ディンの人形は叡智の門のそばに埋め、僕の手には破壊された本だけが残された。
ソフィーやプラフタはルアードの居場所を探している中、僕は家にこもっていた。
「…………」
何をする気もなく、ただ呆然としていることしかできなかった。
これが喪失感なのかな?
「僕は……どうすればいいのかな?」
僕以外、誰もいないから返事は返ってこない。
「僕はお前の仇を取りに行けばいいのか?お前はそれを望んでるのか?」
誰も答えてくれない。
僕は目を閉じ、眠りについた。
このまま目覚めなければどれだけいいのか……
こんな思いをするのであれば、もう目覚めたくない。
そんなことを思った瞬間、誰かの声が聞こえた。
『……きて』
誰だ?僕を呼ぶのは?
『お………て』
一体誰が呼んでいるんだ?
『起きて………アラヤ』
一体誰なのか思い、目を開けるとそこには………
「おはよう。アラヤ」
「………ソフィー?」
ソフィーが何でこんな所に……
「お前、何で?」
「ずっと家から出てこなかったから心配で……本当はみんなで行けばよかったんだけど、何だか皆、私が行ったほうがいいって言われたんだけど?」
多分色々と気を使ってくれたんだな
だけど、正直今はソフィーに合わせる顔がない。
「悪いけど……今は帰ってほしい」
「……アラヤ」
「頼む。もう僕は何をしたらいいのかわからない」
ディンの後を継いで物語を書いていいのか?
ディンの敵を討ちに行ったほうがいいのか?
僕はどうすればいいのかわからない
「………アラヤ」
そんな時、ソフィーが僕のことを引っ叩いた。
「ソフィー?」
頬には鈍い痛みを感じた。
僕はソフィーのことを見ると、ソフィーは泣いていた。
「アラヤのそんな所もう見たくないよ。分からなくなったからって、ただ家の中で篭ってることしか出来ないなんて……アラヤらしくないよ………」
「ソフィー……」
「アラヤはいつだって行動して答えを出したじゃない。なのに……なのに」
そうだった。
僕はいつだってそうだったんだ。
僕はそっとソフィーの事を抱きしめた。
「ありがとう。気が付かせてくれて……」
「えへへ、元のアラヤに戻ったのかな?でも、アラヤ……恥ずかしい」
「………あのさソフィー、このままで悪いんだけど……聞いてほしいことがあるんだ」
「な、なに?」
「僕は………ソフィーのことが……」
思いを伝えようとした瞬間、僕の部屋の扉が勢い良く開かれた。
「ソフィー、ようやくおもい……あっ」
プラフタが僕らの姿を見て、やってしまったと顔をしていた。
僕とソフィーは咄嗟に離れた。
「そのごめんなさい」
「い、いや……」
「あ、あはは、それでプラフタ。何を思い出したの?」
「そうでしたね。それにアラヤも元気になったみたいですから……順序を追ってお話しましょう」
プラフタはあのあと起きたことを話した。
あの後街……というよりかは世界に徐々に異変が起きたみたいだ。
魔物の行動が活発になったり、作物が実らなくなったり……
まるであの世界みたいな感じだ。
もしかして……
「プラフタ。これって……」
「貴方の思っているとおりです。あの世界で起きていた現象『黄昏』は、こちらの世界でいうなれば『根絶の錬金術』です」
「根絶の錬金術………」
「あちらとこちらは本当に似た世界ですね」
本当に色々と繋がり始めたな。
もしかしたらプラフタが生きていた時代から世界が別れたのかな?
プラフタの話では、根絶の錬金術を行ったルアードを止めた未来が僕らの世界。
ルアードを止められず、世界が一度滅んだのがあの世界。
何だか突拍子もない話だけど……
そしてプラフタは更に話を続けた。
そんな中、ソフィーの説得でプラフタとルアードを仲直りさせるための思い出の道具栄養剤のレシピを思い出した。
「思い出の品か………でもソフィー、それで本当に何とか出来るのか?もしも失敗したら」
「………それでも可能性があるならやってみる価値があるはずだよ。ねぇ、プラフタ」
「はい、私はソフィーの事を信じます」
「………そっか、それだったら僕もソフィーのことを信じる。あとは僕がやるべきことは……」
とりあえずはディンが望んでいるのは、敵討ちではないな
きっとディンのことだ。
ルアードを止めようとしているはずだ。
「それにアレを悪用させないようにしないと……」
そのために僕はディンが残してくれた本ともう一つ
「こいつを自分に使いやすくしないと……」
僕はソフィーと別れ、作業に取り掛かるのであった。