第1話 メルヴェイユの物語師
アダレット王国、王都メルヴェイユ。そこのある一軒家に僕は住んでいた。
「ふぅ……」
一息入れようとした瞬間、外からものすごい音が響いてきた。
「あいつら……またやったのか?」
僕は立ち上がり、外へ出た。
隣の家から煙が出ていた。普通だったら火事かと思うところだけど、僕はため息を付きながら、隣の家に入った。
「また失敗したのか?」
ピンク色の髪の双子の少女……僕の幼馴染で、錬金術師のリディーとスールの二人が慌てていた。
「コハクくん、ごめん」
「というかじっと見てないで何とかして!?」
スールに言われるまま、僕は双子と一緒に窓を開けるのであった。
煙が晴れると家中めちゃくちゃになっていた。何というかよくとまぁここまでめちゃくちゃになるな……
「ありがとうね。コハクくん」
「にしてもすぐに来てくれるなんてさすがは婚約者だね~」
リディーは素直にお礼を言うけど、頼むからスール、その婚約者っていうのは止めてくれ。
「スール、昔の話を持ち出すなよ。あれは子供の遊びみたいなもんだろ」
「遊びじゃないよ。ちゃんと婚約届も持ってるからね」
スールはポケットから取り出した一枚の紙、子供のような字で僕の名前と双子の名前が書かれていた。
「……いつまでそんなのを持ってるんだよ……」
「えぇ~いいじゃん。ねぇリディー」
「あ、あはは……」
子供の頃の約束をずっと忘れないでいるのは凄いけど……これだと結婚したら奥さんが二人いることになるけど……
「スーちゃん、今は掃除しちゃおう」
「あぁそうだった……って箒が……」
スールは床に転がっている箒を見て、ショックを受けていた。さっきの爆発で箒が壊れたのか……
「箒が……」
「リディー、お金あったっけ?」
「今日の食費もままならないのに……」
落ち込む二人。何というか貧乏っていうのは本当に可哀想だな……仕方ない。
僕は一本の筆を取り出した。そして何もない所に箒の絵を描いた。するとまばゆい光と共に新品の箒が現れた。
「これでいいか?」
「さすがはコハク!描いてくれたんだね」
「でもいいの?簡単に使っちゃダメだって言われてるんだよね」
「二人が困ってるんだから大丈夫だよ。それに描いたらダメなのは生き物とか食べ物だけだから……」
僕の持つ筆、四方の筆。何もない所に絵を書くとそれが実際に出現させることができる。
基本的には何でも描けるけど、もらったおじさんから禁止されていることが2つあった。それは生きているものを描くこと、食べるものを描くことはまだやってはいけないということを……
「コハクくん、いつになったら描いていいって言われてるの?」
「ん?確か……筆と錬金術で作られた特別な武器を手に入れたらって言われてるけど……」
その武器はどんなものかわからないからな……
「とりあえずふたりとも、掃除をしようか」
「「はーい」」
僕らは掃除を始めることにするのであった。