自分の中で本日の更新分は、ある意味第一章の終わりだと思っております。
あまり前書きで長く語っても仕方ないので、詳しくは後書きにて。
今回は姫菜視点になります。
八幡くんの依頼を手伝う事になった私は、帰宅後に電話で依頼の内容を聞いた。
簡単に依頼の内容を整理すると、一色さんは勝手に生徒会長に立候補をさせられてしまい、本人はやりたくない、だからなんとかしてほしいとのこと。
八幡くんは応援演説で自分が酷い演説をすればなんとかなると思ってたみたいだけど、それはもちろん却下した。雪ノ下さんも言ってたらしいけど、たしかに確実性がないしね。
どういった対処をするか決めるのは一旦保留にしてもらって、まずは結衣と雪ノ下さんがどんな対処をしようとしているか私から探りを入れて、それを踏まえてどうするか考えよう、という結論に至った。
翌日、いつもの教室、いつものグループで他愛もない話をしている時に、私は結衣にさり気なく探りを入れるため、声をかける。
「そういえば結衣さ、一色さんって知ってる?」
「ふぇっ?いろはちゃん?知ってるよー?なんでー?」
「昨日会ったんだけどね、なーんかヒキタニくんと仲良さげだったんだよ。あの二人何かあるのかなぁって」
「あー、それはたぶんあれだよ。今いろはちゃんから奉仕部に依頼がきててさ、その話してたとかなんじゃないかな?」
「あ、そうなんだ。でもヒキタニくん一人に話すことなの?結衣とか雪ノ下さんには?」
「それは…今回はちょっと理由があって別行動みたいな感じといいますか…昨日もあたしとゆきのんのところにはちゃんとお話しにきてくれたし!」
「うーん、ヒキタニくん一人にさせちゃうとまた何かやらかしそうだねぇ…私からも変なことしないように言っておくよ」
「それは助かるかも。ヒッキー、また一人でなんとかしようとしてたからさ、今回は私とゆきのんも頑張りたいんだ」
「そっか。結衣達にももう何か考えてる事とかあるの?」
「うん!ゆきのんの話は難しくてよくわかんないんだけど、とりあえず代わりにやってくれる人を見つけようって。誰にお願いするかはまだ相談中なんだけど…」
「いい人が見つかるといいね。雪ノ下さんと頑張ってね」
「うん!ありがとう姫菜!」
うぅ…笑顔が眩しい…
ごめんね結衣、こんなふうに探りを入れちゃって…思ってたよりも罪悪感あるなぁ…
なんて考えていると
「……海老名さぁ、あとでちょっといい?」
ふいに優美子から声をかけられる。
「どうしたの優美子?」
「まぁ、ちょっとね。とりあえず昼休みに屋上ね。たまにはあーしと二人でランチも悪くないっしょ」
「わかった」
なんだろう?優美子から呼び出しなんて珍しい。
まぁ昨日も色々とあったし、話したいこともあるんだろうな。
とりあえず、午前の授業を乗り切ろう。
―――――――――――――――――――――――――――――
昼休み、私は優美子と二人で屋上に来ている。
なぜか終始無言で、もくもくとお弁当を食べていた。気まずい…
話があるんじゃなかったのかな?
「あんさぁー」
「え?」
気まずい空気を察したのか、ようやく優美子が話始めてくれた。
「海老名ここ最近、つーか、修学旅行から帰ってきてから変わったよね」
「変わった…?」
「その、なに、前まではあーしらの前でヒキオの話なんてほとんどしなかったっしょ?なのに結衣とヒキオの話してたからさ。そんなにあんなやつがいいわけ?」
「あんなやつって、一応彼氏なんだけどなぁ」
「あー…そんなにヒキオが好きなん?」
「んー…好き、なのかなぁ。結衣達にも言ってるんだけど、私まだ好きとかよくわかんないんだよねぇ。だけどヒキタニくんは嫌いじゃないの」
「は?なに?そんなんでヒキオと付き合ってたの?あーしの紹介断りまくってたあの海老名が?」
「だってそれは知らない人達だったでしょ。ヒキタニくんはちゃんと知ってる人だし、ヒキタニくんの色んな面を知って、惹かれてるんだと思う。でも私、人をちゃんと好きになったことないから、これが好きっていう事なのかよくわからないんだよねぇ」
「じゃあさ、ちょっと想像してみ?例えば、雪ノ下さんとヒキオが二人仲良く買い物」
八幡くんと雪ノ下さんが仲良く買い物…
「結衣とヒキオが二人でディスティニーデート」
八幡くんと結衣が二人でディスティニーデート…
嫌だ。
そんなの想像するのも嫌。
「ちょ、海老名そんな怖い顔すんなし。目のハイライト完全に消えてっし…」
「え?」
「海老名のそんな顔、あーしが無理矢理男紹介しようとした時ぶりに見た…」
「あぁ…そうかもだねぇ…」
「はぁ…他の女といるとこ想像するだけでそんな顔になっちゃうってことは、海老名がそんだけヒキオのこと好きってことっしょ?」
これが、好き?
いや、どちらかというとただの嫉妬な気が…
「どうだろうねぇ…」
「ま、海老名に自覚がないなら別にいーけど。普段腐ってる海老名がいきなり恋愛脳になるっていうのも無理な話っしょ」
「つか、海老名がいくら大事に思ってても、ヒキオが海老名を泣かすようなことしたらあーしが全力でヒキオとっちめるからね。ヒキオにも言っといて」
……優美子は私の気持ちを確認しにきてくれたのかな?
本当に優美子は面倒見いいなぁ。八幡くんから見た私は、こんなに大切な友達にも遠慮が見えてたのか。さすがに自己嫌悪だよ。
「…優美子あのね、もし私が自分の気持ちに悩んだり、戸惑ったりしてよくわかんなくなっちゃったら、その時は相談に乗ってくれる?」
「は?何言ってんの?あーしと海老名は友達なんだからそんくらい当たり前っしょ」
「ありがとう…」
本当に、本当にありがとう。
そうだ、優美子なら、あの依頼の解決の手がかりをくれるかもしれない。
「さっそく相談があるんだけど…」
「さっそく?もうヒキオのやつなんかやらかしたん?」
「そういうわけじゃないんだけど…放課後一緒にヒキタニくんの話聞いてくれない?」
「ヒキオの話ね…まぁ、わかった。結衣は呼ばなくていいん?」
「うん。なんか今回は別行動らしいから」
こうして私は、優美子と放課後の約束をして屋上をあとにした。
―――――――――――――――――――――――――――――
「……なんで三浦もいんの?」
「は?あーしは海老名に呼ばれたから来ただけだし、つーかヒキオガムシロ使いすぎっしょ。きっも」
放課後、私と八幡くんと優美子は3人でサイゼに来ている。
「まぁまぁ、優美子には依頼のことでちょっと相談に乗ってもらおうと思ってさ」
「依頼のこと?」
「なんだ、まだなんも説明してないのか?」
「うん、ヒキタニくんからしたほうがいいかと思って」
八幡くんが依頼の内容を説明したり、私が今日結衣に聞いた事を一通り説明した後、優美子が話を始める。
「なーんか海老名が結衣に変なこと聞いてると思ったらそういうことね。つーかこんなん悩むこともないっしょ」
「いや三浦、そんな簡単そうに言うけどな…」
「だってそーっしょ?ヒキオのやり方もダメ、結衣達のいう代わりの人を見つけるってのも大変、だったらあの生意気な後輩に生徒会長やってもらえばよくない?」
「だから、本人がそれを嫌がってるんだっつの」
「そう?あの一色って子、やたら外面気にしてるっぽかったし、ヒキオならうまく言いくるめられそうな気がすんだけど。あんた相模大泣きさせるくらいなんだからそれなりに口は達者っしょ?」
「…………………」
八幡くん黙っちゃった。でも何か思いついたような顔してるなぁ。
「ねぇ優美子、例えばどんな言い方すれば一色さんは乗ってくると思う?」
「んー、同級生にナメられたままでいいの?とか?それに生徒会長ってそれなりのステータスな感じもするし」
「なるほどな…三浦、わりぃ、正直助かったわ」
「は?別にヒキオのためにやったわけじゃないし。あーしは海老名に頼まれたから話聞きに来ただけだっての」
「優美子、私からもありがとう。なんか助かっちゃった」
「別にこんくらいいいっしょ。んじゃ、あーしそろそろ帰るから、海老名はヒキオにあの伝言よろしく」
「あ、うん。本当にありがとうね」
優美子はそれだけ言い残し、一足先に帰っていった。
「……三浦からの伝言てなんだ?」
「あー、もし八幡くんが私を泣かせるようなことしたら全力でとっちめるって」
「怖っ。そういや昨日も同じようなこと言われたな…」
「まぁ八幡くんはそんなことしないよねー。で、何か思いついたの?」
「あぁ、まぁな。考えてもなかったが、一色に生徒会長をやらせるってのは問題の解消方法としては一番手っ取り早い。あとはどうやってあいつをその気にさせるかだが、さっき三浦が言っていたのもそうだし、+αの餌を用意してやればいい」
「餌って?」
「まぁはっきり言うと餌は葉山だな。あいつに少しばかり手を借りる。昨日の態度を見る限り、一色は葉山に対してそれなりの好意を向けてんだろ。だからそれを利用する」
八幡くんが…葉山くんを…利用…手を借りる…
「ぐ腐腐腐、八幡くんは隼人くんの手を借りてナニをするのかなぁ…いや、ナニに利用するのかなぁ…やっぱり八幡くんは受けだよね…捻デレ受け、悪くない…」
「おい!ばっか違うから!やめろ!つーかその属性久し振りに見た気がすんな」
「一色さんに餌を与えると同時に私にも餌を与えるなんて、八幡くんなかなかやるね」
「俺でそういう妄想すんのはやめてくれませんかねぇ…まぁ話戻すけど、葉山には海老名さんから頼んでくれると助かるんだが。具体的には応援演説とかを」
「……………………」
「え?この距離で無視?」
「……………………………」
「……無視しながらなんでそんな笑顔なの?」
「……………………………………」
「はぁ…わかったよ…姫菜から頼んでくれると助かるんだが」
「わかった」
八幡くんならわかってくれると思ってたよ。
名前で呼ばれるの、むず痒いけどやっぱりうれしいなぁ。
「じゃあ一色のほうはこっちでなんとかするわ。…送ってくからそろそろ帰るか」
…変に意識してなかったけど、これじゃ3日連続で送ってもらうことになっちゃうな。
「さすがにそんなに毎日送ってもらわなくても大丈夫だよ?妹さんも待ってるんでしょ?」
「ばっかおまえ彼女を一人で帰らせたとか小町にバレたら怒られんだろ。変な気つかわなくていいから早く帰んぞ」
やさしいなぁ。というかもう妹さんにも彼女ができたとか話ししてくれてるんだね。
「そういうことならお言葉に甘えて。というか私のことちゃんと妹さんに紹介してほしいなー」
「まぁ、今度な」
私のことを妹さんに紹介してもらうという約束をとりつけ、私と八幡くんはサイゼをあとにした。
―――――――――――――――――――――――――――――
後日談、というか今回のオチ。
ごめんなさいこれ一回言ってみたかっただけなの…
おし×こよ…ぐ腐腐…
気を取り直して。
後日、私は八幡くんに言われたとおり隼人くんに一色さんの応援演説を頼み、了承をもらうと、すぐに八幡くんにそれを伝えた。
それを聞いた八幡くんは、
葉山が応援演説をするから、その打ち合わせってことにすればその時間はおまえが葉山を独占できる。とか、部活を言い訳にすれば生徒会はうまくサボれるし逆もまた然り。とか、何か困ったことがあったら葉山に相談すればいい。あいつが応援演説するんだからそれくらいの責任とってもらえ。とか…
まぁ見事に一色さんを言いくるめてその気にさせたみたいです。
立派な生徒会長になって勝手に立候補させたやつを見返してやれ。とも言ったらしいけど、これは優美子の受け売りかな。
奉仕部のほうには一色さんが、
やっぱり生徒会長やる気になったので依頼は取り消しでお願いします!
と伝えに行ったらしい。
これであとは生徒会選挙当日を待つだけだ。
まぁ、とにかく…
「八幡くん、今回はお疲れ様」
「おう。つーかこっちこそ色々と助かったわ」
事後処理も含め色々と片付いた私と八幡くんは、いつものように一緒に下校をしている。というか私が送ってもらっている。
「いやいやー、私は隼人くんに応援演説お願いしに行っただけだよ」
「いや、三浦も連れてきてくれたりしてくれただろ。それに、もし俺一人で解決策を考えてたとしたら多分今回みたいな結果にはなってねーよ。だから、その、まぁ、ありがと…な」
「八幡くんって素直にお礼言えんたんだ」
「は?俺とか超素直だろ」
「あー、はいはい」
「なんか俺の扱い雑になってませんかねぇ…」
「あれれ?八幡くん拗ねちゃった?冗談だよー、ごめんね?」
「別にいいけどよ…あーそういや、今回はなんか世話になっちまったし、一応礼がしたいんだが、なんか俺にしてほしい事とかあるか?言っとくが前回みたいなやつはなしで」
「んー…じゃあ八幡くん、私とデートしよっか」
「へ?」
「だからデートだよ。私達って、付き合ってからまだどこにも出かけてないじゃない?いつも八幡くんがこうやって私を家まで送ってくれてるけど、手を繋ぎながら送ってくれてるけど、たまにはおでかけしたいなーって」
「なんで今手を繋ぎながらって言い直したの?意識しちゃうと恥ずかしくなるからやめてくんね?…まぁ、たしかにどこにも行ったことないしな。まぁ、わかった。そのうちな」
「そのうちじゃダメだよー。今度の日曜とかどうかな?」
「日曜はプリキュ…なんでもないですすいません行きます。行きますからその手の力を緩めてください」
「じゃあよろしくね。どこ行こっか?池袋?池袋かな?ぐ腐腐…」
「普通の人が言う池袋と海老…って手痛ぇ…姫菜の言う池袋って別世界な気がするからなんかやだ。つーかちゃんと名前で呼んだんだから手の力緩めろっての」
「んー、そっかぁ。じゃあしょうがないね。じゃ、幕張にあるショッピングモールにしよっか。あそこなら広いし色々と見て回れるよね?」
「あー、あそこな。なんだかんだ買い物はららぽに行っちまうからあんまり行ったことないんだが、まぁ、そこで」
「うん」
「あー…あとよ、その、あれだ。ここ最近、一色の相手ばっかしててあんまり一緒にいてやれなくて悪かったな。あんなふうに言ったばかりだっつーのに、いくら依頼とはいえずっと他の女子といてすまんかった」
「え……?」
「え?ってなんだよ。え、なに?俺の自意識過剰?今日微妙に俺に対する態度がおかしいのって、そういうの気にしてたからだと思ったんだが…」
本当にこの人は、なんで私のことをこんなに理解してくれているのだろうか。
はっきり言うとそのとおりで、私は一色さんにヤキモチを焼いてしまってた。
こんな事考えちゃう私って…
「私って、なんか嫌な女だね…ごめんね、たしかに一色さんは八幡くんとずっと一緒にいれていいなーとか思ってたけど、まさかそんなに態度に出てるなんて…」
「いや、別にいいんじゃねーの?ヤキモチ?っていうのは、一種の愛情表情だってどっかの本で見た気がするしな。まぁ度が過ぎるのは困るが、俺になんも言わずに抱え込まれたほうが困る」
「でも、八幡くんはそういうのしないでしょ?」
「………………………」
無言で赤くなった。あれ?
「もしかして、八幡くんもそういうの、してたりする?」
「………………………いや?」
「………なんも言わずに抱え込まれたほうが困るなー」
「………いや、まぁ、ほら、俺も普通の一般的な男子高校生だし?それなりに?」
「なにそれー…そっか、私には言ってくれないんだね…」
「べっ、別にそういうわけじゃねぇけど…」
「はぁ……」
「……あーもう、わかった。俺が悪かった。俺も似たようなこと思ってたよ」
「…………具体的には」
「…はっ、…はや…まと…二人で…話し合い…してるとき…とか、だな…。あーもういいだろお互いさまって事でもうやめようぜこの話…」
ギュッ…
私は、気がつくと思いっきり八幡くんに抱きついていた。
ギューッ
「あ、あの、海老名さん?ほら、人目が、ですね」
「ありがとう」
「は!?」
「私に対して、そんなふうに思ってくれて、ありがとう…八幡くん」
「おーけーわかった。わかったから一旦離れよう。な?」
「今はちょっと無理だよ…」
「はぁ…まじかよ…」
嬉しい。嬉しい。嬉しい。
お互いが、お互いのことを、まだ好きだと言ったこともない。
それなのに、お互いのことをこんなにも思えている。
『はぁ…他の女といるとこ想像するだけでそんな顔になっちゃうってことは、海老名がそんだけヒキオのこと好きってことっしょ?』
ふいに、大切な友達から言われた言葉を思い出す。
あぁ、そっか、好きになるって、こういう事なんだね。
「ねぇ、八幡くん」
「なんだよ…恥ずかしすぎて死にそうなんだが…」
「私、好きだよ。八幡くんのことが。本当に、大好き」
それだけ言い終えると、私はパッと八幡くんから離れた。
彼の顔を見上げると、今まで見たこともないくらい真っ赤になってる。
「初デート、期待してるから。よろしくね、八幡くん」
「お、おう……」
まだ顔を真っ赤にしている彼の手をとり、私は家のある方へ歩いて行く。
まだ一緒にいたい気持ちもあるけれど、私もそろそろ恥ずかしさの限界だ。
彼は、私の仮面の下を見破ってくれた。
彼は、固く蓋をされたはずの私の心を見透かし、さらにその蓋を外してくれた。
そんな彼へと向けられるこの感情は『恋』だ。
私は、ようやく自分の気持ちを明確にすることができた。
今、私は、初恋の彼とのデートが、楽しみでしょうがない。
いかがだったでしょうか。
一色いろはすの依頼、あっさり解決しすぎだろ!と感じてしまわれた方には申し訳ありません。
自分自身、いろはす大好きなのでこの扱いのままでいくかはすごく悩んたのですが、このSSはあくまでも姫菜をメインヒロインとしてやっていきたかったので今回のようになりました。もし至らない部分があったとすれば、それは自分の力不足です…
今回で、姫菜の気持ちは明確なものになりました。あーしさん本当にナイスアシスト…
自分の中での第一章は、姫菜の気持ちを明確にするところまでだと思っていたので、まずはここまで書き続ける事ができてよかったです。もちろんこのSSは今後も続けます。
さてさて対する八幡の気持ちは今後どうなるのか。
次回は、念願だったデート回です!
デート回は、八幡視点になります。