運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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重勝の【光翼ノ帝剣(アストラル・ブレイカー)】は彼の容姿イメージにして戦闘力の半分である【空戦魔導士候補生の教官】の主人公【カナタ・エイジ】が原作第8刊で使った必殺の戦技の名前そのままですが、チカラの起源すら違うので同じではありません。






死闘の終結、未来(さき)へと向けて

重勝が放った【光翼ノ帝剣(アストラル・ブレイカー)】は超圧縮された膨大な超重力エネルギーを放出し、敵を空間ごと押し潰し消滅させるという伐刀絶技だ、その破壊規模は幸斗の龍殺剣(ドラゴンスレイヤー)には遠く及ばないものの巨大都市一つを軽く丸ごと消し飛ばすぐらいはある。

 

「ぬぅぅううう!なんて圧力さね!なんてもの使うんだい重坊!腕が弾け飛びそうだぜ!!」

 

「無駄口を叩くな!一瞬でも気を抜けば破られるぞ!!」

 

白い超重力エネルギーの柱がカナタを飲み込み、光がドーム状に広がって直径百メートルのバトルフィールドを飲み込み、そしてそれが観客スタンドの手前でまるで見えない壁に阻まれたように停止し空へと上昇、巨大な光の柱となり天井を完全消滅させて突き破って蒼穹を貫き、白い光の巨塔が建つ。

 

「風間の奴やりやがった!!どう考えてもこれオーバーキルってリユウだろ!?」

 

「確かに凄まじい・・・先生方が被害を抑えてくれているとはいえ、これは個人に向けて使う伐刀絶技では無いな」

 

「凄ぇ・・・シゲの奴いつの間にこんな伐刀絶技を使えるようになったんだよ!?くぅうう!オレの龍殺剣とどっちが上か勝負してみたいぜ!!」

 

「いや、流石にアンタの龍殺剣には敵わないわよ・・・でも相手を重力の拘束具(グラビディバインド)で拘束し完全無防備状態になったところをこれでとどめを刺す・・・鬼畜・・・いや、悪魔ね・・・」

 

目の前で黒乃と寧音が能力を使用して被害を食い止めている中で幸斗達は呑気にも光翼ノ帝剣に対する感想を述べていた。

 

「いーよなアンタ達気楽でえぇ!?」

 

「まったく、食い止められるとは限らないのだぞ」

 

「なぁに!平気ですよ、いざとなったらオレが龍殺剣をブッ放して消し飛ばしてやりますから!!」

 

「やめなさいお馬鹿!?それやったら逆に被害が広がるわよ!!」

 

「・・・寧音、なんとしても食い止めるぞ!!」

 

「ガッテンくーちゃん!ウチもまだ死にたくないからね!!」

 

駄目だったら龍殺剣を使うという幸斗の恐ろしい宣言を聞いた黒乃と寧音は必死になって能力の出力を上昇させた。そして光の巨塔が建ってから約一分が経過したところでそれは消え去り、光に飲み込まれたバトルフィールドは完全に消滅していて代わりに巨大なクレーターができていた。

 

・・・その中心に生まれたままの姿で意識を失っている血塗れの女性が倒れていた。

 

「・・・放つ前に幻想形態に切り替えていたか・・・」

 

光翼ノ帝剣を防ぎきってホッと一安心した黒乃がそう呟く、倒れている女性は言うまでもなくカナタだ、重勝は光翼ノ帝剣を放つ直前に殺傷ダメージになる実像形態から精神ダメージになる幻想形態に切り替えていたのだ、故に彼女は消滅しなかったのだ。

 

「貴徳原カナタ、戦闘不能!勝者、風間重勝!!」

 

「カナちゃぁぁあああああんっ!!」

 

レフェリーがカナタが気を失っているのを確認して試合終了宣言をした瞬間に刀華は観客スタンド一階にある柵を跳び越えてバトルフィールドがあったクレーターの端しに飛び降り、坂を駆け下ってクレーターの中心で倒れているカナタの許へと急いで駆け寄り彼女を介抱する。

 

『つ・・・遂に決着ぅぅうううううううっ!!長い長い死闘を制したのは【裏切り者の序列一位(エース・オブ・ビトレイアー)】風間重勝選手だぁぁあああっ!!しかもまたまた無傷の完全試合(パーフェクトゲーム)!風間選手はこれで無傷の十連勝!破軍学園最強の無敵の序列一位(エース)は腐っても健在だぁああ!!・・・って当然だけどもう皆避難しているじゃないの!?』

 

「急げ!担架持って来い!」

 

医療班の人達が瀕死の重傷を負ったカナタを担架の上にに寝かせて医務室に運んで行く、それを見送った刀華は立ち上がって無言のまま悔し涙を流した。

 

「・・・・・・・」

 

青ゲート近くのクレーター端に降り立った重勝は刀華に何も言わずに立ち去ろうとする・・・だが———

 

「轟け、《鳴神(なるかみ)》っ!!」

 

立ち去ろうとする重勝の方に振り返った刀華が自身の霊装である黒漆の光沢を持つ鞘に収められた日本刀を顕現させてそれを抜刀、身体中から轟音を響かせる程の雷光を放電させ怒りが籠った鋭い目線で背を向ける重勝を睨み、彼に鳴神の切っ先を向ける。

 

「・・・・試合の結果に難癖付けられる筋合いねーんだけど・・・」

 

重勝は刀華が言いたい事が分かっていた、誰だって大切な友達を傷つけられておいて怒りを抱かない人間なんていない、しかし、選抜戦は全てを覚悟して戦うものでありその結果どうなろうと文句を言う資格など誰にも無い、故に重勝が言った事は果てしなく正しい・・・だが。

 

「・・・確かに学生騎士としても選抜戦に出場している身としても貴方に文句を言う資格も恨む資格もありません・・・・・ですが、貴徳原カナタの友人として・・・東堂刀華個人として貴方の事を絶対に許しません!!」

 

それでも刀華は許せなかった、身体中から溢れ出る怒りの轟雷がクレーター全体を撃ち抜く、彼女は改めて目の前の黒い剣士を倒すべき敵として認識して決意を新たにする。

 

「私は貴方を倒します!必ず倒します!!傷付けられたカナちゃんの為にも絶対に貴方を許しません!!」

 

「・・・・・・そうかよ・・・」

 

この選抜戦か七星剣武祭で重勝を倒す、以前から変わらない誓いだがいつもより強くそれを宣言する刀華に重勝は一言そう言ってその場を跡にして行った。

 

実況解説席の真上の階の観客スタンド最前列で一部始終を見ていた寧音は眉を顰めた。

 

「・・・くーちゃん」

 

「何だ?」

 

「確かに今の試合、重坊はやり過ぎだと思うんだよねぇ、あんな滅茶苦茶な伐刀絶技なんて使わなくても重坊は圧勝だっただろうに、これじゃあ余計にとーかちゃん達を始めとした生徒達に恨まれるだけで重坊にはなんのメリットも無いと思うんだけど・・・くーちゃんは知っているのかい?重坊の目的を」

 

寧音は一段上の席に座って脚を組んでいる黒乃にそう尋ねた、これほどの惨劇を見ても重勝に【被害を抑える私達の身にもなれ】としか注意せずに彼を野放しにしている黒乃を怪しいと思ったのだ。

 

考えてみれば理事長である黒乃が学園のマイナスイメージにしかならない重勝を未だに序列一位の座に置いておく意図がまるでわからない、理事長としての権限を使えば学園の汚点である重勝を退学にする事は出来なくても序列一位(エース)の座を剥奪する事はできる筈だ、序列一位にするならば刀華の方が学園にとって余程メリットになる、それなのにそれをしない黒乃は確かに変だ・・・彼の目的を知っていて尚且つその目的に賛同していなければ余程の馬鹿でもない限り誰もが彼を見限る筈なのだから。

 

そんな寧音の疑問を聞いて黒乃は目を瞑り口を開く。

 

「・・・ああ、知っている・・・奴はこれから先、この学園全体が強くなる為には欠かせない人材だからな」

 

黒乃は重勝の目的を知っていた、そしてその目的は破軍学園の学生騎士達を強くすると言うのだ。

 

「詳しい内容を今言う事は出来ないが・・・風間の目的を達成させる鍵を握るのは——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—————真田と黒鉄だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れシゲ!すっげぇなあの最後のやつ!いつあんなもん覚えたんだ?今度オレの龍殺剣とどっちが上か勝負しろよ!」

 

「お前は日本地図から関東地方を消す気か?」

 

青ゲート側の待機所から出て来た重勝を出迎えたのは幸斗と涼花だ、如月兄弟は用事があるからと言って先程別れたようだ。

 

「それにお前の龍殺剣とじゃあ勝負にならねぇよ、総発生エネルギー量を見ても俺の光翼ノ帝剣は大きく見積もっても精々7PJ(ペタジュール)、お前の龍殺剣は16.8PJなんてイカレたバ火力じゃねーか」

 

「イカレてんのはアンタ達の頭の中よ、それ、精々なんてレベルじゃ無いから」

 

「それにお前、選抜戦や戦闘訓練もいいが、ちゃんとテスト勉強してんのか?来週だぜ中間テスト」

 

「う”っ!・・・よ、余裕だだだぜ!オ、オレが本気を出せばテテテテテストぐらいべべべ勉強しなくてもももももももm「つまりやっていないのね、このおバカ」うっせぇよ涼花っ!!」

 

「ハハハ!仕方ねーなー」

 

「頭撫でるな!ガキ扱いすんじゃねぇよシゲ!」

 

「ん?悪ぃな、丁度いい所に頭があったからつい、ハハハハ!」

 

「くっそぉ馬鹿にしやがってぇ~!!」

 

長身である重勝が170cmと少しの低身長である幸斗の頭をわしゃわしゃと撫で回して笑い、二人に弄られて不貞腐れた幸斗が重勝の手を振り払って二人の前に立ち、二人に指をビシッとさして喚く様に宣言し出す。

 

「見てろよ!今度の中間テストはオレ自身のチカラで全教科全て80点以上の高得点を取ってやるからなっ!!」

 

「五教科総合50点以上すら取った事無い癖に何ほざいてんのよ」

 

「うるせぇっ!オレはやると言ったらやる男なんだ!・・・いいぜ、オレが高得点を取れないのが運命だって言うんなら、その運命を覆してやるっ!!」

 

「無理に決めゼリフ言って強がんなって、昔みたいに俺が教えてやるかr「やってやるぜ!うぉぉぉりゃぁああああああああああっ!!!」・・・はぁ、困った元教え子だぜ・・・」

 

大興奮した幸斗は重勝の申し出を聞かず、廊下なのに何故か砂煙を巻き上げて突っ走って行ってしまった。

 

「・・・・ねえ、重勝?」

 

「ん?」

 

幸斗が走ってどこかへと行ってしまうと涼花が話し辛そうに重勝に話し掛ける。

 

「アンタは強いわ、伐刀者として天才クラスの才能を持ちながらもやれる事があるんなら妥協せずになんでもやって自分の可能性の限りを出し尽くすアンタのやり方は尊敬に値する・・・今日使った光翼ノ帝剣だってわたし達と離れ離れになっていた五年の間に試行錯誤の末に習得した伐刀絶技なんでしょ?」

 

「まーな、姫ッチも知ってんだろ?俺の絶対的価値観(アイデンティティー)は【やり尽くしたなら諦める】、コイツは【幸斗がくれた】物だからな、つまんねー生き方しか知らなかった俺に絶対的価値観をくれたアイツには感謝しているぜ」

 

【やり尽くしたなら諦める】、裏を返せば【やり尽くしてなければ諦めない】という意味になる、重勝は今日の試合の最中カナタに【不屈の心】と【悪足掻き】は違うということを説いた、これは彼の絶対的価値観に基づいたものだったのだろう。

 

「・・・でも重勝、今日の試合で今制御できる誘導重力球(グラビディシューター)の最大数を述べていたけれど・・・・・【五年前と変わっていない】のは何故?」

 

なんと重勝は五年前から千二百もの誘導重力球を制御できたと涼花は言い、何で五年も経って進歩していないのかと疑問を抱いた、果てしなく試行錯誤をする重勝が五年も進歩無しなんてあり得ない、そう思った涼花は思い切って重勝に聞いてみる、すると重勝は目を瞑りゆっくりと口を開く。

 

「・・・光翼ノ帝剣を身に付けた時からな・・・まるで糞堅ぇー鎖に縛られたみてーに前に進めなくなっちまったんだ、どんなに色々とやり尽くしてもよ・・・」

 

重勝はそう話しながら涼花に背を向けて歩き出して行った、涼花が見るいつも果てしなく大きく見えるその背中は・・・この時だけは儚く寂し気に見えていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風間重勝と貴徳原カナタの試合の終了をもって激動の選抜戦第十戦目の全ての試合が終了した。

 

数々の七星剣武祭代表有力候補の生徒が敗北しまさに激動と言える試合であった。

 

【狩人】桐原静矢に続いて【紅蓮の皇女】ステラ・ヴァーミリオンと【速度中毒(ランナーズハイ)】兎丸恋々が二敗目を喫し代表入りの可能性が完全に消え、【城砕き(デストロイヤー)】砕城雷と【紅の淑女(シャルラッハフラウ)】貴徳原カナタも敗北した為に、ますます代表入りをする生徒六名の予測がつかなくなった。

 

現在の代表入りの有力候補は以下の通りである。

 

三年・Bランク【裏切り者の序列一位(エース・オブ・ビトレイアー)】風間重勝

 

三年・Bランク【雷切】東堂刀華

 

三年・Bランク【空間土竜(ディメンショナルモール)】如月烈

 

一年・Bランク《深海の魔女(ローレライ)》黒鉄珠雫

 

一年・Cランク《朱月刃(あかげつじん)》如月絶

 

一年・Dランク《黒い荊(ブラックソニア)》有栖院凪

 

一年・Eランク【月花の錬金術師】佐野涼花

 

一年・Eランク【殲滅鬼(デストラクター)】真田幸斗

 

一年・Fランク【無冠の剣王(アナザーワン)】黒鉄一輝

 

学園序列トップ3以外はなんと全員一年生という驚愕のラインナップであった、彼等の今後の試合は一切目が離せないだろう、若き騎士達の健闘を祈る。

 

なお、この十戦目の試合で【殲滅鬼】に殴り飛ばされて学園の敷地外に吹っ飛び行方不明になっていた【城砕き】が熱海の海岸に打ち上げられているのが発見された、彼は顔面が陥没していて重症だったが再生槽(カプセル)によって完治し現在は何事もなく生徒会の書記として元気に活動している。

 

そして、今回の最終試合で大量出血や右腕切断などによる瀕死の重傷を負った【紅の淑女】はなんとか一命を取り止め、再生槽によって傷は完治し右腕も接合し完治したのだが・・・未だ意識不明で現在は休学扱いで東京にある大型の病院にて療養中であり、彼女は事実上の選抜戦エントリー抹消という形となってしまい、彼女の所属する生徒会の役員等を始めとする多くの破軍学園の関係者が彼女の早期回復を望んでいる。

 

また、先日の第九戦目の第五訓練場半壊に引き続き、今回は第二訓練場が最終戦で【裏切り者の序列一位】が決め技として放った伐刀絶技によりまたしても半壊するという事態が起きた、後にこの一連の内容を知らされた連盟はこれを重く受け止め、この二つの訓練場を半壊させた【殲滅鬼】の【龍殺剣】と【裏切り者の序列一位】の【光翼ノ帝剣】を危険と見なし、今年の七星剣武祭の終了と同時にこの二つを【禁技指定】登録することが決定された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♪~、なかなかフレッシュな事やってんじゃねぇか!面白れぇ」

 

魔導騎士育成機関の一つ【巨門学園】、東北地方に存在するこの学園の校舎の屋上にて魔導騎士連盟が発行する新聞を読んで口笛を吹く一人の男子生徒の姿があった。

 

「そもそも能力値選抜なんざくだらねぇぜ!本当に強ぇ奴ってぇのは命懸けのデスマッチをやってこそ見つかるんだ、なぁ、真田幸斗」

 

巨門学園の学生服のズボンの両膝に穴を空け、学生服の上に三日月の刺繍が背中にある蒼い上着を羽織り、右眼に黒い眼帯をした隻眼の粋で空気の昂りを感じさせる雰囲気の伊達男が幸斗の名前を呟き立ち上がる。

 

「七星剣武祭の前にちょいと挨拶にでも行ってみるか!噂の【氷の冷笑】も大した事なくて退屈していたところだしな!」

 

気を昂らせる彼が纏う突風がプラズマ現象を発生させる、蒼い雷光が蛇の様に彼の纏う突風に巻き付き天へと昇る、それはまるで蒼い龍が天高く飛翔するように見えた。

 

「七星剣武祭前の顔合わせと行こうぜ、真田幸斗!!フレッシュだぜ!!」

 

熾烈を極める学内選抜戦の最中だというのに破軍学園で一騒動が起きる予感を感じさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




選抜戦第十戦目ようやく終了・・・。

この第十戦目に費やした話数は全九話・・・しかもいくつか予定よりも長くなってしまったな・・・。

・・・まあ、何はともあれ一段落着きましたね。

次回の投稿は少し遅くなるかもしれませんが、これからも【運命を覆す伐刀者】の応援をよろしくお願いします!

では、また次回!!



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