腐った私と腐った目の彼   作:鉄生

8 / 11
最新話の投稿、遅くなってしまい申し訳ありません。
今回のお話はかなり悩む部分もありまして…詳しくは後書きにて。

読者の皆様のおかげで、日間ランキングに入ることができました。
ランキングに入るなんて想像もしていなかったので、とても嬉しいです。
いつも本当にありがとうございます!

今回は八幡視点になります。


彼の日常や心境は少しずつ変化している

彼女とのデートから数日が経った。

 

あの日、俺の気持ちは明確になった。彼女にしっかりと伝えられたわけではないが…

それにより俺の学校生活も少しずつ変化している。

 

まず、教室内で彼女と話す回数が増えた。俺から話しかける事まである。

文化祭での一件や、戸部の気持ちを考えるとあまり良くないのではないかと思ったのだが、戸部に関してはあまり気にする様子もなく、文化祭の件で俺を心底嫌っているであろう相模も、三浦と同じトップカーストのグループに属している彼女に対しては特に何をするでもなく、今のところ平穏無事に過ごせている。

 

あとは昼休み、彼女はほぼ毎日と言っていいほどベストプレイスに現れるので、一緒に昼食を食べている。

昼休みは由比ヶ浜が奉仕部の部室で雪ノ下と過ごしているという事もあってか、三浦もおまけでついてくる。いくら葉山がいるといっても、教室であのグループの中に女子一人でいるのはさすがの三浦でも気まずいらしい。

 

そして放課後、これまたほぼ毎日一緒に帰っている。

俺が奉仕部に行っている間、彼女は教室でぐ腐腐な趣味を嗜みながら待ってくれている。

 

 

 

 

 

………あれ?俺リアル充実しちゃってね?

ぼっちのスペシャリストである比企谷八幡はどこに?

 

などと部活中にも関わらずくだらない事を考えていると、雪ノ下から声をかけられる。

 

「比企谷くん、さっきからにやにやにやにやと、気持ちが悪いわ。部活中に下卑た妄想をするのはやめなさい」

 

「別に下卑た妄想なんてしてねえよ…と、すまんメールだ」

 

最近は、メールもよくするようになった。

とは言っても以前彼女が言っていたとおり、必要最低限の連絡程度ではあるが。

元々暇つぶし機能付きの目覚し時計としてしか扱っていなかったので、それだけでも充分な進歩である。

で、今きたメールの内容は…

 

 

 

from.愛しの姫菜ちゃん

 

はろはろ〜

今日は優美子と買い物に行くので先に帰ります。

一緒に帰れなくて寂しい?寂しくなったら、待受画面を見てね☆

 

 

 

毎度思うがこの登録名はやっぱなしだろ…

スマホの画面に表示された彼女の名前を見ながら、つい苦笑いをしてしまう。

 

 

「今度は携帯でいやらしいものでも見ているのかしら?部室内であなたの欲求を満たそうとするのはやめてもらえる?」

 

「ヒッキー、今の笑い方本当にきもい…」

 

「いや違うから。つーか何でメール見ただけでそこまで言われなきゃならん」

 

「姫菜からー?」

 

「あぁ、今日は三浦と一緒に買い物に行くんだとよ」

 

「あれだけ不本意と言っていたのに、まだ彼女と続いているのね」

 

「まぁ今は別に不本意じゃないからな」

 

「え!?ちょっとヒッキーそれってどういう…」

 

 

ガラッ

 

「せんぱーい!やばいですやばいですー!本当にやばいんですぅー!」

 

突然の来客に、由比ヶ浜の言葉は遮られた。

実にいいタイミングだ。正直追求されるの面倒だしな。

 

「一色さん、ノックを…」

 

ほとんど依頼人が来ることのない奉仕部のドアを開いたのは、つい先日無事に生徒会長に就任した一色いろはだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「クリスマスイベント?」

 

「そうなんですよぉー!海浜総合高校ってとこと、合同で」

 

「その企画誰が言い出したんだ?」

 

「向こうからですよ!私から言うわけないじゃないですか!で、私もクリスマス予定ありますし、断ろうと思ったんですけど平塚先生がやれってー…」

 

どうやら生徒会は、海浜総合高校と合同のクリスマスイベントを企画しているらしい。

だが、始めてみてはいいものの進捗状況はあまりよろしいものではない。そこで奉仕部へと力を借りにきたというわけか。

 

「もう先輩達しか頼れないんですよー…」

 

「そうね、だいたいの状況はわかったけれど、どうかしら?」

 

「いーじゃんやろうよ!なんかこういう相談くるのって久し振りじゃん!」

 

「悪いが、俺はパス」

 

「は?」

 

一色さんはどこからそんな低い声を出してるんですかねぇ…

 

「だいたいこれは生徒会の問題だ。生徒会っつー組織の問題だったら、まずはその組織の中で話し合うなりするもんなんじゃねぇの?組織に属した事ないから知らんけど」

 

「ちょっと!何ですかその言い方!」

 

「どうせあれだろ?まだ副会長とか他の役員のやつらと上手くやれてないとかだろ?まずはそこからどうにかしろ。以上」

 

「えー!私、先輩が言うから生徒会長になったんですよ!何とかしてほしいです!」

 

「嫌だ無理だ。ほれ、この話は終わり」 

 

「比企谷くん、ちょっと待ちなさい」

 

「んだよ?」

 

「あなた、なぜそこまで拒否反応を示しているの?今までの依頼は、嫌々でもしっかりとこなしてきたじゃない。何か理由でもあるの?」

 

「ヒッキーがクリスマスイベントを手伝いたくない理由…クリスマス…はっ!」

 

おっと、由比ヶ浜さんそれ以上はいけない。

 

「まさかヒッキー、姫菜とクリスマスに予定があるからイベント手伝いたくないの!?」

 

「ばっ、ばか違ぇよ…」

 

嘘は言ってない。まだちゃんとした約束はしていない。

 

「そういえば今日、教室で優美子達とクリスマスの話してたときも、姫菜だけニコニコ笑ってるだけだった…」

 

「なるほど、そういう事…一色さん」

 

「はい?」

 

「この依頼、承ります。もちろん部員全員で。部長としてお約束します」

 

「ありがとうございまーす!」

 

こうして、俺の抵抗も虚しく、奉仕部はクリスマスイベントに関する依頼を受けることになった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

場所は変わって、稲毛海岸駅の駅前。

雪ノ下と由比ヶ浜は部室の鍵を返してから来るとのことで、一色と俺は一足先に学校を出て、話し合いの時に食べるお菓子やらを買いに来ている。

 

「お待たせしちゃいました?ふぅ…」

 

重いから持ってくれアピールですかそうですか。

 

「ほれ、こっちよこせ。重いんだろ?」

 

「…なんですかその頼りになる男アピール。はっ!もしかして口説こうとしてますか!?」

 

「いや俺彼女いるしそういうのもう間に合ってるんで無理ですごめんなさい」

 

「ちょ、なんで私がせんぱいなんかに振られなきゃいけないんですか!もう!重いからさっさと持ってください!」

 

「おう。先に入っちまうか」

 

買い物を済ませた俺と一色は、先にコミュニティセンターへと向かった。

 

 

 

 

「やぁ、僕は玉縄。海浜総合高校の生徒会長なんだ。よろしく。いやーよかったよ、フレッシュでルーキーな生徒会長同士企画できて。お互いリスペクトできるパートナーシップを築いて、シナジー効果を生んでいけないかなって思っててさ。で、君は生徒会の人?どうやら新しいニューフェイスみたいだけど」

 

「いや、俺は手伝いで来ただけだ。あとからもう二人来る」

 

のっけから良いパンチ打ってくんなコイツ…

 

「あれー?比企谷じゃなーい?」

 

「お、折本?」

 

「何でここにいんのー?比企谷って生徒会?」

 

「いや、俺は手伝いで来ただけで…」

 

「だよねー。比企谷が生徒会なわけないよねー。あれ?今日彼女さんはー?」

 

「いねーよ。別にいつも一緒にいるわけじゃない」

 

「ていうか比企谷に彼女って、マジウケる!」

 

「いや別にウケねーから」

 

こんな他愛もない話をしていると、ふいに袖が引かれる。

振り返ると、一色が不思議そうな顔で俺を見ている。

 

「…なんだよ?」

 

「随分親しそうにしてますけど、せんぱいお知り合いとかいたんですね」

 

あれ?あなた前に一回会ってますよね?

というか、その言い方だと知り合いなんていたんですかに聞こえるからやめようね?

 

「ただの中学の同級生だよ」

 

「あら、中学の同級生と言ったかしら?それは是非比企谷くんの黒歴史について詳しくお話を聞きたいわね」

 

「ヒッキー、いろはちゃん、お待たせー!」

 

「比企谷が女子に囲まれてるとかウケる!」

 

「いや、だから別にウケねぇっつの。おい、もうさっさと話し合い始めようぜ早く帰りたい」

 

なんで周りのやつらはこっち見てくんだよ。こっち見んな。

 

「そうだね。じゃあ前回と同じくブレインストーミングからやっていこうか。みんな席について。議題はイベントのコンセプトと内容面でのアイディア出しから」

 

ようやく周りの視線から解放され、助かったと思ったのも束の間、話し合いの内容はひどいものだった。

 

マインド的なイノベーションだとか

俺達とコミュニティ側とのウィンウィンな関係だとか

戦略的思考でコストパフォーマンスがどうだとか

チャイルドハートにリターンだとか

話し合いをしているとは思えない言葉が飛び交っていた。

 

「何言ってんのこいつら」

 

「さぁ?まぁ向こうが色々提案してくれてるんですよ」

 

「具体的な案は一つも出ていないと思うのだけれど…」

 

「難しい言葉がたくさん知ってるんだねー…」

 

 

「はぁ…みんな、もっと大切なことがあるんじゃないかな?」

 

お?さすがに生徒会長はまともな考えが出せるのか?

 

「ロジカルシンキングで論理的に考えるべきだよ。お客様目線でカスタマーサイドに立つっていうかさ」

 

こいつもダメだ…何頭痛が痛いみたいな事言ってんの? 

 

一色の言っていたとおり、たしかにこれはやばい。

何がやばいって、マジやばい。

 

「あ、あの〜、一旦休憩はさみませんか?今日初めて来た方達もいることですし…」

 

「そうだね。じゃあ一旦休憩にして、15分後に再開しようか」

 

 

 

一色のフラッシュアイディアにより、ようやくブレインストーミングから解放される。

あれ?俺影響受けちゃってね?

 

「大体どんな感じかわかってもらえました?」

 

「あぁ…これはたしかにやばいわ」

 

「ここまで壊滅的とは…予想以上だわ…」

 

「あははー…」

 

雪ノ下の言うとおり、これはさすがに予想以上のやばさだ。

この場で行われていた話し合いは、まったく意味がない

こっちの生徒会がうまく機能していないってのもあるが、さすがに相手が悪すぎる。

 

本来ブレインストーミングというものは、結論を出さない、自由な考えも歓迎する、量を重視する、アイディアを結合し発展させる、といったものだが、あんな覚えたての言葉を並べるだけのブレストごっこじゃ意味がない。

 

 

となれば俺がやる事はこれしかない。

 

まずは、この空気をぶち壊す。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

一つの案が思い浮かんだ俺は、こちら側の面々に向けて声をかける。

 

「おまえら、ちょっといいか?」

 

「せんぱい?どうしたんですかー?」

 

「まず一色、この後の話し合いはおまえが仕切れ。玉縄が仕切ってるようじゃ話がまったく進まん」

 

「え!?そんなのいきなり無理ですって!」

 

「心配すんな。おまえが仕切りさえすれば俺達はおまえの味方をしてやる。なぁ雪ノ下、おまえならあいつら論破するくらい余裕だろ?」

 

「えぇ、それはそうね。けれど、大丈夫?」

 

その大丈夫?ってのは手加減しないけど大丈夫?って意味だろうな…

 

「あぁ。由比ヶ浜、おまえは雪ノ下があまりにも言い過ぎてたらうまく宥めてくれ。相手が立ち直れなくなるまでやる必要はないし、おまえ、そういう空気読むの得意だろ?」

 

「よくわかんないけど、わかった!」

 

「あとは生徒会役員、おまえらは、その、あれだ、俺からいうような事じゃないが、一色を支えてやってくれ。こいつも不慣れなりに、このイベントを成功させようとしてんだ。一年の新米生徒会長なんてまだ信用しきれないとは思うが、頼む」

 

「……せんぱい、なんですかそれ。もしかして私の好感度上げようとしてますか?」

 

「この程度で上がる好感度なんていらねーよ。とりあえず、任せた」

 

「そこまで言われたら仕方ないですね。みなさんも、よろしくお願いします!」

 

 

 

それからの話し合いは、完全にこちら側が優位になって進められた。

俺の見込んだ通り一色はそれなりに口が達者だし、海浜総合側に言いくるめられそうになったりもしたが、副会長達や雪ノ下のフォローもあり、具体的にこのイベントでやりたい事や、その為に必要な準備期間や予算、人手等がしっかりと話し合われた。

 

え?俺?

俺は心の中でちゃんと応援してたよ?

 

まぁ俺の考えた案はこうだ。

海浜総合高校から合同イベントの誘いがあったからか、最初からあちら側がこの合同イベントを取り仕切るような空気になっていた。

それで進捗が悪いようであれば、その空気をぶち壊し、こちら側が仕切ってしまえばいい。あちら側からするといい気分にはならないかもしれんが、そこは一色のあざとさで、男共をうまくころがしてもらえばいい。

 

なんにせよ、話が進んだようでよかった。

 

 

 

 

「今日は本当に助かりました!ありがとうございます!」

 

「ええ。お役に立てたようでよかったわ」

 

「いろはちゃん、次はいつやるのー?」

 

「えーとですね…」

 

「おい、ちょっと待て。別に俺達は毎回来なくてもいいだろ」

 

「ちょっとせんぱい!本当にひどくないですか!?なんでそんな事言うんですかー!」

 

「なぁ雪ノ下、奉仕部の活動方針はなんだ?」

 

「飢えた人に魚をとって与えるのではなく、とりかたを教える、ね」

 

「だろ?俺達が毎回手伝いにきてるようじゃ、魚を一緒にとってやってるようなもんじゃねぇか。もうとりかたは教えたんだし、またどうしようもなくなったら手伝いに来るくらいでいいんじゃねぇの?」 

 

「あなたにしては驚くほどまともな事を言うのね…」

 

「だいたいここで俺達が入り浸ったら、一色と生徒会のやつらのためにもならん。こいつらでどうにか上手くやれるようになってもらわないと、今後も面倒見る事になるぞ?」

 

「ヒッキー、なんか変わったね。それって、どうして?」

 

「心境の変化ってやつだな」

 

 

もし、今の俺が変わったように見えるなら、それはきっと彼女のおかげなんだろう。

人を信じる事を怖れていた俺を、人を好きになるという事を忘れていた俺を、変えてくれたのは、紛れも無い彼女だ。

そんな彼女に思ってもらえている自分を、犠牲にするようなやり方は、もうしない。

 

 

 

「わかりました…けど、もし私達だけじゃどうしようもなくなったら、またお願いしてもいいですか?」

 

「まぁ、それは構わん」

 

「じゃあせんぱい、何かあった時のために連絡先聞いてもいいですか?色々相談とかもしたいですし」

 

「あぁ、勝手にやってくれ。ほらよ」

 

「ありがとうございます!って…………」

 

一色は、俺のスマホの画面を見て固まった。

 

「あ?どうした?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、俺は大きな失敗をした。

すっかり忘れてしまっていたのだ、今の俺の待受は…

 

 

 

「せんぱーい…いくらなんでもいきなりこんなの後輩に見せるってどうなんですかね…」

 

その発言を聞き、雪ノ下と由比ヶ浜も不思議そうにスマホの画面を覗く。

 

 

その画面に表示されているのは、

 

 

俺のほっぺにキスする彼女と、素っ頓狂な顔をした俺が写ったプリクラである。

 

 

この後俺がどうなったかは、ご想像にお任せしよう。




最後までお読み頂き、ありがとうございます。

まず、姫菜成分が足りない!甘さが足りない!と思われた方には本当に申し訳ありません。
クリスマス編をどのように進めるかすごく悩んだのですが、姫菜と付き合う事で八幡にどんな変化があったのかを書きたいと思いこのような形になりました。


今回はこのような形になってしまいましたが、ご安心ください。

次回は、ディスティニーランド編です!
甘々な二人をお約束します。

次回は姫菜視点になります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。