかし真田選手かなりダメージを負っていますが大丈夫なのでしょうか?表情が影で隠れて見えません』
幸斗は山の頂上で傷だらけの身体をだらんとさせて顔を伏している、彼は氷獣達に押し潰される瞬間地面をチカラいっぱい殴り付けてその場を陥没させその衝撃をもって氷獣達を破壊して危を脱し、その副作用として正面の地が陥没した足下と比例して盛り上がったのだった。
「・・・・・・」
バトルフィールド全体が良く見える特等席で観戦をする政和が無言で山の上の幸斗を睨んでいる、幸斗の体たらくに怒りを感じているのか?それとも失望しているのか?
「・・・・・真田————
—————随分と楽しそうじゃねぇかよ、フレッシュな表情だぜ」
顔をあげた幸斗の表情は・・・凶悪な程笑っていた、政和はこれを見て羨ましがっていたのだ、楽しそうだと。
「上等だ、テメェ上等だよ黒鉄妹!へっ!これなら【リミッター】を外してもよさそうだぜ!!」
幸斗はメチャクチャ嬉しそうに衝撃的な事を言い放った。
「リミッター!?リミッターって何言ってんのよ?まさかユキトは今まで本気じゃなかったって言うの!?このアタシとの試合の時も!」
ステラは幸斗の発言に驚愕と激怒を覚えた、自分は手加減されて負けたのかと。
————真田君は本気じゃないとなんとなく感じていた、一体リミッターって何なんだ?
一輝は神妙な表情で幸斗を見据えていた、彼はこれから何をするのかと。
「・・・珠雫・・・」
有栖院は眼下の濃霧に眼を凝らして珠雫の心配していた、こんなのは予想外だったと。
「・・・・・・」
そして霧の中の珠雫は苦虫を噛み潰したような表情で山の上を見上げていた、これから来る鬼の逆襲を迎え撃つために。
様々な感情が飛び交う空気の中で幸斗は何故かその場に座り込み学生ズボンの裾をたくし上げていた、そして———
「へへっ!これを外すのも久しぶりだぜ!」
幸斗は両足首に嵌めてあったレッグバンドを取り外し、更に両腕に嵌めてあるリストバンドを取り外して立ち上がった、両手に今外した四つのバンドをぶら下げて。
「「「「「「「・・・・は?」」」」」」」
第四訓練場内の人間達の心が数名を除いて一つになった・・・。
「もしかして・・・重り?」
有栖院が呆けながらそう言い終わると幸斗はバンドを下に落とした。
「「「「「「「プッ!ギャハハハハハハハハハッ!!」」」」」」」
バンドが落ちて行く最中第四訓練場内に観客達による大爆笑が響き渡った。
「重り?重りだってさ!」
「アイツ騎士の戦いをスポーツの試合と勘違いしてんじゃないの?」
「ギャハハハハハハハハハッ!こりゃあ傑作だ!」
「ちょっと馬鹿力だからって伐刀者を舐めるのも大概にしろよEランク風情がっ!!」
「そうだそうだ!!」
「ちょっと重りを外したぐらいで戦況が覆るわけが————」
幸斗を馬鹿にする声が響き渡る中四つのバンドは霧の中へと消えて————ドッカアァァァァァァァァァァアアアアアアアアッン!!!という大爆発音と共に眼下の霧が吹き飛び、珠雫の姿が露わになった。
「「「「「「「・・・・・・・・・・・え”っ!!?」」」」」」」
「・・・何、これ?」
観客達の表情が固まり珠雫は瞳孔が広がる程動揺していた・・・バンドが落ちた場所に小規模のクレーターができていたからだ。
「おっしゃああっ!軽くなったぜ!!」
幸斗は山の上で軽く二三回飛び跳ねる、身体の感覚を確かめた幸斗はすぐに目線を現れた珠雫の方へと向けた。
「くっ!」
珠雫はすぐさま吹き飛んだ霧を集束させて再びバトルフィールド全体を濃霧で包み込む、自分の居場所を正確に幸斗に把握させない為だ、しかし———
「んな事したって今のオレには無駄だぜ・・・んじゃ、行くぜっ!!」
幸斗は鬼童丸を下段に構えて腰をおとし・・・なんとブォン!という風切り音と共に消えた。
「——————えっ!?」
珠雫は今目の前で起こった事象に対して時が止まったかのような錯覚を覚えて身体が固まってしまった・・・バトルフィールド全体を包み直した濃霧が完全に消滅していて山の頂上にいた筈の幸斗がまるで瞬間移動したかのような速度で自分の懐に入り込み、既に自分の腹部に凄まじい威力の回し蹴りを叩き込んだ後だったからである。
「——————がはぁぁあ”あ”あ”あ”あ”っ」
あまりの速さに時間差で珠雫の腹部が陥没しソニックブームによる衝撃波の発生と共に珠雫はブッ飛ばされてしまった。
珠雫のオリジナル伐刀絶技である氷獣群の元ネタはFAIRY TAILのリオンが使う魔法である【動】のアイスメイクです。