戦女神×魔導巧殻 第二期 ~ターペ=エトフへの途~   作:Hermes_0724

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第一章:建国編
第一話:十二歳 旅立ち


迫りくる魔獣の軍団に向けて、人間族の部隊が魔導砲の一斉射撃を行う。あり得ない距離から打ち込まれる砲撃に、魔獣たちが慄く。獣人たちが雄たけびを上げ、怯んだ軍団に向けて突撃をする。光も闇も関係なく、国を思う一心で、皆がまとまり、侵略者に対抗する。この地に侵攻を開始した「地の魔神」も、この光景には呆気にとられた。

 

«なんと手ごわい相手なのだ・・・なればこそ、面白いというものだの»

 

魔神は剣を抜くと、悪魔たちを連れて宙を舞った。自分が行かなければ、戦線が崩壊すると判断をしたのだ。

 

«皆の者、我に続けっ!»

 

魔神の力は神に匹敵する。総大将の参戦で、崩壊しかかった戦線が再び盛り返す。魔神と悪魔たちが純粋魔術を詠唱する。

 

『『『レイ・ルーンッ!』』』

 

個々の純粋魔術が一つになり、天体衝突に匹敵する破壊力を持つ。後方から射撃支援を行う人間族の軍団に向けて放つ。命中をすれば一瞬で全滅をするだろう。だが・・・

 

«極大純粋魔術 ルン・アウエラッ!»

 

宙に浮いた黒衣の男が放つ。純粋魔術同士が衝突をし、相殺し合い、空中で大爆発が起きる。大地で戦う両軍は爆風で一時的に戦闘を止めたほどだ。

 

«来たなっ・・・黄昏の魔神っ!»

 

魔神の貌には、これから始まるであろう巨大な力の衝突に、歓喜の笑みが浮かんでいた。

 

 

 

玉座には、銀色の髪をした老年のドワーフが座っている。黄金色の甲冑を身につけ、鍛え抜かれた名剣に手を置いている。謁見の間では、光と闇の神官たちが守りを固める。中庭には、ルーン=エルフとヴァリ=エルフが並び、弓を構えて迎撃の体制を整えている。ここでは光も闇も関係ない。皆が対等であり、互いを認め合っている。「自分は自分、他人は他人」、一見するとバラバラに見えるが一つの想いが皆を束ねる。

 

この国の「明日」を守る・・・

 

王は皆の様子を見て、瞑目した。ここまで来るのに二百年以上の歳月が掛かった。だが自分は間違っていなかった。信仰を超え、種族を超えて、解り合い、助け合い、まとまることが出来る。それが証明されたのだ。自分の寿命はあと僅かだが、この光景を見れただけで、満足であった。

 

『種族を超えた繁栄・・・ようやく、実現できたか』

 

かつて、自分が若かりし頃に出会った魔術師のことを思い出し、偉大なる名君「インドリト・ターペ=エトフ」は、静かに笑みを浮かべた・・・

 

 

 

About 250years ago・・・

 

私の名はインドリト、ケレース地方西方のプルートア山脈にあるドワーフ族の集落で暮らしている。父のエギールは族長を務めている。この土地は西と東を山で囲まれ、綺麗な水と豊かな森がある。山からは岩塩や様々な鉱石が採れるし、森に行けば山菜や果実が豊富で、熊や猪の他、鹿や兎が獲れる。川に糸を垂らせば魚が寄ってくる。この豊かな土地で、ドワーフ族は何百年も、平和に暮らしてきた。

 

一年前、この土地に人間族の男が住むようになった。村から少し離れた、ルプートア山脈の温泉地帯に家を構え、とても美しい女性三人と暮らしている。集落の皆は、最初は警戒をしていたが、一緒に家を立て、畑を耕し、鉱石を取るうちに、家族のように打ち解けてしまった。父も時折、男を呼んで話をしている。ドワーフ族が他族を受け入れることは滅多に無い。男のみならず、人間族、ヴァリ=エルフ、飛天魔族の女まで、皆と笑い合い、酒を飲み、歌う。縁があってその男を連れてきた私は、安心をしながらも呆気に取られてしまった。

 

そんなある日、私は父に呼ばれた。

 

『インドリト、お前は何歳になった?』

 

『はい、もうすぐ十ニ歳になります。父上・・・』

 

『ドワーフ族では、男は十ニ歳になると他の家で鍛冶の修行を始める。それは知っているな?』

 

『はい』

 

『だがお前は、鍛冶の修行ではなく、別の修行をしろ』

 

『え?』

 

『あの人間族、ディアン・ケヒト殿の下で修業をするのだ』

 

父が何を考えているのか、私には理解できなかった…

 

 

 

 

翌日、父に命じられて私は男の家に向かった。集落から半刻ほどの森の中で、少し開けた眺めの良い場所に、木と石で造られた家が建っている。天井が高いため、ドワーフ族の家とは趣が違う。家の前では、男が木刀を持ち、女と対峙をしていた。金色の髪を持つ人間族の女性、レイナだ。

 

『ハッ!』

 

レイナが男に打ちかかった。目にも止まらない速さで、木刀を打ち込むが、男はそれを全て弾き返した。レイナは様々な技で男に打ちかかったが、全てを打ち返された。男が手をかざして止めた。

 

『インドリト殿、こちらへ・・・』

 

男は、額に汗を浮かべていた。私はその男「ディアン・ケヒト」の前に歩み出た。

 

『エギール殿からお話は聞いています。インドリト殿にとっては、戸惑われていることでしょう。少し、お話をしましょうか・・・』

 

ディアンは庭の石台に腰を掛けた。私も隣に座る。ヴァリ=エルフ族の女「グラティナ」が、水差しと杯を持ってきた。ディアンは礼を言って、それを受け取った。私にも差し出される。杯に、色がついた水が注がれる。飲んでみると、不思議な甘みのある茶であった。

 

『先日、森に自生する牛蒡を発見しましてね。よく洗い、薄く剥いて乾燥させ、それを沸騰した湯の中に入れます。牛蒡から養分が出て、少し甘い茶になるのですよ』

 

『初めて飲みました。美味しいですね』

 

ディアンは笑った。私は、父から聞かされたことについて、質問をした。

 

『父から、ディアン殿の下で修行をせよと言われました。ドワーフ族の男子は、十ニ歳になると家を出て、他の鍛冶職人の下で修業をします。私もそのつもりだったのですが、鍛冶以外の修行と言われたのです』

 

『インドリト殿は、鍛冶職人になりたいのですか?』

 

『私はドワーフです。ドワーフは皆、鍛冶職人になりますから・・・』

 

『ドワーフは鍛冶職人にならなければならない・・・そのようなこと、決まっているわけではありませんね?商人になっても良いし、漁師になっても良い。違いますか?』

 

『確かにそうです。ですが、幼馴染たちは皆、鍛冶職人に弟子入りをします。その中で、私だけがなぜ、ディアン殿の下に弟子入りをするのでしょうか?』

 

ディアンは少し間を置いて、私に問いかけてきた。

 

『インドリト殿は、旅をしたことはありますか?』

 

『いえ…山の向こう側に行ったこともありません』

 

『では少し、他の土地のことについて、お話しましょう…』

 

ディアンは棒で地面に絵を描きながら、語り始めた。

 

『この地はケレース地方と呼ばれています。ケレース地方は森が多く、闇夜の眷属や魔物が多い土地です。東の山を超えると、魔神が治める土地「華鏡の畔」があります』

 

『魔神が?』

 

『えぇ、アムドシアスという魔神です。絵画や彫刻、音楽を愛し、結界で土地を囲っています。そのため南北の道が通れず、ケレース地方北部は、発展が遅れてしまっています』

 

『迷惑な魔神ですね』

 

ディアンは笑って頷いた。

 

『全くですね。その華鏡の畔の南東には、ルーン=エルフ族の広大な森「トライスメイル」が広がり、さらに東には半魔人の王が支配する「ガンナシア王国」という国があります。いま、ケレース地方はこうした勢力によって、分割されています。おそらくやがては、ケレース地方の北部にも、国ができるでしょう…』

 

『広いんですね』

 

『そうですね。ですが、この大陸全体から見れば豆粒よりも小さいと言えるでしょう。ケレース地方の北にはレスペレント地方、南にはアヴァタール地方、西にはセアール地方、東にはグンモルフ地方が広がっています。いずれも、このケレース地方よりも広いんですよ?』

 

『そんなに…想像もできません』

 

『アヴァタール地方には、このケレース地方よりも多くの人が住んでいます。その南にはニース地方やディジェネール地方という広大な土地が広がり、西にはレルン地方、さらに西には、現神が治める土地まであります。そしてそれらの土地でいま、様々な国が産まれようとしています』

 

『その…国とは何でしょうか?この集落みたいなものなのでしょうか?』

 

『そうですね。確かに似ていますが、一つ大きな違いが有ります。インドリト殿にお聞きしますが、この集落はドワーフ族たちが集まって暮らしていますが、それは何故でしょう?』

 

ディアンの質問に、私は答えられなかった。ただこの土地に生まれたからとしか答えようがない。

 

『そう。集落に住む人々は「ここに住む」という意識に欠けます。ただ生まれたから何となくここに住んでいる…という程度でしょう。ですが国は違います。国には「私はこの国の住人だ」と意識させる力があるのです。そうした力を「国威」と言います』

 

『それは、何か魔法のような力なのでしょうか。魔力を使った…』

 

『いえ、それ以上の力です。国威とは、そこに住む人々を惹きつける力です。例えばここから南には「レウィニア神権国」という国があります。この国は、水の巫女という神によって統治されています。レウィニアの住人は、水の巫女を信仰する「信仰心」によって結びついています。レウィニア神権国の国威は、水の巫女の存在と、神への信仰心なのです。一方、レウィニア神権国の隣には「メルキア国」という国があります。この国には、メルキアーナという王がいます。この王が理想を語り、優秀な部下たちが理想実現のための様々な仕組みを作っています。仕組みとは、いわば決まり事です。メルキア国に住むために守らなければならない決まり事、「法」と呼ばれるもので、国を治めています。メルキア国の国威は、メルキアーナ王の存在と、「法」なのです。そして、こうした国が今、この大陸全土で誕生しつつあるのです。あと数百年で、恐らく何百という国が産まれるでしょう』

 

『…父も、ここに国を創ろうとしているのでしょうか?』

 

『いえ、国を創るのはあなたですよ。インドリト殿…』

 

『わ、私がですか?』

 

『あなたの父君は、インドリト殿を国を率いる存在、「王」にするために、私のところに弟子入りをしろと言われたのです。今は平和ですが、百年後か二百年後には、この集落にも侵略者が来るかもしれません。周りに国が興きる中、この集落の未来を考え、エギール殿はあなたに国産みを託したのです』

 

『それならば、父が国を興せば良いではありませんか。何故、私が…』

 

『もちろん、父君も準備は進めます。ですが父君では、王にはなれません。エギール殿は、この集落の住民にあまりにも近すぎます。近いがゆえに、国をまとめる力…「国威」の存在になれないのです』

 

『私が…王に…』

 

『すぐに結論を出す必要はありませんよ。あなたが大人になるまで、まだ十分に時間があります。今夜は、我が家にお泊まり下さい。先日仕留めた鹿が、ちょうど食べ頃になっています。一緒に食べましょう』

 

私は頷いた。自分にそんな大それたことが出来るとは、とても思えなかった。だがディアンとの語り合いは、とても楽しかった。その後は、このあたりの獲物や取れる山菜などの話をした。ディアンの知識の範囲は驚くほど広く、深かった。気がついたら日が暮れていた。その夜、皆で食べた料理はとても美味しかった。血を丁寧に抜いた鹿肉を薄く切り、塩や香草を振りかけて生で食べた。初めて食べたが、忘れられない味だった。

 

ただ、風呂は恥ずかしかった。風呂はとても広く、ディアンのほか三人の女性まで、一緒に風呂に入った。三人はとても綺麗で、私は思わず、顔を朱くしてしまった。

 

翌朝、私は一度、家に戻った。父に決意を伝えるためだ。どんな修行をするのかは解らないが、ディアンのもとで修行をしようと決めた…

 

 

 

 




【次話予告】

ディアン・ケヒトの弟子となったインドリトは、新しい生活を始めた。ある日、インドリトは師と伴に、ルプートア山脈の西に住むという「芸術家」に会いに行く。ドワーフ族と違う考え方に触れ、インドリトの視野が広がる。

戦女神×魔導巧殻 第二期 ~ターペ=エトフ(絶壁の操竜子爵)への途~ 第二話「イルビットの芸術家」


少年は、そして「王」となる…

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