運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

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激闘開幕!《学内選抜戦編》の最強キャラである重勝がいよいよ戦闘をします!





翻弄される紅の淑女

重黒の砲剣から放たれた黒い重力エネルギーの砲撃がカナタを襲う・・・その砲撃は彼女に直撃する手前で僅かに軌道を変え、カナタの僅か右側を通過して後方にある赤ゲートを含めた軌道上にあった障害物を全て消し飛ばして外まで直通の大きな穴が空いた。

 

————くっ!?なんて重い砲撃ですの!

 

僅かに砲撃が逸れた理由は星屑の剣が吹き飛ばされる前に無数の刃を砲撃の左側一点に集中してぶつけて僅かに軌道を変えたからである、しかし砲撃の威力は凄まじく僅かに軌道を変えるのが精一杯だったカナタは額に少量の汗を掻いていた。

 

この動作だけでもカナタはかなりの体力を使ってしまったが休んでいる暇は無い。

 

「はぁぁあああっ!」

 

「くっ!?」

 

大気中の星屑の剣が砲撃で吹き飛ぶや否やいつの間にか重勝が砲剣を構え直し物凄い速度で一直線に距離を詰めてカナタに斬りかかって来ていた。

 

————攻撃の切り替えしが早い!流石ですわね風間さん・・・ですが!

 

「おっとっ!?」

 

砲剣の間合いまで距離を詰めて砲剣を振り上げようとする重勝だったが、その時唐突に重勝は何故か真後ろに飛び退いた。

 

「危ねー危ねー、戻って来んの速えーな!もう少しで細切れになるところだったぜ」

 

砲撃で吹き飛ばした星屑の剣が早くも戻って来て見えない無数の刃が重勝に真上から奇襲して来たのである、高いセンスと西風時代の経験によって殺気に敏感な重勝はカナタの攻撃に込められた微妙な殺気を感じ取って緊急回避をしたということだ。

 

「気付かれましたか・・・ですが捉えましたわ!」

 

「・・・チッ!囲まれたか・・・」

 

傍から見たら重勝は不審に周りをキョロキョロとしているようにしか見えないけれど実際は見えない無数の刃が重勝の周囲360度を包囲していた。

 

「《星屑の斬風(ダイヤモンドストーム)》」

 

目視不能の数億の刃が一斉に重勝に襲い掛かる、周囲360度全方向から飛んで来る攻撃は普通なら避ける事は不可能なのだが・・・攻撃対象の黒い剣士に限っては話は別だ。

 

「ふっ!」

 

重勝は両膝を折り曲げて勢いを付け高く跳躍して【零か無限(ゼロ・オア・インフィニティ)】を発動、自身に掛かる重力をゼロにして宙(そら)へと舞い、数億の刃が空を切り刻んだ。

 

「・・・やっぱり飛びますわよね・・・」

 

星屑の斬風を上に飛んで躱して空中を飛翔する重勝を見上げてカナタはそう呟く、すると観客スタンドからまたしてもブーイングが飛んで来た。

 

「また飛んだよあの屑!」

 

「下りて来い卑怯者が!正々堂々と戦え!」

 

重勝が空を飛んだことを非難する観客の生徒達、その生徒達の数は重勝が入場して来た時のブーイングの数より僅かに少なかった。

 

————何が卑怯だと言うのでしょう?風間さんはただ自身の能力を応用して飛行しているだけ、伐刀者として当たり前の様に能力を使用しているだけに過ぎませんわ、ですのにそれを卑怯とは理解し難いですわね。

 

カナタは眉を顰めた、能力を行使して戦うのは伐刀者として当たり前の行為であり常識だ、それに敵に公正さや公平さを求めるのは【騎士】のするべき事ではない、【学生騎士】とはスポーツマンとは違いいずれ国の防衛を担う【戦士】なのだ、そんな人間が相手の非合法性に腹を立てるなどお門違いもいいところだ。

 

今ブーイングを飛ばしているのは全員低ランクで七星剣王を目指す事を最初から無理と決めつけて諦めていて選抜戦にエントリーしていない生徒達だ、彼等は自分より才能がある者を妬み、逆に自分より才能がない者を見下して自己満足をする向上心の欠片も無いド三流・・・いや五流以下の伐刀者だ、その証拠に重勝が裏切り者で嫌われ者だからと言って選抜戦にエントリーしている生徒達はブーイングを飛ばしている生徒達の事を疑問に思っている、ブーイングを飛ばしている五流以下の生徒達は現実を理解していないのだった。

 

『いやぁ、両者かなり動きましたが立ち上がりはまずまずと言ったところ、お互いに様子見をしているのでしょうか?どう思いますか西京先生・・・あれ?』

 

そういえば先程から寧音が解説をしていない、今頃それに気付いた実況解説の女子生徒は隣にいる筈の寧音の方を見るとそこに寧音は居らず、代わりに寧音に似せた人形とその額に貼りつけてある書置きがあった。

 

『疲れたから解説降りるね~!後はテキト~にやって~』

 

書置きにはこう書かれていた、寧音はどうやらまたしても気まぐれを起こして去って行ったようだ。

 

『もう誰かこの仕事代わってぇぇええええぇぇええええっ!!』

 

第二訓練場内に絶叫が響き渡るがお構いなしに試合は進行する。

 

「出だしをミスったな・・・んじゃこれで引っ掻き回してみるか、《誘導重力球(グラビディシューター)》」

 

重勝は滞空しながら多数のテニスボールくらいの大きさの重力エネルギー球を自身の周囲に出現させた。

 

「・・・出しましたか、刀華ちゃんを翻弄した伐刀絶技を・・・しかし見た所最大数である五十球ではないようですね・・・」

 

カナタは重勝が出した誘導重力球の数を見て彼がいつも操っている五十球ではない事に不満そうにする、今重勝が出した誘導重力球の数は三十二球だ、一流の伐刀者なら・・・いや、一流の戦士なら誰もが手加減される事は屈辱以外の何者でもないだろう、つまりはそういうことだ・・・だがそれならば————

 

「それなら本気にさせてあげましょう、その三十二球を斬り墜として!」

 

自分が全力を出すに値する戦士である事を思い知らせばいい、カナタはそう思い辺りに漂う無数の刃を自分の周囲に集合させて迎撃体勢に入り、重勝は重黒の砲剣を真上に掲げて————

 

「シュゥゥウウウーーーーーーーーーーーーートッ!!」

 

攻撃宣言と共に砲剣を振り下ろし、それと同時に三十二の重力球が一斉に地上で待ち構えているカナタに向かって飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりにシゲのまともな戦闘を見たけどやっぱシゲはすげぇぜ!」

 

「無重力状態の身体を安定させながら飛行しつつあれだけの数の魔力球をコントロール・・・相変わらずイカレた魔力制御能力ね」

 

「これが貴様の言っていた【裏切り者の序列一位】の戦闘か、見事なものだな」

 

「だろ?アイツは腐っても破軍の序列一位(エース)だってリユウだ」

 

「うははっ!流石重坊だぁね、魔力制御だけは流石のウチも敵わないよ」

 

「貴様の魔力制御はE判定だろうが」

 

実況解説席の真上の階にある観客スタンドの最前列の席で観戦をする幸斗と涼花と先程試合が終わって合流した如月兄弟と実況解説席から抜け出して来た寧音と仕事の間の息抜きでここにいる黒乃が異常クラスの魔力制御能力で空中機動をしながら三十二の数の魔力球を操ってカナタを攻めたてる重勝に感服していた。

 

「・・・はぁ・・・どうしてお前達はいつも学園施設を破壊するんだ?結局風間も試合開始早々訓練場に風穴を空けてしまったしな・・・」

 

「へっ!オレ達西風は壊すのは得意なんだぜ!」

 

「自慢する事じゃないわよお馬鹿」

 

黒乃は先程消し飛ばされた赤ゲートのあった場所を見て嘆き幸斗は胸を張ってそれを自慢し涼花がそれに対してツッコミと罵倒を入れる、一ヶ月前まで学園施設を破壊する困った生徒はステラと珠雫だけだったというのに最近は幸斗達が選抜戦の試合がある度に試合会場である訓練場を破損させるので黒乃はストレスがマッハで溜まり胃薬を飲む量が増えたらしい。

 

「・・・しかし風間の奴あれで本気じゃないっていうリユウだから恐れ入るな・・・」

 

落下防止の柵の上に片肘を着いてそう洩らす烈、試合は今三十二の数の魔力球に翻弄され苦戦しつつもカナタが星屑の剣を操って徐々に少しずつ魔力球を斬り墜としていき十まで数を減らしていたところだ、カナタは何発か被弾したらしく身に纏う純白のドレスが何か所か破損して穴が空いていて少し痛々しい姿になっている。

 

「それは風間先輩の闘気を視れば分かるが・・・あれで全力で無いとしたら全力はどれほどのものになるのだろうな?」

 

重勝が本気じゃないのは分かってはいるが、それ故に本気を出した重勝の戦闘力が気になる絶、序列三位である烈でさえ歯が立たないと言うのだからその弟である絶が気になるのも仕方がないだろう。

 

「気になるのか絶?シゲの本気は凄ぇぞ、今までオレは一回もシゲに勝った事が無い、シゲはオレの目標にしている伐刀者の一人だぜ!」

 

不敵な笑みを浮かべて自慢げにそう説明して宙を飛び回っている重勝を見据える幸斗、世界最高峰の魔力量を持つAランク伐刀者であるステラに圧勝した幸斗ですら一勝もしたことがない全力を出した重勝の戦闘力はどれほどのものなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこっ!」

 

カナタは左から来た二発の魔力球を無数の刃で斬り墜とす、残りはあと五球。

 

「くっ!?ちょこまかと!」

 

カナタは周囲に展開し複雑な軌道を描いて飛び回り襲い掛かって来る魔力球に苦戦をする、これは全て30m上を飛び回る重勝が自分の意志で操っているので動きが予測し辛いのだ、身体能力A判定で完全掌握ができる一輝なら一分で全て看破して攻略するだろうが、身体能力D判定のカナタには今正面からこちらに向かって来る五発の魔力球ですら掻い潜って空を飛ぶ重勝に攻撃する事は不可能だろう、故に星屑の剣で全て斬り墜とすしかないのだ。

 

————刀華ちゃんが対応しきれなくて翻弄された数は五十でしたわね・・・こんな事では風間さんの真意を確かめる事なんて夢のまた夢ですわ・・・。

 

この程度の数刀華なら簡単に攻略する、それなのに自分はたかが三十二球の魔力球如きになにを苦戦しているのだろうかとカナタは嘆きながらも迎撃するために身構える。

 

それぞれが複雑な軌道で迫る五発の魔力球に対応しようとしたその時カナタは上空を飛び回っていた重勝の姿がないことに気が付き、その瞬間背後に僅かな殺気を感じたので振り返って無数の刃をその殺気を出している存在・・・砲剣で斬り掛かって来ていた重勝の振るう漆黒の刃にぶつけた。

 

「くっ!いつの間に!?」

 

「おっ!?これに気付くか、限界まで殺気を消した筈なんだがな・・・」

 

カナタは自分に向けて振るわれた漆黒の刃を一瞬だけ止めることができたのでその隙に後方にバックステップをして砲剣を避ける事に成功する・・・しかし———

 

「ぐはぁあああっ!?」

 

一瞬気を放した隙に五発の魔力球がカナタの背中に被弾してしまった。

 

痛みと衝撃で身体の体勢を崩すカナタを重勝は容赦なく追撃する。

 

「《拡散多弾頭射撃(マルチプルバースト)》!!」

 

この一瞬で高く後方に飛び退きながら砲剣の回転式弾倉(リボルバー)を一回転させて魔力を一時的に強化して砲剣の切っ先を体勢を崩しているカナタに向けて引き金を引く。

 

放たれた大きめの黒い重力エネルギーの塊が四つに分裂してその四つがまた四つに分裂・・・計十六発の重力エネルギー弾がカナタに追い撃ちをかけに行く。

 

「まだ・・・・終わるわけには参りませんわっ!!」

 

カナタはよろめく脚を強く地面に踏みしめて無理矢理体勢を立て直し———

 

「《星屑の斬壁(ダイヤモンドシールド)》ッ!!」

 

目視不能な程細かい数億の刃を目視可能なぐらい密集させて正面に防壁を作り、飛来した重力弾十六発全てを阻んで斬り墜とす事に成功、彼女は意地を見せつけた。

 

「はぁっ!・・・はぁっ!・・・はぁっ!・・・」

 

息を荒くして片膝を着くカナタ、先程被弾した背中はその部分の布が弾け飛んで肌を風に曝し、その肌は被弾によって痛々しく傷つき、そこから流れ出る血が背面に残った純白の布を緋色に染めていた———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・既に満身創痍のカナタだったが・・・重勝(悪魔)は容赦をしてくれない。

 

『おおっとっ!風間選手今度は【誘導重力球】を五十球展開っ!!満身創痍の貴徳原選手に更なる絶望を叩き込もうとしています!なんという鬼畜!敵は死すべし慈悲は無いを素で行く男、風間重勝!貴徳原選手はこれにどう対抗するのかああぁぁああぁああっ!?』

 

「本当に容赦ありませんね風間さん、刀華ちゃんが悪魔と言っていたのにも頷けますわ・・・」

 

カナタは50m上空で五十の数の黒い魔力球の中心で滞空して砲剣を真上に掲げている重勝を見上げて弱々しくそう呟く、彼女は疲労困憊している身体に鞭を打つ様によろよろと立ち上がり身構えた。

 

「シュゥゥゥウウウーーーーーーーーーーーーーーートッ!!」

 

極刑宣告の様に放たれた五十の魔力球が空からカナタに向かって襲い掛かる、一年前に刀華が対応出来なかったのはこの数だ、これを乗り越えなければカナタに勝利は無い。

 

 

 

 

 

 




重勝が刀華の生き様を否定する・・・と言うより刀華に共感しないのには理由があり、重勝VSカナタの試合はその伏線が引かれます。

実は今回の話にも少しヒントが出ていますよ。

更にヒントを言うならば原作第一刊での【一輝VS桐原】の試合の時に【ステラが叫んでいたセリフ】にヒントがあります。

それと刀華が【皆の想いを背負って戦う】事と組み合わせて考えてみると察しのいい人は分かるかもしれませんね。



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