ユキトは体中の痛みに耐えながら、ゆっくりオルタナの街を歩いていた。
「痛ッ、あ~もう、師匠は手加減し無さすぎだよ」
特に痛む腹を抑えると思わずため息が出る。
ユキトはたった今、ギルドで過した地獄のような七日間を終えた所。
仲間達との待ち合わせ場所へ向かっていた。
ギルドとはここオルタナの街に存在する同業者組合の事で、この地では職業に就くには必ずこのギルドに加入しなければならないというルールが存在する。
一見不自由にも感じられるが、ギルドに加入しなければその職業の技術を習得することはできない。
ギルドが存在するのは鍛冶や大工、調理師と言った聞き覚えのある馴染み深いものから、戦士や盗賊、聖騎士、神官、魔法使いなどといった戦う為の職業まで様々。
ユキトは義勇兵としての道を歩く為、ギルドに所属する為の手続きを終え七日間に及ぶ初心者研修のようなものを終えたばかりなのだ。
「さて、みんなはもう集まっているかな」
ハルヒロ達もそれぞれ選んだギルドでユキトと同じように基礎を徹底的に叩き込まれた筈だ。
みんなも苦労したのかな、なんて考えていると前方に怪しい人影が見える。
というか良く見れば知り合いだった。
黒い三角帽子にローブを着こんでいるが、その後ろ姿と髪型は忘れない。
ゆっくり道の端を歩いている姿は一見不審者にしか見えない。
いや、グリムガルじゃ普通の事なのか、とにかくまずは声をかける為に早足で駆け寄った。
「シホル、さん」
流石にいきなり呼び捨ては無理だった。
前にハルヒロはユメを呼び捨てにしてたけど、ユキトにはまだ難易度が高いようだ。
「あ……ユキト、くん」
最初は怯えたような様子だったが、ユキトの顔を見ると安堵したように胸に手を置いた。
改めて見ると大きいよな、胸、ってどこ見てるんだ僕は!
男だから性欲は勿論あるけど、流石にあからさま過ぎた。
「ひ、久しぶりって程じゃないけど。元気、だった?」
「う、うん」
「ギルドの方はどうだった?」
「大変だった」
「僕の方もきつかったよ」
会話が全く弾まない。
元々積極的に女の子に話掛けるような人間でもないし、シホルも気まずそうだ。
「と、とにかく行こうか」
黙って頷くシホルと共に待ち合わせ場所に向けて歩き出す。
気まずい。
けど何を話せばいいのか分からない。
結局碌に会話も無いままそんな事を考えている内に辿りついた待ち合わせ場所にはすでに何人か集まっていた。
「ハルヒロ!」
「ユキト!」
ユキトはマントを羽織ったハルヒロとハイタッチを交すとパンという良い音と共に笑いあう。
たった七日離れていただけなのに、すごい久しぶりに会った気分だった。
それだけギルドでの訓練がきつかったという事なのか。
師匠が鬼だったので仕方ない。
「シホル、ユキ君と一緒やったんかぁ」
「うん」
ユキト達の後ろでは背中に弓を背負ったユメがシホルに抱きついている。
ユキ君って僕の事なんだろうか?
ユメの呼び方に少しびっくりしたけど、それよりも気になっていた他の
ギルドの事を聞いてみた。
「盗賊ギルドはどうだった?」
「余裕、と言いたいところだけど凄く大変だった。先生は凄い美人だったんだけど、めちゃくちゃおっかなくてさ。そっちの聖騎士ギルドはどうだったの?」
「……ああ、それか」
そうだった。
まずはそれから説明しないといけなかったんだ。
ユキトが気が重い事実を話そうとした時、丁度残りの二人も待ち合わせ場所に現れた。
「よう!」
「盛り上がってるね」
「マナトに、ランタか」
「おい、ユキト! なんか俺の時だけ、あからさまにテンションおかしかっただろ! もっと喜べよ!!」
「そんな事無いよ。というかランタ、僕は君には言いたい事が―――」
しかしそこでマナトがパンパンと手を叩き、僕の言葉は遮られてしまった。
「とにかくこれで全員揃ったよね。俺が神官、ハルヒロが盗賊、ユキトが聖騎士、ユメさんが狩人、シホルさんが魔法使い。そしてランタくんが戦士かな」
「あ、いや、だから―――」
「マナト、お前そのランタくんってやめろよ、まだるっこしいだろ」
「じゃランタで」
「それはそれでむかつくな」
ランタがぶつぶつ文句を言っている間にユメやシホルも呼び捨てで構わないという事になり、ユキトもできる限り呼び捨てでいく事にした。
みんなが呼び捨てなのにさん付けは失礼かもしれないと思ったからだ。
ハルヒロと近づいてきたマナトがハイタッチをかわし、ユキトもまた片手を上げると小気味よい音が響く。
「マナト、お疲れ。実はさ―――」
「あれ、なんでユキトが鎖帷子を着てるの?」
そこに気がつくとは流石マナトだ。
ユキトは現在、腰に二本のショートソードと体には鎖帷子を纏っている。
察しの通り、これは聖騎士のものではなく戦士の初期装備なのだ。
「どういう事?」
「うん、それが……」
「よぉし、俺からお前らに重大発表がある!
ランタの声に遮られ、またもや話の腰を折られてしまった。
「何、重大発表って」
「実は俺……戦士にはならなかった! 何ていうか俺の才能は全く別次元にある気がして戦士ギルドに入りませんでした―っ!!」
「えっ?」
ユキトと話していたマナト以外全員が固まってしまった。
それはそうだ。
義勇兵がパーティを組む上で必須とされる職業がある。
それが神官と戦士の二つだ。
マナトが調べてくれた情報では傷ついた味方を癒せる神官。
そして敵を薙ぎ払い、時にパーティの盾となる戦士。
この二つはパーティの要であり、どんなパーティであろうとも最低一人は必要であると言われている。
だからこそマナトは神官を選び、誰かが戦士になる必要があるという時に、カッコ良さそうという理由でランタが立候補したのである。
あくまでもランタが自主的に選んだのであって誰かが強制した訳ではない事を先に言っておきたい。
「お前、なんで勝手にギルド変えてんだよ」
「フィーリングだよ、フィーリング!」
「ハァ、でランタはどのギルドに入ったんだ?」
呆れ果てた表情で聞くハルヒロの疑問にランタは首に掛けていた髑髏の首飾りを差し出し鎧の胸の部分を指差した。
「これを見ろ! 死を司る暗黒神スカルヘルに忠誠を誓う暗黒騎士になったんだよ!」
暗黒騎士とは一度入ると二度と抜ける事のできない掟がある事で有名な職業だ。
ユメの「何ができるん?」という質問に嬉々として「悪霊が呼び出せるんだよ」説明するランタ。
そんな二人を尻目にマナトがある程度納得しながらもユキトに質問してきた。
「それで、なんでユキトが戦士ギルドに入ったの?」
「……ああ、それがさ」
ユキトは七日前の事を思い出しながら、話をする事にした。
◇
マナトが集めてきた情報を基に全員がそれぞれのギルドに入る事になった。
数ある職業の中でユキトが選んだのは『聖騎士』
聖騎士は剣や盾を持ち、味方を癒す事もできる職業。
まあ自分を癒す事はできないらしいが、前に出て戦士と共に闘う事も、神官のようにパーティの支援も出来る。
この職業を選んだのはパーティ全体の底上げにもなるし、重要な職業である戦士や神官の代わりを務める事もできて一石二鳥だと思ったからだ。
教えてもらった場所を頭の中で確認しながらオルタナの街を歩いていると、見覚えのある天パが見えた。
「あれ、ランタがなんでこっちにいるんだろ?」
頭の中におぼろげながらも地図を思い浮かべランタの選んだ戦士ギルドの位置を確認する。
「こっちからでは遠回りだよね」
妙な感じを受けたユキトは足早にランタに近寄って声をかけた。
「ランタ」
「うわぁ! って何だユキトかよ」
「悪かったね。それより何でここにいるの? 戦士ギルドはこっちじゃないよ」
ランタはニヤリとどこか嫌らしい笑みを浮かべた。
凄まじく嫌な予感がする。
「丁度いいな。良く聞け、ユキト! 俺は戦士はやめて暗黒騎士になる!!」
「は? ハァ!?」
戦士をやめて暗黒騎士になる!?
ランタはいきなり何を言い出しているのだろうか。
「良く考えたらさ、俺には戦士とか違う気がすんだよな。それに暗黒騎士ってカッコいいだろ!」
「それだけの理由でギルドを変えるつもりなの?」
「おう」
頭が痛くなってきた。
ランタもパーティには戦士と神官は必須だと聞いていた筈なのに。
「あのさ、ランタ。それはまず―――」
「じゃ、そういう事だから、後は任せたぞ!」
「えっ、ちょっと待って、ランタ!!」
ランタはこちらが止める間もなく言いたい事だけ言ってそのまま走り去ってしまった。
おそらく暗黒騎士のギルドに向かったのだろう。
「マジで……どうするんだよ、これ」
ギルドに入る前から別の事で不安一杯になってしまった。
正直な話、戦士不在のパーティというのはかなり不味い筈だ。
戦士不在なんて事になれば、仲間の皆が困ってしまうだろう。
「ハァ、仕方ないか。まだギルドに行く前で良かったって事なのかな」
不幸中の幸い、ユキトはまだギルドに加入した訳ではない。
つまり―――まだ職業を選ぶ事が出来るのだ。
「……行こう、戦士ギルドに」
とりあえず七日後にランタに一言文句を言おうと決めて、足取り重く戦士ギルドの方へと歩き出した。
◇
そうして戦士ギルドに加入したまでは良かったが、想像以上に訓練は過酷だった。
特にユキトの師匠となった人はスパルタなんて言葉も生ぬるい程、厳しい人だったのだ。
思い出しただけでも鳥肌が立つ。
師匠は全身を覆うローブと仮面をつけていた為、スクードという名前(これも偽名らしい)以外は顔はおろか性別すらも分からない。
しかしその技量は紛れも無く本物。
それはもう何度となく叩きのめされたのだから間違いない。
剣の構え方から、敵の捌き方まで徹底的に叩き込まれ、気絶した事だって一度や二度じゃ無かった。
そんな訓練の中、ユキトにとって少し変わった出来事があったのが六日目だ。
その日は朝からスクードと剣を交えていた。
要するに今まで習った事がキチンと身になっているかどうか試す試験のようなもの。
壁に立てかけられた剣や中身が無い空箱が散乱する部屋の中央。
ユキトはようやく使い慣れて来た剣の柄を握りしめ、向かい合うスクードの隙を窺う。
「どうした来ないのか?」
「……そんな事言われても」
下段に構える長剣とスクードはまるで一体になっているかのように、全く隙が見当たらない。
それも当たり前だ。
六日前に剣を握り始めたユキトと歴戦の勇士であるスクードでは比べる事も馬鹿らしいくらい差があるのだから。
「来ないなら、こちらから行くぞ」
「ちょっ―――」
待ってという言葉が発せられる前に振り抜かれた一撃。
速い!?
ユキトは空気の音を聞き、咄嗟に剣を前面に突き出す。
振るった剣がスクードの横薙ぎの斬撃を受け止める事に成功した。
「くぅ! 重い!?」
キィィィンという甲高い金属音と共に火花が散る。
スクードの一撃を受け止める事はどうにかできた。
しかし凄まじいまでの衝撃が腕を駆け抜け、しびれが走る。
凄まじい重さと衝撃。
あの細身のどこからこんな力が湧いてくるのか。
これに本気の速度が加われば、ユキトの剣など簡単に叩き折ってしまうだろう。
考えるだけで冷や汗が流れる。
「誰がまともに受け止めろと言った! 何時も通りに流せ!」
これは一番初めに言われた事だった。
ユキトはお世辞にも体格に恵まれているとは言えない。
少なくとも同期のレンジやモグゾーと比べても明らかに劣る。
つまり力勝負に持ち込まれた場合、押し負けてしまう可能性が高い。
戦士の役割はいかに味方を敵から守るかであり、敵からの攻撃を受けて動けなくなっては意味が無いのである。
「は、はい!」
腕に走ったしびれを堪え、交差する剣を弾き飛ばすと今度はこちらからスクードの方へ踏み込んだ。
「ハァ!!」
自分なりに裂帛の気合を込め遠慮なくスクード目掛けて剣を袈裟懸けに叩きつける。
前に当たって怪我でもしたらなんて考えていたら、「舐めてるのか貴様は」と静かに、そして滅茶苦茶キレられボコボコにされた。
曰くユキト如きの攻撃で傷つく事はないので訓練の時は「常に本気で来い」と朦朧とする意識の中、言われてしまった。
その証拠か、スクードは体を軽く捻るだけでユキトの剣撃を容易く回避する。
「甘いぞ」
「分かってますよ!」
ユキトは続けて斬り上げるように剣を振るう。
一撃、ニ撃。しかしそれもローブを掠める事すら出来ず、空を切るのみだ。
ヒラリ、ヒラリとローブが舞い、剣閃を避け続けまったくこちらに動きを捉えさせない。
まるで柳のよう。
だがユキトはそれでも手を止めない。
ユキトが他の戦士達と比べて優れている所を探すとすれば手数の多さと器用さくらい。
受けに回ればその時点で不利になる。
「手数は多いが当たらなければ意味が無い。もっと相手を良く見ろ」
「はい!」
スクードの繰り出してきた一撃をどうにか受け流すと、腕に大きな衝撃
が伝わってくるが先程のものと比べれば大した事は無い。
これが本気の一撃だったら、受け流すどころか見る事すらできないんだろう。
ユキトは剣を振るいながらも動きを見極め、仕掛けるタイミングを見計らう。
狙うはスクードが剣を振るう瞬間。
「ここ!」
スクードが上段から剣を振り下ろした所にユキトは横薙ぎに剣を叩きつけた。
完璧なタイミング。最低でも剣は弾き飛ばした筈だと確信する。
しかし―――
「えっ?」
スクードはユキトの狙いを始めから読んでいたのか横薙ぎの剣閃を受ける前に斬撃の方向を変え、逆にユキトの剣を弾き飛ばした。
正直、何をされたのか解らなかった。
気がつけば持っていた剣が宙を舞っていたのだから。
「動きを止めるな」
次の瞬間、腹に凄まじい衝撃と激痛が襲いかかる。
スクードが右足で蹴りを繰り出してきたのだ。
「ぐぁあぁ!!」
剣を弾かれたショックで防御する暇も無く蹴りをもろに食らってしまった。
受身も取れず、部屋の隅まで蹴り飛ばされてしまう。
部屋の隅に積み上げられていた長箱にぶつかると崩れる箱と近くに置いてあった練習用の剣が倒れる音で部屋の中に轟音が響き渡った。
「大丈夫か?」
「……何、とか」
途切れ途切れに返事をしながら、痛みに耐える。
崩れた箱にぶつけた背中もそうだが、蹴られた腹はかなり痛い。
経った六日程度訓練を積んだ程度でどうにかなるものじゃないとは分かっているけど、やっぱり悔しい。
痛みを堪え箱を除けながら、崩れた箱の山から這い出るとスクードが手を差し出してきた。
「今のは悪くなかった。だが、まだまだだ」
「す、すい、ません」
なんか珍しくほめてくれた気がしたけど、気のせいだったみたいだ。
「少し休憩だ。まずはこれを片づける」
「はい」
崩れ落ちた空っぽの長箱を積み上げ、散乱したロングソードやバスタードソードを片づけていると、ふと長剣を携えたあの紅い眼をした女性の事を思い出した。
関わりたいとは思わないが知らずにいると、自分でも気がつかないまま地雷を踏んでしまう可能性もある。
丁度良い機会かも知れないと思いきってスクードに聞いてみる事にした。
「あの、師匠。少し聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「……銀髪で白い軽装を身につけた、長い剣を持つ紅い眼をした女性の事を知ってますか?」
そこで明らかに空気が変わる。
もしかしてやばい事を聞いたのだろうか?
「……会ったのか」
「いや、この前酒場で見かけて、少し気になったので」
「そうか。ならば今後一切関わらない事だ。余計な事に巻き込まれたく無ければな」
「……えっと危険、なんですか?」
スクードは手に持った剣をすべて元々あった位置に戻すと、珍しく言葉を選ぶように話し始める。
「……そうだな、例えばギルドの裏側を覗き見ようとする事と同じようなものか」
「ギルドの裏側?」
「それぞれのギルドには掟がある事は知っているな」
「もちろん」
それぞれのギルドには守るべき掟が存在する。
例えばここ戦士ギルドの掟は『一つ、汝の肉体とありとあらゆる物を武器とし汝の敵と戦え。二つ、我先に敵に背を向けて逃げだし名を汚すことなかれ』という二つがある。
「掟を破った場合どうなるかも知っているな」
「……はい」
掟を破った者はギルドから追放され二度とそのギルドに入会する事は出来ずさらにギルドによっては追っ手をかけられ、命を狙われる事すらある。
「では、最悪、破った者を始末せざる得ない場合など誰がそれをやると思う?」
「え?」
「同じギルドに所属し、共に戦ってきた仲間を追い詰める役を誰がやるか知っているかと聞いているんだ」
「……いえ。でも掟を破っても、命まで狙われるのは暗黒騎士くらいですよね?」
「本当にそう思うか? ギルドに所属する者は皆が手を取り合って、仲良く敵対種族と戦うと本気で思っているのか?」
「それは……」
このグリムガルに来て何日も経っていないから、正直そんな事を聞かれても答えようがない。
だが何の揉め事も無く戦っているというのは何故か想像できなかった。
「とにかくそんな役目は普通誰もやりたがらないという事だ」
誰もやりたがらない役目。
しかし掟がある以上、もしもの場合誰かがやる必要がある。
そこでユキトの脳裏に嫌な想像が浮かんだ。
「まさか……それを専門に請け負う人が居るとか……」
「さあ、あくまでも噂だよ。でもそれが裏側を見ようとするという事だ。本当だとしてもそんな事ギルド側もやってる本人も知られたくないだろう。脛に傷を持つ者なら当然だ。そしてそれでも知ろうとする奴にはそれ相応の結末が待っている」
スクードはユキトに背中を向けると部屋の出口に向けて歩き出した。
「あの女に関する事はそれと同じだ。もう一度言うが、余計な事に首を突っ込むな。明日には仲間の下へ戻るのだろう? お前は早く仲間と共に一人前の義勇兵になる事だけ考えていればいい」
結局、そのままスクードは部屋から出ていきそれ以上話す事が出来なかった。
そして後は特におかしなことは無く、師匠から餞別として鎖帷子とショートソードを二本貰い、ギルドで過した日々は終わりを告げたのだ。
◇
「という訳だよ。本当は相談したかったんだけど、皆もうそれぞれギルドに入ってたし。ごめん、僕が独断で決めちゃって」
ギルドの裏側という部分はぼかし、ランタの件だけを告げた。
正直、何故それを話さなかったのかは分からない。
もしかすると実感が薄いのかもしれない。
「いや、むしろ良く戦士ギルドに入ってくれたよ」
「うん、正直、助かったよ、ユキト」
マナトもハルヒロも心底ホッとしたように肩を叩いてくれた。
個人的にはもう一人くらい戦士が居てくれた方が助かる。
しかしそれは贅沢というもの。
師匠に言われた通り、僕が皆を守らないといけないのだから頑張らないといけないのだ。
「じゃ、とりあえず行こうか」
マナトの声に合わせ、皆がオルタナの門から外へと向かう。
義勇兵見習い一日目。ユキト達はようやく一歩を踏み出そうとしていた。