灰と幻想のグリムガル 紅き眼のニ刀使い   作:kia

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第十四話 不和

 

 

 

 森の中に存在する反ギルドの拠点。

 

 その隠れ家に併設された庭から風切り音が響く。

 

 それはに出入りする者ならば馴染のある音だった。

 

 「今日もやってんのか、ジュンヤの奴は」

 

 大剣を背負った男はニヤリと笑い、庭に顔を出すと想像通りの光景が広がっていた。 

 

 そこではジュンヤは日課である訓練に勤しんでいる姿があった。   

 

 変わっているところがあるとすれば、いつもより苛立っているように見える事だろうか。

 

 「よう、随分イラついてるみたいじゃないか」

 

 男に気が付いていたのか、ジュンヤは特に反応もせず黙々と訓練を続けていく。

 

 「……何か用?」

 

 「相変わらず愛想のない奴だな。まあいい、仕事だ」

 

 手渡された紙を受け取ったジュンヤは書かれた内容に目を通していく。

 

 「今回は情報収集だけ?」

 

 「ああ。前に動いていた奴はアナスタシアに捕まっちまったからな。その補填だよ」

 

 ギルドが密かに動きを見せている。

 

 大規模な作戦の準備を行っているのかもしれない。

 

 それを調べて来いという事だ。

 

 「分かった」

 

 手紙を胸元に仕舞ったジュンヤは準備の為に自分に割り当てられた部屋へ向かう。

 

 その背中に男が嫌らしい笑みを浮かべながら、声を掛けた。

 

 「ところで何でそんなにイラついてる? 例の義勇兵達がそんなに気に入らないのか?」

 

 ジュンヤは何も答えない。

 

 ただ一瞬だけ足を止め、再びすぐに歩き出す。

 

 「わかりやすい奴」

 

 あんな素直に反応していたら気にしていると言っているようなもの。

 

 男はそれ以上は何も言わず、面白そうにジュンヤの後ろ姿を眺めていた。 

 

 

 

 

 

 オルタナで準備を整えたユキト達はダムローを離れ、新たな狩場に足を踏み入れようとしていた。

 

 その場所はサイリン鉱山。

 

 新しい狩場に少しだけ高揚しているユキトとは違い、歩いているパーティメンバーの表情は固い。

 

 緊張しているのが傍からでも丸分かりだった。

 

 「結構遠かったな」

 

 「何時もより遠くだから、そう感じたのかもね」

 

 緊張気味なハルヒロの声にユキトは出来るだけいつも通りに振舞いながら、そびえ立つ山を見上げる。

 

 サイリン鉱山はダムローからさらに北西に移動した先にある山だ。

 

 距離的には約4キロ。

 

 初めての道のりを警戒しながら進んだ所為か、思った以上に時間が掛かったものの、無事に辿りつく事ができた。

 

 「あれがサイリン鉱山か」

 

 「見た目はただの山だけどな」

 

 「あそこは昔、アラバキア王国がまだこの辺で活動していた頃に開発されてた鉱山で、諸王連合の侵攻を受けてからはずっとコボルド達が支配しているの」

 

 一番詳しいメリィの説明を聞きながら、道なりに進んでいく。

 

 生い茂る森を抜け、山の麓までたどり着くとそこから遠目で鉱山の入り口を発見する事ができた。

 

 「あそこから中に入れるわ」

 

 「良し、皆油断しないように行こう」

 

 先導するハルヒロの後について全員が続く。

 

 その時だった。

 

 「え?」

 

 道なりに進んでいたハルヒロ達の前に突如、見たことのない生物が現れたのだ。

 

 数は3匹。

 

 犬のような頭部と毛むくじゃらの体。

 

 さび付いた剣を持ちボロボロの鎖帷子を身につけている。

 

 「コボルド!?」

 

 メリィの叫びに全員が固まった。

 

 コボルド。

 

 サイリン鉱山を根城にしている種族であり、これから戦う事になる敵。

 

 予期せぬ遭遇に双方、僅かの間動きを止めた。

 

 しかしすぐに我に返ると同時に武器を抜き放つ。

 

 「行くぜ、モグゾー、ユキト!」

 

 ランタの声に合わせ、モグゾーとユキトが前に出る。

 

 「メリィとシホルは下がって! 俺とユメで三人を掩護!」

 

 ハルヒロの指示に耳を傾けつつ、ユキトはコボルドと対峙する。 

  

 「ふも!」

 

 「おら!」

 

 飛び出したランタとそれを掩護するモグゾー。

 

 しかし攻撃は軽やかな動きで躱すコボルドを掠る事もできずに空を切る。

 

 そして逆にボロボロの剣の一撃が二人に襲い掛かった。

 

 「思ったより速い!?」

 

 「ッ、この!」

 

 ボロボロとはいえまがりなりにも剣だ。

 

 鉄の塊の直撃を受ければ、鎧の上からだろうがその衝撃はかなりのものとなる。

 

 それを知っている二人は大きく飛びのき、コボルドから距離を取った。

 

 ユキト、ハルヒロも戦闘を開始する。

 

 しかし初見の相手故か、相手の思わぬ動きに翻弄され、上手く攻撃が通らない。

 

 「あの尻尾が邪魔で背後が取れない」

 

 ゆらゆら揺れるコボルドの尻尾にイラつきながら、ハルヒロが吐き捨てる。

 

 確かにそうだ。

 

 毎夜の訓練の成果かコボルドに脅威は感じない。

 

 動きを見る限り、決して敵わない相手ではないと分かる。

 

 にも関わらず苦戦しているという現実に動揺が隠せない。

 

 「これってやっぱり師匠が言ってた―――」

 

 ゴブリンに対して最適化された戦い方になっている。

 

 その所為で皆の動きが鈍いのだとしたら。

 

 「不味い」

 

 コボルドの一撃を弾き飛ばし、蹴りを入れて突き放した。

 

 「邪魔なんだよ! 皆は?」

 

 敵を警戒しながらさりげなく仲間達の様子を伺うと、思った通り動きが鈍く見える。

 

 いや、鈍いというか、コボルドの動きに戸惑っているというのが正しい。

 

 「くそ」

 

 具体的な考えが纏まらないまま、どうにか流れを変えようとコボルドに向けて剣を向ける。

 

 しかし意外な所から状況打開の切っ掛けが飛び込んできた。  

 

 辺りに響いた強烈な打撃音。

 

 そこには錫杖片手にコボルドを殴り倒したメリィが立っていた。

 

 戦闘中である事も忘れてしまう程に凛々しい姿。

 

 それに全員が目を奪われる中、メリィの声が木霊する。

 

 「敵はレッサーコボルド! 決して手強い相手じゃない! 夜の訓練を思い出して! 皆なら絶対勝てる!」

 

 「おー、メリィちゃんカッコイイなぁ!」

 

 「うん」

 

 「二人共感心してる場合じゃないでしょ!」

 

 女性陣の声を聞きながら、ユキトはハルヒロ、ランタ、モグゾーと目配せする。 

 

 変な気分ではあるが、全員と気持ちが通じ合ったような気がする。

 

 伊達に毎晩一緒にボコボコにされている訳ではない。 

 

 こんな時の考えくらいなら顔みただけで分かる。

 

 「いくぞ」

 

 シホルの魔法とユメの弓矢でコボルド達をかき乱している間にそれぞれが走り出した。

 

 もうそこからは型に嵌まったように全員の動きが変わっていた。

 

 いつも通りの自分達。

 

 当然の事ながらレッサーコボルトに遅れなど取らない。

 

 「ハァ!」

 

 コボルドの武器を弾き、さらに拳を振るって鼻先に打撃を加える。

 

 大ダメージは期待できない目くらまし程度の威力しかないが、敵を怯ませるには十分すぎる。

 

 鼻先の一撃にフラフラと体勢を崩したコボルド。

 

 その背後から近づいたハルヒロの一撃が炸裂、碌に抵抗もできないまま絶命する。

 

 一体を片づければ後はその勢いのまま、危うげなく敵を撃退する事ができた。

 

 「オッシャ!!」

 

 「勝ったね」

 

 「俺のおかげだな!」

 

 剣を肩に担ぎ、自慢げに胸を張るランタに女性陣の冷たい視線が突き刺さる。

 

 「何言うてんの。全部メリィちゃんのおかげやんか」

 

 「うん。格好良かった」

 

 「ご、ごめんなさい。でしゃばるような事して」

 

 賛辞するシホルとユメに顔を赤くしながらも、メリィは頭を下げた。

 

 「そんな事ない、と思う。謝る事はないんじゃないかと……」 

 

 シホルのフォローは珍しいと思いながらも、斬り殺されたコボルドの死体の前に膝をつく。

 

 「武器とかは……ボロボロ」

 

 「回収しても売れなさそうだな。でもこれなら」

 

 隣に座ったハルヒロがコボルドの鼻先を指さす。

 

 そこには鼻飾りのようなものが付けられていた。

 

 「なんだろ、これ」

 

 「それはタリスマンよ。どのコボルドも必ずタリスマンを持っているの」

 

 死者を悼む為六芒星を切りつつ傍に座ったメリィがコボルド達の事を教えてくれた。

 

 鉱山の外や一層に住むコボルド達はあぶれ者のような存在であり、身なりや所持している物も大した事はない。

 

 時に銀貨などを持っている場合もあるらしいが、大抵倒しても稼ぎにはならないらしい。

 

 狙うならレッサー以外のコボルド。

 

 特に鉱山の三層より下にいる支配階級であるエルダーコボルドはゴブリンよりも儲けになるらしい。

 

 「なるほど。じゃ、レッサー相手の時は銀貨とか持ってればいい方か」

 

 「ええ」

 

 「ならよ、さっさと行こうぜ」

 

 ランタがタリスマンを死体から強引に引きちぎると、ハルヒロはどこか辛そうに顔を逸らす。

 

 ランタは相変わらずだが、ハルヒロは―――

 

 考えている事はおおよそ分かる。

 

 ランタは特に考えていないのか死体を乱暴に扱う事にためらいがない。

 

 これは暗黒騎士故か完全に割り切っているからなのかは分からないが、とにかく遠慮がないのだ。

 

 反面ハルヒロは違う。

 

 死体であろうとも、丁寧に扱うし、物を回収する際もできるだけ傷つけない。

 

 良心の呵責のようなものを感じているのかもしれない。

 

 人によっては偽善と言う者もいるだろうが、それがハルヒロらしいと言えばらしい話だ。

 

 どちらも個人の主義だし口出しはしないが、だからこそ懸念している事がある。

 

 それは二人の相性が良くない事。

 

 日々のストレスと考えの擦れ違いは確実に二人に累積している。

 

 リーダーとしてのプレッシャーを感じているハルヒロは特にそうだろう。

 

 それが致命的な亀裂になる可能性もある。

 

 「ハァ、何とかフォローできればいいけど」

 

 ユキトは消えない不安をどうにか飲み込みながら、鉱山へ入ろうとする仲間の背中を追っていった。

 

 

 

 

 鉱山の中に足を踏み入れた瞬間、予想外の光景に足を止めてしまった。

 

 思った以上に広い空間に所々に光を発する花のようなものが点在している。

 

 夜空のようにとまではいかないが、どこか幻想的な雰囲気が出ているように感じられる。

 

 あれはヒカリバナと呼ばれるもので、鉱山内部で自生しているらしい。

 

 おかげで視界が奪われる事もなく、先に進む事ができる。

 

 それに関しては良いのだが、パーティの雰囲気はお世辞にも良いとは言えなかった。

 

 「……これ、不味いよね」

 

 パーティから一歩離れて後ろを歩いていたユキトは先ほどの不安が的中していたのを痛感していた。 

 

 「そうね。今日は無理しないほうが良いかも」

 

 いつの間にか隣に並んでいたメリィも同意してくる。

 

 パーティはユキトとメリィを除き全員がピリピリした空気を纏っていた。

 

 普段なら簡単に流せるランタの軽口に過剰に反応する程に余裕というものが見られない。

 

 ゴブリン以外との戦闘。

 

 初めて足を踏み入れた狩場。

 

 そして神出鬼没なデットスポットと呼ばれる怪物の存在。

 

 それらの緊張感が皆から普段の余裕を奪っているのだ。

 

 「それ引き換えユキは冷静ね」

 

 「そうかな? もしかするとオークとの戦闘を経験したからかもね」

 

 あの時、自分は死んでいてもおかしくなかった。

 

 いや、レンジ達が来なかったら確実に死んでいただろう。

 

 それはあの『傷持ち』と遭遇した時も同じ。

 

 そんな極限状況を味わった為か、ユキトは他の皆よりも余裕があった。

 

 「……でもハルヒロは逆だったのかもしれないな」

 

 リーダーとしてのプレッシャーに加え極限状況を味わったが故に、ハルヒロは皆の死を強く認識するようになった。 

 

 だから誰よりも余裕がない。

 

 「いい加減にしろよ! 何かまずい事が起きたら誰か死ぬかもしれないんだからさ」

 

 「わかってるっつーの!」

 

 より険悪さを増すハルヒロとランタの言い合い。

 

 流石にこれ以上は不味い。

 

 ユキトはメリィに目配せすると素早く二人の間に割り込んだ。

 

 「まあまあ、二人共落ち着いて。ここで喧嘩してもしょうがないだろ。それよりメリィ、サイリン鉱山内部の事を教えてくれないかな?」

 

 「分かった」

 

 明らかな話題逸らしだが、ユキトの意図を読み取ってくれたメリィはそれに乗ってきてくれる。

 

 サイリン鉱山は10層以上に亘る広さがあり、今いる一層の鉱脈はとっくに枯渇しているらしい。

 

 一層からさらに下層に向かうには井戸と呼ばれる縦穴を使う必要がある。

 

 三層から下にはゴンドラもあるらしいが、義勇兵は井戸を使うのが基本のようだ。

 

 「さっきも言ったけどコボルトの中には支配階級のエルダーコボルドがいるんだけど、ゴンドラを使えるのは基本エルダーだけ。普通のコボルドはエルダーの許可なしでは乗れないみたい」

 

 「エルダーってずいぶんえらそうやなぁ」

 

 「ふふ、そうね。二層からは普通のコボルド、ローワーカー達の居住区だからそこからが本番だと思って」

 

 「分かった」

 

 メリィの解説のお陰かピリピリした気配はあるものの、パーティの雰囲気は表向きいつも通りに戻っている。

 

 今回の狩りはいつも以上に大変な事になりそうだ。

 

 「何も無いに越したことはないんだけど」

 

 仲間の不安と敵に対する警戒。

 

 二つの心配事を抱えつつも、慎重に進んでいくとメリィが言っていた縦穴が姿を見せた。

 

 これが井戸と呼ばれている穴だろう。

 

 やや歪な形ではあるが縄梯子が備え付けられており、人が降りるには十分な大きさがある。

 

 「結構高さがあるね」

 

 「ああ。この下にもコボルド達が待ち構えているんだろうし―――」

 

 「ビビってんじゃねーよ」

 

 躊躇うハルヒロ達を尻目にランタは迷わず縄梯子を降りていった。

 

 こういう時のランタの思い切りの良さは長所だと思う。

 

 「僕達も行こう。迷ってたって仕方ないよ、何時かは降りないといけないんだし」

 

 「……そうだな」

 

 迷うハルヒロの背中を押すように軽く肩を叩くとユキトは梯子を使って下へと降り始めた。 

 

 二層。

 

 この層は一層とは様子が大分違う場所だった。

 

 坑道のような縦長の通路と壁に無数の穴が開いている。

 

 どうやらあの穴がコボルド達のねぐらになっているらしい。

 

 所々からいびきのような音が聞こえてくる。

 

 「これ起きたら不味くないかな?」

 

 「いつも騒がしいからコボルド達は滅多な事じゃ起きない」

 

 メリィの言葉通り、いびき以外にも喧嘩の叫び声のような奇声が遠くから聞こえてくるがコボルド達が起きてくる気配はない。

 

 「でも起きてきたりしたコボルドと遭遇する場合もあるけど」

 

 「相手が気が付く前なら眠っているコボルドのねぐらか岩陰に身を顰めれば大丈夫」

 

 大抵の場合は寝起きか、作業の所為で疲労困憊らしく、身を隠すだけでコボルド達は気が付かないそうだ。

 

 警戒していれば挟撃される可能性も大分低くなるだろう。  

 

 「ならよ、眠ってる今の内に仕留めた方が良くね?」

 

 「さっきも言ったけどここに居るコボルド達はローワーカーだから、稼ぎの割に危険の方が大きくて割に合わないと思う」

 

 眠っているコボルド達を仕留めるには狭い穴の中を進む必要がある。

 

 仕留める事が出来るなら良いが、そこで敵が目を覚ましてしまえば逃げ場がない。

 

 しかも数が多いうえに労力も掛かる。

 

 その割に稼ぎも少ないとなると、無視した方が無難であろう。

 

 「三層以降にいるエルダーは要注意。それからデッドスポットにも」

 

 メリィの仲間の仇。

 

 噂ではデットスポットは一層にも出現するという話もあるようだが、具体的な目撃例はないからあまり考える必要はないとか。

 

 しかし二層から下は別。

 

 ここから先は遭遇する可能性がグッと高くなる。

 

 「もしも遭遇したら……逃げるしかない」

 

 「……注意して進もう」

 

 盗賊であるハルヒロが周囲に気を配り、モグゾーが先頭。

 

 そこから皆が続き一番後ろにユキトが付いた。

 

 警戒しながら三層へと降りる為の井戸へ向かって歩いていると、ハルヒロが全員に止まれの合図を出した。

     

 「……居るぞ」

 

 咄嗟に岩陰に隠れながら、ゆっくりと顔を出すとそこには数匹のローワーカー達が佇んでいた。

 

 合計4匹。

 

 何か揉めているのか、激しい唸り声を上げており、丁度その先に井戸が見える。

 

 つまり先に進む為にはこいつらを倒す必要があった。   

 

 「ここは作戦を立てて慎重に」

 

 「寝ぼけんな、さっさとやっちまえばいいんだよ」

 

 「お前はまたそんな事を」

 

 再び揉めるハルヒロとランタに頭を抱えそうになる。

 

 しかしその前に二人の声に反応したのか、コボルド達がこちらに向かってきた。

 

 「二人共、揉めるのは後だ!」

 

 「うっ」

 

 「くそ」

 

 バツが悪そうに顔を逸らした二人は同時に岩陰から飛び出し、武器を構えた。 

 

 こういった所は実に息があっていると思うのだが。

 

 「それは後か。モグゾー!」

 

 「うん!」

 

 最初に飛び込んだのはモグゾー。

 

 振りかぶられたローワーカーの攻撃を体捌きと鎧の小手を上手く使い外へ向かって弾き飛ばすと、一歩大きく踏み込む。

 

 「どぅもー!」

 

 そして上段から一撃がローワーカーの持つシャベルを弾き飛ばし、さらに肩に深々傷を刻み込んだ。

 

 「凄い、モグゾー!」

 

 上手い。

 

 ユメが称賛するのも納得だ。

 

 その体格を駆使した防御のみならず、敵の攻撃を的確に捌く技術に磨きがかかっている。

 

 こうまで技術が向上している理由は間違いなく毎晩の訓練のお陰だ。

 

 もしかすると訓練の成果が一番出ているのはモグゾーかもしれない。

 

 「負けられない!」

 

 力ではモグゾーに及ばないが、速度はユキトの方がある。

 

 ユキトは前傾姿勢のまま、ローワーカーに向かって突進。

 

 速度を落とさないままショートソードを叩きつける。

 

 狙いはいつも通り首だ。

 

 力で劣るユキトは鎧の上からでは致命傷を与えづらい。

 

 故に狙うなら急所だ。

 

 ローワーカーは飛び込んできたユキトに対する反応が遅れ、守りを固めるので精一杯。

 

 ガキッという金属音が鳴り、横薙ぎに払った一撃はシャベルで受け止められてしまう。

 

 モグゾーのような力はないから押し切る事はできない。

 

 鍔競り合いのような形になるが、それで十分だ。

 

 「力が無くてもやりようはある!」

 

 剣の角度を変え、下から掬い上げるようにシャベルを弾く。

 

 上にシャベルを弾かれたローワーカーの懐はガラ空きだ。

 

 すかさず引き抜いたもう一本の剣を喉元に突き立てた。

 

 「グギャァ!」

 

 悲鳴を上げて痙攣するローワーカー。

 

 その背後から忍び寄ったハルヒロのダガーが頭蓋に突き刺し、止めを刺した。

 

 残りのローワーカーはモグゾーとユメ達によって倒され、残りは一匹。

 

 ランタが動き回る最後のローワーカーに剣を振り続けている。

 

 「こいつは俺が倒す! お前ら手を出すんじゃねぇ! オラァァ!」

 

 愛剣であるロングソードを振り回し逃げる敵に攻撃を繰り出し続ける、ランタ。

 

 あそこまで攻撃が当たらないなら、一度仕切り直した方が良いと思うのだが。

 

 他の皆はと言えば呆れた様子でランタの戦いを見ている。

 

 その雰囲気は過去最悪なものかもしれない。

 

 「……ハァ」

 

 この先の狩りに不安が募る。

 

 しかしすぐにどうにか出来る訳もなく、ランタの怒声を聞きながらユキトはため息をついた。

 


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