運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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原作で言うと第3刊の時系列にようやく入りました!この小説の始まりの時系列が第2刊の第一章冒頭だったので二刊の時系列にどれだけ話数使ってんだよと思いましたね(笑)。





殲滅鬼VS深海の魔女

『さあそれでは、本日の第十二試合の選手を紹介しましょう!青ゲートから姿を見せたのは今我が校で知らない者はいない注目の騎士・黒鉄一輝選手の妹にして紅蓮の皇女に次ぐ今年度次席入学生!ここまでの戦績は十五戦十五勝無敗!属性優劣も何のその!抜群の魔力制御力を武器に今日も相手を深海に引きずり込むのか!一年【深海の魔女(ローレライ)】黒鉄珠雫選手です!!』

 

試合会場である第四訓練場内が大歓声に包まれ、青ゲートから小柄で銀髪の少女———珠雫が姿を現し堂々たる姿勢でバトルフィールドに立った。

 

「っ!?」

 

そして次の瞬間珠雫は自分が巨大な赤鬼に叩き潰される幻覚を見て一瞬脚が竦んでしまった、たった今赤ゲートから姿を現した男の底知れない闘気と威圧感を感じ取って———

 

『そして赤ゲートから姿を見せたのはこちらも黒鉄一輝選手と並ぶ注目度を誇る騎士!魔力量最底辺のF-でありながら攻撃力上限突破のEX(測定不能)という矛盾的ステイタスを秘める異質な男!【紅蓮の皇女】【城砕き(デストロイヤー)】といった名だたる騎士を次々と打ち破り!ここまでの戦績は黒鉄選手と同じく十五戦十五勝無敗!その規格外の膂力から放たれる鬼の一撃が全てを粉砕する!一年【殲滅鬼(デストラクター)】真田幸斗選手だぁぁああああああっ!!』

 

「ハッ!ようやく出てきやがったか、退屈な試合ばかりで暇だったぜ!」

 

「無理を言って観戦させてもらっている立場で文句を言うな」

 

「ふ~ん、以前より凄い闘気じゃん」

 

丁度大型中央モニターの反対側にありバトルフィールド全体を見渡すことができ観戦するには絶好の位置にある観客スタンドの最前列の席に政和達三人は座っていた。幸斗が赤ゲートから入場して来て大歓声があがるとここまで十一試合も低レベルの試合を見せられてつまらなそうにしていた政和が不謹慎な事を言ったので十士郎がそれを戒め、幸斗の昔の仲間である綱定は五年前の西風壊滅時より圧倒的に上回った闘気を放つ幸斗を見て薄い反応ながらも関心していた。

 

「真田と対戦する奴は無冠の剣王の妹か、へっ!今までのザコ共より何百倍は歯応えがありそうだな!こりゃあなかなかフレッシュな試合が期待できそうだぜ!」

 

幸斗が立つ20m前で彼と向き合い、真剣な目線で彼を睨む珠雫のチカラを感じ取った政和は期待に胸を躍らせた、ここまでつまらない試合を十一試合も見せられた不満を全て払拭する程の戦いを期待して。

 

一方、一輝・ステラ・有栖院の三人は珠雫が入場して来た青ゲートの真上の席にいた。

 

「いよいよシズクの番ね、普通の相手ならシズクの心配なんかしないんだけど相手はアタシが敵わなかったユキト、アイツの攻撃力は間違いなく学園一・・・いや、世界一かもしれないわ、これはシズクが不利かもしれないわね・・・」

 

若干悔しそうにステラがそう言う、今は幸斗に負けた事を割り切ってはいるもものやっぱり悔しいのだろう。

 

「・・・いや、珠雫の場合は不利とは言えないかもしれない」

 

「えっ?どういう事イッキ」

 

「真田君が今まで試合した相手はステラに【城砕き】の二つ名で知られる砕城さん・・・他も全て【パワーファイタータイプ】なんだ、実際にはステラはオールラウンダーなのかもしれないけど基本攻撃力が目立つしね、だけど珠雫は遠距離(ロングレンジ)からの飛び道具を主軸に相手を翻弄する【魔法戦タイプ】だ、チカラでごり押しして来る真田君を上手く搦め手で翻弄して試合の主導権を握れば珠雫が有利になる筈さ」

 

「・・・・」

 

一輝が考察をステラに話している隣で有栖院は一言も発せずにじっと珠雫の後ろ姿を見つめていた。

 

————ついにこの日が来たわね、珠雫はステラちゃんを倒した彼と試合をする事が決まった時から絶対に彼に勝つと三日間必死に頑張ったんだから・・・相手は強敵だけど、頑張ってね珠雫!

 

有栖院は心の中で珠雫にエールを送った。

 

————真田幸斗・・・成程、桁違いね。

 

珠雫は前方約20mにいる幸斗の鬼の幻覚を見てしまう程の凄まじい闘気を感じ取って身震いをしていた。空気が無数の太針の様に身体中に突き刺さり激痛を感じる、地球の重力が十倍か二十倍になったかのように身体が重い、蟀谷から冷や汗が滴り落ちる・・・この相手は強い、今まで自分が相手をしてきた誰よりも格上で計り知れないチカラを感じる、珠雫はそう確信した。

 

————でもだからこそ倒し甲斐があるわ、私はずっとこういう機会を待ち望んでいたのだから。

 

珠雫は強敵と戦う事で最も愛する兄への想いを試す事ができる事に思わず顔がにやけた。

 

————相手はお兄様より魔力が無いにも拘らずステラさんを倒したお兄様に最も近い伐刀者———相手にとって不足無し!この試合で黒鉄珠雫(私)の限界を試してやるっ!!

 

「運命を切り拓け!鬼童丸!!」

 

「飛沫(しぶ)け!《宵時雨(よいしぐれ)》!!」

 

幸斗は朱い太刀、珠雫は小太刀の霊装を顕現させて構え、戦闘準備完了だ。

 

『それでは第十二戦目―――――LET's GO AHEAD(試合開始)!』

 

戦いの火蓋は切って落とされた・・・それと同時に幸斗がいつものように珠雫に真正面から突撃した。

 

「うおぉぉぉぉぉぉおおおおおおっ!!」

 

————なっ!?速いっ!!

 

『ああっと真田選手、試合開始と同時に黒鉄選手に向かって突攻!20mの距離をほぼ一瞬にして詰め寄って至近距離(クロスレンジ)に入ったぁぁぁぁあああっ!!』

 

並外れた脚力で珠雫との距離を一瞬にして詰めた幸斗が珠雫をその朱い太刀の射程圏内に捉えた、予想外の幸斗の速力に内心驚愕して咄嗟に宵時雨を中段に構えて防御体勢に入る珠雫だが、幸斗はその真上から鬼童丸を横一閃!

 

『真田選手、霊装ごと黒鉄選手を一閃!防御の上から一刀両断だぁぁああああっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここまでの選抜戦で幸斗はステラ以外全て初撃で決着を着けている、唯一初撃で決着を着けられなかったステラはその初撃で後方に吹っ飛ばされて壁に大の字でめり込んで大ダメージを受けている・・・今まで幸斗の初撃は必ず相手にクリーンヒットしていた・・・・・しかしこの試合で初めて幸斗の初撃は相手に躱される事となる。

 

「なあっ!?」

 

『おおっとこれは一体どうした事でしょう!?横に真っ二つにされた黒鉄選手の身体が突如崩れて水飛沫が弾けた!これは水の分身だぁぁああ!!』

 

幸斗が斬ったのは珠雫が能力で造った自身の分身だった、見事に騙された間抜けな幸斗は驚いて素っ頓狂な声をあげてしまう、そして当の本人は————幸斗の真後ろだ!

 

「もらった!《水牢弾(すいろうだん)》っ!!」

 

「しまっt———」

 

珠雫は5m後方から鬼童丸を振り抜いた為に体勢が崩れている幸斗に宵時雨の切っ先を向けてそこから直径30cm程の水の砲弾を放ち、それが幸斗の顔面に直撃し水が幸斗の頭から首全体を包んで留まった。

 

「ごぼっ!?ごぼごぼっ!!」

 

『ああっと!この選抜戦で多くの騎士達を深海に沈めてきた黒鉄選手の水牢弾が真田選手に直撃!真田選手息ができずに苦しんでいます!これは早くも万事休すかっ!!?』

 

「・・・ごぼ・・・ごぼ・・・」

 

幸斗はその場でもがき苦しみながらよろめき段々と肺に空気が無くなってきたようであり徐々に腕のチカラが無くなっていく、珠雫はそんな幸斗の無様な姿を見て失望を抱いた。

 

「・・・なによ、これで終わりなの?散々期待させといてその様なんてがっかりしたわ・・・」

 

「・・・ごぼ・・・」

 

幸斗はやがて静かになり腕をだらんとチカラ無く下げ眼を閉じた・・・一輝達をはじめとした第四訓練場にいる誰もがこれで終わったと思った—————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!馬鹿が!この俺がライバルと認めた男がこの程度で終わるわけねぇだろ!!」

 

特別に観戦している他校の隻眼の伊達男とその仲間にして幸斗の昔の仲間と控室にいる月花の錬金術師の二つ名を持つ戦術家の三人を除いて。

 

「・・・なっ!?」

 

珠雫はたった今仕留めたと思った伐刀者を見て信じられないと言わんばかりに眼を見開いた、なんと幸斗は静かになったと思ったらいきなり鬼童丸を静かに構えて眼をカッと見開き、首から上全体に水球を纏わせたまま珠雫めがけて突撃して来たからだ。

 

「がぼぼぼっ!(なめんなっ!)ごっぼぼぼっ!(くっだけ散れっ!)」

 

「くっ!?」

 

幸斗は勢いよく高く跳び上がり、太刀を後頭部まで振り上げ珠雫めがけて落下しその勢いを利用してチカラいっぱい太刀を振り下ろした。

 

珠雫は苦い顔をして後方に飛び退き、攻撃対象を見失った太刀がバトルフィールドを砕いた。

 

『真田選手いきなり復活してすぐさま伐刀者専用のリングを粉々に砕いてしまったぁぁあああっ!?VSヴァーミリオン選手の時と同じようにまたしても巨大クレーターを造ってしまいましたっ!魔導騎士連盟はリングの強度を見直した方がいいんじゃないかぁぁあああっ!?』

 

「ごぼごぼごぼぼっ!(まだまだ行くぜっ!)」

 

「くっ!?何で!?」

 

水球を首から上に纏わせたまま猛攻を仕掛けて来る幸斗を見て珠雫は唇を噛む、水牢弾が幸斗に直撃してから既に十分が経過しているのに彼は窒息せずまるで気にも留めずにいるので珠雫は困惑しているのだ、人間が水に潜れる時間は一般人で一分から三分ぐらいだ、そしてどんなに訓練した人間でも最長で約十五分、伐刀者は少し延びるかもしれないがそれは魔力あってこそであり幸斗の魔力量は世界最低のF-判定、とてもじゃないけど息を止められながらあんなに激しく動いて窒息しないだなんて信じられないだろう。

 

しかし今赤ゲート側の控室にあるモニターでこの試合を見ている涼花はこう語る。

 

「アイツ昔はカナヅチだったんだけどね、意地になってやり過ぎなくらい特訓して何故か【無呼吸で三時間潜水できるようになってしまった】のよ」

 

この非現実的な理由が珠雫の水牢弾で窒息しない理由だった、三時間潜水なんてAランクでもできるかどうかと首を傾げる事だろう、それぐらい異常な事である。

 

更に幸斗の昔の仲間である綱定はこう語る。

 

「アイツは本当の意味で何の才能もなかった人間の出来損ないだったんだよな~、魔力量は勿論、剣術も体術も銃器類の扱いもてんでダメでそれどころかまともに買い物や掃除すらできなかった、【強くなるなら自分の長所を活かせ】なんて言葉があるがアイツには長所なんてものはなかったんだ・・・だけどアイツは全てに意地になってぶつかり続けた、何年も何年も毎日毎日挫折を繰り返してね、知ってるか?アイツは【あの敵にはパワーじゃ絶対に敵わない、技術を磨け】って言われても【ならもっとパワーを上げりゃいいんだろ】とか言う馬鹿なんだよ、オイラ達は無理だって思ったんだけどアイツは次々と不可能を可能にしていきやがったんだ、そしたらなんかオイラ達まで才能がある奴等に負けたくない、越えられない壁なんかぶっ壊してやるなんて思うようになってさ・・・まったく不思議な奴だよ幸斗はさ」

 

そして幸斗の最大のライバル、政和はこう語る。

 

「たった今できねぇ?持って生まれた才能が違う?だから何だってんだっつって壁にぶつかり常に限界を越えようとする、それが真田幸斗という男だ、全ては無理だろうがマジで意地を張り続けて挑めば例え何年かかろうが大抵何とかなるもんだ、【念力岩をも通す】、奴はその信念を以って運命を覆す、まったくもってフレッシュな野郎だぜっ!」

 

幸斗の今までの異常性や今目の前で起きている状況もその信念が成したものであるのだ、【念力岩をも通す】、それが真田幸斗の絶対的価値観(アイデンティティー)なのだから。

 

「くそっ!仕方ない!」

 

剣速、技のキレ、攻撃の鋭さが段々と増してきた幸斗の猛攻を水牢弾を維持し続けながら凌ぎ続けるのは不可能だと判断した珠雫は悪態を吐きながら止むを得ず幸斗の首から上を包んでいる水球を解除した。

 

「ハァッ!」

 

「ちっ!」

 

水牢弾から解放された幸斗がクレーター中央の上を跳んでいる珠雫目掛けて跳躍し鬼童丸を横一閃するが珠雫は身体を反らして間一髪朱い太刀を躱しクレーターのど真ん中に着地する、それと同時に———

 

「凍てつけ!凍土平原!!」

 

宵時雨をクレーターの中心に突き刺し言葉と共に彼女の足下が凍り付く、氷は幸斗が地に着地する前に壁際までフィールドを侵食して巨大クレーターとなったバトルフィールド全体を氷結させた。

 

———これでこのまま真田さんが斜面に着地すればバランスを崩して倒れる筈、そこを狙えば!

 

珠雫はそう目論んでいたが彼女の目論見はアッサリと覆された。

 

「嘘っ!?」

 

幸斗は氷結したクレーターの斜面に着地した瞬間まるでアイススケートのように氷の斜面を滑ってバランスを保った、それどころかその勢いを使って加速している。

 

「うおりゃぁぁああああっ!!」

 

幸斗は珠雫の周囲を超高速で滑り回って彼女を攪乱し巨大な剣圧を放った。

 

「《障波水漣(しょうはすいれん)》!!」

 

その剣圧は珠雫の前の地面から吹き上がった幅3mの水の壁が阻んだ、しかし幸斗の剣圧閃光はステラの天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)を凌駕する一撃だ、幾ら鉄壁を誇る珠雫の障波水漣でもまともに受け止めれば術者ごと吹っ飛んでしまうだろう・・・故に珠雫は———

 

「受け流すっ!」

 

障波水漣の形を変化させて上に向かって反り立つ壁となった。

 

「くぅぅううううっ!?」

 

上にカーブを描く壁に伝わせて閃光を空へと導く、壁に伝わせる事によって衝撃が幾らか激減しているがそれでも凄まじい衝撃の為珠雫は魔力の放出と制御の為の集中力をとてつもなく使い苦痛で顔を歪めていた。

 

「負ける・・・ものかぁぁああああああっ!!!」

 

珠雫が最後の踏ん張りを見せとうとう閃光を上へと逸らす事に成功し、閃光は第四訓練場の天井を破壊して天へと昇って行った。

 

『黒鉄選手、真田選手の強烈な破壊力を秘める剣圧を上手く逸らした!!両選手お互い一歩も引きませんっ!!』

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

 

「やるじゃねぇか黒鉄妹!へへっ!ワクワクしてきたぜ!!」

 

かなりの集中力と魔力を使わされ肩で息をしている珠雫に対して楽しそうに不敵な笑みをしてそう言う幸斗、実況解説の女子生徒が言ったように互いに一歩も引かない二人だが試合はまだ始まったばかりだ、果たして勝つのは幸斗か?それとも珠雫か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




破軍学園壁新聞


伊達政和

PROFILE

所属:巨門学園一年

伐刀者ランク:B

伐刀絶技:自然災害(ナチュラル・ハザード)

二つ名:蒼雷龍(ブルーライトニングドラゴン)

人物概要:隻眼の伊達男

ステイタス

攻撃力:S

防御力:D

魔力量:B

魔力制御:C

身体能力:A

運:A


かがみんチェック!

フレッシュだぜ!とその身に蒼い稲妻を纏い、大自然を味方に付けて強敵を討つ!殲滅鬼真田君の最大のライバル、推して参るっ!・・・一人でやってもむなしいね(汗)、知名度はステラちゃんをはじめとしたAランク伐刀者達の陰に隠れてしまっているけれど、実は彼は中学生(シニア)リーグ三冠を成し遂げた日本でもかなりの有名人なんだよね、まあただ現七星剣王と風の剣帝が小学生(リトル)リーグで一時引退して中学生リーグに出ていないから運がよかっただけだと批判する人も少数いるみたいだけど・・・でもそれ以外にも彼はうちの生徒会長も呼ばれている【特例招集】に僅か十歳の時から参加している超天才児だったんだよ!真田君はそんな凄い人とどこで知り合ってライバルになったんだろう?私、気になりますっ!・・・ちなみに彼は宮城県出身だけど戦国武将の伊達政宗の子孫では無いみたい・・・。




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