運命を覆す伐刀者   作:蒼空の魔導書

10 / 54
まさかの連日投稿!自分でも信じられません!






佐野涼花の絶対的価値観(アイデンティティー)

「・・・そう・・・兎丸さんは負けたんだね・・・」

 

この第二訓練場の観客スタンド最上階の通路の手摺りに両手を置いて試合を観戦している刀華が隣に来た泡沫から報告を受けてそう言った。

 

「如月絶って一年に負けたんだってさ、なんでも空間土竜(ディメンショナルモール)の弟みたいなんだ、ホント凄いね今年の一年はさ、皆強くて参っちゃうよ、コイツらが非行とかに走ったら止めるのはボクらなんだぜ?」

 

今ここにいる生徒会のメンバーはこの二人だけである、恋々は試合に負けて医務室で気絶中、砕城は先程の試合で何所かに吹っ飛ばされて【行方不明】、カナタは次の第十試合目の最終戦に備えて選手専用の待機所にいる。

 

「・・・どうやらコッチの試合も決着がついたみたいだね、次はいよいよカナタと・・・アイツの試合か」

 

泡沫はバトルフィールドの端の壁に吹っ飛ばされて叩き付けられた涼花を見てそう呟く。

 

「・・・いや・・・まだみたいだよ」

 

「・・・は?」

 

しかし刀華はそれを否定して涼花が叩き付けられた壁のところを指さす、泡沫がそこを覗き込むように見てみるとそこには左脇腹を右手で押さえて口端から血を流しながらも立ち上がる涼花の姿が見えた。

 

「・・・・・へぇ~、大した根性じゃん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まっ!これで姫ッチが終わるわけがないわな」

 

「当たり前だぜ、涼花は勝つって言った、アイツはできない事は絶対に口に出さないからな」

 

青ゲートへの入り口付近の待機所から試合を見ている幸斗と重勝は立ち上がった涼花を見て感嘆とする、二人は信じているのだ、涼花の勝利を。

 

「それに姫ッチの奴、今かなり怒ってると思うぞ?さっきのあの皇女サマの言葉は姫ッチの絶対的価値観(アイデンティティー)を否定するものだったからな・・・」

 

涼花の絶対的価値観・・・それはどんなに強い能力者が相手でも工夫次第で勝てるという戦術的思考だ、【面白い事をした者が勝つ】、それが涼花が癖みたいにいつも言っているセリフ、それを否定されたのだ、内心穏やかではないだろう。

 

「・・・へっ!でもあれくらいなら問題ないさ!」

 

幸斗は自信満々にそう言い放つ、何故なら———

 

「アイツはこんなもんじゃないぜ!アイツがいつも誰と打ち合っていると思ってるんだ?」

 

そう、涼花は普段はステラよりも圧倒的な膂力を出す幸斗と訓練をこなし何度も打ち合っているのだ、【ステラ程度の膂力】で打ちのめされる涼花ではない。

 

「・・・へっ!そりゃそうだな」

 

「そういう事だ、涼花はこっからが本番だぜ!」

 

なので二人は試合を見守ることにした、涼花が必ず勝利すると信じて。

 

「それに・・・涼花はまだ本気出してねぇしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

涼花は無言で立ち上がり学生服のスカートの中から鉄の破片がこぼれ落ちる、地中深くまで逃れた時に彼女は念を入れて腹と背中に鉄板を仕込んでいたのだ、これのおかげで涼花はダメージを抑えることができたがステラの強烈な一撃がモロに入ったのだ、鉄板は一撃で粉砕されて抑えられていてもダメージはかなりのものだろう。

 

「へぇ~、中々しぶといじゃない・・・でも・・・これでとどめよっ!!」

 

ステラはそんな状態の涼花にも一切容赦はしない、ステラは誓ったのだ、もうどんな相手だろうと絶対に油断なんかしないと。

 

「・・・・・・」

 

爆ぜるが如き速度で迫って来て大剣を振るってくるステラに対して涼花は僅かにバックステップで後ろに飛び退くが———

 

「そんなんで避けたつもり?これで終わりよっ!!」

 

ステラは地を踏みしめて前に跳躍するように勢いをつけ飛び退いている最中の涼花に大剣を振るった。

 

—————悪いわねリョウカ・・・この試合もらったわっ!!

 

ステラの妃竜の罪剣が涼花を捉えた——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・かに思えたがなんと大剣が涼花に直撃する寸前でステラは涼花を見失った・・・。

 

「・・・・は?」

 

ステラは何が起こったのかわけがわからなかった、そして次の瞬間、ステラは後頭部に強い衝撃を感じた。

 

「ぐはあっ!?」

 

踏みつけるような涼花の跳び蹴りがステラの後頭部に炸裂してそのままステラは目の前の壁に顔面から叩き付けられた。

 

『おおっとっ!?ヴァーミリオン選手決定的な一撃を外して佐野選手に背後を取られて逆に強烈な一撃をもらったぁあああっ!これは一体どういう事でしょうか?』

 

『うはは!涼ちん中々面白いことをするねぇ、【相手の意識の死角を突く】なんてさ!』

 

『意識の死角・・・ですか?』

 

『そうさね、ウチは《抜き足》っていう特殊な呼吸法と歩法によって自らの存在を【覚醒の無意識】に滑り込ませる体術が使えるんだけどさ、これはあくまで【意識の狭間】に入る体術であるから訓練をすれば対処できるようになる、だけど今涼ちんがやったのは【意識の死角を突いて自らの存在を相手の意識から完全に外して回避した】というもので、これを使われたらウチでも対処できないねぇ』

 

『・・・そのようなことが可能なのでしょうか?』

 

『ウチは知らないけどねぇ、涼ちんとゆっきー、それと重坊はこの学園に来る前にいた所でいくつかの特殊スキルを叩き込まれていたみたいで、これもその一つみたいさね・・・確か重坊は《集中回避》って言ってたかなぁ?』

 

『はぁ?・・・おおっと!?ヴァーミリオン選手ようやく壁から抜け出しました!それに対して佐野選手はリングの中央まで跳躍して距離を取りました!』

 

「くっ!よくもやったわね!」

 

ステラはバトルフィールドの端で中央にいる涼花を恨めしそうな涙目で睨みつける、眼に破片が入ったみたいで幾らステラでも流石にこれは相当痛かったのだろう、そんなステラに対して涼花は真っ直ぐステラを見据えて挑発するように手招きをしていた。

 

「来なさい【ステラ】、返り討ちにしてあげるわ!」

 

「っ!?嘗めんじゃないわよリョウカッ!!」

 

ステラは涼花の挑発に乗って大剣を構えて突攻、前にも似たような事があった気がする、分かっていたことだがステラはかなり沸点が低い、入学式の日にちょっとした事で珠雫とケンカになって一週間停学になったことだってある、これが彼女の弱点と言えるだろう。

 

「はあっ!やあっ!!とうっ!!」

 

ステラは日輪の如き剣の軌道で涼花に猛攻をする、ステラが使う剣術である《皇室剣技(インペリアルアーツ)》だ、これは斬るというより叩き付けるような威力に重点を置いた攻めの剣術、故に威圧感が凄まじく、涼花は最小限の動きで躱し続けているものの徐々に後方に追いやられて行く。

 

「ほらっ!どうっ!したっ!のよっ!アタシをっ!返りっ!討ちにっ!するんじゃっ!なかったのっ!!」

 

「・・・・・・」

 

涼花はステラの剣を躱し続けながら彼女の動きを観察していた、反撃のチャンスを窺っているのだ、ステラは左斜め上から右斜め下に大剣を振り下ろし涼花がそれを小さくバックステップをして躱し、ステラがそれを追撃する為に身体の重心を急激に前にかけて大剣を切り返そうとする・・・・その瞬間、涼花は急に前進してステラに威圧をかけた。

 

「え?・・・きゃあっ!?」

 

それに対して反射的に身体の重心を後ろに引いてしまったステラは足がもつれてバランスを崩してしまい、尻餅を着くように倒れ、涼花はそれを見逃さずに仰転するステラの顔面に強烈な右拳を叩き込んだ。

 

「ぐがっ!」

 

下に叩き付けるように殴られたのでステラはバトルフィールドの床をバウンドしながら20m程吹っ飛び倒れた。更に不安定な状態で殴り飛ばされたのでその際にステラは妃竜の罪剣を手放してしまい、大剣は鮮やかな放物線を描いてバトルフィールド中央の床に突き刺さった。

 

『い、今のは何だぁぁああっ!?佐野選手はヴァーミリオン選手の皇室剣術に防戦一方だった筈!なのにヴァーミリオン選手が殴り飛ばされたぁああっ!?西京先生、これも佐野選手の特殊スキルなんですか?』

 

『いや、今のはただの【アンクルブレイク】さね』

 

『アンクルブレイクってバスケとかで稀に起きるアレですか!?』

 

『そういうことだぁね、相手の重心に揺さぶりを掛けることによってスリップダウンを誘う・・・紅蓮の皇女の皇室剣術は叩き付けるように攻める攻撃的な剣術だからねぇ、特に重心移動が激しい動きをするのさ、涼ちんはそこを突いたんだよ』

 

『へぇ~、そうなんですか・・・・おおっとっ!?佐野選手ダウンしているヴァーミリオン選手が起き上がる瞬間を狙って突攻を仕掛けに行ったぁぁあああっ!霊装を手放してしまったヴァーミリオン選手はこれにどう対処するのか!?』

 

よろよろと起き上がるステラに向かってもう一度顔面に拳を叩き込もうとする涼花。

 

「・・・引っ掛かったわねリョウカッ!ハァアアアアッ!!」

 

それに対してステラは涼花が近づいて来たのを見計らっておもいっきり右拳を振り被ってカウンターを叩き込もうとした・・・だが、涼花はステラが右拳を繰り出そうとした瞬間に左掌で彼女の右肩(第2肩関節辺り)を押さえ付けた。

 

「へっ!?」

 

右肩を押さえ付けられた渾身のステラの右拳は・・・動かなかった、そして涼花はそのまま左腕にチカラを加えてステラの身体を押し飛ばした。

 

「くっ!?何がどうなっt「どんどん行くわよ」っ!負けるかっ!」

 

『両選手そのまま武器無しの肉弾戦に突入だぁぁああっ!・・・しかし今佐野選手がやったのは何だったのでしょうか?』

 

『基本的にパンチってぇのは肩を回して繰り出すものだろ?更により強力な一撃を出そうとするならより大きく肩を動かす必要があるのさ、だから涼ちんは紅蓮の皇女が腕を振り被って肩を後ろに下げた瞬間を狙って肩を押さえ付けた、その結果紅蓮の皇女は肩を回せずに拳を繰り出すことができず、更にその状態だと身体の重心は後ろに掛かっているからそのままチカラを加えることによって軽く押し飛ばすことができたっていうことさ』

 

『成程、説明ありがとうございます!・・・さて、このまま肉弾戦となるとパワーで勝るヴァーミリオン選手の方が有利かと思われますが、どうでしょう?』

 

『そうとも限らないさ、よく見てみな』

 

格闘戦を繰り広げる二人を見てみるとかなり密着した超近接戦で戦闘をしていて、涼花はステラが拳を繰り出す度に肘や膝でステラの拳を潰していた。

 

『こ・・・これはっ!?』

 

『【交叉法】・・・所謂カウンターさね、相手の動きを読み切って攻撃と防御の交差と共に相手にダメージを与える武術の高等戦術さ、いやぁしかし涼ちんは色んな戦術が使えるんだぁねぇ~、見てて楽しくなってくるよ~』

 

様々な戦術を使い徐々にステラを追い込んでいく涼花を見て寧音は面白そうに試合に夢中になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をやっているんですかあの駄皇女は!?あの距離ならさっきみたいに炎を纏えば一瞬で焼き倒せるっていうのに!」

 

「それは違うよ珠雫、多分ステラは【やらない】んじゃなくて【できない】んだ」

 

「?・・・どういう事ですかお兄様?」

 

攻めあぐねているステラを見て珠雫は文句を口にする、しかし一輝がその文句を否定したので疑問に思った珠雫は一輝に理由を求めた。

 

「【アンクルブレイク】に【交叉法】と佐野さんがさっきからやっている技術はどれも並外れた動体視力と反射神経、そしてそれらを確実に実行する為の冷静沈着さと判断力が必要だ、しかも彼女はステラの巨大な威圧感を感じながらも冷静さを失わない強靭な精神力も兼ねそろえている、僕だってステラの皇室剣術を受けた時は《模倣剣技(ブレイドスティール)》で読み取るまで受け流すのがやっとだったんだ、それを佐野さんはさっきステラの皇室剣術を躱しながらステラの身体の動きを読み切って様々な方法で手玉に取っている・・・あの距離なら恐らく一瞬でもステラが隙を見せれば彼女は瞬時にステラに決定打となる一撃を与えてくるだろう、だからステラは佐野さんを相手に一瞬たりとも意識を緩められないんだ」

 

「・・・それなら距離を取ればいいんじゃないかしら?」

 

一輝が説明すると今度は有栖院が一輝に質問をした。

 

「さっきからステラは何度も距離を取ろうとしているさ、だけど佐野さんはステラより遥かに速いうえに彼女自身がステラが距離を取る隙を見せてくれなくて頑なに超近接戦を保とうとしている、多分この肉弾戦はどっちかの均衡が崩れるまで続くだろう・・・でも崩れるのは多分・・・」

 

この肉弾戦の決着の結果を察して俯く一輝、このままいけば打ち負けるのはステラだろう、そうなれば試合は一気に涼花の優勢に傾く、ステラの勝利は厳しいものとなるだろう。

 

「・・・大丈夫一輝?」

 

有栖院が無言のまま俯く一輝を心配する、そして一輝は眼を見開いて顔を上げ真剣な表情をしてバトルフィールドで戦う自分の恋人を見据える。

 

「大丈夫だ、問題ないよ・・・どんな結果になったって見逃さないさ、ステラが戦うこの一分一秒を!」

 

一輝はそう決意して傷ついていくステラの姿を目に焼き付けた。

 

・・・そして、とうとう均衡が崩れ、この試合はクライマックスを迎えることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回テイルズ・オブ・エクシリアのジュードが使う【集中回避】が出てきましたが、原理はこれで合っていたかなぁ?

ジュードがただの医学生なんて自分は信じない!




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。