Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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序章
激突


国家解体戦争、リンクス戦争を経て、今回の人類に希望は持てなくなった。

 

リンクス戦争の影響で『素養の持ち主』がロシア・ムルマンスクにて誕生。

『黒い鳥』への期待が高まる。

 

次の戦争の中心は彼になるだろう。

 

どちらにせよ、処分は決まっている。

引き続き、建設を進めていく。

 

 

 

 

CE(Company Era)15年、混沌の極みを迎えた世界も、支配者たる企業のうちの二つが崩壊することによりようやくその混乱は収束に向かっていった。

 

そして……

 

二機の人型機動兵器が、焼き尽くされた街の上で力の代償に死をもたらす粒子を撒き散らしながらぶつかり合っている。

 

防御を捨てる代わりに機動力を重視し右腕にレーザーライフル、左腕にレーザーブレードを装着し、

その装甲に幾重もの傷を帯びながらもなお、それを感じさせぬ動きをするその機体の名は「ルブニール」という。

「帰る、戻る」を意味するその名前は、あるコロニーの大切な人の元へ、何があっても必ず戻ることを誓って付けられた名前だった。

 

対するは、ルブニールよりも一回り巨大であるのにも関わらず瞬間瞬間に瞬くように消えてしまうかのような動きをし、

さらには右腕にその一撃一撃があらゆる装甲を消し飛ばすであろう威力を持つ五連ガトリングを装備した「アレサ」と研究者達に呼ばれる機体である。

ルブニールを駆る男の名前をマグナス・バッティ・カーティス、アレサを操る男の名前をジョシュア・オブライエンといった。

 

二人はこの混沌の時代を切り開く力を持った傭兵だった。

単機で巨大兵器を駆逐し、企業を崩壊させ、そして、他の傭兵を倒していった。

 

なぜ、二人は強い?

それはたった一つの簡単な、それでいて人が獣だった頃から持っていた一番強力な強くなる為の動機であった。

 

大切な物を、人を、守るためである。

 

だが、守るための戈であるこの鋼鉄の巨人はただそこにあるだけで死を平等にその地に与え、そして二人は強すぎた。

そう、強すぎたのだ。

「弱者」の不安となってしまうほどに。

そして二人は互いに殺し合うことになった。

「弱者」はその二人が一遍にに消えてくれる事を望んだのだ。

そうすれば不安はなくなるから。怖いものはもうないから。他の怖いものは、ほとんど全部二人が消してくれたから。

 

強者の敵は、弱者の群れだった。

 

 

 

 

「グウゥ!マギー!もう、もう……!」

目の前に激痛と共に閃光が走りこみ上げる吐き気を抑えながら絞り出すようにジョシュアは言う。

もう、終わりなのだ。このアレサに勝てる機体は存在しない。その上パイロットは自分だ。尊大な驕りでもなんでもなく、今までの経験から自分が強いということは分かっている。

ここでマグナスを殺してそして自分はその代償にこの機体に命を吸われる。アレサは一時の究極の力の対価として搭乗者の命を使う悪魔でもあった。

だがそれも当然の事。意思を持つ一人の人間が誰も敵わない力を手にすることは危険でしかない。ここで共に死ぬのはせめてもの友への思いやりであった、

 

五連ガトリングが火を噴く。

ルヴニールは辛うじて直撃を避けてはいるが、しかし装甲はガリガリと削れていく。

それでも左腕のレーザーライフルの射線に入らぬように立ち回るマグナスはさすがの腕であった。

だが…

 

「…!」

機体性能の差がもろに出てしまったのか、明らかにルヴニールより遅くだしたはずのアレサのクイックブーストはすぐにルヴニールに追いつき、相対速度が0となった。

同時に放たれたレーザーライフルの火が右足を貫く。

 

「!?がああああああああああああああ!」

機体からフィードバックされてくる損傷度合が脳内を情報爆発として駆け巡る。

魂からの叫びを出すのはいつ以来だろうか。

ひと昔前、自分の機体の全てを圧倒する人型兵器に斬られた時だったか。

ああ、自分は負けたのだ、

これでもう自分たちの時代は終わりなのだ、と達観しながら。

 

…何故あのとき、生き残ったというのだろう。

最早自分の飛ぶ空すらも奪われた烏が。

自分が唯一の敗北を喫した時の戦闘を走馬灯に見ながらマグナスは二度目の敗北、そして死を受け入れようとしていた。

 

が。

 

(負けるわけにはいかない!今、俺が死ねば…フィオナ…!お前は…!)

 

「ぐっ、うおおおおおおおおお!」

性能で絶対に敵わない敵に負ける。

同じだったはずだ。あの時と。

だが、背負ってるものの違いが叫びとなって出た。マグナスは生きたい。ジョシュアは死にたい。そこには僅かだが確かな違いがあった。

瞬間、右足を失い前のめりに倒れゆく機体に無意識にオーバードブーストを着火した。

視界に火花が散り、放ったグレネードとミサイルはアレサの足元に着弾、砂を巻き上げる。

 

 

「最後にやけっぱちとはな!マギー!」

砂煙の向こうから聞こえる突撃音、死を覚悟した者が出す魂の圧力。

目的は間違い無くブレードでの一撃だろう。

右腕のガトリングでそれを受け止めて、コジマキャノンで撃ち抜けばそれで終わりだ。

 

そしてジョシュアの予想通り、左腕のブレードが突き出され…なかった。

 

右腕を盾にしたアレサをかいくぐりルヴニールは右腕のレーザーライフルを突き出した。

一瞬の動揺がジョシュアに身震いとなってあらわれる。

 

(!、だがこの距離でレーザーライフルに何が出来るというのだ!どちらにしろ足を失ってるんだ!もう終わりだ!)

だがそれは間違いだった。

最後にジョシュアが見た物は、サイドブースターにライフルを突っ込み、ジェネレータを撃ち抜くルヴニールの姿だった。

 

その後そこに残っていたのは蹂躙された街の上で追悼するかのように俯く巨大な機体のみであった。

そこにはもう生物と呼べるものはいなかった。

僅かに生き残った人も動物も死の粒子から逃げてどこかへ消えていった。

 

そして誰もいなくなった。


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