腐った私と腐った目の彼   作:鉄生

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世間はバレンタインですね。
八×姫のバレンタイン特別編も考えましたが、本編を優先したかったのでそれはまた後日にでも書ければいいなと思ってます。

前回の投稿から感想やお気に入りが増え、かなり驚いております。
このSSを読んでくれている方々には感謝しかありません!ありがとうございます!

今回は八幡視点になります。


彼と彼女はお互いに心を開き始める

「お兄ちゃーん、今日は随分遅かったねー。お風呂にする?小町にする?ご飯にする?それとも小町?」

 

放課後、平塚先生の魔の手からなんとか逃げ出した俺は、ほんの気まぐれで寄ったドーナツショップで魔王に捕まってしまったり、その店に居合わせた中学の同級生に黒歴史を暴露されたり、海老名さんとなんやかんやあったり…

そんなこんなでいつもよりかなり遅い時間に帰宅をした。

 

というか小町ちゃん?今小町って2回言ってなかった?大事な事だったの?

 

「あー…とりあえず風呂入ってくるわ。出たら飯で」

 

「いやーそこは迷わず小町って言うところでしょ!ポイント低いよお兄ちゃん!」

 

「ん、まぁここ最近色々あったからな。小町には色々と済ませてからゆっくりと話したいんだよ。お、今の八幡的にポイント高い」

 

「…………………え、お兄ちゃん、だよね?なんか変な物でも食べた?」

 

え?なんなのこの反応?ひどくない?

 

「食ってねーよ。まぁ今回のことに関しては相談にのってほしいっていうのもあるからな。詳しくは後で言うわ」

 

その後、さっさと風呂に入り夕飯も済ませた俺は、小町と二人でリビングのソファーに腰かけ、ここ数日の間にあったことを話し始める。

 

「あー…小町、最初に言っとくが、今から俺はものすごく衝撃的な発言をする。なんとか正気を保てよ」

 

「お兄ちゃん何言ってんの?ばかなの?」

 

「あのな、俺に彼女ができた」

 

ドッスーン!

 

小町がソファーから転がり落ちた。驚かれるのは予想してたがリアクションでかすぎだろ。

 

「お、おい、大丈夫か?」

 

「あ、ありえない…ありえないよお兄ちゃん!目を覚まして!帰ってきて!」

 

「いや、俺もまだあまり実感はないんだが、これは現実だ」

 

「そ、そんな…こんな急展開はさすがに予想外だよ…ちなみに彼女さんて?結衣さん?雪乃さん?もしくは大穴で大志くんのお姉さん?」

 

「は?なんであいつらの名前が出てくんだよ。おまえも千葉村で会ってる海老名さん。眼鏡の」

 

俺がそう言った瞬間、小町の表情が固まる。

あ、これあれですね、覚えてないってやつですね。

 

「あー…なんだ、この人だよこの人」

 

どんな人か思い出せないであろう小町に、先程海老名さんが撮影し、いらないと言ったのに無理矢理送りつけてきた写真を見せる。

べ、別に初めてできた彼女に浮かれて自慢してるわけじゃないんだからね!

…なんだよこれ。俺のツンデレとか誰得だよ。

 

「ほえ!?あ、あーこの人か。う、うん!覚えてるよ!覚えてる!ていうかこんな写真撮ってるってことは本当に付き合ってるの…?」

 

「おまえはまだ俺の言うことを信じてなかったの!?」

 

「いやー、本当に信じられないくらい衝撃的だったよ。小町なんか疲れちゃったしもう寝るね…」

 

それだけ言い残し、小町はそそくさと自室に戻っていった。

正直まだ聞いてもらいたい話はあったのだが、まぁ今日のところはいいか。

 

「本当に、付き合うんだな。海老名さんと」

 

リビングに残された俺は、自分のスマホに表示される写真を見つめながら、そう呟くのだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

翌日、いつもどおりに登校し、教室へ到着するなり机に突っ伏す。

彼女ができたからといって、俺のこの教室内での立ち位置は変わらない。

このまま寝たふりでもしながら適当に朝のHRをやり過ごすだけだ。

 

 

 

なんて考えていた時代が俺にもありました。

 

トントン…

 

ふいに肩を叩かれ顔を上げると、そこには海老名さんの姿が。

 

「やぁやぁヒキタニくん、はろはろ〜」

 

「は?」

 

あれ?この子昨日俺の事名前呼びしてなかったっけ?え、夢?

 

などと考えていると、彼女は俺の動揺を察したのか、顔を耳元まで近づけ俺にしか聞こえないくらいの声で囁く。

 

「もしかして、名前で呼ばれないのがご不満かな?昨日の昼休みにも言ったけど、一応周りに合わせてるだけだよ。名前で呼んで変に注目集めるのも嫌かと思って」

 

呼び方に気をつかえるなら俺の袖を掴みながら教室に戻ってきたりするのもやめてもらいたかった…

というか今の行動のせいで由比ヶ浜とか川なんとかさんからやたら睨まれてる気がするのは気のせいか?

 

「それに言ったよね?私があぁなるのは、八幡の前でだけだよ」

 

そう言い残すと彼女はさっさと自分の所属するグループの元へ戻っていった。

 

なんだよ今の!うっかりときめいちまったじゃねぇか!!!!!

 

「…驚いたな」

 

「あ?なんだ葉山か」

 

「やぁ比企谷。ちょっといいかな?」

 

「いや、ちょっと今あれだから無理だ」

 

「まぁまぁ…昨日の折本さん達との事なんだけどさ」

 

「は?あぁ、そういや雪ノ下さんが紹介するとか言ってたな」

 

「それで、今度の日曜とかどうかな?」

 

「なにが?」

 

「いやいや、一緒に出かけるって話だよ。もしかして折本さんから連絡いってない?」

 

「知らん。連絡先も知らん」

 

「困ったな…陽乃さんに比企谷は絶対に連れて行くよう言われてるんだが…」

 

「どっちにしても休みの日は無理だ。なんでわざわざ休みの日に出かけなきゃいけねーんだ。俺にもまぁ、色々とあんだよ」

 

プリ◯ュア見たりとかゴロゴロしたりとかな。

 

「そうか…じゃあ今日の放課後とかどうかな?言っとくが、君が来ないようなら陽乃さんが迎えに来るとも言ってたぞ」

 

「なんだよそれ逃げ場ねぇじゃねぇか…」

 

「まぁそういうことだから、よろしく頼むよ」

 

奉仕部は…まぁいいか。

あんな状態だし俺が言ったところでどーにもならんだろ。

なんにしてもめんどくせぇ…

そんなことを考えつつ、俺はようやく机の上で眠りにつくのだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「葉山くんお待たせー!」

 

放課後、雪ノ下さんに迎えに来られても困るので、俺は大人しく葉山と共に千葉駅に来ていた。

はぁ…帰りたい…

 

「あれ?比企谷も来たんだー?ウケる!」

 

「まぁなりゆきでな」

 

これ俺が来る必要なかったじゃん。帰っていい?

 

「で、これからどうしよっか?映画見たいんだっけ?」

 

「うん!映画見たいよねー!どんなの見よっかー?」

 

「んー、恋愛ー?」

 

「それある!やっぱり恋愛だよねー!」

 

はは…くだらねぇ…

 

千葉駅唯一の映画館である京成ローザへと向かう葉山御一行。

俺は少し離れて歩きながら付いていった。

 

 

 

映画はまぁ可もなく不可もなくといった内容だった。

映画を見終えた俺達は、葉山の発案で近くにあるショッピングモールに来ていた。

折本とその友人である女子は葉山と楽しそうにウインドウショッピングをしている。

…ていうか本当に俺がここにいる意味ある?

 

「あっ」

 

どこからか聞き覚えのある声が聞こえる。

 

「ん?」

 

振り向くと、そこには海老名さんと三浦の姿があった。

これはあかん…

 

「お、おい葉山、そろそろ行ったほうがいいぞ」

 

「え?」

 

「あれ、隼人くんじゃね?隼人くーん」

 

海老名さん達がいるところとは別の方向から葉山を呼ぶ声が聞こえる。

そこには戸部と…誰だっけこの子?どっかで見た気が…あぁ城廻先輩が連れて来た依頼のやつだ。たしか一色だっけか。

 

「ちょ、隼人くん聞いてよー。いろはすが新しいジャージ欲しいって言うから来たのにプロテインばっかりー」

 

くそ!戸部!俺達はここから一刻も早く離脱しなきゃいけないんだ邪魔するな!

 

「せーんぱい!」

 

「は?」

 

気がつくと俺の真横には一色が立っていた。

いろはす速い近い速い怖い!

 

「せんぱいこんなところで何してるんですかー?私今日奉仕部に昨日のことを詳しくお話しに行ったのにいなかったですよねー?遊んでるんですかー?」

 

「…ていうか、あの女なんですか?あ、あれが先輩の彼女さんとか?でも二人いるじゃないですかー?どういう繋がりですか?」

 

怖っ!いろはす怖っ!なんでそんな低い声出せんの?

いやまぁ部活ばっくれたのは俺が悪いけどさ…

 

「いろはごめん、俺が付き合ってもらってるんだ」

 

「あ、そうなんですかー」

 

 

「ちょ、隼人それどーいう意味?あーしの誘い断ってヒキオと遊んでんの?」

 

あぁ…遅かったか…

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

あのままショッピングモール内で立ち話するわけにもいかず、俺達は近くの喫茶店に来ている。

ちなみに折本とその友人、それと戸部は逃げるように先に帰った。

つまりこの場には俺、葉山、海老名さん、三浦、一色の五人が残っているのだ。

 

「つーか、ヒキオは何してんの?」

 

「は?お、俺?」

 

「決まってるっしょ。あんさー、あんた海老名と付き合ってるんしょ?何さっそく他の女と遊んでるわけ?ふざけてんの?」

 

「あ、この方がせんぱいの彼女さんだったんですねー。本当に部活までサボって何してるんですかー?」

 

「……………」

 

こいつらの言ってる事が正論すぎて何も言えねぇ…

 

「まぁまぁ。私別にそういうの気にしないし、きっとヒキタニくんにも何かあったんだよ。ね?」

 

「そ、そうなんだよ。比企谷は俺から誘ったんだ。今日一緒にいた子達とは中学のときの知り合いみたいだったからさ」

 

「そ。まぁ海老名がそういうならいいけど。けどヒキオ」

 

「ひ、ひゃい!」

 

三浦の睨み怖ぇ…声裏返っちまった…

 

「あんた、もし海老名を悲しませるようなことしたら……わかってんでしょうね?」

 

「うす!!」

 

「ところでせんぱい、私の依頼はほったらかしなんですかー?」

 

「あ?それならあれだ今回は雪ノ下と由比ヶ浜とは別行動だ」

 

「へー。でも私の依頼の事なんて考えてる様子じゃなかったですよねー?」

 

「べ、別にそんなことねーし色々と考えてるからなマジで」

 

「そ、そろそろいい時間だし今日のところはこの辺でお開きにしようか。ほら、優美子といろはは駅まで送るからさ」

 

ナイスだ葉山。俺は今初めておまえのことをいいやつだと思ってしまった。

 

「じゃあ、海老名、さんは俺が送るわ」

 

ようやくこの修羅場から脱出できる…

 

「あーし隼人の話まだなんも聞いてないんだけど。あの女とはなんなの?」

 

「いや、それは…」

 

「あ、私も葉山先輩のお話聞きたいでーす」

 

…おい。帰らせてくれよ。

 

「じゃあ、私達は先に帰ろっか。ね?ヒキタニくん。優美子、悪いけど先に行くね」

 

「あーい」

 

海老名さん、あなたは天使か。

 

海老名さんのナイスなアシストもあり、俺は一足早くあの修羅場からの脱出に成功したのだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

海老名さんを送ると言った俺は、さすがに駅までじゃ悪いと思い家の近くまで送っていく事にした。

しかし海老名さんの最寄駅についてからは終始無言。

ぶっちゃけ気まずい。などと考えていると…

 

ギュッ…

 

ふいに手を繋がれていた。

 

「ねぇ八幡くん、本当はね、私、少し気にしちゃってるんだ」

 

「へ?」

 

「さっきは優美子達もいたしあんなふうに言っちゃったけどさ、気にしちゃってるの。八幡くんが他の女の子達と遊んでたってこと」

 

「お、おう…」

 

「ごめんね。こういうの重いよね。けどね、今日もそうだし、昨日のドーナツショップの時もそう。八幡くんが私の知らないところで他の女の子達と一緒にいるところを見ちゃうと、胸がきゅーってなるの。こんなこと初めてなんだけど、きっとこれが嫉妬なんだろうね。あはは…」

 

昨日から海老名さんは、俺と二人きりの時に限り普段つけている仮面を外すようになった。

本人は自覚してないだろうし、俺がその仮面の下を見破っていると思っているようだがそれは違う。海老名さんが外してくれるようになったんだ。そんなの今の彼女の表情を見ればわかる。こんな無理矢理作ったような、辛そうな笑顔を見れば。

 

「すまん、俺が軽率だった」

 

「え?あ、いーよいーよ気にしないで!こんなの私のわがままだし…」

 

「いや、そうじゃなくてだな…その、なに、せっかく海老名さんが俺に対して色々と思ってくれてるのに、俺はまだどこかでそれを信じきれてなかった。だから今日も海老名さんの気持ちなんて何も考えず誘われるがまま軽率な行動しちまった。だからすまん」

 

「…ちょっと遠回しすぎてよくわからないんだけど、それは私のことを信じてくれるようになったっていうこと?」

 

「ああ。まぁ言い訳に聞こえるだろうが、俺も昔色々あったからな。だから疑心暗鬼になっちまう部分もあったんだが、それはもうやめるわ」

 

「そっか。うれしいなぁ…えへへー」

 

そうだ。もう彼女を疑う事はやめよう。まだはっきり好きと言われたことはないが、こんなにも真剣に俺を思ってくれている彼女の事を疑うのは。

彼女のこの思いは、きっと『本物』だ。

 

「お詫びと言っちゃなんだが、何か俺にしてやれることはないか?言っとくが、金はないぞ」

 

「じゃあ名前で呼んで」

 

「それ以外でお願いします」

 

「えー!!!!」

 

「それは恥ずかしいんでまだ無理だ」

 

こんなふうに海老名さんのこと意識し始めちゃったときにいきなり名前呼びとかマジで無理だから。

こういうときサラッと名前で呼んだらかっこつくんだろうが、残念ながら俺は比企谷八幡なのだ。

 

 

 

 

「じゃあ、一色さんの言ってた依頼に、私も協力させて?結衣とか雪ノ下さんとは別行動って言ってたし、きっとまた一人で抱え込もうとしてたでしょ?だから、私に協力させてほしい」

 

「………は?」

 

随分と俺に理解されている事を喜んでたみたいだが、この人も俺の事めちゃくちゃ理解してくれてんじゃねぇか。

なるほどな、これはたしかに嬉しいわ。

 

「私は八幡くんの彼女なんだし、彼氏には頼られたいんだよ。ダメ、かな?」

 

「すまん、正直助かる。じゃあ、まぁ、頼むわ、姫菜」

 

「ふぇっ!?」

 

前言撤回。呼んじゃったわ普通に。

 

「ほら、さっさと帰るぞ。あんまり遅くなると小町に心配かけちまう」

 

「ちょ、ちょっと!八幡くん、もう一回!もう一回!」

 

「いや無理だからもう限界だから」

 

柄にもない事をしたと、自分でも思う。

だけどたまにはこんな青春ラブコメも悪くないと思った。

 

 

俺の隣を、一緒に歩いてくれている彼女となら。




いかがだったでしょうか。

自分で見直してみて、ちょっと詰め込みすぎたかな?とも思いましたが、最後の部分はどうしても書きたかったので…

海老名さんにはめっちゃヤキモチを焼いてほしいという自分の願望丸出しですいません。
ヤキモチを焼いてくれる海老名さんって想像するとめちゃくちゃかわいくないですか…?

次回は生徒会長選挙解決編で、姫菜視点になります。

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