運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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紅蓮の皇女VS蒼雷龍

現在生徒会長である刀華はある事情により不在である、その為素行の悪い生徒達がこれを機に普段抑制されている鬱憤を晴らそうと良からぬ事をするのである。

 

二分前、政和達は破軍学園の敷地の入り口にて出入りの許可をもらい近くの広場に足を踏み入れた所で素行の悪い愚かな生徒達に絡まれて喧嘩という名の戦闘が始まり、政和一人が三十人もの生徒達を相手に無双をして現在に至る。

 

「政和、もういいだろ?さっさと受付に行って真田達を呼び出してもらうとしようぜ」

 

「ふぁ~あ・・・破軍の奴等ザコ過ぎ、うちの学校のザコ共の方がまだマシだな、ほんの少し」

 

其処ら中に倒れている生徒達の中心で蒼い太刀を地に突き刺して眼を瞑り精神統一をする政和に終わったなら用事を済ましに行くぞと声をかける二本傷の少年とやっと終わったかと欠伸をして破軍の生徒達を馬鹿にする不真面目そうな少年、そんな二人の声を聞いても政和はその場を動こうとせず周囲に意識を集中していた。

 

「・・・・・へっ!真田じゃねぇが少しはやりそうなのが来たみてぇじゃねぇか」

 

「「は?」」

 

こっちに向かって来る伐刀者の殺気を感じ取った政和は眼を見開いて太刀を地面から引き抜き、木の陰から飛び掛かって来る二人の伐刀者を迎え撃った。

 

「来てくれ、陰鉄!」

 

「傅きなさい、妃竜の罪剣(レーヴァテイン)!」

 

【無冠の剣王(アナザーワン)】黒鉄一輝、【紅蓮の皇女】ステラ・ヴァーミリオン、破軍学園が誇る実力者の二人が破軍学園の敷地内で暴れる隻眼の剣士を鎮圧せんと自らの霊装をもって飛び掛かる。

 

「ブッ潰れなさいっ!!」

 

先に剣を届かせたのはステラだ、地を揺るがす膂力を以って政和を上から叩き潰そうと妃竜の罪剣を落下の速度と自身の体重も利用して叩きつけるように振るい、政和はそれに対して太刀を上段に横にして構え振り下ろされて来る大剣をガードしようとする。

 

————このまま叩き潰す!

 

防御体勢を取った政和を見てしめたと思ったステラはそのまま全力で太刀に大剣を叩きつける・・・だが———

 

「・・・へっ!」

 

「なっ!?」

 

大剣が太刀に接触する直前に政和は口の端を吊り上げほくそ笑み太刀を引く、それによってステラは宙でバランスを崩し、振り下ろされた大剣は政和が身体を右にずらした事によって空を斬り————

 

「ホラッ!」

 

「ぐはっ!?」

 

政和が右に身体をずらした動作を利用して一回転し足の踏ん張りが利かない宙で無防備状態となってしまったステラの左頬に強烈な裏拳が炸裂した。

 

それと同時に一輝が薙ぐ様に陰鉄を振るって政和に斬り掛かろうとして来たので政和は裏拳で右腕を振りきっている状態にも拘らずそのまま左手に持った太刀を片腕で振り上げ一輝を迎え撃つ・・・その瞬間、一輝の身体は霧のように消えた。

 

「第四秘剣・蜃気楼」

 

薙ぐ動作と同時に政和の目前に着地した一輝は足捌きによる落下速度の勢いを利用した急激な緩急で残像を作り政和に間合いを誤認させたのだ。

 

————こいつ!?

 

それにより一瞬にして政和の懐に入ることに成功する一輝、一瞬度肝を抜かれた政和は再び横薙ぎで自分の胸を斬り付けて来た陰鉄を———

 

「ふっ!」

 

「っ!?」

 

咄嗟に大きく身を後ろに反らして躱した、間一髪だったので政和は額に若干冷や汗を掻いていた。

 

一輝の後方に吹っ飛ばされて数メートル先にスタイリッシュに受け身を取っているステラを後目に二人はそのまま斬り合いを始めた、目にも留まらぬ無数の剣閃が衝突し火花を散らす。

 

————なんて重い剣撃なんだ!?下手したらステラ並じゃないか!

 

————こいつ俺の剣を全て受け流してやがるのか!?・・・へっ!なかなかフレッシュじゃねぇか!

 

嵐のような連撃のぶつかり合いの最後の一撃で二人は互いに後方へ大きく弾かれ地面をスライドするように滑って一輝はステラの隣に止まり政和は自分の仲間の二人の手前に止まった。

 

真夏のような暑い太陽光が地に降り注ぎ辺りを沈黙が支配する、汗を流しながら両者は霊装を構えて睨み合い、一輝の隣にいるステラも大剣を地面に突き刺して政和を睨みつけた。

 

「・・・一応言っておくが、喧嘩売って来やがったのは其処らに転がっている奴等だぜ」

 

沈黙を破ったのは政和であった、発言した内容は言葉だけを聞けば正論を言って弁解しているように聞こえるが彼の口端は吊り上がっていて明らかに一輝とステラを挑発するように笑っていた。

 

「それはなんとなく分かる、彼等はよく迷惑行為をして生徒会に厳重注意されていたみたいだからね・・・でも君は多分強者に遭遇したらどのみち戦闘を仕掛けていたんだろう?巨門学園の大型新人(スーパールーキー)、【蒼雷龍(ブルーライトニングドラゴン)】伊達政和君」

 

「・・・ほぅ」

 

政和の素性を知ったうえで一輝は攻撃を仕掛けたようだ、蒼い上着の下に着ている白い外套のような制服は巨門学園の物であり後ろの二人が身に着けているのも同じものである、このクソ暑い日になんて暑苦しい恰好をしているんだと言いたくなるが何はともあれそれで彼等の身分は特定できる。

 

「君の事は連盟が発行している新聞に載っていたから知っているよ、過去最年少で特例招集を受けたBランクの天才児、中学生時代は中学生(シニア)リーグ無敗の三冠を達成しここ最近では入学早々巨門学園のエースにして【氷の冷笑】の二つ名で知られる《鶴屋美琴(つるや みこと)》さんに摸擬戦を挑み僅か二秒で鶴屋さんを瞬殺し、公式戦ではなかった為に巨門学園の序列順位に変動はなかったものの事実上巨門学園最強の学生騎士となった期待の大型新人、ひどく好戦的な性格で強者と出会ったたら場所も顧みず挑みかかる傾向があり【爽快(フレッシュ)だぜ】と言う口癖と隻眼が特徴である・・・」

 

そして大きな才能を持ち幼少期から逸話を残している伐刀者は世間に名が知られる、政和は全国レベルで数えきれない程の逸話を残していたので情報誌に掲載されるのも道理であった。

 

「そういや最近よく取材が来るな、ちょっと前まで世界最高の魔力を持つAランク伐刀者であるなんちゃら皇国の皇女が破軍に留学して来たっつう話で持ちきりだったらしいからあんまり連盟の取材なんか来なかったんだが、その皇女が破軍の七星剣武祭代表学内選抜戦で二回負けて七星剣武祭代表落ちたっていう理由ですっかりその皇女の話題が薄れたらしいぜ・・・はっ!その皇女が今何所にいんだかしらねぇが、相手が真田と佐野だったのが運の尽きと言うべきか最高の魔力を持って生まれたってだけで調子に乗った慢心皇女なんざ所詮この程度だったなと言うべきか・・・」

 

政和は自分の事を良く調べていた一輝に感心して思い出したかのように最近の情勢について話し出した、その内容は一輝の隣にいるステラが選抜戦に負けた事を小馬鹿にする内容だった。

 

————ステラがどれだけ努力してきたか知らないくせに好き勝手な事を!

 

政和は目の前に本人がいることに気付いていないようだが一輝にはそんなの関係ない、最愛の恋人にして最大のライバルである人を馬鹿にされた一輝は怒りが爆発しそうになりながらもなんとか平静を保ち続けている、ここで我を失って政和に攻撃したらこっちが悪者になるからである、元々は破軍の生徒達が政和達に危害を加えたのがそもそもの発端なので政和が戦闘することを合意せずに危害を加えれば一輝達も同罪なのである、さっきの攻防くらいなら所見の咄嗟の行動だったので軽い注意で済むが政和が自分達は被害者だと発言した今攻撃したら自室謹慎処分か最悪退学となってしまうだろう、故に一輝は込み上げてくる怒りを必死に抑え込んでいた・・・だが、自分の隣にいる話題の皇女本人は我慢できなかったようだ。

 

「アンタ・・・もういっぺん言ってみろ・・・」

 

「あん?」

 

血が滲む程拳を強く握りしめて身体中から火の粉が巻き上がる、昔から才能だけしか見られてこなかったステラにとって慢心皇女なんて悪口聞き逃せる筈がないのだ。

 

「イッキ・・・コイツはアタシにやらせて」

 

「ステラ・・・」

 

ステラは一人で政和と戦うと言って一輝の前に立つ。

 

「・・・俺としてはそっちの黒髪の方が見どころがありそうだからできればそっちと戦りたいんだがな・・・つうか何キレてんだお前?」

 

政和は魔力を放出させて明らかに激怒しているステラに疑問を抱いた、それを見兼ねた二本傷の少年が呆れたように溜息を一回吐いて政和に話し掛けた。

 

「政和・・・そいつが例の紅蓮の皇女だ、顔ぐらい覚えておけ」

 

「・・・チッ!なんだ本人かよ、負け犬皇女なんかに興味無いんだがな・・・」

 

「っ!!」

 

「ちなみにそっちの黒髪が無冠の剣王だな・・・」

 

「うおっ!マジかよ!?こりゃあいきなり大物と出会ったぜ、へへっ!」

 

「舐めんじゃないわよ・・・」

 

目の前にいる女が紅蓮の皇女本人だと聞いた政和は白けた、七星剣武祭代表に選ばれる見込みの無いステラに関心が無いからだ、それを聞いたステラの怒りのボルテージが急上昇し一輝の事を聞いて態度を変えた政和を見て馬鹿にされたと怒りの炎を燃え上がらせた。

 

「お兄様!ステラさん!」

 

「やっと追い付いたわ・・・!?」

 

校舎の方から珠雫と有栖院が駆けつけて来た。

 

————何よこの惨状・・・これを一人の伐刀者がやったっていうの?

 

有栖院は周辺に様々な負傷を負って倒れている生徒達を見て驚愕した、これ全てを一つの能力でやったと言うのだから無理もない。

 

「・・・手を出すんじゃないわよシズク、アリス、これはアタシが売られた喧嘩よ・・・」

 

「・・・まっ、噂の世界最高峰の魔力の保有者がどんなもんだか見てみるのもいいか・・・・・いいぜ、来な」

 

ステラが加勢しようとする珠雫と有栖院を制していると政和が戦闘行為に応じた、これでもう攻撃しても問題ない。

 

「消し炭にしてやる!喰らい尽くせ!妃竜の大顎(ドラゴンファング)!!」

 

ステラは挑発するように右手で手招きしている政和に大剣の切っ先を向けて妃竜の大顎を二発放った、どこまでも追尾する二体の炎竜が一直線に飛んで行き政和を襲い掛かる・・・だが————

 

「・・・・えっ!?」

 

「なっ!?」

 

「嘘っ?」

 

突然ステラが驚きの表情で固まり珠雫と有栖院が驚愕の声を上げた、なんと妃竜の大顎が二体共政和の10m手前で消失したのだ。

 

「・・・何らかしらの能力を使ったみたいだね・・・」

 

その中で一輝だけが政和の身体の周りに蒼いプラズマ現象が発生した瞬間に妃竜の大顎が消失した事に気が付いたようだ。

 

「アンタ何したのよ!?」

 

「へっ!どんなに熱い炎だろうが【酸素がなければ消滅する】ってことだ!」

 

「な、なんですって!?」

 

ステラは政和の発言を聞いて驚愕した、確かに火は酸素がなければ存在できない、つまり妃竜の大顎が消失した辺りが真空状態になったのだ、しかし何もせずに酸素を消失させて一部の空間だけ真空状態にする事など不可能である。

 

————つまりアイツの能力は真空状態の空間を作り出す能力って事ね!だったら———

 

ステラは妃竜の罪剣に摂氏三千度の炎を纏わせて息を止め、政和に向かって爆ぜるが如く勢いで突撃した。

 

真空状態である宇宙空間でもロケットのエンジンから炎は噴射する、ロケットエンジンの噴射口から出る炎はあらかじめガスと空気を混ぜたものをノズルから出しているからだ、ステラは魔力を放出し続けて炎を維持することによってそれと同じ事をすればいいと考えたのだ。

 

真空の中での圧力は魔力のバリアで防げばいい、世界最高峰の魔力を持つステラだからできる芸当だ。

 

————これでアンタの能力は封じたわ!アタシの事を慢心皇女と馬鹿にした事を後悔しながら懺悔なさいっ!!

 

ステラが政和の10m手前を通過する・・・ステラの読み通り大剣に纏った炎は消える事無く燃え盛り続け政和を射程圏内に捉えた。

 

「・・・考えが甘ぇな・・・」

 

「えっ!?」

 

ステラが政和に炎を纏った大剣を振るおうとした瞬間、彼女は【地面に足を捕られて】身体の体勢を崩してしまった。

 

「な、何なんですかあれ!?」

 

「ステラちゃんの足下の土が砂になった!?」

 

有栖院が今言った通り政和が身体中に蒼いプラズマ現象を発生させた瞬間にステラの足下の土が突如砂に変化してステラの足がそれに埋まった為に彼女は体勢を崩したのだ。

 

「これは・・・・・砂漠化?」

 

一輝が今言った砂漠化とは乾燥帯の移動などの気候の変化によって起きる自然現象である。

 

「随分と呆気なかったな皇女サマ・・・少なくとも今のテメェ相手じゃ全然フレッシュな戦いはできねぇな・・・」

 

政和は小さな砂漠に足を捕られ体勢を崩したステラにそう言うと自身の霊装である蒼い太刀に旋風と蒼いプラズマを纏わせてステラに斬り掛かった。

 

「うおぁああああああっ!!!」

 

それに対してステラは雄叫びを上げて身体を捻り、その遠心力で無理矢理大剣を振るって太刀を弾き返そうとしたが————

 

————・・・嘘でしょ?・・・。

 

妃竜の罪剣は太刀が纏っている旋風に上に押し上げられて空を斬った。

 

「《蒼牙ノ太刀(そうがのたち)》」

 

そして蒼い太刀はそのままステラを一閃した。

 

「——————」

 

「ステラァァァアアアアッ!!」

 

幻想形態の精神ダメージによって呆然とした表情で意識を刈り取られたステラが美しい放物線を描いて後方に吹っ飛び、一輝が絶叫しながらステラの身体を落下する前に受け止めた。

 

「あのステラさんがこうもアッサリ・・・」

 

「一体何なの彼の能力は?」

 

選抜戦で敗北したとはいえ破軍学園でも屈指の実力者であるステラがいとも簡単にやられた事に驚愕する珠雫と有栖院、一部の空間が真空状態になったり土が砂漠化したりと政和の能力はわけがわからない。

 

「・・・なあ?Aランクってこの程度なのか?」

 

「いや、日本のAランク学生騎士である《風の剣帝》は今の紅蓮の皇女とは比べ物にならない程凄まじかったぜ・・・まあ、俺達はともかく今の政和の敵じゃないがな・・・」

 

「・・・アリス・・・ステラをお願い」

 

「ちょ!?一輝!?」

 

政和の仲間である二人がひそひそ話をする中、一輝はお姫様抱きにしているステラを有栖院に預けて鋭い目線でこちらを見ている政和と向き合った。

 

「・・・どういうつもりなのかな?」

 

今度は一輝が一対一で政和と戦うつもりだ、互いの目線が合わさり睨みつけて威嚇し合う、戦闘が始まるのを今か今かと待ち侘びているかのように辺りを静寂が支配した・・・・・のは束の間で突然政和の表情が緩んで彼は太刀を下げたので一輝は疑問を抱いた。

 

「・・・・・へっ!テメェとは是非とも戦り合いたかったが—————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————悪いな、メインゲストが来たみてぇだ」

 

「え!?」

 

「伊達政和ぅぅううううぅうぅぅうううううっ!!!」

 

政和が不敵な笑みをして空を見上げた瞬間に天を揺るがすような叫び声が上から降り注ぐように聴こえてきた。

 

彼等の真上に存在する雲を突き抜け一人の男が凄まじい闘気を纏い朱い太刀をその手に持って空から流星の如く落下して来た。

 

「フレッシュだぜ!凄く待ち侘びたぞ、真田幸斗ぉぉおおおおぉぉおおおおおっ!!!」

 

流星のように空から派手に登場した伐刀者————幸斗を迎え撃つ為、政和も凄まじい闘気を纏って地面を蹴り空へと跳び上がった。

 

「うぉぉおおおおぉぉおおおぉおおおおっ!!!」

 

「てぇぇええええぇぇえええぇええええっ!!!」

 

宿命のライバルの再会だ、上空で二つの閃光が正面衝突し朱と蒼の太刀が交差して火花を散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




誠に申し訳ないのですが次回から更新速度が大幅に低下します、詳しい理由は活動報告をご覧ください。





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