腐った私と腐った目の彼   作:鉄生

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深夜の更新申し訳ありません。
最後の部分を書いていたらテンション上がってしまいまして…

このssを読んでくれている皆様のおかげで、UA27000突破いたしました!
本当にありがとうございます!

さて、いよいよデート回です。今までは基本的に原作の流れに沿って書いていたので、丸々オリジナルなのはこの話が初めてです。至らない部分もあると思いますが、読んでもらえると嬉しいです。

今回は八幡視点になります。



こうして彼も彼女への気持ちを明確にする

『私、好きだよ。八幡くんのことが。本当に、大好き』

 

彼女に言われたその一言が、俺の頭から離れない。

 

今まで似たような事を言われたことがないわけではない。

だがそれは、いずれにしても

 

ごっめーん罰ゲームでしたー☆

 

というオマケつきのもの。

 

今回の彼女の一言は、そんなものとは違う。

俺は彼女を疑う事をやめると決めた。

彼女は、少しずつではあるが確実に心を開き、真剣に俺を思ってくれているのだ。

 

 

じゃあ俺は?

 

俺は彼女の事をどう思っているのだろう?

 

自分に対してここまで真剣に好意を向けてくれている彼女の事を。

 

「はぁ……」

 

「どしたのお兄ちゃん?さっきからにやにやしたり落ち込んだり急に真顔になったり気持ち悪いよ」

 

「なぁ、小町」

 

「なぁに?」

 

「人を好きになるって、どういう事なんだろうな」

 

「…………………は?え、本当に大丈夫?」

 

「すまん、なんでもない」

 

「いやいや、なんでもないわけないでしょーに!もしかして、もう彼女さんと別れた?」

 

「ばっか別れてねーから」

 

「そ。なら早く小町にちゃんと紹介してね。未来のお義姉ちゃんにはちゃんとご挨拶したいし!」

 

「あー…じゃあ日曜にな」

 

「え!?本当に!?あのお兄ちゃんが素直だ!」

 

「たまたまその日は一緒に出かけるからな。そのついでだ」

 

「デデデデデデ、デート!?デートなのお兄ちゃん!?」

 

「ん、まぁ」

 

「小町は、小町は嬉しいよお兄ちゃん…もう小町ポイントもカンストだよ…」

 

まぁ紹介してってのは向こうも言ってたしな。

海老名さんには悪いが、出かける前に一度家に寄ってもらうか。目的地も家からならそんなに遠くないし。

とりあえずあとでメールでもしておけばいいだろう。たしか俺の家は知らないはずだし、一応住所も送っておくか。

 

「んじゃ、そろそろ寝るわ」

 

「はーい。おやすみお兄ちゃん」

 

俺は、なんだかんだで海老名さんと出かける事を楽しみに思ってしまっている。

 

彼女と一緒にいられるこんな日常が続けばいいと、そう思っている。

 

俺がそんな彼女に抱くこの感情はなんなのだろうか。今はまだ、その答えがわからない。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「八幡くーん、そろそろ起きてー?」

 

本日、日曜日。彼女との初デート決行日である。

予定では10時頃に駅まで迎えに行き、一度俺の自宅に寄ってもらい、それから出掛けるはずだった。

だったのだが…

 

「え?なんでいんの?つーかどうやって家入ったの?」

 

「八幡くんが約束の時間になってもなかなか来ないから心配になって家まで来たんだよ。電話も繋がらないから外で待ってたんだけど、小町ちゃんが入れてくれたんだー」

 

慌ててスマホを見る。ディスプレイには不在着信と新着メールのおしらせが表示されている。そして時刻は11時30分。うん、これはあれですね。寝坊ですね。

 

「……………すいませんでしたあああああ!!!!」

 

俺は華麗に土下座をきめる。

 

「これはですね、なんというか、遠足前日の幼稚園児的なあれで、昨日なかなか寝付けなくてですね…」

 

「私とのデートが楽しみでなかなか眠れなかった?」

 

「はい、そのとおりでございます…」

 

「そう。なら許してあげる」

 

「いやいや姫菜さん!甘い!甘いですよ!お兄ちゃんがよく飲んでるコーヒーより甘い!」

 

姫菜さん?もう仲良くなったのか?さすが小町、コミュ力高いな。

ていうかいつからいたの?

 

「ごみいちゃん、姫菜さんはこうやって言ってるけどね、家の前で待ってた姫菜さん、すごーく悲しそうな顔してたんだよ!こんないい人を悲しませるなんて、ごみいちゃんの馬鹿!ボケナス!八幡!」

 

「八幡は悪口じゃねぇだろ…いや、本当にすまん。すぐに支度する」

 

「もう!姫菜さん、馬鹿な兄がご心配をおかけして本当にごめんなさい!お詫びといってはなんですが、私が姫菜さんにふさわしい彼氏になれるようばっちりコーディネートしますので!」

 

「大丈夫だよ小町ちゃん。そんなに気にしないで」

 

「いえいえそーいうわけにはいきません!今日は特別に髪もしっかりセットさせますので!少々お待ちを!」

 

「じゃ、じゃあ、お願いしようかなー…」

 

「まかせてください!ほら、お兄ちゃん行くよ!」

 

「おい、おまえの勢いに海老名さんが引いちゃってるだろーが。海老名さん、悪いがもう少しだけ待っててくれ」

 

「わかった」

 

ここからの俺の扱いは酷かった。

まずは風呂に投げ込まれ、あがったと思えばすぐに服を着せられたり脱がされたり…

服が決まったかと思えば洗面台の前に座らされ、小町による髪のセットが始まった。ワックスなんてつけるのはいつぶりだ…

一通り頭をこねくり回して小町も満足したようで、ようやく俺は解放された。

 

「やばいよお兄ちゃん!会心の出来だよ!早く姫菜さんに見せてあげて!」

 

「おう。すまんな小町、助かったわ」

 

扱い方は酷かったが、鏡に写る俺はなかなかいい感じな気がしないでもない。

にしても、服装から髪型まで何もかも妹任せっつーのもなんかあれだな…

帰りに何かお礼でも買ってくるか。

 

ガチャッ

 

「本当にすまん、待たせた」

 

俺は自分の部屋のドアを開け、再度彼女に謝罪の言葉を告げる。

 

「………………誰ですか?」

 

「あ?おいおい、たしかに寝坊したのは俺が悪かったが、彼氏に向かって誰?っつーのはさすがにひどくねぇか…」

 

「え!?八幡くん!?あ、その目は八幡くんだ」

 

「目でわかっちゃうのかよ…まぁいいわ。俺のせいでこんな時間になっちまったな。さっそく行くか」

 

「別にいいよー。八幡くん、今日は私のお願いなんでも聞いてくれるみたいだし」

 

「おいちょっと待て俺はそんな話知らん」

 

「小町ちゃんが言ってたよ?」

 

ちょっと小町ちゃん何言ってくれちゃってんの!?

さっきまでの俺の感謝の気持ち返して!

 

「まぁ今日はしかたねぇか…行こうぜ」

 

「はーい」

 

「お兄ちゃん、姫菜さん、いってらっしゃーい!」

 

「「いってきます」」 

 

予定よりも時間は遅くなってしまったが(主に俺のせいで)、こうしてようやく俺と彼女の初デートが始まる。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「でかっ」

 

本日の目的地である幕張のショッピングモールに到着したときの率直な感想である。

わりと新しいこのショッピングモールには、グランドモール、ファミリーモール、ペットモール、アクティブモールという4つのモールがあるらしい。

 

「ファミリーには行かなくてもはいいだろ。あとアクティブ。俺みたいなやつが行くところじゃない」

 

「そうだねー。でも、将来のために一応ファミリーには行っておく?」

 

「はぁ!?」

 

「冗談だよー。全部周ってたら疲れちゃいそうだし。とりあえずグランドモールのほうに行こっか?」

 

「んだよ…まぁそうだな。というか、もういい時間だし先に昼飯にするか。なんか食いたいものある?寝坊の詫びとして奢るぞ?」

 

「このショッピングモール、たしか焼肉屋さんあったよね?」

 

「さすがに勘弁してくれ……」

 

いくら謝ったといっても、やっぱり怒ってますよね…

まぁ自業自得なんだけどね…

 

それから俺達は、無難なフードコートで昼食を済ませた。

食べながらどのように周るかを相談した結果、とりあえず上から順に周ろうということになり3Fへ移動する。

 

「八幡くん、ちょっとここ寄っていい?」

 

彼女が指差すのはメガネ屋だった。

新しいのでも買うのか?

 

「はいよ。じゃあ俺はここで座ってるわ」

 

ギュッ

 

この日、初めて手を繋がれた。

ものすごい力で。

 

「一緒に来て」

 

「すいません行きます。行かせてください」

 

それから海老名さんは、ものすごく真剣に眼鏡を選んでいた。

ん?でもこれって…

 

「はい八幡くん、ちょっとこれかけて」

 

だと思った。そりゃ今見てたのメンズのだしな。

 

「いや、俺別に目悪くないんだが……」

 

「大丈夫だよ、これ伊達メガネだし。いいから早くかけて」

 

俺はメガネを受取り渋々かける。

 

「やっぱり八幡くんメガネ似合うね。んー…けどさすがにこの色はダメかな。次こっち」

 

「はいよ」

 

「うん、こっちのほうがいいかな。じゃあこれ買ってくるね」

 

「へ?」

 

「八幡くん、今日1つ目のお願い。私が買うこのメガネ、今日1日外さないで」

 

そう言い残して彼女はそそくさとレジへと行ってしまう。

 

ちょっと待ってくれ。

最初に俺がメガネは真っ赤なフレームだった。

そして今かけたのは、一見黒のようだが光を当てると若干赤にも見えるフレーム。

 

つまり

 

「八幡くんお待たせ。はい、これかけて」

 

「いや、でもこれじゃまるで…」

 

「うん、私とお揃いだよ」

 

お揃いである。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

俺にメガネをかけさせる事に成功したからか、メガネ屋を出てからは彼女の機嫌も少し良くなったようだ。

それからは特に何を買うわけでもなく、気になる店があれば寄ったりはするものの、基本的にはひたすら広いモール内を歩き回った。

 

というかこのショッピングモール、普通にフィギュアやらコスプレの衣装やらが売ってる店まであるのな。

お互いそういったものには理解があるので、その店では大いに盛り上がった。

 

「八幡くん、2つ目のお願いいいかな?」

 

3Fもそろそろ1周し終えるかというときに、彼女から声をかけられる。

 

「俺にできる範囲であればな」

 

「なら大丈夫だね。せっかくだしプリクラ撮ろう?」

 

プリクラ…リア充御用達のあれか…

俺だって撮った事ないわけじゃない。以前戸塚と2人で撮った事がある。え?もう1人誰か忘れてるって?ナニソレハチマンシラナイ

 

「別にいいが、俺そういうの慣れてないぞ?」

 

「私だってそんなに撮るわけじゃないよ。というか誰かと撮った事あるの?」

 

「おう、戸塚と」

 

「……あんなに狭いほぼ密室の中に男子2人…一体ナニをしてたのかな?ぐ腐腐…」

 

「いやいやそういうんじゃねぇから…」

 

そんな事を話しつつ、俺達はゲーセンにあるプリクラコーナーに到着した。

 

「えーと、機械はこれでいいかな。ちょうど空いたみたいだし入ろっか」

 

「お、おう」

 

やばい!緊張してきた!女子と2人でプリクラなんて初めてだし…って海老名さん俺の腕に抱きついてこないで本当にいい匂いだから!

 

「八幡くん、顔強張ってるよ。笑って笑ってー」

 

「ていうか顔近くないですか」

 

「プリクラなんだから当たり前じゃない?」

 

1枚、2枚と続々とシャッターが切られていく。

 

「あ、八幡くん、最後はアップだって。もう少ししゃがんでカメラに近づいて」

 

「う、うす」

 

 

 

 

 

チュッ

 

 

 

パシャッ

 

 

 

へ?

 

 

 

「おまおまおま、お前なにしてくれちゃってんの!?」

 

「あははー、そういえばこういう事するの初めてだねぇ」

 

 

結論から言おう。いきなりホッペにキスされました。

 

 

「いいじゃない、初デートの記念になったでしょ?」

 

「だからって、おまえ……」

 

「だいたい八幡くん、今日まだ一回も私の事名前で呼んでくれてないよね?小町ちゃんの前でも海老名さんだったし。だから仕返しだよ」

 

むしろご褒美です。はい。

というかしてきた本人がなんでそんなに顔を赤くしてるんですかねぇ。

まぁ俺も今確実に真っ赤なんだろうけどさ。

 

 

突然の出来事に放心していた俺は、撮影終了後のらくがきを全て彼女に任せ近くの椅子に座っていた。

 

「お待たせしちゃった?はいこれ、半分こ」

 

「お、おう、ありがとな」

 

出来上がったプリクラを見てみる。ふむ、悪くない。

らくがきに関してはさすがと言ったところか、よく頭の悪いカップルが書くような『ずっといっしょ』やら『forever〜』みたいな事は書かれておらず、全体的にシンプルな仕上がりとなっている。

ただ、このほっぺにキスをしている1枚に関しては、大きめのハートが書かれていた。

 

「こうやって見ると、めちゃくちゃ恥ずかしいんですが…」

 

「私だって恥ずかしいんだからお互い様だよ。こういうの初めてなんだから。そうだ八幡くん、ちょっとスマホ貸してくれる?今撮ったプリクラ送るから」

 

「お、おお、わかった。ほれ」

 

彼女は慣れた手つきでスマホを操作し、満足げな表情でスマホを返してくる。

 

「3つ目のお願い。八幡くんは絶対にスマホの待受画面を変えないでください」

 

「は?」

 

恐る恐る、俺はスマホの待受を確認する。

そこには予想通り、俺のほっぺにキスする彼女と、素っ頓狂な顔をした自分の顔が写っていた。

 

「さすがにこれは……」

 

「大丈夫、私もだから。今までは前に撮った写メだったけど、やっとちゃんとしたやつが撮れたね。えへへ」

 

その彼女の笑顔を見てしてまうと断るわけにもいかず、人前では絶対にスマホを操作しないと、そう固く心に決めた俺だった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

プリクラを撮り終えた後は、2F、1Fと順番に見て周り、一通り周り終えたところで休憩のため書店近くの喫茶店に入っている。

 

「いやー、ここ本当に広いねぇ。ちょっと疲れちゃった」

 

「だな。普段歩き回る事がないから結構疲れたわ。やっぱり休みの日は家でゴロゴロするに限る」

 

「じゃあ次は八幡くんの家でお家デートかな?」

 

「なんでそうなんだよ…別にいいけど何もないぞ」

 

「私は八幡くんと一緒にいられればそれでいいよー」

 

「いきなりそういう恥ずかしい事言うのやめてくれませんかねぇ…」

 

「今日のデートで改めて思ってたんだけど、私、八幡くんと一緒にいるとなんか落ち着くんだよね。だから一緒にいられるならどこでもいいかな」

 

「ま、まぁ俺も海老…すいません。姫菜と一緒にいるのは悪くないな。あの、ちょっと、もうその目やめてくれませんか?」

 

海老名さんて言いかけただけで目からハイライトが消えやがった…

 

「あ、そういや前から言おうと思ってたんだが、別に俺のこと呼び捨てでいいぞ?つーかなんでずっとくん付けてたの?」

 

「ヒキタニくんからの流れでねー。でも呼び捨てか…は、はは、ち…ダメだ緊張する…」

 

「緊張の基準がわからねぇ…まぁそのうちな。と、すまん。俺小町にお土産買ってくんだったわ。悪いが少しだけここで待っててくれるか?」

 

「え?私も行くよ?」

 

「いや、もう買うものはだいたい決めてあるんだわ。疲れてるだろうしこのまま休んでてくれ」

 

「ふーん…私がナンパされちゃっても知らないからね」

 

「その時は呼んでくれ。すぐ戻ってくる」

 

「はーい」

 

 

彼女は渋々了承してくれたが、俺がこれから買う物は、まだ彼女には見せられないのだ。

小町へのお土産というのはあくまでも建前で、本当は……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

俺が買い物を終えて戻る頃にはもう日も暮れ始めていたので、そろそろ彼女を送っていくことにした。

 

 

 

彼女の最寄り駅へ着くと、いつもどおり、いつもの道を二人で並んで歩いていく。

 

本当に、修学旅行前の俺じゃあ考えもしなかっただろうな。

海老…いや、姫菜とこんな関係になるなんて。

 

思い返せば最初は不本意だった。

あの嘘告白、付き合うつもりはもちろんなかったし、あんな返答がくるなんて思いもしなかった。

俺から突き放そうともしたが、それでも彼女は俺から離れようとはしなかった。

 

彼女から俺との距離を縮めてくれたってのはやっぱりでかかったな。

最初はまったく信用してなかった俺も、彼女の真剣な思いは嘘ではないと、信用に値すると、そう思えるようになった。

 

そしていつしか、俺からも心を開くようになった。

 

時にはふざけあい、時には真面目に語り合い、確実に一緒の時間を積み重ねてきた。

 

 

 

 

俺も、そろそろ認めてもいいんじゃないか。

 

自分の中にあるこの感情を。

 

人を好きになるってどういう事か、なんて、今までの俺基準じゃわかるわけなかったろ。

 

今までの俺には抱いた事がなかったこの感情。

 

この感情こそが、きっと『本物』だ。

 

 

 

 

「なぁ、ちょっとあそこの公園に寄ってもいいか?」

 

俺と彼女の関係が、ちゃんとスタートしたあの公園に。

 

「珍しいねー、どうしたの?もしかして帰るのが寂しくなっちゃった?」

 

「ああ、そうかもな」

 

「………なにそれ、もうっ」

 

彼女は繋いでいた手を離し、俺の腕に抱きついてくる。

 

「私だって寂しいの我慢してたのに、ずるいよ。そんな事言われたら帰りたくなくなっちゃう」

 

「すまん、ちょっとだけな」

 

そう言って、あの時と同じベンチに俺達は腰掛ける。

 

「渡したいものがあるんだ」

 

それだけ伝えると、俺は先程買っておいた箱を彼女に渡す。

 

「何?」

 

「とりあえず開けてみてくれ。いらなきゃ小町にでもやるから」

 

彼女は箱を開ける。

 

その中には、薄いピンク色の小さな石が埋め込まれたネックレスが入っている。

 

「…………え?これどうしたの?」

 

「まぁ俺らしくないよな。なんつーかだな、その、今日も含めてここ最近の色々な事への礼だ。それに、さすがに俺だけこれもらうっていうのもなんかあれだったしな」

 

「別に私、そんなつもりでそのメガネあげたわけじゃなかったのに…」

 

「やっぱりこんなのいらねーか。まぁそうだよな。俺のセンスの無さは自他共に認めてる。ほれ、返してくれ」

 

「やだ。やだよ。八幡くん、私のために選んでくれたんでしょ?」

 

「あー…あれだな、一緒にぶらついてる時に目に止まったというか、似合うだろうな、って思っちまったんだよ」

 

そんな俺らしくもない恥ずかしいセリフを伝えると、彼女の頬に一筋の涙が流れる。

 

「え?何?泣くほどきもかった?」

 

「あはは、八幡くんはばかだなぁ。こんなの嬉し涙に決まってるじゃん…」

 

「そ、そうか。ならよかった?」

 

「なんで疑問形なの?…ねぇ、八幡くん、今日最後のお願い、いいかな?」

 

「お願いまだあんの…?」

 

 

 

 

 

 

 

「私に、キス、してほしい」

 

 

 

 

彼女のその一言を、聞いて俺は固まってしまった。

 

 

 

「え?マジで?」

 

「こんな事、冗談で言わないよ」

 

「そうか…」

 

 

覚悟を決めるしかないようだ……

 

俺は彼女の前へと移動する。彼女はそれに合わせて目を閉じる。

 

少しずつ、彼女の唇へと近づいていく。

 

俺の唇と彼女の唇が触れるまで、あと少し……

 

 

 

 

 

 

コツン

 

 

 

 

 

 

メガネとメガネがぶつかった。

 

 

「ぷっ…あはは!もう台無しだよー」

 

「すっ、すまん…普段かけるもんじゃないからだな…」

 

「じゃあ、今は外してもいいよ?」

 

 

仕切り直し、俺はメガネを外す。

同じような失敗をしないように、彼女のメガネも外す。

 

 

先程と同じように、彼女は目を閉じる。

 

 

先程と違い、ようやく二人の唇が触れる。

 

 

俺はあまりの恥ずかしさに、ほんの数秒で離れる。

 

 

「……ふふ、しちゃったねー」

 

「恥ずかしくて死にそうなんですが…」

 

「これはもう責任とってもらわなきゃだね、八幡くん」

 

「努力するわ…じゃ、今日はもう帰るか」

 

「だねー。八幡くん、好きだよ」

 

「ばっ、ばかおまえいきなり何を…」

 

 

 

俺ももう、認めてもいいだろ。

 

 

 

「まぁ、なに、俺も、その、好き、かもしれん…」

 

「ちょ、八幡くん、私今の聞こえなかった。もう一回言って?」

 

「無理」

 

「お願い…」

 

「さっきのが最後だっつったろ」

 

それから俺は、逃げるように彼女の家の方へと歩き出す。 

 

 

 

もう、認めよう。

俺は、比企谷八幡は、海老名姫菜を好きになったんだと。

 

 

 

大切な彼女へと送ったネックレス。

 

そのネックレスに埋め込まれた小さな石は、インカローズ。

 

石言葉は

 

《新しい愛》




いかがだったでしょうか。

実はこの話を書き始める前に、今回のデートの舞台であるショッピングモールに実際に行ってきました。
本当に1日じゃ周りきれないくらい広かったです。

お話としては、前回姫菜の気持ちが明確になり、今回で八幡の気持ちが明確になりました。
7話目にしてようやく両思いになることができた今後の二人に期待です。

次回からは原作のお話に戻り、いろはすがクリスマスイベントの相談に来るあたりから始めます。

次回も八幡視点になります。

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