Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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ORCAルート
真の強者


ピピピッ

 

 

「!!………?」

深く深く落ちていくような眠りの世界にいたはずだった。

夢さえも見ることは無かった。

何をこの世界に忘れ自分は何のために目覚めたのだろう。

 

「………」

起きれない。痛みがどうのというよりも身体自体が起きるという行動を拒否しているかのようだ。

 

「……?」

辺りを見回すが殆どが闇に包まれており自分の眼が本当に開いているのかどうか怪しくなり眼をこする。

どうやら手と首は動くらしい。

 

「……」

電子音で目が覚めた気がするのだが…そういえばさっきの電子音は自分の部屋に置いてある目覚ましとは違う音だった。

身体を横たえているベッドの右側へと目をやると薄い黄色に輝く光点を見つける。

 

「…ッ、…」

光へと手を伸ばすと体中が悲鳴を上げたが何とか届いた。

何やら四角い板のようなものの一部が光っているらしい。

 

「……??…!」

暫くまな板程の大きさのそれを触ってみたり小突いてみたりしてようやくその正体が分かった。

ラップトップだ。セレンが家以外でも仕事をする必要があるときに持ち歩いていた物だ。

 

「……」

先ほどの電子音は恐らくメールだろう。

光点がある方を表にし、自分の方へ向けて、一見ただの金属の板のそれのいくつかの場所を一定のリズムでタップすると、空間に画面が浮かび上がり、金属の板にキーボードと同様の配列の光が薄い青色で浮かび上がってきた。

機密事項の塊のそれは当然ロックがされていたが、ことガロアに関しては隠す必要も無かったのでセレンは何度かガロアの前でロック解除をしており、ガロアもたまたまそれを覚えていた。

 

「……?」

やはりメールが来ていた。

だが差出人不明とはどういうことだ。

こう言ってしまえば残酷だがセレンも自分も悲しくなってくるほど交友関係が狭く、突然メールを送ってくるような存在はちょっと想像できない。

スパムの類だろうか。とりあえず開いてみる。これで本当にスパムでラップトップにバグでも起きたらセレンにどやされそうだが…。

 

『初見となる。こちらマクシミリアン・テルミドールだ』

 

「……」

突然のボイスと共に再生された大げさな映像にやっぱりスパムだったと思い閉じようとする。

 

『念願の復讐を果たした気分はどうだろうか?そして六月六日は君の誕生日だろう。まずはおめでとうと言っておこうか』

 

「!?」

スパムじゃない!

芝居かかった男の声が告げたその言葉に思わず固まりラップトップを落としそうになる。

誰にも話したことの無い誕生日を何故この男が知っているのか。

いや、それよりも自分は一体どれだけ寝ていたというのか。

 

『まぁそれはいい。終わった後に消してもよし、カラードに報告してもよし。とりあえず最後まで聞いてほしい』

 

「……」

急に跳ね上がった心臓に胸が痛くなり顔を歪めるが努めて呼吸を平常にし耳を傾ける。

 

『一部の者はクレイドルに逃れ、清浄な空に暮らし、一部の者は地上に残され、汚染された大地に暮らす。

クレイドルを維持するために、大地の汚染は更に深刻化し。それは、清浄な空をすら侵食しはじめている』

 

「……」

そんなことは知っているが正直なところどうでもいい。

今、差別が分かりやすい形になっているだけでこれまでだって世界はずっとそういうものだったじゃないか。

 

『クレイドルは、矛盾を抱えた延命装置にすぎない。このままでは、人は活力を失い、諦観の内に壊死するだろう。これは扇動だが、同時に事実だ』

 

「……」

そんなことよりも憎いアナトリアの傭兵を殺し生き残った今、どうやって自分の正しさを示すかが大事だ。

やっぱ消しておくか。

 

『ガロア・A・ヴェデット。君は紛うことなき強者。だが、強者となりその汚れた手で弱者を救うという行為は矛盾になるとは思わないか』

 

「!」

 

『君に全ての弱者を救えるか?君が殺した者の肉親は貴様を憎んでいるだろう。それをも救えるか?無理だろう。他でもない君に奪われたのに救われるなどという喜劇を怨嗟を上げる弱者が認められるはずがない』

 

「……」

核心だった。あと一秒その言葉が遅ければ消していたメールから核心を突く声がする。

 

『矛盾なき強者とは全てに平等である者のことだ。このまま企業の傀儡を続ければ君はいずれ矛盾に飲まれて死ぬ』

 

「……」

 

『全ての人間を大地に降ろす。GAのアルテリア施設、ウルナに侵入し、全てのアルテリアを破壊してほしい。だが、指をくわえて見ているのもいいだろう。

あるいは我々と敵対するのも構わない。この行為は全ての人類、我々も含む全ての人間を戦いの場に降ろすということだ。

それでも祀り上げられた強者ではなく真の強者でありたいのならば我らとともに来てもらおう。示してみろ。君がこの世の何よりも強く、正しいという事を』

 

「……」

ボイスはそこで終わっていた。

どうやって自分の正しさを示すか。

それを他人に理解してもらう必要は無い。

ただ誰にとっても平等な存在であればいい、それだけだった。

アナトリアの傭兵に抱いていた怒りの根源、矛盾。

今の自分ならそれらを全て振り切ってしまえるのか。

 

その時病室にドササッという妙な音が響いた。

 

「うわっ!お前いつ起きた!?ダメだダメだ!まだ寝てなくては!置け!そんなもの……あれ?」

ここ一週間、ずっとこの病室で過ごしてたセレンは丁度先ほど飲料が尽きてしまったので自販機まで10本ほど買いに席を外していたのだが、

その僅か五分程の間にガロアが目を覚ましラップトップを弄っていることに驚き全てのボトルを落としてしまった。

そして何よりも驚いたのが、きっと起き上がったガロアは生きる目的を失い空虚な顔をしているだろうと予想していたのに、まるで初ミッションに赴く前夜のような意志に溢れる眼をしていたことだった。

 

 

 

 

 

 

ORCA旅団の所有する基地の一つ。

今ここにはガロア・A・ヴェデットのオペレータであるセレン・ヘイズが来ているはずだった。

やや暗い照明の廊下をテルミドールはメルツェルと並んで歩く。

 

「テルミドール。一つ不思議なんだが」

 

「なんだ?」

旅団長のテルミドールに気安く声をかける者は変わり者の多いORCA旅団の中でも少ない。

団長だから、威圧感があるからという事ではない。

日によって熱っぽい扇動家のようであれば、唐突に冷めた言葉を吐き出す諦観者でもあり、かと思えばロマンチックなことを嘯きだす。

言わば途轍もなく気難しい人であり普通に付き合うには大いに問題がある人物なのだ。

故に気安く声をかける人物は多くない。

 

「何故ガロア・A・ヴェデットの誕生日を知っていたのだ?カラードにそんなものを登録する規則はあったか?」

 

「分からん」

歩きながら首をかしげ、大げさに手を横に広げる。

どうやら今日のテルミドールは機嫌がいいようだ。

 

「…どういうことだ?」

 

「いや、分からん。ただ、私には確信があった。奴の生まれた日は六月六日だ」

 

「……」

何を言っているのかメルツェルにはさっぱり分からない。勘なのかどうなのか、それにしても当たっていたというのだから恐ろしい。

 

「誰がセレン・ヘイズをここまで連れてきた?」

 

「銀翁だ」

私が案内人になろう、と言いながらぽんと腹太鼓を叩き笑っていたあの顔は面白い物でも見に行くかとでも言わんばかりだった。

 

「あまりからかい過ぎてなければいいが」

 

「さて、どうだろうな」

 

 

 

そのほんの少し前。

ガロアがネクストに乗り発進すると同時にカラードを出て迎えに来た人物に連れられてきた建物の中でセレンは口を開いた。

 

「ガロアは無事なんだろうな」

 

「ほっほ。まぁ簡単なテストだからな。ようはカラードに敵対する覚悟があるかどうか、それだけ見れればよかったのだよ。ほれ、もう任務完了の報が入っとる。

なかなかやりおるな。一発の弾も使わず、攻撃も喰らっていないそうだ」

 

「ふん…当然だ。ところで…」

 

「…む?」

目の前でずっと顰め面をしているセレンを見ているのが楽しくて仕方ないとばかりに先ほどからずっと口角を上げているネオニダスにセレンはドスの利いた声をあげる。

 

「大分老けた上に、かなり太っていたから気が付かなかったが…お前、テペス=Vだな?前時代の企業のリンクスがこんなところで何をやっている?」

 

「…お前さんは霞スミカと全く似ておらんの。まさしく生き写しだというのに。クローンでも性格までは似んか」

テルミドールの懸念はばっちり当たっておりネオニダスはセレンをからかいだす。

 

「私は私だ。クローン人間は自分を生きる権利すらないと?」

クローンという事を何故知っているのかとも思ったがこの年まで生きたリンクスだ、色々知っていることもあるのだろうとセレンは勝手に納得する。

 

「……。いいや、そんなことは思ってはおらんよ。ORCAでそんなことを思ってる輩はおらん」

額に青筋を浮かべるセレンはネオニダスの知る柔らかい笑みを浮かべる霞スミカと全く正反対で、本当に面白い物を見てしまった、と吹き出すのをこらえた後に言葉を続ける。

 

「…どういうことだ?」

 

「もうすぐ私らのリーダーが来る。その時わかるぞ」

と言うと同時に扉がガラリと開く。

 

「ORCA旅団副団長のメルツェルだ。よろしく頼む、ガロア・A・ヴェデットのオペレーター」

 

「ん…?」

差し出された右手を無視し後ろに立つ白髪の男に目をやる。

 

「団長のマクシミリアン・テルミドールだ。まさかオペレーターもついてくるとはな。その分は働いてもらう」

 

「ん!?お前…」

自分がまだ10代だった頃、覚えさせられたリンクスの名前とレオーネメカニカが所持していた顔写真。

全てのリンクスの結末も知っている。…あくまでレオーネメカニカが集めた情報なのでそれが正しいとは限らないが。

 

「……」

 

「ベルリオーズ…か?生きていたのか?老け…いや若く…あ…?」

小さな黒目には一切の油断なく、眉間の深い皺に固く引き結ばれた口。

少々小さめの鼻の横にある目の下にもまた隈の混じった皺がありその顔は忘れようもなく昔見たベルリオーズの顔だった。

だが記憶の中の顔よりは幾分か若い顔立ちであり、それなのに本来の年に相応しくない白髪で染まった髪は実際の年齢を煙に巻いている。

取り乱すセレンの姿をメルツェルもネオニダスもただ黙ってみている。

 

「……分からぬか?」

 

「まさか…お前も…」

 

「そうだ。私もリンクスのクローンだ」

 

「だから…テルミドールか」

テルミドールとベルリオーズ。

二つの名前はただ子音を変えただけの言葉遊びのような名前であり、レイレナードの残党中心のORCA旅団の団長がその名を名乗れば知る者はすぐ気が付くだろう。

 

「そうだ。気が付く者は震えればいい。企業の勝手な理由で私は作り上げられ弄ばれてきた」

 

「…大義からの行動ではなかったのか」

 

「大義だけを語り人の上に立とうとする人間なんて気持ちが悪いだろう?我々は人間だ。感情の乗らない事に生きていくという悲劇は避けるべきだ」

そう冷静に語るメルツェルのほうがどうして団長ではないのか、とセレンは少しだけ疑問に思う。

 

「いいや。大義はある。だが、理由を問われれば私怨だ。しかし…」

 

「……?」

と言った瞬間にガロアが部屋に入ってきた。

顔以外の見えるはずの肌全てが包帯に覆われており、ガロアの選択はなるべく尊重したいセレンだがその姿を見ただけでもう今回こんな事を始めるということに反対だった。

 

「来たか。クローズプランの説明をする。一度しか説明しないからよく聞け」

 

(…機嫌が悪くなったな、テルミドール)

 

「ガロアを休ませてやりたいから早くしてくれ」

 

「空に浮かぶ無数の自律兵器を覚えているな?」

 

「!」

 

「待て、貴様何故それを知っている」

セレンの利き腕がぴくっと動くのをガロアはあえて止めない。

危く死ぬところだったあのミッション。理由が理由ならぶっ飛ばしてもおつりが来るはずだ。

 

「私があの作戦を指揮したからな」

 

「哈ッ!!」

眼鏡をくいっと上げるメルツェルの前歯ごと吹き飛ばさんばかりの勢いで人中に向かって真っ直ぐ放たれたセレンの順突きはネオニダスがその肩を引いたことによって宙を切った。

 

「…私に…触るな!」

 

「まあまあ…人生塞翁が馬、知らぬが仏と言うだろう?結局縁あってここにいるではないか」

 

「これで最後だ。私に触るな。その手首、いらないのか」

あ、これはヤバいな、と思いセレンを諌めようとガロアが動こうとしたときネオニダスがまた油を注ぐような発言をする。

 

「…やれやれ。全くもってお前さんは霞に似とらんのう。同じように生きろとは言わんが少しは短気を直す為にも見習ったらどうだ?」

 

「……!」

確認できるだけでも三つの血管を顔に浮かび上がらせたセレンはその手首の関節を外そうと手を伸ばしたが、狭い部屋を凄まじい怒気が埋め尽くしていくのを感じた。

それと同時に狭い部屋に凄まじい轟音が響き渡った。ガロアが壁に拳を叩き込み大穴を空けた音だった。

 

「……」

その怒りの理由をガロアは上手く言葉には出来ないだろうし、しようとすることも無い。

最初こそ霞スミカに似ている(実際はDNAレベルで同じだったわけだが)という、ただそれだけでセレンについていったガロアだったが、今では彼の中でセレンはセレン、霞は霞と明確に分かたれており、

口にはせずともセレンを唯一無二の存在、自分の師として尊敬し敬愛していた。だが、ガロアがそれを自覚しておらず、セレンに伝えたことが無いのはある種の悲劇でもある。

それでも今の言葉はセレンのアイデンティティの問題に深く踏み込んだ発言だと理解し、拳を握っていた。

 

つまるところセレンが傷つくようなことを言われればガロアが怒る様になっていたし、ガロアが傷つけばセレンが怒る様になっていたのだ。

まるでタチの悪いびっくり箱である。

ここ三年でそんな事は全くなかったのでガロア本人が気が付いていなくても仕方ないが。

 

「なるほど…」

大音量の音楽の低温が腹に響くような圧力を感じ一歩引くネオニダス。

テルミドールもメルツェルも一見平静だが、本当に平然としているのはテルミドールだけであり、メルツェルは細かく震える指でずれた眼鏡を直そうとしてぺとりとレンズに指紋が付いた。

 

「…もういい、ガロア。さっさと話を続けてくれ」

邪魔な包帯を引き千切りずんずんと前に進むガロアを止めるセレン。もう数秒遅ければネオニダスは出荷前の肉のように解体されていただろう。

 

「あれが世界中の空を覆っている。人類は宇宙に行けない」

 

「……」

 

「誰がそんな…いや、当然企業か。待て…それなら」

 

「察しがいいな。国家解体戦争の理由はその事実の秘匿だ。そんな理由でも武力があれば出来てしまうのだ。つくづくこの世界は強い者に左右されるようになっているらしい」

 

「……」

僅かに語気を強めたその言葉を耳にしてテルミドールに眼をやると彼もこちらを見ていた。

 

「エーレンベルクを知っているな?」

 

「GAの観測衛星の破壊を防ぐ為に破壊された衛星軌道掃射砲だろう」

 

「それは嘘だ。あんなものが浮かんでいて観測衛星が浮かんでいられるはずがない。レイレナードとアクアビットの意志に気が付いた他の企業全てが叩き潰しに来ただけだ」

 

「意志?」

 

「地球を覆う自律兵器…アサルト・セルを全て焼き払い人類の宇宙への道を開く意志だ。無論、あのような巨大な兵器が光を上げれば世界中から詰問されるだろう。その時明かすつもりだったのだ。

レイレナードとアクアビットは企業の罪をな。当然この二つの企業にも罪はあったがそれでも前へ進もうという意志はあった」

 

「……」

 

「現在クレイドルには下を監視するためのカメラの類は一切取り付けられていない。何故だかわかるか」

 

「けん制か…。下らんな。いや、自分達の罪も認められない駄々をこねる稚児のような企業が残ったと考えれば妥当か」

 

「その通りだ。見られていては堪らないような事をどの企業もこの地球でやっているのだろう。…まぁお蔭で我々も堂々と行動できているがな」

 

「……」

 

「衛星軌道掃射砲の基地を全世界に7つ所有している。このまま発射してもアサルト・セルをクレイドルごと焼き払えるが、宇宙への道を開いたとしても人がいなくては意味がないからな。それに衛星軌道掃射砲にはコジマエネルギー由来の莫大なエネルギーが必要だ。その為にもクレイドルには地上に降りてきてもらう」

 

「待て。他の兵器でアサルト・セルは消せないのか。それに自分達が苦しんでいる現況のクレイドルの住民がのうのうと降りてきてみろ。まず殺し合いになるぞ」

 

「ダメだ。完膚なきまでに消滅させないとデブリになる。殺し合いになる?知ったことではない」

 

「……」

 

「なに?本気か?貴様」

 

「セレン・ヘイズ。お前のその怒りの根源はどこだ?こんなことになる前から一部の人々は全てを吸い上げられ一部の人々が贅を尽くしていただろう。誰かがそれを本気で怒り変えようとしたか?

したとして変わったか?植えつけられた価値観で物事を語るな。人は残酷で、生き物は殺さなければ生きられず、強い生き物にのみ生きる権利があり、人類全体に罪があるだろう?

それにそうなったとしてもお前たちは生き残るだろう?強い生き物なのだからな。…どうやらガロア・A・ヴェデットの方はわかっているようだぞ」

 

「…ガロア」

 

「……」

その眼は普段と変わらず灰色で何の感情も表していない。

幼くして父を亡くして一人で生きてきたガロアの倫理観は無に等しくある意味で何も植えつけられていない一番純粋な人間の姿であるとも言えた。即ち無関心。人は他人の生死に興味を持たない。

自分の世界が変わらないのならばそれでいいというのが大半の人としての在り方だ。

人が死ぬという事に対する義憤は植えつけられた倫理からのものでしかなく、それを除けば人は、生き物は自分が生き残ればそれでよいのだ。

 

「…話を続けてくれ」

 

「大筋は以上だ。出来るならば全ての衛星軌道掃射砲は守りたいが、一基でも残っていればそれでいい。

最後にアルテリア・クラニアムを制圧し、私の生体情報を使い、中に入りクレイドルを降ろす。以上だ。…ガロア・A・ヴェデット。長々と話したが細かいことは関係ない。

目の前に立つ全てを叩き潰せ。ただお前が最強でありつづければそれで全てが平等な状態に戻される」

 

「……」

ピリピリと首筋を刺すような空気が流れる。

思わず目を背けそうになった時セレンは違和感を覚えた

 

(…この空気…どこかで…)

 

「一つ忠告しておく。互いになれ合わない方がいい。直接会うのも精々あと一回か二回だろう」

壁にもたれていたメルツェルが口を開く。

 

「何故?」

 

「この作戦でほとんどのメンバーは死ぬだろう。腐敗していても企業はやはりこの世界の支配者だ。そう甘くは無い」

 

「…貴様はそれでいいのか?テペス」

 

「私は先が短いからな。死ぬにしても意味があった方がいい」

 

(嘘だな)

目を左上に逸らしながら答えるネオニダスの言葉に直感的に嘘を感じる。

 

「貴様らはそれでいいのか?達観するほど年を取っているようには見えんぞ」

 

「…話はここまでだ。このビルはお前たちの好きに使え。ネクスト格納庫の方には必要な人員がいる。食料も飲料も十分にある。どうせ誰も使っていない、空に逃げた人類から捨てられた建物だからな」

背を向け口早に言い切るとテルミドールはさっさと出て行ってしまいメルツェルもそれに続いた。

椅子に腰かけていたネオニダスもよっこらせ、と立ち上がり出ていこうとする。

 

「待て。あの二人は何故自分の人生を生きずに死のうとする?私は…それでも自分の道を見つけて…その…結構、なんだかんだ恵まれていると思う」

 

「…お前さんが出会ったのがそこの少年であったように、テルミドールが出会ったのがメルツェルだからだ。これ以上はもはやワシの口からは語り切れないし、想像も及ばない程企業の闇は深い。

…先ほどはすまんかったな。お前さんはお前さんでいいんだろうよ。大事にしろよ、そのリンクス」

膨れた身体をのしのしと音を立てながら行ってしまうネオニダス。

結局、誰一人として本心らしきものは明かすことは無かったように思える。

 

結局狭い部屋と広いビルに二人だけで放り出されてしまった。

もともと孤独な戦いをしてはいたが本当に二人ぼっちになってしまった、あの世界にはもう戻れないと思うと胸が僅かに痛むがガロアと離れる方がもっと嫌だったから今となってはどうでもいい。

 

家から出るときに持ってきたトランクを開きガロアに着替えを投げる。

着替えと必要な電子機器以外、そして花以外は全て置いてきてしまったしもう取りに戻ることは出来ない。

トランクを開く音も閉める音も狭い部屋にやけに大きく響いた。

 

「分かっているな?自分が何をしているか。お前は強い、それは間違いない。だがその強さを最後まで通せるか」

ただ強くあることそれが如何に困難な道なのか。

強さとは自分の道を迷いなく進めること、そこに障害あらば取り除けること。

今までもそうしてきたのだからこれからも出来ると思っているのだろうか。

 

「……?」

着替えを腕にかけながら何を言っているのかわからないと表情で返される。

 

「もうここまで来たんだ。いずれ分かるさ。とりあえず今日はもう休もう」

卑劣な敵も強敵もその手で叩き伏せると思っているのだろう。

だが、きっとそれでは済まない。カラードを、今まで自分がいた場所を敵に回すという事がどういうことか。

この作戦が佳境に入れば嫌でも分かるだろう。

 

 

 

 

ガロアがのんびりと着替えているころ、ローゼンタールの所有する基地にて一つの戦闘が終わった。

 

『チ…ゴキブリが…手間取らせやがって…』

 

(……う…やりすぎだろう……)

世界に宣戦布告したORCA旅団の一員であると思われる赤銅色のネクスト、

カニスとダリオ・エンピオは鎧土竜の撃破に向かったが、散々暴れまわり基地に甚大な被害を齎した上に最後はコアごと砕け散り結局被害以外には何も残らなかった。

恐らくは引きずり出して情報を絞り出すまでがローゼンタールの目的だったのだろうが『基地防衛』というミッションだったのにこうなっては報奨金が支払われるかも怪しい。

 

『何も残さねえで死にやがって…カスが…』

 

(だから上のランクには行きたくねぇんだ…)

だが、どちらかというとじわじわと苦しめる様に追いつめていたトラセンドに問題があったように思える。

今もぶつぶつと呪詛を漏らしながら倒れた鎧土竜にブレードをザクザクと突き立てている。

そうしたい気持ちも分かるが死体蹴りを延々と続けるダリオにカニスは心底引いてしまっている。

 

『敵機接近。GAからの刺客と思われます』

 

『あ?』

 

「何だって?」

確かに、今のうちに火事場泥棒のようにこの基地を潰して多少なりともダメージを負ったネクスト二機を倒せればGAにとって大きな利が生まれるだろう。

だがカニスとしてはすっかり気勢が削がれておりもう帰ってシャワーでも浴びて帰りたいところだ。

 

『敵ネクストの…』

 

『ランクは?』

 

「…?」

 

『え?』

 

『ランクはって聞いてんだよ。耳ついてんのかクソアマ』

 

『…ランク23です』

 

(…誰だっけ)

 

『またゴミか…下らねえ…おい、お前。……カニス!』

 

「え?」

 

『行け。片づけてこい。ガキの使いじゃねぇんだ。ランク23如き一人で出来るだろ?』

 

「わ、わかったから…」

いつの間にか目の前に立っていて、ブレードをコアを焦がすような距離で突きつけてくるトラセンドに諸手を上げながら言葉を返す。

 

『負けても殺す。勝っても無様なら殺す。イラつかせたら殺す。さっさと行け』

 

「う…あ、ああ」

トラセンドから目を離さずに後ろに下がり東へと向かう。

奴から目を離したら後ろから撃たれるような気がしてならず、何度もスクラップになった基地の兵器にぶつかりながらようやく視界から外れた。

 

「ふう…でもランク23か…」

自分より一つ下のリンクス。

たしかタンクを使う女だったはずだ。大分前にオーダーマッチで勝利しているし、共同でミッションに当たったこともある。

多少ダメージを負っているとはいえ問題なく勝てるだろう。

 

「…あれ?」

東から来ているとの情報に従い飛んできたがどうにも変だ。

倒れているノーマルや破壊されてる自動砲台にはどう見てもブレードに斬られたとしか思えない痕が残っている。

 

「まさか…」

ブレード使いで絶対に当たりたくないと思っていたのはランク12のルーラーとランク17のアレフ・ゼロだけであり、片やカラードを裏切り、もう片方はローゼンタールには表向きは敵対していない。

だとするとこれはなんだ?

 

『カニス…』

 

「お前…!?」

巨大な砲台の陰から出てきたその機体は、このカラーリングはセンス無さすぎ、と笑いながら何度も言ってはその度にこの配色が最高なの!

と返されてきたダン・モロのネクスト、セレブリティ・アッシュだった。

 

『ダリオって奴はこの先だろ?どいてくれ…』

 

「ちょっと待て…何言ってんだ…?訳がわからねえよ、ダン」

訳が分からないと言いながらも解はもう出ている。

ランクを上げてここまで来たのだろう。こいつの機体にはブレードが付いている。

 

『俺が…俺がランク23だ!どいてくれカニス!!お前はターゲットじゃない。ミッションと嘯いて逸脱行為を繰り返すダリオ・エンピオの抹殺が俺のミッションだ』

つまり、一山いくらの独立傭兵の自分の生死は関係ないのだ。

もちろんそれはダンにも言える。自分もダンもただの捨石か。

 

「…ダリオが…?」

思い浮かぶのはじわじわと相手を嬲りその死体まで穢していくトラセンドの姿。

ぶるぶるっと身体の芯から身震いをする。

あんなのにかかって行ったらどうなるかは想像に難くない。

 

「ダメだ、行かせられねえ」

 

『いつまでも俺に勝てると思っているのか!?お前にだってもう勝てる!!』

 

「馬鹿野郎!俺に勝てても奴に勝てるのか!?俺よりもずっと…強いんだぞあのクソ野郎は!」

 

『なぁ…カニス。なんで到底勝てなそうな相手にも向かっていけるんだろうな?なんで散歩にでも行くみたいに企業に弓引けるんだろうな?かっこよすぎるよな…』

 

「ガロアか…!もうあいつを追うなって言っただろ!違う生き物なんだよ奴は!!見てる世界が違うんだろうが!!さっさと帰れ!!」

ダンはブレードを積んでいてもそのヘタレっぷりにより切り込める距離に踏み込むことが無かった。

だと言うのに周りにある残骸は明らかにブレード主体の戦い方だ。あの人外の怪物と同じように。

 

『い、嫌だ!ここで逃げたらもうあの子達に顔向けできねえ!!』

 

「なんでこんなミッションを受けたんだ!!本当に行く気か!?」

 

『もう名誉も正義もいらねぇ…!それでも戦う!!』

 

「死んでもか」

ネクストの脚がぶるぶると震えているように見える。

きっとあのコアの中では小便漏らしそうな程びびっているのだろう。

だと言うのに何故退かないのか。

 

『押しとおる…!』

 

「行かせねえ…!」

 

 

 

 

そんな二機のネクストが激突しているなんてつゆ知らず、セレンとガロアはビルの中を見て回っていた。

 

「ここは…アルドラの子会社だったのかな、元々は」

 

「……」

地上十二階建のビルだが、

二階までは砂で埋まっており、一見廃墟だが全ての電気も点くし、所々で清掃用のロボットが主人のいないビルの掃除をしながら動き回っている。

 

「…どこに食料があるのかも言わなかったな、あいつら」

色々な区画を見て回るが、営業部だ企画部だと腹の足しになりそうなものは無い。

見る限りではまだこのビルは無人になってから一年も経っていないのだろう。

クレイドル体制になった後も、空に上がる権利がありながら地上にいた人はそれなりの数がいて、その中の一つが企業に携わる人々だった。

現在カラード管轄街や企業管轄街に生きている人々もそれに分類される。

汚染がじわじわ広がりとうとうビルを捨て空に逃げたか、別の街へと非難したか。

まだそんなに時間がたっていないと言うのに風にさらされて二階まで砂に埋まってしまっているこの現状を鑑みるに社員が転がるように逃げていったのは想像しやすい。

今はまだ風に乗って砂が飛んでくる程度だがその内ここも完全な汚染に曝されるだろう。

 

「ん?」

肩を指でちょいちょいとつつかれ振り向くとガロアがケータイに何か文字を書いて出していた。

基本的に自分から話しかけ、首を動かすだけでコミュニケーションを取るガロアが自分から何かを伝えようとする事は実は珍しい。

 

『テルミドールはオッツダルヴァだった』

推理小説のネタバレのように簡潔に衝撃の一文がそこにはかかれていた。

 

「え?なぜ?」

 

「……?」

問いても首をかしげるばかり。

 

「理由は無い?何となく?どういうことだ?」

しかし、先ほどのテルミドールとガロアの間に生まれていた刺すような空気には覚えがあった。

ホワイトグリント撃破の前にオッツダルヴァの部屋に呼ばれた時のそれとそっくりだったのだ。

だが顔も違うし、口調も違う。

辻褄が合っているところは合っているが合っていない所はとことん合っていない。

何言ってんだか、と思っているとガロアが隣からいなくなった。

 

「あ、おい。そんなところに何の用があるんだ」

ガロアが唐突に扉を開けて入っていったのは医務室。

まだ身体が痛むのだろうか。だとしたらこの場所は覚えておかなければならない。

 

「……」

 

「あ、なるほどな…」

AEDの横にはいくつものランプのついた地図が貼られていた。

多少のけが人ならばここに来るだろうが、突然の心臓麻痺や一刻も争う大けがをした物が出てしまった時に直ぐにその場に駆けつけなければならない。

おそらくはけが人が出た場所にランプが光り見てすぐに分かるようになっていたのだろう。

電話で大声を上げるよりはよほど効率的だ。

 

「……」

 

「食料は購買部かな。多分」

 

「……」

 

開けっ放しの扉をくぐりさっさと行こうとするガロアを引き留める。

 

「待て待て。写真に撮っておこう。こう広くてはここまで来るのも一苦労だからな」

 

「……」

写真を撮っている間、ぼけっと後ろで立っているガロアは初めて会った頃とは比べ物にならない程に背が伸びてしまった。

というかまた伸びた気がする。自分も女としては背の高い方だが、この高さの男は街でもとんと見なかった。

 

「どうせ次の作戦が始まるまで暇だし、久しぶりに身体検査でもするか」

このままこのだだっ広いビルの中で何もせずに過ごしていれば脳みその皺が無くなってしまいそうだ。

かといって暇を潰せるものが企業のビルであるここにあるとも思えない。

身体を強くするために吐くまでタンパク質を食わせ、日に日に大きくなっていったという懐かしい記憶を思い出しついそんなことを言ってしまう。

 

 

 

「……」

 

「これは?」

 

「……」

 

「これは?」

 

「……」

 

「うーん…昔から眼が良かったからな…お前は…」

壁に視力検査用のランドルト環の紙を貼り、その逆の壁際に立たせて検査をしているがガロアは全てを当てている。

 

「えーと…通常5mのところ7mだから…多分お前の視力は2.8かな。というかそれ以上は計れん」

 

「……」

一方のセレンはデスクワークに追われブルーライトを容赦なく放つ画面を見過ぎて視力は0.5を切り、所々では眼鏡をかけるようになっていた。

 

「体重計ろう。はい、乗って」

 

「……」

今時珍しいアナログ式の体重計を奥から引っ張り出してくる。

視力聴力検査はセレン自身もやっていたのに体重計には乗らないのは女性だからだろうか。

 

「95.4kg…増えたなぁ。最初41kgしかなかったんだぞ」

 

「……」

髪をくしゃくしゃとかきながらガロアは思い出す。

長いようであっという間だった三年間。

最初の頃は体力作りのための走り込みでぶっ倒れた自分をセレンが片手で持ち上げて帰っていたというのにあれから50kgも増えたというのか。

 

「……」

セレンに鬼のように食事を詰め込まれに詰め込まれ、栄養補給の後はひたすら身体を鍛えさせられた。

毎日が限界への挑戦だった。痛みを与えるのならばその身を以て痛みを知らなければならないと言われ何度も殴られ張り倒され絞め落とされブン投げられ、骨折した回数も何十回あるだろうか。

 

「身長も計っとくか。お前は服とか買わないし、いつもゆったりとした服しか着ないからアレだが知っておいて損は無いだろう」

 

「……」

社員の健康診断に年に一度だけ使うのであろう、クモの巣が張り錆びついた身長計を運んでくる。

 

「197.6cm!この前計った時は188cmだったか?まだ成長期ってことか」

実はガロアはインテリオル管轄街に来るまで自分の身長と体重を知らなかった。

なにせ比べる人がいなかったので小さいとも大きいとも思っていなかったが、

リンクス養成所に入ってから自分が相当小柄な方だとわかったのだ。

 

「あ、ちゃんと足を揃えろ。まともに計れないぞ」

 

「……」

下を向き自分の足をまじまじと眺めるセレンの瞳は長い睫毛がかかりよく見えない。

昔はいつもセレンの胸の高さから見上げていたというのに、いまでは首の下にセレンの頭がある。

自分は強く大きくなった。それは間違いない。

 

当然だが、下にいるときは下にいるときにしか、上にいるときは上にいるときにしか見えない物がある。

上に行けば全てが見渡せるなんて考えは一方的で傲慢な考えだ。

強くなるうちに、自分は何かを忘れてしまったのだろうか。セレンの先ほどの言葉を思いだしてそんなことを考えていた。

 

 

 

圧倒的な強者であるガロアがそう考えている頃、強くあろうとする弱者と弱く見せかけようとする強者の戦いが終わりかけていた。

 

「ハァ…く…マジかよ…」

 

『ぐ…ふっ…カニス…』

戦闘開始から7分。

多少のダメージが元々自機にあったとはいえ僅かに、それでも確実にカニスは押されていた。

 

(ランク15くらいまでだったら問題なく勝てたはずだ…俺は!…それは気のせいだったのか!?)

 

『どけ…カニス…』

機体のあちこちから火花を散らしているセレブリティ・アッシュ。

中のダンは激痛と頭痛に襲われ吐き気を催しているだろう。分かる。なぜなら

 

(俺もそうだから)

おえっと上がってきた吐瀉物をかなり無理して飲み込み声をひねり出す。

 

「そんなボロボロで行って勝てるわけねえだろ…いいから退け…!」

 

『うるせぇ!俺は…!…、…』

 

ズブッ、と嫌な音が聞こえてカニスは何かを理解する前に顔を青くした。

 

『時間切れだ、ガキども…何をもたくさしてやがった』

 

「ダン…!」

削り切っていたPAの後ろからブレードで一突き。

セレブリティ・アッシュのコアはトラセンドの剣に貫かれていた。

 

『無様な戦い方しやがって…お前も死ぬか?』

動かなくなったそれをゴミのように捨てるのがやけにゆっくりと見えた・

 

「あああぁああぁあああ!!!」

 

『…はぁ?』

 

「テメェ!!テメェ!!」

手に持っているものが銃だということも忘れて殴りかかる。

その全てが虚しく空を切った。

 

『……』

 

「クソ野郎!クソ野郎!テメェみてぇなクソがダンを…がっ!!!」

 

『なんだ?お前、突然ハッキョーしやがって。飛んじまったか?』

 

「……う…」

闇雲に突っ掛った自分も悪かったのだろう。

だがそれは本当にあっさりと、顔も歪むような臭気と共に波打つ激痛を乗せて訪れた。

 

「うああああああぁあああ!!!」

コックピットの下部に穴が開き膝から下が溶けてなくなっていた。

いともあっさりと斬られたのだ。

 

『まぁいいや。死んどけ』

 

「ああ、う、ぐ」

溶けた機械と同化した部分以外から血がだくだくと流れている。

もう死ぬすぐ死ぬ痛ぇ殺してくれ。

瞬時にあらゆる記憶が頭を駆け巡り痛みに塗りつぶされたが、その濁流は一つの言葉となり口から出た。

 

「…弱ぇ」

 

『あ?』

 

「テメェは弱ぇ。テメェよりガロアの方が強ぇ!!テメェよりも化け物染みた奴なんてうじゃうじゃいんだ!!」

 

『…勝手に言ってろ』

振り下ろされるブレードが見える。

この速度だったら躱せたな、俺は。

やっぱ出世しておけばよかった。

 

「ケケケッ!!殺されちまえ!テメェなんかガロアに…」

 

カニスが言葉を言いきる前にトラセンドは何の感情も示さずにコアを切り刻んだ。

 

「……おい、オペレーター。ついでに反乱分子を一名殺した。カラードに報告しておけ」

 

『…はい』

 

「……ふんっ」

物言わぬ骸と化した二機のネクストを蹴っ飛ばし通信を一方的に切り鼻を鳴らす。

 

「ガロア・A・ヴェデット…?あんなガキがなんだってんだ」

何も言うつもりは無かった。

なのに奴が戦う姿を想像した途端肌が粟立った。

内にけぶった感情…不安を掻き消すように呟きもう一度サベージビーストだった物を蹴飛ばした。




カニス


身長173cm 体重63kg


出身 メキシコ

カニスは頂点に立つ者以外はいずれ必ず壁に当たるということを知っており、自分の才能の多寡も熟知している。
その気になれば恐らくカラードのランク一桁にもなれただろうし、いざとなったらORCAの下位メンバーにも勝てるだろう。
だがいつか必ず負けるのならば今この場所でぬくぬくとしている方が賢いと信じており、AMS適性という才能も運が良かったに過ぎないと考えている。
自分より少し後にリンクスになったダンが大声で、しかも本気で自分の夢を語る姿を愚かだと思いながらもその一方でそれが素晴らしいことだと思っており、彼のしつこいぐらいの夢の語りを聞くのは嫌いじゃない。時々うっとうしいが。
しかし確実にこのままではダンがいつか命を失うことになるというのも感じており、それをいつ言うべきか悩んでいた。
賢いのは間違いないがニヒルな性格になりきれない善のお節介な部分がカニスの弱点だろう。
リンクスとしての名前はウルフよりも弱そうな印象を受けるカニスにした。


趣味
飲み物や食事を僅かに残して贅沢を感じること
日焼けサロン

好きなもの
猫カフェ(こっそり一人で行っている)
ダンのくだらない話に突っ込みを入れること

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