戦女神×魔導巧殻 第二期 ~ターペ=エトフへの途~   作:Hermes_0724

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第三十ニ話:大魔術師の弟子

西榮國大王「懐王」との謁見を終えた夜、ディアンたちは夜半に紛れて、王宮に忍び込んだ。全身を黒布で覆い、頭髪も隠す。金髪と銀髪はこの国で目立つため、もし見つかればすぐに正体がバレてしまうためだ。龍国三女「龍香蘭」が住むのは後宮である。これは書簡の中で書かれていたことで、ディアンたちも教えられていた。だが、一口に後宮と言っても、その広さは巨大である。後宮内の見取り図も無いのである。ディアンたちは空からの侵入を図った。

 

『後宮というのは、権力闘争の場だ。大王が入る中心の間に近いほど、有力者と見做される。人質である以上、恐らくはかなり外れの部屋に違いない』

 

ディアンたちは後宮の西側から侵入をした。手当たり次第に部屋に入るというわけにはいかない。まずは誰かから情報を聞き出す必要がある。

 

『後宮を管理するのは、宦官だろう。男根を切除された男性で、性欲が遮断されている分、異常なほどに権力志向や金銭志向が強くなるそうだ。つまり、脅しやすいということだ』

 

物陰に隠れ、時に天井に貼り付き、出来るだけ気配を消して進む。それなりの地位と思われる宦官でなければ、人質の場所は知らないだろう。しばらく進むと、身なりの良い男が伴を二人連れて歩いていた。他の宦官たちが、すれ違いに挨拶をする。ディアンはその男に狙いを定めた。自室と思われる部屋に、その宦官が入る。ディアンは部屋を狙い定めると、窓からの侵入を果たした。机に向かって書物をしている背後に立つ。首筋に短剣を当てて口をふさぐ。

 

『騒ぐな。声を出せば、喉を掻き切るぞ。大人しくしていれば、コレをくれてやろう』

 

宝石が入った袋が机に置かれる。元男は、震えながら頷いた。

 

『龍國第三王女「龍香蘭」の居場所を知っているか?正直に教えれば宝石をくれてやる』

 

口を塞いでいた手をゆっくりと放す。男はガチガチを歯を立てながら、少し甲高い声で部屋の場所を教えた。

 

『り、龍香蘭様は、この建物にはいない。こ、後宮の裏にある離れの家にいる。だ、だが見張りが常にいて、誰も近づけないようになっている・・・』

 

『そうか、ありがとう』

 

ディアンは首筋を短剣の柄で打った。宦官は意識を失い、ヘナヘナと崩れ落ちる。猿轡を噛ませ、縛り上げる。宝石袋は懐に入れてやった。部屋にも鍵を掛ける。これでしばらくは時間が稼げるだろう。

 

『急ごう。夜明け前には、王女を連れ出したい』

 

ディアンたちは王宮の裏にあるという離れへと向かった。

 

 

 

 

 

魔道士は、結界の反応を感じ取った。誰かが王女を軟禁している離れに侵入を図っている。建物の屋根に結界を張っているため、誰かが屋根に飛び乗れば、気づくように仕掛けていた。

 

『恐らく、龍國の間者だろう。それとも、大王を愚弄したという異国人か?いずれにしても愚かな・・・』

 

鈴をならし、従者に指示を出した。自分も急ぎ、魔道着へと着替え、魔術杖を手に取った。

 

 

 

 

 

『お断りします。ここを離れる訳にはいきません』

 

龍香蘭は、ディアンたちとの脱出を拒否した。香蘭は確かに、赤髪、薄褐色肌であった。だが、東方域では目立つだろうが、西方の人間たちを見慣れたディアンにとっては、ごく普通の姿に見えた。そして、王進が語っていたとおり、香蘭は美人であった。「凛とした」という表情で、出会った頃のレイナに似ていた。それでいて刺々しさはなく、上流階級としての気品も備えている。外見も雰囲気も、ディアンの好みであった。ディアンは説得を試みた。

 

『この屋根には結界が張られていました。あまり時間がありません。父君に会いたくは無いのですか?』

 

『私が姿を消せば、私の身の回りを世話してくれていた従者、見張りの兵士たちが罰せられます。父に会いたいという個人的な思いだけで、他者に迷惑を掛けるわけにはいきません』

 

(なるほど、確かに「名君」の素質がある)

 

ディアンは頷いた。解決方法を思いついたからだ。この方法を取れば、西榮國とターペ=エトフとは決定的に決裂する。だが、ディアンは腹を括った。ダカーハの話が事実だった今、決裂しているようなものだからだ。インドリトも許してくれるだろう。

 

『ならば、正々堂々と帰りましょう。私にお任せ下さい・・・』

 

ディアンたちは覆面を外した。身を隠していた黒布も取り去る。レイナたちも、背中に差していた剣を腰に巻いた。香蘭は首を傾げた。

 

『このまま外に出て、後宮を通りぬけ、本殿を抜け、堂々と正門から出ます。邪魔をする兵士たちは蹴散らします』

 

『なっ・・・何をバカなことを言っているのです?そんなこと出来るわけが・・・』

 

ディアンの気配が変わっていた。魔神の気配が立ち昇る。外に漏れないように、それほど強い気配ではない。だがそれでも、香蘭は膝が震えた。

 

«オレの名はディアン・ケヒト、魔神の肉体を持つ人間です。オレがその気になれば、この街を吹き飛ばすことだって出来ますよ?どうします?»

 

『・・・卑怯な脅しをしてきます。私が従わなければ、無関係な者たちを殺戮する、と言うのですか?』

 

«いえ、可能だと言いたいだけです。どうします?我々と来て頂けませんか?»

 

『私は魔神に連れ去られた・・・兵士たちも魔神相手では仕方がない・・・そのような形式を取るつもりですね?』

 

香蘭は溜息をついて、頷いた。

 

«しばし、ご辛抱下さい。正門を抜ければ、人間に戻ります»

 

香蘭を連れ、ディアンたちは離れを出た。見回りをしている兵士たちが驚く。だが魔神の一睨みで、腰を抜かしてへたり込んだ。

 

«剣を振るのは仕方がないが、出来るだけ殺すなよ。傷つければ、大抵の人間は退く»

 

ディアンたちは堂々と後宮に入った。特に急ぐ必要はない。レイナとグラティナが香蘭を挟むようにして歩く。二人の気配によって、魔神の気配から香蘭を護るためだ。後宮内にも兵士がいるが、ディアンたちに斬りかかってくる者はいない。勇気ある兵士が槍を突き出してきたが、拳を一突きし、風圧で吹き飛ばす。背後から襲ってきた兵士は、レイナとグラティナが撃退した。いずれも「二振り目」を使う必要な無い。魔神の使徒として成長を続けている二人は、既に中級魔神に匹敵する力を持っている。簡単に後宮を抜け、本殿を目指す。だがその途中の広大な広場で、兵士たちが待ち構えていた。警備兵などという軽いものではない。合戦の気配を放つ「軍」であった。魔術衣を着た中年の魔道士が、その軍を率いていた。魔術杖を掲げると、ディアンたちに強力な雷が落ちてきた。魔術防御結界で防ぐ。結界を張ったディアンに衝撃が走る。相当に強力な魔術であった。

 

『ほう、結界か。さすがは魔神といったところか・・・』

 

«どうやら、噂に聞く「宮廷魔道士」のお出ましか。オレの名はディアン・ケヒト、白と黒・正と邪・光と闇・人と魔物の狭間に生きし、黄昏の魔神だ。この王女が気に入った。悪いが、オレのモノにする»

 

『なっ・・・何を言って・・・』

 

香蘭が顔を朱くする。だが魔道士はクツクツと嗤いながら、名乗った。

 

『私の名は李甫、宮廷魔道士にして、懐王様の太師を務めている。貴殿の名は伝え聞いている。ターペ=エトフという国の王太師だそうだな。我が雷撃を防いだのは見事だが、次はどうだ?』

 

李甫の杖に魔力が込められる。純粋魔術である。その様子に、ディアンは思わず唸った。

 

『純粋魔術 アウエラの裁きっ!』

 

強力な純粋魔術が放たれる。ディアンは同じく、アウエラの裁きを繰り出した。純粋魔術同士が相殺しあう。大爆発が発生するが、互いに結界を張って爆風を防ぐ。二十歩ほど離れた二人の間に、巨大な窪みが発生していた。レイナが驚きの声を上げた。

 

『魔神化したディアンと、五分の威力?それに今の魔術は・・・』

 

«アウエラの裁き・・・人間でその魔術を知るものは多くない。貴様、誰に魔術を習った?»

 

『西方の出身者なら、知っているやもしれんな。大魔術師ブレアード・カッサレ・・・私は彼の下で、三十年以上の修行を積んだ』

 

ディアンの眼が細くなった・・・

 

 

 

 

 

後宮にいた懐王は、地下道を通って王宮へと戻った。屈強な近衛兵の他、宮廷魔道士まで迎撃をしている。いかな魔神と言えども、無事で済むはずがない。そしてこれは好機であった。龍國との和睦は、一時的なものでる。この数年で、軍は強化され、龍國に攻め込む体制は整っていた。この騒動を口実に、龍國に攻め込むことが出来るのである。

 

『すぐに将軍らを呼び集めろ!我が自ら、出陣をするっ!』

 

懐王の瞳は、戦場を想像して既に猛っていた。

 

 

 

 

 

王宮前の広場では、二人の魔道士が互いの魔術をぶつけあっていた。並の魔術師では操ることさえ困難な術式であるが、李甫は平然とそれら上級魔術を操った。レイナたちには信じられなかった。術式自体は、研究をすれば知ることは出来る。だがそれを操るには、相当な魔力が必要である。魔力は魂の活動によって生み出されるため、人間であれば誰でもが持っているが、その絶対値は個々人で差がある。そして、魔術の威力は、絶対値によって変わる。魔神ディアン・ケヒトの魔力は、人間を遥かに超えている。使徒である自分たちでさえ、魔術においてはディアンには遠く及ばない。にも関わらず、目の前の魔道士は人間でありながら、魔神と互角の魔力を持っているのである。普通の人間であれば、とうに魔力が尽きているはずである。

 

«・・・ブレアードも厄介な弟子を残したものだ。お前が使っているのは、自分の魔力ではないな。陰陽五行の理論を応用し、大地から魔力を吸い上げている»

 

すると李甫は、少し驚いた表情を浮かべた。

 

『陰陽五行と西方魔術の融合・・・我が師によって新しい魔術体系が構築され、私がそれを引き継いだ。だが、なぜそれを知っている。お前は一体、何者だ?』

 

«大魔術師ブレアード・カッサレ・・・オレも良く知っている。だが解からん。ブレアードの弟子なら、なぜ竜族を滅ぼしたりした。師の思想から、遠く離れた行為だろう!»

 

メルカーナの轟炎がぶつかり合う。火柱が立ち上り、相殺される。李甫は、魔術杖を下ろした。少し語り合いたいと思ったのだろう。

 

『なるほど・・・我が師と会ったことがあるのか。師と別れたのはもう五十年も前になるか・・・』

 

『ご、五十年?そんな老人には・・・』

 

レイナが呟いた。李甫の見た目は、せいぜい四、五十歳程度にしか見えなかった。李甫は笑った。

 

『陰陽五行を占いの理論程度と考えているのではないか?陰陽五行の本質は、肉体を流れる気を操る内功と、大地を流れる気脈との融合にある。これを極めることで、不老の肉体を得ることが出来るのだ』

 

«・・・己の体内に「内丹」を形成し、大地の気脈と通じる・・・「仙道術」とか言ったな。ブレアードの魔道書に書かれていた。だが、ブレアードはそれを拒否した。彼は自然に老いる道を選んだ。それがお前がブレアードの下を離れた理由か?»

 

『ブレアードは、仙道術を「外法」と考えていた。内丹形成は、擬似的な神核形成、つまり「魔人」になることだとな。愚かだと思ったよ。彼の理想「現神支配の終焉」は、とても人間の寿命で出来ることではない。ならば寿命を伸ばすしか無いではないか。目的のための「手段」として、魔人への道を選ぶべきだったのだ。だが、ブレアードはそれを拒否した。五十年前、大陸放浪の果てにニース地方に落ち着いた私たちは、そこで別れた。ブレアードは理想を捨てたのだ。ブレアードは、ただの負け犬と化した!』

 

«違う!ブレアードは自らの信念で魔人化を拒否したのだ。この大地にいるのは、現神と人間族だけではない。この世界には、数多の生き物が存在する。彼は人として、それらと向き合う生き方を選んだのだ!»

 

『フンッ・・・変節をしたのは間違いない。「現神信仰が支配するこの世界を変える。歴史の舵を人間が手にする」・・・熱く語っていた理想は何だったのだ?あれほどの知識、知性、技術を持ちながら、ブレアードは何一つ、成し遂げなかったではないか!何という能力の無駄遣いだ!だから私がその理想を実現させる。この国を操り、やがて大陸全土を支配し、現神信仰を終わらせるのだ!』

 

«なるほど・・・あの兵士たちを譫妄状態にさせたのは、そのための実験か»

 

『信仰心は、人間の心から来る。肉体、つまり「魄」を操ることで、魂にも影響を与えることが出来る。実験は成功だったよ。薬物を利用し、脳から信仰心を除外することが出来るのだ』

 

『この狂人が・・・』

 

グラティナが吐き捨てた。ディアンは首を横に振った。李甫は確かに、ブレアードの技を受け継いでいるが、その志を受け継いではいない。

 

«李甫、お前は間違っている。現神信仰を終わらせるのは、何のためだ?光と闇の対立する世界を変えることで、全ての種族が繁栄する世界が出来る、ブレアードはそう考えていた。ブレアードにとって、現神信仰の終焉は手段だったのだ。彼が目指した世界は、光も闇も関係のない、皆が幸福に暮らせる世界だった。だが、お前は手段を目的化している。お前のやり方では、ただの「暗黒世界」になるだけだ!»

 

『黙れっ!』

 

雷撃が放たれる。ディアンは両手でそれを受け止めた。身体を青白い火花が走る。李甫の表情が一変していた。青筋を立て、怒りの表情を浮かべている。

 

『お前も、ブレアードと同じだ!下らぬ情に囚われ、崇高な理想を蔑ろにしている!』

 

ディアンはなおも言葉を続けようとしたが、グラティナが止めた。兵士が続々と集まってきているからだ。

 

『ディアンッ!もう十分だろう!飛行魔術で飛び去ろう!二人がかりなら、姫を抱えて飛ぶことは出来る!』

 

ディアンは頷くと右手を上に掲げた。使徒二人もそれに倣う。一斉に手を下ろすと、凄まじい炎が周囲に立ち上った。李甫は魔術結界を張ったが、そのために追跡が遅れた。炎が消えた時には、香蘭を含めた四人の姿は無かった。王宮を飛び越え、そのまま逃げ飛んでいる。李甫は歯ぎしりをした。飛行魔術は自分の知識にも無い。一度だけ強く地面を踏みつけ、それから凄惨な笑みを浮かべた・・・

 

 

 

 

 

宿に逃げ戻った四人は、荷物をまとめ、そのまま街を出た。時折、休憩を入れながら龍國国境付近まで、空を飛び続ける。だが、さすがに使徒たちの魔力も尽きそうであった。ディアンは国境付近の集落で一泊をすることに決めた。この時代の手配書は、馬によって伝達される。国境の街までは、まだ手配書は回っていないはずである。宝石を示すと、集落の長は喜んで部屋を貸してくれた。布で顔を覆っていた龍香蘭は、部屋の寝台に腰を掛け、ようやく一心地がついたようである。

 

『申し訳ありません。もっと静かにお助けをしたかったのですが・・・』

 

顔を覆っていた布を外し、香蘭は溜息をついた。

 

『全く、迷惑な話ですわ。ですが、あの魔道士との問答は面白かったですね。あなたはとても、魔神とは思えません』

 

『半分は人間です。ところで、このまま龍國に入るわけにはいかないのですが・・・』

 

『解っています。西榮國の間者が、龍國にも紛れ込んでいるでしょう。私がこのまま国に戻れば、約定違反になってしまいます。それで、私をどうするつもりですか?』

 

『大変申し訳ありませんが、髪と肌を変えさせて頂きます・・・』

 

ディアンは両手に魔力を込めた・・・

 

 

 

 

 

『申し訳ありません。私がいながら、四人を取り逃がしてしまいました・・・』

 

李甫は膝をついて、懐王に謝罪をした。懐王は笑ってそれを許した。魔神が相手である以上、仕方がないこともあるが、これを口実に龍國への再侵略を図ることが出来るのである。むしろ歓迎すべき事態であった。

 

『太師が発明した「砲」は、既に量産体制に入っている。出陣は一月後とするが、その前に一応は、抗議の使いを出したほうが良いだろうな。諸国の眼もある故・・・』

 

『私が行きましょうか?』

 

李甫の自推に、懐王は首を振った。

 

『いや、太師には準備を整えておいて欲しい。あの魔神が出現したら、対抗できるのは太師のみであろうからな』

 

『お任せを・・・あの魔神の弱点は解っています』

 

李甫の瞳には、決戦に向けての自信が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

龍國首都「龍陽」に戻ったディアンたちは、徒歩で街に入った。街を歩く男たちの視線が、一人の女性に集中する。絹のように輝く漆黒の髪と雪のように白い肌、そして他の二人にも負けない整った顔立ちをした美人である。ディアンによって外見を変えられた龍香蘭は、これまでとは違う視線に戸惑っていた。ディアンは笑った。

 

『皆が、姫の美貌に見蕩れているのですよ。東方では、黒髪白肌を美としていますからね。どうせ外見を変えるなら、思いっきり美しい姿をと考えました』

 

『ディアン?私たちにはそんな魔術があるなんて、言っていなかったけど?』

 

レイナがディアンの耳を引っ張った。ディアンが苦笑いをしながら説明をした。

 

『グラザから譲られたカッサレの魔道書に書かれていたんだ。闇夜の眷属たちが人間の村でも生きられるように、と考えて開発した術式らしい。イテテッ・・・引っ張るな』

 

レイナが手を離す。耳を撫でながら、ディアンが言葉を続けた。

 

『この魔術の欠点は、一度変えたら元には戻せない、ということだ。姫には納得を頂いたが、闇夜の眷属の中には、それを嫌がる者も多かったらしい』

 

『当然だろうな。亜人族や闇夜の眷属たちは、連帯意識が強く、自分の外見に誇りを持つものも多い。実際、私だって、肌の色を変えたいとは思わない。ヴァリ=エルフであることは、私の誇りだからだ。だが、少し気に入らんぞ。姫にだけ、男どもの視線が集中しているではないか!』

 

香蘭がクスクスと笑う。華が咲いたような艶やかさだ。そのまま王宮に向かうのではなく、まずは王進の屋敷を目指した。門に立つ兵士たちも香蘭に見惚れていたが、やがて気づいた。慌てて屋敷内に駆け込む。中から大声が聞こえた・・・

 

 

 

 

 

『ヌッハッハッ!さすがは魔神じゃ!見事に姫を救出したな!』

 

王進は大声で笑いながら、盛大に酒を呷っていた。王進も香蘭の変化に驚いたが、すぐに慣れたようだ。それどころか、傾城とも言える美人になったことを喜んでいた。

 

『いや、見事・・・とは言えないな。かなりの大騒ぎを起こしてしまった・・・』

 

懐王との謁見から救出の顛末までを話すと、王進は腹を抱えて笑った。

 

『か、懐王に対して「ただの山賊」と言い放ったか!ヌッハッハッ!これは痛快だ!』

 

『その日のうちに、姫を救出した。向こうから見れば「拉致」と同じだな。恐らく、これを口実に龍國に攻め込んでくるぞ』

 

『今夜は我が屋敷で泊まると良い。姫の警備は特に厳重にしておく。明日、王宮に姫をお連れしよう。龍國との戦は気にするな。大王も覚悟をしている』

 

『西榮國をこの眼で見た。確かに民衆は繁栄している。だが、その王宮には狂気が取り付いている。李甫という魔道士は危険だ。もし西榮國が東方諸国を統治したら、暗黒世界になってしまうだろう。戦には、オレも手を貸そう。李甫と決着をつける』

 

王進は真顔で頷いた。

 

 

 




【次話予告】

香蘭との再会に、父は涙した。香蘭は名を変え、魔神について行くことを決める。そして、束の間の父娘の歓談を破るように、西榮國の侵攻が始まる。李甫と決着をつけるべく、ディアンは戦場へと向かうのであった。大魔術師の弟子同士が激突する。

戦女神×魔導巧殻 第二期 ~ターペ=エトフ(絶壁の操竜子爵)への途~ 第三十三話「趙平の戦い(前編) -砲と剣-」

・・・月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也・・・

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