今回の話は八幡視点になります。
なかなか思うように表現できない部分もありますが、読んでみて頂けるとうれしいです。
「「…………………は?」」
いかんいかん戸部とハモってしまった。
…って、ちょっと待て!!!!!
状況が理解できん。
海老名さん?あなた今何て言った?
というか『比企谷』くんって言った?名前知ってたの?
「いや、あの…」
「話はもう終わりかな?じゃあ私はもう行くねー。これからよろしくね、『比企谷』くん♪」
満面の笑みでそう言うと、海老名さんは立ち去ろうとする。
「いや、ちょっと待ってくれ」
俺は引き止める。
「あ、そうかそうか。今後の話だよね。じゃあ、帰りの新幹線に乗る前に、駅の屋上に来てくれるかな?もちろん一人で!」
じゃあね〜と言いながら今度こそ立ち去ってしまう。
……………いやいやいやいやいや、は!???!?
え?どういうこと何これ?
おそらく海老名さんの依頼の男子同士で仲良くというというのは、自分に男子を近づけないでほしいという意味で間違いないはずだ。
だが戸部からの依頼を放棄するわけにもいかず、俺は戸部の意思を確認し、戸部が告白してしまう前に手を打った。
これで海老名さんが
「今は誰とも付き合う気はない」
とでも言ってくれれば今回の件はすべて丸く収まるはずだった。
はず、だったのだが……
「どうしてこうなった……」
「ヒキタニくん、さすがにこれはないわ〜…」
「戸部、今は一度宿に戻ろう」
戸部は葉山に連れられ宿へと戻る。
あぁ、理解が追いつかない。
なんだこれ。え?俺彼女できたの?リア充の仲間入りなの?
「とりあえず俺も戻るか……」
俺も一旦宿に戻ろうと振り返る。
そこには顔を真っ赤にして頬を膨らませている由比ヶ浜と、なぜか笑顔の雪ノ下がいた。
「よーっし、ちょっと夜の竹林でも散歩してくるかな」
俺は再度振り返る。よし、ダッシュで逃げよう。3、2、1で走り出そう。
3、2、、、
「比企谷くん?」
「ヒッキー!?」
あぁ、愛しの妹小町よ、お兄ちゃんはもう千葉に帰れないかもしれません……
―――――――――――――――――――――――――――――
「比企谷くん、まずは説明してもらえるかしら?」
なんだよその笑顔怖い、怖いよ。あと怖い。
「そうだよヒッキー!なんでヒッキーが姫菜に告ってんの!?なんでおっけーされてんの!?二人は付き合うの!?」
質問多いね、うん。
「いや、説明って言われたって俺にだってこの状況がよくわか「なぜ告白したの?」ってない…」
いや、最後まで言わせろよ…
「まぁ、それはあれだ、どうせ戸部があのまま告白したって振られるのはわかりきってただろ?だから俺が告白し「ヒッキーは姫菜の事が好きなの!?」てだな…」
だから最後まで言わせろよ!
「いや、好きじゃねぇよ。あそこで俺が戸部の目の前で告白して、海老名さんに今は誰とも付き合う気はないと振ってもらえれば戸部の告白は防げただろ。そうす「なんで戸部っちが告白しちゃいけないの?」れば……」
あのね?由比ヶ浜さん?お願いだから話を聞いて?
「あー、それはだな、嵐山に行く前に海老名さんと少し話をしたんだが、その時に告白されたくないような事を間接的に言われてだな、葉山にも相談したらしいんだがあいつは戸部を止めることができなかったから、仕方なく俺が行動を起こしたんだよ…」
ようやく言いたいことを伝え終わると雪ノ下に睨みつけられる。
「話はわかったわ。でもそれがどうしてあなたが告白する理由になるの?あわよくばOKをもらってしまおうなどと下衆な考えをしていたのではないかしら?だいたいOKをもらってあなたは彼女と付き合うの?告り谷くん?」
「いやだから俺も理解が追いついてねーんだよ…振られるつもりだったって言っただろ?」
「では海老名さんを今すぐここに呼んで、私達の前できっぱりと彼女に言いなさい。さっきの告白は嘘でした、付き合う気はありません、と」
「いやいやなんでそうなるんだよ」
「では付き合うの?」
「だからそんなつもりはねーって。どうせ帰りの新幹線に乗る前に呼び出されてんだから、その時にでも話はつけてくるよ…」
「なら私達も行くわ」
「そーだよ!なんかよくわかんないけど私も行くよ!」
「さっきの話聞いてた?一人で来いって言われてたろ。まぁ俺一人で行ってもなんとかなるだろ…」
「そう…なら詳細はあとで報告しなさい。絶対によ」
「隠し事はダメだからね!ヒッキー!」
「わーったよ」
あぁ、今から先が思いやられる…。まずは海老名さんが何を考えてあんな返事をしたのか聞いてからだな。きっとあの人の事だから、俺の告白の真意には気づいていたはずだ。じゃあ、なぜあの返事を?ここが俺にはわからない。戸部を諦めさせるために意図してやったのか、それとも別の考えがあったのか、今の俺にはわからない。
色々と考え込みながら宿に戻っていると、ふと自販機が目に入る。
これだけの事があった日だ。考える事が多すぎて頭も回らなくなってきた。千葉県民のエナジードリンクでも飲んで、糖分を補給しよう。
そして自販機の目の前、俺は絶望する事になる。
「……京都にはマッ缶ねぇんだった」
早く千葉に帰りたいと、切実に思った。
―――――――――――――――――――――――――――――
京都駅 屋上
「はろはろ〜。お待たせしちゃった?」
「うす」
「あははー。釣れないなぁ。先にお礼を言っておくね。ありがとう。」
「別に言わなくていい。相談された事についちゃ解決はしてない。むしろ俺が宿に戻った後なんて男子同士で気まずくなったまである」
「あー……でも、理解はしてたでしょ?」
やはり、俺の予想は当たっていた。海老名さんの言う男子同士で仲良く、という依頼は自分から男子を遠ざけてほしい、ひいては戸部の告白を未然に防いでほしいという事だったらしい。
でも、だったら…
「なんであんな返事をしたんだ?俺の考えもわかってただろ?」
「うん。わかってた。比企谷くんの考えを、私は理解してた」
「じゃあ…」
「私、腐ってるから」
俺の言葉を遮り、海老名さんは続ける。
「こんな趣味だし、普通の人に理解をしてもらえるとは思えない。けどさ、今は周りに普通の友達がいるじゃない?こんな私と仲良くやってくれる、今の自分の周りが好きなんだよ」
「こういうの久しぶりだから、なくすのは惜しいなって。今いる場所が、一緒にいてくれる人達が好きなんだ」
「けどね、その好きはLikeであって恋愛的な感情ではないんだよ。それなのに私に、誰かが恋愛感情をぶつけたら、きっとあのグループは壊れちゃうよね。まずそれが、戸部っちからの告白を防いでもらいたかった理由」
それは俺もわかっていた。俺に言わせれば、その程度で壊れる関係なんて上辺でしかない。その程度で壊れる関係なんてあってもなくても同じだ。だが、海老名姫菜はそれを守りたかったのだろう。
「それはなんとなくわかってたし、葉山も同じような事を言っていた。だけど、あの返事をする必要はなかっただろ?」
俺がもっともはっきりさせたい事は、これだ。
「比企谷くんさ、鈍感だよね」
「………ふぇ?」
思わず変な声出ちゃったよ!
「私、まだ恋愛とかはよくわからないけど、比企谷くんのこと、嫌いじゃないよ。それに比企谷くんとなら、うまく付き合えると思う」
「……じょ、じょ、冗談でもやめてくれ、そんな適当なこと言われるとうっかり勘違いして惚れそうになる」
じょじょじょってなんだよ大事なとこでどもっちゃったよ。
「冗談じゃないよ。きっと比企谷くんさ、普段の私が『本当の』私じゃないってわかってるよね?」
俺を見つめる海老名さんの目は真剣なものだった。
「今回の依頼は、比企谷くんを試したっていうのもあったんだよ。比企谷くんは、本当の私を、私の本音を察して理解してくれるのかなぁって。そしたらさ、告白されちゃうんだもん。私の本音を理解してくれて、その上告白までしてくれた。比企谷くんの事はある程度理解してるつもりだったけど予想以上だったよ」
「私の予想を超えてくれて本当にうれしかったし、そんな比企谷くんと付き合うのも面白そうだなーって思っちゃって、だからおっけーしてみました!」
そう言うと、海老名さんがここに来てから初めて笑った。この笑顔が偽りのものなのかそうでないのか今の俺はなんとなくわかってしまう。だが…
「……それはあれだな。俺を随分と高く評価してくれてるみたいだが、俺はそんな立派な人間じゃない。つまり勘違いだ」
「だから俺なんてやめておけ。今ならまだ噂も全然広まってもないみたいだし、いくらでも後戻りはできんだろ。つまりあの告白はなしってことで。じゃ」
おっけー八幡超クール。自分から告白しといてこんなこと言うのはさすがにあれだが、これで海老名さんも引いてくれるだろう。
俺は屋上を後にし、クラスメイト達が待機している列の目の前まで戻ってきた。思い出話に花を咲かせているクラスメイト達は少し離れた場所でも声が聞こえるくらいガヤガヤとしていた。
俺は戸塚を見つけてから列に戻ろうと、周りをキョロキョロと見渡す。そんな時だった。
「ひきがやく〜ん。どうして『彼女』の私を置いて先に行っちゃうの〜」
なぜか俺の腕に海老名さんが抱きついてきた。
柔らかいいい匂いやばい柔らかい意外とあるんすね柔らかい。
じゃなくて!!!
再び周りを見渡すと、クラスメイト達はシーンと静まり返り、俺と海老名さんに目線を向けている……
「はぁ、もう帰りたい。……あ、これから帰るのか」
生きて帰れるかな……
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
次回からは生徒会選挙編になります。次の話も八幡視点です。
あまり接点のないいろはすと海老名さんを絡ませるのが楽しみです。
誤字や脱字があったりと、読みづらい部分もあると思いますが、次回も読んで頂けるとうれしいですm(_ _)m