運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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また長くなった!?やっべぇぇええええっ!!しかも完全には終わらず決着直前まで!スマンッ!!

それから今回かなりの刀華アンチっぽくなってしまったな(汗)、幾ら重勝の信念(キャラ)を貫き通させる為とはいえ、刀華は落第騎士女性キャラの中で自分の一番好きなキャラだからかなり辛い(泣)。






行き着いた答えと終焉の光

漆黒の極太レーザーが天井に空いた穴を更に広げて突き破り、蒼天の彼方に飛んで行った光景を目の当たりにした観客の生徒達は全員唖然として静まり返っていた、果たしてカナタの安否は?彼女は無慈悲を体現したような砲撃に飲み込まれて消滅してしまったのか?

 

『と・・・貴徳原選手の姿がありません・・・あの砲撃でカッ消されてしまったのでしょうか?・・・』

 

「やり過ぎだってリユウだろアイツ・・・」

 

重勝が放った一撃は学園序列三位である烈でさえ戦慄を覚える程だった、明らかにオーバーキルだと。

 

「・・・確かにやり過ぎだがこれぐらいで済んだんならまだマシだ、一年前の【アレ】はこんなものではなかったのだしな・・・」

 

「そうさね(モグモグ)、重坊の【アレ】に比べればこれぐらいそよ風が通ったのと同じだしねぇ(モグモグ)」

 

「確かにそうだが、アンタ等何余裕そうにしているんだってリユウだ!理事長と臨時教師だろアンタ等!?自分の生徒が一人死んだっていうのn「貴様の眼は白玉か何かか烈?貴徳原先輩は存命だぞ」・・・は?」

 

この惨劇を見ても尚、安心したかのように観客席に座りながら腕と脚を組んでホッとする黒乃とその隣の席に座って何でもないかのようにポップコーンを頬張る寧音に烈は激怒しかけたが、カナタは生きていると絶が横槍を入れた事で烈は呆けた。

 

烈は絶が指さした自分達から見てバトルフィールドの最奥の端を見た、するとそこには血塗れの姿で片膝を床に着いて肩で息をしている女性の姿があった・・・カナタだ・・・。

 

『と・・・貴徳原選手は生きていたぁぁあああっ!!なんという不屈の精神でしょう!あの絶体絶命の状況を切り抜けて紅の淑女(シャルラッハフラウ)はリングに舞い戻って来ましたぁぁああああっ!!』

 

「へぇ~、シゲのあれを躱すか・・・やるじゃん」

 

幸斗は右手首を拘束されて動けない状態だったにも拘らず重勝の収束重力大砲(ストライクカノン)を避けたカナタに感心する、しかし一体どうやって避けたのかと疑問を抱いている中、隣にいる涼花が口を開いた。

 

「ええ、そうね———————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—————砲撃に飲み込まれる前に星屑の剣で拘束されていた右腕を切り落とすなんて、貴徳原先輩は相当な覚悟でこの試合に臨んでいるみたいね・・・」

 

尋常じゃない視力を持つ涼花にははっきりと見えた、カナタの右腕の二の腕の先がなくなっているのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ななななななななんという事でしょうかぁぁあああっ!?貴徳原選手は右腕を切り落として拘束から逃れるという方法で砲撃を躱していたぁぁぁああaう・・・オェェエエエェェエエエッ!!!』

 

「カナ・・・ちゃん・・・」

 

「・・・クソッ!風間重勝、そこまでやること無いだろっ!!?」

 

あまりにも惨いカナタの姿を見て腹の中の汚物を口から吐き出してしまう実況解説の女子生徒の声が彼女の惨さを物語っている、彼女の昔からの親友である刀華と泡沫もこの惨状を見てそれぞれ戦慄と怒りの感情を抱いていた。

 

「刀華!もうこの試合は止めた方がいいかもしれない!このままだとカナタが!・・・刀華?」

 

「やめて・・・もうこれ以上は・・・カナちゃん・・・」

 

泡沫はこれ以上の試合の続行は危険だと思い、悔しいが審判にカナタの棄権を宣言してもらうよう促しに行こうと刀華に声をかけるが、彼女は落下防止の柵の上に両手を着いている状態で身体が震えて痙攣していて眼から涙を流し絶望に染まったような表情をして動揺していた、あんな姿になってまで戦うカナタを見て耐えられなくなったのだ。

 

————刀華が涙を流すところなんて初めて見た、クソッ!アイツッ!!

 

刀華は強い、どんなに苦しくても第三者の為に比類無きチカラを発揮する強さを持った少女だ、泡沫は誰よりもその事をよく知っている、故に刀華が弱さを見せているのに驚愕したのだ、信じられないと・・・だがよく考えてもみると第三者の為にチカラを尽くすという事は大切な人達が傷つくのを誰よりも恐れているということだ。

 

【七星剣武祭】も【学内選抜戦】も【実像形態】での命のやり取りだ、その為命を落とす事だって考えられる、選抜戦にエントリーしている生徒達は皆それを覚悟の上で参加している、それを危険だからと言って止めたり悲しんだりするのは騎士として侮辱と言ってもいいだろう、しかし大切な人が死ぬ程傷ついているのを見て平気な人間なんていない、特に第三者の為にチカラを尽くす刀華は一年前の決闘のトラウマと合わせて心が深く傷付いていた、彼女は自分が戦って死にそうになっているならトラウマがあってもいくらでも耐えられるが、それが大切な親友であるならば彼女の心の傷は相当なものだろう。

 

「クソッ!審判は何をやっているんだ!?こんなの戦える状態じゃないだろうが!」

 

バトルフィールド外の端で集まって中止するか続行するかでもめている審判達を睨みつけて悪態を吐く泡沫は動揺しているままの刀華から離れるわけにはいかず、地上で満身創痍になっているカナタを上空で見下ろす重勝を見て何もできない自分に怒りと悔しさを覚えた泡沫はギリッと歯軋りを一回するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!・・・はぁっ!・・・はぁっ!・・・」

 

「《再生槽(カプセル)》に入れば切断された箇所も接合する事ができるからって無茶すんなぁ」

 

重勝は地上30mぐらいまで高度を下げて地上で床に片膝を着きながら肩で息をする隻腕となったカナタにそう言って呆れた、バトルフィールドの外れを見てみると運営スタッフらしき人が切断されてそこに落ちたカナタの右腕を回収しているのが見える、この試合の終了後にカナタが再生槽に入って右腕を接合できるようにする為に再生槽がある医務室に運ぶのだろう。

 

「だけどよ、お前このまま続けたら死ぬぞ」

 

今のカナタは身体中からの大量出血で見るも無残に身体全体が鮮血で染まっていて非常に危険な状態だ、早急に治療しなければ命を落とし兼ねない。

 

「【やり尽くして勝機が無い】んならギブアップしろ、戦場では勝つ事より生き残る事の方が大切だぜ、何度負けたって生きてさえいれば何度だってリベンジできる、だが死んじまったらお終いだ、俺は今このままお前が戦い続けて死ぬ意味なんてねーと思う、確かに諦めない【不屈の心】は大事だがそれは死ぬまで戦い抜く事じゃねぇ、何度負けて無様を晒しても立ち上がって立ち向かい続けるド根性だ、俺はこのまま続けるのが合理的だとは思わねーな」

 

「・・・・・」

 

【不屈の心】と【悪足掻き】は違うとカナタに突き付ける重勝、元教官であった重勝は生き残る事の重要性が分かっているのだ、重勝達は三年生なのでここで負けたらもう七星剣王になる事は一生叶わないが、生きてさえいれば新たに目指す道などいくらでも見つけられるのだから。

 

「それにお前、《貴徳原財団》の跡継ぎなんだろ?・・・将来お前を必要としてくれる人達がいっぱいいるんだからここで意地を張ることはねーだろ?」

 

「・・・・・」

 

カナタは日本有数の資産家である《貴徳原家》の令嬢だ、ここで彼女が亡くなれば日本の財界は大きな痛手を負うことになるだろう、重勝は生き続ける目的があるなら尚更止めるべきだと思った。

 

「それでもまだやるって言うんなら容赦はしねぇ、俺は腐っても戦士だからな、敵に同情して情けを掛けるなんて甘さはねーよ」

 

「・・・・・」

 

重勝は無言で俯くカナタに砲剣の切っ先を向けて最後の警告をする、それに対してカナタは片膝を着いて俯いたままゆっくりと口を開いた。

 

「・・・確かにわたくしには【貴徳原】の為に尽力を尽くす義務がありますわ・・・わたくしは曾祖父や祖父、そして父が受け継いできた貴徳原の魂を尊敬しています、ですので義務を成し遂げずにこの世を去るのはその魂を汚すことに他ならないでしょう・・・」

 

ここで死ぬ事は義務を放棄するということだ、自分の父親達を尊敬するカナタにとってそれはあってはならないことだろう・・・しかし————

 

「・・・ですが、ここで諦めればもう苦しみ続ける刀華ちゃんを救う手掛かりは見つからないと思っています、友達一人救えなくて何が【高貴なる者の義務(ノブレスオブリージュ)】と言えるのでしょうか!?それこそ父達が受け継いできた魂を汚す行為ですわ!」

 

【貴徳原】は起源を市民革命以前のフランスに持つ元貴族だ、貴徳原家は時代が変わってもなお【高貴なる者の義務(ノブレスオブリージュ)】を口だけでなく行動をもって示し続けて来た、例え偽善と罵られようと彼等は数世代前からずっとそれを続けて来た、カナタはそのことを誇りに思っている・・・だからこそ彼女は———

 

「わたくしは一人の騎士として生きるより、友や大勢の人達のチカラになる事を躊躇いません!それがわたくし、貴徳原カナタの騎士道なのですから!!」

 

「・・・・・」

 

俯いていた顔をバッと上げて真っ直ぐな眼で空を浮遊する黒い剣士を見据えるカナタ、もう何を言っても無駄かと思った重勝は砲剣を両手持ちにして砲撃体勢に入る、一撃でとどめを刺す気だ、しかしそんな時にカナタはなんと薄ら笑いを浮かべていた。

 

「それと風間さん・・・なにもう勝った気になっているのですか——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————この試合・・・・・わたくしの勝ちですわ!」

 

「っ!?」

 

一方的にやられて意識を保っているのもやっとな満身創痍の状態でカナタはなんと勝利宣言をし、その瞬間、重勝の上下左右前後全方位に数億の桜色の刃が出現して、それが重勝の周囲を隙間無く球形に完全包囲した。

 

『おおおおっと!?何だこれはぁぁああっ!?突如出現した無数の桜色の何かが風間選手を覆い隠してしまいました!』

 

「《吭景・星屑の剣(スフィア・ザ・ダイヤモンドダスト)》、目視可能な程に濃く密集した数億の刃が球形に敵を包囲し逃げ場を失くした敵を斬殺する伐刀絶技です、風間さん、貴方と空中戦をおこなっている間に仕掛けさせて頂きました」

 

カナタはただ愚かにも相手の土俵で戦ってフルボッコにされていたわけではなかった、より相手の近くで気を引く為にわざと空中戦をして重勝が彼女をフルボッコにしている隙に彼女は少しずつバトルフィールド上空に満遍なく目視不能の刃を設置して大掛かりな罠を張っていたのだ。

 

数億の刃はまだ包囲しているだけの状態なので重勝はまだ無事だ、重勝は咄嗟に包囲の外側の至る所に漂っている残りの誘導重力球を全て自分を包囲している数億の刃にぶつけるがビクともしない。

 

「無駄です、吭景・星屑の剣の切れ味はウォーターカッターにも匹敵するのです、たかが誘導重力球如きで破れたりはしません」

 

片膝を着いていたカナタが立ち上がりそう言うと球形が一気に凝縮して行った。

 

「これで終わりです風間さん・・・・億の吭(のど)に喰い破られて散りなさい————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《絶空剣(ぜっくうけん)》っ!!」

 

数億の刃が同時に全方向から重勝を斬り刻もうとした瞬間に重勝は重黒の砲剣を振り抜いた。重勝の放った一撃は台風の如き剣圧を生み出し轟風が一気に駆け抜け強烈な気流となる、同時に何かが激しく鬩ぎ合い球形の数億の刃が全て吹き飛んで消滅した。

 

『おおっと!?吭景・星屑の剣の中から突如轟風が発生して数億の刃が全て消滅してしまったぁぁあああ!!これは風間選手がやったのでしょうか!?当の本人は全くの無傷です!』

 

「ま、まさか!?・・・真空刃で吭景・星屑の剣を【空気ごと】吹き飛ばすなんて・・・」

 

カナタは重勝が放った絶空剣に驚愕した、重勝が放った全力の一振りが自分の起死回生の伐刀絶技を大気ごと吹き飛ばして簡単に打ち破ってしまったからだ。

 

「これだけやってもまだ・・・・・届かないというのですか・・・」

 

どれだけ攻撃しても全て蹴散らされて掠り傷一つ付けることができない、未だ無傷で天(そら)から自分を見下ろす黒い剣士の姿にカナタは絶望と恐怖を感じた—————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・重勝は眼のハイライトが消えて慈悲を感じさせない恐ろしい表情をしていたからだ・・・。

 

「っ!!!」

 

「刀華!?」

 

観客スタンド最上階で観戦していた刀華が今の重勝の顔を見た瞬間に突然目を見開き一瞬激しく恐怖した後、頭を両手で抱えて蹲り目の前にある柵の上に額を着いて凍えるように震えた。

 

「ううぅ!・・・あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”っ!!」

 

「どうしたんだ刀華!?刀華っっっ!!」

 

一年前の決闘のトラウマがフラッシュバックしたのだ、重勝はあの決闘で刀華にとどめを刺す時に今と同じ表情をしていた、光を感じない絶望を体現したような黒い悪魔、それが今自分ではなく親友であるカナタと対峙している事に刀華は激しく恐怖した、このままでは自分の大切な友達が消されてしまうと。

 

そんな刀華の事など気にも留めないように重勝は地上で絶望の表情を浮かべて立ち尽くしているカナタに砲剣の切っ先を向け冷たい声で彼女に問う。

 

「貴徳原・・・お前は何もわかっていねぇ、友や大勢の人達のチカラになる事を躊躇わらねーだ?それは自らを犠牲にしてでもする事じゃねーだろ、東堂もそうだがお前等は自分の事に無頓着過ぎだ・・・第三者の為に尽くすのは結構だがそれで傷ついて死んでそいつ等を悲しませたら本末転倒だろ?・・・【若葉の家】だか何だか知らねーけど背負った想いの重みで潰れちまったら意味・・・ねーだろ・・・俺、何か間違った事言ったか?」

 

重勝は全てを暗闇に叩き墜とすような眼差しでカナタを睨んで威圧する、彼は内心頭にきていた、他人の為なら自分はどんなに傷ついてもいいという自己犠牲、それは大切な人達を悲しませる行為だというのにそれを続ける刀華達の事が解せないのだ、幾ら皆を導く為とはいえど・・・その答えは今の重勝の問いを聞いて癇に障ったカナタが歯を食い縛って隻腕となった左腕を震わしながら言い放った。

 

「ふざけないで下さい!わたくしはともかく刀華ちゃんは背負った想いで潰れたりしません!皆の為に比類無きチカラを発揮する【善意】こそが刀華ちゃんの強さの源泉であり、魂なのですわ!刀華ちゃんを侮辱するのもいい加減にしてください!刀華ちゃんは自分が負けるということがどれ程多くの人間に悲しみを与えることかを知っています!ですから彼女は負けないし折れないのです!刀華ちゃんの事を何も知らない癖に知った事を言わないでください!!何も背負っていない貴方に刀華ちゃんは絶対に負けたりしません!!無論わたくしも!!!」

 

カナタは重勝が刀華の強さを否定したのが許せなくて激怒したのだ、それを聞いて重勝は不気味なくらい静かに右腕をゆっくりと上げて彼女を指さして————

 

「・・・背負う物が無い奴には負けない?・・・とんだロマンティストだな」

 

そう言った瞬間、上空いっぱいに無数の誘導重力球が展開された・・・その数・・・・・二百。

 

「なっ!!?」

 

『なぁぁぁああああああああっ!!?何だこれはぁぁああああっ!?私は風間選手が今までこれだけの数の誘導重力球を展開した事など記憶にありません!!風間選手の誘導重力球の最大数は五十球ではなかったと言うのかああぁぁああぁああっ!!?』

 

「嘘・・・ですわ・・・・・こんなの・・・A判定じゃ納まりません・・・」

 

激怒により持ち直したカナタの心が再び絶望に染まる、これだけの数を飛行しながら制御するなど珠雫でも無理だ、そんな事を平気でやってのける重勝の魔力制御ランクは————

 

「ん?言ってなかったか?俺の魔力制御ランクはS判定だ、ついでに言っておくと魔力の消耗を気にしなければこの六倍の数はいけるな・・・」

 

まさかのAランクオーバー、しかも誘導重力球の制御可能の最大数は脅威の千二百球、最早学生騎士レベルではない、その事実にカナタは驚愕し同時に悟ってしまった・・・自分では勝てないと。

 

「お前の考えはよくわかった・・・もう何も言わねーよ・・・」

 

・・・そこから先はもうただの蹂躙(リンチ)だった。

 

もはやカナタに反撃する暇すら与えず重勝は彼女に魔力球の数の暴力で攻め立て、砲撃を撃ち込み、漆黒の刃の剣閃で斬り刻み、殴り飛ばし、蹴り飛ばす。

 

「ひ、酷い・・・」

 

「なにもここまでする事はないだろ・・・」

 

「あ・・・悪魔だ・・・」

 

あまりにも惨い惨劇に観客の生徒達は先程ブーイングしていた威勢が完全に無くなり、ひたすら戦慄するしかないようだった。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

観客スタンド二階で観戦している一輝達は重勝の圧倒的戦闘力を目の当たりにして言葉を失っていた。

 

「あんなにキレている重勝を見るのは久しぶりね、幸斗が無茶な過剰訓練(オーバーワーク)をして言う事を聞かなかった為に重勝が【少し、頭冷やせ】とキレて乱闘になったあの頃を思い出すわ、二人が本気で暴れた所為で大森林が一つ荒野になってしまったのだから」

 

「あの時はオレだって譲れなかったんだ、弱いままだと前に進めねぇからな・・・負けたけど・・・」

 

「八年前に静岡にあった大森林が一夜にして消えたってニュースがあったが、貴様等の仕業だったのだな・・・」

 

「あれ日本中で大騒ぎになったってリユウだからな、アホかってリユウだ」

 

「うはは!面白そうな話じゃないか!昔から重坊達はやんちゃしてたんだぁねぇ」

 

「・・・頼むからこの学園を荒野にするのだけは止してくれよ・・・いや、もう遅いか・・・」

 

実況解説席の真上の階の観客スタンド最前列の席にいる幸斗達は国中を騒がせる程の大事を起こしていた衝撃の過去を暴露していた。

 

・・・そして、刀華と泡沫はというと・・・。

 

「もう・・・やめ・・て・・・カナちゃ・・・ん・・・」

 

「クソッ!クソッ!!何でボクはいっつも役立たずなんだ!?あの時も今もっ!!」

 

刀華は悲惨な姿と成り果ててもなお傷め付けられる親友を見るのが耐えられず柵の上に顔を伏したまま呻き、泡沫はいつも無力な自分の事を嘆き柵の側面の鉄格子に八つ当たりをしていた。

 

勘違いしないでほしいが刀華は別にただ今の重勝を恐れて震えているわけではない、大切な親友を助けに行きたくても助けに行くことが許されない事に耐えられないのである。七星剣武祭も選抜戦も命懸けの死闘だ、エントリーした生徒達は皆それを承知の上で参加しているので途中で止めに入る行為は彼等の覚悟を汚す事に他ならない。また、重勝は刀華やカナタの事を認めずに陥れる為に叩きのめしているのでは断じて無い、寧ろ叩き潰すに値する伐刀者だと認めているからこそ重勝は敬意を払い彼女達を完膚無きまでに叩きのめすのである。刀華はそれを分かっているからこそ歯痒くて仕方がないのだ。

 

「《複数同時挟射撃(クロスファイヤー・シュート)》・・・」

 

地上40mにブッ飛ばされたカナタに重勝は彼女の20m手前の地上30mの位置から彼女に砲剣を持っていない右手の人差し指を向け、その人差し指から六発の重力弾が同時に放たれ、彼女を前方六方向から挟撃するように被弾し被爆する。

 

「・・・・・」

 

被爆によって地に墜ちて倒れ伏すカナタの意識が途切れたかを確認もせずにハイライトの消えた冷たい眼で彼女を見下ろして砲剣の切っ先を彼女に向ける。

 

「や・・・やめろぉぉおお風間重勝ぅぅううううううううっ!!!」

 

痺れを切らした泡沫がとうとう耐え切れずに叫ぶが、重勝は気にも留めずに容赦なく砲撃を放ち、直撃による爆風によってまたしてもカナタは上空に吹っ飛ばされた。

 

・・・カナタは薄れゆく意識の中、この戦いで得た情報を整理して考えていた。

 

————あの時感じた違和感は・・・気の所為などではありません・・・。

 

カナタはそう確信して次々と情報を整理して行く・・・【勝ち続けて皆に希望を与え、前に進む為の目標になろうと尽力する刀華】、【それで本当に皆が前に進もうとしているのか?という重勝の疑問】、【裏切り者として皆から憎まれ、それでもなお序列一位の座に居座り続ける重勝】、【低ランクの生徒達による黒鉄一輝(Fランク)への侮蔑と罵倒】、【刀華なら必ずやってくれるという期待と信頼】—————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————っ!?ま、まさか!?そんなっ!!

 

情報を整理しているうちにカナタは衝撃の答えに行き着いた。

 

————・・・【刀華ちゃんが勝ち続ける事で、低ランクの生徒達が前に進む事を諦めてしまう】なんて!?

 

彼女が行き着いた答えはあまりにも残酷な答えだった・・・そしてカナタは重勝が何故憎しまれる事をする理由について考えた。

 

————・・・まさか風間さん、貴方がやっている事は!?

 

そしてカナタがある仮説に行き着いたその時、突如出現した黒い輪に彼女は20m上空で隻腕となった左腕ごと胴体を拘束されてしまった、重勝の重力の拘束具(グラビディバインド)だ。

 

————これは・・・あの時の・・・。

 

宙に固定された状態でカナタは目を見開き、天井すれすれの位置まで上昇している重勝を見上げ、彼が砲剣の回転式弾倉(リボルバー)を六回転(フルリロード)し、超高濃度の黒い魔力オーラを自身の身体全体に纏い始めたのを見て極限の戦慄を覚えた。

 

「フィーネ(終わり)だぜ・・・貴徳原」

 

黒い魔力オーラが風のように形を変え重勝の周囲を球形に漂い始める、それらは次第にうなりを強め対流を生み出し大気を震えさせた。

 

『か、風間選手が魔力を纏った瞬間空間が揺れ始めたぁぁあああああっ!?ヤバいヤバい!これはヤバい!!』

 

「まさか!?これが理事長の言ってた!!」

 

「くっ!?あの馬鹿者がっ!!・・・・全員に次ぐ!結界の展開準備を急げ!!客席まで被害を出させるな!!」

 

そう、これは一年前の決闘で重勝が刀華にとどめを刺すのに放った【禁技指定】級の伐刀絶技だ、黒乃は無線機を取り出して第二訓練場内にいる教師や魔導騎士達に指示を出した。

 

「う・・・うわぁぁああああああっ!!」

 

「に、逃げろおおおおおおおおぉぉっ!!」

 

「お助けぇぇえええええええええっ!!」

 

「ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!!ゴメンナサイ!!ゴメンナサイッ!!!」

 

観客の生徒達が一斉にパニックを起こして大慌てで逃げ出し始めた、中にはトラウマが再発して泣き狂う生徒もいた。

 

「な!?何なのこれはっ!?」

 

「お兄様、逃げましょう!何か危険な予感がします!!」

 

「確かにそうだけど、このままだと医務室にいるステラが危ない!まずは急いで医務室に行ってステラを連れて行かないと!!」

 

一輝達は医務室で療養中のステラを連れ出して逃げる事に決めて立ち上がり早急に行動し始めた。

 

「っ!!!」

 

「刀華っ!!?」

 

観客スタンドの最上階の通路にいる刀華は咄嗟に柵を飛び越えて階段を下り駆けだした、彼女が最も恐れていた事が目の前で現実になろうとしている、もう我慢できない、これは一年前の決闘と違って実戦形式の選抜戦、今重勝にこれを撃たせたら彼女の大切な親友が存在ごと消されてしまう、覚悟と魂を汚す行為なのはわかっている、死んでしまっても文句を言う資格が無いのもわかっている、彼女はそれを承知で重勝を止めに駆ける、大切な親友を救う為に。

 

重勝が重黒の砲剣を天に掲げると身体に纏った魔力オーラが更に濃度を上げて黒から白に変わり———

 

「これが俺の————」

 

砲剣の切っ先を真下にいる宙に固定されて抵抗不可状態のカナタに向け、魔力オーラが彼の背後に六翼のように広がり————

 

「・・・全力————」

 

砲剣の切っ先に膨大な白い超重力エネルギーが周りから集まる様に収束され巨大な光の球体が形成された。

 

「全開!!」

 

そこにあるのはまさに天壌のチカラ、あらゆる存在を屠り、全てを無に還す光・・・それが今、解き放たれようとしている。

 

「やめてぇぇええええええぇえええぇぇえええええっ!!!」

 

観客スタンドを駆け下りる刀華が手を伸ばして有らん限りの声で叫ぶ・・・・・・だが、ここがこの戦いの終着点だ—————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《光翼ノ帝剣(アストラル・ブレイカー)》アアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光は無情にも放たれた・・・極光が轟く、無制限に解放されたチカラが主の意志に従い敵を討ち滅ぼす為に荒れ狂い、空間を歪ませ、果てしない暴力の極光が極大の光の剣となり柱となって————

 

「嫌ぁぁああああああああああああああっ!!!」

 

全てに慈愛の心を分け与える優しき少女の叫びと共に・・・紅の淑女を飲み込んだ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




破軍学園壁新聞


風間重勝

PROFILE

所属:破軍学園三年一組

伐刀者ランク:B

伐刀絶技:零か無限(ゼロ・オア・インフィニティ)

二つ名:裏切り者の序列一位(エース・オブ・ビトレイアー)

人物概要:破軍学園最強の裏切り者

ステイタス

攻撃力:A

防御力:C

魔力量:B

魔力制御:S

身体能力:A

運:E


かがみんチェック!

昨年の七星剣武祭を無断で棄権して当時の皆の期待を裏切った学園中の嫌われ者!生徒会とも仲が最悪で、よく彼と生徒会長が火花を散らせているのを目撃するけど、彼の実力はまさに学園最強と言っても過言ではない戦闘力!空を自由に飛翔し、その剣技と砲撃をもって空陸全距離を制する空の騎士!空を飛べるだなんて羨ましいなぁ~、私も飛べたら空から盗さt・・・視察し放題なのになぁ~・・・風間先輩、例の決闘の後に一部の生徒達の間で【破軍学園の黒い魔王代行】なんて呼ばれていたみたいだけど、私はこの先輩がそんなに怖い先輩には見えないんだけどなぁ~。



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