腐った私と腐った目の彼   作:鉄生

11 / 11
待っていていただけた方、大変お待たせいたしました。
ディスティニーランド編は今回で完結です。

今回は本当に悩む部分が多かったですが、途中から書いていて楽しくなってしまいました。

今回も姫菜視点になります。


彼女と彼と夢の国《後編》

『パレード開始30分前にお城の前で』

 

それが待ち合わせのために結衣から指定された場所と時間だ。

優美子のほうにも、合流するのは結衣と雪ノ下さんだけにしてと連絡しておいた。

優美子の事だから、気になってしかたないだろう。面倒見がいいし、きっと私を心配してくれているはず。

だけど、今回ばかりは私一人であの二人と話をしないと意味がないのだ。

 

彼にとって、大切な場所である奉仕部。

 

その奉仕部で、彼と共に長い時間を過ごしてきたあの二人。

 

きっと彼の優しさに触れてきただろう。

 

きっと彼の捻くれた考えに呆れてきただろう。

 

けれど、きっと彼の事を信用しているだろう。

 

だからこそ、奉仕部への依頼のために嘘の告白をした彼をよく思っていないのだろう。

そして、嘘の告白とわかっていながら受け入れた私のこともきっとよく思っていない。

 

思えば私と彼の関係は、スタートが普通ではなかった。

彼の告白は本心でないとわかっていながらもそれを受け入れた私。交際を始めてからも、私は彼を嫌いじゃないとしか言えず、彼も私と付き合う事は不本意だと言っていた。

そんな偽物のようなスタートをしてしまった。

 

だけどきっと、私と彼とでは普通のスタートはできなかったはずだ。

偽りの仮面を被り続けていた私と、人を信用する事を拒んでいた彼では。

 

だから、私はこれでよかったと思っている。

スタートがどんな形であれ、今の私達の気持ちは付き合い始めた頃とは違う。

時間をかけて、お互いの気持ちを『本物』にすることができた。

 

そんな今の私達の気持ちを、あの二人に認めてもらいたい。

彼の本質を知っているであろう二人に。

 

 

 

 

 

 

 

そして、私と彼との間に付け入る隙はないとわかってもらいたい。

私と付き合って、彼はこんなにも変わったんだと見せつけたい。

 

我ながら酷い考えをしていると思う。

けれど、これもやっぱり私の本音なのだ。

 

結衣はきっと彼の事を好きだと思う。明確に言葉にしていた事はないが、普段の態度を見ていればさすがにわかる。

 

雪ノ下さんはどうだろう。好意ではないのかもしれないけれど、他の人を見る目と彼を見る目が違っているのはなんとなくわかる。

 

そんな二人には、きっちりとわかってもらいたい。

彼の隣にいるのは、私だって。

 

私のこんな一面を知ったら、彼は私に失望するかな。

重いって思われちゃうかな。きっと思うよね。

彼は前に、ヤキモチは一種の愛情表現だと言ってくれたことがある。

けれどこれはヤキモチなんてものじゃない。

腐った私の、酷い独占欲。

 

 

私がこんなふうになってしまうほどに、私は彼が好きなのだ。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「姫菜、お待たせ」

 

「……随分と楽しんでいたようね。というかあなた、メガネなんてかけていたかしら?」

 

待ち合わせ時間の5分前、彼女達はやってきた。

 

「これは伊達メガネだ。つーか姫菜、こいつらの前だしメガネは外しててもいいか?」

 

「ひ、姫菜!?ヒッキー姫菜の事名前で呼んでたっけ!?」

 

「うん、いいよ」

 

「ヒッキー無視!?」

 

「やかましいやつだなおまえは…別に名前で呼んだっていいだろ彼女だし」

 

ちょっと八幡くん、なにその不意打ちずるいよ。

結衣達の前でそんな彼女扱いされたら嬉しくなっちゃうじゃない。

 

「それで、わざわざ私と由比ヶ浜さんを呼び出した理由は何?そんな格好までしているのだから、そのまま楽しんでいればよかったじゃない惚気谷くん」

 

「雪ノ下さん、呼び出したのは私だよ」

 

「そう。で、何か用かしら?」

 

「まず聞くけど、クリスマスイベントの手伝いに毎日行っているのはなんで?」

 

「生徒会からの依頼だからよ。そこの彼から聞いていないの?」

 

「聞いてるよ。詳しく聞いたのは今日だけど」

 

「だったら…」

 

「うん、私の聞き方が悪かったね。じゃあ、毎回手伝いに行くようじゃ生徒会の人達のためにならないから、どうしようもなくなったらまた手伝おうって話になったはずなのに、八幡くんの待受を見た途端毎日行くようにしたのはなんで?」

 

「……あなた、そこまで話したの?」

 

「口止めされてたわけでもないしな」

 

「雪ノ下さん、今あなたに質問しているのは私だよ」

 

「そうね。毎日行くようにしたのは、今の生徒会はまだ新たに結成されたばかりだし、ある程度落ち着くまでは力を貸す必要性があると思ったからよ」

 

「でも、それじゃ生徒会の人達のためにならないんだよね?」

 

「それは…」

 

「それに私が聞いているのは、八幡くんの待受を見た途端意見を変えた理由だよ。そんなに八幡くんと私が毎日一緒に帰っていたのが嫌だった?」

 

私がまず彼女達に聞きたかったのはこれだった。

この話を彼から聞いたのは、先程アトラクションに並んでいた時。

私はてっきり最初から毎日手伝いに行くことになっていたのかと思っていたけれど、実際は違ってたみたい。

 

「姫菜、ちょっと落ち着いて…」

 

「私は落ち着いてるよ。じゃあ、結衣はどうだった?八幡くんと私が毎日一緒に帰っていたのは嫌だった?」

 

「私は…」

 

「海老名さん、ちょっといいかしら?」

 

「何かな?雪ノ下さん」

 

「由比ヶ浜さんはどう思っていたのかわからないけれど、正直に言うと、私はあなた達の交際に納得していなかったわ。だってそうでしょう?あなたは嫌いじゃないだなんて曖昧な感情で、比企谷くんも不本意で、それなのに交際をするなんて意味がないじゃない」

 

「私もゆきのんと同じような感じかな。お互いが好きなわけじゃないのに付き合うって、なんか違うと思う。ヒッキーも最初は別れるって言ってたし…」

 

「由比ヶ浜さん…ええ、そうね。それなのにいつまでも意味のない交際を続けているようだから、私達は奉仕部での勝負に勝って、別れる事をお願いしようと考えていたんだものね」

 

八幡くんは雪ノ下さんの言葉を聞いて、どこか納得をしたような表情をしている。

 

「ねぇ八幡くん、勝負って?」

 

「誰が一番人に奉仕できるか、人の悩みを解決できるかって勝負だ。勝ったらなんでも言うことを聞いてもらえるってやつだな」

 

そんな勝負があったんだね…

 

「ところで八幡くん、もしそのお願いされてたらどうしてた?」

 

「さぁ、どうだろうな」

 

「おい八幡」

 

「怖っ。怖ぇよ。あー、まぁあれだな、以前の俺だったらどうしたかはわからんが、今の俺ならありえないだろ。あ?つーか今呼び捨てだった?」

 

「それならよかった」

 

彼からその言葉を聞けただけで充分だ。

私は彼女達に、ちゃんと伝えよう。

 

「今の、聞いてくれた?最初はそうじゃなかったかもしれないけど、今の私達はお互いにちゃんと納得して付き合ってるんだよ。だから、もう私達を別れさせようなんて考えやめてもらえないかな?」

 

「姫菜はさ、その、ヒッキーのこと、今はどう思ってるの?」

 

「好きだよ。私は八幡くんが、八幡くんのことが本当に好き」

 

「どういった心境の変化かしら?」

 

「変化っていうわけじゃないよ。前にも言ったかもしれないけど、私は人を好きになるっていうことがどういうことかわかってなかった。けど、彼と一緒の時間を過ごしているうちにそれがわかったってだけ」

 

「そっか…姫菜は、本気なんだね…」

 

「それでも、その男と付き合うのは理解に苦しむわね。海老名さんにはメリットがないでしょう。特別容姿がいいわけでも、頭がいいというわけでもない。ましてや専業主夫になりたいなんて言っているような男なのよ?」

 

「おい雪ノ下、容姿はこの際どうでもいいが俺は国語に関しては学年3位だ」

 

「では理系は?」

 

「ぐぬぬ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あーあ。

 

 

 

 

 

さすがに、イラッときた☆

 

 

「雪ノ下さん、言いたい事はそれで終わり?」

 

「ええ。悪いことは言わないわ、ストーカーになられる前に早めに手を引きなさい」

 

「お、おい俺は…」

 

「ふざけないで」

 

「…へ?」

 

「自分へのメリット?容姿?学力?専業主夫?そんなのどうでもいいよ。雪ノ下さん、あなたが今私に対して言ったこと、そんなのはただの理屈でしかないじゃない。あなた、人を好きになったことあるの?」

 

「ひ、姫菜…?」

 

「あるわけないよね?人を好きだとか、嫌いだとか、そういうのは全部感情だよ。あなたはどんな人でも頭さえ良ければ好きになれる?あなたはどんなに性格が最低なクズでも容姿さえ良ければ好きになれる?将来の夢さえしっかりとしている人ならそれだけで好きになれる?なれないでしょ?」

 

「お、おい、そろそろ…」

 

「わかってないみたいだからもう一回言うね。私は八幡くんが好きなの。目が腐ってても、捻くれた考え方をしてても、それでも好き。人を好きになるのって、自分のメリットのためなんかじゃないよ。たとえデメリットしかなくても、そんな理屈とか関係なく私は八幡くんのことが大好き」

 

「あの、雪ノ下は目のことは言ってなかったよね?というか俺と付き合うのってデメリットしかないの?」

 

「八幡くんうるさい。ねぇ、雪ノ下さん、私はこれだけ本気で八幡くんのことが好きなの。私の、この感情を、馬鹿にしないで!」

 

 

言った。言い切った。

そして今、猛烈に恥ずかしい…

こんなの全然私のキャラじゃないよ…

 

だけど、許せなかったんだ。

私にとって大切な彼を、あんな言い方されたらさ。

 

 

 

「そう…ごめんなさい。さっきまでの言葉は全て撤回するわ。私はてっきり曖昧な気持ちのまま付き合っているものだとばかり思っていたから…」

 

「私もごめんね…教室とかじゃいつも一緒にいたのに、姫菜の気持ちをちゃんとわかってなくて…ていうか、姫菜の気持ちはわかったけどヒッキーは?」

 

「は?」

 

「ヒッキーは姫菜のことどう思ってるの?」

 

「あ、八幡くんちょっと待って」

 

「アッ、ハイ」

 

「結衣、この際だからはっきりさせちゃおうよ。結衣も八幡くんのこと好きでしょ?」

 

「ぶっふぇ!?ちょ、ちょっと姫菜いきなり何言ってんの!?」

 

「私もここまで言ったんだしさ、せっかくだし本音で語ろうよ」

 

「うー………わ、私もヒッキーのことす、す、好き、だよ。ずっと前から。だから姫菜と付き合うってなって、その、い、嫌だった…けど、だからってあんなヒッキーと姫菜を会わせないようにするなんてやり方間違ってたよね…本当にごめん…」

 

「わかった。もう謝らなくていいんだよ。ちゃんと言ってくれてありがとう。じゃあ雪ノ下さんは?」

 

「海老名さん、それは本気で聞いているの?」

 

「うん。少なからず、私と八幡くんが一緒にいることを、好きとか嫌いとか、ちゃんとお互い好きじゃないとか、そういうの関係なく嫌だったでしょ?」

 

「そ、それは…ええ、そうかもしれないわね。あなたの言葉を借りると、私も人をちゃんと好きになったことがないからよくわからないけれど、彼と一緒に過ごす時間は嫌いではなかったわ」

 

「そのわりにひどいことばっかり言ってたけどね。雪ノ下さんはツンデレさんなんだね」

 

「その言い方は納得いかないのだけれど…けど、そうね。海老名さん、もう一度ちゃんと謝らせて。人を好きになったことがない私が、私の勝手な考えだけで、あなたの気持ちを決めつけてしまっていて本当にごめんなさい」

 

「もういいよ、私は大丈夫だから。大切な人が離れていくのって、辛いもんね。私も今ならわかるよ」

 

「ありがとう、海老名さん…」

 

 

 

 

 

「さて、八幡くん」

 

「はい」

 

「ここにあなたへ好意を向けているステキな女の子が三人います」

 

「……………はい」

 

「あなたは、誰を選びますか?」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

無事、奉仕部の二人に関係を認めてもらえた私達は、優美子達とも合流をしてパレードを見ている。

というか優美子達、近くで私達のやりとりを見ていたらしい。

ここ最近の私を知っている優美子に見られるのは別によかったけど、隼人くんや戸部っちにまで私のあんなところを見られるなんて……

 

「それにしても、その格好には驚いたな。似合ってるよ比企谷」

 

「いやー、ヒキタニくんそれはさすがにないでしょー…もう吹っ切れたっていってもさすがにやばいわー…ちょ、そのパーカー貸してくんね?」

 

「うるせぇおまえらこっちくんな散れ」

 

あぁ…ここが楽園…

脳内でトベ×ハチとハヤ×ハチが…」

 

「あんさー、さすがに彼氏でそういう妄想すんのはどうなん?」

 

「私今声に出てた?」

 

「出てたし。ま、海老名とヒキオがうまくいってんなら別にいーけど。にしても結衣はともかく雪ノ下さんとも仲良くなるとはねー」

 

「まぁね。元々はあんな始め方をしちゃった私のせいでもあったし、ちゃんとわかってもらえてよかったよ」

 

「それにしても海老名先輩、私、さっきの言葉に心打たれました!もう男子を自分の装飾品みたいに扱うのやめます!私もちゃんと人を好きになりたいですし!」 

 

「一色さん、恥ずかしいからやめて…あ、でも八幡くんはだめだよ」

 

こんな感じで話をしながら私達はパレードを見ている。

そのパレードも、もうすぐ終わる。夢の国にいられる時間は、あと少し。

 

「そーいや海老名、今日ヒキオと写真撮ってないっしょ?せっかくだし撮れば?あーしが撮ったげるよ。ちょ、ヒキオこっち来い。写真撮るよ」

 

「んだよ…あ?写真?無理無理おまえらに見られながら撮られるとか恥ずかしいし」

 

「いーから早くしろし。閉園時間ももうすぐなんだから」

 

「優美子、せっかくだし、みんなと撮りたいな」

 

「そ?ま、いーけど。あ、すいませーん、写真いーですか?」

 

こうして私は、今日ここへ来てから初めて写真を撮った。

思い返してみると、朝から不安になったり、嬉しくなったり、怒ったり、忙しい一日だったな。

けど、最終的には楽しかったと思えてる。

私は今日、ここにきて来てよかった。

 

 

 

 

 

 

『ここにあなたへ好意を向けているステキな女の子が三人います』

 

『……………はい』

 

『あなたは、誰を選びますか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺の感情も馬鹿にすんなよ?俺が好きなのはおまえだけだ、姫菜』

 

 

 

 

 

彼からあんなふうに言ってもらえて、本当によかった。




最後までお読み頂き、ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?

今回のお話で奉仕部の二人とのわだかまりもなくなり、これからはゆきのんと由比ヶ浜も八姫に協力的になっていきます。協力的になっていきますが、自分のssの中での由比ヶ浜とゆきのんの二人は八幡を好きなので、隙あらば…というような態度も見せていくつもりです。
これまでなかなか話に絡ませられなかった奉仕部の二人の今後にも期待して頂ければなぁと思います。

最後に、前編・後編と宣言しておきながら中編を入れてしまったことをお詫びいたします。申し訳ありませんでした。

これからもこのssを読んでいただけると嬉しいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。